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平成29年7月19日宣告
窃盗被告事件
主文
被告人両名をそれぞれ懲役4年に処する。
被告人Aに対し,未決勾留日数中580日をその刑に算入する。
被告人Bに対し,未決勾留日数中630日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1(平成27年2月24日付け起訴状記載の公訴事実「横浜事件」)
被告人Bは,氏名不詳者と共謀の上,平成26年10月7日午前3時5分頃,
横浜市甲区駐車場において,同所に駐車中のC所有の普通乗用自動車1台(時
価約80万円相当)を窃取した。
第2(平成27年9月30日付け追起訴状記載の公訴事実「D商店事件」)
被告人Aは,平成26年11月10日午前2時頃から同日午前3時2分頃ま
での間に,静岡県富士市所在のD商店西側駐車場において,同所に駐車中のE
が管理する普通貨物自動車1台(時価約70万円相当)を窃取した。
第3(平成27年5月1日付け起訴状記載の公訴事実「F鉄工事件」)
被告人両名は,共謀の上,平成26年11月15日午前2時45分頃,静岡
県富士市所在の株式会社F鉄工営業所敷地内において,同所に駐車中の同社代
表取締役F2が管理する普通貨物自動車1台等4点(時価合計約69万500
0円相当)を窃取した。
第4(平成27年6月8日付け追起訴状記載の公訴事実「ホテルG事件」)
被告人両名は,共謀の上,平成26年12月5日午後11時21分頃から同
月6日午前1時46分頃までの間に,山梨県笛吹市所在のホテルG第1駐車場
において,同所に駐車中の株式会社H取締役H2が管理する普通乗合自動車1
台(時価約150万円相当)を窃取した。
第5(平成27年7月28日付け追起訴状記載の公訴事実「I自動車事件」)
被告人両名は,共謀の上,平成26年12月10日午前0時17分頃から同
日午前1時10分頃までの間に,甲府市所在の有限会社I自動車整備工場西側
車両置き場において,同所に駐車中の同社取締役I2が管理する普通貨物自動
車1台(時価約200万円相当)を窃取した。
(証拠排除の主張に対する判断)
第1各弁護人の主張
被告人両名の各弁護人はいずれも,最高裁平成28年(あ)第442号同2
9年3月15日大法廷判決に依拠して,次のように主張する。すなわち,捜査
機関は,本件各被告事件(判示第2ないし第5に係る各公訴事実をいう。以下
同じ。)において,被告人らの使用車両にGPS端末を取り付け,その位置情
報を取得する捜査(以下,捜査対象者の使用車両にGPS端末を取り付け,そ
の位置情報を取得する捜査を単に「GPS捜査」といい,本件各被告事件にお
けるGPS捜査を「本件GPS捜査」という。)を行っているところ,GPS
捜査は,憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして,令状がなけれ
ば行うことのできない強制の処分であるから,甲50,51,56,58ない
し68,74,78ないし98,107ないし109,111,116,11
7,127,128,130ないし160,166,168,169,174
ないし177,179ないし196,乙14ないし18,乙27,乙32ない
し48,証人J,同K,同Lの各証言(以下,公判手続の更新によって書証に
転化したものも単に証言と表記する。)のうち本件GPS捜査により知り得た
体験に基づく証言部分(以下,これらを「本件各証拠」という。)は,本件G
PS捜査によって直接得られた証拠ないしこれと密接な関連性を有する証拠で
あるから,証拠能力がなく,証拠として排除されるべきであるというのである。
そこで,本件各被告事件においてGPS捜査が行われたことは争いなく認め
られるので,以下,上記各捜査の違法性及び本件各証拠の排除相当性について
判断する。
第2GPS捜査の違法性
個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着する
ことによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入す
る捜査手法であるGPS捜査は,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な
法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容さ
れない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月
16日第三小法廷決定参照)とともに,一般的には,現行犯人逮捕等の令状を
要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であ
るから,令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである(最高裁平
成28年(あ)第442号同29年3月15日大法廷判決参照)。本件GPS
捜査は,強制処分であるにもかかわらず,令状の発付を受けることなく行われ
ており,違法である。
第3違法収集証拠該当性について
1各弁護人の主張の概要
前記のとおり,本件GPS捜査は違法と認められるところ,各弁護人は,本
件各証拠は,違法捜査によって得られた証拠及び派生的証拠であって,これら
を証拠として許容することは将来における違法捜査抑制の見地からして相当で
ないから,証拠能力がなく,証拠として排除されるべきであると主張している
ので,以下,本件各証拠と本件GPS捜査との関連性及び本件GPS捜査の違
法の重大性について検討する。
2関連性について
甲56,78,79,130,160,174(両被告人方玄関及びその周
辺を撮影したビデオカメラ画像の解析結果報告書等)
ア各弁護人は,警察官がGPS端末を被告人らの使用車両に取り付けた後に,
被告人らの使用車両が被告人らの住居を出発し,帰宅したことを撮影する目的
でビデオカメラを設置し,その結果を証拠化したものであるから,これらの証
拠は本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠
であると主張する。
イ甲56,79,130,160(被告人A方の玄関及びその周辺を撮影した
ビデオカメラ画像の解析結果報告書等)についてみると,警視庁刑事部捜査第
三課(以下「捜査三課」という。)警察官らは,平成26年7月9日に実施し
