弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成27年7月9日判決言渡
平成26年(行ウ)第98号行政文書部分開示決定処分取消等請求事件
主文
1内閣情報官が平成25年11月25日付けで原告に対してした,別紙「行
政文書目録」記載の行政文書の一部不開示決定(閣情第395号)のうち,
別紙「不開示部分一覧表」の2,7及び12の各部分をいずれも不開示と
した部分を取り消す。
2内閣情報官は,原告に対し,別紙「不開示部分一覧表」の2,7及び1
2の各部分の開示決定をせよ。
3本件訴えのうち,別紙「不開示部分一覧表」の1,3ないし6,8ない
し11の各部分の開示決定の義務付け請求に係る訴えを却下する。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1内閣情報官が平成25年11月25日付けで原告に対してした別紙「行政文
書目録」記載の行政文書(以下「本件行政文書」という。)の一部不開示決定
(閣情第395号。以下「本件一部不開示決定」という。)のうち不開示とし
た部分(別紙「不開示部分一覧表」記載の部分。以下「本件不開示部分」とい
う。)を取り消す。
2内閣情報官は,原告に対し,本件不開示部分の開示決定をせよ。
第2事案の概要
本件は,原告が,内閣情報官に対し,行政機関の保有する情報の公開に関す
る法律(以下「情報公開法」という。)に基づき平成25年10月24日付け
で本件行政文書の開示請求をした(以下「本件開示請求」という。)ところ,
同年11月25日,内閣情報官から,本件行政文書中の本件不開示部分を不開
示とし,その余の部分を開示する内容の本件一部不開示決定を受けたため,本
件一部不開示決定中の本件不開示部分を不開示とした部分の取消しを求めると
ともに,本件不開示部分について開示決定の義務付けを求める事案である。
1関係法令等
(1)情報公開法1条は,同法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示
を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層
の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全う
されるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主
的な行政の推進に資することを目的とする旨定めている。
(2)情報公開法3条は,何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長(同
法2条1項4号及び5号の政令で定める機関にあっては,その機関ごとに政
令で定める者をいう。以下同じ。)に対し,当該行政機関の保有する行政文
書の開示を請求することができる旨定めている。
(3)情報公開法4条1項は,同法3条の規定による開示の請求は,①開示請
求をする者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人その他の団体にあっ
ては代表者の氏名,②行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を
特定するに足りる事項を記載した書面を行政機関の長に提出してしなければ
ならない旨定めている。
(4)情報公開法5条は,行政機関の長は,上記(2)の開示請求があったときは,
開示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」とい
う。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行
政文書を開示しなければならない旨定めている。
同条が定める不開示情報で,本件に関係するものは,以下のとおりである。
ア3号
公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機
関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上
不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由
がある情報
イ6号
国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う
事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるお
それその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあるもの
(ア)監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務
