弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人田中節治の上告理由第一、第二、第三点について。
 商法第二六五条において、「取締役が……自己又は第三者の為に会社と取引を為
すには取締役会の承認を受くることを要す。」と定めた趣旨は、会社の利益を保護
するために、会社と取締役との利害の対立する行為について取締役会の承認を必要
ならしめ、取締役が会社の利益の犠牲において私利を営むことを防止しようとする
ものである。したがつて、会社と取締役との間の取引により会社が何等不利益を被
るおそれのない場合には、そ<要旨>の取引について取締役会の承認を必要としない
のである。更に、会社と取締役との利害が対立し、その取引につき取締役会
の承認を必要とする場合であつても、取締役がその取引により取得した権利を第三
者に対し行使し、これによつて会社が直接損害を被むるおそれのない場合には、そ
の第三者は右取引につき取締役会の承認のないことを理由としてその取引の無効を
主張することは許されないものと解するのを相当とする。例えば、第三者が会社を
受取人として振出した約束手形を、取締役が取締役会の承認なしに会社より裏書譲
渡を受けた場合、右取締役及び同人より更に裏書譲渡を受けた被裏書人及びその後
者は、会社に対し裏書人としての責任を追及することは商法第二六五条により許さ
れないところであるが、右取締役或はその後者が右約束手形の所持人として振出人
に対し約束手形金の支払を請求することは、会社に何等の不利益をも生ぜしめるも
のではないから、前示商法第二六五条の法意に照らし、振出人は同条違反を理由に
会社より取締役に対する裏書の無効を主張して、右約束手形金の支払を拒絶するこ
とはできないものといわねばならぬ。原判決の確定した事実によれば、被上告人
は、訴外会社に対する資金的援助をなす目的でその株主および取締役となり、昭和
三四年一一月一日、同会社に対し、金五〇〇万円を限度とし、手形を担保として融
資をなすことを約し、上告人は、融資の目的で本件手形を訴外会社に宛てて振り出
し、訴外会社は被上告人から、右契約に基づき、右手形の裏書譲渡と引換に、手形
金額より日歩一五銭の割合による割引料を控除した金員を受領して融通を受けたと
いうのである。そして、原判決は、右の場合に訴外会社と被上告人間の本件手形の
裏書譲渡が仮に商法第二六五条の取引に該当し、同条所定の承認がないために訴外
会社と被上告人との関係においては無効と解すべきものとしても、本件手形の振出
人たる上告人において被上告人に対し同条を援用して本件手形金の支払義務を免れ
ることは許されない旨判断しているのであつて、右判断は冒頭に説示したところに
照らし是認しうる。したがつて、原判決には、所論のような違法はなく、論旨はす
べて採用することができない。
 よつて、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条の規定に従い、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 浜田治 裁判官 竹村寿)

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