弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原決定を取り消す。
     本件を東京地方裁判所に差戻す。
         理    由
 抗告代理人は、「原決定を取り消す。抗告人の配当要求の申立を受理する。」と
の裁判を求め、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。
 本件各記録に徴すると次の諸事実を認めることができる。
 申請外株式会社北島商店(以下単に北島商店という)は相手方(債務者)A(以
下単に債務者という)に対する約束手形金債権金五百十九万円の執行を保全するた
め、債務者の相手方(第三債務者)有限会社双葉(以下単に第三債務者という)に
対する東京都渋谷区a町b番地のc所在の第三債務者所有の家屋について債務者か
ら第三債務者に対する金五百万円の敷金返還請求債権(以下単に本件債権という)
の仮差押命令を申請し、昭和三十二年六月十四日東京地方裁判所からその旨の決定
を得、右決定正本は債務者に対し昭和三十一年六月二十二日に、第三債務者に対し
同年同月十六日にそれぞれ送達された。その後北島商店は後記認定の申請外(債権
者)B、同株式会社本多商店(以下単に本多商店という)、同Cの本件債権の差押
について、昭和三十三年三月二十日受理の書面をもって、執行力ある正本によらな
い配当要求として、債務者に対する昭和二十五年五月二十六日から同三十二年六月
六日までの精枝肉販売代金中昭和三十三年三月十三日現在における売掛残代金九百
九十万九百九円(後に四百七十一万九百九円と訂正)及びこれに対する昭和三十二
年七月一日(渋谷簡易裁判所昭和三十二年(ロ)第三一九号督促手続事件の支払命
令正本送達の翌日)から昭和三十三年三月十三日までの年六分の損害金合計金四十
一万五千八百円(後に金二十万五千二百十四円と訂正)の債権をもつて申立てをな
した。北島商店の仮差押の被保全債権(約束手形金能権)は配当要求をなした右売
掛金代金とともに本案訴訟が勝訴となり、その判決は昭和三十三年九月三日に確定
したので、上記仮差押は本執行に移行した。Bは債務者外二名を相手方とする渋谷
簡易裁判所昭和三十二年(ロ)第三六五号支払命令申立事件の執行力ある仮執行宣
言附支払命令正本による元金百九十七万二千九十八円及びこれに対する昭和三十二
年七月十九日から完済まで年六分の割合による損書金及び督促手続費用金六千八百
五十円を請求債権として債務者の第三債務者に対する本件債権のうち金百九十七万
八千九百四十八円について債権差押命令の申請をなし、その旨の決定を得、右の決
定正本は債務者に対し昭和三十二年八月二十五日、第三債務者に対し同年同月二十
二日それぞれ送達された。第三債務者は同年同月二十六日東京地方裁判所からの債
権の認諾限度の陳述を求める催告に対して本件敷金返還債務(本件債権)は金三百
五十万円の限度で認める旨の書面を東京地方裁判所に提出した。Bは昭和三十三年
二月三日右差押債権についての転付命令を得、右命令は同年二月五日債務者に、同
月六日第三債務者にそれぞれ送達された。本多商店は債務者外二名を相手方とする
渋谷簡易裁判所昭和三十二年(ロ)第四二五号支払命令申立事件の執行力ある仮執
行宣言附支払命令正本による元金百二十三万九千八百七十五円及び督促手続費用金
四千三百六千円、仮執行手続費用金六百四十円を請求債権として債務者の第三債務
者に対する本件債権のうち金百二十三万九千八百七十五円について債権差押命令を
申請してその旨の決定を得、右の決定正本は債務者に対し昭和三十二年九月二十五
日、第三債務者に対し同年同月二十六日それぞれ送達された。本多商店は昭和三十
三年二月三日右差押債権について転付命令を得、右命令は同年二月五日債務者に、
同月六日第三債務者にそれぞれ送達された。Cは債務者に対する昭和三十二年五月
十八日公証人D作成同年第九百十号金銭消費貸借公正証書により、貸付けた元金二
百万円及びこれに対する昭和三十二年五月十八日から同年十二月十八日まで年六分
の割合による利息金七万円を請求債権として、債務者の第三債務者に対する本件債
権の内金二百万円について債権差押命令及び転付命令の申請をなしてその旨の決定
を得、右の決定正本は債務者に対し昭和三十三年一月二十九日、第三債務者に対し
同年同月二十七日それぞれ送達された。その後Cは、本件債権について既にBの差