に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な
行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ(同号イ)
(イ)契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方
公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位
を不当に害するおそれ(同号ロ)
(ウ)調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻
害するおそれ(同号ハ)
(エ)人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及
ぼすおそれ(同号ニ)
(オ)独立行政法人等,地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法
人に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ(同
号ホ)
(5)情報公開法17条1項及び行政機関の保有する情報の公開に関する法律
施行令15条1項(平成26年号外政令第195号による改正前のもの)は,
行政機関の長は,内閣情報官に上記(4)の権限又は事務のうちその所掌に係る
ものを委任することができる旨を定めており,内閣情報調査室長の上記(4)
の権限又は事務のうちその所掌に係るものは内閣情報官に委任されている。
2前提事実(当事者間に争いのない事実のほか,各項掲記の証拠(以下,枝番
のあるものは特記なき限り枝番を全て含む。)により容易に認定することがで
きる事実及び当裁判所に顕著な事実)
(1)ア(ア)カウンターインテリジェンスとは,外国による諜報活動を阻止し,
情報の漏えいその他の国益を害する事態を予防する活動をいう(乙9)。
(イ)カウンターインテリジェンスについて,関係行政機関相互の緊密な
連携を確保し,その強化に向けた施策の総合的かつ効率的な推進を図る
ため,平成18年12月25日,「カウンターインテリジェンス推進会
議の設置について」(同日内閣総理大臣決定)に基づいて,内閣官房長
官を議長として,内閣にカウンターインテリジェンス推進会議(以下「推
進会議」という。)が設置された。推進会議は,平成19年8月9日,
「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(以下「本
件基本方針」という。ただし,後記改定の前後を問わないものとする。)
を決定し,同名を表題とする文書にとりまとめた。本件基本方針は,同
文書中第2部Ⅰ(特別管理秘密に係る基準)に掲げる事項については平
成21年4月1日から,その他の事項については平成20年4月1日か
ら施行されている。なお,同文書は平成21年3月17日及び平成23
年12月6日にそれぞれ改定されている(本件行政文書は同日改定され
た後のものである。)。(甲3,6,22,27,乙1)
(ウ)本件行政文書の内容は,別紙「行政文書」のとおりであり,「第1
部総則」,「第2部政府統一基準」,「第3部カウンターインテ
リジェンス・センター」及び「第4部附則」の各項目で構成されてい
る。このうち,「第2部政府統一基準」は,「Ⅰ特別管理秘密に係
る基準」,「Ⅱカウンターインテリジェンスに関する情報の収集・共
有」,「Ⅲカウンターインテリジェンス意識の啓発」,「Ⅳ事案対
処」及び「Ⅴ管理責任体制」の各項目で構成されている。そして,「Ⅰ
特別管理秘密に係る基準」として,特別に秘匿すべき情報については,
物的管理として,最新の「政府機関の情報セキュリティ対策のための統
一管理基準」及び「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一技術
基準」(情報セキュリティ政策会議決定)の厳格な適用等を行うととも
に,人的管理として,秘密取扱者適格性確認制度,管理責任体制,秘密
保全研修制度を導入して,特別な管理を行い,秘密漏えいの絶無を期す
るものとするとし,「1特別管理秘密の定義」,「2物的管理」及
び「3人的管理」の各項目を設けている。また,「Ⅱカウンターイ
ンテリジェンスに関する情報の収集・共有」として,我が国政府のカウ
ンターインテリジェンス機能の強化のため,カウンターインテリジェン
ス・センターにおいて,カウンターインテリジェンスに関する情報を収
集及び分析し,その成果物を各行政機関で共有するものとするとし,「1
カウンターインテリジェンスに関する情報の定義」,「2情報収集」,
「3情報分析」,「4情報共有」及び「5調査等」の各項目を設
けている。(甲3,22,27)
(エ)本件行政文書は,その機密性についての格付けとして「機密性2情
報」とされており,また,「CI担当者限り」という取扱制限が付され
ている(甲3,22,27,乙9)。
