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主文
1原判決中,控訴人P1に関する部分を取り消す。
2控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えをいずれも却下
する。
3控訴人P2の本件控訴を棄却する。
4控訴人らの当審における追加的請求に係る訴えをいずれも却下する。
5控訴人P1と被控訴人との間の訴訟費用は,第1・2審とも控訴人P1
の負担とし,控訴人P2と被控訴人との間の当審における訴訟費用は,
控訴人P2の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2主位的請求
被控訴人が高石市立保育所設置条例の一部を改正する条例平成13年高「」(
石市条例第10号以下本件改正条例というの制定によってした高石。「」。),
市立P3保育所以下本件保育所というの廃止処分以下本件廃止処(「」。)(「
分」という)を取り消す。。
3予備的請求
(1)被控訴人が制定した本件改正条例が無効であることを確認する。
(2)被控訴人は控訴人らに対し本件改正条例に基づく一切の準備行為及び,,
本件保育所における保育の実施の解除処分をしてはならず,平成14年4月
1日以降も控訴人らの監護する別紙目録記載の児童(以下「本件各児童」と
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いう)につき,本件保育所において保育の実施をしなければならない。。
4当審追加的請求
被控訴人は,控訴人らに対し,各50万円及びこれに対する平成13年6月
21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
(1)高石市に居住し本件各児童の親権者である控訴人らはその監護する本,,
件各児童を本件保育所に入所させていたところ,被控訴人は,本件改正条例
により,高石市立保育所設置条例(昭和62年高石市条例第5号。以下「本
件条例というの一部を改正して本件保育所を廃止しその後当該保育所」。),
の運営を社会福祉法人に委託して民営化した。
本件は,本件改正条例による本件保育所の廃止は,平成9年法律第74号
による改正以下平成9年改正という後の児童福祉法24条により保(「」。)
障された,本件各児童を本件保育所に入所させ,本件保育所を意に反して転
園させられることがないという控訴人らの権利を合理的な理由もなく侵害す
るものであり,また手続上も,本件保育所の廃止が児童福祉法33条の4に
規定する「保育の実施の解除」に該当するのに,その手続をしていないから
違法であると主張して,控訴人らが,被控訴人に対し,主位的請求として,
本件改正条例の制定による本件保育所の廃止処分(本件廃止処分)の取消し
を,予備的請求として,①本件改正条例の無効確認,②無名抗告訴訟として
の本件改正条例に基づく準備行為及び本件保育所における保育の実施の解除
の禁止(予防的不作為訴訟)と本件保育所における保育の実施(義務付け訴
訟)を求めている事案である。
これに対し,被控訴人は,①平成9年改正によっても,入所児童の保護者
らに意に反して転園をさせられない権利が付与されたものということはでき
ないから,本件改正条例の制定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たら
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ず,既に本件保育所が廃止されていて事前救済の前提が存しないとして,控
訴人らの主位的請求及び予備的請求に係る訴えの適法性を争うとともに,②
本件改正条例の制定は,市議会に与えられた合理的な裁量に基づくものであ
り,また,本件のように,公立保育所から民営保育所への運営主体の変更が
あっても,引き続き保育を実施するという場合は,児童福祉法33条の4の
「保育の実施の解除」に当たらず,本件改正条例の制定は適法であると主張
して争った。
(2)原審は①平成9年改正後の児童福祉法24条は同改正前の市町村の措,,
置による保育所入所の仕組みから,市町村と保護者との間で,保護者が選択
した保育所における保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契
約)を締結する仕組みに変更したものであり,同改正の趣旨からすると,保
育に欠ける児童の保護者は,上記利用契約の存続期間中,当該保育所が存続
しているにもかかわらず,その意に反して他の保育所への転園を強要される
ことなく,当該保育所において保育を受ける権利を有するものと解するのが
相当であるところ,公の施設である本件保育所を廃止するか否かは,被控訴
(),人ないし被控訴人の長高石市長の広範な裁量に委ねられた事項であるが
本件保育所の廃止が被控訴人の有する裁量権の逸脱ないし濫用に当たる場合
には,その児童について本件保育所で保育を受ける控訴人らの権利を侵害す
るものとなり得るから,本件改正条例の制定は行政処分に当たり,控訴人ら
,,,の主位的請求に係る訴えは適法である②しかし本件改正条例の制定には
被控訴人の有する裁量権の逸脱ないし濫用は認められないから,その制定は
適法である,③予備的請求に係る訴えについては,控訴人らが本件改正条例
の制定を行政処分として,その取消しを求める行政訴訟を提起できる以上,
いずれも不適法であるなどと判断して,控訴人らの主位的請求をいずれも棄
却するとともに,予備的請求に係る訴えをいずれも却下した。
控訴人らは,原判決の取消しと自己の請求認容を求めて控訴し,当審にお
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いて,違法な本件改正条例の制定により,控訴人らが精神的苦痛を被ったと
して,国家賠償法1条1項に基づき,被控訴人に対し,慰謝料各50万円及
びこれに対する不法行為の日(本件改正条例の公布日)である平成13年6
月21日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める請求を追加した。
(3)当裁判所は控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えはいず,,
れも,当審係属中に児童のP4が就学したことから,訴えの利益を欠き,控
訴人P2の主位的請求は,原判決と同様に適法ではあるが,理由がなく,予
備的請求に係る訴えは不適法であり,控訴人らの当審追加的請求に係る訴え
は,被控訴人の同意がないから,不適法であるとそれぞれ判断するものであ
る。
2前提となる事実等(証拠を付記した以外の事実は争いがない。なお,下線部
分以外は,原判決の該当部分とほぼ同一である)。
(1)児童福祉法及び本件条例の定め等
ア児童福祉法の定め
(ア)平成9年改正前の児童福祉法24条は,市町村は,保護者の労働又
は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由によりその,
監護すべき乳児幼児又は39条2項に規定する児童の保育に欠けると,
ころがある場合において保護者から申込みがあったときはそれらの,,
児童を保育所に入所させて保育する措置を採らなければならない旨規定
していた。
(イ)児童福祉法は,昭和22年に制定されたものであるところ,近年の
少子化の進行夫婦共働き家庭の一般化家庭や地域の子育て機能の低,,
下児童虐待の増加など児童や家庭を取り巻く環境が大きく変化してい,
るのに対し児童家庭福祉制度は発足以来その基本的枠組みは変わ,,,
っておらず保育需要の多様化や児童をめぐる問題の複雑・多様化に,,
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適切に対応することが困難になっているなど制度と実態の齟齬が顕著,
になっていることを踏まえ児童の福祉を増進するため子育てしやす,,
い環境の整備を図るとともに次代を担う児童の健全な成長と自立を支,
援するため児童家庭福祉制度を再構築するとの趣旨で平成9年改正が,
。,,,行われたそしてこの改正の中で児童保育施策等の見直しとして
保育所について市町村の措置による入所の仕組みを保育所に関する,,
情報の提供に基づき保護者が保育所を選択する仕組みに改めることとさ
れた(乙5の2。)
(ウ)平成9年改正後の児童福祉法24条1項は,市町村は,保護者の労
,働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により
その監護すべき乳児幼児又は39条2項に規定する児童の保育に欠け,
るところがある場合において保護者から申込みがあったときはそれ,,
らの児童を保育所において保育しなければならない旨規定し同条2項,
は前項に規定する児童について保育所における保育を行うこと以下,(
「」。),(。保育の実施というを希望する保護者は厚生省現厚生労働省
以下同じ令の定めるところにより入所を希望する保育所その他同省),
令の定める事項を記載した申込書を市町村に提出しなければならない旨
規定し同条3項は市町村は一の保育所について当該保育所への,,,,
