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平成19年10月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成17年(ワ)第1238号特許権移転登録手続等請求事件
口頭弁論終結日平成19年8月28日
判決
原告X
訴訟代理人弁護士冨宅恵
被告株式会社岡田組
訴訟代理人弁護士上原健嗣
上原理子
主文
1原告の主位的請求をいずれも棄却する。
2()原告の予備的請求に基づき,被告は,原告に対し,1万03821
円及びこれに対する平成17年7月28日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
()原告のその余の予備的請求を棄却する。2
3訴訟費用はこれを100分し,その1を被告の,その余を原告の各負
担とする。
4この判決の第2項()は,仮に執行することができる。1
事実及び理由
第1請求
(主位的請求)
1被告は,原告に対し,別紙特許目録1記載の特許権につき,移転登録手続を
せよ。
2被告は,原告に対し,別紙特許目録2記載の特許権につき,移転登録手続を
せよ。
3被告は,原告に対し,別紙特許目録3記載の特許権につき,移転登録手続を
せよ。
4被告は,原告に対し,7000万円及びこれに対する平成17年2月23日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
被告は,原告に対し,7000万円及びこれに対する平成17年2月23日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告の従業員として,杭の撤去・引き抜き装置の開発に従
事していた際,別紙特許目録記載の3件の特許権(以下「本件各特許権」とい
う)に係る発明(以下「本件各特許発明」という)を単独で発明したとし。。
て,原告が被告に対し,主位的に,本件各特許権の移転登録手続を求めるとと
もに,本件各特許発明を実施したことによって得た不当利得金の返還請求の一
部請求として7000万円の支払を求め,予備的に,特許法35条3項(平成
16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ)に基づき,本件各特許。
発明の特許を受ける権利を使用者である被告に承継させたことに対する相当の
対価の請求として,同額の支払を求め(一部請求,さらに,これらの金員に)
対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を請求した事案である。
1当事者間に争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争
いがない)。
()当事者1
ア被告は,土木工事一式を目的とする株式会社であり,その業務の一つと
して,既設コンクリート杭の撤去・引き抜き等を行っている。
イ原告は,昭和59年9月1日から平成12年8月31日まで被告の従業
員として稼動していた者であり,同年9月1日以降は,いわゆる一人親方
として被告の下で土木工事に従事していたが,平成16年12月2日に被
告との取引を終えた(被告代表者本人。)
()被告の有する特許権2
ア被告は,平成3年6月17日,発明者を原告及びY(被告代表者)とし
て,次の特許出願(以下,この出願を「本件出願1」といい,この出願に
係る発明を「本件特許発明1」という)を行い,同出願に基づき,被告。
を特許権者とする特許権(以下「本件特許権1」という)の設定登録が。
された。
特許番号第1978209号
出願日平成3年6月17日(特願平3−144669号)
登録日平成7年10月17日
発明の名称既設コンクリート杭の撤去装置
特許請求の範囲
「回転駆動手段に連結されたオーガ軸の下端部に基部が回
動自在に取付けられ,前記オーガ軸の正回転時には求心方
向に回動してコンクリート杭の接続部の中空孔を通り,前
記オーガ軸の逆回転時には遠心方向に回動して先端側がコ
ンクリート杭の周壁を内面側から破砕するとともに,前記
オーガ軸の上昇時にコンクリート杭の接続部を引掛けて除
去させる弓形状の接続除去具を備えてなる既設コンクリー
ト杭の撤去装置」。
イ被告は,平成3年7月29日,発明者を原告及びYとして,次の特許出
願(以下,この出願を「本件出願2」といい,この出願に係る発明を「本
件特許発明2」という)を行い,同出願に基づき,被告を特許権者とす。
る特許権(以下「本件特許権2」という)の設定登録がされた。。
特許番号第1978770号
出願日平成3年7月29日(特願平3−188926号)
登録日平成7年10月17日
発明の名称既設コンクリート杭の撤去装置
特許請求の範囲
「回転駆動手段に連結されたオーガ軸と,このオーガ軸の
下端部に設けられ,コンクリート杭の頭部を破砕する破砕
刃と,前記回転駆動手段に連結され,オーガ軸とは逆方向
に回転するケーシングと,このケーシングの下端部に形成
,,されコンクリート杭の外周部の土壌を掘削する堀削刃と
前記回転駆動手段とオーガ軸との間に設けられ,このオー
ガ軸の長さを調節するオーガ軸伸縮機構と,前記回転駆動
手段とケーシングとの間に介設され,このケーシングの長
さを調節するケーシング伸縮機構とを備えてなる既設コン
クリート杭の撤去装置」。
ウ被告は平成10年11月20日発明者をYとして次の特許出願以,,,(
下,この出願を「本件出願3」といい,この出願に基づく特許発明を「本
件特許発明3」といい,同出願に基づく特許を「本件特許3」という)。
を行い,同出願に基づき,被告を特許権者とする特許権(以下「本件特許
権3」という)の設定登録がされた。。
特許番号第3052135号
出願日平成10年11月20日(特願平10−330968号)
登録日平成12年4月7日
発明の名称既設杭の引抜き装置
特許請求の範囲
「打込機に連結され,既設杭の最大外径よりも大きい内径を
もつ円筒状のケーシングと,このケーシングの下部に,油
圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取
付けられたチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置にお
いて,
上記油圧シリンダは上記ケーシングの上部に取付けられ,
この油圧シリンダのロッド端部と上記チャック爪とを連結
ロッドで連結してあり,
上記チャック爪は円弧状のカム溝を有し,このカム溝を上
記ケーシングの下部に固定した軸に挿通してあり,上記油
圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇することに
より上記チャック爪が上記ケーシング外に略垂直姿勢に退
出し,上記油圧シリンダの伸長動作で上記連結ロッドが下
降することにより上記チャック爪が上記ケーシング内に略
水平姿勢に突出するようにしてなることを特徴とする既設
杭の引抜き装置」。
,。なお本件出願3の出願当初の特許請求の範囲は以下のとおりであった
「請求項1】打込機に連結され,既設杭の最大外径よりも【
大きい内径をもつ円筒状のケーシングと,このケーシン
グの下部に,油圧シリンダによる駆動でケーシング内に
突出するように取付けられたチャック爪とを備えた既設
杭の引抜き装置において,
上記油圧シリンダは上記ケーシングの上部に取付けら
れ,この油圧シリンダのロッド端部と上記チャック爪と
を連結ロッドで連結してなることを特徴とする既設杭の
引抜き装置。
【請求項2】上記チャック爪は円弧状のカム溝を有し,こ
のカム溝を上記ケーシングの下部に固定した軸に挿通し
てあり,
上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇
することにより上記チャック爪が上記ケーシング外に略
垂直姿勢に退出し,上記油圧シリンダの伸長動作で上記
連結ロッドが下降することにより上記チャック爪が上記
ケーシング内に略水平姿勢に突出するようにしてある請
求項1記載の既設杭の引抜き装置。
【請求項3】上記ケーシングには,水やベントナイト等の
泥土化剤を上記ケーシングの下端の内外に噴出させるた
めの配管を上下方向に這わせている請求項1又は2記載
の既設杭の引抜き装置」。
()本件出願1と同時になされた特許出願について3
被告は,本件出願1と同時に,発明者を原告及びYとして,発明の名称を
「既設コンクリート杭の撤去装置」とする特願平3−144668号の特許
出願をしたが,同出願に対しては平成7年9月19日,拒絶査定がなされた
(以下,同出願を「拒絶された出願」という。甲1の1ないし5。)
拒絶された出願に係る当初の特許請求の範囲は次のとおりである。
【請求項1】回転駆動手段に連結されたオーガ軸の下端部に,コンクリー
ト杭の中空孔に嵌入される先端から漸次外径が拡大されるスクリュー刃を
設けてなる既設コンクリート杭の撤去装置。
【請求項2】スクリュー刃の近傍に鉄筋を切断するカッタを設けてなる請
求項1記載の既設コンクリート杭の撤去装置。
しかし,上記特許請求の範囲は,平成6年11月21日提出の手続補正
書によって,次のように補正された。
【請求項1】回転駆動手段に連結されたオーガ軸の下端部に,コンクリー
ト杭の中空孔に嵌入される先端から漸次外径が拡大されるスクリュー刃を
設け,このスクリュー刃の近傍に鉄筋を切断するカッタを設けてなる既設
コンクリート杭の撤去装置(以下,この請求項記載の技術内容を「拒絶。
査定された発明」という)。
()被告における職務発明に関する定め4
被告の就業規則その他の勤務規則には,従業員が行った職務発明につき,
被告が特許を受ける権利を承継する旨の定めは存在しない。
()被告における本件各特許発明の実施状況5
被告は,本件各特許発明の実施品である杭の撤去装置等を製造し,自ら使
用して既設コンクリート杭の撤去・引き抜き等を行っている。他社に本件
各特許発明の実施許諾をしたことはない。
ア被告は,平成3年7月ころより,本件特許発明1の各構成要件を具備し
た装置(以下「本件特許発明1装置」という)を用いてPC杭等の破砕。
工事を試みたが,同工事による売上げを得ることはできなかった。
イ被告は,平成3年8月ころより,本件特許発明2の各構成要件を具備し
た装置(以下「本件特許発明2装置」という)を用いてPC杭等の破砕。
(),(),・地下構造物の破砕工事別紙図1参照岩盤掘削工事別紙図4参照
砂置換工事(別紙図3参照)等を施工していた。
ウ被告は,平成10年12月ころより,本件特許発明3の各構成要件を具
備した装置(以下「本件特許発明3装置」という)を用いて既設杭引き。
抜き工事を実施していた。
2争点
()原告は,被告に対し,本件各特許権についての原告への移転登録手続を1
求めることができるか。
ア原告は本件各特許発明の発明者か(争点1)。
イ原告は本件各特許発明の特許を受ける権利を被告に承継したか(争点。
2)
()原告は,被告に対し,被告が本件各特許発明を実施したことにつき,不2
当利得返還請求をすることができるか(争点3)。
()本件各特許発明の特許を受ける権利が被告に承継されている場合,原告3
の被告に対する相当対価支払請求権の有無及び額(争点4)
第3当事者の主張
1争点1(原告は本件各特許発明の発明者か)について。
【原告の主張】
以下のとおり,原告は,本件各特許発明の唯一の発明者である。
()本件特許発明1について1
ア発明の動機及び発明の過程
長尺の杭は,短尺の杭を金属製のドーナツの形状をしたフランジにより
。,接続することによって製作されるこのような長尺杭の撤去工事において
杭を順次地表面から破砕していくと,金属製のフランジにより破砕が阻害
。,,,されるそこで原告は長尺杭に用いられるフランジを除去するために
ガイド部に拡大刃を取り付ける装置に関する本件特許発明1を発明した。
本件特許発明1の技術的特徴は,フランジ上部破砕時(オーガ軸正回転
時)には,拡大刃がオーガ軸に沿った状態で閉じており,フランジを通過
した直後にオーガ軸を逆回転させて拡大刃を開いた状態にし,フランジを
除去する点にある。
原告は,平成2年夏ごろ,本件特許発明1装置の製作に先立って,拒絶
査定された発明の実施品であるセリヤの製作を行った。原告は,口頭で
被告従業員のAに対してセリヤの具体的形状の説明を行い,Aに対して
指示をしながら五角形の突起物を製作し,ガイド部に溶接を行わせた。
,,,,その後原告は本件特許発明1装置の製作に取りかかりAに対して
スクリュージョイント方式を採用してオーガヘッドとガイド軸を脱着可能
にするように指示した。Aは,当該装置の製作を外注し,同装置は2∼3
週間程度で完成した。
また,原告は,Aに指示を与えて,厚み50㎜の既成のビットを弓形に
溶断させ,開閉の際に支持軸になるピンを貫通させる30㎜の穴を開けさ
,,せたほかガイド部に拡大刃を取り付ける留金にも30㎜の穴を開けさせ
それをガイド部に溶接させた。
イ出願過程
本件特許発明1及び拒絶査定された発明の出願準備は,本件出願2の準
備と同時になされたものであり,その詳細は後記()イのとおりである。2
原告は,平成3年3月,被告の事務所において,氏名不詳の人物(おそ
らく株式会社トップコンサルタントのBであると思われる)に対し,拒。
絶査定された発明,本件特許発明1及び同2について,概略図を作成しな
がら説明を行った。
原告は,上記氏名不詳の人物に対し,上記各発明の内容を説明したとこ
ろ,本件特許発明1については理解してもらえたが,拒絶査定された発明
については理解してもらえなかった。そこで,上記氏名不詳の人物は,原
,。告に対して次回の打合せまでにその説明図面を作成するように依頼した
そこで,原告は,甲10のノートに様々な図面を書き殴り,甲54の図
面を作成することができるまでになったが,その後,原告が上記各特許出
願の打合せに関与することはなかった。
ウ原告が本件特許発明1の発明者である根拠
(ア)まず,拒絶査定された発明と本件特許発明1が,いずれも脱着装置
を具備するという事実は,両特許発明の単純さ及び同一のガイド部に設
置される装置に係る特許発明であることによって,上記両発明が同時期
になされたものであるにとどまらず,同一の発明者によって発明された
ことを如実に示している。原告は,セリヤを設けたガイド部,本件特許
発明2を施したガイド部,あるいはその両方を施したガイド部を,工事
現場の状況に応じて使用するため,これらのガイド部とオーガヘッドと
を脱着自在にすることを想到したのである。
また,原告は,平成2年2月,東京築地の聖路加病院の杭抜き工事を
行う際,作業効率を高めるため,従前のように杭を上部から順次破砕す
るのではなく,中空部から破砕すればよいと考え,オーガヘッド先端に
設けられたガイド部に突起物(セリヤ)を設けることにした。原告は,
中心部が空洞になったPC杭やRC杭が中心部から外部に加えられる力
に非常に弱いことを経験上知っていたからである。本件特許発明1装置
も,拒絶査定された発明に係る装置と同様,その施工対象は中空部を有
する杭に対するものである。このことも,拒絶査定された発明と本件特
許発明1が,同一の発明者によって想到されたことを示すものである。
(イ)拒絶査定された発明について,出願過程において原告が上記氏名不
詳の人物の依頼に基づき作成したノートに記載した図面(甲10)及び
その後原告が繰り返し作図することによって作成した図面(甲54)を
見れば,本来,出願の対象とすべきであった発明は,原告が想到したも
のであることが理解できる。
他方,拒絶査定された発明の出願のための打合せにおいて使用された
ものとして被告が提出した乙23の1・2の図面には,拒絶された出願
の願書に添付した図面(甲1の4)とは異なる装置が記載されている。
よって,被告は,拒絶された発明の想到過程についての主張の裏付けを
していない。
さらに,甲13の9枚目の図面は,Bによれば,同人が作図した図面
であるということであるが,同図と,拒絶された出願の際に用いられた
図面とは異なる。
(ウ)被告が中空の設けられた杭を内部から破砕する技術として特許出願
したものは,拒絶された出願に係る願書に添付した図面(甲1の4,)
【図4】の装置である。しかし,同図面の装置は,従前から存在するオ
ーガヘッドにガイド部が取り付けられた装置に酷似するものである。現
に,同出願は,かかる理由により拒絶査定を受けたものである。
上記図面の装置では,掘削した土や杭の破砕片等を地中より取り除く
ために設けられた螺旋状のスクリューが,オーガ軸だけでなく,オーガ
軸の先端に設けられたオーガ軸より直径の小さなガイド部にまで達して
いるが,このような装置では,オーガ軸が途中で静止してしまい,掘り
進めることができなくなることは明らかである。
被告が,杭を内部から破砕する技術としてこのような装置を特許出願
したことは,原告を除く被告従業員が同技術について何らの知識も有し
ていなかったことを示している。
()本件特許発明2について2
ア発明の動機及び発明の過程
本件特許発明2の伸縮機能を備えるケーシングの技術的特徴は,上部ケ
ーシングと下部ケーシングの二つのケーシングの重なりによりケーシング