イ(ア)内閣総理大臣は,平成22年12月7日付けで政府における情報保
全に関する検討委員会を開催することとし,同委員会委員長は,平成2
3年1月4日,同委員会の検討に資するため,各会の有識者から意見を
得ることを目的として,秘密保全のための法制の在り方に関する有識者
会議(以下「有識者会議」という。)を開催することとした。これに基
づいて開催された有識者会議において,同年8月8日,報告書(「秘密
保全のための法制の在り方について(報告書)」。以下「有識者報告書」
という。)がとりまとめられた。(甲14)
(イ)有識者報告書においては,「第3秘密の管理」として,「1秘
密の指定」,「2人的管理」及び「3物的管理」の3項目が設けら
れている。そして,上記「2人的管理」の項目には,「(1)適性評価
制度」,「(2)取扱者の指定」,「(3)管理責任体制」及び「(4)研
修」の各項目が設けられ,さらに,上記「(1)適性評価制度」の項目に
は,「ア適性評価制度の整備」,「イ適性評価の対象者」,「ウ実
施権者」,「エ評価の観点及び調査事項」,「オ調査事項の公開及
び評価基準の非公開」,「カプロセス」,「キ評価結果の有効期限」,
「ク適性の見直し」及び「ケ関係資料の適切な取扱い」の各項目が
設けられている(以下,「2人的管理」の中に設けられた「(1)適性
評価制度」等の各項目を総称して「有識者指摘適性評価制度諸項目」と
いう。)(甲14)。
(ウ)そして,上記「(1)適性評価制度」の「ア適性評価制度の整備」
中には,「(ア)適性評価制度とは」として,適性評価制度とは,秘密
情報を取り扱わせようとする者(以下「対象者」という。)について,
日ごろの行いや取り巻く環境を調査し,対象者自身が秘密を漏えいする
リスクや,対象者が外部からの漏えいの働きかけに応ずるリスクの程度
を評価することにより秘密情報を取り扱う適性を有するかを判断する制
度であるとし,「(ウ)我が国の現行制度の課題と法制の必要性」とし
て,我が国では,本件基本方針に基づき,政府統一基準として,平成2
1年4月から国の行政機関の職員を対象に秘密情報(特別管理秘密)の
取扱者に対して適性の評価を実施しているが,この制度では,①法令
上の位置付けが必ずしも明確でないこと,②国の行政機関の職員のみ
が対象となっており,国の行政機関からの委託により秘密情報を取り扱
う民間事業者等の職員が対象となっていないこと,③対象者本人から
十分な情報が得られない場合に,適性評価の実施権者(対象者が適性を
有していると認める権限がある者をいう。)が公私の団体に照会する権
限が明確でないことなどの課題がある(以下,これら3つの課題を「有
識者指摘諸課題」という。)とし,適性評価制度を我が国の秘密保全法
制の中で明確に位置付け,必要な規定を設けることは,特別秘密の保全
の実効性を高める観点から極めて重要であるとする(甲14)。
ウ平成25年9月3日に「特定秘密の保護に関する法律案の概要」(以下
「本件法案概要」という。)が公表された(甲18,弁論の全趣旨)後,
同年12月13日に特定秘密の保護に関する法律(同年法律第108号。
以下「特定秘密保護法」という。)が公布され,平成26年12月10日
に施行された(顕著な事実)。
なお,特定秘密保護法の施行に先立ち,同年10月14日,「特定秘密
の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るため
の基準」が定められている(甲39)。
(2)被告における秘密文書等の取扱いについて
被告においては,昭和40年4月15日付け事務次官等会議申合せにおい
て,秘密文書等の取扱いについて,概要,以下の申し合わせがされている(甲
30)。
ア秘密文書(秘密保全を要する文書)は,原則として次の種類に区分する
こと(2項)。
(ア)極秘秘密保全の必要が高く,その漏えいが国の安全,利益に損害
を与えるおそれのあるもの。ただし,「極秘」のうちその秘密保
全の必要度が極めて高度のものを「機密」とすることができるも
のとすること。
(イ)秘極秘につぐ程度の秘密であって,関係者以外には知らせては
ならないもの。
イ「極秘」の区分は,当該省庁の官房長,局長又はこれらの準ずる者が,
「秘」の区分は,当該省庁の課長又はこれらに準ずる者がそれぞれ指定し,
当該文書に作成部課名を表示すること。(3項)
ウ秘密文書を保管するときは,金庫等施錠のできる書庫に保管すること。
(9項)
(3)政府機関の情報セキュリティ対策のための統一規範
ア被告においては,「政府機関の情報セキュリティ対策の強化に関する基
本方針」(平成17年9月15日情報セキュリティ政策会議決定)を定め
ていたが,平成23年4月21日,これを廃止するとともに,新たに「政
府機関の情報セキュリティ対策のための統一規範」(同日情報セキュリテ
ィ政策会議決定。なお,平成24年4月26日改定。以下「統一規範」と
いう。)を定めた。統一規範には,以下の定めが存する。(甲34)