入所を希望する旨を記載した前項の申込書に係る児童のすべてが入所す
る場合には当該保育所における適切な保育の実施が困難となることその
他のやむを得ない事由がある場合においては当該保育所に入所する児,
童を公正な方法で選考することができる旨規定するさらに同条5項。,
は市町村は同条1項に規定する児童の保護者の保育所の選択及び保,,
,,育所の適正な運営の確保に資するため同省令の定めるところにより
その区域内における保育所の設置者設備及び運営の状況その他の同省,
令の定める事項に関し情報の提供を行わなければならない旨規定してい
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る。
(エ)また,保育の実施(平成9年改正後)を解除する場合においては,
,,,市町村長はあらかじめ当該保育の実施に係る児童の保護者に対し
当該保育の実施の解除の理由について説明するとともにその意見を聴,
かなければならない旨規定されている平成9年改正後の児童福祉法3(
3条の4なお同改正前においても措置の解除について同様の規。,,,
定がされていた。。)
(オ)児童福祉法35条3項は,市町村は,厚生省令の定めるところによ
りあらかじめ同省令で定める事項を都道府県知事に届け出て児童,,,
福祉施設を設置することができる旨規定している。
イ本件条例(平成6年高石市条例第7号による改正後のもの)の定め
本件条例1条は,被控訴人は,児童福祉法35条3項の規定に基づき,
高石市内に居住する児童を保護し,その健全な育成を図るため保育所を設
置する旨規定する。
そして,本件改正条例による改正前の本件条例2条は,保育所の名称及
,(「」。)び位置として以下の6か所の保育所以下市立保育所6園という
を掲げていた(甲1。)
高石市立P5保育所(高石市α××××番地)
高石市立P6保育所(高石市β×××番地の4)
高石市立P7保育所(高石市γ×××番地の1)
高石市立P8保育所(高石市δ×××番地の1)
高石市立P9保育所(高石市ε×××番地の1)
高石市立P3保育所(高石市ζ××番地の3(本件保育所))
ウ本件改正条例の定め
,,()本件改正条例は本件条例2条から高石市立P3保育所本件保育所
の項を削るというものであり,その附則において,本件改正条例は平成1
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4年4月1日から施行する旨規定されている。
エ高石市保育実施条例(昭和62年高石市条例第4号。平成9年12月1
。「」。)7日高石市条例第11号による改正後のもの以下実施条例という
の定め(甲2)
実施条例は,児童福祉法24条1項の規定に基づき保育の実施に関し必
要な事項を定めるものである1条実施条例2条は保育の実施基準に()。,
ついて規定しており,3条は,申込手続その他保育の実施に関し必要な事
項は,市長が別に定める旨規定している。
オ高石市保育実施条例施行規則(昭和62年高石市規則第13号。平成1
。「」0年3月31日高石市規則第14号による改正後のもの以下実施規則
という)の定め(甲3)。
実施条例の施行について必要な事項を定めるものとして,実施規則が制
定されている1条実施規則2条1項は保育所に児童の保育を委託し()。,
,,ようとするときは福祉事務所長の承諾を受けなければならない旨規定し
また同条2項は,福祉事務所長は,児童が保育上又は管理上適当でないと
,。,認めるときは入所の許可をしないことができる旨規定しているそして
同3条1項は,入所の承諾を受けようとする者(申込者)は,保育所入所
申込書を福祉事務所長に提出しなければならない旨規定し,4条は,福祉
事務所長は,入所の承諾又は不承諾を決定したときは,保育所入所承諾書
又は保育所入所不承諾書により申込者に通知するものとする旨規定してい
る。
また,同6条は,児童又はその保護者が,(ア)2条の規定に該当しなく
なった場合1号(イ)保護者が福祉事務所長が行う保育上の指示に従わ(),
ない場合2号(ウ)疾病その他の事由により他の児童に悪影響を及ぼす(),
恐れがある場合(3号,(エ)2条2項に該当するに至った場合(4号,))
(オ)その他福祉事務所長が適当でないと認めた場合(5号)の一に該当す
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る場合には,福祉事務所長は,一時その出席を停止し,又は退所させるこ
とができる旨規定している。そして,同7条は,福祉事務所長は,同6条
の規定により児童を退所させるときは,保育実施解除通知書により保護者
に通知するものとする旨規定している。
(2)本件各児童の本件保育所への入所
ア控訴人P1について
,,(。)控訴人P1は高石市に居住する者でありP4平成▲年▲月▲日生
の親権者である。
控訴人P1は,被控訴人から委任された高石市福祉事務所長から,平成
11年3月25日,P4について,実施期間を同年4月1日から平成17
年3月31日までとして,本件保育所への入所承諾の決定を受け,本件保
育所において,P4につき保育を受けていた。
イ控訴人P2について
控訴人P2は,高石市に居住する者であり,P10(平成▲年▲月▲日
生)及びP11(平成▲年▲月▲日生)の親権者である。。。
控訴人P2は,被控訴人から委任された高石市福祉事務所長から,P1
0については,平成12年3月27日,実施期間を同年4月1日から平成
,,,17年3月31日までとしてP11については平成13年3月23日
実施期間を同年4月1日から平成19年3月31日までとして,それぞれ
本件保育所への入所承諾の決定を受け,本件保育所において,P10及び
P11につき保育を受けていた。
(3)本件保育所の廃止(民営化)に至る経緯
(),,,ア被控訴人高石市行財政改革推進本部は平成10年2月財政運営
事務事業,組織体制などの行政全般にわたる見直しを行い,市民福祉の一
層の向上のため,市民のニーズに柔軟に対応できる行政サービス体制の確
保がより重要になっているとし,少子高齢化,国際化,高度情報化の進展
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など,社会経済情勢の変化と地方分権化のもと,新たな行政課題に対応す
るため,既存の行政を再点検し,限られた財源と人材を有効に活用し,最
小の経費で最大の効果が上げられるよう,簡素で効率的な行財政運営をめ
ざすためとして高石市行財政改革大綱以下改革大綱というを策,(「」。)
定した。同大綱においては,事務事業について,民間活力の活用をあげ,
多様化,高度化する市民ニーズに応えるため,民間のノウハウが十分に活
かせ,効果的,効率的に市民サービスの向上が図れるものについては,既
存の第3セクターの活用を図るとともに積極的に各種団体,企業など民間
活力の導入を検討するとされている(乙41。)
イ被控訴人は,地方税法改正等による大幅な税収減の影響により,被控訴
人の財政状況は他市町村に比べて急激に悪化し,極めて深刻な状況に直面
してきているとして,改革大綱をより実効のあるものとし,市民福祉の一
層の向上を図り,市民のニーズに柔軟に対応できる行政サービス体制を確
保するため,市民の目線に立って無駄を省き,行政のすべての分野におい
て総点検や見直しを行うためとして,平成12年8月,高石市行財政改革
実施計画を策定した。同実施計画は,平成12年度を初年度とする概ね5
年間の計画とするとされた。そして,同実施計画中,民間活力の活用の1
つとして,保育所のあり方について,育児と就労の両立支援,子育て家庭
への支援など,乳幼児の健全育成をめざすため,効率的,効果的な保育所
運営を図るとともに,多様化する保育需要に対応した保育施策を進めるた
,「」,め民間活力の導入を図るとし平成12年度及び平成13年度を検討
平成14年度を実施平成15年度及び平成16年度を継続とする「」,「」
計画を策定している(乙14。)
ウ被控訴人(高石市福祉事務所長)は,平成12年9月3日,高石市市民
会館において,保育所に児童を入所させている保護者を対象とする説明会
を開催し,同説明会において,被控訴人の公立保育所を民営化するとの発
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表をした(甲9。)
エ被控訴人(保険福祉部児童福祉課)は,平成12年10月11日,平成
13年5月8日及び同年6月4日に,それぞれ市立保育所6園の各父母の
会の役員との間で,話合いを行った。また,平成12年11月11日に,
高石市長と父母の会の役員との懇談会が行われた(甲97,103,乙4
3。)
オ市立保育所6園の父母の会は,高石市立保育所の民営化に反対する請願
書の署名を集め,平成12年12月7日,高石市議会に請願書を提出した
が,高石市議会は,同月18日,上記請願を不採択とした(甲1
0。)
カ被控訴人は,大阪市立大学助教授のP12(以下「P12委員長」とい
うを委員長としP12委員長を含めて6名の委員からなる高石市立保。),
育所移管に係る選考委員会以下本件選考委員会というを設け本(「」。),
件選考委員会において,市立保育所6園のうち民営化の対象保育所の選定
や,民営化後の保育所の運営主体の選定等の検討を行うこととされ,同委