た監視検問により,被告人Aを自動車窃盗グループの容疑者と特定し,同月1
5日に被告人Aの住居を特定した後に,同月16日より本件GPS捜査に移行
したことから,上記各証拠については,本件GPS捜査との関連性が認められ
ない。
甲78(被告人B方の玄関及びその周辺を撮影したビデオカメラ画像のプリ
ントアウト報告書)についてみると,捜査三課警察官らは,平成26年8月5
日から6日にかけて被告人Aに対して行った行動確認中に,被告人Bが自動車
窃盗グループの関係者であると特定し,同年10月頃から被告人Bの住居等の
撮影を行ったから,上記証拠については本件GPS捜査との関連性が認められ
る。もっとも,被告人Bの住居の特定に際し,本件GPS捜査の結果が用いら
れた事実は見当たらないことからすれば,本件GPS捜査によらなければ被告
人Bの住居を特定できなかったとはいえず,上記証拠が本件GPS捜査と密接
な関連性を有するとは認められない。
甲174は,被告人Aの使用車両がM駅ロータリーに駐車しているなどした
状況を撮影したものであるが,捜査三課警察官らは,被告人Aの使用車両の行
動確認をした際,前日に駐車していた場所から少し離れた位置に反応があった
ことから付近を検索して被告人Aの使用車両を現認したものである。そうする
と,捜査三課警察官らの探索によって被告人Aの使用車両が発見されたことを
踏まえても,本件GPS捜査によらなくとも被告人Aの使用車両を発見できた
とはいえないから,上記証拠は本件GPS捜査と密接な関連性を有すると認め
られる。
甲61,62,80,81,93ないし96,131ないし137,154,
155,175,183ないし185(N料金所及びO料金所に設置されたビ
デオカメラ画像の解析結果報告書等)
ア各弁護人は,警察官が本件GPS捜査により被告人らの移動経路を把握する
ことができた結果,その経路中に存在した料金所のビデオカメラ映像や高速道
路通行券等を証拠として得ることができたから,これらの証拠は本件GPS捜
査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠であると主張する。
イ捜査三課警察官らは,本件各犯行時に,尾行途中で被告人らの行方を見失っ
た際に再度車両の位置情報を得るためGPS端末を用いるなどして尾行を続け
ていたから,本件各犯行に及ぶ際の被告人らの通行経路や立ち寄り先は,GP
S端末を使用した尾行により判明したものといえ,これらの証拠と本件GPS
捜査との関連性が認められる。そして,被告人らの行動を本件GPS捜査によ
り確認しなければ,被告人らが一定の時間帯にインターチェンジを通過するこ
とを把握し得ず,あらかじめ警察官がインターチェンジの料金所に設置してい
たビデオカメラを動作させて撮影し続けること(以下,このように警察官がビ
デオカメラを設置して密かに行う形態の撮影を「秘匿撮影」という。)は困難
であったと考えられることからすれば,秘匿撮影によって得られた証拠及び同
証拠を元に行った鑑定の結果等の証拠(甲81,132ないし137)は,本
件GPS捜査と密接な関連性を有するといえる。
他方で,捜査三課警察官らは,本件GPS捜査が開始される前から,被告人
らが連続自動車窃盗事件の関係者であることや高速道路を利用していたことを
監視検問等の基礎捜査により把握するとともに,首都圏中央連絡自動車道Nイ
ンターチェンジや東名高速道路Oインターチェンジが被告人らの行動範囲内に
あったことを把握していたと認められる。かかる経緯に照らせば,本件GPS
捜査によらなくとも,各事件の発生を受けて,捜査三課警察官らが上記インタ
ーチェンジの料金所を対象とした捜査を行うことによって,料金所に設置され
た防犯カメラ映像や通行券等の証拠を入手し得たといえるから,これらの証拠
が本件GPS捜査と密接な関連性を有するとは認められない(ただし,甲96
のうち,捜査員の現認に基づく捜査状況に関する記載部分は後記のとおり本件
GPS捜査と密接な関連性を有するといえる。)。
甲58ないし60,63,64,66,82ないし92,96,97,98,
138ないし144,146ないし153,156,157,166,176,
177,179ないし182,186,191ないし196(各被害現場付近
の料金所や立ち寄り先等に設置された防犯カメラ画像解析結果報告書等)
ア各弁護人は,警察官が本件GPS捜査により被告人らの移動経路を把握する
ことができた結果,その経路中や立ち寄り先に存在したビデオカメラ映像や遺
留した被害車両の付属物を証拠として得ることができたから,これらの証拠は
本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠であ
ると主張する。
イ捜査三課警察官らは,本件各犯行時に,尾行途中で被告人らの行方を見失っ
た際に再度被告人らの位置情報を得るためGPS端末を用いるなどして尾行を
続けていたから,本件各犯行に及ぶ際の被告人らの通行経路や立ち寄り先は,
GPS端末を使用した尾行により判明したものといえ,これらの証拠と本件G
PS捜査との関連性が認められる。そして,被害発生当時の被告人らの行動を
本件GPS捜査により確認しなければ,被告人らが一定の時間帯に特定の地点
を通過することを把握し得ず,ビデオカメラで秘匿撮影したり,張り込みを行
うことは困難であったと考えられることからすれば,秘匿撮影によって得られ
た証拠や秘匿撮影に関連する証拠,被告人らの使用車両を現認したこと自体も
しくは現認した資料を元に作成された報告書等(甲63の2頁4行目から最終
行まで並びに3頁16行目から18行目まで,甲66,甲82の2頁2行目か
ら9行目まで,甲83の2頁3行目から12行目まで,甲84の2頁3行目か
ら11行目まで,甲88の4頁20行目から5頁6行目まで,同頁8行目「捜
査員が」から9行目「における、」まで,6頁3行目から12行目まで,資料
1中「捜査状況」欄のうち証拠資料に「捜査員の現認」を含むものの記載部分
(ただし,「入口料金所」欄,「出口料金所ブース機械に高速道路通行券を挿
入した日時」欄を除く。),甲89の2頁2行目から12行目まで,甲96の
7頁11行目から8頁4行目まで,同頁6行目「捜査員が」から8行目「にお
ける、」まで,9頁9行目から18行目まで,資料1中「捜査状況」欄のうち
証拠資料に「捜査員の現認」を含むものの記載部分(ただし,「入口料金所」