(ア)統一規範の対象となる政府機関は,法律の規定に基づき内閣に置か
れる機関若しくは内閣の所轄の下に置かれる機関,宮内庁,内閣府設置
法49条1項若しくは2項に規定する機関,国家行政組織法3条2項に
規定する機関若しくはこれらに置かれる機関(以下「府省庁」という。)
とする(2条1項)。
(イ)統一規範の対象となる情報は,情報処理及び通信に係るシステム(以
下「情報システム」という。)内部に記録された情報,情報システム外
部の電磁的記録媒体に記録された情報及び情報システムに関係がある書
面に記載された情報とする(2条2項)。
(ウ)統一規範の対象となる情報の格付の区分は,機密性,完全性,可用
性について,統一規範別表(後記(キ))に掲げるものとする(2条4項)。
(エ)各府省庁は,取り扱う情報に,機密性,完全性,可用性の観点から
格付を付さねばならない(14条1項)。
(オ)各府省庁は,情報の格付に応じた取扱制限の種類を定めなければな
らない(15条1項)。
(カ)各府省庁は,取り扱う情報に,上記(オ)で定めた取扱制限を付さね
ばならない(15条2項)。
(キ)機密性についての格付の定義(格付の区分・分類の基準)(なお,
完全性及び可用性についての各格付の定義は略)(別表)
a機密性3情報行政事務で取り扱う情報のうち,秘密文書に相当
する機密性を要する情報
b機密性2情報行政事務で取り扱う情報のうち,秘密文書に相当
する機密性は要しないが,漏えいにより,国民の権
利が侵害され又は行政事務の遂行に支障を及ぼすお
それがある情報
c機密性1情報機密性2情報又は機密性3情報以外の情報
イ政府機関の情報セキュリティ対策のための統一管理基準(平成24年度
版)
統一規範に基づき,政府機関が行うべき情報セキュリティ対策の統一的
な枠組みを構築し,それぞれの府省庁の情報セキュリティ水準の斉一的な
引き上げを図るため,「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一管
理基準」(以下「統一管理基準」という。)と「政府機関の情報セキュリ
ティ対策のための統一技術基準」(以下「統一技術基準」という。)が定
められた。そして,統一管理基準(平成24年度版)において(統一基準
の解説書においても同様),「取扱制限」とは,情報の取扱に関する制限
であって,複製禁止,持出禁止,配付禁止,暗号化必須,読後廃棄その他
情報の適正な取扱いを確実にするための手段をいうとされている。(甲3
5,36)
(4)原告による行政文書開示請求(本件開示請求)
ア原告は,平成25年10月24日付け(同月25日受付)で,内閣情報
官に対し,情報公開法の規定に基づいて本件行政文書の開示を請求した(本
件開示請求)(甲25,26)。
イ内閣情報官は,本件開示請求に対し,平成25年11月25日,以下の
とおり,本件一部不開示決定(同日付け閣情第395号)をした(甲26)。
(ア)部分開示した行政文書の名称
本件行政文書
(イ)不開示とした部分及びその理由
本件行政文書中,我が国の情報保全業務や事案対処要領のうち,具体
的な内容が記載されている部分については,公にすることにより,他国
機関等から対抗・妨害措置を講じられ,内閣情報調査室を含む政府にお
ける情報保全事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては
我が国の安全が害されるおそれがあることから,情報公開法5条3号及
び6号に該当するため,これを不開示とした(この不開示とされた部分
が本件不開示部分である。)。
(5)原告による訴えの提起
原告は,平成26年5月2日,本件一部不開示決定における本件不開示部
分の取消しに係る訴えを提起し,同年7月10日,本件不開示部分の開示決
定の義務付けを求める義務付けの訴えを追加した(当裁判所に顕著な事実)。
(6)別件(当庁平成25年(行ウ)第53号)の経過
アP1は,平成23年12月11日付け(同月14日受付)で,内閣情報
官に対し,情報公開法の規定に基づき,本件行政文書の開示を請求した(甲
1,2)。
イ内閣情報官は,上記アの開示請求に対し,平成24年1月13日,以下
のとおり,一部不開示決定をした(同日付け閣情第3号。以下「別件原決
定」という。)。
(ア)部分開示した行政文書の名称
本件行政文書
(イ)不開示とした部分及びその理由
本件行政文書中,我が国の情報保全業務や事案対処要領のうち,具体
的な内容が記載されている部分については,公にすることにより,他国
機関等から対抗・妨害措置を講じられ,内閣情報調査室を含む政府にお
ける情報保全事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては
我が国の安全が害されるおそれがあることから,情報公開法5条3号及
び6号に該当するため,これを不開示とした(別件原決定における不開