員会は,平成13年2月6日,同年4月13日,同年6月28日,同年9
月10日及び同月15日の5回開催された(乙23の3ないし7,43。)
,,,キP13P14及びP15を請求代表者として平成13年5月13日
高石市長に対し,高石市立保育所の民営化の是非を問う住民投票条例の制
定請求がされた。高石市長はこれを高石市議会に付し,高石市議会は,同
月23日,同条例制定の議案を否決した(甲11。)
ク本件選考委員会は,平成13年5月25日,民営化する保育所の選定基
準として,①多様化する保育ニーズに応えるために必要な事業を踏まえる
,,,こと②待機児童解消のため受け入れ可能な一定規模の施設とすること
③一定の時期利用可能な耐用年数の施設であること,④既存の民間保育所
との立地関係(バランス)に配慮すること,⑤現状の保育所の入所状況を
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。,勘案することとの5点を付した意見書を高石市長に提出した被控訴人は
本件選考委員会の上記選定基準を踏まえた上で,市立保育所6園のうち民
営化する保育所として,本件保育所を選定した(甲67の2,乙43。)
ケ平成13年6月7日の新聞朝刊各紙において,被控訴人は,平成14年
度から本件保育所を民営化する方針であり,同月12日に開催される高石
市議会に本件条例の改正案を提案すると発表した旨の報道がされた(甲1
2。)
コ高石市長は,平成13年6月12日,高石市議会に対し,本件改正条例
制定の議案(以下「本件議案」という)を提出した(甲5。。)
高石市議会は,本件議案を建設厚生委員会に付託し,同月13日行われ
た同委員会において,本件議案の審議を行い,本件改正条例の制定を可決
した乙42そして同月15日行われた高石市議会本会議6月定例()。,(
会〈第2回)において,本件議案が審議され,可決された(乙44。〉)
高石市長は,同月21日,本件改正条例を公布した(甲6。)
サ被控訴人(保険福祉部児童福祉課)は,本件保育所の保護者会役員への
説明会を,平成13年6月20日,同年7月4日,同月17日,同月23
日及び同月30日にそれぞれ実施した。また,被控訴人は,本件保育所で
児童の保育を受けている保護者以下本件保育所保護者というに対(「」。)
する説明会を,平成13年6月23日,同月30日,同年10月12日,
同年11月28日及び平成14年1月23日にそれぞれ実施した(甲10
2,104,乙2ないし4,43。)
シ被控訴人は,平成13年8月15日から同月27日まで,本件保育所を
民営化した後の事業者の募集を行い,7法人がこれに応募した(乙23の
1・6・7,43。)
,,ス本件選考委員会のP12委員長と本件保育所の保護者会役員との間で
平成13年8月18日及び同年9月20日の2回にわたって,懇談会が開
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催された(乙22の1・2,43。)
セ本件選考委員会は本件保育所の民営化後の事業者の選定について法,,「
人選考の目安」を作成し,同目安に沿って応募のあった7法人の検討を行
った。その上で,本件選考委員会は,平成13年9月25日,高石市長に
対し社会福祉法人P16以下P16というが本件保育所を移管,(「」。)
する社会福祉法人として総合的に最も適切であるとの意見を報告した(甲
68,乙23の1・3・6・7,43。)
ソ被控訴人(高石市長)は,平成13年9月25日,本件保育所の民営化
後の事業者として,P16とすることに決定した。そして,同月26日,
高石市長の本件保育所保護者宛書面により,本件保育所の民営化後の事業
(,,)。者としてP16と決定した旨の通知がされた甲15乙23の243
タP16は,本件保育所保護者に対する説明会を,平成13年10月25
日,同年11月6日,同月21日,同年12月11日及び平成14年1月
18日の合計5回開催した(甲51,98,99,104,乙43。)
チ被控訴人(高石市福祉事務所長,高石市児童福祉課長)は,本件保育所
保護者に対し平成13年12月保育所入所変更申込書の提出について,,「
()」(「」。)。お願いと題する書面以下本件提出依頼書というを配布した
本件提出依頼書には,本件保育所が平成14年4月1日付けで廃止され,
同日付けでP16に経営主体を移して,新たにP17保育園として開設さ
れることになること,そのため,本件保育所における保育の実施期間は,
平成14年3月31日で終了することになること,そこで,本件保育所に
入所している0歳児から4歳児の保護者においては,同年4月1日以降,
P17保育園への入所を希望するか,他の保育所への転園を希望するかの
いずれかを選択する必要があり,同年1月25日までに,保育所変更申込
書を提出してほしいこと,同日までに変更申込書の提出がない場合には,
同年4月1日以降は待機となることが記載されていた(甲19。)
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ツ高石市長は,平成14年2月26日,大阪府知事に対し,廃止予定日を
同年3月31日として,本件保育所を廃止したいので届け出る旨の保育所
廃止届出書を提出した。同届出書には,現在入所している児童の廃止後の
受入計画について,同年4月1日より定員を120名から140名に拡充
し,P16の運営による保育所において受入れを行う,転園希望について
は,高石市内の他の保育所で保育を継続して受入れを行う旨記載されてお
り,また,廃止をする具体的理由として,本件改正条例によると記載され
ている(乙28。)
テ本件保育所は,平成14年4月1日廃止され,同日,P16を経営主体
とするP17保育園が開設された。
本件保育所で保育を受けていた平成13年度の0歳児から4歳児まで合
計85名については,49名がP17保育園に,35名が他の公立保育所
に,1名が他の民間保育園に,それぞれ転園した(乙43。)
(4)本件各児童の転園
ア控訴人P1について
控訴人P1は,本件提出依頼書に対し,平成14年1月25日,P4に
ついて,本件保育所での就学までの保育を承諾されて入所しているので,
本件保育所での保育を希望する,ただし,平成14年度に本件保育所が廃
止された場合には,保育を必要とするので,公立のP6保育所での保育を
希望するとの保育所変更申込書を提出した(乙25の3。)
P4は,平成14年4月1日以降,P6保育所に入所し,同保育所にお
いて保育を受けていたが,当審係属中の平成17年3月31日に本件保育
,(,)。所における保育の実施期間が経過し就学した甲63弁論の全趣旨
イ控訴人P2について
控訴人P2は,本件提出依頼書に対し,平成14年1月24日,P10
及びP11について,平成14年度以降も本件保育所が存続する場合は,
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本件保育所での保育を第1希望とする,ただし,平成14年度に本件保育
所が廃止・民営化された場合には,やむを得ず,公立のP6保育所(希望
順位1)ないしP9保育所(希望順位2)での保育を希望するとの保育所
変更申込書を提出した(乙25の1・2。)
P10及びP11は,平成14年4月1日以降,P6保育所に入所し,
同保育所において保育を受けていたが,P10については,当審係属中の
平成17年3月31日に本件保育所における保育の実施期間が経過し,就
学した(甲62,弁論の全趣旨。)
3争点及び争点についての当事者の主張は,後記のとおり,当審における当事
者の補充主張及び当審追加的請求に関する当事者の主張を付加するほかは,原
判決の各該当箇所(原判決13頁22行目から42頁13行目まで)に記載の
とおりであるから,これを引用する(ただし,原判決15頁4行目の「保障す
るいうを保障するという36頁25行目の保育所を保育士と改」「」,「」「」
める。なお,略称は,原判決の例による。。)
4当審における当事者の補充主張
(1)控訴人らの補充主張
ア本件保育所廃止についての被控訴人の裁量権について
以下に述べるとおり,本件保育所の廃止は,被控訴人の広範な裁量権に
委ねられているものではなく,違法である。
(ア)市町村は児童福祉法24条により保育に欠ける児童を保育所,,「」
で保育しなければならない義務を負っており,その義務に基づいて設置
されているのが,地方自治法上の「公の施設」たる公立保育所である。
したがって,これを広範な裁量により廃止できるとすることは,児童福
祉法により市町村に義務づけられた保育の実施義務に反する。
(イ)公の施設を設置するかどうかについては,地方公共団体ないしその
長の広範な裁量に委ねられているとしても,一旦設置されると,様々な
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利用関係が生じ,これを廃止すると,それまで利用してきた住民に不利
益が生じるのであるから,廃止には,自ずから内在的な限界があり,広
範な裁量に委ねられているとはいえない。
(ウ)公物法の一般理論において,公物の利用が一般使用であっても,管
理者である市町村は,それを公の目的に適するように維持保存すべき義
務があるものであるから,自由に公用を廃止し得うべきものではなく,