欄を除く。),甲138の2頁3行目から13行目まで,甲147の2頁2行
目から13行目まで,甲148,甲149,甲150の2頁2行目から13行
目まで,甲151,甲152,甲156,甲157,甲176の1頁10行目
「本職ら」から11行目「現認した」まで,同頁15行目「本職らが」から
「現認する前、」まで,2頁7行目から14行目まで,甲181,甲186,
甲191の4頁20行目から5頁6行目まで,同頁8行目「捜査員が」から
「における、」まで,6頁2行目から11行目まで,資料1中「捜査状況」欄
のうち証拠資料に「捜査員の現認」を含むものの記載部分(ただし,「入口料
金所」欄,「出口料金所ブース機械に高速道路通行券を挿入した日時」欄を除
く。),甲192の7頁12行目から8頁5行目まで,同頁7行目「捜査員が」
から8行目「における、」まで,9頁11行目から20行目まで,資料1中
「捜査状況」欄のうち証拠資料に「捜査員の現認」を含むものの記載部分(た
だし,「入口料金所」欄,「出口料金所ブース機械に高速道路通行券を挿入し
た日時」欄を除く。),甲193の4頁19行目から5頁5行目まで,同頁7
行目「捜査員が」から「における、」まで,6頁8行目から17行目まで,資
料1中「捜査状況」欄のうち証拠資料に「捜査員の現認」を含むものの記載部
分(ただし,「入口料金所」欄,「入口料金所通過日時」欄,「出口料金所ブ
ース機械に高速道路通行券を挿入した日時」欄を除く。),甲194の7頁1
1行目から21行目まで,同頁23行目「捜査員が」から8頁2行目「におけ
る、」まで,9頁7行目から16行目まで,資料1中「捜査状況」欄のうち証
拠資料に「捜査員の現認」を含むものの記載部分(ただし,「入口料金所」欄,
「出口料金所」欄を除く。),甲195の4頁19行目から5頁2行目まで,
同頁4行目「捜査員」から5行目「における、」まで,6頁6行目から15行
目まで,資料1中「捜査状況」欄のうち証拠資料に「捜査員の現認」を含むも
のの記載部分(ただし,「出口料金所」欄,「出口料金所ブース機械に高速道
路通行券を挿入した日時」欄を除く。),甲196の7頁10行目から16行
目まで,同頁18行目「捜査員」から20行目「における、」まで,8頁17
行目から9頁3行目まで,資料1中「捜査状況」欄のうち証拠資料に「捜査員
の現認」を含むものの記載部分(ただし,「入口料金所」欄,「入口料金所通
過日時」欄を除く。))は,本件GPS捜査と密接な関連性を有するといえる。
他方,犯罪による被害が発生し,捜査機関が被害を認知した際に,犯人が通
過し立ち寄る可能性がある周辺の経路や施設等の防犯カメラ映像を精査するこ
とは,この種事案でなくとも一般的に行われている捜査手法であるといえる。
また,自動車を被害品とする窃盗事件が発生し,同事件が広域的,組織的に行
われたものである疑いがあれば,被害車両のナンバープレートを不正なものに
付け替えるという手口の窃盗事件が発生していることを捜査三課警察官らが把
握していたことをも併せ考えると,犯人グループが高速道路を走行して被害車
両を運搬する可能性やその途中でナンバープレートを付け替える可能性を考慮
して捜査を遂げたものと認められる。さらに,捜査機関が被害現場近くのイン
ターチェンジを利用していることを把握した場合,前記2の証拠と合わせ,
被告人らの行動範囲内に所在するインターチェンジとの間のサービスエリア等
に立ち寄る可能性を考慮し,同所に設置された防犯カメラ映像等を精査する,
サービスエリア内に遺留された物件を探索するといった捜査を遂げたものと認
められる。そうすると,本件GPS捜査がなくとも,捜査三課警察官らは周辺
のインターチェンジの料金所に設置された防犯カメラ映像等を精査し,これら
の捜査により得られた証拠を元にした人物の異同識別に関する鑑定やナンバー
プレートに関する捜査関係事項照会等の捜査を行い得たと認められる。以上に
よれば,これらの証拠は本件GPS捜査があったことによってより容易に収集
できた証拠とはいえるが,本件GPS捜査がなくとも収集し得た証拠といえ,
本件GPS捜査と密接な関連性を有するとは認められない。
甲50,51,65,74,116,117,168,169(各被害者等
の供述調書等)
ア各弁護人は,各被害者等の供述調書等は,本件GPS捜査が行われなければ
発見することのできなかった証拠と評価することができるから,これらの証拠
は本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠で
あると主張する。
イ捜査三課警察官らは,本件各犯行時に,尾行途中で被告人らの行方を見失っ
た際に再度車両の位置情報を得るためGPS端末を用いるなどして尾行を続け
ていたから,本件各事件現場は,GPS端末を使用した尾行により判明したも
のといえ,これらの証拠と本件GPS捜査との関連性が認められる。
しかし,被害の申出がなされ,捜査機関が被害事実を認知した場合,捜査機
関が被害関係者から被害の状況を確認するのが通常であって,防犯カメラ映像
等を確認した上で供述している部分についても,本件GPS捜査と密接な関連
性が認められない防犯カメラ映像等を確認した上で供述している部分について
は,本件GPS捜査と密接な関連性を有するとは認められない。同様に,かか
る供述を元に防犯カメラ映像をプリントアウトした報告書についても,本件G
PS捜査と密接な関連性を有するとは認められない。他方,上記本件GPS捜
査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠を確認した上で供
述している部分等(甲50の5頁15行目から6頁2行目まで並びに8頁から
11頁まで,甲116の5頁5行目から6行目まで,同頁11行目から17行
目まで並びに7頁及び9頁,甲117の3頁10行目から4頁1行目まで並び
に8頁及び9頁,甲168の3頁19行目から4頁6行目まで並びに9頁及び
10頁)については,本件GPS捜査によって得られた捜査結果がなければ供
述し得ない内容であるから,本件GPS捜査と密接な関連性を有すると認めら
れる。
甲111(参考人の供述調書)
被告人Bが自動車窃盗グループの関係者であると特定した際に,被告人Aに
対して本件GPS捜査を用いて行った行動確認の結果が用いられた可能性も否
定できないことからすれば,参考人に被告人Bの使用車両の写真を示して得ら
れた供述が含まれる上記証拠と本件GPS捜査との関連性が認められる。
しかし,上記証拠は,被告人Bの内妻(当時)が被告人Bの使用車両の使用