示部分は,別紙「行政文書」のマスキング部分のほか,下線部を付した
部分である。なお,同下線部を付した部分は,後に開示されている。)。
ウ(ア)P1は,平成24年2月9日,別件原決定を不服として,内閣総理
大臣に対し,別件原決定の取消しと不開示部分の開示を求める旨の審査
請求をした(甲4)。
これを受けて,情報公開法18条(ただし,平成26年法律第69号
による改正前のもの。)の規定に基づき,内閣総理大臣から情報公開・
個人情報保護審査会に諮問がされ,同審査会は,平成24年7月24日,
不開示部分の一部(以下のaないしeの部分)を開示すべきとする旨の
答申(平成24年度(行情)答申第129号)をした(甲5,6)。な
お,同答申は,不開示情報該当性について,本件行政文書のうち,以下
のaないしeの部分を除く部分には,特別な管理を行う対象とする情報
(特別管理秘密)の人的管理の体制,カウンターインテリジェンスに関
する情報の収集,分析及び共有の体制,各行政機関の職員が外国情報機
関の不審動向の対象となった場合又はそのおそれがある場合の対処要領
等が具体的かつ詳細に記載されていることが認められ,これを公にする
ことにより,我が国政府全体のカウンターインテリジェンスに係る情報
保全体制,能力等が推察され,各行政機関の職員等から不正に情報を入
手しようとする外国情報機関等による情報収集活動を容易ならしめるな
ど,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼし,
ひいては国の安全が害されるおそれがあると行政機関の長が認めること
につき相当の理由があると認められるので,情報公開法5条3号に該当
し,同条6号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当で
あるとする一方,以下のaないしeの部分については,既に開示されて
いる情報と同様の内容,内閣官房ホームページにおいて公表されている
情報と同種の内容等が記載されているにすぎず,これを公にしたとして
も,国の安全が害されるおそれ及び我が国政府全体の情報保全事務の適
正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められないことから,同条
3号及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきであるとした(甲6)。
a本件行政文書3頁の9行目及び10行目
b本件行政文書3頁の下から2行目ないし4頁の1行目
c本件行政文書6頁
d本件行政文書7頁の1行目ないし2行目19文字目及び4行目37
文字目ないし5行目
e本件行政文書8頁の2行目ないし3行目34文字目及び6行目ない
し9行目
(イ)内閣総理大臣は,平成24年7月26日,上記(ア)の答申の内容を
ふまえ,別件原決定において不開示とした部分のうち,同答申が開示す
べきとした部分について取り消すとともに,上記(ア)の審査請求のその
余の部分は棄却する旨の裁決(閣総企第67号)をした(甲8)。
エ(ア)内閣情報官は,平成24年8月24日,P1に対し,上記ウ(イ)の
裁決をふまえ,別件原決定において不開示とした部分のうち,同裁決が
取り消した上記ウ(ア)のaないしeの各部分(別紙「行政文書」中の下
線を付した部分(ただし,4頁16行目を除く。))を開示する旨の決
定(同日付け閣情第366号)をした(甲9,10)。
(イ)内閣情報官は,平成26年4月25日,P1に対し,別件原決定に
おいて不開示とした部分のうち一部を変更することとし,本件行政文書
の4頁16行目(別紙「行政文書」4頁16行目の下線を付した「イク
リアランス手続の構成」との部分)を開示する旨の行政文書変更開示等
決定(同日付け閣情第350号)をした(乙8)。
オP1は,平成25年2月27日,上記エ(ア)の決定のうち本件行政文書
の開示がされなかった部分の取消し等を求めて訴訟(当裁判所平成25年
(行ウ)第53号。以下「別件訴訟」という。)を提起し,同年7月19
日付けで別件原決定のうち開示がされなかった部分の取消し等を求める請
求を予備的に追加したが,別件訴訟の弁論に本件訴訟の弁論が併合された
後の平成26年7月18日に別件訴訟は取り下げられた(同月10日付け
訴えの取下書の提出及び同月18日付け同意書)(当裁判所に顕著な事実)。
3争点
(1)本案前の争点
本件義務付けの訴えの適法性
(2)本案の争点
本案の争点は,本件一部不開示決定の適法性であり,具体的には,本件不
開示部分に記録された情報の情報公開法5条3号及び6号該当性である。
4争点に対する当事者の主張
(1)本案前の争点(本件義務付けの訴えの適法性)について
(原告の主張)
後記(2)の原告の主張のとおり,本件一部不開示決定は違法であって取り消
されるべきであるから,本件開示請求に基づく本件不開示部分の開示決定を
求める本件義務付けの訴えは適法である。