公の目的に使用すべき必要の失われた場合にのみこれができるのである
が,本件の場合は,現に本件保育所に入所して,これを利用している控
,。訴人らが存在するのであるからこれを自由に廃止することはできない
(エ)本件保育所の利用関係は,控訴人らと被控訴人との間の一種の行政
契約であるが,行政契約においても,当事者双方はその契約に拘束され
るのが一般原則であり,その契約を当事者の一方である被控訴人におい
て,その有する広範な裁量により自由に破棄することはできない。
(オ)本件各児童が就学前までの期間中,本件保育所で保育を受ける権利
は,平成9年改正後の児童福祉法24条に根拠を持つ具体的権利として
存在しているものであり,仮にそうでなくても,控訴人らは,本件保育
所で保育の実施を受けており,保育の安定性や継続性からして,その利
益は法的保護に値するものであるから,条例とはいえ,これを制限する
のは違法である。
(カ)地方自治法上の「公の施設」に関する規定は,児童福祉法との関係
では一般法に当たり,控訴人らが児童福祉法上どのような権利を有する
,「」,かどうかは地方自治法の公の施設に関する規定を適用する以前に
まず児童福祉法自体の解釈として判断されなければならず,児童福祉法
上認められた控訴人らの権利が地方自治法の規定を根拠に制限されるい
われはない。
(キ)児童福祉法上,入所者がいる場合でも保育所が廃止される場合があ
-16-
ることが予定されている(同法施行規則38条1項2号)としても,そ
れは保育所選択権を侵害せず,入所者の福祉が害されない場合の廃止が
あり得ることを認めたにすぎず,市町村の広範な裁量によって自由に廃
止できることを定めたものではあり得ない。
(ク)本件保育所の廃止について,被控訴人に一定の裁量権を認めるとし
ても,差し迫った必要性もないのに,現に入所している児童にまで転園
を強いる本件条例の制定は,必要性・合理性を欠き,裁量権を逸脱して
いる。
イ手続上の違法について
本件改正条例の制定は,次のとおり,手続上からも違法である。
(ア)平成9年改正後の児童福祉法の趣旨によれば,本件保育所が廃止さ
れた場合,控訴人ら保護者の希望がない限りは,市町村の一方的な判断
で,他の保育所に転園させることはできず,待機児童として取り扱わざ
るを得ないのであるから,本件保育所を廃止することが児童福祉法33
条の4の「保育の実施の解除」に当たることは明らかであるところ,本
件においては,その場合に執られるべき手続が全く執られていない。
(イ)仮に,本件保育所の廃止が「保育の実施の解除」に当たらないとし
ても,控訴人らに対する不利益処分に当たるから,行政手続法第3章の
適用,児童福祉法33条の4の類推適用若しくは憲法31条の適正手続
保障の観点から,控訴人らに対し,保育の実施の解除に準じた手続保障
,,。が図られるべきであるが本件においてはその手続が執られていない
(2)被控訴人の補充主張(本件訴えの適法性について)
以下に述べるとおり,本件改正条例の制定は,抗告訴訟の対象となる行政
処分に当たらないから,本件訴えは不適法である。
ア児童福祉法上の「保育所選択権」は,市町村が保育所を設置していると
いう前提において,特定の保育所に児童を入所させるに当たって行使する
-17-
ことができるものにすぎないと解するべきであるから,特定の保育所にお
いて同一の保育環境の下で継続して保育を受けるというような保育環境上
の利益は,当該保育所が同一の環境で設置されていることに伴って生じる
事実上の利益にすぎず,これをもって法律上保護されるべき利益に当たる
ということはできない。
イ本件においては,単に保育所を廃止するものではなく,当該施設を民間
に貸与し,同所において引き続き保育を行うことを前提としているから,
引き続き保育の実施を受けることができ,保護者に法律上の不利益を与え
るものではない。
ウ保育所選択権の内容について,利用契約の存続期間中,当該保育所が存
続しているにもかかわらず,その意に反して他の保育所への転園を強要さ
れることなく,当該保育所において保育を受ける権利であると理解したと
しても,本件保育所を廃止することは,当該保育所が存続することを前提
に認められる保育所選択権を何ら制約するものではないから,保護者に対
し,法律上の不利益を与えるものではない。
5当審追加的請求に関する当事者の主張
(1)控訴人らの主張
ア本件廃止処分は,従前の行政訴訟における控訴人らの主張のとおり,児
童福祉法に定める保育所選択権の侵害,同法上の説明義務違反,控訴人ら
との合意違反等の違法な処分であり,これは被控訴人の故意又は過失によ
る違法な公権力の行使に当たる。
よって,被控訴人は,国家賠償法1条1項に基づき,本件廃止処分によ
り控訴人らが被った損害を賠償する責任がある。
イ控訴人らは,本件廃止処分により,転園を余儀なくされ,多大の精神的
苦痛を被ったが,これを慰謝するに足りる慰謝料額は少なくとも各50万
円を下らない。
-18-
ウ控訴人らは,行政事件訴訟法19条に基づき,上記訴えを追加的に請求
する。
(2)被控訴人の主張
,,ア本件廃止処分が違法な処分であること違法な公権力の行使があること
被控訴人に故意又は過失があることはいずれも争い,控訴人らが本件廃止
処分によって精神的苦痛を受けたことは否認する。
イ本件においては,取消訴訟が既に高等裁判所に係属しているのであるか
ら,訴えの追加的変更の要件としては,行政事件訴訟法19条1項,16
条2項により,被控訴人の同意が必要であるところ,被控訴人は,上記追
加的変更に同意しないから,上記追加的請求に係る訴えは不適法である。
第3当裁判所の判断
1控訴人P1の本件各訴えについて
前提となる事実等(4)に記載したとおり控訴人P1の児童P4は既に本件,,
保育所における保育の実施期間が経過し,就学しているというのであるから,
本件廃止処分が取り消されたとしても,もはや本件保育所において保育を受け
る余地はなく,控訴人P1には,主位的請求である本件廃止処分の取消訴訟に
つき訴えの利益がないことは明らかである。そして,予備的請求についても,
同様の理由により,訴えの利益を欠くものである。
したがって,控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えは,その余
の点について判断するまでもなく,いずれも不適法である。なお,この点は職
権調査事項であるから,民訴法304条の制約を受けない。
2控訴人P2の本件各訴えの適法性(本案前の争点(争点(1))について)
(1)本件廃止処分の取消請求(主位的請求)について
ア控訴人P2は,本件改正条例の制定をもって,控訴人P2の権利を侵害
(),。する行政処分本件廃止処分に当たるとしてその取消しを求めている
条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性
-19-
質を有するものであり,原則として,個人の具体的権利義務に直接の効果
を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないも
のと解される。しかしながら,他に行政庁の具体的処分を経ることなく,
当該条例自体によって,その適用を受ける特定の個人の具体的な権利義務
に直接影響を及ぼすような例外的な場合には,当該条例の制定行為自体を
もって処分とみる余地が存するものと解するのが相当である。
したがって,まず,本件改正条例の制定が上記例外的な場合に当たるか
否か,以下検討する。
イ(ア)本件に関する児童福祉法の規定内容は前提となる事実等(1)ア記載,
のとおりである。
(イ)控訴人P2は,保育に欠ける児童に対する保育について規定する児
童福祉法24条は,平成9年改正前の市町村の措置による入所の仕組み
から,同改正により,保育所に関する情報の提供に基づき保護者が保育
所を選択し,市町村と保護者との間で,保護者が選択した保育所におけ
る保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契約)を締結す
る仕組みに変更された旨主張している。
なるほど,以下のような平成9年改正に関する厚生省の担当者の発言
内容や資料等からすれば,そのように解釈する余地も全くないわけでは
ない。
a平成9年3月17日の全国児童福祉主管課長会議(以下「主管課長
会議というにおいて厚生省のP18保育課長は平成9年改正」。),,
により,保護者と市町村の関係は,児童福祉法に基づく,公法上の契
約になるのではないかと考えている,保護者が希望する保育所での保
育を市町村に申し込んだ場合,市町村の側では,保育に欠けているか
否かの事実確認をした上で,保育サービスを保育所において提供する
ことを法律上,原則として,応諾する義務が課されている旨の発言を
-20-
している(甲56。)
b平成9年6月23日の主管課長会議において,上記課長は,保護者
と市町村との関係は,行政処分の関係から,公法上の利用契約へと変
わる,保護者の申請ということが法律上明記されたことから,むしろ
利用者の立場が強まったと考えられるが,満員になった場合の選考を
含め,これは行政処分ではない旨の発言をしている(甲55。)
c平成9年9月19日の主管課長会議において,厚生省のP19保育
課長補佐は,平成9年改正で市町村と保護者の関係が公法上の契約と