状況や同一性等について供述したものであり,参考人に示した写真は記憶喚起
の縁由になったにすぎないと評価できるから,本件GPS捜査と密接な関連性
を有するとは認められない。
甲68,188ないし190,乙14ないし18,27,32ないし48
(被告人両名及びPの供述調書等)
ア各弁護人は,被告人両名及びPの逮捕状の発付には,本件GPS捜査により
直接得られた証拠である行動確認結果報告書等が疎明資料として添付されてい
るから,これを用いて発付された逮捕状により身柄を拘束し,身柄拘束中に得
られた証拠については密接な関連性を有すると主張する。
イ被告人両名及びPの逮捕状請求の際の疎明資料には,行動確認結果報告書等
本件GPS捜査を用いて直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠が
用いられているから,身柄拘束中に作成された供述調書や供述について裏付捜
査をした結果に関する報告書等については,本件GPS捜査との関連性が認め
られる。
被告人両名の逮捕手続についてみると,被告人Aの逮捕に向けた所在確保の
ためにGPS端末を用いたことは認められるものの,元々本件GPS捜査によ
らずに被告人Aの住居を確認しているだけでなく,取り付けたGPS端末が圏
外になるなどして被告人Aの所在を推測することができなくなっており,また,
被告人Bについても,本件GPS捜査によらなければ被告人Bの住居を特定で
きなかったとはいえないから,本件GPS捜査を用いなければ被告人両名の身
柄拘束をできなかったとは認められない。また,被告人両名及びPの逮捕状請
求の疎明資料となっている本件GPS捜査を用いて直接得られた証拠ないし密
接な関連性を有する証拠が,逮捕状発付の判断にあたって必要不可欠であった
とは認められない。そして,被告人両名及びPは,供述調書や引当り捜査報告
書の作成に当たって任意に供述ないし説明しており,本件GPS捜査の結果に
より,これらの者の供述等がなされたわけではない。供述について裏付捜査を
した結果に関する報告書についても同様であり,本件GPS捜査の結果を直接
用いて裏付捜査を行った事実も認められない。以上を踏まえると,被告人両名
及びPの供述調書等が本件GPS捜査と密接な関連性を有するとは認められな
い。他方,上記本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を
有する証拠を確認した上で供述している部分(甲188の2頁19行目から3
頁12行目まで及び7頁)については,本件GPS捜査によって得られた捜査
結果がなければ供述し得ない内容であるから,本件GPS捜査と密接な関連性
を有すると認められる。
甲67,107ないし109,127,128,145,158,159,
187(捜索差押許可状等の発付により得られた各証拠について)
ア各弁護人は,被告人両名を被疑者とする捜索差押許可状及び差押許可状(以
下「捜索差押許可状等」という。)の発付には,本件GPS捜査により直接得
られた証拠である行動確認結果報告書等が疎明資料として添付されているから,
これを用いて発付された捜索差押許可状等を用いて得られた証拠については密
接な関連性を有すると主張する。
イ被告人両名を被疑者とする捜索差押許可状等請求の際の疎明資料には,行動
確認結果報告書等本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性
を有する証拠が用いられているから,捜索差押許可状等に基づき差し押さえら
れるなどして得られた証拠については,本件GPS捜査との関連性が認められ
る。
被告人Aの使用車両の捜索差押手続についてみると,被告人Aの使用車両の
位置情報を本件GPS捜査により把握する以前から,被告人Aの使用車両の存
在や所在を把握しており,被告人Aの使用車両に関係する捜索差押のために本
件GPS捜査を用いたとは認められない。また,上記捜索差押許可状等請求の
疎明資料となっている本件GPS捜査を用いて直接得られた証拠ないし密接な
関連性を有する証拠が,捜索差押許可状等発付の判断に当たって必要不可欠で
あったとは認められない。そして,捜索差押許可状等により得られた証拠につ
いても,その所在等を把握するために本件GPS捜査が用いられたとは認めら
れず,本件GPS捜査によらなければこれらの証拠を収集できなかったとは認
められない。なお,甲109及び158は,捜査三課警察官らがGPS端末を
用いて被告人らを追尾していた時間帯に関する通話状況の解析結果であるが,
仮に本件GPS捜査を行っていなくとも,被害時刻等を手がかりとして被告人
らの当該時間帯における通話状況を解析することも可能であったといえる。以
上を踏まえると,捜索差押許可状等の発付により得られた各証拠が本件GPS
捜査との間に密接な関連性を有するとは認められない。
J,K,Lの各証言
ア各弁護人は,いずれも警察官であるJ,K,Lが被告人らの使用車両の追尾
状況につき証言している内容につき,その内容はいずれも本件GPS捜査によ
って直接得られた情報を元に追尾した状況を証言したものであり,各証言は,
本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠であ
ると主張する。
イこの点,第11回公判のJ証言についてみると,同人の証人尋問は,立証趣
旨を,被告人両名の使用車両にGPS端末を設置するに至る経緯及びその後の
同GPS端末の利用状況等として採用されたものであり,本件GPS捜査によ
って直接得られた情報を元に追尾した状況に関する事項を含んでいないから,
本件GPS捜査により直接得られた証拠ないし密接な関連性を有する証拠であ
るとは認められない。
第13回公判のK証言,第14回公判のL証言,第15回公判のJ証言につ
いてみると,同人らの証人尋問は,いずれも立証趣旨を,事件当時の被告人ら
の行動確認状況等として採用されたものであり,捜査三課警察官らは,被告人
らの張り込みや探索を開始するに当たりGPS端末を使用し,その後の追尾に
当たっても失尾するなどした際にGPS端末を使用しているから,張り込みや
探索を開始して以降の被告人らの行動確認に関する証言(第13回公判のK証
人尋問速記録2頁2行目から16頁21行目まで,第14回公判のL証人尋問
速記録2頁2行目から26頁20行目まで,44頁17行目から25行目まで
並びに添付書面全て,第15回公判のJ証人尋問速記録2頁7行目から21頁