自体の長さを調節し,他方で当該ケーシング内部の2本の油圧ジャッキに
よりオーガ軸の長さを調整することにより,ケーシングとオーガヘッドと
を自在に先後行させることができる点にある。
そして,上部ケーシングは,強度と重量バランスを考慮し,第一層とし
,,て一般的な厚みのケーシングにムカデ足状の切れ込みを左右対称に設け
第二層として,ケーシングの丸みに対応した弧状の鋼鈑にムカデ足状の切
れ込みを設けて第一層ケーシングに左右対称に溶接し,第三層として,ケ
ーシングを筒状にする鋼板を左右対称に溶接する。なお,第三層には閂を
差し込む窓を設ける。
伸縮機能を備えるオーガ軸の技術的特徴は,従前はピン式で行われてい
たオーガ軸の長さの調整を油圧ジャッキにより行うことにより,重機の操
縦席から㎜単位でオーガ軸の長さ調整を行い得るところにある。
そして本件特許発明2の伸縮機能を備えたケーシング以下単に伸,(,「
縮ケーシング」ということがある)と,伸縮機能を備えたオーガ軸(以。
下,単に「伸縮ロッド」ということがある)とは一体の装置として開発。
され,一体の装置として利用されることから,伸縮ロッドのスイベルには
油管及び水管の両方を収める必要があり,先行技術にはない寸法上の工夫
が施されている。
原告は,平成2年4月ころ,東京新宿近辺にあるエスティックビルでの
地下部分の壁・柱・耐圧板等の破砕工事現場において,他業者が周囲に複
数のカムオーガを備えたセンターオーガヘッドを二つの駆動機で稼働さ
せ,被告が有していた装置より能率良く工事を進めていく様子を目の当た
りにした。しかし,二つの駆動装置を用いてそれぞれケーシング及びオー
ガ軸を駆動させる方法を採用した場合,高所に二つの駆動装置を設置する
ため重機の安定度が低下し,機構自体も複雑化して故障の原因にもなって
いた。そこで,原告は,一つの駆動装置のみで,上記の装置より能率良く
作業ができる装置を開発しようと考えた。原告は,ケーシング先端部とオ
ーガ軸先端部のオーガヘッドを交互に先行させて掘削すれば能率良く既設
杭を破砕できることに気付き,ケーシング及びオーガ軸がそれぞれ独立し
て伸縮する装置を開発することにし,同年11月ころ,オーガ軸及びケー
シングの伸縮機構の検討に入った。
(ア)ケーシング
a上部ケーシング
原告は,土壌改良の際の砂置換工事においてケーシングを逆回転さ
せることを念頭におき,正・逆両回転に対応可能にするためTの字を
連ねた切れ込みを入れることにした。
そして,原告は,当時被告が使用していた重機のトップシーブから
地表までの高さを,一般的な男性の身長程度にすると作業者の便を図
ることができること,伸縮ロッドを1m20㎝以上伸長させるとスプ
ラインの重なりが小さくなり「捻れの力」で破壊されやすくなるこ,
とを考慮して上部ケーシングの長さは1m70㎝に止める必要がある
と考えた。
また,原告は,自らの経験から,ケーシングは回転しながら土層を
,。掘削する際10c㎡あたり30t程度の力が加わると推測していた
そして原告は先輩職人から聞かされた直径4㎜のなまし鋼線以,,「(
「」。)」,下8番線というは1tの加重に耐えられるという話を基に
720本の8番線を束にすると10c㎡程度になり,重量比例計算を
行うと720tの耐久力を有するという仮説を立てた。
原告は,上記した推論や経験から,T字を連ねた切れ込みを10㎝
にすることにし,上部ケーシングの全長との関係で6段階の可変を実
現するものとした。
原告は,切れ込みを一つにするとバランスに問題が生じる可能性が
あること,切れ込みを左右対称に設けることにより下部ケーシングと
接続に安定度が増すことから,上部ケーシングの切れ込みは左右対称
に二つ設けることにした。
b下部ケーシング
原告は,当初,下部ケーシングに左右対称に一つずつ10c㎡弱の
引っ掛けを溶接することを考えていたが,安全性を高めるために左右
対称に二つずつ溶接することとした。
c製作過程
原告は,被告に機械等を納入していた絹田熔工株式会社(以下「絹
田熔工」という)のCに対して,図面を書きながら伸縮ケーシング。
の構造を説明して製作依頼を行った。Cは,原告が提案した構造の装
置が強度上の問題があり製作できないと回答したが,原告は,構造上
に問題があった場合には原告が責任を取る等と説明し,繰り返しCに
対して製作を依頼したところ,同人がこれを承諾して図面の作成を行
った。
(イ)伸縮機能を有するオーガ軸(伸縮ロッド)
原告が伸縮機能を有するオーガ軸の構造について検討を行っていたこ
ろ,伸縮機能を備えたロッド及びケーシングの外部に二つの大型油圧ジ
ャッキを取り付けてケーシングを自在に伸縮させるという装置が存在し
た。
原告は,これら二つの先行技術を参考にして,伸縮機能を有するオー
ガ軸(伸縮ロッド)を発明した。すなわち,原告は,ピン式でスライド
するロッドの構造を利用してオーガ軸が伸縮する構造とし,ケーシング
を自在に伸縮させる方法と同様にオーガ軸を挟んだ二つの油圧ジャッキ
によりオーガ軸の伸縮を㎜単位で行うという発明を行った。
原告は,ケーシングを伸縮自在にするための大型油圧ジャッキの存在
は知っていたが,オーガ軸に沿って2本の油圧ジャッキを備えてケーシ
ング内部に収めることができる小型の油圧ジャッキが既製品で存在する
か否かについての知識がなかった。ただ,原告は,伸縮機能を有するオ
ーガ軸に適した油圧ジャッキを特別に製作すると多額の費用が必要にな
るため,既製品での対応を模索していた。
,,,,そこで原告は小坂重機サービスのDに相談し同人の紹介により
株式会社下出(以下「㈱下出」という)のE及びFに油圧ジャッキの。
製作について相談した。原告は,Fが作成した乙17及び乙18の図面
を見てこれに了承を与え,油圧ジャッキは㈱下出で製作してもらうこと
にした。
イ出願過程
本件出願2の準備は,本件出願1及び拒絶された出願の出願準備ととも
になされた。
原告は,上記各出願に係る発明について,特許権を取得したいと考えて
いたが,その方法を知らず,平成3年2月の終わりか3月の初めころ,被
告のYに対して,特許出願手続に助力するよう願い出た。
そして,Yは,平成3年3月初めころ,Bに特許出願手続に関して相談
し,Bは,SHALOMのGに特許出願の打合せを任せた。
B及びGは,平成3年3月,被告の事務所において,原告に対し,拒絶
査定された発明,本件特許発明1及び本件特許発明2の内容の確認を行っ
た。なお,原告は,B及び被告従業員のHに対して,図を描きながら上記
各発明の説明を行い,上記両名が自ら絵を書きながら原告の説明の確認を
行っていった。
原告による上記説明は,出願を行うのに十分尽くされていなかったが,
被告は,前記各発明の内容を十分理解することなく前記各発明の特許出願
を行った。
ウ原告の主張の合理性
Fは,乙17及び乙18は原告と2,3回の打合せの結果作成されたも
のであり,原告からフリーハンドで作成された図面を交えた口頭の指示を
受けながら作成されたもので,原告の最終確認を経たものであると証言し
ており,Fは,原告が本件特許発明2の伸縮機能を有するオーガ軸の発明
者であることを認めている。
さらに,乙14の1枚目には原告が提案した伸縮ケーシングの原案とC
が当時考えていた問題点が記載されており,2枚目にはCが考えた問題点
の整理及び同人が異なる装置の製作を勧める旨の記載があり,3枚目には
Cが勧める装置の概略図が記載されているところ,これらの記載は,原告
の主張と合致する。
被告は,本件特許発明2を発明した動機について,減速機とケーシング
との脱着を容易にするために伸縮機能を発明し,オーガヘッドに絡みつい
た鉄線等を除去しやすくするために新種機能を有するオーガ軸を発明した
と主張する。しかし,そもそも,伸縮機能を有するケーシングは,ケーシ
ングを伸縮させる機構として試行錯誤の中で生まれたものである。ケーシ
ングと減速機との脱着を容易にする装置は従来技術を利用するものに存在
しており,新たな装置を製作する必要はない。また,伸縮機能を有するオ
ーガ軸に関する発明の動機は,当該装置が発明された後に,オーガヘッド
の加工等の際にオーガ軸を伸長させて,オーガヘッドをケーシングより外
に出して作業を行っていたことがあったという事実を借用しているにすぎ
ない。加工等のためにオーガヘッドをケーシングの外部に出すことが目的
であるならば,ケーシングの伸縮機能を利用してケーシングを縮めるだけ
で事足りるはずである。
()本件特許発明3について3
ア発明の動機及び発明の過程
本件特許発明3の技術的特徴は,固定された支点を軸にして係止(以下
「チャック爪」ということがある)をケーシング内部に挿入するのでは。
なく,チャック爪にカム溝を設けることにより支点を移動させる構造をと
ることにより,チャック爪,ブラケット,関節部,油圧ジャッキに課する
負担を軽減させるところにある。
本件特許発明3以前の従来技術としては,杭を引き抜く方法としてケー
シングで杭の周りの土壌を掘削して,杭に縄を掛けて上部から引き抜く方
法があったが,そのような方法では,杭の外周の1か所から上方に力を加
えるため,上方に引く力が杭の軸心からずれて外周土壌に杭の外周面が押
しつけられることになり,スムーズに杭を抜くことができないことや,腐
食が進んでいる杭等では張力に耐えられず途中でちぎれて完全に杭を除去
できないという不都合があった。さらに,ペデスタル杭のような柱身と球
根とポイントが一体化されていない杭の場合,球根部から杭を引き抜くこ
とができないという不都合があった。
原告は,上記不都合を解消するため,ケーシングに「係止」を設け,当
該「係止」をもって杭をつかみ,ケーシングごと杭を引き抜く方法につい
て検討した。原告は,斜め上部から斜め下部の方向に大きな力を加えて突
き刺すようにして「係止」を稼動させる必要があると考えた。そして,原
告は,H鋼クランプの刃に備えられた支点が,刃の動きに伴なって,斜め
下から斜め上部に向かって弧を描くように稼動していることから,支点を
固定させないことで「係止」への負荷を軽減できることに気付いた。
原告は,概念図を作成しながら「係止」の動きを決定し,支点を移動さ
せる効果を有するカム溝の形状を決定して,本件特許発明3のチャック爪
を発明した。
イ製作過程
原告は,平成10年5月30日,自ら型紙を製作して,株式会社塚口鋼
板(以下「塚口鋼板」という)代表取締役のIに対して,二つのチャッ。
ク爪を溶断するように依頼した。
Iは,原告に対して,原告作成の型紙を基にして溶断することはできな
いと説明し,原告に確認をとりながら製図用具を使用して型紙を作成し,
二つのチャック爪を溶断した。
,,,原告はIにチャック爪の溶断を行ってもらっている間倉庫に戻りa
J及びKに指示して,鋼管に長方形の穴を開け,ブラケット代わりに吊り
ピースを溶接させた。
原告は,Iが溶断したチャック爪二つを倉庫に持参した後,一つの爪a
,。に鉄筋を溶接しチャック爪とブラケットにピンを通して実験を開始した
ところが,カム溝の幅が十分に確保されていなかったためチャック爪が鋼
管内にスムーズに挿入されなかった。
原告は,再度,塚口鋼板を訪れ,Iに対して,チャック爪の溶断を依頼
した。なお,このとき,原告は,Iに対して,45Cという堅い鋼材のも
のと普通鋼のものを,それぞれ二つ注文した。また,原告は,J及びKに
対して,チャック爪と鋼管の接触を回避するため,鋼管の開口部を上下5
㎝ずつ広げるように指示した。
原告は,Pとともに,倉庫から一輪車を持って製作依頼した四つのチa
ャック爪を取りに行った。
原告は,再度,挿入実験を行った。そして,Kは,鉄筋を持って爪を挿
入させようとしたところ,鉄筋を手から滑らせてチャック爪が勢いよく鋼
管内に滑り込んでいった。原告は,その状況を見てチャック爪とブラケッ
トの構造が完成したと確信した。
原告は,平成10年6月4日・6日・13日・17日・18日・19日
・27日やその間の日曜日に,倉庫あるいはb倉庫において,本件特許a
発明3装置に使用する油圧ジャッキ,ブラケットを初めとする様々な部材
集めや基本部位の製作等を行った。
原告は,上記各日を利用し,Aに対して,油圧シリンダーとチャック爪
を接続するロッドについて,下部ロッドは丸綱製60㎜,上部ロッドは丸
綱製40㎜とし,両ロッドを既製品のジョイント部材で製作するように指
示して製造してもらった。そして,原告は,油圧ジャッキについては,シ
ョベルカーのアーム部分に使用されている物を2本調達した。
原告は,平成10年6月22日,倉庫において,初めて本件特許発明a
3装置を使用することになる神戸第七突堤の現場に投入する部材の搬入準
備を行った。
原告は,平成10年6月23日ないし26日,神戸第七突堤の現場に赴
き,本件特許発明3装置の加工及びセッティング作業に立ち会い,杭が抜
けるのを確認した後,中山製鋼の現場に就いた。
原告が,塚口鋼板に対して溶断を依頼したことにより,平成10年5月
30日に製作された爪は甲81(写真)に写っている爪(以下「甲81の
爪」ともいう)である。ただし,甲81の爪の背中の加工は後から施さ。
れたものであり,関節部も当初関節部が一つのものが取り付けられていた
が,関節部が二つのものに取り替えられている。
ウ出願過程
原告は,本件出願3の出願手続には一切関与しておらず,被告に対して
出願依頼を行ったのみである。
Yは,原告が出願依頼してしばらくすると,三角法の図面を示して,昭
和22年に東京都足立区のQなる人物が本件特許発明3と全く同じ発明を
行っていたので特許権を取得することはできないと説明した。なお,Yが
示した三角法の図面は,ケーシングにチャック爪が貫入していない状態の
図面で,チャック爪にはカム溝が施されていないものであった。そこで,
原告は,Yに対して,昭和22年に杭の引き抜き工事など行われているは
ずがないので,何かの誤りであると主張した。そして,原告は,Yから,
東京都足立区のQの電話番号を確認し,同人の親族なる人物に確認をした
が明確な回答を得ることができなかった。
このように,原告は,Yから,既に第三者によって権利化されたものに
ついて特許権を取得できないと説明されて,特許出願をあきらめた。
エ原告主張の合理性
本件特許3の請求項はジェプソン方式で構成されておりこのうち公,,「
知部」は,①打込機に連結され,既設杭の最大径よりも大きい内径をもつ
円筒状のケーシング及び②ケーシングの下部に,油圧シリンダによる駆動
でケーシング内に突出するように取付けられたチャック爪である。
上記請求項のうち「特徴部」として挙げられているのは以下の要素で,
ある。
①上記油圧シリンダは上記ケーシングの上部に取り付けられ
②この油圧シリンダのロッド構成部と上記チャック爪とを連結ロッドで
連結してあり
③上記チャック爪は円弧状のカム溝を有し
④このカム溝を上記ケーシングの下部に固定した軸に挿通してあり,
⑤上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇することにより
上記チャック爪が上記ケーシング外に略垂直に姿勢に退出し,上記油圧
シリンダの伸長動作で上記連結ロッドが下降することにより上記チャッ
ク爪が上記ケーシング内に略水平に突出する
なお,本件出願3の願書添付の明細書(以下「本件明細書3」という)。
記載の【特許請求の範囲】は以下のとおりである。
【請求項1】「公知部」①,②,及び「特徴部」①,②
【請求項2】「公知部」①,②,及び「特徴部」①,②,③,④,⑤
【請求項3】略
特許出願の過程で請求項1については拒絶理由通知が発せられているの
で「特徴部」①及び②には特許性が認められないことは明らかである。,
そして,請求項2については,特許査定されているため「特徴部」①,,
②に,③ないし⑤が付加されることによりはじめて新規性あるいは進歩性
が認められたことが分かる。
「特徴部」③ないし⑤の技術的特徴は,チャック爪を摺動させることに
より「係止」を枢着するよりも支点と作用点との距離を縮めることがで,
き,その結果としてチャック爪等に対する負荷を軽減できる点にある。こ
,「」のことはチャック爪を枢着した場合の軸と爪に負荷が加わる点の距離
と「本件特許発明3の軸と爪に負荷が加わる点の距離」を比較すれば容易
に理解できる。
このように,本件特許発明3は,その構造ではなく,目では確認できな
い物理的効用の点に画期性が存在するのであり,この点を説明できるのは
原告だけである。しかし,かかる効果が本件明細書3に記載されなかった
のは,出願過程において,発明者と出願代理人との打合せが行われなかっ
たからである。
【被告の主張】
()本件特許発明1について1
本件特許発明1の開発は,被告が昭和61年に日東工業から杭破砕工事を受
注した際に,同社からセリヤロッド型オーガを借り入れたことがきっかけとな
,,,,,りそのセリヤロッド型オーガをヒントに第2号第3号第4号と改良し
実験を重ねて開発して行ったものである。
その開発については,被告の代表者及び職員や職人達が協力し合ったもので
あるが,当時よく現場で頑張っていた原告を従業員の代表として発明者の1人
としたものである。
原告は,自分が発明したものは被告が出願したものとは全く違うものである
と断言しているが,これは原告が本件特許発明1に関与していないことを自認
するものである。
()本件特許発明2について2