(被告の主張)
本件開示請求は情報公開法4条1項に基づき請求権を行使するものである
から,本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号に規定するいわ
ゆる申請型義務付けの訴えである。申請型義務付けの訴えを提起する場合に
は,処分の取消訴訟等を併合提起する必要があると規定されているところ(同
法37条の3第3項),併合提起される取消訴訟等が適法なものであること
はもとより,その対象とされた処分等が取り消されるべきものであることな
どにより,当該取消請求等が認容されることが,申請型義務付けの訴えの適
法要件であると解される。したがって,当該取消訴訟等が不適法であるか,
取消請求等が棄却されるべきであるときは,併合提起された申請型義務付け
の訴えは,訴訟要件を欠くものとして却下されることとなる。
これを本件義務付けの訴えについてみると,後記(2)の被告の主張のとおり,
本件不開示決定は適法であり,その取消請求は棄却されるべきであるから,
本件義務付けの訴えは訴訟要件を欠く不適法なものである。
(2)本案の争点(本件一部不開示決定の適法性。具体的には,本件不開示部分
に記載された情報の情報公開法5条3号及び6号該当性。)について
(被告の主張)
ア主張立証責任の所在等
(ア)情報公開法5条3号は,我が国の安全,他国等との信頼関係及び我
が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の基本的な利益を
擁護するために政府に課された重要な責務であり,情報公開法制におい
ても,これらの利益は十分に保護される必要があることに鑑み,開示す
ることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損な
われるおそれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政
機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報を不開示情報とする
こととしている。そして,このような情報については,一般の行政運営
に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断に高度の政
策的判断を伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測と
しての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められること
をふまえ,司法審査の場においては,裁判所は,同号に規定する情報に
該当するかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,
その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか
(「相当の理由」があるか)どうかを審理・判断することが適当と考え
られるから,同号の不開示情報該当性に関する行政機関の長による判断
については,これが合理的な許容限度内である限り,適法というべきで
ある。
また,同条6号については,国の機関等が行う事務又は事業は,公共
の利益のために行われるものであり,公にすることによりその適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報については,不開示とする合理的な
理由がある一方で,国の機関等が行う事務又は事業は広範かつ多種多様
であり,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれのあ
る事務又は事業の情報を事項的にすべて列挙することは技術的に困難で
あり,実益も乏しいことに鑑み,同号は,各機関共通的に見られる事務
又は事業に関する情報であって,公にすることによりその適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを例
示した上で(同号イないしホ),これらのおそれ以外については,「そ
の他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障
を及ぼすおそれがあるもの」として,包括的に規定している。この「適
正な遂行に支障を及ぼすおそれ」における「支障」の程度は,名目的な
ものでは足りず,実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる
確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求される。
(イ)そして,情報公開法5条各号に該当することは,抗弁事実として,
原則として被告において主張立証すべきこととなるが,被告は,当該文
書の種類,性質,作成主体,作成機会など,第三者機関である裁判所に