2行目まで,22頁16行目から40頁6行目まで,59頁2行目から60頁
2行目まで)については,いずれも本件GPS捜査により直接得られた証拠と
いえる。
3違法の重大性について
各弁護人の主張の概要
被告人両名の弁護人らは,本件GPS捜査には重大な違法があり,本件各証
拠を証拠として許容することが将来における違法捜査抑制の見地からして相当
ではない旨主張する。
検討
前記のとおり,GPS捜査は,対象車両の使用者のプライバシーを大きく侵
害するものであり,本件GPS捜査の実施期間,規模及び態様からすれば,本
件GPS捜査は,現に被告人両名のプライバシーを大きく侵害するものであっ
た。また,GPS捜査の性質等を踏まえると,GPS捜査について,刑訴法1
97条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法
が規定する令状を発付することには疑義がある(最高裁平成28年(あ)第4
42号同29年3月15日大法廷判決参照)と考えられることからすれば,本
件GPS捜査を,令状等の選択を適切に行うなどして適法に行い得たという事
情も見当たらない。本件GPS捜査の違法の程度は大きいと認められる。また,
警察官らは,本件GPS捜査を行ったことを秘匿するとともに,本件GPS捜
査の実施状況等を十分に記録化していなかったという事実も認められる。
そうすると,被告人らに対し所要の行動確認等を行っていく上では,尾行や
張り込みだけではなく,それと併せて,GPS捜査を実施する必要性が認めら
れる状況にあったこと,本件GPS捜査が行われていた頃までに,これを強制
処分と解する司法判断が示されたり,定着したりしていたわけではなかったこ
と,その他検察官の主張を併せ考えても,本件GPS捜査の違法の程度は,令
状主義の精神を潜脱し,没却する重大なものであるといわざるを得ない。
4結論
そうすると,本件各証拠のうち,本件GPS捜査によって直接得られた証拠
ないしこれと密接な関連性を有する証拠と認められた上記各証拠の証拠能力は
否定すべきであり,刑訴規則207条により排除するのが相当である。
第4以上によれば,本件各証拠のうち,本件GPS捜査によって直接得られた証
拠ないしこれと密接な関連性を有する証拠と認められた上記各証拠については
排除し,その余の証拠については排除しないことが相当である。
(事実認定の補足説明)
第1判示第1の事実(横浜事件)について
被告人Bの弁護人は,被告人Bと犯人の同一性(犯人性)を争うので,以下
検討する。
1前提事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
Cは,横浜市甲区駐車場に,エンジンキーが付いていない状態で普通乗用自
動車1台(以下「横浜事件被害車両」という。車種はクレスタである。)を駐
車していたところ,平成26年10月7日午前3時5分頃,同車両は何者かに
よって乗り去られた。
被告人Bは,同日午前5時22分頃,乙所在のセブンイレブン駐車場におい
て,横浜事件被害車両に乗車していた。
横浜事件被害車両は,同月11日午前1時40分頃,神奈川県大和市所在の
駐車場内で施錠された状態で発見された。また,運転席側ドアの鍵穴下部が広
げられており,上記車両の鍵では運転席側ドアを開けることができず,運転席
キーシリンダー部分が壊されており,上記車両の鍵を差し込んでもエンジンを
掛けることができず,キーシリンダーの中身をラジオペンチでひねるとエンジ
ンが掛かる状態であった。
上記発見時,横浜事件被害車両の車内には,目出し帽,たばこ(マルボロ)
の吸い殻が遺留されていたところ,上記目出し帽の付着物と上記たばこの吸い
殻の付着物のDNA型(16座位)が被告人Bから採取した血液のDNA型と
一致した。
Q警察署敷地内に駐車されていた横浜事件被害車両は,同月11日午前10
時頃から同月14日午後7時30分頃までの間に,装着されていた前後のナン
バープレートが何者かによって持ち去られ,消火器が車内に噴霧され,Q警察
署敷地の内外を隔てるフェンスも,その頃,切断されていた。
2前記1の前提事実によれば,被告人Bは,横浜事件被害車両が盗難されてか
ら,約2時間17分後において同車に乗車していたことになるが,午前3時か
ら午前5時という深夜から早朝の時間帯に,自動車という取引価格が一般的に
高額となるものを犯人もしくはその関係者から譲り受けるとは考え難い。
また,横浜事件被害車両は,発見時に施錠されており,その車内には,被告
人BとDNA型が一致する付着物の付いた目出し帽とたばこの吸い殻が遺留さ
れていたことからすると,同車両は,前記駐車場に遺留されるまでの間,被告
人Bの管理下にあったものと認定できる。そうすると,被告人Bは,犯行後の
約2時間17分後から約4日後に発見されるまで,横浜事件被害車両を管理し
ていたものと推認できる。そして,横浜事件被害車両は,盗難時にエンジンキ
ーが付いていない状態であったところ,発見時には運転席キーシリンダー部分
が破損しており,上記車両のエンジンキーを差し込んでもエンジンが掛からず,
キーシリンダーの中身をラジオペンチでひねるとエンジンが掛かる状態であっ
たことからすると,犯人は,盗難時に,同車のキーシリンダー部分を破壊して,
同車を運び出し,発見時まで特段修理等をしていなかったと推認できる。そう
すると,犯人がそのような状態の車を第三者に譲り渡すとも到底考え難いとこ
ろ,被告人Bは,そのような状態の車を,犯行後の約2時間17分後から約4
日後に発見されるまで,管理していたことになり,被告人Bが犯人もしくはそ
の関係者ではないとは考え難い。
以上の事実によれば,被告人Bが横浜事件被害車両を盗難した犯人であると
強く推認できる。
3被告人Bの犯行告白について
後記のとおり信用できる証人Rの証言によれば,被告人Bが,被告人Bの実
弟であるSに対し,平成26年10月10日頃,Tの方でクレスタを盗んだ旨
言ったこと,同月17日,盗んだクレスタが警察に持って行かれたので,フェ
ンスを切って警察署に入り,ナンバープレートを取って,車の中に消火器をま
いた旨言ったことが認められる。
R証言の信用性について検討すると,その証言内容は具体的であり,前記前
提事実には,その証言に沿う客観的事実も認められ,その信用性は高い。この
点,被告人Bの弁護人は,その証言経緯が不自然であり,虚偽供述の動機があ
ると指摘する。しかし,Rは,被告人Bが車を盗んでいると聞いたこと等から,