ア発明の動機等
,()()本件特許発明2は破砕刃オーガーヘッド・掘削刃ケーシングヘッド
・オーガ軸伸縮機構(伸縮ロッド)及びケーシング伸縮機構(ワンタッチ)
とを備えてなる既設コンクリート杭の撤去装置に関する特許発明である。こ
の中で特に,オーガ軸伸縮機構(伸縮ロッド)とケーシング伸縮機構(ワン
タッチ)が被告において新たに開発した装置であるが,この二つの装置は,
,,,,被告において当初別々の目的で考案したものであり本件特許発明2は
これらを組み合わせたものにすぎない。
すなわち,オーガ軸伸縮機構(伸縮ロッド)は,平成3年3月に東京の田
町センタービルの現場で,三軸ソイル工事における地中コンクリートをドー
ナツオーガで先行削孔をする工事を行った際に最初に使用したものである。
ケーシング伸縮機構(ワンタッチ)は,平成2年11月に神戸の摩耶下水の
現場で,鋼矢板打設工事におけるドーナツオーガで先行削孔をする工事を行
なった際に最初に使用したものである。いずれも,既設コンクリート杭を撤
去する装置として考案されたものではない。
イケーシング伸縮機構について
ケーシング伸縮機構(ワンタッチ)は,被告の従業員であるHが多段式に
しようと提案したことから開発された装置であり,YやHらのほか,原告も
,,。Aとともに絹田熔工に対する説明においてその装置の具体化に協力した
ケーシング伸縮機構は,1号機が平成2年11月に6段式三重構造で絹田
熔工から被告に納品され,神戸の現場などで使用した。2号機は平成3年3
月に8段式三重構造でa倉庫で作成し,東京の田町の現場で使用した。
ウオーガ軸伸縮機構について
オーガ軸伸縮機構(伸縮ロッド)は,職人達から,各現場でオーガーヘッ
ドにPC鋼線や鉄筋等が絡みつき,その除去に時間がかかるので,ケーシン
グから1mくらいヘッドが出る装置ができないかという要望が出たのに対し
て,Yが作業の能率や安全のため,取り上げることにしたのがその開発の発
端である。Yが中心となって,その開発を進め,小坂重機サービスのDや,
㈱下出のEの協力を得て装置が完成したものである。
被告は,伸縮ロッドの製作について,小坂重機サービスに依頼したが,伸
縮ロッドに使用する油圧スイベル装置は㈱下出が当時保有していた技術であ
った。そこで,被告は,その技術も含め,㈱下出から小坂重機サービスを経
由して伸縮ロッドを購入したのである。
エ本件特許発明2の発明者について
上記のとおり,本件特許発明2は,Y及び職員や職人達が協力し合って創
作したものであり,その発明者は,Yと被告の従業員らである。原告を発明
者の1人としたのは,当時,HAS工法の現場で頑張っていた原告を従業員
の代表としたためである。
()本件特許発明3について3
ア発明の動機等
本件特許発明3は,既存杭を引き抜く工事で,ケーシングに取り付けた爪
を油圧で作動させ,爪で杭を確実につかみ,杭を引き抜くことを目的とした
装置に関するものである。この装置は,爪に特徴があり,カム溝を利用して
爪が必要以上に外側に出ないよう,爪の動く軌道を考慮したものである。
爪を利用して引き抜く方法は,以前から実例があり(平成7年ハンシン建
設の秀野住宅の現場など,本件特許発明3は,それをより確実・安全に引き)
抜くことができるよう開発した装置である。
被告は,過去の事例の検討を重ねた末,神戸の第七突堤の現場でペデスタ
ル杭を引き抜く工事を受注し,その工事を完成させるための装置を具体的に
検討し,本件特許発明3装置を完成させていった。
イ本件特許発明3の発明者について
Hは,この装置のうち,油圧シリンダーをケーシングの上部に取り付け,
ロッドを介して爪に力を伝える旨の発案をした。また,爪を垂直方向に動か
,。す旨の発案は専務のL爪にカム溝を付ける旨の発案はYによるものである
ウ開発過程
(ア)被告は,平成10年6月5日,a倉庫において,次のとおり,試作品を
作成した。
Aが,事前にHの作図を基に作ったカム溝の付いた爪の型紙を塚口鋼板
へ持ち込み,その型紙の爪4個と副資材(爪を接続するピン,ブラケット
等)を注文した。Aは,その直後,実験用に数が必要と考えて同型の爪2
個を追加注文した。
Aは,a倉庫において,φ600の鋼管を立てて,一つの縦穴を開け,
準備し,同日夕方頃,Aが職長のTと共に,塚口鋼板に製作を頼んでいた
カム溝の加工が施された爪6個とその他副資材を,塚口鋼板(乙32の3
枚目の請求書)から一輪車に乗せてa倉庫へ持ち帰り,その爪に1mくらい
,。の鉄の棒を溶接した後先に用意してあるケーシングにそれを取り付けた
(イ)被告は,平成10年6月19日,第七突堤の工事現場にφ600のバ
イブロケーシング用ケーシングを搬入し,6月22日から引き抜きを開始
したが,順調に作業できなかった。
そこで,被告は,6月23日,前記の実験用の爪を現場に持ち込み,φ
600のケーシングに取り付けて実験をしたが,このときも杭が途中で折
れてしまい,順調に引き抜くことができなかった。
原告が神戸の第七突堤の現場で作業を行なったのは,平成10年7月1
8日に三点式杭打機を搬入したときからであり,それ以前は,同年6月2
3日に1時間ほど現場の下見に行ったのみであった。
被告は,ケーシング装置の径を,φ600(平成10年6月19日に搬
入,φ800(同年7月下旬に搬入,φ700(同年8月上旬に搬入)))
の順に変更して使用したが,最後のφ700のケーシング装置で初めて順
調に既設杭を引き抜くことができた。
エ原告の主張及び供述に対する反論
原告の本件特許発明3の開発過程についての主張及びそれに沿う供述は,
以下のとおり虚偽である。
(ア)原告は,塚口鋼板の請求書(乙32の3枚目)に記載された爪は平成
10年5月30日(土曜日)に納入されたものであると主張する。
しかし,塚口鋼板のこの個別の請求書は,納品書と複写式で記入して作
成されるものであり,納品書には実際の納品日が記入されているものであ
るから,現実の納品日は平成10年6月5日である。また,個別の請求書
の宛先欄の「株式会社岡田組」との記載の後ろに手書きで「A」と記載さ
れているのは,実際に納品を受けた者の名前を塚口鋼板が手書きで記入す
るためであり,Aが納品を受けたという事実を示す。
(イ)原告は,甲76ないし80の写真に写っているケーシング装置が最初
に作成したものであると陳述書(甲114の30頁8行目以下)で説明し
ているが,この写真に写っているケーシング装置は,φ700の装置であ
るので,3番目に作成したケーシング装置である。
他方,原告は,甲81の写真は,原告が最初に塚口鋼板で切り抜いても
らった爪と関節部の写真であると説明しているが,爪の関節部が2か所で
動くようになっていることによれば,この爪は平成10年8月初旬以降に
作成されたものである。
2争点2(原告は,本件各特許発明の特許を受ける権利を被告に承継させた
か)について。
【原告の主張】
被告の就業規則等には,従業員が行った発明につき,被告が特許を受ける権
利を承継する旨の規定が存在しないから,原告は,被告に対して,本件各特許
発明の特許を受ける権利を承継させていない。
【被告の主張】
,,本件特許発明1及び同2の発明者は原告を含む被告の複数の関係者であり
原告は被告が出願することを事前に承認していたから,原告は,同各発明の特
許を受ける権利(持分権)を被告に譲渡したものである。
本件特許発明3については,原告は発明者ではないから,原告から被告への
特許を受ける権利の承継の有無は問題にならない。
(,,,3争点3原告は被告に対し被告が本件各特許発明を実施したことにつき
不当利得返還請求をすることができるか)について。
【原告の主張】
()不当利得金の算定方法1
使用者は,従業員により職務発明がなされた場合,無償の通常実施権を取
得する。このことから,使用者が特許権者として振るまい不当に利得した利
益とは,特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することにより
得られる利益(以下「独占の利益」という)である。。
,,,そして独占の利益とは使用者が職務発明を自社で実施している場合は
それにより得られる超過収入のことである。
ただし,原告が被告に対して請求できる範囲は,原告の損失と因果関係の
ある範囲に限定される。そして,原告の損失とは,超過利益に本件各特許発
明の貢献度割合を乗じ,さらに,同各特許発明について原告が貢献した割合
を乗じたものである。
()被告の売上げ2
本件特許発明2は,PC杭等の破砕・地下構造物の破砕工事,岩盤掘削工
事,砂置換工事という「底もの工事」において大いに威力を発揮した。この
結果,被告は,工事の受注件数を伸ばしてゆき,関西でも指折りの業者にな
った。
被告は,同業他社から,本件特許発明2の使用許諾を求められても,一切
これを拒否してきた。本件特許発明3は,杭を完全に撤去できるばかりでな
く,工事の時間短縮を可能にする発明であり,被告は,地中に杭等の破砕片
や鉄筋の放置が許されず,完全に撤去することが要請されるようになったこ
とを背景に,同特許発明に係る技術を独占使用することによって,杭の引き
抜き工事の受注件数を大いに伸ばした。
被告は,本件各特許権を取得する前は,年間10億円弱の売上げしかなか
ったが,平成4年1月期から平成18年1月期にかけて売上げを伸ばし,そ
の合計額は224億3211万7000円である。
()被告が得た超過利益額3
本業界の平均的な利益率は,少なくとも10%程度である。よって,被告
は,過去10年間において,22億4321万1700円の利益を得ること
ができる。
被告が得た上記利益のうち,少なくとも50%相当額が本件各特許発明を
独占的に使用したことによる超過利益である。
,,。よって被告が得た超過利益の額は11億2160万5850円である
()原告の損失の範囲4
後述する本件各特許権の成立過程から判断して,原告の上記超過利益に対
する貢献度は,少なく見積もっても50%である。
()不当利得金額5
以上より,原告の損失の下で,被告が過去10年間において不当に利得し
た金額は,少なく見積もっても5億6080万2925円である。
【被告の主張】
争う。
4争点4(本件各特許発明の特許を受ける権利が被告に承継されている場合,
原告の被告に対する相当対価支払請求権の有無及び額)について
【原告の主張】
()相当の対価の算定方法及び相当の対価の額1
相当の対価は,独占の利益に本件各特許権の貢献度及び発明者の貢献度を
乗じることによって算定することができる。
さらに,相当の対価の算定は,特許権の効力が失われるまでの独占の利益
を算定の基礎とするのが相当である。そして,被告は,平成19年1月期以
降,本件特許権3が失効する平成30年11月20日までの間に,少なくと
も年間15億円程度,合計450億円の売上げを得ることができる。
よって,平成4年1月期ないし平成31年1月期(ただし,同期について
は平成30年11月20日までの日割り計算による売上げとする)の被告。
の売上げは674億3211万7000円である。
,,前記3のとおり本業界の平均的な利益率は少なくとも10%であるから
被告は,67億4321万1700円の利益を得ることが可能であり,この
うち少なくとも50%は,本件各特許権を独占的に使用したことによる超過
利益である。
よって,被告が得る超過利益は,33億7160万5850円である。
原告の上記超過利益に対する貢献度は,少なく見積もっても50%である
から,特許法35条3項の相当の対価は,16億8580万2925円であ
る。
()被告の主張に対する反論2
ア被告は,本件特許発明2の実施に当たる使用行為について,同特許発明
のすべての要素を使用した工事に限られると主張する。
本件特許発明2の使用方法は,別紙図1ないし9(枝番を含む)のとお
り9種類に大別することができる。
しかし,特許法35条の相当の対価の支払対象となる特許発明は,特許
,。,登録された発明に限られずいわゆるノウハウも含むものであるそして
伸縮ケーシングのみを使用した工事によって被告が利益を得ている以上,
被告は,原告に対し,特許法35条3項に基づく相当の対価を支払う義務
を負う。
イ被告は,本件特許発明2は,用途限定して特許されたものであるから,
異なる用途に転用した場合の売上高は,相当の対価の算定対象から除外す
るべきであると主張する。
しかし,本件特許発明2の請求項にいう「コンクリート杭」の意義につ
いては,本件出願2の願書に添付された明細書(以下「本件明細書2」,
という)に「本発明は,既設建物を解体した後,地中に残るコンクリー。
ト杭やコンクリートパイル等(以下,単に「コンクリート杭」という)。
を破砕して除去する既設コンクリート杭の撤去装置に関する」と記載さ。
れていることによれば「既設建物を解体した後,地中に残るコンクリー,
ト杭やコンクリートパイル,その他これらに類するコンクリート残存物」
すべてを意味するものと解されることになる。
ウ以上によれば,仮に被告の主張する計算方法を前提としたとしても,被
告が本件特許発明2を実施することによって得た売上高は,17億200
5万4529円(別紙「本件特許発明2使用工事一覧表−1」参照)及び
3億3753万8918円(別紙「本件特許発明2使用工事一覧表−2」
参照)の合計20億5759万3447円である。
なお,本件特許発明2の実施に該当する工事のうち,伸縮ロッド及び伸
縮ケーシングを利用した工事の売上高につき少なくとも被告が認めている
別紙年度別完工高表記載の工事に関する売上高が2819万3000円で
あることは認める。
また,別紙図1ないし図9のうち,既設コンクリート杭を撤去する工事
であり,かつケーシング伸縮機構及びオーガ伸縮機構の双方を使用する工
法は,別紙図1,図2,図3,図4,図5,図8及び図9である。
【被告の主張】
()本件各特許発明の相当の対価の額について1
本件各特許発明は,いずれも物(装置)に関する発明であるから,これら
「」,()の各特許発明を実施するとは本件各特許発明に係る装置の生産製造
・使用・譲渡(販売)等をすることである。
しかるに,本件において,被告は,上記装置を製造して,自ら使用したこ
とはあるものの,これを他に販売したことは一切ない。
被告の同業他社は,上記装置を使用することなく,被告と同様にコンクリ
ート杭の撤去工事を実施して利益を得ており,また,本件各特許発明の実施
を検討する様子もうかがわれないのが現実であるから,本件各特許発明の客
観的価値は,極めて低いものであるといわざるを得ない。
また,一般に,職務発明においては,使用者が無償の法定通常実施権を取
得するものと定められているのであって,被告が本件各特許発明に係る装置
を自ら製造してこれを使用する行為は,その通常実施権の範囲内の行為であ
り,本来無償のものである。したがって,被告の施工した工事にかかる売上
代金額から本件特許発明の相当対価の額を算定しようとする原告の主張は,
合理的な根拠がなく,誤りであるといわざるを得ない。
なお,本件特許発明1に関しては,工事の売上高が存在せず,本件特許発
明3については,原告は共同発明者でもないことから,以下では,本件特許
発明2についての相当の対価の算定に関係する限度で主張することとする。
(2)被告の施工した工事の売上高について
仮に被告の施工した工事の売上高に基づいて相当の対価を算定するとして
も,本件特許発明2装置が,本来の使用目的以外の目的で使用された工事に
ついては,これを除外するのが相当である。
すなわち,本件明細書2には,本件特許発明2装置は「既設コンクリート
杭の撤去装置」であり「既設建物を解体した後,地中に残るコンクリート杭,
やコンクリートパイル等(以下,単にコンクリート杭という)を破砕して除
去する既設コンクリート杭の撤去装置」であると説明されているのであるか
ら,これを他の目的の工事(例えば,地盤の掘削工事)に使用した場合は,
当該装置の本来の使用には該当しない。さらに,本件特許発明2に関する請
求項には「回転駆動手段に連結されたオーガ軸と,このオーガ軸の下端部に,
設けられ,コンクリート杭の頭部を破砕する破砕刃と,前記回転駆動手段に
連結され,オーガ軸とは逆方向に回転するケーシングと,このケーシングの
下端部に形成され,コンクリート杭の外周部の土壌を掘削する掘削刃と,前
記回転駆動手段とオーガ軸との間に設けられ,このオーガ軸の長さを調節す
るオーガ軸伸縮機構と,前記回転駆動手段とケーシングとの間に介設され,
このケーシングの長さを調節するケーシング伸縮機構とを備えてなる既設コ
ンクリート杭の撤去装置」と記載されている。。
したがって,本件特許発明2の実施形態の一つとしての装置の製造につい
ては,上記の構成要件をすべて充足する装置を製造した場合において,初め
てその意味における実施になるものであり,その構成要件の一つでも欠ける
装置の製造は,本件特許発明2の実施でないことはいうまでもない。
さらに,本件特許発明2は,用途を限定することによって特許されたもの
である。本件明細書2にも「既設コンクリート杭の撤去装置」と明確に記載,
されている。したがって,本件特許発明2装置を既設コンクリート杭の撤去
,,以外のその他の用途に転用した場合当該装置の価値を評価するにおいては
転用に極めて大きな効用を認めることができる場合はともかく,さほどの効