押があり右転付命令が効力を生じないからとして、昭和三十三年二月七日取立命令
の申請をなした。
 第三債務者は上記認定の債権並びに転付命令の各正本の送達を受け、債権者から
要求を受けたとして昭和三十三年三月十九日漬務者に対する本件敷金返還債務金と
して金二百三十万一千円を供託し、同月二十二日東京地方裁判所にその旨届出ると
共に、本件敷金返還債務額は金二百五十万円であるが、延滞賃料金十九万九千円を
差引いたものであると附言した。
 原裁判所は第三債務者から昭和三十三年三月二十二日右の事情届と供託書を受領
したので、本件配当期日を昭和三十三年四月十一日午前十時と定め、同年三月二十
五日上記各債権者に対し、催告書到達日から七日以内に計算書を提出することを命
ずる催告書を発送した。上記債権者は上記請求債権を計算の上、北島商店は約束手
形金債権金五百十九万円、配当要求債権中右約束手形金債権及び一部弁済金を控除
した金四百七十一万九百九円とこれに対する損害金二十一万三千六百円を、Bは上
記差押債権(元本、損害金、督促手続費用、仮執行宣言手続費用)合計金二百六万
一千六百十四円を、本多商店は上記差押債権の売掛代金債権、損害金、督促手続費
用、仮執行宣言手続費用合計金百二十八万五千二十七円を、Cは上記差押債権(元
本、利息、損害金、本件各費用)合計金二百十三万一千八百円を、それぞれ請求債
権として申出た。原裁判所は昭和三十三年四月十一日午前十時配当期日を開いたが
北島商店から配当表の作成方法について異議の申立があつたので配当手続を中止し
た。抗告人は同年四月十九日債務者に対する別紙目録記載の債権をもつて債務名義
によらない配当要求として本件配当要求の申出をなしたところ原裁判所は別紙抗告
理由書記載のような理由で、これを却下した。
 債務者の第三債務者に対する本件債権五百万円について、上記認定のように、債
権者B、本多商店、Cはそれぞれ昭和三十三年一月二十四日以降に債権転付命令を
得ているけれども、債権者北島商店はこれより先昭和三十二年六月十六日右債権金
五百万円全額について仮差押命令を得ているばかりでなく、外の債権者の右債権の
差押が競合しているのであるから右各転付命令はその効力を生じていないといわな
ければならない。なお、第二番目以後の債権差押の申立及び債権差押命令の第三債
務者への送達は民訴法第六二一条第一項の関係では配当要求の送達と同一と解すべ
きである。 <要旨第一>債権に対する強制執行で配当要求をなし得る時期について
は、民訴法第六二〇条第一項で、執行力ある正本を有する債権者及び民
法に従い配当要求をなし得る債権者は、差押債権者が取立をなし、その旨を執行裁
判所に届出でるまでその他と規定している。それとともに他方、同法第六二一条は
第三債務者が債権者から請求を受けたとき、或は配当要求の送達を受けたときは、
進んでその債務額を債権者のために供託して、その事情を執行裁判所に届出でて強
制執行手続から脱退することを認めている。この場合においては右供託金の上に差
押の効力が残ることは勿論である、この場合、差押債権者はさらに右供託金を受領
してこれを執行裁判所に届出でることを要するとの抗告人主張のような見解も存す
る(大判昭和二十年一月十八日民集二四巻一頁)。しかし、第三債務者からその債
務額が供託せられた以上、すでに執行段階が完了しているのであるから、直ちに配
当手続に着手するとしても、別になんの支障をきたさないばかりでなく、右のよう
に差押が競合して第三債務者から債務額が供託されている場合には、差押債権者は
取立命令を得ても、第三債務者に対して支払請求をなし得るかは第三債務者に権利
として供託することを認めた第六二一条の規定の関係上疑問があるばかりではな
く、供託金をその債権者一人に交付してそれを裁判所に第六二〇条で届出て配当手
続に移ることは、却つて配当を遅延させるばかりではなく、配当金の交付の点から
みても不確実になるのであるから、このような迂遠な手続を必要とする解釈に左袒
することはできない。この場合第三債務者が債権者の要求、或は第六二条第一項に
基いて債務額を供託してその旨の事情届が提出されたときは、差押債権者から差押
債権を取立てた旨の届出があつたと同じであると解するのを相当とする。民訴法第
六二七条で裁判所が事情届が提出されたときは各債権者に債権その他の計算書の提
出の催告をなせと規定しているのも、右のような解釈を前提としているのである。