被告人BやSと共に働いていた会社を辞めようとしたところ,それを伝えたS
から脅されたため警察に相談することとし,その際に被告人Bの前記発言等を
警察に伝えたのであり,その供述経過に不自然な点はない。また,被告人Bと
特段のトラブルはなく,虚偽供述の動機があるとまではいえない。したがって,
被告人Bの弁護人の指摘はいずれも採用できない。
被告人BがSに対し盗んだ旨述べた車種は,横浜事件被害車両と同じクレス
タである。そして,前記前提事実記載のとおり,Q警察署のフェンスが切断さ
れており,同署敷地内で駐車していた横浜事件被害車両は,ナンバープレート
が取り外され,車内で消火器が噴霧されていたところ,被告人BがSに対し,
盗んだクレスタについて,フェンスを切って警察署内に入って,ナンバープレ
ートを取って,車の中に消火器をまいた旨述べていることからすると,被告人
BがSに対し盗んだ旨述べているクレスタは,横浜事件被害車両であると推認
できる。
以上によれば,被告人Bは,自らが横浜事件被害車両を盗んだことを自認し
ていると認められ,このことも前記推認を補強する。
4被告人Bの弁護人の主張について
被告人Bの弁護人は,被告人Bが犯人ではない旨主張し,その根拠として,
①横浜事件被害車両から被告人Bの所有物以外の物が発見されていること,②
被告人Bが同車に乗っていたのは窃取されてから約2時間17分後であること
を根拠に挙げる。
しかし,上記①については,横浜事件被害車両の車内には,所有者が明らか
ではないグローブ等が遺留されていたものの,同車内で発見された目出し帽,
たばこ(マルボロ)の吸い殻の付着物のDNA型(16座位)が被告人Bから
採取した血液のDNA型と一致していることからすると,上記事情は,被告人
B以外にも同車を利用した者がいることを示唆するものにすぎず,被告人Bが
犯人であることを否定するものではない。
上記②については,被告人Bが同車に乗っていたのは窃取されてから約2時
間17分後であるが,前判示のとおり,午前3時から午前5時という深夜から
早朝の時間帯に,自動車という取引価格が一般的に高額となるものを犯人もし
くはその関係者から譲り受けるとは考え難く,上記事情は,むしろ被告人Bが
犯人であることを強く推認させるものである。
したがって,被告人Bの弁護人の上記主張は,採用することができない。
5被告人Bの供述について
被告人Bは,平成26年10月7日午前4時半頃に,横浜事件被害車両を見
ず知らずの外国人から借りたものであり,自らが窃取したものではない旨供述
する。
しかし,既に説示したとおり,午前4時半頃という深夜から早朝の時間帯に,
自動車という取引価格が一般的に高額となるものを,連絡先も知らない外国人
から,連絡先も教えずに借りるということ自体,不自然というほかはなく,証
人Aが被告人Bの供述に沿う証言をしていることを踏まえても,この評価は左
右されない。
よって,証人Aの供述は信用できず,被告人Bの供述も信用できない。
6以上によれば,被告人Bは,判示第1の事実の犯人といえる。
第2判示第2の事実(D商店事件)について
被告人Aの弁護人は,被告人Aに窃盗の故意がない旨主張するので,以下検
討する。
1前提事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
被告人Aは,平成26年11月10日午前2時頃から同日午前3時2分頃ま
での間に,Pと共に,静岡県富士市所在のD商店西側駐車場に行き,同所に駐
車中の普通貨物自動車1台(以下「D商店被害車両」という。)の管理者であ
るE等に確認することなく,同車に乗車して,運び出した。
D商店被害車両のエンジンキーは2本しかないところ,同エンジンキーは,
同車が運び出された後においても,いずれもE方に保管されたままであった。
被告人Aは,同日午前2時頃から同日午前5時頃までの間に,D商店被害車
両のナンバープレートから別のナンバープレートに付け替えた。
2前記1の前提事実のとおり,D商店被害車両のエンジンキーは2本しかなく,
いずれも被害者方に保管されたままであったにもかかわらず,被告人Aが同車
を運び出したことに照らすと,被告人Aは,エンジンキーを用いずに,エンジ
ンを作動させて,同車を運び出したと考えられる。
上記事実及び前記1の前提事実によれば,被告人Aは,人の少ない深夜に,
管理者等に確認することなく,D商店被害車両を持ち出していることに加え,
同車を運び出す際に,エンジンキーを用いずにエンジンを作動させており,そ
の後同車のナンバープレートを付け替えたと認められるところ,上記行為は,
同車を運び出す権限を有する者の行動として極めて不自然であり,窃盗の故意
が強く推認される。
3被告人Aの供述について
被告人Aは,Uという外国人から買い取って運搬しただけで,窃盗の故意は
なかった旨供述する。
しかし,前判示のとおり,被告人AがD商店被害車両を持ち出した際の態様
は,同車を運び出す権限を有する者の行動として極めて不自然である。また,
被告人Aは,Uは携帯電話を持っていないから連絡をすることができない旨供
述するが,一般的に高価である自動車を買い取った相手方の連絡先を把握して
いないということが不自然・不合理である。
したがって,被告人Aの供述は,信用することができない。
4以上によれば,被告人Aは窃盗の故意が認められる。
第3判示第3の事実(F鉄工事件)について
被告人両名の弁護人らは,被告人両名に窃盗の故意がなく,共謀も成立しな
い旨主張するので,以下検討する。
1前提事実
被告人両名は,自動車に乗車して,平成26年11月15日午前2時45分
頃,静岡県富士市所在の株式会社F鉄工営業所敷地(以下「F鉄工被害現場」
という。)付近に向かい,被告人両名のいずれかが,その頃,F鉄工被害現場
において,普通貨物自動車1台(以下「F鉄工被害車両」という。)の管理者
である同社代表取締役F2等に確認することなく,同所に駐車中の同車を運び
出し,被告人両名のうちもう一方が,その頃,F鉄工被害現場まで乗車してき
た自動車を運転してその場から去った。
F鉄工被害現場の出入口門扉は,同日午前1時22分頃,異常がなかったが,
同日午前2時57分頃,上記出入口門扉に巻かれた鎖の一部が切断されて,上
記出入口門扉が開いたままになっていた。
F鉄工被害車両は,同日午前2時53分頃から同日午前4時30分頃の間に,
静岡県沼津市所在の東名高速道路Vパーキングエリアにおいて,同車のナンバ
