弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告指定代理人蓑田速夫、同鎌田泰輝、同筧康生、同牧野巌、同岡崎真喜次、同
木下俊一、同伊藤皇、同大野繁、同山口圭二、同則岡貞男の上告理由について
 一1 原審が確定した事実関係は、(一) 被上告人(昭和四三年一月二〇日生)
は、昭和四八年一〇月二八日叔母のNからラケット二本とシヤトルコツク一個から
なる一組のバドミントンセツト(以下「本件バドミントンセツト」という。)の贈
与を受け、同年一二月一五日夕方自宅付近の公園で兄のO(昭和四一年一月二日生)
と本件バドミントンセツトを使用してバドミントン遊戯をしていたところ、Oがシ
ヤトルコツクを打とうとしてラケツト(以下「本件ラケツト」という。)を上から
振り下ろした際、本件ラケツトのグリツプから鉄パイプ製のシヤフトが抜けて飛び、
遊戯相手の被上告人の左目に当つたため、被上告人は左眼眼窩部打撲傷等の傷害を
受けた(以下「本件事故」という。)、(二) 本件バドミントンセツトは、ポリエ
チレン製の袋で包装され、ラケツトは、頭部(ガツト枠)とガツトとが一体成型さ
れたポリエチレン、シヤフトがクローム鍍金の鉄パイプ、グリツプがプラスチツク
(ポリエチレン)であり、シヤトルコツクはゴムキヤツプをかぶせた台と羽根とが
一体成型されたプラスチツクであるが、ラケツトの頭部付け根部分に「MADE 
IN HONG KONG」との表示があるのみで、包装袋やシヤトルコツクに特
別の表示はない、(三) 本件ラケツトは、全長約五〇センチメートル、ガツトを含
む頭部とシヤフトの重さは三二グラムで、鉄パイプのシヤフトはグリツプに約二セ
ンチメートル差し込まれ、グリツプのプラスチツクの応力(弾力)のみによつて保
持されているもので、接着剤、止め金等の補強具で固定されていなかつた、(四) 
本件バドミントンセツトは、ホンコン製で、カートンボツクスに入つた状態で、昭
和四六年一二月一八日神戸港で陸揚げされ、保税倉庫で保管されていたが、輸入業
者が不明であつたため、神戸税関長によつて昭和四七年六月一三日関税法(以下「
法」という。)七九条一項一号の規定により玩具として収容処分に付され、同年一
一月ころ同税関職員によつて性状、数量等の検査が行われたうえで、同月二七日法
八四条一項の規定により公売に付された、なお、神戸税関においては収容貨物で公
売に付すべきものについては、原則として、輸入部特殊鑑定部門の特殊担当官が入
札予定価格、税番、税率を決定する目的で貨物の一部を抽出する等してその形状、
性質等を検査し、収容部の担当官が数量検査し、その際に貨物が廃棄すべきもので
あるかを決定するのが例であつた、(五) 雑貨類販売業を営むPは、公売に付され
た本件バドミントンセツトを買い受け、同年一二月二日これを第一審被告株式会社
Qに売り渡し、同社が昭和四八年一〇月二八日チヤリテイ・バザーに出品したとこ
ろ、Nが本件バドミントンセツトを買い受け、同日被上告人に贈与した、(六) 本
件事故の直後において、シヤフトが抜け飛んだ本件ラケツトはグリツプの付け根に
ひび割れが生じ、これが縁まで達しており、また、被上告人が本件事故当時使用し
ていた本件バドミントンセツトの他のラケツトのグリツプにも約一・三センチメー
トルの長さのひび割れが生じていて、グリツプのシヤフト保持力は、引張り試験で
は、本件ラケツトが約二キログラム、右他のラケツトが約五キログラムないし六キ
ログラムであり、四、五歳の幼児が本件ラケツトを上から下へ力一杯振り下すと、
その時に生ずる遠心力は、四、五キログラムであつて、シヤフトが抜け飛ぶ可能性
が相当大きいものであつた、(七) ポリエチレンは、一般に、熱、紫外線によつて
酸化し易く、また応力によつても酸化が促進され、その結果不可逆的に劣化する性
質を有するものであるが、本件ラケツトは、ポリエチレン樹脂のグリツプにクロム
鍍金の鉄パイプのシヤフトを強く差し込んだものであるから、右鍍金のためシヤフ
トが抜け易いだけでなく、その構造自体によつて劣化が促進され、劣化の進行に比
例してグリツプのシヤフトの保持力が低下していくことが客観的に予想されるもの
であつた、というものであり、以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし
て是認することができる。
 2 原審は、右認定の事実によると、(一) 本件バドミントンセツトは、四、五
歳の幼児が使用して遊ぶ玩具であるが、本件ラケツトは、四、五歳の幼児が使用し
た場合においても、グリツプからシヤフトが抜け飛ぶ可能性が相当大きいものであ
るから、構造上の欠陥のある玩具であり、本件事故は右欠陥によつて生じたものと
いうべきである、(二) 神戸税関長は、前記1(四)の検査によつて本件ラケツトの
構造等を知り、本件ラケツトの使用による本件事故のような事故の発生を予見しえ
たと認めるのが相当である、(三) 日本国内における玩具の製造者は、その設計・
製造に当つては、販売業者を経て消費者にまで流通して使用される間に通常予想し
うる態様のもとにおいて、玩具の重量、材質、構造、性能自体の危険性又はそれら
の欠陥による玩具の破損等によつて、使用者等の生命、身体、財産を侵害すること
のないようにその安全を配慮すべき注意義務(以下「玩具の製造・販売についての
注意義務」という。)があり、外国において設計・製造された玩具を輸入し日本国
内で販売する者も右と同一の注意義務を負うべきものである、(四) 神戸税関長と
Pの本件バドミントンセツトについての契約は、私法上の売買にほかならないもの
