弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
上告代理人三窪洋三,同野平康博の上告受理申立て理由(ただし,排除されたもの
を除く。)について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 平成12年8月27日施行の鹿児島県大島郡a町議会議員選挙(以下「本
件選挙」という。)においては,定数20人のところに上告人らを含む25人が立
候補した。
(2) 同日午前10時55分,不在者投票合計184票(男子分87票,女子分
97票)が,第2投票所の投票管理者に送致され,うち男子分87票は投票箱に入
れられたが,女子分97票(以下「本件97票」という。)は投票箱に入れられな
いまま,開票所で開票作業が進められ,同月28日午前1時35分ころ,選挙会に
おいて,開票結果は原判決別紙候補者氏名等一覧表記載のとおりであるとして,上
告人らを含む20人が当選人と定まった。最下位当選人(2人)と最高位落選人と
の得票差は20票であった。
(3) 選挙会終了後の同日午前2時35分ころ,第2投票所のゴミ袋の中から不
在者投票用内封筒に入った状態の本件97票が発見された。
(4) 本件選挙の落選人4人は,同月29日,a町選挙管理委員会(以下「町選
管」という。)に対し,選挙の効力につき異議の申出をしたが,町選管は,同年1
0月3日,これを棄却する旨決定した。
(5) 同異議申出人らは,同月19日,被上告人に対し,同決定を不服として審
査の申立てをしたところ,被上告人は,同年12月20日,本件選挙を無効とする
裁決をした。
(6) 町選管は,平成13年3月5日,a町議会の臨時議会で本件97票の点検
を求める旨の議案が可決されたことを受けて,同日,その保存に係る本件97票に
つき内封筒を開いて(町選管が開いたのは94票で,3票については既に開かれて
いた。),その結果が部外者に知られる状態で投票用紙の記載内容を点検した(以
下「本件点検」という。)。
2 本件は,上告人らが上記(5)の裁決の取消しを求めたものであるところ,原
審は,以下のとおり判示して,上告人らの請求を棄却した。
(1) 本件選挙の最下位当選人と最高位落選人との得票差は20票であるから,
本件97票が公職選挙法施行令63条3項に違反して投票箱に入れられなかった違
法は,選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあり,本件選挙は無効とすべきものであ
る。
(2) 上告人らを含む原審原告らは,本件97票の内訳を明らかにしてその存在
が選挙の結果に異動を及ぼすおそれのない事実を立証するため,本件97票の検証
,町選管に対する本件点検の結果についての調査嘱託,本件97票に係る不在者投
票者の証人尋問,同不在者投票者作成の陳述書についての書証等の申出をしたが,
無効票と確定された投票内容を選挙終了後に調査しその投票内容いかんにより選挙
の結果を左右するような手続は公職選挙法(以下「法」という。)の予定していな
いところであること等から,これらの申出はいずれも採用することができない。
3 論旨は,原審が上記申出に係る証拠を取り調べた結果に基づいて選挙の結果に
異動を及ぼすおそれの有無を判断すべきであるのにこれをしなかったことには,法
205条1項の解釈適用を誤った違法があるというものである。
4 そこで,検討するに,法は,開票手続について,市町村の選挙管理委員会はあ
らかじめ開票の場所及び日時を告示しなければならず(64条),選挙人はその開
票所につき開票の参観を求めることができる(69条)として,開票事務の公開を
定め,また,公職の候補者は開票立会人となるべき者1人を市町村の選挙管理委員
会に届け出ることができ(62条1項),開票には開票立会人の立会いを要し(6
6条),投票の効力は開票立会人の意見を聴いて開票管理者が決定する(67条)
として,候補者の利益代表及び一般選挙人の公益代表の見地から開票事務が公正に
行われているか否かを監視させることとしている。法は,同様に,選挙会の手続に
ついても,選挙管理委員会があらかじめ場所及び日時を告示し(78条),選挙人
はその選挙会の参観を求めることができる(82条)とし,また,公職の候補者は
選挙立会人となるべき者1人を届け出ることができ(76条,62条1項),選挙
会では,選挙長は,選挙立会人立会いの上,投票の点検結果についての開票管理者
の報告を調査し,各公職の候補者の得票総数を計算しなければならない(80条1
項)としている。そして,法の規定するところによれば,個々の投票の効力判定や
得票数の確定に関する判断に対する不服については,当選の効力に関する争訟(2
06条ないし209条)により,開票手続や当選人決定手続の選挙無効原因につい
ては,選挙の効力に関する争訟(202条ないし205条)により,それぞれ審理
するものとされている。
 以上の規定に照らせば,法は,開票手続,当選人決定手続及びその不服申立て手
続について厳格な定めを設け,所定の手続により,選挙人が表明した意思が確定さ
れることとして,選挙の公正を期しているものというべきである。
 そうすると,選挙の効力に関する争訟を審理する選挙管理委員会又は裁判所が,
無効票と確定された個々の投票の内容を取り調べて,いずれの候補者に対する投票
であるかを明らかにし,それを選挙人が表明した意思であるとして候補者別の得票
数に加算した上,その結果に基づいて法205条1項に定める選挙の結果に異動を
及ぼすおそれの有無を判断することは,実質的には法の定める手続によらずに投票
を開票して候補者別の得票数を確定し直すに等しいといわざるを得ない。無効票と
確定された個々の投票の内容について,いずれの候補者に対する投票であるかまで
は取り調べないが,当選者に投票したか否か,あるいは落選者に投票しなかったか
否かの限度で取り調べ,それを選挙人が表明した意思として取り扱って選挙の結果
に異動を及ぼすおそれの有無を判断することもまた,同様である。
 したがって,上記の取調べの結果を選挙人が表明した意思であるとして,選挙の
結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断することは,法の予定しないものとして,
許されないと解すべきである。
5 【要旨】以上によれば,投票管理者が公職選挙法施行令63条3項に違反して
投票箱に入れなかったために無効票と確定した本件97票の内容について,いずれ
の候補者に対する投票であるかを取り調べ,あるいは,当選者に投票したか否か,
落選者に投票しなかったか否かを取り調べ,それらの結果を選挙人が表明した意思
として取り扱って選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断することは,許さ
れないと解すべきである。
 そうすると,原審が前記2(2)の各申出を採用しなかったことは,正当という
べきである。そして,本件97票の票数が最下位当選人と最高位落選人との得票差
20票を上回る本件選挙においては,前記の違反は,選挙の結果に異動を及ぼすお
それがあるものということができる。これと同旨の原審の判断は,正当として是認
することができ,論旨は,採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田
邦夫)

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