弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人の上告趣意について。
 論旨は要するに原判決の認定の誤りを主張することに帰するから適法な上告理由
となり得ない。
 弁護人林利男の上告趣意第一点について。
 原判決は挙示の各証拠を綜合して判示事実を認定した旨を明示してはいないけれ
ども、各証拠と判示事実とを照らし合せてみれば挙示の全部の証拠を綜合して、判
示犯罪事実の全部を認定した趣旨であることがおのずからわかる。そうしてこれ等
の証拠を綜合すれば、被告人に殺意のあつたことも一層確実に推認できるのである
から、原判決が被告人の殺意を認定したのは、所論のように被告人に対する検事の
訊問調書中の同人の供述記載のみによつたのではなく、各証拠を綜合した結果到達
した認定と思われる。のみならず、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一五三号
同二三年六月九日大法廷判決。昭和二三年(れ)第一四二六号同二四年一〇月五日
大法廷判決)にも示されている通り、一個の犯罪事実の一部に関する証拠が当該公
判廷外における被告人の自白だけであつても、犯罪事実全体としてはその他の証拠
がある場合にはそれ等を綜合して犯罪事実全体を認定することは、なんら違法では
ないのであるから、仮りに原判決が、被告人の殺意の点を検事に対する自白のみに
よつて認めたものとしても原判決には所論のような違法はない。論旨はすべて理由
がない。
 同第二点及び第三点について。
 記録を調べてみると、原審第二回公判において、裁判長は、藤上弁護人の請求に
基いて、現場検証を決定し、A及びBを証人として採用し、両名を検証現場で訊問
することを宣した。そうしてその後証拠調期日は昭和二三年六月五日午後一時と指
定されたのであるが、六月三日附で、A及びBから、証人出廷延期願が提出された
ので、同日附で、その期日を同年七月五日午前一二時に変更する旨の決定がなされ、
その期日の弁護人召喚状は六月二五日藤上弁護人に送達されている。(被告人に対
してその通知があつたか否かについては、これを知るべき資料がない)。かくして
七月五日には、原審判事全員が出張して、検事立会の上、検証並に証人訊問を行う
たが、その際被告人はもとより、弁護人も立会わなかつた。次で指定された一〇月
一六日の第三回公判は弁護人不出頭のため変更となり、一一月一一日の第四回公判
においては、公判手続を更新した後証拠調に移り、裁判長は各盗難被害届書並に各
始末書、七月五日の検証調書及び同日現場における証人B及びAの各訊問調書その
他の証拠書類の各要旨を告げ、各証拠の取調を終る毎に被告人に対し意見弁解の有
無を問い、その他に利益の証拠があれば提出することができる旨を告げたところ、
被告人は、犯罪事実につき若干の陳述をした後、「証拠としては別に他に調べて貰
いたいものはありません」と答え、弁護人も「他に申請する証拠はありません」と
述べている。
 以上の次第で検証現場における証人訊問に被告人は立会わず、又被告人にその期
日を通知したという形跡もないけれども、当時被告人は勾留中であつたのであるか
ら、かような場合には、必ずしも被告人自身を証人訊問に立会わせなくとも、被告
人弁護の任にある弁護人に訊問の日時場所等を通知して立会の機会を与え、被告人
の証人審問権を実質的に害しない措置を講ずれば、憲法第三七条第二項の規定に対
する違反を生じないこと、当裁判所の判例(昭和二四年(れ)一八七三号、同二五
年三月一五日大法廷判決)に徴して明らかである。しかるに弁護人は証人訊問期日
の通知を受けたに拘らず自ら出頭しなかつたのであり、又出頭しなかつたことにつ
き正当の理由があつたと認めるべき資料もない。のみならず原審公判の証拠調に際
して、裁判長から、証人Aの被害始末書、同人に対する訊問調書等の各要旨を告げ
意見弁解の有無を問い、他に利益の証拠があれば提出し得る旨を告げても、被吉人
も弁護人も、他に申請する証拠はないと答えている。かように裁判所側においては、
被告人の証人審問権を害しないように相当の措置を講じた上で、Aの被害始末書記
載の一部を証拠として採用したのであるから、原判決には所論のような違法はなく、
論旨第二点、第三点いずれも採用することができない。
 同第四点について。
 本件公判請求書記載の罪名は「強盗傷人」であつて、所論の「住居侵入」及び「
公務執行妨害」については、起訴状にその罪名が掲げられていないのみならず、そ
の文意も、右の両罪については起訴しない趣旨と解せられる。固より住居侵入罪は
本件犯罪と牽連犯の関係にあり、公務執行妨害罪は一所為数法の関係に立つもので
あるから、たとい起訴状に記載がなくとも、裁判所が審理の結果その事実ありと認
めて、これに対し擬律をすることは差支えないことではあるが、それをしなかつた
からとて、これを以て所論のように審理不尽の違法あるものということはできない。
論旨は理由がない。
 以上の理由により旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 柳川真文関与
  昭和二五年九月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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