おいて当該不開示部分が不開示情報に該当するか否かを判断するのに支
障のない程度の具体性をもって当該不開示部分の内容を特定することに
より,当該不開示処分の適法性を立証すれば足りると解すべきである。
とりわけ,同条3号所定の不開示情報については,その性質上,当該
情報が記載された行政文書の開示・不開示の判断に高度の政策的判断を
伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測としての専門
的・技術的判断を要することから,裁判所は,同号に規定する情報に該
当するか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重すべきで
あるから,その行政機関の長の判断が合理性を持つ判断として許容され
る限度内のものであるかどうか,すなわち,開示・不開示の決定に全く
事実の基礎を欠き,あるいは,社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁
量権の逸脱ないし濫用があると認められるかを判断すべきものである。
したがって,原告は,上記裁量権の逸脱又は濫用があったことを基礎づ
ける具体的事実について主張立証することを要すると解すべきである。
イ総論
(ア)本件不開示部分に記録された情報が不開示事由に該当すること
a本件行政文書は,外国による諜報活動を阻止し,情報の漏えいその他
の国益を害する事態を予防する活動であるカウンターインテリジェン
スに関する各行政機関の施策に関し,秘密管理の方式や漏えい事案が
発生した場合の対処方針などの必要な事項の統一を図るとともに,カ
ウンターインテリジェンス・センターその他カウンターインテリジェ
ンスに関する施策を推進する体制を確立し,国の重要な情報や職員等
の保護を図ることを目的として,平成19年8月,推進会議において
決定された文書である。すなわち,国の各行政機関が保有する国の安
全,外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項であって,公
になっていないもののうち,特に秘匿することが必要なものとして当
該機関の長が指定したものを,特別な管理を行う対象とする情報(特
別管理秘密)として,その物的管理及び人的管理の方式,カウンター
インテリジェンスに関する情報の収集及び共有の方式,各行政機関の
職員が外国情報機関の不審動向の対象となった場合又はそのおそれが
ある場合の対処方針等の基本方針を定めたものである。
そして,本件不開示部分には,特別管理秘密について,その人的管
理の体制,カウンターインテリジェンスに関する情報の収集,分析及
び共有の体制,各行政機関の職員が外国情報機関の不審動向の対象と
なった場合又はそのおそれがある場合の対処要領等に関する情報が具
体的かつ詳細に記録されている。このような情報を公にすれば,我が
国政府全体のカウンターインテリジェンスに係る情報保全体制,能力
等が推察され,各行政機関の職員から不正に情報を入手しようとする
外国情報機関等による情報収集活動を容易ならしめ,我が国の情報保
全対策に対する妨害行為や現行の対策内容に応じた攻撃手法の実行等
情報漏えいの危険性を高める事態を招き,ひいては我が国の安全が害
されるおそれがあることは明らかであるし,また,我が国政府全体の
情報保全に係る事務の適正な遂行ができなくなり,実質的な支障が生
ずることも明らかである。したがって,本件不開示部分に記録された
情報は,情報公開法5条3号及び6号に当たる。
bまた,情報公開・個人情報保護審査会は,諮問庁である内閣総理大
臣から提出された理由説明書(甲12)等により上記aと同旨の説明
を受け,情報公開・個人情報保護審査会設置法9条1項の規定に基づ
いて本件行政文書の提出を受けた上で,その結果を踏まえて,本件不
開示部分には,特別な管理を行う対象とする情報(特別管理秘密)の
人的管理の体制,カウンターインテリジェンスに関する情報の収集,
分析及び共有の体制,各行政機関の職員が外国情報機関の不審動向の
対象となった場合又はそのおそれがある場合の対処要領等が具体的か
つ詳細に記載されていると認定している。このことからも,本件不開
示部分に記録された情報が情報公開法5条3号及び6号に当たるとい
う上記aの結果が裏付けられる。
(イ)本件不開示部分の記載は抽象的とはいないこと
原告は,本件行政文書は,その分量からすると,有識者報告書の記述
をさらに要約し,簡潔にしたものであって,同報告書にも記載のないよ
うな具体的かつ詳細な事柄が記載されているはずはないなどと主張する
が,当該主張を裏付ける根拠は見あたらない。
(ウ)本件不開示部分の記載は公知性がないこと
a原告は,本件行政文書のうち,開示部分の体裁等から,本件不開示
部分の記載内容が推測可能であると主張する。しかし,内閣情報官は,