ープレートから別のナンバープレートに付け替えられた。
2前記1の前提事実のとおり,被告人両名は,自動車に乗車して,F鉄工被害
現場に向かい,被告人両名のうちいずれかがF鉄工被害車両を運転して,もう
一方がF鉄工被害現場まで乗車してきた自動車を運転し,その場を去っている
ことから,被告人両名でF鉄工被害車両を運び出したと評価できる。
前記1の前提事実によれば,被告人両名もしくはいずれか一方が,F鉄工被
害車両を運び出す際に,F鉄工被害現場の出入口門扉に巻かれた鎖の一部を切
断し,その後,同車のナンバープレートを付け替えたと考えられるところ,こ
れらの行為は被告人両名がF鉄工被害車両を運び出すためになされた行為であ
ることからすると,いずれか一方が行った行為であっても,被告人両名の了解
の下でなされたものと推認できる。
以上によれば,被告人両名は,人の少ない深夜に,管理者等に確認すること
なく,F鉄工被害車両を持ち出していることに加え,F鉄工被害車両を運び出
す際に,F鉄工被害現場の出入口門扉に巻かれた鎖の一部を切断し,同車のナ
ンバープレートを付け替えたと認められるところ,上記行為は,同車を運び出
す権限を有する者の行動として極めて不自然であり,被告人両名の窃盗の故意
が強く推認される。
3被告人両名の供述について
被告人Aは,Uから買い取って運搬しただけである旨供述し,被告人Bは,
被告人Aから依頼されて正当な業務として行ったものである旨供述し,いずれ
も窃盗の故意を否認する。
しかし,前判示のとおり,被告人両名がF鉄工被害車両を持ち出した際の態
様は,同車を運び出す権限を有する者の行動として極めて不自然である。また,
被告人Aは,Uは携帯電話を持っていないから連絡をすることができない旨供
述するが,一般的に高価である自動車を買い取った相手方の連絡先を把握して
いないということが不自然・不合理である。被告人Bも,上記のような極めて
不自然な状況があったのであるから,正当な業務であると認識していたとは考
えられない。
したがって,被告人両名の供述は,信用することができない。
4以上によれば,被告人両名には窃盗の故意が認められ,共謀が成立する。
第4判示第4の事実(ホテルG事件)について
被告人両名の弁護人らは,被告人両名に窃盗の故意がなく,共謀も成立しな
い旨主張するので,以下検討する。
1前提事実
被告人両名は,平成26年12月5日午後11時21分頃から同月6日午
前1時46分頃までの間に,自動車に乗車して,山梨県笛吹市所在のホテル
G第1駐車場(以下「ホテルG被害現場」という。)付近に向かい,被告人
両名のいずれかが,その頃,ホテルG被害現場において,普通乗合自動車1
台(以下「ホテルG被害車両」という。)の管理者である株式会社H取締役
H2等に確認することなく,同所に駐車中のホテルG被害車両を運転して運
び出し,被告人両名のもう一方が,その頃,ホテルG被害現場まで乗車して
きた自動車を運転した。
ホテルG被害車両のエンジンキーは1本しかないところ,同エンジンキー
は,同車が運び出された後においても,ホテルG事務所内のキーボックスに
保管されたままであった。
同月5日午後2時頃から同月6日午前3時10分頃までの間に,ホテルG
被害車両のナンバープレートは,右から3文字目に「8」を貼り付けたナン
バープレートに変えられた。
2前記1の前提事実のとおり,被告人両名は,自動車に乗車して,ホテルG被
害現場に向かい,被告人両名のうちいずれかがホテルG被害車両を運転して,
もう一方がホテルG被害現場まで乗車してきた自動車を運転していることから,
被告人両名でホテルG被害車両を運び出したと評価できる。
前記1の前提事実のとおり,ホテルG被害車両のエンジンキーは1本しかな
く,同エンジンキーは,同車が運び出された後においても,ホテルG事務所内
のキーボックスに保管されたままであったにもかかわらず,被告人両名で同車
を運び出したことに照らすと,被告人両名のいずれかが,エンジンキーを用い
ずに,エンジンを作動させて,同車を運び出したと考えられる。
また,ホテルG被害車両は,同月5日午後2時頃から同月6日午前3時10
分頃までの間に,そのナンバープレートに変更が加えられているが,日常的に
利用する際にナンバープレートに変更を加えるとは考え難いため,被告人両名
もしくはそのいずれか一方が,同車を運び出した際に,ナンバープレートに変
更を加えたと考えられる。
上記事実及び前記1の前提事実によれば,被告人両名もしくはいずれか一方
が,エンジンキーを用いずに,エンジンを作動させて,ホテルG被害車両を運
び出し,同車のナンバープレートに変更を加えたと考えられるところ,これら
の行為は被告人両名が同車を運び出すためになされた行為であることからする
と,いずれか一方が行った行為であっても,被告人両名の了解の下でなされた
ものと推認できる。
以上によれば,被告人両名は,人の少ない深夜に,管理者等に確認すること
なく,ホテルG被害車両を持ち出していることに加え,同車を運び出す際に,
エンジンキーを用いずにエンジンを作動させており,その後同車のナンバープ
レートに変更を加えたと認められるところ,上記行為は,同車を運び出す権限
を有する者の行動として極めて不自然であり,被告人両名の窃盗の故意が強く
推認される。
3被告人両名の供述について
被告人Aは,Uから運搬を依頼されただけである旨供述し,被告人Bは,被
告人Aから依頼されて正当な業務として行ったものである旨供述し,いずれも
窃盗の故意を否認する。
しかし,前判示のとおり,被告人両名がホテルG被害車両を持ち出した際の
態様は,同車を運び出す権限を有する者の行動として極めて不自然である。ま
た,被告人Aは,Uは携帯電話を持っていないから連絡をすることができない
旨供述するが,一般的に高価である自動車を買い取った相手方の連絡先を把握
していないということが不自然・不合理である。被告人Bも,上記のような極
めて不自然な状況があったのであるから,正当な業務であると認識していたと
は考えられない。
したがって,被告人両名の供述は,信用することができない。
4以上によれば,被告人両名には窃盗の故意が認められ,共謀が成立する。
第5判示第5の事実(I自動車事件)について
被告人両名の弁護人らは,被告人両名に窃盗の故意がなく,共謀も成立しな
い旨主張するので,以下検討する。
1前提事実
被告人両名は,平成26年12月10日午前0時17分頃から同日午前1時
10分頃までの間に,自動車に乗車して,甲府市所在の有限会社I自動車整備
