弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役9年に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,埼玉県新座市ab丁目c番d号所在のパチンコ店「A」で働くコーヒ
ーの女性販売員に好意を抱いたが,同店の男性店員にその交際を妨害され,他の店
員らからもその妨害を止めないなど嫌がらせをされたものと思い込み,前記男性店
員や同店を恨むようになって,次第にその怒りを募らせた。そのため,被告人は,
ガソリンで満たしたペットボトル(500mℓのもの)とカセットコンロ用ガスボン
ベ6本を組み合わせた火炎びん複数個を作り,営業中の同店の建物内にトラックで
突入して同建物を損壊した上,その火炎びんを使用して同建物に放火することを決
意した。
そこで,被告人は,
第1平成21年4月24日午前10時55分ころ,普通貨物自動車を運転して,
前記パチンコ店1階西側出入口前から,同出入口に設置された自動ドア目掛け
て同車を突入させ,その結果,株式会社B(代表取締役C)所有の自動ドア4
枚及び建具ガラス4枚を損壊し(損害額合計236万2500円相当,もっ)
て,他人の建造物を損壊した。
第2第1の犯行に引き続き,営業中のため現に多数の人がいる前記パチンコ店店
舗(鉄骨造陸屋根2階建,床面積合計約1327㎡)の1階遊技場内に停止し
た前記自動車の中で,前記火炎びん2個にライターで火を着けた上,これを同
自動車の窓から同遊技場の床に投げて爆発,炎上させ,もって,火炎びんを使
用して人の生命,身体及び財産に危険を生じさせるとともに,その火を床や柱
に燃え移らせ,その結果,現に人がいる建造物の床等(焼損面積約2.5㎡)
を焼損した。
(証拠の標目)
省略
(判示第2の事実に関する補足説明)
被告人は,火炎びんを投げたのは,あくまでトラックを走らせようとする通路内
に人を立ち入らせないためである,火炎びんを投げて,少しは燃えると思ったが,
燃えない建材を使った建物であることは分かっていたし,ガソリンが飛び散ること
はないと思っていたから,燃え広がることはないと思っていたなどと,放火しよう
とする意思が弱かったかのような供述をしている。
しかしながら,関係各証拠によれば,本件火炎びんは,ガソリンで満たした50
0mℓ入りペットボトルとカセットコンロ用ガスボンベ6本を組み合わせたものであ
り,その火力及び爆発力は,燃焼再現実験のとおり,相当強力なものであったこと
が認められる。しかも,被告人は,本件火炎びんの威力がそのように強力なもので
,,あると認識していたことは認めているほか設備工の経験があったとも述べており
本件パチンコ店のような耐火構造の建築物で使用する建材についてはそれなりに知
識があったとうかがわれる。その上,前記のように,被告人自身も少しは燃えると
思っていたというのである。したがって,そのような被告人が,非常に強い威力の
本件火炎びんに自ら点火して同店舗内に投げたのであるから,少なくとも本件火炎
びんを投げた床付近一帯を焼損させる強い意思,つまり強固な放火の故意のあった
ことは明らかである。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
1本件は,パチンコ店の店員や店自体に対して恨みを抱いた被告人が,営業中
の同店の出入口から建物内にトラックで突入して同建物を損壊した上,自ら作った
火炎びん2個に点火して店内の床に投げて爆発,炎上させ,火炎びんを使用すると
ともに同建物に放火したという建造物損壊,現住建造物等放火,火炎びんの使用等
の処罰に関する法律違反の事案である。
2当裁判所が,被告人の刑を決める上で最も重視したのは,本件犯行の危険性
・凶暴性と結果の重大性である。
(1)被告人が作った火炎びんは,前記のような構造であり,その燃焼再現実験
にあるとおり,発火すれば,繰り返し火柱を上げ大音響を発しながら爆発,炎上し
て,ガスボンベの破片を周囲に飛び散らすなど,その火力や爆発力が相当に強力な
ものであった。しかも,被告人は,本件パチンコ店に突入したトラックに,そのよ
うに火力や爆発力が非常に強い火炎びんを5個も作って積み込んだばかりか,カセ
ットコンロ用ガスボンベ33本も共に積み込んでおり,被告人が用意した発火物の
威力は極めて強力なものであった。
そして,被告人は,本件火炎びんの威力が燃焼再現実験の程度は行くと思ってい
た,本件犯行の際には,トラックごと店内に突入して,床に火炎びんを投げた上,
トラックを店の機械室にぶつけて,パチンコ台を制御するコンピュータを破壊し,
さらに,中央の柱にもぶつけて,建物を使用不能にした後,トラックに積んだガス
ボンベの爆発によって自爆し,自らの肉片を店内に飛ばそうとした,などと述べて
いる。このように,被告人は,自ら用意した発火物の威力を十分に認識しながら,