いう形になったが,入所手続上においては,保護者からの申込みに対
して,市町村が承諾書を交付するということで,基本的に公法上の契
()。約というものが成立すると考えている旨の発言をしている甲57
d厚生省児童家庭局が監修し,平成9年9月に作成されたパンフレッ
(),,ト児童福祉法改正のポイントにおいて保育施策の見直しとして
これまでの行政処分による入所の仕組みから利用者の申込みによる市
町村と保護者との利用契約を締結する仕組みに改められることになっ
た旨の記載がされている(乙5の4。)
e児童福祉法規研究会編による「最新児童福祉法・母子及び寡婦福祉
法・母子保健法の解説」において,平成9年改正について,利用者の
立場に立った良質かつ多様な保育サービスが弾力的に提供される制度
的な枠組みを整備するため,措置(行政処分)による入所方式から,
保護者が各保育所に関する十分な情報を得た上で,入所を希望する保
育所を選択して,申込みに基づき市町村と保護者が利用契約を締結す
る仕組みに見直したものである旨の記載がされている(甲7。)
(ウ)しかしながら,児童福祉法24条の平成9年改正内容は,上記のと
おり,①保護者からの「申込み」を入所の要件とし,②「保育する措置
を採らなければならない」という文言を「保育しなければならない」。。
-21-
に変更しただけにすぎず,①については,行政処分の前提として申請を
要件としているものはほかにも多数存在するし②については単に措,,「
置」という文言を削除しただけであり,実質的には何の変更もされてい
ない(したがって,平成9年改正後も,市町村長は,申込みがされた児
童について,保育所入所要件該当性の判断・審査と児童福祉法24条3
項の選考をその権限と責任において行わなければならないのであるか
ら,このような入所決定を当事者の自由意思に基づく合意と見ることは
困難である。また,厚生省は,保育所入所不承諾決定及び保育の実施。)
の解除決定は,行政不服申立ての対象となる「行政庁の処分」であると
()。,の見解を示している平成9年9月25日児童家庭局長通知さらに
契約であれば,保育料は契約の対価であるはずであるが,改正後も児童
福祉法56条3項は「徴収する」という行政処分的な用語を用いている
し,厚生省が平成9年改正の国会審議のために作成した資料や答弁(乙
5の2・3)においては「保護者が希望する保育所を選択できる仕組みに,
改める旨記載されているだけで市町村と保護者が保育所利用に関す。」,
る公法上の契約を締結するとは明記されていない。
以上からすれば,上記の主管課長会議における厚生省担当官の発言や
「」,最新児童福祉法・母子及び寡婦福祉法・母子保健法の解説の記載は
一種の比喩的表現であるというべきであり,これらのみから,平成9年
改正により,保育所の入所方式が行政処分から公法上の契約締結へとい
う重大な変更がされたとまで認めることは困難であって,平成9年改正
,,,後の児童福祉法の下においても依然として保護者の申込みを前提に
市町村長が行政処分により入所を認める制度であると解さざるを得ない
というべきである(ちなみに,控訴人らが書証として提出している意見
書の作成者であるP20P21大学教授やP22北海道大学教授も上記
と同旨の意見を表明している〈甲20,127。〉。)
-22-
(エ)もっとも,保育所への入所方式が行政処分であるからといって,本
件改正条例の制定により,保育所入所児童の保護者の権利ないし法的利
益が全く侵害されないと即断できないのはいうまでもない。
そして,児童の福祉を増進するため,子育てしやすい環境の整備を図
るとともに,次代を担う児童の健全な成長と自立を支援するため,児童
,,家庭福祉制度を再構築するという平成9年改正の趣旨保育所について
市町村の措置による入所の仕組みを,保育所に関する情報の提供に基づ
き保護者が保育所を選択する仕組みに改めるという同改正の内容からす
れば,これにより,保護者に保育所の選択権が認められたとまではいえ
ないにしても,平成9年改正後の児童福祉法は,保護者が自ら選択した
特定の保育所において保育を受ける立場を市町村も極力尊重すべきもの
としていることは明らかである上,特定の保育所において現に保育中で
あり,当該保育所と具体的利用関係が生じている保護者の場合は,それ
自体,当該保育所に強い利害関係を有しているのであるから,なおさら
その地位が尊重されなければならないのは当然である。
そうすると,現に保育に欠ける児童が特定の保育所で保育を受けてい
る保護者は原則として当該児童の就学までの期間この点証拠甲,,(,〈
57〉によれば,平成9年9月19日の主管課長会議における質疑応答
の際,厚生省の担当者において,入所期間については,応募者の希望に
沿った形で設定する必要があり,市町村の方で一方的に相手の意向を無
視して1年なりの入所期間を独断で決めることは,平成9年改正の趣旨
からいっても許されないと考えている旨の回答がされている,当該保。)
育所において,保育を受ける権利ないし法的利益を有すると解される。
(オ)被控訴人から委任された高石市福祉事務所長の控訴人P2に対す
る,P10及びP11の本件保育所への入所承諾の内容は,前提となる
事実等(2)記載のとおりであるこれによれば控訴人P2は被控訴人。,,
-23-
との間で,P11について,平成13年4月1日から平成19年3月3
1日までの間,本件保育所において保育を受ける権利ないし法的利益を
有するものと解するのが相当である(実施条例2条に規定する保育の実
施基準を満たさなくなった場合等,実施規則6条の規定に該当するに至
った場合はもとより別論である。なお,控訴人P2の児童のうち,P。)
10については,平成12年4月1日から平成17年3月31日までの
間,本件保育所への入所承諾を受けているが,既に同期間が経過し,就
学しているから,P10については,控訴人P2は,上記の権利ないし
法的利益を有しない。
ウ以上からすると,控訴人P2は,P11については,本件改正条例の制
定による本件保育所の廃止により,直接,上記の権利ないし法的利益を侵
害されることになるから,本件改正条例の制定は控訴人P2との関係では
抗告訴訟の対象である処分と解するのが相当である。
エ(ア)この点,被控訴人は,控訴人ら保護者の権利義務ないし法的地位に
直接具体的な影響を及ぼす行為は,本件改正条例制定後における大阪府
知事への届出(児童福祉法35条6項)及び入所者(保護者)への廃止
通知(甲19)というべきであって,本件改正条例そのものの効力を抗
告訴訟によって争うことはできない旨主張する。
(イ)まず,大阪府知事への届出について検討するに,児童福祉法35条
6項は,市町村は,児童福祉施設を廃止し,又は休止しようとするとき
は,その廃止又は休止の日の1か月前までに,厚生労働省令で定める事
項を都道府県知事に届け出なければならない旨規定している。
しかしながらこの市町村から都道府県知事に対する児童福祉施設保,(
育所も含まれるの廃止の届出は市町村において既に決定した児童福。),
祉施設の廃止について,①廃止の理由,②入所させている者の処置,③
廃止の期日及び財産の処分について届出を行い,この届出を受けた都道
-24-
府県知事において,市町村に対して必要な指導を行う趣旨によるものと
解される児童福祉法施行規則38条したがってこの廃止の届出を()。,
もって,当該児童福祉施設の利用者の権利義務ないし法的地位に直接具
体的な影響を及ぼすものと解することはできない。
本件においても前提となる事実等(3)ツ記載の大阪府知事に対する,,
本件保育所の廃止の届出をもって,控訴人らが被控訴人との間で締結し
た利用契約に基づいて有する,本件各児童について本件保育所で保育を
受ける権利に具体的な変動を及ぼす行政処分に当たるものと解すること
はできない。
(ウ)次に,被控訴人は,入所者(保護者)への廃止通知(甲19)をも
って,控訴人ら保護者の権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を
及ぼす行為に当たる旨主張する。
しかしながら,被控訴人がいう上記入所者(保護者)への廃止通知の
内容は前提となる事実等(3)チ記載のとおりであるところこれは同,,,
記載のとおり,被控訴人(高石市福祉事務所長,高石市児童福祉課長)
において本件保育所保護者に対し平成13年12月保育所入所変,,,「
更申込書の提出についてお願いと題する書面本件提出依頼書を()」()
配布したものであり,本件提出依頼書には,本件保育所が平成14年4
月1日付けで廃止され,同日付けでP16に経営主体を移して,新たに
P17保育園として開設されることになること,そのため,本件保育所
における保育の実施期間は,平成14年3月31日で終了することにな
ること,そこで,本件保育所に入所している0歳児から4歳児の保護者
においては,同年4月1日以降,P17保育園への入所を希望するか,
他の保育所への転園を希望するかのいずれかを選択する必要があり,同
年1月25日までに,保育所変更申込書を提出してほしいこと,同日ま
でに変更申込書の提出がない場合には,同年4月1日以降は待機となる
-25-
ことが記載されていたものである。
上記のような本件提出依頼書の記載内容にかんがみれば,本件提出依