用を発揮するとはいえない本件においては,他の用途への転用による価値を
評価する必要はないものというべきである。
以上の観点からすると,被告が施工した工事のうち,本件特許発明2を
実施したと被告が認める工事の売上高は,別紙年度別完工高表記載のとお
り,合計2819万3000円である。また,原告が主張する別紙図1及
び2記載の工事については,本件特許発明2を実施した工事であることは
争わない。
,,,したがって被告が自認する別紙年度別完工高表記載の工事のほかに
別紙工事マスター該当番号一覧表記載の,図1工法及び図2工法欄記載の
各工事(ただし「61052−1」の工事は上記被告が自認する工事に,
含まれているのでこれを除く,すなわち,下記工事マスター該当番号。)
の工事については,本件特許発明2を使用した工事であることを認める。

工事マスター該当番号(判決注・右欄の括弧内の数値は,別紙本件特許
発明2使用工事一覧表の対応する工事代金であり,これらの工事代金合計
7562万3333円と前記の被告が自認する工事代金2819万300
0円を合算すると,1億0381万6333円となる)。
・58179−1(1333万3333円)
・59074−3(809万円)
・60108−1(1200万円)
・60113−1(320万円)
・61014−1(2000万円)
・63011−1(600万円)
・64017−1(1000万円)
・64017−2(300万円)
()使用者が受けるべき利益の額3
ア使用者が受けるべき利益の額は,特許権等を自ら実施する場合には,実
施品の売上高と,超過実施分の占める割合と実施料率をそれぞれ乗じて算
定するのが相当である。
イ本件において,特許権者である被告は,本件特許発明1及び同2を実施
して製品を製造し,これを販売することは行っておらず,専ら自社の工事
に使用するために同発明を実施して装置を製造したものである。
以下においては,便宜上,本件特許発明2を使用した工事の売上高をも
って,実施品の売上高とする。
ウ上記売上高に超過実施分の占める割合がいかなる程度であるのかについ
ては,本件特許発明2は,従来技術の改良技術というべきものであって,
画期的なものではない。
また,コンクリート杭の除去工事は,本件特許発明2装置を使用するこ
となく施工することが可能であり,現実に他の工事業者は,それぞれ独自
の装置を使用してこれを施工している。同装置を使用したことによって,
被告がコンクリート杭の除去工事を独占的に行うことができたという事実
。,,はないまた被告が同装置を使用して行った工事によって得た売上高は
被告の総売上げのごく一部を占めるにすぎない。
その上,被告における工事の売上げは,その受注工事件数によって変動
,,,するものであるが受注件数は営業担当者の営業努力に負うものであり
本件特許権2の存在は,直ちに売上げに結びつくものではない。
以上によれば,上記売上高に超過実施分の占める割合は,せいぜい1%
と評価するのが相当である。
エ上記ウの検討結果によれば,本件特許権2の価値は極めて小さく,その
相当実施料率は1%にも満たないものというべきである。
()使用者と発明者の貢献度4
「使用者の貢献度」については,発明が権利化される以前の貢献,すなわ
ち,発明がなされるに至るまでの貢献及び発明が権利化されるに際しての貢
献のみならず,権利化された後の貢献,すなわち,権利維持についての貢献
及び営業やライセンス契約締結における貢献など,一切の事情を総合的にし
んしゃくするのが相当である。
以下,本件における「使用者の貢献度」について検討する。
ア発明がなされる前の貢献
本件特許発明がなされた時点での従業者の職務内容(地位・職責)は,
被告が施行する工事において,現場で作業を行うことである。
また,本件特許発明2の方針を決定したのは被告であり,被告は,同特
許発明に係る試作機の費用等を含む一切の費用を負担したのに対し,原告
は何らの負担をしていない。
さらに,原告は,2名の発明者のうちの1名であり,被告の多くの従業
員が発案をした中の1人として,意見を述べたにすぎない。
本件特許発明2は,被告において実施してきた数多くの工事の経験を基
礎として,これを活用してなされたものである。
イ権利化・権利維持の経緯
本件出願2の準備は,すべて被告において行い,費用もすべて被告が負
担している。
ウ使用者の営業努力
本件特許装置2を使用した工事の受注は,被告の営業担当者の営業活動
の成果である。
エ発明者の処遇
被告は,原告に対して,通常の給与のほか,技術指導料として1か月2
0万円ないし30万円の手当てを支給していた。なお,この原告に対する
技術指導料の支給は,本件特許発明に対する相当対価の一部支払として評
価されるべきものである。
オ使用者の貢献度
以上の検討の結果,被告の使用者としての貢献度は,90%をもって相
当というべきである。
カ原告の貢献度
上記アの事情をしんしゃくすれば,従業者の貢献度10%のうち,原告の
貢献度は,4%をもって相当というべきである。
()以上の検討の結果に基づき,本件における相当対価を算出する。5
なお,被告において,本件特許発明2装置を使用した工事は,乙47記載
のとおり,平成14年から平成16年にかけて実施したものの,その後は実
施していないので,将来の売上高はない。
よって,被告が自認する本件特許発明2使用工事の売上高を前提に算定す
ると,相当の対価の額は,下記計算式により112.772円である。
2819万3000円×1%(超過実施分の占める割合)×1%(実
施料率)×4%(共同発明者間の貢献度)
=112.772円
,,本件特許発明2につき被告が原告に対して支払うべき相当対価の金額は
上記のとおり極めて僅少であり,被告は,原告に対して,技術指導料として
相当対価の支払をしているのであるから,本件特許発明2については,原告
に対する未払対価は存在しない。
第4当裁判所の判断
1争点1(原告の発明者性)について
()発明者の意義1
「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを
いう(特許法2条1項)から,ある発明の発明者(共同発明者)といえる」
ためには,当該発明における技術的思想の創作行為を現実に行ったと評価
できる程度にこれに貢献し,加担したことが認められることを要するもの
と解すべきである。そして,その判断に当たっては,願書に添付した特許
請求の範囲の記載を基準とし,明細書の発明の詳細な説明の記載をも参酌
しながら,その技術的思想を把握した上で,その技術的思想の創作に具体
的に貢献し,加担している者であるか否かを考慮するべきである。
以下,かかる観点に立って,原告が本件各特許発明の唯一の発明者か否
か,また,共同発明者の1人であると認められるか否かについて検討する。
()本件特許発明1について2
ア本件特許発明1に至る経緯等
前記第2の1の当事者間に争いのない事実等に,証拠(甲1,2,7,
13,乙1ないし5,9,11ないし14,22,23,41〔各枝番を
含む,証人L,同B,同H,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全〕
趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。
(ア)被告は,昭和23年2月25日に設立された株式会社であり,昭和
38年1月以降は,一般土木業及び杭の打設工事を営むようになり,
昭和60年ころから,既設コンクリート杭等の撤去や引き抜きの分野
に進出し始めた。
被告は,本社のほか,機械設備の修理・製作・保管をすることができ
る倉庫兼工場を,大阪市及び堺市の2か所に有し,さらに堺市に資材
センターを有している(以下,区所在の倉庫兼工場を「倉庫」といaa
い,区所在の資材センターを「倉庫」という。bb。)
被告における既設杭の引き抜き技術には,当初,①既設杭の周辺土壌
を掘削して既設杭と土壌との摩擦抵抗を取り除いた後,杭の先端にワイ
ヤーロープを掛けて引き抜く方法及び②既設杭の周辺土壌を掘削するの
と同時に,既設杭自体も破砕していく方法があった。
原告は,昭和59年9月1日以降,平成12年8月31日まで被告の
従業員として勤務し,同年9月1日から平成16年12月ころまでは,
いわゆる一人親方として,被告と提携して稼動してきた。被告の工事部
は,アースドリル工事班と山留め三点工事班に分かれており,各班は,
さらに3ないし7人の職人で構成される班に分かれていた。原告は,被
告においては「班」と呼ばれる班の工事長あるいは職長として,特定X
の現場における作業について,職人をまとめる立場にあった。
(イ)被告は,平成2年2月3日,絹田熔工から,杭抜き用オーガーヘッ
ドの納品を受けた。同ヘッドは,全長5m,ロッド径が上部φ205㎜
で2m,下部φ139.8㎜で3mとなっており,先端部を杭の中心空
洞内に入れて案内し,上部に取り付けたカッタービットで破砕するもの
であった。なお,同ヘッドは,被告社内では第3号セリヤロッドと呼ば
れたが,これは,被告が従来,既製品を基に自社で改良を加えたヘッド
を用いており,それらが被告社内では第1号セリヤロッド及び第2号セ
リヤロッドと呼ばれていたためである(その写真が乙40の2・3であ
る。。)
しかし,第3号セリヤロッドは長すぎて使い勝手が悪かったため,被
告社内において,Yが,より効率よく杭を破砕することのできるロッ
ドを絹田熔工に発注した。絹田熔工では,被告からの発注を受けて,
,,平成2年10月12日本件特許発明1のオーガーヘッド部分である
「SP6−120円錐型特殊オーガーヘッド(被告社内における呼称」
は,第4号セリヤロッド)を被告に代金86万円で納品した。第4号。
セリヤロッドは,通常のオーガーヘッド先端部に継ぎ手を設け,その
継ぎ手を介して杭破砕用の先端部(セリヤロッド部)を取り付けるこ
とも可能なオーガーヘッドであった。同ヘッドの接続部を設ける構成
は,絹田熔工のCが考案した。
さらに,被告においては,Yや,H及び原告を含む従業員が意見を出
し合い,コンクリート杭を接続する金属製フランジを通り過ぎた時点
で杭の内側から破砕する爪を取り付けたらどうか,というHの提案の
ほか,その形状を弓形のものにするなどの提案がなされた(ただし,
この提案が具体的に誰によってなされたかは判然としない。Hによ。)
る上記提案を基に,原告は,倉庫にいるAに上記の構造を持つロッドa
の製作依頼を伝達し,Aは,倉庫にあった既製品のビットをロッドのa
寸法に合わせて切り抜き,従来品である開閉型のヘッドの爪の動きを
参考にして,第4号セリヤロッドの中間にその爪を取り付け,本件特
許発明1装置を完成させた。
被告のY及びHは,本件特許発明1及び同2並びに拒絶査定された発
明の特許出願手続のため,平成3年2月中旬ころ,Bに本件特許発明
2に係る設計図面(乙15,17,18)を示すなどして,上記各発
明の技術内容の説明を行った。
Bは,平成3年2月下旬及び同年3月下旬ころに,自ら作成した図面
を基に,原告と面談したが,原告からはHらによる上記説明以外の技
術内容に関する説明はされなかった。
被告は,平成3年6月17日,発明者を原告及びYとして,本件出願
1をした。なお,被告は,拒絶査定された発明も,同時に特許出願し
た。本件出願1は,平成7年5月18日に特許査定を受け,同年10
月17日に特許登録された。
被告は,特許登録後直ちに本件特許1に係る特許証を被告の事務所に
掲示した。
本件特許発明1装置は,平成7年7月,六甲アイランドフェリーの現
場で既存杭の撤去工事のために使用された。しかし,弓形状の接続除
去具に既設コンクリート杭のPC鋼線が絡み付き,深度20m付近で
,,,削孔が困難になり時間が掛かり過ぎるなどの障害がありこのため
,元請けである株式会社大成建設から中止の指示が出て作業が中止され
その後,被告が同装置を用いて既存杭の撤去工事をすることはなかっ
た。
イ本件特許発明1の技術的思想
(ア)前記第2の1の当事者間に争いのない事実等のとおり,本件特許発
明1の特許請求の範囲は「回転駆動手段に連結されたオーガ軸の下端,
部に基部が回動自在に取付けられ,前記オーガ軸の正回転時には求心方
向に回動してコンクリート杭の接続部の中空孔を通り,前記オーガ軸の
逆回転時には遠心方向に回動して先端側がコンクリート杭の周壁を内面
側から破砕するとともに,前記オーガ軸の上昇時にコンクリート杭の接
続部を引掛けて除去させる弓形状の接続除去具を備えてなる既設コンク
リート杭の撤去装置」というものである。。
(イ)そして,本件明細書1には,次の記載がある。
「従来の技術】古い建物を解体してその場所に新しい建物を施工す【
,。る場合既設のコンクリート杭が邪魔となるために撤去する必要がある
この種の撤去装置の一例として,コンクリート杭の端面を破砕して打込
み杭を撤去するコンクリート杭の破砕装置が知られている。この破砕装
置は,回転駆動手段に連結されたオーガ軸の下端部に破砕刃を備えたス
クリューを設けるとともに,切削刃を形成したガイドキャップを配設し
ている。これにより,オーガ軸をドライブしながら下降させると,切削
刃によってコンクリート杭の外周土壌が掘削されつつ破砕刃によりコン
クリート杭の端面が削り取られて破砕される(1頁右欄3行∼14。」
行)
「発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記コンクリート【
杭の破砕装置は,オーガ軸によって回転する破砕刃によりコンクリート
,,杭を破砕することはできるがコンクリート杭が連結されている場合は
下部側のコンクリート杭を撤去できないという問題がある。即ち,建物
の構造上長尺のコンクリート杭を埋設する場合,通常は接続部に金属製
。,のフランジを用いて複数本のコンクリート杭を接続しているこのため
上部のコンクリート杭を破砕することはできるが,フランジに破砕刃が
到達すると,この金属製フランジを破壊することができないために,破
砕作業を続行することができず,下部のコンクリート杭を撤去すること
が不可能になるという問題が残されていた(2頁左欄4行∼16行)。」
「課題を解決しようとする手段】本発明においては,上記目的を達【
成するため,回転駆動手段に連結されたオーガ軸の下端部に基部が回動
自在に取付けられ,前記オーガ軸の正回転時には求心方向に回動してコ
ンクリート杭に接続部の中空孔を通り,前記オーガ軸の逆回転時には遠
心方向に回動して先端側がコンクリート杭の周壁を内面側から破砕する
とともに,前記オーガ軸の上昇時にコンクリート杭の接続部を引掛けて
除去させる弓形状の接続除去具を備えてなる(2頁左欄20行∼2。」
9行)
「作用】上記構成により,オーガ軸を回転しつつ下降させると,弓【
形状の接続除去具は,求心方向に回動しコンクリート杭の接続部(金属
製のフランジ)の中空孔を通るので,下部のコンクリート杭の中空孔に
到達させることができる。ここで,前記オーガ軸を逆回転させると,接
続除去具が遠心方向に回動して先端側がコンクリート杭の周壁を内面側
から破砕する。このため,オーガ軸を上昇させると,遠心方向に回動し
た弓形状の接続除去具がコンクリート杭の接続部(金属製のフランジ)
を引っ掛けてコンクリート杭とコンクリート杭の接続部とを分離させ
る。したがって,さらにオーガ軸を上昇させることによりコンクリート
杭の接続部を外に取り出すことができるのである(2頁左欄30行。」
∼42行)
「発明の効果】以上のように,本発明によれば,コンクリート杭の【
周壁を内面側から破砕するとともに,コンクリート杭の接続部を引掛け
て取り除くことができる。このため,破砕刃によっては除去できない金
属製の接続部により連結された複数本のコンクリート杭を破砕するよう
な場合,オーガ軸を回転しつつ下降させ,所定位置で逆回転した後,上
昇させるといった簡単な工程によりこれら複数本のコンクリート杭を撤
去することができる優れた効果がある(3頁右欄20行∼28行)。」
(ウ)以上によれば,従来の破砕装置の一例として,オーガ軸をドライブ
しながら下降させ,その下端部に設けられた切削刃によってコンクリー
ト杭の外周土壌を掘削しつつ,破砕刃によりコンクリート杭の端面を削
り取って破砕していたものがあるが,このような従来の破砕装置では,
金属製フランジの接続具を介して複数のコンクリート杭が接続している
場合,フランジに破砕刃が到達すると破砕刃がこのフランジを破壊する
ことができず,下部のコンクリート杭を撤去することが不可能になると
いう問題があった。そこで,本件特許発明1は,かかる技術的課題を解
決する技術的手段として,オーガ軸の下端部に基部が回動自在に取り付
けられ,オーガ軸の正回転時には求心方向に回動してコンクリート杭に
接続部の中空孔を通り,オーガ軸の逆回転時には遠心方向に回動して先
端側がコンクリート杭の周壁を内面側から破砕するとともに,オーガ軸
の上昇時にコンクリート杭の接続部を引っ掛けて除去させる弓形状の接
続除去具を設けた点に特徴があり,このような構成を採用したことに本
件特許発明1の技術的思想が認められるというべきである。
ウ原告の発明者性
原告が本件特許発明1の唯一の発明者あるいは共同発明者であるか否か
