弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     被告人Aに対し当審に於ける未決勾留日数中六十日を原判決の本刑に算
入する。
         理    由
 被告人B同A及被告人両名の弁護人杉之原舜一の控訴趣意は同人等提出の各控訴
趣意書記載の通りであるから之を引用する。
 被告人Bの控訴趣意被告人Aの控訴趣意第一点並びに弁護人杉之原舜一の控訴趣
意第一点について
 右各控訴趣意はいづれも被告人Bの原判示第一の一、二Aの同二、三の各所為は
労働組合の団体交渉や争議行為として正当なものであつて何等犯罪を構成するもの
ではないというにあるが労働組合法第一条第二項の規定は労働組合の団体交渉其他
の争議行為は同条第一項の目的を達成するために為された正当なものである限り罰
せられないという趣旨であるから争議行為は如何に正当な目的のもとになされる場
合であつても其の貫徹の為めに暴力を使用することは勿論不当の威力を使用するこ
とは正当な行為と認むることは出来ないと解すべきである。
 原判決の確定したところによると北海道苫前郡a町C株式会社D鉱業所の従業員
約七百八十名を以つて組織する労働組合は右会社に対し労働協約の改訂、割増賞与
金の要求福利厚生施設の改善等を要求して昭和二十五年五月頃から争議に入つてお
つたが数次の交渉を重ねるうち右組合員中争議より脱退するものが出で一方会社で
は従来より会社の業務に従事していた組夫約五十名を従業員に採用し之等の者と職
員並びに従業員会の者にて採炭を続行して居つたので罷業決行派は之を制止しよう
とし互に反目し抗争を続けて来たものであるが被告人B同A等は罷業決行派の者と
共に同会社の出炭業務を不能ならしめようとし原判示第一の一乃至三記載の日時同
項記載の如く百余名の者と共に電車軌道上及び其の附近に座り込み又は立塞り或は
スクラムを組み且つ労働歌を高唱する等の挙に出で同会社電車運転手E等の運転す
る電車の運行を阻止したというのであるから右行為は労働組合法第一条第二項の争
議行為の正当な範囲を逸脱したものと認めるのが相当である。従つて原判決が被告
人等の右行為を威力業務妨害罪に問擬したのは正当であつて何等事実の認定や法律
の適用を誤つたものではない。論旨はいづれも理由がない。
 同弁護人の控訴趣意第二点の(一)の(1)(2)について
 昭和二十年九月二十日勅令第五四二号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に
関する件(以下勅令第五四二号と略称する)は旧憲法下に於ては勿論新憲法の下に
於ても合憲有効であることは既に最高裁判所の判決(昭和二十三年六月二十三日大
法廷)の明示するところである。従つて右勅令の委任により其の範囲内に於て制定
された昭和二十五年政令第三二五号占領目的阻害行為処罰令(昭和二十一年勅令第
三一一号を改正、以下政令第三二五号と略称する)は形式的にはもとより適法であ
つて何等憲法に違反するものではない。勅令第五四二号が命令に委任した立法の範
囲は『「ポツダム」宣言の受諾に伴い連合国最高司令官の為す要求に係る事項を実
施する為め特に必要ある場合』とあることによつて明かなごとく広汎であつて決し
て個々の要求に係る事項を指定して委任したものではないから政令第三二五号が占
領目的阻害行為に関する事項を一括して規定したことは委任の趣旨に反するもので
はない。また斯くすることによつて連合国最高司令官の指令を国内法化し占領政策
の原則である間接管理の方式にそうたものである。これを目して右間接管理の方式
を無視するものであるという所論は当らない。
 <要旨第一>次に政令第三二五号の内容実質が憲法に違反するかどうかを検討する
に「ポツダム」宣言は周知の如く日本人を民族として奴隷化し或は国民
として滅亡せしめんとする意図を有するものではなく、日本国民の間に於ける民主
主義的傾向の復活強化に対する一切の障碍を除去し基本的人権の尊重を確定し日本
国をして民主主義国家として発展せしめんとすることを目的の一つとしており新憲
法の理想が右宣言に一致することは其前文並びに本文に徴して明らかなところであ
るがポツダム宣言を受諾した後制定された我が国の憲法としては正に当然の帰結と
いうべきである。されば日本の主権が連合国最高司令官の占領管理権の下に在つた
とは云えそれはいたづらに連合国の圧迫に隷従するという種類のものではない。我
が国がポツダム宣言を受諾したことによつて新たに平和を愛好する民主主義国家の
建設に第一歩を踏み出し大多数の日本国民は前記目的を有する連合国の占領政策に
協力し政治的経済的に苦難の道をたどりつつ徐々に独立国家となるに至つたもので
あるからたとえ形式的には占領下と独立後との間に一線を劃することが出来ても実
質的には到底断ち得ない連続した発展の過程であつたと考える。従つて連合国の占
領目的を阻害し最高司令官の占領管理権の行使を妨げる行為はとりもなおさず右発
展の過程に障害を与えるもので憲法の理想にもとり我が国の秩序と安全をおびやか
し公共の利益を害するものというべきである。しかして実際上も当時の国際的国内
的諸情勢に鑑みれば最悪の場合に於ては敗戦後の我が国を無政府状態に陥れ混乱の
極暴動破壊を招来しついには暴力革命を企図する一部の者に絶好の機会を与えポツ