頼書の配布をもって,控訴人ら本件保育所保護者の権利義務ないし法的
地位に直接具体的な影響を及ぼす行政処分に当たるものと解することは
できないものといわざるを得ない。
(エ)以上から,被控訴人がいうところの,大阪府知事への届出(児童福
祉法35条6項)ないし入所者(保護者)への廃止通知(甲19)をも
って,控訴人らの権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼす
行政処分に当たるものと解することはできない。
オまた,被控訴人は,特定の保育所において同一の保育環境の下で継続し
て保育を受けるというような保育環境上の利益は,当該保育所が同一の環
境で設置されていることに伴って生じる事実上の利益にすぎず,これをも
って法律上保護されるべき利益に当たるということはできないなどと主張
している。
しかしながら,前記で判示したとおり,少なくとも平成9年改正後の児
童福祉法は,保護者が自ら選択した特定の保育所において保育を受ける立
場を市町村も極力尊重すべきものとしていること,特定の保育所において
現に保育中であり,当該保育所と具体的利用関係が生じている保護者の場
,,,合はそれ自体当該保育所に強い利害関係を有していることからすれば
このような保護者の利益を単に事実上の利益と考えるのは相当ではないも
のというべきであり,被控訴人の上記主張も採用できない。
(2)本件改正条例の無効確認請求(予備的請求(1))及び予防的不作為訴訟等
(予備的請求(2))について
控訴人P2は,本件改正条例の施行前に本件訴訟を提起し,本件改正条例
の施行日前に取消訴訟を提起して本件改正条例の効力を争うことができない
場合を念頭において,予備的請求として,本件改正条例の無効確認請求(予
-26-
)()。備的請求(1)及び予防的不作為訴訟等予備的請求(2)をも提起している
しかしながら,本件改正条例の制定を行政処分(本件廃止処分)として,
その取消しを求める取消訴訟を提起することができるものと解すべきことは
(1)記載のとおりであるから控訴人P2においてこれとは別に本件改正,,,
条例の無効確認を求める訴えの利益は存しないものといわなければならな
い。また,同様に,上記取消訴訟を提起できるものと解する以上,これとは
別に無名抗告訴訟として控訴人P2の予備的請求(2)に係る予防的不作為,,
訴訟等を提起することも許されないものと解するのが相当である(義務付け
訴訟については,平成16年法律第84号による改正後の行政事件訴訟法3
7条の2第1項の要件を欠く。。)
したがって,控訴人P2の予備的請求に係る訴えは,いずれも不適法なも
のとして,却下を免れない。
3本件改正条例の制定の適法性(争点(2))について
(1)本件改正条例の裁量性
ア本件保育所は,本件条例に基づき,高石市内に居住する児童を保護し,
その健全な育成を図るために地方公共団体たる被控訴人が設置するもので
あり(前提となる事実等(1)イ,地方自治法244条1項にいう,住民の)
福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(公の施設)に
当たるものと解される。
この点,地方自治法244条の2第1項は,地方公共団体は,法律又は
これに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,公の施設の設置及
,,びその管理に関する事項は条例でこれを定めなければならない旨規定し
また,第2項は,地方公共団体は,条例で定める重要な公の施設のうち条
例で定める特に重要なものについて,これを廃止する場合には,議会にお
いて出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければならない旨規定して
いる。さらに,同法149条7号は,公の施設を設置し,管理し,及び廃
-27-
止することを,地方公共団体の長の担任事務の1つとしている。
そうすると,地方公共団体ないしその長は,当該地方公共団体が現に行
い,あるいはこれから行おうとする様々な施策の内容や,当該地方公共団
体の置かれた財政状況,その他当該地方公共団体を取り巻く様々な要因を
総合的に勘案し,公の施設を設置し,管理し,あるいは廃止することがで
,,,きるものと解すべきであって公の施設の設置管理及び廃止については
地方公共団体ないしその長の相当広範な裁量に委ねられていると解するの
が相当である。
イしかしながら,他方,ひとくちに公の施設と言っても,その種類や設置
目的は多様であり,すべての公の施設の設置・管理・廃止について一律に
裁量権の範囲が決まっているものではなく,本件保育所のような施設の場
合は,児童福祉法の規定やその趣旨から地方公共団体ないしその長の裁量
権にも一定の制約があることは否定できない。
そして,児童福祉法が,すべて国民は,児童が心身ともに健やかに生ま
れ且つ育成されるよう努めなければならない1条1項すべて児童,,(),
,,(),はひとしくその生活を保障され愛護されなければならない同条2項
国及び地方公共団体は,児童の保護者とともに,児童を心身ともに健やか
に育成する責任を負う2条前2条に規定するところは児童の福祉を(),,
保障するための原理であり,この原理は,すべて児童に関する法令の施行
にあたって,常に尊重されなければならない(3条)と原則を規定し,保
育に関しては前記のとおり24条1項において市町村は保護者の,,,「,
労働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により,
その監護すべき乳児,幼児又は39条2項に規定する児童の保育に欠ける
ところがある場合において,保護者から申込みがあったときは,それらの
児童を保育所において保育しなければならない」と規定している。。
以上の児童福祉法の規定や趣旨からすると,保育所の廃止が,特定の児
-28-
童ないし保護者に著しく過重な負担を課し,保育所において保育を受ける
ことを事実上不可能にするなどの場合は,その廃止処分は,原則として上
記の裁量権の範囲を逸脱しているものといわなければならない。
,,,,ウこれに対し控訴人P2は平成9年改正により保育所の利用関係は
希望する保育所についての公法上の契約となったのであるから,同利用契
約の存続期間中,その意に反して他の保育所への転園を強要されることな
く,当該保育所において保育を受ける権利を有し,差し迫った必要性もな
いのに,現に入所している児童にまで転園を強いる本件条例の制定は,必
要性・合理性を欠き,裁量権を逸脱している旨主張している。
なるほど,前記のとおり,現に保育に欠ける児童が特定の保育所で保育
を受けている保護者は,原則として,当該児童の就学までの期間,当該保
育所において,保育を受ける権利ないし法的利益を有するものであるが,
前記で判示したとおり,平成9年の児童福祉法改正により,保育所の利用
関係が公法上の契約になったとまでは解されないし,同法24条1項も市
町村に「保育所」において保育しなければならない旨規定しているにとど
まり保護者が選択した特定の保育所における保育の義務まで規定して,「」
いないことなどからすると,上記の権利ないし法的利益が,公の施設の廃
止に関する地方公共団体ないしその長の裁量権に当然に優先するとまでは
認められない。したがって,現に児童が入所している状態で保育所を廃止
することが原則として,前記の市町村ないしその長の裁量権を逸脱すると
まではいえないと解するのが相当である。児童福祉法35条6項及び同法
施行規則38条1項2号は,保育所等の児童福祉施設が入所者がいる時点
でも廃止される場合があることを前提とする廃止手続を定めているが,こ
れも上記解釈を裏付けるものである。
(2)実質的違法性の検討
ア前記前提となる事実等及び証拠甲19314767の273の(,,,,
-29-
,,,,,,,,,,,1・2乙813151720の12831334243
47の1ないし3,原審証人P23)によれば,以下の事実が認められる。
(ア)本件保育所廃止の目的
a本件保育所の廃止民営化に至る経緯は前提となる事実等(3)記(),
載のとおりであり,被控訴人が設置する市立保育所についてこれを民
営化しようとの動きは,平成10年2月に策定された高石市行財政改
革大綱により民間活力の導入の提言がされたのを踏まえ,被控訴人の
財政状況が急激に悪化し,極めて深刻な状況に直面する中で,同大綱
をより実効のあるものとするとして平成12年8月に策定された高石
市行財政改革実施計画において,保育所における民間活力の導入が計
画され,平成14年度にこれを実施するとされたことによる。
,()bまた被控訴人における平成13年度の職員定員管理計画乙15
,,,は定員管理のあり方として組織活動を能率的に遂行すると同時に
その活動に要する人員を適正に配置し,被控訴人の大幅な税収入の落
ち込みから危機的な状況にある財政に対して,財政的負担の軽減をよ
り一層推し進める必要があるとし,適正化の手法として,自主的,主
体的に効率的かつ効果的な定員管理の適正化を推進するため,①退職
に伴う自然減,②組織機構の簡素合理化,③再任用制度の活用,④施
設の民営化,⑤事務の民間委託,⑥事務事業の見直し,⑦機械化,⑧