は,要するに,本件特許発明1の上記技術的思想の創作行為に原告が具体
的に貢献し,加担したかどうかにかかる。
,,,前示アの認定事実によれば本件特許発明1の特許出願の過程でYや
H及び原告を含む従業員が意見を出し合い,コンクリート杭を接続する金
属製フランジを通り過ぎた時点で杭の内側から破砕する爪を取り付けたら
どうかという提案がHからなされたほか,その形状を弓形のものにするな
どの提案がされたが,後者の提案が具体的に誰によってなされたかは判然
としないものの,原告は,Hによる上記提案を基に,Aに上記の構造を持
つロッドの製作依頼を伝達し,Aは,倉庫にあった既製品のビットをロa
ッドの寸法に合わせて切り抜き,従来品である開閉型のヘッドの爪の動き
を参考にして,第4号セリヤロッドの中間にその爪を取り付けて本件特許
発明1装置を完成させたものである。このように,詳細は判然としないも
のの,本件特許発明1の技術的思想の創作に当たっては,原告を含む被告
の従業員が意見を出し合って各自がその創作行為に貢献し,加担している
ものということができ,かつ,被告が本件特許発明1の出願に当たり,発
明者としてYと並べて原告も記載していることによれば,原告も,本件特
許発明1の共同発明者の一人であると認められるが,それにとどまり(原
告が本件特許発明1の発明者であること自体は,被告も認めている,。)
原告が本件特許発明1の唯一の発明者であるとまで認めることはできな
い。
エ原告の主張について
原告は,本件特許発明1は原告がその唯一の発明者であると主張し,同
旨の供述をする。しかし,原告の供述は,本件特許発明1装置を初めて使
用した現場について,当初は平成2年冬ころだと陳述書(甲7)に記載し
ていながら,被告から,本件特許発明1装置は阪神大震災の復興工事のた
めに使用したのが初めてであって,時期は平成7年7月ころであったと指
摘されるや,その時期について曖昧な供述に転じたものである。また,原
告は,脱着式のガイド軸を製作するに当たって,Aを経由して独自に絹田
熔工に発注したかのような主張をするが,原告にそのような権限がないこ
とは,後記()エのとおりである。加えて,原告がAに対して接続除去具2
,。,の作成を依頼した時期についてもその供述が変遷しているこのように
原告の供述は一貫していない上,その内容も,本件明細書1を事後的に見
て主張できる範囲にとどまっており,これを超えて真に発明者であるから
こそなし得る主張をしているものとも認められない。したがって,原告の
上記供述はたやすく信用できず,上記認定判断を覆すには至らない。
また,原告は,拒絶査定された発明が自己の単独発明であることを前提
に,本件特許発明1の発明者が拒絶査定された発明と同じであることを,
原告が本件特許発明1の単独発明者であることの根拠の一つとしている。
そして,原告は,拒絶査定された発明は原告の真の意図を理解せずに被告
が出願した結果,拒絶査定を受けたかのように主張している。しかし,被
告が,唯一の発明者と目されている従業員と十分な打合せをしないまま特
許出願をするとは通常考え難いものである。殊に,拒絶査定された発明に
ついては,同発明に基づく装置が製造されたと認めるに足りる証拠はない
から,真の発明者以外にその具体的な構成について説明できる者はいない
はずである。それにもかかわらず,甲13によれば拒絶査定された発明の
発明者との再度の打合せをGが希望していたことが認められるものの,そ
の後,原告とGとの打合せが行われたことを認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告社内において,拒絶査定された発明について,原告が
唯一の発明者であると目されていたと認めることはできない。
()本件特許発明2について2
ア本件特許発明2に至る経緯等
前記第2の1の当事者間に争いのない事実等に,証拠(甲3,13,1
5ないし19,124,乙1ないし5,9,11ないし19,21ないし
23,40,47〔各枝番を含む,証人L,同B,同H,同N,原告本〕
人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認め
られる。
(ア)伸縮ケーシングについて
原告は,平成2年8月ころ,Y及びHに対し,ロックオーガ機に関し
て「同業者がケーシング取付けをワンタッチで着脱できる道具を持っ,
ているので,それと同じ物を会社で作ってほしい」と要望した。これ。
を受けて,Yはその製作を了承した。もっとも,原告の上記要望の内
容である,通称「ワンタッチ」と呼ばれる脱着型のケーシングは従来
から存在していたため,Hが「どうせ作るなら,多段式にした方がよ
い」と提案した。。
その後,原告は,Hと多段式ケーシングの構造について打ち合わせて
いた際,F字型の切れ込みを書いたところ,反対側に回転する場合も
あるとのHの指摘をきっかけに,反対側にも切れ込みを入れる,すな
わちT字型の切れ込みを入れる構造とすることが決定された。
原告は,上記構想を基に,絹田熔工のCに対して,ケーシングのジョ
イント部分の説明をした。原告は,全長1.5mから2mの上部ケー
シングにT字型の切れ込みを30㎝間隔で複数段入れ,下部ケーシン
グには左右どちらにも掛かるヨーカンを3か所設ける構造を説明した
が,Cは,平成2年9月3日,被告のH宛に「ドーナツケーシングク,
イックジョイント部改造の件」と題し,原告が説明した構造では強度
的に弱いという問題点があるので,従来品を利用した別の構成のケー
。シングにすることを薦める旨を記載した書面をファクシミリ送信した
しかし,Hは,絹田熔工に対し,再度強度計算を行った上で改めて被
告が提案した構造に基づき製造することを依頼した。
その結果,絹田熔工は,平成2年10月,SMD中用ドーナツケーシ
。,ングφ800頂部スライドキャップの図面を作成したこの時点では
可変段数は6段であった。
絹田熔工は,平成2年11月27日,被告に対して「SMD120H
」。P用φ800キャップを代金157万円で売り渡しこれを納品した
この「キャップ」は,本件特許発明2のケーシングの伸縮機構部分で
あるところ,三層構造とされ,さらに当初の設計図面と異なり可変段
数が8段となっていた(乙40の63。なお,上記「キャップ」を三)
層構造にしたのは,絹田熔工が強度計算を行った結果であった(可変
段数が8段となった経緯は不明である。。)
(イ)伸縮ロッドについて
被告は,複数の従業員から,現場でオーガーヘッドにPC鋼線や鉄筋
等が絡み付き,その除去に時間がかかるので,それらの物を除去する
ため,ケーシングからヘッドが出るような装置の製作を要望する声が
あがったのを受け,伸縮ロッドの製作に取り掛かった。
被告は,伸縮ロッドを自社で製作するのは困難と考え,Yが小坂重機
サービスのDに直径800㎜のケーシングの中に納まるケーシングか
ら1m伸び縮みする伸縮ロッドを製作できないかと相談した。Dは,
伸縮ロッドの構造の概要については創作したものの,伸縮ロッドの動
力源となる油圧式シリンダーを動かす油圧スイベル装置については㈱
下出に相談した方がよいと提案したため,伸縮ロッドの製作について
㈱下出に相談することになった。そこで,原告とDが㈱下出のFに,
被告が考えている装置で行う工法について説明をし,Fは,その説明
を基に,ジャッキは既製品を用いれば足りること,中央のロッド部に
,ついては使用するオーガに合わせた強度のものを新たに製作すること
回転する伸縮ロッドの油圧ジャッキに油圧を供給するための油圧スイ
ベルと削孔等のために水を通すウォータースイベルとを用いること等
の構成を決定してゆき,平成2年10月19日「SMD−120HP,
オーガー用油圧式伸縮ロッド」の図面を作成した(乙17,18。)
小坂重機サービスが,平成3年3月中旬ころ,岡田組に「SMD−1
20HP用油圧伸縮ロッドパイロットチェック付き「SMD−120」
HP用上部油圧スイベル装置」を納品した。東京での出張作業及び試運
転テストの経費も含めて,代金その他諸費用に293万8000円を要
し,これを岡田組が小坂重機サービスに対して支払った。
(ウ)特許出願及びその後の経緯
Yは,平成3年2月ころ,上記(イ)の伸縮ロッド機構及び伸縮ケーシ
ング機構は,いずれも単独では特許を取得できるような技術ではない
と考え,両機構を組み合わせた既設コンクリート杭の撤去装置として
特許出願することにした。Yは,書類の作成はBに,図面の作成は㈱
下出のEに依頼した。
Y及びHは,同年2月,被告の事務所において,Bに対し,㈱下出作
成の「SMD−120HPオーガー用油圧式伸縮ロッド用の油圧スイ
ベル計画図(乙17)等の図面を示しながら特許出願しようとする装」
置について説明した。Bは,同年2月下旬ころ,被告の了解を得た上
で,R特許事務所に特許出願手続を依頼し,同特許事務所において,
,。,,Gも同席の上上記装置を用いた工法について説明したBはGに
被告から受け取った図面や書類を渡した。
同年2月末に,GとBは,被告の事務所を訪ね,R特許事務所に特許
出願手続を依頼することの了承を得た。その際,Bは,原告に,自ら
が作成していた図面を見せて施工の際の意見を聞いたが,Hらから聞
いた話と特段異なる点はなかった。
Bは,平成3年3月5日,R特許事務所からの見積りと,自らの連絡
事項とをまとめて被告にファクシミリ送信した(そのファックス文書
が甲13である。。)
㈱下出は,被告から,本件出願2のために必要であるとの理由で,伸
縮ケーシングと伸縮ロッドを組み合わせた装置の作図の注文を受け,
平成3年5月8日に本件特許発明2装置の組立姿図(乙22,同月9)
日に同装置の組立姿図(乙23の1)を作成した。
Bは,平成3年3月下旬ころ,現場で施工に当たっている者の意見を
聞くために原告と面談したことがあったが,原告からは十分な説明を
受けることはできなかった。
被告は,平成3年7月29日,R特許事務所のR弁理士を代理人とし
て,Y及び原告を発明者として,本件出願2をした。
被告がした本件出願2については,平成7年5月24日に特許査定が
なされ,同年10月17日に特許登録された。
被告は,特許登録後直ちに本件特許権2の特許証を被告の事務所に掲
示した。
,,,ところで被告における杭の破砕撤去方法は大きく二つに分けられ
一つはヒルストーン工法といい,ケーシングを回転させるアースオー
ガー機と,スクリューを回転させるアースオーガー機がそれぞれ別々
になっており,各アースオーガー機が独立して動く装置(二軸同軸式
アースオーガー機〔分離型)を使用する工法であり,もう一つは,一〕
つのアースオーガー機でケーシングとスクリューを回転させる装置二(
軸同軸式アースオーガー機〔一体型)を使用する工法である。上記分〕
離型アースオーガー機を使用してコンクリート杭を破砕する場合(ヒ
ルストーン工法,ケーシング側はケーシングを必要な長さまで継ぎ足)
して破砕撤去する方法によって対応することが可能である。
また,被告においては,上記一体型アースオーガー機を,PC杭,R
C杭,ペデスタル杭の破砕撤去工事など,本件明細書2記載の効果を
発揮させることを目的とする工事に用いるほか,砂置換工法,岩盤削
孔工事,先行堀によるシートパイル用のH鋼等の圧入工事,軟質地盤
における工事において伸縮ロッドを用いる工法,単軸ロックソイル工
法等にも用いていた。
イ本件特許発明2の技術的思想
(ア)前記第2の1の当事者間に争いのない事実等のとおり,本件特許発
明2の特許請求の範囲は「回転駆動手段に連結されたオーガ軸と,こ,
のオーガ軸の下端部に設けられ,コンクリート杭の頭部を破砕する破砕
刃と,前記回転駆動手段に連結され,オーガ軸とは逆方向に回転するケ
ーシングと,このケーシングの下端部に形成され,コンクリート杭の外
周部の土壌を掘削する堀削刃と,前記回転駆動手段とオーガ軸との間に
設けられ,このオーガ軸の長さを調節するオーガ軸伸縮機構と,前記回
転駆動手段とケーシングとの間に介設され,このケーシングの長さを調
節するケーシング伸縮機構とを備えてなる既設コンクリート杭の撤去装
置」というものである。。
(イ)本件明細書2(甲3の2)には,次の記載がある。
「従来の技術】…この種の撤去装置の一例として,コンクリート杭【
の頭端面を破砕して打込み杭を撤去するコンクリートの破砕装置が知
られている。このコンクリートの破砕装置は,所謂ロックオーガであ
って,回転駆動手段が2台のモータにて構成されており,一方のモー
タにオーガ軸を連結し,他方のモータに鋼管からなるケーシングを連
結している。そして,オーガ軸の下端部にコンクリート杭の頭端面を
破砕する破砕刃を設けるとともに,ケーシングの下部周縁にコンクリ
ート杭の外周土壌を掘削する掘削刃を形成している(1頁右欄7行。」
∼2頁左欄3行)
「発明が解決しようとする課題】ところで,上記従来の既設コンク【
リート杭の撤去装置は,回転駆動手段が2台のモータにて構成されて
いるので,装置全体の構成が複雑となるうえ上部側の重量が増して安
定性が悪くなるという欠点があった。また,オーガ軸およびケーシン
,,,グは通常コンクリート杭の長さに対応させたものを装着しており
コンクリート杭の破砕においては常に外周土壌の掘削を先行させる。
ところが,オーガ軸とケーシングの長さが一定で調節不可能であるた
めに,撤去作業においては種々の不都合があった(2頁左欄21行。」
∼30行)
「まず,コンクリート杭にケーシングを挿入し,オーガ軸およびケー
シングを垂下させつつ掘削するので,既設コンクリート杭が傾斜状態
で埋設されているような場合,掘削の途中で破砕不能となる状態が生
じる(2頁左欄31行∼35行)。」
「また,比較的短いコンクリート杭が1本のみ埋設されているような
場合であると,上記一対のオーガ軸およびケーシングによるコンクリー
ト杭の撤去は容易である。しかし,このオーガ軸およびケーシングは,
長さを調節できないうえ通常は連結手段を設けていないので,コンクリ
ート杭が接続された長尺のものであると,一度の作業によってはコンク
リート杭を撤去できないことがある。この際は,コンクリート杭の長さ
に適合するものと交換する必要があるが,この交換にはオーガ軸および
ケーシングを抜いて再び挿入するといった作業が伴い,この交換作業は
面倒なうえに撤去作業が長くなるという欠点があった(2頁左欄4。」
7行ないし右欄8行)
「【】,,課題を解決するための手段本発明は上記目的を達成するため
回転駆動手段に連結されたオーガ軸と,このオーガ軸の下端部に設け
られ,コンクリート杭の頭部を破砕する破砕刃と,前記回転駆動手段
に連結され,オーガ軸とは逆方向に回転するケーシングと,このケー
シングの下端部に形成され,コンクリート杭の外周部の土壌を掘削す
る掘削刃と,前記回転駆動手段とオーガ軸との間に設けられ,このオ
ーガ軸の長さを調節するオーガ軸伸縮機構と,前記回転駆動手段とケ
ーシングとの間に介設され,このケーシングの長さを調節するケーシ
ング伸縮機構とを備えている(2頁右欄12行∼22行)。」
「発明の効果】以上のように,本発明によれば,ケーシングを下降【
させつつ土壌の掘削を進め,ある程度掘削した時点でオーガ軸を伸ば
,して破砕刃によりコンクリート杭の頭部を破砕する動作を繰り返すと
コンクリート杭の下端部まで撤去することができる。よって,コンク
リート杭が傾いて埋設されているような場合でも,ケーシングとオー
ガ軸とを交互に下降させることにより,コンクリート杭の傾斜状態に
合わせて破砕を進めることができるから,従来のようにケーシングが
途中で停止することなく破砕が行われ,コンクリート杭を残存させる
ことなく撤去できる効果がある(5頁左欄37行∼右欄5行)。」
「また,コンクリート杭が長尺の場合,オーガ軸の長さが不足して破
砕を進められない状態が生じることがあっても,ケーシング伸縮機構
およびオーガ軸伸縮機構を作動させてケーシングとオーガ軸とを伸長
させることにより,コンクリート杭の破砕を続行することができるの
で,相当長尺のコンクリート杭であっても一度の作業でコンクリート
杭を撤去できる利点もある(5頁右欄6行∼12行)。」
(ウ)以上の(イ)の本件明細書2の記載によれば,従来の撤去装置の一例
である,コンクリート杭の頭端面を破砕して打込み杭を撤去するコン
クリートの破砕装置は,回転駆動手段が2台のモータにて構成されて
いるため装置全体の構成が複雑となるほか,上部側の重量が増して安
定性が悪くなるという欠点があった。さらに,オーガ軸及びケーシン
,,,グは通常コンクリート杭の長さに対応させたものを装着しており
コンクリート杭の破砕においては常に外周土壌の掘削を先行させると
,,ころオーガ軸とケーシングの長さが一定で調節不可能であるために
①既設コンクリート杭が傾斜状態で埋設されているような場合,掘削
の途中で破砕不能となる状態が生じたり,②オーガ軸およびケーシン
グは,長さを調節できない上通常は連結手段を設けていないので,コ
ンクリート杭が接続された長尺のものであると,一度の作業によって
はコンクリート杭を撤去できず,コンクリート杭の長さに適合するも
のとの交換にはオーガ軸及びケーシングを抜いて再び挿入するといっ
た作業が伴い,この交換作業は面倒で撤去作業が長くなるなど,種々
の不都合があった。そこで,本件特許発明2は,この技術的課題を解