営業中のパチンコ店内で危険極まりない犯行に及ぼうとしたのであり,本件は,極
めて危険かつ凶暴な犯行というべきである。
(2)実際に生じた結果を見ても,被告人が本件犯行を行った際,本件パチンコ
店内には,パチンコ台を操作していた客が122人おり,それ以外にも,店員12
。,,人及び若干数の客等がいたことがうかがわれるそうした店内に向けて被告人は
トラックを突入させ,前記のような強力な火炎びん2個を店内の床に投げて爆発,
炎上させ,さらに,引火した火炎びん3個及びトラックに積み込んだガスボンベ3
3本も次々と爆発,炎上し,店内には黒煙が立ちこめ,しかもその間,被告人がト
ラックをカウンターに衝突させようと店内で走行させるなどした結果,多数の客や
店員らが逃げまどう状況を生じさせており,本件犯行が店内にいた多数の客や店員
らの生命や身体の安全に及ぼした危険は極めて切迫した重大なものであった。
さらに,本件パチンコ店は,1階及び2階に設置されていたすべてのパチンコ台
(420台)及びスロット台(119台)が燃えたり黒煙や消防活動に伴う放水に
よって使用不能となり,建物も,焼損したり広範囲に塗装が剥がれるなどして全面
的に内装をやり直さざるを得なくなって,合計約5億6000万円の損害が生じた
ほか,改装して店舗を再開するまでの3か月余りの間営業できなかった逸失利益が
約7800万円に及び,しかも,再開後も,客足が落ちたというのであって,財産
的被害も甚大である。
加えて,店内にいた多数の客や店員らは,何らの落ち度もないのに,突然,生命
の危機にさらされ,また,同店の店長も,本件犯行に基づく心労や過労によって,
1か月余り仕事を休むことを余儀なくされているのであり,同店長は,建物は元に
戻せても,客や従業員の心の傷は一生消えないと述べるなど,本件犯行が関係者に
与えた精神的苦痛も深刻である。
したがって,本件犯行による結果も誠に重大である。
(3)弁護人は,本件火炎びんを投げたのは,店を壊すことを邪魔されないため
に,客や店員を怖がらせるためであること,本件パチンコ店は耐火構造であったか
ら,燃え広がる力はないこと,焼損面積も約2.5㎡(建物全体の約0.18%)に
すぎなかったことを指摘して,本件は大きな放火事件ではない旨主張している。
しかし,前記のように強力な威力の火炎びんを多数の客や店員のいるパチンコ店
内で投げれば,仮に人に向けて投げなくても,周囲にいる人の生命や身体の安全に
重大な危険を生じさせることは明らかであり,被告人も,客や店員に怪我をさせる
可能性があると認識していたことは認めている。しかも,焼損面積が比較的少ない
のは,本件パチンコ店が耐火構造であった結果にすぎないのであり,その内装や備
品類はすべて使用不能となっている。さらに,本件では,燃焼力だけでなく爆発力
も強い火炎びんが2個使用された上,さらに,火炎びん3個及びガスボンベ33本
,,,,が誘爆しているのであり本件は火炎びん使用の点はもちろん放火の点からも
重大な事件とみるほかはなく,弁護人の主張は理由がない。
(4)以上のように,本件犯行は,極めて危険かつ凶暴なものであるとともに,
その結果は誠に重大であるところ,被告人は,自ら積極的にこのような犯行を計画
して周到に準備し実行したのであるから,本件犯行の重大さに見合った刑を受ける
必要がある。
3(1)被告人は,本件犯行の動機や経緯として,本件パチンコ店で働くコーヒ
ーの女性販売員(以下「コーヒーレディ」という)に好意を抱き交際を求めよう。
としたが,同店の店員であるDから妨害され,他の店員らもこれを止めなかったこ
とから,Dや店自体に対する恨みを抱いて,本件犯行を決意した旨述べている。
そして,被告人は,Dからコーヒーレディとの交際を妨害されたと考えた根拠と
して,行きつけのスナックのホステス(E」のF)から,Dが被告人の悪口をぺ「
らぺら女性に言っているから付き合えないのだ,と言われたこと,Dに対し,その
ことを問い詰めたところ,Dは,別の女性の話を始めたので「その子じゃない」,
と言うと,Dは,絶句した後「ホステスと話し合う」と言ったことの2つの事実,
を指摘している。
,,,(2)しかし被告人の供述によっても悪口の内容は明らかにされていないし
被告人は,スナックのママには,別の女性が好きだと話していたというのである。
しかも,被告人は,1回Dを問い詰めた以上に,Dにもホステスにも事実関係を確
かめようとしないまま,Dを一方的に恨んだというのである。
他方,Dは,被告人から,問い詰められた際,被告人がコーヒーレディが好きで
あると初めて知った,その後,ホステスに確認したが,ホステスは,そんなことは
絶対にない,と否定したと証言している。
そうすると,被告人が好意を寄せる女性について,被告人とDとの間に認識の違
いがあったため,Dが絶句した上「ホステスに確認してみる」と話したとも考え,