早期退職の特例措置について方策を講じるものとするとしている。そ
して,同計画は,このうち,④の一環として,類似団体との比較にお
いては,民生部門の超過が顕著であり,今後保育士の定年退職者の動
向を見ながら,保育所の民営化により,適正な定員規模の実現化に努
めることとするとしている。
なお,職員定員について,平成13年4月1日現在の定数677名
を平成16年4月1日現在で93名(13.2%)削減し,610名
-30-
を目標とするとされている。
cなお,被控訴人の財政状況の悪化については,P24労働組合及び
社団法人P25からなるP26が平成13年4月28日に発行した
「さしせまる土建型財政危機をいかに打開するか-高石市財政の現状
と再建の課題-」と題する報告書(甲31)においても,被控訴人の
財政収支の動きについて,実質単年度収支(当該年度の実質収支〈形
式収支から翌年度に繰り越すべき財源を差し引いたもの〉から前年度
,,,の実質収支を差し引いた単年度収支に積立金繰上償還金を加算し
),,そこから積立金取崩し額を差し引いたものでみた場合その収支は
平成5年度以降は毎年赤字であり,しかも傾向的に増大を示している
とされている。
dこれらからすると,被控訴人による,市立保育所を廃止・民営化す
るとの方策は,悪化する財政状況を踏まえ,既存の行政を再点検し,
限られた財源と人材を有効に活用し,最小の経費で最大の効果が上げ
られるよう,簡素で効率的な行財政運営をめざすとの観点から採られ
た施策の1つということができる。
(イ)本件保育所廃止による財政効果
a高石市における公立保育所と民間保育所との児童1人当たりの運営
経費(歳出総額を月平均人数で除した額)の比較は下表のとおりであ
りなお平成7年度ないし平成11年度は千円単位の概算公立保(,),
育所における運営経費が民間保育所における運営経費の約2倍となっ
ていることが認められる。
公立保育所民間保育所
平成7年度2,175,000909,000
平成8年度2,232,000946,000
平成9年度2,234,000976,000
平成10年度2,080,0001,004,000
-31-
平成11年度2,072,0001,031,000
平成12年度2,014,5321,045,718
(円)
b上記のように公立保育所における運営経費が民間保育所における運
営経費の約2倍となっている理由として,保育士の配置数が児童福祉
施設最低基準を上回る基準による配置をしている公立保育所と,上記
最低基準に沿った配置をしている民間保育所とで下表(児童数:保育
士数)のとおり違いがあることと,保育士の平均年齢が公立保育所の
方が民間保育所よりも高いことによる人件費の差に基づくところが大
きい。
公立保育所民間保育所
0歳児3:13:1
1歳児4:16:1
2歳児6:16:1
3歳児18:120:1
4・5歳児28:130:1
c本件改正条例制定時,保育所にかかる超過負担金は,年間で約8億
2000万円にのぼっていた。
dなお,本件保育所の廃止・民営化がされる前の被控訴人の平成13
年度決算と,同廃止・民営化がされた後の被控訴人の平成14年度決
算とを比較すると,以下のとおりとなっている。
(a)保育所の運営に要する経費
公立保育所民間保育所全体
平成13年度1,231,950,254268,227,2501,500,177,504
平成14年度1,061,856,348382,554,4801,444,410,828
差170,093,906114,327,23055,766,676▲△▲
(円)
-32-
(b)歳入
公立保育所民間保育所全体
平成13年度398,333,465179,987,173578,320,638
平成14年度348,254,156256,875,149605,129,305
差50,079,30976,887,97626,808,667▲△△
(円)
(c)差引額((a)-(b)の額)
公立保育所民間保育所全体
平成13年度833,616,78988,240,077921,856,866
平成14年度713,602,192125,679,331839,281,523
差120,014,59737,439,25482,575,343▲△▲
(円)
(d)超過負担金の額((c)の差引額の一部を構成)
公立保育所民間保育所全体
平成13年度764,783,82751,931,839816,715,666
平成14年度652,816,22771,285,911724,102,138
差111,967,60019,354,07292,613,528▲△▲
(円)
以上によると,本件保育所が廃止・民営化された後の平成14年度
決算においては,同廃止・民営化前の平成13年度決算に比して,8
000万円余の財政効果が生じている。
もっとも,この点,控訴人P2が指摘するように,歳入の増加の中
には,本件保育所の廃止・民営化とは関係しない増加も存するところ
である(控訴人P2は,廃止・民営化と無関係な歳入の増加として,
413万4000円存する旨指摘している。しかしながら,このよ。)
うな点を考慮しても,本件保育所の廃止・民営化により,平成14年
度決算において,前年度に比して7000万円を超える財政効果が生
-33-
じている。
また,控訴人P2は,歳出のうち,一般職給,職員手当等及び共済
費の差額合計1億1185万5492円の減少は,正職員10人分の
人件費に相当するものであるが,このうち4名は保育所費款外への異
動であり,現在も被控訴人の職員であるから,被控訴人の財政全体か
らみた歳出の削減にはなっていない,また,他の6名は退職者である
が,退職者による歳出の減少は,公務員の退職という事実によって発
生するものであり,民営化の効果とはいえない旨主張する。
しかしながら,上記保育所費款外へ異動した4名について,本件保
育所の廃止・民営化がなく,上記4名が保育所費款外へ異動しなかっ
た場合には,当該4名の異動先に配置する職員を別に補充しなければ
ならないのであるから,本件保育所の廃止・民営化により,人件費が
削減されたものといえる。また,退職者6名についても,本件保育所
が廃止・民営化されたことにより退職したとすれば,これは本件保育
所の廃止・民営化により人件費が削減されたものといえるし,これと
,,は無関係に退職したとしても本件保育所の廃止・民営化がなければ
退職者分を補充する職員の配置が必要となるところ,本件保育所の廃
止・民営化によりこれが不要となったのであるから,やはり,本件保
育所の廃止・民営化により人件費が削減されたものといえる。
(ウ)保育サービス供給増の必要性
a待機児童について
(a)被控訴人における待機児童数の推移は,平成12年度は,4月
時点では0であったが,平成13年3月時点では27名となり,ま
た,平成13年度は,4月時点で12名であったが,本件改正条例
の制定後の平成14年1月には82名にまで増えている。
(b)全国的に,保育の需要の急速な増大とその多様化に対し,特に
-34-
都市部等で供給が追い付かないことが大きな問題となっている。
そして,本件改正条例の制定後であるが,平成13年9月6日に
は,厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長の各都道府県・指定
都市・中核市民政主管部(局)長宛「待機児童ゼロ作戦の推進につ
いて」と題する書簡(平成13年9月6日雇児保第35号)が作成
されており,その中で,国において待機児童ゼロ作戦を進めること
としているところであるが,都道府県及び市町村においても,厚生
労働省がこれまで実施してきた各般の規制緩和措置,予算措置及び
来年度概算要求等を踏まえて,地域の保育需要に的確に応えた保育
サービスの提供が行われるよう計画的かつ積極的に取り組まれたい
旨の記載がされている(乙8。)
さらに,平成13年12月11日に総合規制改革会議によって作
成された,規制改革の促進に関する第1次答申において,急増する
保育需要に対応する方策の1つとして,公立保育所の民間への運営
,,,委託等の促進が挙げられておりそこでは公立保育所においては
社会福祉法人等が運営する認可保育所に比べ,運営コストがかかる
だけでなく,利用者のニーズへの迅速かつ的確な対応ができないと
の問題を抱えている,このため限られた財源を有効に活用し,かつ
社会のニーズに応じた保育を実施するという観点から,公立保育所
の運営については,社会福祉法人やNPO,民間企業等へ委託する
ことも有効な処方箋と考えられる旨記載されている(乙8。)
(c)本件保育所が廃止・民営化された後の待機児童の状況について
みるに,被控訴人は,公立保育所の民営化に当たり,待機児童の解
消を図るため定員枠を20名程度増やすことにし本件保育所定,,(
員120名)の受入可能枠が150名であったことから,これを民
営化するに際し,定員を140名とした。現にP16が運営するP
-35-
17保育園においては,定員を140名として運営されており,平
成15年4月1日時点では,待機児童は存在しなくなっている(こ
の点について,控訴人P2は,公立保育所のままでも定員増は可能
であったと主張するところ,上記受入可能枠からして不可能とはい
えないが,先に検討したように,公立と民間との経費の差等からし