決するため,回転駆動手段とオーガ軸との間にオーガ軸の長さを調節
するオーガ軸伸縮機構を設けるとともに,前記回転駆動手段とケーシ
ングとの間にケーシングの長さを調節するケーシング伸縮機構を介在
させるという手段を採用し,ケーシングを下降させつつ土壌の掘削を
ある程度進めた時点でオーガ軸を伸ばして破砕刃によりコンクリート
杭の頭部を破砕する動作を繰り返すことによりコンクリート杭の下端
部まで撤去することができるようにし,もって,コンクリート杭が傾
いて埋設されているような場合でも,ケーシングとオーガ軸とを交互
に下降させることにより,コンクリート杭の傾斜状態に合わせて破砕
を進めることができ,従来のようにケーシングが途中で停止すること
,,,なく破砕が行われるようにしさらにコンクリート杭が長尺の場合
オーガ軸の長さが不足して破砕を進められない状態が生じることがあ
っても,ケーシング伸縮機構及びオーガ軸伸縮機構を作動させてケー
シングとオーガ軸とを伸長させることにより,コンクリート杭の破砕
を続行することができ,相当長尺のコンクリート杭であっても一度の
作業でコンクリート杭を撤去できるという効果を奏するようにしたも
のである。
したがって,本件特許発明2は,既設コンクリート杭の撤去装置にお
いて,オーガ軸伸縮機構及びケーシング伸縮機構を備えるという構成
,。を採用した点に特徴がありその点に技術的思想があると認められる
なお,一つの回転駆動手段でもってケーシング伸縮機構とオーガ軸伸
縮機構とを駆動するという構成も課題の一つとして掲げられてはいる
が,上記【発明の効果】を参酌すると,構成としては重視されていな
いというべきである。
ウ原告の発明者性について
そこで,原告が,本件特許発明2の上記技術的思想,すなわち,既設コ
ンクリート杭の撤去装置においてオーガ軸伸縮機構及びケーシング伸縮機
構を備えるという構成の創作行為に具体的に貢献し,加担したかどうかに
ついて検討する。
本件特許発明2におけるケーシング伸縮機構については,ケーシングを
多段式にして調整可能にするとのアイディアはHが発想し,Hと原告とで
協議する中で切れ込みの形状をF字型ではなく,T字型にすることが決定
されたものである。
また,本件特許発明2におけるケーシング伸縮機構に関する特許請求の
範囲の上では文言上T字型のものに限定されておらずむしろ証拠証,,,(
人Hの証言,原告本人の供述)によれば,多段式のワンタッチは従来存在
していなかったことが認められるから,伸縮ケーシングを多段式のものに
することが,本件特許発明2における伸縮ケーシングの構成の特徴点であ
るということができる。以上によれば,伸縮ケーシングに関しては,原告
及びHが発明に関与していると認めることができる。
他方,本件特許発明2におけるオーガ軸伸縮機構については,前示ア
の認定事実のとおり,ロッドを伸縮させるというアイディア自体は,被
告の複数の従業員の要望に基づくものであるが,そのアイディアに基づ
いてYが,直径800㎜のケーシングに納まるロッドの製作を小出重機
サービスのSに依頼し,同人が装置の概要については創作し,さらに㈱
下出のFが細部にわたる具体的な構成を決定したのである。上記のYの
指示内容は,いわば課題の提供にとどまるものというべきものであって,
発明の創作行為に現実に加担したということはできない。よって,本件
特許発明2に係るオーガ軸伸縮機構の具体的構成の決定に関与したのは,
S及びFである。
もっとも,既設コンクリート杭の撤去装置において,オーガ軸伸縮機構
及びケーシング伸縮機構を備えるという構成を創作したのは,前示アの認
定事実のとおり,Yである。さらに,本件特許発明2装置に係るオーガ軸
伸縮機構及びケーシング伸縮機構の具体的構成は,本件明細書2にも実施
例として記載されている(甲3の2。そして,これらの構成が従来技術)
と同一であると認めるに足りる証拠はないことによれば,これらの各伸縮
機構に係る構成も,本件特許発明2の技術的思想の一部をなすものという
べきである。したがって,これらの各伸縮機構に関与した者も,本件特許
発明2の共同発明者と認定するのが相当である。したがって,本件特許発
明2の共同発明者は,Y,原告,H,D及びFである。
エ原告の主張について
原告は,伸縮ロッド及び伸縮ケーシングは,いずれも原告が唯一の発明
者であり,いずれも原告の創作した技術的思想の実現のために不可欠のも
のであったと主張し,かつ,自らが一人で本件特許発明2装置の最終的な
構成を想到したかのように主張する。
まず,原告は,伸縮ケーシングの構造をT字型にした理由について,T
字型ではなくF字型にすると砂置換工法のために装置を利用することがで
きなくなると考えたためであり,絹田熔工がT字型では強度の面で問題が
あると指摘した際も,砂置換工法で使用することを考えて,原告の説明し
たとおりのT字型の構造にするよう,絹田熔工に対して電話で指示したと
主張する。しかしながら,原告は,本件訴訟の当初では砂置換工法につい
て触れていなかったところ,後に被告から本件特許発明2装置はHが考案
した砂置換工法で蘇ったとの指摘がなされた後に,上記のような主張をす
るに至ったものである。しかし,証拠(乙13,21,40の50ないし
54)によれば,砂置換工法は,被告が平成5年7月に砂置き換え工事を
受注した際にHが考案したものと認められる。このように,砂置換工法に
本件特許発明2装置を使用するようになったのは,本件出願2の後のこと
であるから,砂置換工法で使用することを考えて伸縮ケーシングの構造を
F字型ではなくT字型にする本件特許発明2を想到したことはあり得な
い。したがって原告の上記主張は採用できない。また,原告は,他社がセ
ンターオーガとカムオーガを二つの駆動機で回転させる機械を使用してい
たのを見て,一つの駆動装置でケーシングとオーガ軸を駆動させる装置を
発明しようとしたと供述するが,同供述は,本件明細書のうちの「発明【
が解決しようとする課題】ところで,上記従来の既設コンクリート杭の破
砕装置は,回転駆動手段が2台のモータにて構成されているので,装置全
体の構造が複雑となるうえ上部側の重量が増して安定性が悪くなるという
欠点があった」との課題に関する動機に関するものであるところ,この。
課題を解決する構成は,上記のとおり重視されておらず,本件特許発明2
における主要な技術的思想を構成する伸縮ケーシング及び伸縮ロッドの構
造に直接結びつくものではない。
そして,原告も被告も,他に伸縮ケーシング及び伸縮ロッドの開発に関
して,本件明細書2記載の課題,すなわち,傾斜状態で埋設されている杭
の破砕撤去をするという課題を解決するために本件特許発明2を創作した
との主張をしていないこと,伸縮ケーシングの納入時期が平成2年11月
,,27日であるのに対して伸縮ロッドの納入時期は平成3年3月であって
納入時期がずれており,伸縮ロッド及び伸縮ケーシングを組み合わせた図
面が作成されたのは,Bに対する本件特許発明2に関する説明に基づく図
面が作成されたのが最初であって,それ以前に作成されたと認めるに足り
る証拠がないことから,本件出願2の直前であったと認められる。これら
,,,のことによれば被告が主張するように伸縮ロッドと伸縮ケーシングは
元来別個の目的のために創作されたものであると認めるのが相当である。
なお,原告は,絹田熔工の担当者に対して伸縮ケーシングの機構の説明
をする際に,三重構造にした上で,T字型の切れ込みを10㎝間隔で入れ
,,,るように説明したというが乙14の記載内容によれば当初の説明では
,,三重構造にするとの依頼はなくT字型の切れ込みは300㎜間隔であり
下部ケーシングのヨーカンは,左右対称に1か所ずつではなく,3か所に
設けると説明したことが認められる。
したがって,原告が,伸縮ケーシングの最終的な製品の構成を自ら一人
で想到したと認めることはできず,この点においても原告の供述は,事実
と矛盾するものである。
,,,,また原告は伸縮ロッドの開発に関して自らが唯一の発明者であり
実際に製作するに当たっては,自らDを通じて㈱下出に製作を依頼したか
のような供述をし,その前提として,原告は,Yから,装置の製作に関し
て,製作費の上限のない自由な製作権限を与えられており,原告が創作し
た装置の製作に関しては,被告の関与なく発注することが可能であり,費
用についてはすべて被告が負担することとなる立場にあったと主張し,こ
れに沿う供述をする。
しかしながら,乙14の伸縮ケーシングに関する絹田熔工作成の書面の
宛先は,被告のHとされているほか,伸縮ロッドの図面についても,注文
主欄には被告の名称が記載されていること,本件で原告が主張する装置以
外に原告の開発に係る装置を原告が被告の関与なく製作した事例について
の立証が一切ないことによれば,原告に上記のような権限があったと認め
ることはできない。
したがって,原告の伸縮ロッドの開発に関する寄与についても,原告の
主張を採用することはできない。
被告が主張するように,原告は,Yの指示で,小坂重機サービスのDと
共に,㈱下出に赴き,㈱下出のFに対して装置の概要を説明したことはあ
ったとしても,そもそもロッドを伸縮させるというアイディア自体は,被
告の複数の従業員からの要望に基づくものであるし,被告は杭の撤去等の
工事業者であって,重機の製造会社ではないのであるから,そのアイディ
アを基にした具体的な構成は,前記認定のとおり,被告の依頼に基づいて
小坂重機サービスのD及び㈱下出のFが創作したものと認めるのが合理的
である。
以上の理由により,前記認定に反する原告の供述は採用できない。
()本件特許発明3について3
ア本件特許発明3の経緯等
前記第2の1の当事者間に争いのない事実等に,証拠(甲4,122,
乙1ないし5,9ないし23,29ないし34〔各枝番を含む,38,〕
39,証人I,同L,同M,同B,同H,同N,原告本人,被告代表者本
人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。
(ア)被告は,平成10年6月,神戸市が発注し,株式会社カンキが受注
した神戸第七突堤の現場におけるペデスタル杭の引き抜き工事を同社の
下請けとして受注した。ペデスタル杭とは貫通式の場所打ちコンクリー
ト杭の一種であり,その特徴は,ポイントの付いた鋼管を打ち込み,そ
の上部にコンクリートを圧入して球根状とし,そこに鉄筋を挿入してコ
ンクリート杭を作成するため,杭の先端の球根状のコンクリート塊と,
その上部のコンクリート柱が一体化していない点にある。
そこで,被告社内においては,Y,被告代表取締役N,被告専務取締
役L,M,A,Hらによって,ペデスタル杭を引き抜くことができる
装置の構造が話し合われた。その際,同人らは,被告が平成7年4月
にR特許事務所から取り寄せていた株式会社武智工務所の有する特許
権(特願昭57−75861号。発明の名称「杭の引抜方法)に係る」
特許公報記載の構成を参考にした。その結果,本件明細書3の実施例
にほぼ近い装置についての構想がまとまり,Hがその図面を作成し,
平成10年6月5日,AがHから預かった図面を基にカム溝のついた
爪の型紙を作成し,それを塚口鋼板に持ち込んで,同型紙による爪を
4個注文した。Aは,同日,実験用に用いる爪のことも考えて,さら
に上記爪を2個追加注文した。
塚口鋼板は,同日,被告に対し,全長400㎜,カム溝の長さ160
㎜,厚さ50㎜の爪を普通鋼材で4個,同サイズの爪を特殊鋼材で2
個作成し,納品した(甲122)が,当時,原告は,市岡下水の現場
で作業をしていた(乙34。)
なお,本件特許発明3に関する被告社内で話合いが行われた際,原告
は,その場に居合わせたことはあったが,具体的な構造に関する提案
をしたことはなかった。
(イ)被告は,平成10年6月23日,神戸第七突提の現場において,ケ
ーシング削孔を行っていたが,途中でケーシングが予定どおり入って
,,いかなくなり先行削孔作業が必要ではないかとの提案がされたため
原告が現場の下見に来た。その後,上記装置を用いて杭の引き抜き作
業を行ったが,直径600㎜のケーシングでは先端の杭がちぎれてう
まく引き抜くことができなかった。
その後も被告は,Aを直接の注文者とし,同人を通じて,塚口鋼板に
複数の爪の作成を依頼し,カム溝の形状について様々な試作品を作っ
た。
,,,被告は同年7月末ごろケーシングを直径800㎜のものに替えて
再度杭の引き抜きができるか実験をした。しかし,このときも,爪の
位置が杭の先端に合わなかったことと,爪の取付位置にある関節が一
つしかなかったため,うまく杭を引き抜くことができなかった。
被告は,同年8月,上記装置のケーシングを直径700㎜のものに変
更した。また,爪の取付位置にある関節を,Uの提案により2か所に取
り付けることにしたところ,神戸第七突提の現場で,初めて杭の引き抜
き作業に成功した。なお,被告は,同年8月以降,爪の硬度を強化する
ために,爪の背の部分に表面硬化加工を施すようになったが,それ以前
には,同加工を施したことはなかった。さらに,被告は,同年10月こ
ろ,大阪府守口市内のNTTの現場でのペデスタル杭の撤去工事におい
て,上記装置の実験を行い,関節部分に保護カバーを付けるなどの細部
における工夫を施していった。
そして,そのころ,L及びHは,上記装置の図面を作成して,被告に
在籍していたOに説明し,同人がR特許事務所に出向いて技術内容を説
明し,その結果,同年11月20日に本件出願3がされた。
本件出願3は,平成11年11月2日に,実願昭53−68931号
(出願日昭和53年5月22日,考案者及び実用新案登録出願人Q)
のマイクロフィルムに,本件特許発明3の請求項1及び3に係る発明
と同様の発明が記載されていることを理由に拒絶理由通知が発せられ
た。
被告は,拒絶理由通知の原因となった文献を取り寄せ,内容を確認し
た結果,請求項を三つから一つに減らし,特許請求の範囲を限縮した
結果,特許査定を受けることができ,平成7年10月17日特許登録
された。
被告は,特許登録後直ちに本件特許3に係る特許証を被告の事務所に
掲示するとともに,平成14年4月,本件特許3装置を用いた工法に
ついて,本件特許3の特許登録番号及び同装置の図面を付して「OK,
工法」と銘打って,雑誌「基礎工」2002年4月号にその広告を掲
載した。
イ本件特許発明3の技術的思想について
(ア)前記第2の1の当事者間に争いのない事実等のとおり,本件特許発
明3の特許請求の範囲は「打込機に連結され,既設杭の最大外径より,
,,も大きい内径をもつ円筒状のケーシングとこのケーシングの下部に
油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられ
たチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置において,上記油圧シリ
ンダは上記ケーシングの上部に取付けられ,この油圧シリンダのロッ
ド端部と上記チャック爪とを連結ロッドで連結してあり,上記チャッ
ク爪は円弧状のカム溝を有し,このカム溝を上記ケーシングの下部に
固定した軸に挿通してあり,上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結
ロッドが上昇することにより上記チャック爪が上記ケーシング外に略
垂直姿勢に退出し,上記油圧シリンダの伸長動作で上記連結ロッドが
下降することにより上記チャック爪が上記ケーシング内に略水平姿勢
に突出するようにしてなることを特徴とする既設杭の引抜き装置」と。
いうものである。
(イ)そして,本件明細書3(甲4の2)には,次の記載がある。
「従来の技術】既設杭の引抜き方法が,例えば,特公平3−572【
47号公報に開示されている。……その引抜き方法は,既設杭を囲む
円筒状のケーシングをこのケーシングの下端が前記既設杭の下端より
も下方に位置する深さにまで打ち込むとともに,前記ケーシング内の
既設杭まわりの土を水やベントナイト等の泥土化剤で泥土化し,次い
で,前記ケーシングの下端部に取付けた係止突起をケーシング内に向
けて突出させた後に,ケーシングに引抜力を加えて既設杭の下端に当
接する前記係止突起により既設杭に押上げ力を加えることで既設杭を
引抜く方法であって,これによれば引張強さが大きく低下している既
設杭もこの全部を引抜くことができるというものである(1頁右欄。」
8行∼2頁左欄9行)
「発明が解決しようとする課題】しかるに,上記既設杭の引抜き方【
,法では係止突起を突出操作するにあたり油圧シリンダが採用されるが
その油圧シリンダは,係止突起と同じようにケーシングの下端部に装
着されており,これではケーシングの打込み後係止突起をケーシング
内に向けて突出させるといっても,その突出状態を地上で確認するこ
とができないため,係止突起が既設杭の下端に達しないまま,あるい
は既設杭の下端に当接しないまま既設杭が引抜かれることがあり,既
設杭の全部を引抜くという所期の目的を達成できない場合が生じる。
またケーシングの下端部に取り付けられた油圧シリンダはケーシング
の打込み時に土砂との摩擦抵抗で破損や損傷を加えられやすいという
問題がある。
本発明は,このような問題を解決するためになされたもので,その目