ダム宣言並びに憲法の理想も画餅に帰する虞なきを保し難かつたことは過去幾多の
事例に徴し明らかである。政令第三二五号第一条は此政令において「占領目的に有
害な行為」とは連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反する行為そ
の指令を施行するために連合国占領軍、軍団又は師団の各司令官の発する命令の趣
旨に反する行為及びその指令を履行するために日本国政府の発する法令に違反する
行為をいうと規定しており、連合国最高司令官の日本国政府に対する指令はポツダ
ム宣言並びに降服文書に定むる条項を実施せしめようとするものであるから、右政
令は連合国の占領政策の実施の為めのものでかく規定することはもとより当然であ
るが、同時にポツダム宣言の目的が前述の通りであるから国内秩序を維持して我が
国が民主主義国家として発展することを保障する重要な役割をも果したものと云わ
なければならない。尤も昭和二十年九月十日附言論及び新聞の自由に関する指令等
の内容は一見憲法の言論出版の自由を保障する規定に牴触するが如き観がないでも
ないが右指令等により制限せらるる言論出版の自由は専ら連合国占領軍を誹謗し又
は連合国に対する破壊的批判等を為す場合に限られて居るのである。しかしてかか
る誹謗又は破壊的批判たるや名を平和にかるもその企図するところは厭戦平和を希
求する日本国民と占領軍との間に反感摩擦を生ぜしめ占領政策を失敗に帰せしむる
と共に国内を破壊と混乱に導き暴力革命の目的を達せんとするにあることはまこと
に顕著な事実である。斯る場合にあつては我が国の法秩序を維持し憲法を擁護し国
家を破壊と混乱から守るため即ち公共福祉のために言論出版の自由といえども制限
を受くべきものであることは憲法自身のもつ内在律からは勿論憲法第十二条第十三
条の規定の趣旨からも明らかなところであり結局前段縷述の趣旨に合致するのであ
<要旨第二>る。即ち政令第三二五号は実質的にも亦合憲と云はなければならない。
しかして勅令第五四二号及び政令第三二五号は「ポツダム」宣言を離れ
てすでに国内法となつて居るのであるから平和条約の発効により当然失効す<要旨第
三>る訳ではなく、且つ政令第三二五号については平和条約の成立時期は不確定では
あるけれども、やがて到来す</要旨第三>ることはあらかじめ予想されたところで
あるから確定期限付の場合と同様右政令は連合国最高司令官の占領管理の下に於け
る一時的異常な事態に対処する為めの法規であつて独立国家に復した時には早晩廃
止せらるべき運命にあつたところの所謂限時法的性格を有するものと云わなければ
ならない(昭和二十五年十月十一日最高裁判所大法廷の昭和二十三年(れ)第八〇
〇号物価統制令違反事件についての判決参照)。しかして昭和二十七年三月十一日
法律第八十一号により勅令第五四二号は平和条約発効の日より廃止されることにな
り、政令第三二五号は同日以後百八十日間法律として効力を有することとなり同年
五月七日法律第一三七号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法
務府関係諸命令の措置に関する法律により廃止されたが、同法第三条により平和条
約発効以前の政令第三二五号違反に対する罰則の適用についてはなお従前の例によ
る旨定めたのは前述限時法の理を宣言的に規定したものと云うべきである。然らば
平和条約発効の日以前の同政令違反の行為は今日なお所罰の対象となり得且つ実質
的にもその可罰性が認められるのである。之を深く慮るところなく単純に政令第三
二五号は超憲法的なもので平和条約の発効と同時に刑の廃止ありたる場合として免
訴の判決をなすべきものとの説には到底賛同し難い。以上説示の通りであるから勅
令第五四二号の無効及政令第三二五号の憲法違反を前提とする所論はいずれも理由
がない。
 被告人Aの控訴趣意第二点について、
 原判決挙示の各証拠によれば原判示第二の事実は優に認めることが出来同被告人
の判示所為は正当防衛行為に該当しないことが明かであつて記録を精査するも原判
決には事実の誤認と目すべきものがない。所論は結局原審の裁量に属する証拠の取
捨並びに事実の認定を非難するものであるから採用出来ない。
 被告人Aの控訴趣意第三点及び弁護人杉之原舜一の控訴趣意第二点の(二)
(三)について、
 原判決挙示の各証拠を綜合すれば「平和のこえ」は「アカハタ」の発行停止後に
発刊された之と全く傾向を同じくするところの後継紙であつて其内容は占領目的を
阻害するものであることは明かであり之を一般人に普及する目的を以つてする所持
は広義の「発行行為」に該当すると解するのが正当であるから之と同趣旨に出でた
原判決は正当であつて何等法律の解釈を誤つて居らないのは勿論罪刑法定主義に反
するものではない。論旨はいづれも理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件各控訴を棄却し刑法第二十一条によ
り被告人Aの当審に於ける未決勾留日数中六十日を原審の本刑に算入するものとし
主文の通り判決する。
 (裁判長判事 黒田俊一 判事 佐藤竹三郎 判事 東徹)

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