て,財政の逼迫した状況下において,公立のままで定員を増加させ
ることは,本件保育所の廃止の目的に反する結果となり,実現は困
難であるというべきである。。)
b延長保育について
被控訴人は,公立保育所を民営化するに当たり,当時実施されてい
た午前7時から午後7時までの保育を,更に1時間ないし2時間程度
延長し,午後9時くらいまでの延長保育を行うこととし,本件保育所
を民営化するに際しても,開所時間は午前7時から午後7時までとす
るが,更に2時間程度延長保育を実施することとした。そして,現に
P16が運営するP17保育園においては,午後9時までの延長保育
が実施されている。
もっとも,P17保育園における平成14年4月1日から同年7月
26日までの午後7時以降の延長保育の実施状況は合計39日間延,(
べ56人)であり,延長保育の利用者がいない日の方がむしろ多い。
また,被控訴人が平成11年6月に行った子育てに関するアンケート
調査の結果では,延長保育については,回答者の約9割が「現在のま
までよい」というものであり,保護者側でその必要性が高かったとも
いえない。
以上からすれば,延長保育の観点だけをみれば,それ単独で本件保
育所を民営化すべきとする十分な理由とまでは言い難いが,現実に利
用者もおり,需要自体は存したものといえる。
-36-
(エ)入所児童の処遇
a被控訴人は,民間移管先のP16との間で,従前の保育水準が低下
することがないよう配慮することとしており,その旨事業運営者と覚
書を締結した。
b平成13年11月からは,P16の保育士が本件保育所に来て引継
を行い,平成14年1月からは,次年度のクラス担任を予定されてい
る保育士がそのクラスに入り,子供の個性や特徴,また1日の生活の
流れを把握するとともに,2月以降は更にその回数を増やし,引継を
行った。
なお,今回の民間移管に伴う定員増に伴い,1歳児については,職
員配置基準が児童4人に1名から児童5人に1名となったが,民間移
管の保育園に通う保護者への配慮の趣旨から,特に平成14年度につ
いては,経過措置として,臨時職員の配置により,従前と同様の児童
4人に職員1名の基準が維持された。また,P3保育所においては,
上記のとおり延長保育が実施されることになった。
c本件保育所は,平成14年4月1日廃止され,同日,P16を経営
主体とするP17保育園が開設された。
本件保育所で保育を受けていた平成13年度の0歳児から4歳児ま
で合計85名については,49名がP17保育園に,35名が他の公
立保育所に,1名が他の民間保育園に,それぞれ転園した。なお,控
訴人P2の児童P11は,控訴人P2が,本件保育所が廃止・民営化
された場合の第1希望とした公立のP6保育所に平成14年4月1日
以降入所し,同保育所において保育を受けている。
イ以上のとおり,本件保育所の廃止は,財政状況が悪化している被控訴人
が,財政効果の観点及び民営化による待機児童の解消や延長保育の実施と
いった保育サービスの拡充の観点から,本件保育所を廃止・民営化するこ
-37-
とを目的として行ったものであって,その目的には合理性が認められ,こ
れによって,現に本件保育所に入所していた児童が就学時まで本件保育所
において保育を受けることができなくなるなどの不利益を受けることは認
められるものの,希望すれば,本件保育所と同じ場所で,同じ施設を用い
て新たに設置運営される児童福祉法その他の法令等によって要求される水
準を満たしたP17保育園において,概ね,本件保育所と同水準の保育を
受けることが可能であるというのであるから,これによって,特定の児童
ないし保護者に著しく過重な負担を課し,保育所において保育を受けるこ
とを事実上不可能にするなどの事情は認められず,被控訴人に裁量権の逸
脱ないし濫用があるということはできない。
(3)手続上の違法性について
ア控訴人P2は,被控訴人による本件保育所の廃止は,児童福祉法33条
の4にいう「保育の実施の解除」に当たる旨主張する。
そこで検討するに平成9年改正後の児童福祉法24条2項は前項に,,「
(「」規定する児童について保育所における保育を行うこと以下保育の実施
というと規定しておりまた同法33条の4は都道府県知事市。)」,,,「,
町村長……は,次の各号に掲げる措置又は保育の実施等を解除する場合に
は,あらかじめ,当該各号に定める者に対し,当該措置又は保育の実施等
の解除の理由について説明するとともに,その意見を聴かなければならな
いとしその3号で母子保護の実施及び保育の実施当該母子保護の。」,「
実施又は保育の実施に係る児童の保護者」としている。
そうすると,児童福祉法の規定は,平成9年改正後においても,保護者
が選択した特定の保育所において保育を実施することをもって保育の実,「
施とするものではなく保育所における保育を行うことをもって保」,「」,「
育の実施」と定義付けているのであり,同法33条の4にいう保育の実施
の解除も,市町村が保育所における保育を行うことを解除する場合をいう
-38-
ものと解するのが相当である。これに対し,特定の保育所において保育を
受けていた児童が他の保育所に転園する場合や,あるいは,当該保育所が
民営化されたことに伴い,民営化後の保育所において保育を受けることと
なったような場合には,同法33条の4にいう「保育の実施の解除」には
当たらないものと解すべきである。
これを本件についてみるに前提となる事実等(3)チ記載のとおり被控,,
訴人は,本件改正条例制定後,廃止されることとなる本件保育所に入所し
ている0歳児から4歳児の保護者に対し,平成14年4月1日以降,民営
化されたP17保育園への入所を希望するか,他の保育所への転園を希望
するかのいずれかを選択するよう本件提出依頼書を配布している。すなわ
ち,被控訴人は,本件保育所を廃止することにより,本件保育所で保育を
受けていた児童について,保育所における保育を行うことを解除したもの
ではなく,引き続き保育所における保育を行うことを前提に,保護者らに
対し,選択する保育所の希望の聴取を行っているものである。
そして,控訴人P2が監護する児童P11についても,前記のとおり,
平成14年4月1日以降は,被控訴人が設置するP6保育所において保育
を受けているのである。
したがって,本件保育所の廃止をもって,児童福祉法33条の4にいう
保育の実施の解除に当たるとする控訴人P2の主張は採用できず,被控訴
人には,同規定に基づく本件保育所保護者への事前の説明や保護者からの
意見聴取義務が存するものとは認められない。
イ控訴人P2は,本件保育所の廃止は,同控訴人に対する不利益処分に当
たるから,保育の実施の解除に準じた手続保障が図られるべきである旨主
張している。
しかしながら,前記認定のとおり,本件保育所の廃止・民営化によって
も,希望すれば,本件保育所と同じ場所で,同じ施設を用いて新たに設置
-39-
運営される児童福祉法その他の法令等によって要求される水準を満たした
P17保育園において,概ね,本件保育所と同水準の保育を受けることが
可能であるというのであるから,本件保育所の廃止・民営化は,保育の実
施の解除に準じた手続保障が図られなければならないほどの不利益な処分
であるとまで認めることはできない。
そして前提となる事実等(3)によれば被控訴人は本件保育所の廃止,,,
・民営化について,それなりの民主的手続を踏んでいるものといえ,不十
分な点があるにせよ,本件保育所の廃止について,手続上の違法があると
まで認めるのも困難である。
(4)まとめ
以上のとおりであり,本件改正条例に裁量権の逸脱・濫用はなく,手続上
の違法も認められないから,結局のところ,本件廃止処分の取消しを求める
控訴人P2の主位的請求は理由がない。
4当審追加的請求について
控訴人らは,当審において,行政事件訴訟法19条に基づき,国家賠償法1
条1項に基づく損害賠償請求(民事訴訟)を追加的に請求している。
行政事件訴訟法19条の関連請求の中には,上記のような民事訴訟も含まれ
るが,控訴審における関連請求の追加的併合には,関連請求に係る訴えの被告
(,),,の同意が必要であるところ同法19条1項16条2項本件においては
上記民事訴訟の被告である被控訴人が同意していないのであるから,上記の追
加的請求に係る訴えが不適法であることは明らかである。
5結論
以上によれば,控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えは,いず
れも訴えの利益がなくなったことにより不適法となったものであり,控訴人P
2の主位的請求は理由がなく,予備的請求に係る訴えは,原判決と同一の理由
により不適法であるから,控訴人P2の控訴は理由がない。
-40-
また,控訴人らの当審における追加的請求に係る訴えも不適法である。
よって,原判決中,控訴人P1に関する部分を取り消して,控訴人P1の主
位的請求及び予備的請求に係る訴えをいずれも却下し,控訴人P2の控訴を棄
却し,控訴人らの当審における追加的請求に係る訴えを却下することとして,
主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官井垣敏生
裁判官高山浩平
裁判官神山隆一
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