弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aのための弁護人塩坂雄策ならびに木村篤太郎の各上告趣意および被告人
Bのための弁護人安達勝清の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一)塩坂弁護人の論旨第一点は、被告人Aは判示物品の引取方をCに依頼した
ところ、Cがほしいままにその引取方を被告人Bに依頼したのであつて、すなわち
被告人がBに対し直接に物品の引取方を依頼したことはなく、またさような供述は
していないのに、原判決がその供述ありとして証拠に挙げたのは、虚無の証拠によ
つて事実を認定したものだ、というのである。、しかしながら、原判決は必ずしも
AがBに直接依頼した旨を供述したとは言つていないのであつて、たゞ「Bをして
受取らせた」とあるのである。この表現は他人を介して受取らせたことを排斥する
趣意のものではなく、仲介者のあることをはぶいた言い方と考えられないこともな
い。殊に判示事実の証拠としてこれを見るときに、AがCを仲に立てたか否か、C
がBに依頼したのはAの意思によつたものかどうか、ということは、被告人Aの罪
責に何ら消長を来たすものでない。要するに原判決はAが直接にBに依頼したとは
認定していないのであつて、虚無の証拠を援用したとの所論は当らず、論旨は理由
がない。
 (二)同論旨第二点は、原判決は証拠性のない司法警察官の意見書を証拠とした、
と非難する。しかし、原判決の証拠説明には「同被告人(A)に対する検事の聴取
書中同人の供述として司法警察官の作成した意見書中犯罪事実の記載と相俟つて判
示と同趣旨の記載」とあるのであつて、司法警察官の意見をそのまゝ直接に証拠と
したのではなく、右検事聴取書中に「検事が意見書記載の犯罪事実中第一項を読聞
けたのに対し被告人が『私は今度只今御読聞けの通り悪い事をしたことは相違あり
ません』と述べた」とあるその被告人の供述記載をその余の供述記載と併せて証拠
に取つたのであつて、同被告人の認めた事実の内容を示すがために前記意見書を証
拠説明に引用したにほかならず、原判決には所論のごとき違法なく、論旨は理由が
ない。
 (三)木村弁護人の論旨中「一」は、原判決に重大な事実誤認がありまた刑の量
定が甚しく不当であるという抽象的序論であり、また「三」は単なる結語であつて、
具体的な上告理由になつていない。
 (四)同論旨「二の(イ)」は、原判決は何人の占有が犯されたかという詐欺罪
の構成要件の記載を欠く、と非難する。しかし、原判決は所論出荷主任DとはE工
業会社の出荷主任であること、従つて本件詐欺の刑法上の被害者は右会社であるこ
とを判示しているのであつて、所論のごとき違法なく、論旨は理由がない。
 (五)同論旨「二の(ロ)」および「二の(ハ)」は、被告人Aの所為は「騙取」
でない、という主張であるが、原判決の認定事実はその挙げた証拠によつて、充分
認められ得るのであつて、所論は結局原判決の証拠の取捨と事実認定を攻撃するに
帰し、上告の適法な理由にならない。
 (五)同論旨「二の(二)」は、原判決の量刑不当の攻撃に過ぎず、上告の適法
な理由にならない。論旨中「残虐の科刑云々」の文句があるのは、憲法第三六条違
反を主張する趣旨であろうが、同条の趣旨については既に当裁判所大法廷判例があ
るのであつて(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日判決)、論旨は理
由がない。
 (六)安達弁護人論旨第一点は、原判決が被告人Bから本件不当高価額による売
却代金相当額六十五万四千円を追徴したことを違法であると攻撃するのであつて、
論旨前段は、刑法第一九条ノ二による追徴は、その前提として没収せらるべき物が
犯人以外の者に属せざる物であることを必要とするところ、被告人Bは他人のため
に本件布地を保管し緊急にその保管料を捻出する必要があつためその一部を売却し
たのであつて、右布地もその売却代金も被告人のものでないと主張する。しかし、
右布地売却の事情は被告人が警察における取調以来原審に至るまで一度も主張しな
かつたところであつて、さような事実は記録にも少しもあらわれておらず、また原
判決は単に「不当に高価な額で契約した犯罪行為により得た代金六十五万四千円は
刑法第十九条第一項第三号第二項によりこれを没収すべきものであるが、現に他に
保管せられ居り没収することができないから、」と言つているだけで、その根拠を
示していないが、刑法第一九条第二項を適用しているところがら見れば、原判決は
右代金が犯人以外の者に属しないと認定した趣旨であると解するのを相当とする。
そして記録上右認定をくつがえすに足る資料も存しないのであつて、所論は原判決
の認定と異なつた事実を想定しこれに基いて原判決の法律適用を非難するにほかな
らず、上告の適法な理由にならない。
 (七)同論旨中段は、物価統制令第三三条但書は犯人の不法利益を剥奪する法意
を以て超過額が十万円を超えた場合にはその三倍以下の罰金に処する旨規定してい
るところから見て、右法条は一般法たる刑法の追徴に関する規定の適用を排除する
ものである、と主張し、食糧管理法第三二条を援用する。しかし、物価統制令第三
三条但書の規定は、この種の犯罪が不法利得の獲得を主目的とすることに鑑み、そ
の取締のため最も適当な主刑の範囲を定め、かたがた犯人の獲得した不法利得を没
収または追徴し得ない場合があるのに備えたものであつて、必らずしも不法利益の
剥奪のみを目的としたものではなく、それは罰金刑の効果として考えられているに
過ぎない。それゆえ犯人の獲得した不法利得を取り上げる場合にも、それを罰金の
効果として行うか、または附加刑たる没収または追徴の方法を以てするか、あるい
は両者を併せ用いるかは、各事件の犯情に応じ裁判官が自由に裁量し得るのであつ
て、前記物価統制令の規定が一般法たる刑法の規定を排斥するものと解すべきでな
い。殊に本件のように主刑として懲役刑のみを科するのを適当と認めた場合に、没
収または追徴を為し得ないとする理由は存しない。なお論旨援用の食糧管理法第三
二条は、主要食糧の輸出入移出入に関する規定であつて、犯人の所持する主要食糧
についてはそれが犯人以外の者に属していても没収または追徴を為し得る点におい
て刑法第一九条第二項に対する特例規定であり、取締の必要上没収および追徴の要
件を緩和したものにほかならず、その法条を援用して物価統制令第三三条が刑法第
一九条および同条ノ二の適用を排除する論拠となし難く、論旨は理由がない。
 (八)同論旨後段は、刑法第一九条ノ二が昭和一六年に追加されたものだから、
全体主義刑法たる性格を多分に封蔵し、民主主義刑法理念からは厳に排斥せらるべ
きものである、というのだが、何ら根拠なき独断論であつて、理由にならない。
 (九)同論旨第二点は、原判決が証拠として挙げた和歌山県価格査定委員会の作
成した回答書につき、原審は証拠調をせず、公判調書にもその旨の記載がない、と
主張する。しかし原審第三回公判調書を見ると、所論の回答書につき適法に証拠調
をした旨の記載があるのであつて論旨は理由がない。
 よつて、旧刑訴法第四四六条に従い、主文の通り判決する
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二五年七月四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