られるのであり,ホステスが全面的に否定していることも考慮すると,被告人がD
を恨む根拠としては薄弱なものというほかない。
,,,,(3)ところが被告人はそれ以上に事実関係を確かめようとすることなく
一方的にDに対する怒りを募らせていったばかりか,その供述によっても,他の店
員らも,コーヒーレディの態度が変わったことから,嫌がらせをしているものと思
い込み,本件パチンコ店に対する怒りも高じさせて,本件犯行を決意したものであ
る。
したがって,被告人が本件犯行を決意した動機や経緯は,全く筋違いというほか
なく,酌量の余地はない。そして,被告人は,前記のように薄弱な根拠から,コー
ヒーレディとの交際が進展しないことについて,過度に被害的に受け止めて,自ら
の思い違いを正そうとすることなく,いきなり本件のように危険かつ凶暴な犯行計
画を思い付き,それを約1年間も温め続け,準備を重ねた末,自らの命を賭けてま
で犯行を実行しているのであり,被告人が自らのこのような問題性を自覚しない限
り,粗暴行為の再発が懸念される。
(4)弁護人は,被告人が地道な暮らしを続けてきたこと,正式裁判は初めてで
あること,相談できる人がいることを理由に,被告人は,事件を繰り返す人ではな
いと主張する。
しかし,被告人は,今も,Dに対する思い込みを改めることができず,恨みがあ
ると供述している。しかも,被告人は,平成元年に,ささいなことからタクシー運
転手を殴って怪我をさせたとして罰金刑に処せられ,平成20年7月には,酒に酔
って怪我を負わせたとして検挙された前科や前歴があり,粗暴な一面のあることも
否定できない。さらに,被告人自身,友人や親しく話す人はほとんどいないことを
認めており,親身になって被告人の相談に応じてくれる人にも恵まれていないとい
わざるを得ない。
そうすると,弁護人の主張も理由がない。
,,,,4他方弁護人指摘のとおり被告人は一時のホームレス生活から立ち直り
本件当時も,古紙回収業を営みつつ,地道に生活を続けていた。また,被告人が人
に向けて火炎びんを投げ付けようとしたとは認められず,本件で死傷した者もいな
い。被告人の前科は,平成元年の傷害罪による罰金前科のみであり,正式起訴され
るのは本件が初めてである。被告人と同業のGが情状証人として出廷し,被告人が
社会復帰した際には,仕事や住まいの世話をして,その更生に協力すると述べるな
ど,被告人のため証言している。被告人は,本件パチンコ店やその客,店員に申し
訳ないことをしたと述べて,被告人なりの反省の態度を示している。本件の背景事
情として,被告人が友人や親しく話す人のほとんどいない孤独な生活をしてきてお
り,日ごろの不満やうっ憤を解消する機会に乏しかったことも指摘できる。本件に
より既に半年近く身柄を拘束されている。その他,被告人のために酌むべき事情も
認められる。
5(1)しかしながら,このような被告人のために酌むべき事情を十分に考慮し
ても,本件犯行の危険性や凶暴性,結果の重大性,犯行に至る経緯や動機に酌量の
余地がないことからすると,被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。
(2)弁護人は,放火の事案に関する従前の量刑傾向に照らし,本件では,懲役
,。,5年以上では重すぎるのであり懲役4年が相当であると主張するそして確かに
弁護人指摘のような量刑傾向のあることが認められる。
しかし,本件は,単なる放火事案ではない。本件の特徴は,非常に火力や爆発力
の強い火炎びんが用いられており,本件建物が耐火構造であったため,建物の焼損
面積こそ限られていたものの,建物内にいた多数の人々の生命や身体に対する危険
は非常に大きなものがあり,さらに,前記のように建物内のすべての内装や備品類
を使用不能にするほど甚大な財産的損害も生じさせているのである。したがって,
本件犯行がもたらした公共の危険は,一般の放火事案のそれを上回るものがあり,
実際に生じた被害が甚大であることからも,弁護人の主張は,採用することはでき
ない。
(3)そして,本件犯行のこのような特徴を踏まえ,検察官の求刑も参考とし,
弁護人の主張にも十分配慮して,本件についての被告人の刑を検討すると,懲役9
年が相当との結論に達した。
なお,当裁判所としては,被告人に対し,服役に当たっては,本件パチンコ店の
関係者らに多大な迷惑を掛けたことを心から反省するとともに,今後は勝手な思い
込みから本件のような重大な犯罪に及ぶことなく,慎重に行動する姿勢を身に付け
た上社会復帰を果たして欲しいと強く希望するものである。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役10年)
さいたま地方裁判所第2刑事部
(裁判長裁判官中谷雄二郎,裁判官,裁判官岩田瑶子)松田俊哉

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