したがつて、他の債権者の配当要求をなし得る時期は成文法上なんの根拠もない。
原決定のように裁判所の右計算書提出の催告期間の最終期日までではなく、抗告人
主張のように、第六二〇条によつて債権者が債権の取立をなし執行裁判所に届出で
るまでと限定すべきでもなく、第三者がその差押債務額を供託して、その事情を執
行裁判所に届出でたときでもあると解するのを相当とする。
 <要旨第二>しかしながら、右のように配当要求の終期は、その差押債権の全金額
が取立てられ、或は第三債務者から供託されてその旨執行裁判所に届出
られたものであることが原則であつて、それが一部であるときは、残額が存在して
いないとか、取立ができないことが客観的に確定した場合でなければならない。け
だし、同一債権に対する強制執行の場合には、破産の場合の配当とは異り一部ず
つ、その時の配当要求債権者に段階的に配当するということは全く予定しておら
ず、同一債権については配当は一回なしてそれで強制執行を完了させることとなつ
ているのである。従つて差押債権者がその差押債権の一部を供託して、執行裁判所
に事情を届出でたのみで、残部が存在しないとか、取立が不能であるということが
客観的に確定していない場合には、強制執行の執行はまだ完了せず、執行が進行中
の段階であるから、配当要求の終期は到来していないと解さなければならない。差
押債権の一部のみが第三債務者から供託されて、その旨の届出がなされた場合に
も、その一部について直ちに配当手続に着手し、その当時までの債権者に対して配
当をなすとすれば、法律の認めていない時期を配当要求の終期とし、当然要求ので
きる他の債権者の権利を不当に害するばかりでなく、平等配当主義に徹している民
事訴訟法の原則に反することになるから、とうてい許されない。
 本件についてこれをみるに、上段認定のように、北島商店は債務者の第三債務者
に対する本件債権は金五百万円であるとして仮差押をなし、第三債務者はその執行
中である昭和三十三年八月二十六日現在において右の金額を金三百五十万円の限度
において認め、その旨を執行裁判所に届出ているのである。それなのに第三債務者
は供託に際して右の金額は金二百五十万円に過ぎず、そのうち金十九万九千円は延
滞賃料として差引いた旨主張して、金二百三十万一千円を供託しているに止まる。
しかし本件記録を精査しても、差押(北島商店の仮差押)当時の本件債権額が金五
百万円ではなくして第三債務者主張のように金二百五十万円であつたとか、または
債務者の第三債務者に対する延滞賃料が金十九万九千円であつたこととかについて
は、これを認め得る資料はなにも存しない。してみると、本件においては第三債務
者は債務額の一部である金二百三十万一千円を供託し、その旨の事情届を執行裁判
所に届出たにすぎないものと認める外はない。もつとも第三(債)務者は債権者の
求めによつて供託したと届出でているので、これを確認する証拠はないが、一応第
三債務者の主張のとおりと認めるを相当とする。かりにそうでないとしても、上段
認定のような関係だから、右供託は配当要求の送達を受けた後のものと認めること
ができる。従つていずれにしても右供託は一部のものであるがその範囲では有効な
ものと解するを相当とする。しかし右供託は一部に止まるから、まだ強制執行の執
行段階が完了せず、配当要求の終期は到来せず、抗告人のなした配当加入の申立
は、その要求の許される期間内になされたものといわなければならない。
 よつてこれと異る見解に立つて、抗告人の配当加入の申立を却下した原決定は失
当であるから、原決定を取り消し、本件を原裁判所に差戻すことを相当と認め、主
文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 小河八十次)
 (別 紙) 目  録
 一、金二百六十九万九千四百六円
   昭和二十九年四月一日以降昭和三十年三月三十一日までの食肉加工品売掛代
金未払債務額金九百四十四万七千円及びその債務不履行に基く約定損害金三十万円
の合算額金九百七十四万七千円から、弁済のあった合計金七百四万七千五百九十四
円を控除した残額で昭和三十二年6月十二日弁済期の到来したもの
 一、金五百四十五円
   本件申立予納郵券代  金二百八十五円
   本件申立日当     金二百三十円
   本件申立印紙代    金三十円

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