工場西側車両置き場(以下「I自動車被害現場」という。)付近に向かい,被
告人両名のいずれかが,その頃,I自動車被害現場において,普通貨物自動車
1台(以下「I自動車被害車両」という。)の管理者である同社取締役I2等
に確認することなく,同所に駐車中のI自動車被害車両に乗車して運び出し,
被告人両名のもう一方が,その頃,I自動車被害現場まで乗車してきた自動車
を運転した。
I自動車被害現場は,平成26年12月9日午後6時頃,出入口に鎖が張
られて出入りできない状態であったが,同月10日午前5時30分頃,同鎖が
切断されていた。
イ切断された鎖の破片の痕跡の一部は,平成27年2月6日,被告人Aが使
用する普通乗用自動車内から押収された番線カッターによって印象されたもの
である。
I自動車被害車両のエンジンキーは1本しかないところ,同エンジンキーは,
同車が運び出された後においても,I自動車整備工場事務室内に保管されたま
まであった。
I自動車被害車両は,平成26年12月10日午前0時17分頃から同日午
前1時10分頃までの間に,I自動車被害現場において,そのナンバープレー
トから別のナンバープレートに付け替えられた。
2前記1の前提事実のとおり,被告人両名は,自動車に乗車して,I自動車被
害現場に向かい,被告人両名のうちいずれかがI自動車被害車両を運転して,
もう一方がI自動車被害現場まで乗車してきた自動車を運転していることから,
被告人両名でI自動車被害車両を運び出したと評価できる。
前記1の前提事実のとおり,I自動車被害車両のエンジンキーは1本しかな
いところ,同エンジンキーは,同車が運び出された後においても,I自動車整
備工場事務室内に保管されたままであったにもかかわらず,被告人両名で同車
を運び出したことに照らすと,被告人両名のいずれかが,エンジンキーを用い
ずに,エンジンを作動させて,同車を運び出したと考えられる。
上記事実及び前記1の前提事実によれば,被告人両名もしくはいずれか一方
が,I自動車被害現場の出入口を塞いでいた鎖を切断し,エンジンキーを用い
ずに,エンジンを作動させて,I自動車被害車両を運び出し,同車のナンバー
プレートを付け替えたと考えられるところ,これらの行為は被告人両名が同車
を運び出すためになされた行為であることからすると,いずれか一方が行った
行為であっても,被告人両名の了解の下でなされたものと推認できる。
以上によれば,被告人両名は,人の少ない深夜に,管理者等に確認すること
なく,I自動車被害車両を持ち出していることに加え,I自動車被害現場の出
入口を塞いでいた鎖を切断し,エンジンキーを用いずに,エンジンを作動させ
て,同車を運び出し,同車のナンバープレートを付け替えたと認められるとこ
ろ,上記行為は,同車を運び出す権限を有する者の行動として極めて不自然で
あり,被告人両名の窃盗の故意が強く推認される。
3被告人両名の供述について
被告人Aは,Uから買い取って運搬しただけである旨供述し,被告人Bは,
被告人Aから依頼されて正当な業務として行ったものである旨供述し,いずれ
も窃盗の故意を否認する。
しかし,前判示のとおり,被告人両名がI自動車被害車両を持ち出した際の
態様は,同車を運び出す権限を有する者の行動として極めて不自然である。ま
た,被告人Aは,Uは携帯電話を持っていないから連絡をすることができない
旨供述するが,一般的に高価である自動車を買い取った相手方の連絡先を把握
していないということが不自然・不合理である。被告人Bも,上記のような極
めて不自然な状況があったのであるから,正当な業務であると認識していたと
は考えられない。
したがって,被告人両名の供述は,信用することができない。
4以上によれば,被告人両名には窃盗の故意が認められ,共謀が成立する。
(累犯前科)
被告人Aは,平成24年2月3日W地方裁判所X支部で覚せい剤取締法違反の罪
により懲役1年6月に処せられ,平成25年7月23日その刑の執行を受け終わっ
たものであって,この事実は前科調書(乙21)によって認める。
被告人Bは,平成22年7月6日W地方裁判所Y支部で窃盗罪により懲役3年に
処せられ,平成25年3月7日その刑の執行を受け終わったものであって,この事
実は前科調書(乙29)によって認める。
(法令の適用)
[被告人Bにつき](判示第1,第3ないし第5)
罰条いずれも刑法60条,235条
刑種の選択いずれも懲役刑を選択
累犯加重いずれも刑法56条1項,57条(再犯の加重)
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重
い判示第5の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書
[被告人Aにつき](判示第2ないし第5)
罰条
判示第2刑法235条
判示第3ないし第5いずれも刑法60条,235条
刑種の選択いずれも懲役刑を選択
累犯加重いずれも刑法56条1項,57条(再犯の加重)
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重
い判示第5の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書
(量刑の理由)
被告人両名は,自動車窃盗を連続して行っており,共犯者間で役割を分担して
車を運び出すとともに,ナンバープレートを付け替えるなど非常に手慣れた職業
的犯行といえる。被害総額も相当高額である上,被告人Bが窃取した横浜事件被
害車両を除き,被害車両はいずれも所在不明になっている。
以上に加え,被告人Aは,前刑終了後1年3か月余りでD商店事件を犯してお
り,被告人Bは,同種窃盗の前刑終了後約1年7か月後から横浜事件を犯してお
り,いずれも規範意識の鈍麻が顕著である。
その上,被告人両名は,不合理な弁解に終始し,全く反省の様子が見られない。
そうすると,被告人両名の刑事責任はいずれも重く,被告人両名にはそれぞれ
主文の各刑を科すのが相当である。
(検察官黒見知子,同伊藤直子,被告人Aの弁護人松本和英(私選),被告人Bの
弁護人渡邉祐太(国選)各出席)
(求刑被告人両名いずれも懲役5年)
平成29年7月19日
東京地方裁判所立川支部刑事第3部
裁判長裁判官宮本孝文
裁判官小坂茂之
裁判官髙田浩平は,職務代行を解かれたため,署名押印できない。
裁判長裁判官宮本孝文

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