であつて、神戸税関長は、右売買によつてホンコン製である本件バドミントンセツ
トの日本国内における流通を開始せしめたもので、外国の製品が通常の輸入手続を
経て国内で流通する場合の輸入業者に準ずる地位を併有しているから、玩具につい
ての製造・販売について注意義務を負うものというべきである、(五) 右(二)のと
おり、神戸税関長は、本件ラケツトが使用された場合、本件事故のような事故の発
生することを予見しえたのであるから、自らグリツプとシヤフトの接合部分に止め
金等で補強したうえで公売に付するか、かかる補強をしないのであれば公売に付す
るのを差し控えるべき注意義務があつたというべきところ、同税関長は、これを懈
怠し、Pに本件バドミントンセツトを売り渡した過失があると判断し、上告人は、
国家賠償法一条一項の規定に基づき被上告人が本件事故によつて被つた損害を賠償
すべき義務があるとし、上告人に対し、被上告人の損害合計七六万五三九〇円及び
内金六一万五三九〇円について昭和四九年一一月一九日から完済まで年五分の遅延
損害金の支払を命じている。
 二 税関長が、法七九条の規定により収容した貨物で、法七〇条所定の他の法令
の規定により輸入に関して必要な許可、承認又は検査の完了等を必要としないもの
につき、法八四条五項の規定による廃棄ができないため、同条一項の規定により公
売に付した場合に、その買受人等を経由して当該貨物を取得した最終消費者におい
てこれを使用したところ、その貨物に存した瑕疵により右最終消費者又はその他の
者の生命、身体又は財産に損害が生じたとき(以下「最終消費者等の損害」という。)、
被害者が、右貨物を公売に付したことにつき税関長に過失があるとして、国に対し
その損害の賠償を請求することができるためには、(一) 右税関長が、法八四条五
項の規定により、当該貨物につき廃棄可能なものであるかどうか等を検査する過程
で、その貨物に構造上の欠陥等の瑕疵のあることを現に知つたか、又は税関長の通
常有すべき知識経験に照らすと容易にこれを知ることができたと認められる場合で
あつて、右貨物を公売に付するときには、これが最終消費者によつて、右瑕疵の存
するままの状態で取得される可能性があり、しかも合理的期間内において通常の用
法に従つて使用されても、右瑕疵により最終消費者等の損害の発生することを予見
し、又は予見すべきであつたと認められ、(二) さらにまた、税関長において、最
終消費者等の損害の発生を未然に防止しうる措置をとることができ、かつ、そうす
べき義務があつたにもかかわらず、これを懈怠したと認められることが必要である
と解すべきである。けだし、(一) 税関長は、多種多様であり、かつ、大量に及ぶ
収容貨物のそれぞれにつき、その各製造業者又は輸入業者が有し、又は有すべき当
該貨物についての構造、材質、性能等に関する専門的知識を有するわけではなく、
また、かかる知識を有することが要求されていると認めるべき法律上の根拠はない
から、税関長を当該貨物の製造業者又は輸入業者と同視し、税関長が、右のような
専門的知識を有することを前提として、当該貨物につき法八四条五項に該当するか
等の検査をする過程において、その貨物に構造上の欠陥等の瑕疵のあることを知る
べきであるとすることはできないものというべきであり、したがつて、税関長が、
右検査の過程において、当該貨物に構造上の欠陥等の瑕疵のあることを現に知り、
又は税関長の通常有すべき知識経験に照らすと容易にこれを知りえたと認められる
場合にのみ、注意義務違反の責任を問う余地があるものと解するのが相当であり、
また、(二) 税関長は、前示のように最終消費者等の損害の発生を予見し、又は予
見すべき場合であつても、当該貨物が法八四条五項の規定により廃棄しうるものに
該当しないときには、保税地域の利用についてその障害を除き、又は関税の徴収を
確保するため(法七九条一項本文)、右貨物を、原則として、まず公売に付すべき
であつて(法八四条一項、三項)、これを差し控える余地はないのであり、そのう
え、税関長は、当該貨物の所有権を有するわけでなく、他に右貨物に存する構造上
の欠陥等の瑕疵を補修するについての権限又は義務を有していると認めるべき法律
上の根拠はなく、したがつて、税関長において右瑕疵を補修すべきであるというこ
ともできないのであつて、税関長としては、公売に付した貨物の買受人との売買契
約において、買受人に右瑕疵を補修すべき義務を負わせ、その履行の確保を図るこ
と等をしうるのみであり、税関長がかかる措置を講じたときには、当該事故につき
結果回避義務を尽くしたものと解するのが相当だからである。
 叙上の観点に立つて本件をみるとき、原審が確定した前記一1の事実関係から、
たやすく、神戸税関長が本件ラケツトの構造等を知り、本件ラケツトの使用による
本件事故のような事故の発生を予見しえたとした原審の前記一2(二)の判断には、
審理不尽、理由不備の違法があるものというべく、また、同(四)及び(五)の判断も
法の解釈適用を誤つた違法なものというべきであり、これらの違法は原判決の結論
に影響を及ぼすことが明らかであるから、右の違法をいう論旨は理由があり、原判
決中上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、本件については、前記の観点に
立つてさらに審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    和   田   誠   一

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