的とするところはチャック爪のケーシング内への突出動作の確認を可
能にすることにより既設杭の全部引抜きを全うすることができ,また
チャック爪操作用の油圧シリンダの保護を図れる既設杭の引抜き装置
を提供するにある(2頁左欄11行∼29行)。」
「作用】油圧シリンダはケーシングの上部に取付けているため,既【
設杭に対してケーシングを打込み後チャック爪をケーシング内に向けて
突出させる時にその油圧シリンダの伸長状態を地上で明確に確認するこ
とができ,この確認によりチャック爪が既設杭の最下端の下方に完全に
突出したか否かを知ることができる。したがって,チャック爪が既設杭
の最下端の下方に突出しないまま該既設杭を引抜くこと,つまり既設杭
が途中でちぎれ,その下部を残したまま引抜かれるのを防止することが
できる(2頁左欄49行∼右欄8行)。」
「発明の効果】本発明によれば、チャック爪をケーシング内に突出【
操作するのに用いられる油圧シリンダはケーシングの上部に取付けてあ
るので、ケーシングの打込み時にも該油圧シリンダは土砂の抵抗を受け
ることがなくてその保護を図れるばかりか、チャック爪がケーシング内
に突出していることを容易に確認することができて既設杭の全部引抜き
を全うできる利点がある(3頁右欄45行∼4頁左欄1行)。」
(ウ)証拠(乙29)によれば,特公平3−57247号の特許公報の第4
図,第5図には,ケーシングの下端部より係止突起を突設させ,ケーシン
グ下端部付近に設けた油圧シリンダによる駆動で杭の下端に該突起を当接
させることによって杭に押上げ力を印加する杭の引き抜き装置に係る発明
が開示されていると認められる。
(エ)以上によれば,従来の既設杭の引き抜き方法では係止突起の突出操作
をする油圧シリンダが係止突起と同じケーシングの下端部に装着されてお
り,係止突起をケーシング内に向けて突出させる際にその突出状態を地上
,,で確認することができないため係止突起が既設杭の下端に達しないまま
あるいは既設杭の下端に当接しないまま既設杭が引き抜かれることがあ
り,既設杭の全部を引き抜くという所期の目的を達成できない場合が生じ
るという技術的課題があったところ,本件特許発明3は,その課題解決手
段として,油圧シリンダをケーシングの上部に取り付け,この油圧シリン
ダのロッド端部とチャック爪とを連結ロッドで連結し,チャック爪に設け
た円弧状のカム溝をケーシング下部に固定した軸に挿通し,油圧シリンダ
の伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内
に略水平姿勢に突出するという構成を採用し,ケーシングの打込み時に油
圧シリンダが土砂の抵抗を受けることがなくその保護を図れるとともに,
チャック爪がケーシング内に突出していることを容易に確認することがで
きるという効果を奏するものである。したがって,本件特許発明3の技術
的思想は,この点にあると認めることができ,これらの構成があることに
よって,同発明が特許登録されるに至ったものと認めることができる。
ウ原告の発明者性について
そこで,原告が,本件特許発明3の上記技術的思想の創作行為に具体的
に貢献し,加担したかどうかについて検討するに,前記アの認定事実によ
れば,本件特許発明3の上記技術的思想の中核的部分を構成する油圧シリ
ンダをケーシングの上部に取り付けるという技術的思想を創作したのはH
であって,原告がこれに関与していないことが明らかである。そして,そ
の余の技術的思想の創作にも原告が関与したと認めることはできない。し
たがって,原告が本件特許発明3の発明者であるということはできない。
エ原告の主張について
原告は,次のとおり主張する。すなわち,原告は,平成10年5月30
日,自ら型紙を製作して,塚口鋼板のIに対し,二つのチャック爪を溶断
するように依頼し,Iの溶断したチャック爪二つのうちの一つの爪に鉄筋
,,を溶接しチャック爪とブラケットにピンを通して実験を開始したところ
カム溝の幅が十分に確保されていなかったためチャック爪が鋼管内にスム
ーズに挿入されなかった。そして,原告は,再度,塚口鋼板を訪れ,Iに
対して,45Cという堅い鋼材のものと普通鋼のものを,それぞれ二つ注
文するとともに,原告は,J及びKに対し,チャック爪と鋼管の接触を回
,。,避するため鋼管の開口部を上下5㎝ずつ広げるように指示した原告は
Pとともに,倉庫から一輪車を持って製作依頼した四つのチャック爪をa
取りに行き,再度,挿入実験を行い,平成10年6月4日・6日・13日
・17日・18日・19日・27日やその間の日曜日に,倉庫あるいはa
b倉庫において,本件特許発明3装置に使用する油圧ジャッキ,ブラケッ
トを初めとする様々な部材集めや基本部位の製作等を行い,本件特許発明
3を完成させた。そして,原告が,塚口鋼板に対して溶断を依頼したこと
により,平成10年5月30日に製作された爪が甲81の爪であるが,そ
の背中の加工は後から施されたものであり,関節部も当初関節部が一つの
,,ものが取り付けられていたが関節部が二つのものに取り替えられている
と。
しかしながら,証拠(甲81)によれば,甲81の爪は,長さ約600
㎜,幅約100㎜で,カム溝の長さが約200㎜あることが認められると
ころ,これは,塚口鋼板の帳簿(甲122)に記載された,平成10年6
月5日欄の爪の長さ及びカム溝の長さの手書きの記載とは明らかに異なる
ものである。
しかも,原告は,自らが誰からの指示も受けずに製作した本件特許発明
3装置を,被告もほぼ同時期に製造していたことを認めるが,原告が被告
からの指示も受けずに製作した爪を,平成10年8月以降に,わざわざ強
化加工を施したり,関節部を2個に増やして,実際に施工現場で使用する
ことは想定し難いから,甲81の爪は,別の時期に製作されたものと推認
するのが自然である。
その上,原告は,塚口鋼板の被告に対する平成10年6月5日付けの請
求書(乙32の3枚目)に記載の爪は,実際には,同年5月30日に納品
,,。されたものであると主張しまた塚口鋼板のIもこれに沿う供述をする
しかし,通常,請求書は納品書と複写式で記入して作成されるものである
ところ,Iは,実際の納品日より遅れて請求書を作成していたと原告の主
張に沿う証言をするが,Yは,納品書と請求書は複写式であった旨供述し
ている上,取引の経験則上,注文を受けた製品を納品して初めて義務の履
行となることによれば,後々,いつ義務を履行したのかを明らかにするた
めには,納品日を明確にする必要があるものである。そして乙32の納品
書は,被告に対する平成10年6月締めの4枚の請求書の綴りであって,
各請求書の日付は,平成10年5月28日が1枚,6月5日が1枚,同月
19日が2枚となっており,上記日付は,塚口鋼板の帳簿の日付と一致し
ていて,塚口鋼板が別途,納品日を控えた形跡もないことによれば,上記
日付けは,実際に被告に納品した日を記載したものと認めるのが相当であ
る。この認定に反する原告及び証人Iの供述は信用できない。
,(),「」また平成10年6月5日付けの請求書乙32の3枚目にはA
との名前が手書きで記載されていることによれば,Aが直接受け取ったと
(),,,認められるところ被告代表者本人前示アで認定したとおり原告は
本件特許発明3に係る爪が塚口鋼板から納品された平成10年6月5日に
は市岡下水の現場に出ていて倉庫にはいなかったのである。a
したがって,原告の本件特許発明3装置の製作過程に関する供述は,上
記の点において不自然,不合理であり,全体として信用することができな
いものというべきである。
その他,被告が本件特許発明1,2については原告を発明者の1人と明
示して特許出願していること等にかんがみれば,被告が,原告が本件特許
発明3の技術的思想の創作に貢献し,これに加担しているのに殊更これを
隠ぺいして本件出願3に及んだとは認め難く,他にそのような事情の存在
。,,を窺わせるに足りる証拠は存在しない以上によれば原告の上記供述は
原告が本件特許発明3の発明者とは認められないとした前記認定を左右す
るものではないというべきである。
2争点2(原告は,本件各特許発明の特許を受ける権利を被告に承継させた
か)について。
前記第2の1の当事者間に争いのない事実等のとおり,本件特許発明1及び
同2が原告にとって職務発明に該当すること,被告の就業規則その他の勤務規
則には,従業員が行った職務発明につき,被告が特許を受ける権利を承継する
旨の定めが存在しないことは,当事者間に争いがない。
そこで,以下,原告が被告に対し上記各特許発明に係る特許を受ける権利の
共有持分を承継させたか否かについて検討する。
原告の陳述書(甲7)には,広島組が,ヒット工法(スクリューによって地
盤を撹拌し,緩んだ地盤に杭をねじ込むという工法)を発明して特許権を取得
し,同工法を独占することにより急成長したのを見て,自らも特許権を取得し
ようと考えたとの陳述記載がある。
このように,原告は,特許権の取得について強い関心を有していたというの
であるから,その手続についても関心を持っていたはずである。さらに,原告
は,本件特許1及び同2に係る特許証が被告事務所に掲示されていたことは自
ら認める供述をしておきながら,発明者にYも記載されていることや,出願手
続及び年金の支払いを自らは何ら負担していないことについて疑問を持たなか
ったというのは不自然である。
上記の事情に照らせば,原告は,本件特許発明1及び同2の特許を受ける権
利の共有持分を被告に承継させたものと認めるのが相当である。
そして,原告が本件特許発明3の発明者であると認めることができないこと
は既に判示したとおりであるから,同発明の特許を受ける権利が原告に帰属し
たことがないことは明らかである。
以上によれば,原告の被告に対する主位的請求中,本件特許権1ないし3の
移転登録請求は,いずれも理由がない。
3争点3(不当利得返還請求権の可否,4(相当対価支払請求権の有無及び)
額)について
()不当利得返還請求について1
,,,上記のとおり原告は本件特許発明1及び2の共同発明者の1人であり
各特許発明の特許を受ける権利の共有持分を被告に承継させたと認められ
る。本件特許発明3については,原告はそもそも発明者とは認められない。
したがって,被告が本件各特許発明を実施することにより得た利益は,法
律上の原因に基づくものであることが明らかであって,原告との関係で不
当利得を構成するものではない。
よって,原告の主位的請求のうち,不当利得返還請求として,被告に対
し,金7000万円の支払を求める部分は理由がないことが明らかである。
そこで,以下,原告の予備的請求である本件各特許発明を被告に承継させ
たことによる相当対価の額について検討するが,本件特許発明1を実施す
ることにより得た利益が存在しないことは前記当事者間に争いのない事実
等のとおりであり,本件特許発明3については原告は発明者とは認められ
ないので,結局,本件特許発明2に関してのみ相当対価の額を検討すべき
ことになる。
()本件特許発明2により被告が受けるべき利益の額2
ア総説
特許法35条3項は「従業者等は,契約,勤務規則その他の定により,
職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継さ
せ,又は使用者等のために専用実施権を設定したときは,相当の対価の支
払を受ける権利を有する」と,同条4項は「前項の対価の額は,その発。
明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使
用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」と規定する。。
特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」
とは,使用者等が従業者等の職務発明に関する特許権について無償の通常
実施権を有すること(同条1項)からして,単に当該発明を実施すること
により得るべき利益をいうものではなく,これを超えて,使用者等が従業
者等から特許を受ける権利を承継して特許を得た結果,発明の実施を排他
的に独占することによって得られる利益(独占の利益)をいうものと解さ
れる。例えば,使用者等が他社に当該特許発明を実施許諾していない場合
には,特許権の効力として他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基
づいて使用者等があげた利益がこれに該当する。
従業者等が,職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させ
た場合には,その承継のときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得す
るものである(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集5
7巻4号477頁)から,相当の対価の額の算定の基準とすべき時点は,
その承継時である。そして,相当の対価の算定に当たって考慮すべき使用
者等の「受けるべき利益」とは,その文言が「受けた利益」とはされてい
,,ないことからして使用者等が権利承継後に現実に取得した利益ではなく
権利承継時に客観的に見込まれる利益の額のことを指すと解される。ただ
し,特許権は,その存続期間を通じて特許発明の実施を独占することので
きる権利であるから,独占の利益も,特許権の存続期間が終了するまでの
間に使用者が上げる超過売上高等に基づく利益を指すものである。もっと
も,この独占の利益の存否及び額の判断に当たっては,特許を受ける権利
が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発
明により使用者等が将来得ることができる利益をその承継時に算定するこ
とも極めて困難であることからすると,権利承継後の事情をしんしゃくし
て事後的に算定することは許容されるというべきである。
相当の対価は,上記のようにして算定された独占の利益に「その発明,
がされるについて使用者等が貢献した程度(特許法35条4項)や,共」
,。同発明者が存在する場合には各共同発明者の寄与も考慮して算定される
イ被告が得た独占の利益の額
(ア)はじめに
被告が本件特許発明2を他社に対して実施許諾したことがなく同発明
について実施料収入がないことは,当事者間に争いがない。
そこで,被告が本件特許発明2装置を使用した工事を自社で独占的に
実施し,本件特許権2の効力として他社に本件特許発明2の実施を禁止
したことに基づいて,被告の売上げが増大したのか否かについて,検討
する。
(イ)独占の利益の算定に当たって対象とすべき工事について
上記(ア)の点にかんがみると,まず,被告が他社に対して,本件特許
権2に基づいていかなる行為を禁止したのかが問題となる。この点に関
し,原告は,本件特許発明2装置を使用して施工したことが,すべて本
件特許発明2の「実施」に該当するから,当該工事の売上高はすべて独
占の利益の算定対象になると主張するのに対し,被告は,自社実施にお
いては本件特許発明2を「使用」しているにすぎないから,独占の利益
の算定対象は,本件特許発明2の目的を達成するような方法で,かつオ
ーガ軸伸縮機構及びケーシング伸縮機構の双方を用いる態様で本件特許
発明2装置を使用して施工した工事の売上高に限られると主張してい
る。
そこで検討するに,特許権者が,他社に対して,特許権に基づき禁止
,「」(,できる行為は当該特許発明を実施する行為である特許法68条
100条1項。物の発明の場合,特許発明の「実施」とは,その物の)
「生産「使用「譲渡等「輸入又は譲渡等の申出」のいずれかに」,」,」,
該当する行為である。被告は,本件特許発明2装置を生産し,又は譲渡
することによって利益を上げているわけではなく,同装置を使用して工
事を行うことによって利益を上げているものである。したがって,被告
が得た独占の利益の算定に当たっても,他社が施工する工事が本件特許
発明2装置を使用するものである場合に,これを本件特許権2に基づい
て禁止することによって得た超過売上高を基に独占の利益を算定するべ
きである。
そこで,本件特許権2によって第三者が禁止される工事とは何かが問
題となる。
特許発明の実施としての「使用(特許法2条3項1号)とは,発明」
の本来の目的を達成するような方法で当該発明に係る物を用いることを
いうものと解するべきである。すなわち,特許発明に係る物を用いた場
合であっても,これをその発明の目的を達成しないような方法で用いる
のであれば,特許発明の実施としてその物を「使用」したということは
できないというべきである。
本件明細書2(甲3の2)の上記各事項の記載欄によれば,本件特許
発明2の目的は,既設建物を解体した後,地中に残るコンクリート杭や
コンクリートパイル等(判決注・パイル」とは杭のことである。広辞「
),苑第5版を破砕して除去する既設コンクリート杭の撤去装置に関して
従来,オーガ軸及びケーシングの長さが一定で調節不可能であるために
生じる不具合を解消するためのもので,そのような技術的課題を解決す
る手段として,オーガ軸の長さを調節するオーガ軸伸縮機構と,ケーシ
