弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     訴訟費用は控訴上告審とも被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士斎藤敏之の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりであり、これ
に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 原判決の確定したところによると、本件農地における買収計画と売渡計画とは、
同じ日の昭和二十四年九月二日に公告され、その後十日の法定期間内にその何れに
対しても異議の申立がなく、ついで買収令書と売渡通知書とが、これまた同じ日の
昭和二十五年一月二十日に交付されたことになつている。
 してみると、本件の売渡計画は、それについての買収処分がまだなされていない
農地について樹てられたことになるが、しかしその農地は、同じ日に決定された買
収計画によつて、一応買収が予定されたものであることが肯かれる。
 原判決は、このような売渡計画は、買収処分がなされることを停止条件とするも
のであるから無効である。そして無効の売渡計画によつて進められた本件売渡処分
も、また無効であると判断しているのである。
 よつて、買収処分のまだされていない農地―しかし買収計画によつて既に買収を
予定されている農地についての売渡計画が、自作農創設特別措置法(以下自創法と
称する)上、果して無効かどうかについて考えてみる結論からいえば、当裁判所は
これを有効と解しているのである。
 由来自創法の定める売渡計画は、その後に続く異議手続を経て都道府県農地委員
会の承認、都道府県知事の売渡処分(売渡通知書の交付)という一連の段階的行為
の一環としてなされるものであつて売渡計画という行政行為は、畢竟、その後の行
為と結合して究極の行政目的たる売渡処分という特定の法律効果を発生せしめるた
めの先行行為たるに過ぎない。売渡計画によつて直ちに農地の所有権が変動するの
ではなく、その計画が確定して、売渡通知書が交付され、それによつて初めて所有
権の変動という特定の法律効果が生ずるのである。
 <要旨>故に、売渡処分という究極的行政処分をなすには、それまでに買収手続が
完了していることを要するが、その先行行為たるに過ぎない売渡計画の段階
においては、必ずしもこれを必須の要件となさず、既に買収計画によつて、買収予
定地とされたものであれば、これを売渡処分の対象として、これにつぎ売渡計画を
樹てたとしても、それがために行政の円滑な運営を妨げまたは利害関係人の法律上
の地位を不当に不安定ならしめることのない限り、これを無効とずべきいわれはな
い。しかもかかる売渡計画は、買収予定地の売渡計画として、その効力を、計画の
樹立と同時に即時発生するのであつて買収処分のなされることを条件として発生す
るのではない。原判決がこれを停止条件付行政行為なるが如くに判断したのは、畢
竟、農地の売渡計画は、その農地についての買収処分がなされてからでないと、有
効に樹てられたいものだという誤解から出たものと思料される。
 そこで、買収予定地を目的として樹てられた売渡計画が、果して行政の円滑な運
営を妨げまたは利害関係人の法律上の地位を不当に不安定ならしめるかどうかを考
えてみるに、元来、買収計画が、何等の変更なしにその定められた如くに確定した
場合は、その農地についての買収処分は、買収計画の定めに従い、その計画内容に
副うて行われるものであることは、自創法の定めるところであるから、その農地が
自創法のどういう規定によつて買収されるかということ、換言すれば買収の内容や
要件は、その計画樹立のときに既に具体的に特定しているのであり、従つて、その
買収計画に照応して樹てられた売渡計画においても、売渡の内容及び要件は、その
計画樹立のときに既に具体的に特定しているのである。
 故に売渡計画の適、不適は、買収処分の結果なまつまでもなく計画の樹立のとぎ
に何人にも判断し得るのであるから、もしその計画に異議あらば、異議申立をなし
得る者は(買収計画の決定があれば、その農地の売渡の相手方となる資格ある者
は、買受の申込をなすことができ、その申込をなした者は、売渡計画に対して異議
の申立ができる)売渡計画の公告のあつた日から十日の法定期間内に異議の申立を
するに支障はないのである。
 つまり、売渡計画に対する異議手続や、都道府県農地委員会の承認の手続の履践
等については、すでに買収処分のなされた場合と少しも異るところはないのであ
る。
 してみれば、たとえ買収がまだされていない農地であつても、それがすでに買収
計画によつて買収を予定されたものである以上これについて樹てられた売渡計画
は、少しも利害関係人の法律上の地位を脅かし、もしくはその権利を侵すことはな
いのである。まして、買収手続と売渡手続とを併行し、それを両々相伴つて進行せ
しめた上、時を同じうしてこれを完了せしめることにより、目的農地上の作物、小
作料、地租、地主に対する対価等の計算を単一化し、後日に紛議の余地を残さない
利益があるばかりでなく、「自作農を急速に創設」し「生産力の発展」と「農村に
おける民主的傾向の促進を図る」ことができ、自創法本来の行政目的を円滑迅速に
達成する効果がある、といえるのである。ただ、買収計画が、異議或は訴願によつ
て取消され、予定された買収処分がなされずに終つた場合は、売渡計画に基く売渡
処分も実現しないことになるが、これは、いわば、売渡計画が無駄になつたという
だけのことで、それがために、何人をも害することはない。
 本件売渡計画は、すなわち、かような趣旨の下に樹てられたものと解すべきであ
つて、しかもその結果についてこれを見れば、買収計画も売渡計画も、ともに法定
の期間内に異議の申立なくして確定しているのであり且つそれぞれの手続を経て買
収令書も売渡通知書もともに適法に交付されたのであるから、売渡処分のなされる
とぎには買収処分は既に完了していたものといわなければならない。
 してみれば、本件の土地は、買収令書の交付によつて一旦国に帰属するととも
に、売渡通知書の交付によつて時を移さず上告人に移転したものというべきであ
り、従つて、上告人は、完全にその所有権を取得したものといえるのであるから、
原審が上告人は本件土地の所有権を取得したものでないとして、その請求を認容し
た第一審判決を取消し上告人の請求を棄却したのは、関係法規の解釈を誤まつた違
法があるものというべく、上告論旨は結局において理由があるといわなければなら
ない。
 原判決は畢竟破毀を免れないのであるが、本件は既に判決をするに熟しているか
ら、当裁判所は直ちに判決することとし、民事訴訟法第四百八条第一号、第三百八
十四条第一項、第九十六条、第八十九条の規定に則つて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高木常七 裁判官 熊谷直之助 裁判官 宇野茂夫)

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