ングの長さを調節するケーシング伸縮機構を備える点等に特徴を有する
ことが認められる。したがって,本件特許発明2を「使用」したという
ためには,既設コンクリート杭を破砕し,除去するための工事に同発明
に係る装置を使用した場合でなければならないというべきである。
,,さらに本件特許発明2に係る装置の使用に該当するというためには
その前提として,本件特許発明2のすべての構成要件を充足する装置を
使用する工事でなければならない。本件特許発明2に関していえば,オ
ーガ軸伸縮機構及びケーシング伸縮機構双方を備えた装置をいい,上記
目的に沿って,双方の機構を実際に用いる態様の工事であることが必要
であるというべきである。
原告は,別紙図3の砂置換工法等の既設コンクリート杭の撤去以外の
目的のために,本件特許発明2装置を使用した場合も,本件特許発明2
の使用に該当すると主張するが,既に判示したとおり,採用することは
できない。
なお,原告は,いわゆるノウハウも特許法35条にいう職務発明に該
当することがあるから,伸縮ケーシングのみを使用した工事であったと
しても,その売上げを相当対価額の算定対象とするべきであるとの主張
をする。確かに,いわゆるノウハウが職務発明として相当の対価の支払
い対象となることがあることは一般的には原告が指摘するとおりであ
る。しかし,本件における伸縮ケーシングや伸縮ロッドのように,装置
(物)に関する発明の構成の一部であって,それ自体について特許出願
もノウハウとしての秘匿もなされず,公開特許公報の図面の記載や,発
明の詳細な説明に関する記載によって一般に公開される程度の発明につ
いては,それのみによっては,使用者の独占の利益が法律上も事実上も
生じることはないというべきである。したがって,本件特許発明2に関
しては,原告の上記主張は採用することはできない。
(ウ)算定対象となる工事の売上高について
,,以上によれば本件特許発明2に係る独占の利益の算定に当たっては
被告における同発明に係る装置の「使用」に該当すると認めることがで
きる工事,すなわち,既設コンクリート杭の撤去工事であって,かつ,
オーガ軸伸縮機構及びケーシング伸縮機構を実際に用いる態様の工事の
売上高をしんしゃくするのが相当である。
そして,原告は,別紙図1,図2,図3,図4,図5,図8及び図9
が伸縮ケーシング及び伸縮ロッド双方を使う工法であると認めている
が,このうち既設コンクリート杭の撤去工事のための工法であるのは,
同別紙によれば,別紙図1及び図2のみであると認められる。
そして,被告が本件特許発明2使用工事の売上高であると認める,別
紙年度別完公表,及び被告が本件特許発明2使用工事であると認める別
紙図1及び図2に関する売上高は前記第3の4の被告の主張欄に付記し
たように合計1億0381万6333円である。
(エ)超過売上高
,,被告の得た独占の利益の額は本件特許発明2の使用を被告が独占し
他社にその使用を禁止したことによって得た超過売上高を求め,これに
基づいて算定することとなるので,以下,超過売上高の算定に影響を与
えると考えられる諸要素について検討する。
a先行技術の存在,市場における独占の程度
甲3の2本件特許発明2の特許公報には従来技術に関してコ(),「
ンクリート杭の破砕装置は,所謂ロックオーガであって,回転駆動手
段が2台のモータにて構成されており,一方のモータにオーガ軸を連
結し,他方のモータに鋼管からなるケーシングを連結している。そし
て,オーガ軸の下端部にコンクリート杭の頭端面を破砕する破砕刃を
設けるとともに,ケーシングの下部周縁にコンクリート杭の外周土壌
を掘削する掘削刃を形成している(1頁右欄11行∼2頁左欄3。」
行)との記載がある。すなわち,従来から,既設コンクリート杭の撤
去装置は存在しており,本件特許発明2は,その従来技術に,ケーシ
ング及びオーガ軸の伸縮機構を設けた点に特徴がある。
しかしながら,証拠(乙56,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨
によれば,被告においては,前記のヒルストーン工法を採用し,長尺
のコンクリート杭の場合は,ケーシングとスクリューを順次継ぎ足し
ながら杭を破砕していくので,本件特許発明2装置がなければ長尺杭
の破砕撤去ができないわけではなく,オーガ軸伸縮機構も,伸長する
長さが1.2mまでにとどまる上,長く伸長させた場合,スクリュー
による排土機能がなくなるため,長く伸長させて杭を破砕撤去するこ
とは現実には難しいことが認められる。また,その結果,本件特許発
明2装置の使用に該当すると認めることができる工事(二軸同軸式ア
ースオーガー機使用工事)の売上高も低いものにとどまっており,実
際の施工において本件特許発明2装置をオーガ軸伸縮機構とケーシン
グ伸縮機構とを交互に作動させながら破砕したり,相当長尺のコンク
リート杭をオーガ軸伸縮機構とケーシング伸縮機構を伸長させること
により,一度の作業で撤去するといった本件特許発明2の特徴を活か
した工事が行われたことはないことが認められる。
したがって,本件特許発明2は,元来,上記先行技術の改良発明に
当たるものであったが,登録後は(なお,登録前に本件特許発明2装
置の使用に該当する工事が施工されたと認めるに足りる証拠はな
い,本件特許発明2の特徴だったはずの長尺杭の破砕撤去等に関。)
しても代替的技術手段が存在したことが認められる。
b被告が本件特許発明2の実施により得た売上高
被告が本件特許発明2装置を使用して,前記の意味で本件特許発明
2を実施したものに該当する工事の売上高が1億0381万6333
円であることは,前記認定のとおりである。
そして,本件特許発明2の実施に該当する工事は,平成11年1月
期から平成16年1月期の決算期において売上げを発生させてきたも
のであるが,その間の被告におけるすべての完工高は以下のとおりで
あると認められる(乙47。なお,被告の事業年度は,毎年2月1日
から翌年1月31日までである。乙48の1ないし3。)
平成11年1月期13億8038万2000円
平成12年1月期14億3566万円
平成13年1月期14億9080万7000円
平成14年1月期18億0590万6000円
平成15年1月期18億5920万6000円
平成16年1月期14億0172万1000円
合計93億7368万2000円
したがって,上記期間内のすべての完工高に占める本件特許発明2
の実施に該当する工事の割合は,1.1%である。
103,816,3339,373,682,0000.011÷≒
なお,特許権者が当該特許権の存続期間満了時まで独占の利益を得
ることが認められる場合には,将来得る独占の利益も相当の対価の算
定に当たってはしんしゃくすることができる。しかしながら,本件に
おいては,本件特許発明2を使用したことを争わない工事がなされた
のは平成16年1月期までの間である。他方,被告は,本件特許発明
2装置を本件特許発明2の使用に該当する態様で用いる予定はないと
主張しており,現に平成17年1月期及び平成18年1月期並びに平
成19年1月期においては,同装置を本件特許発明2の使用に該当す
る態様で使用したとは認められないこと(乙50の1ないし12〔各
枝番を含む)によれば,本件における本件特許発明2の相当の対価〕
の算定において将来分の独占の利益をしんしゃくするのは相当ではな
いというべきである。
c超過売上高
被告の独占の利益を算定する前提として,本件特許権2により競業
他社に同特許発明の実施を禁止していることに起因する被告の超過売
上高を検討する。
上記a及びbによれば,本件特許発明2は,従来技術の改良発明で
ある上に,代替的技術手段も存在する。その他,被告が,本件特許発
明2により,長尺杭や,傾斜している杭の撤去工事の市場においてい
かなるシェアを占めているのか,他社がいかなる技術を有しているの
かを示す的確な証拠はないが,上記事情に照らせば,被告は,長尺杭
や傾斜している杭の撤去工事の市場において,特に優位な地位を保っ
ているとまで認めることはできず,競合他社も,各社独自の技術でこ
れらの杭の撤去工事に従事しているものと推認することができる。ま
た,既に判示したとおり,本件特許発明2装置の使用に該当する工法
の範囲は比較的狭く,しかも本件特許発明2の目的に沿っての使用は
実用に耐え難いことに照らせば,あえて同特許発明の目的のために,
同特許発明の実施許諾を得ようとしながらも被告からその許諾を得ら
れず,本件特許権2が存在するために同特許発明の実施を禁止される
競合他社が存在する割合は,低いと認めざるを得ない。
上記事情に照らせば,被告が本件特許発明2の実施により得ていた
超過売上高は,上記bの売上高のうちの20%と認めるのが相当であ
る。
(オ)独占の利益の算定方法
上記超過売上高に基づいて,本件特許発明2についての被告の独占の
利益を算定することとする。その方法としては,①被告が上記超過売上
高から得る利益を算定する方法と,②被告が競合する第三者に本件特許
発明2の実施を許諾した場合を想定して,その場合に得られることが予
想される実施料収入により算定する方法が考えられる。
本件においては,上記①の方法をとるのに必要な本件特許発明2を実
施した工事における被告の利益率も不明であり,同方法を採用すること
はできない。そこで,②の方法により,被告の独占の利益を算定するこ
ととする。
(カ)本件特許発明2の実施料率
前記のとおり,仮に被告が第三者に本件特許発明2の実施を許諾して
いれば,前記超過売上高のうち少なくとも20%に当たる工事は第三者
により施工されていたものと認められる。
そして,次に問題となるのが実施料率である。この点については,甲
123(実施料率〔第5版)によれば,建設技術分野におけるイニシ〕
ャルなしの場合の実施料率の平均値は,3.5%であると認められるこ
と,本件特許発明2は,前記(エ)cにて認定したような市場における優
位性を見出すのが困難な特許発明であること,ケーシング伸縮機構かオ
ーガ軸伸縮機構のいずれか一方のみを用いることは,本件特許権2の侵
害とはならないこと等を考慮すると,第三者に実施許諾したと仮定した
場合の実施料率は2%とするのが相当である。
(キ)使用者の貢献度
前記認定事実によれば,伸縮ケーシングに関する提案は,原告が最初
に行ったものと認めることができるが,その後,伸縮ケーシングの製作
に当たる絹田熔工を選定し,費用を負担したのは被告である。また,後
述するようにオーガ軸伸縮機構については,原告が提案したとは認めら
れず,被告の従業員らの提案に基づき,㈱下出において具体化したもの
であるところ,これらの製作費用もすべて被告が負担したものである。
また,特許取得手続及びその費用についても,被告がすべて負担したも
のである。
また,被告は,原告に対して,毎月の給与の他に,技術指導手当ある
いはその他の手当名目で,10万円ないし30万円程度の手当を支給し
ていた(乙58の1ないし37。)
以上の諸事情を考慮すれば,本件特許発明2についての被告の貢献度
は,90%とするのが相当である。
(ク)共同発明者間での寄与度
aケーシング伸縮機構について
前記認定事実のとおり,原告は,平成2年8月ころ,Y及びHに対
し「ケーシング取付けをワンタッチで着脱できる道具を会社で作っ,
てほしい」と要望し,その後,Hからの多段式にした方がよいとの。
アイディアを受けて,Hと2人でT字型の切れ込みを複数入れる構造
を想到して,絹田熔工のCに対して,全長1.5mから2mの上部ケ
ーシングに字型の切れ込みを30㎝間隔で複数段入れて,下部ケT
ーシングには,左右どちらにも掛かるヨーカンを3か所設ける構造を
説明したものである。その後,Cは構造を変更した方がよいと提案し
たが,被告から拒絶されたため,強度計算などを行い,三重構造で,
かつ,T字型の切れ込みを20㎝間隔にするなどの改良を施して,被
告に納品したものである。また,当初はT字型の切り込みは6段であ
ったが,後に8段の製品も納品された。
このように,実際に製品化するに当たっては,絹田熔工によって改
良が加えられたが,本件特許発明2の特許請求の範囲及びその特許公
報記載の図面には,ケーシング部分を三重構造とすることなどは示唆
,,,されておらず結局強度面に関する工夫を施した上記技術的構成は
本件特許発明2の技術的範囲には記載されていない。さらに,T字型
の切れ込みを何段にするかについては,本件特許発明2に係る特許請
求の範囲の上では限定されておらず,この点も,原告及びHの共同発
明者としての寄与率を減殺する理由にはならない。
他方,原告及びHの間の共同発明者間の寄与度は,多段式にすると
いうHのアイディアを具体化するに当たって原告も寄与したものと認
められることによれば,相互に概ね等しいものと認めるのが相当であ
る。
bオーガ軸伸縮機構について
オーガ軸伸縮機構については,前記認定事実のとおりであり,原告
は,複数いる被告の従業員の1人として,オーガ軸伸縮機構の製作に
関するアイディアを提供した可能性は否定できず,さらに,小坂重機
のDとともに,㈱下出のFに,製作するオーガ伸縮機構の概要につい
て説明したことは認められるが,これを超えて,原告が従来技術にな
いオーガ軸伸縮機構に関する構成について創作したと認めるに足りる
証拠はない。
c結論
オーガ軸伸縮機構とケーシング伸縮機構との本件特許発明2におけ
る寄与割合は,オーガ軸伸縮機構が杭の撤去にはさほど寄与していな
いこと,ケーシング伸縮機構についても,ケーシングを後から追加す
ることも可能であることを考慮すると,両機構の寄与割合は同等と認
めるのが相当である。
そして,上記のとおり,ケーシング伸縮機構に関しては,原告とH
が,発明者として概ね同等の割合で寄与していることによれば,原告
の本件特許発明2における共同発明者間の寄与率は25%と認めるの
が相当である。
(ケ)本件特許発明2についての相当の対価の額
以上によれば,本件特許発明2に係る特許を受ける権利の共有持分を
被告に承継させたことによって,原告が被告から受けるべき相当の対価
の額は,以下の計算式により1万0382円となる。
()1億0381万6333円本件特許発明2の実施による工事売上高
×20%超過売上高×2%実施料率×100%−90%被()()()(
告の貢献度控除)×25%(共同発明者間の寄与率)
=1万0382円(1円未満四捨五入)
(コ)被告の主張について
被告は,原告に対して技術指導料等の名目で,既に原告に対して本件
特許発明2に係る特許を受ける権利の承継を受けたことに対する対価は
支払済みであると主張する。
しかしながら,証拠(乙58の1ないし37)によっても,被告が原
告に対して支給してきた手当の額が,本件特許発明2の承継を受けたこ
とを前提に支払われたものであるかは判然としない。他に被告の上記主
張事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告が本件特許発明2の特許を受ける権利を承継したこ
との対価として,これらの手当を原告に対して支給していたと認めるこ
とはできず,被告の上記主張は採用できない。
4結論
以上によれば,原告の主位的請求は理由がないから,いずれも棄却すること
とし,原告の予備的請求は,職務発明である本件特許発明2の特許を受ける権
利(持分)を被告に承継させた相当対価額1万0382円及びこれに対する訴
え変更の申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成17年7月2
8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度において理由がある(なお,原告は,附帯請求として訴状送達の日の翌
日である平成17年2月23日以降の遅延損害金の支払を求めるが,訴状で原
告が請求しているのは主位的請求たる不当利得返還請求であり,予備的請求た
る職務発明の対価請求を遅滞に陥れるものではない。同請求の附帯請求は,同
請求をした訴え変更の申立書の送達の日の翌日である平成17年7月28日以
降の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものというべきである)か。
ら認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官田中俊次
裁判官西理香
裁判官西森みゆき
(別紙)
特許目録
1登録番号第1978209号
出願年月日平成3年6月17日
登録年月日平成7年10月17日
発明の名称既設コンクリート杭の撤去装置
2登録番号第1978770号
出願年月日平成3年7月29日
登録年月日平成7年10月17日
発明の名称既設コンクリート杭の撤去装置
3登録番号第3052135号
出願年月日平成10年11月20日
登録年月日平成12年4月7日
発明の名称既設杭の引抜き装置
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
別紙
本件特許発明2使用工事一覧表−1
別紙
本件特許発明2使用工事一覧表−2
別紙
年度別完工高表
別紙
工事マスター該当番号一覧表

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