本件不開示部分の記載内容が開示部分とは異なり,秘匿されるべきも
のであるからこれを不開示としたのであるし,原告の推測は何ら根拠
を伴うものではない。仮に不開示部分の前後関係や体裁から当該部分
が「何について」記載されているか推測し得るとしても,具体的に「何」
が記載されているかが推測されるものではない。
bまた,原告は,有識者報告書と本件行政文書を比較対照することに
より,不開示部分①には,対象者,実施権者,評価の観点,調査事項,
プロセスといった内容が4項目に整理されて記述されていることが強
く推測されるなどと主張するが,いかなる者が対象者となり,実施権
者となるか,また,いかなる観点から評価するのか,いかなる事項が
調査事項となるのか,まさに当該項目の内実が問題となるのであって,
仮に「対象者」等が記載されていることが推測できるとしても,直ち
に記載されている内容が推測されるものではない。
cさらに,原告は,本件法案概要と本件行政文書を対比すると,本件
法案概要では,適性評価の事項が具体的に列挙されているのであるか
ら,本件行政文書の不開示部分が秘匿される必要はないと主張する。
しかし,本件法案概要において,適性評価の事項が記載されているか
らといって,なぜ本件不開示部分を開示しなければならないか不明で
あるし,この点を措いたとしても,本件法案概要における特定秘密に
係る「適性評価」に関する記載は,あくまで平成25年9月3日時点
における「特定秘密の保護に関する法律案」に含まれる適性評価に関
する政府の考え方を示したものであり,行政機関において現に実施す
ることとされている人的管理等の具体的な内容を明らかにしたもので
はないから,本件法案概要と本件行政文書とを比較対照することは無
意味である。
(エ)本件行政文書は適法に作成され,実施されていること(要保護性)
a本件行政文書の目的等は前記(ア)aのとおりであって,その作成及
び実施の過程は,各行政機関にまたがる共通の目的を達成するため,
関係する行政機関の責任者を構成員として会議を構成し,そこで方針
を定め,各行政機関において必要な施策を実施するという一般的な政
策達成スキームで行われており,各行政機関の幹部等で構成される推
進会議で基本方針を定めることは必要不可欠な措置である。平成21
年4月1日から実施されているこの制度は,あらゆる情報活動の前提
となる情報保全の徹底を図るという観点から必要であるし,適格性の
確認は,各行政機関において,職員の任用に関して任命権者の権限の
範囲内で実施しているから,必ずしも本人の同意を得て行う必要があ
るとはいえない。そして,被告は,本件行政文書に関する情報のうち
公にすることによって,我が国政府全体の情報保全事務の適正な遂行
に支障を来すおそれがあり,ひいては我が国の安全が害されるおそれ
がある場合を除き,情報公開に係る請求者に対して開示していること
はもちろん,内閣官房のウェブページ等を通じ,その概要を自主的に
公開しており,情報の提供も適切に行っている。したがって,本件行
政文書の作成及び実施に関して,何ら違法な点はない。
b原告は,本件行政文書と本件法案概要とを比較対照した上で,本件
行政文書は,法律の根拠なく,かつ対象者の同意のないまま,クリア
ランス手続,すなわち,調査対象者が特別管理秘密を取り扱うに当た
って信用できかつ信頼し得るか否かについての調査を行っている点で
二重の意味で違法な手続であると主張する。しかし,なぜ本件行政文
書における手続が違法になるのか不明であるし,仮に,手続の面で何
らかの違法があったとしても,そのような本件行政文書における違法
は不開示情報該当性の判断とは無関係である。情報公開法上,当該行
政文書の内容の妥当性等は不開示情報該当性判断の考慮要素とされて
いないし,実質的な観点からも,当該行政文書作成の経緯及びその内
容の妥当性,適法性といったことを問題にすべきではなく,当該行政
文書の開示・不開示の判断は,もっぱら当該行政文書に不開示情報が
記録されているかどうかという形式的な判断によってされるべきもの
である。
ウ各論
以下のとおり,本件不開示部分は,いずれも情報公開法5条3号及び6
号に該当する。
(ア)不開示部分①及び不開示部分②について
不開示部分①及び不開示部分②には,秘密取扱者適格性確認制度に係
るクリアランス手続の構成,手法等が記載されている。当該不開示部分
は,これを公にすることにより,どのような調査を行っているかが明ら
かとなり,我が国の情報保全対策に対する対抗・妨害措置を講じられる
おそれがある。したがって,政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂
行に支障を及ぼし,ひいては我が国の安全が害されるおそれがあるとい
え,また,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行ができな
くなり,実質的な支障が生ずるということができる。よって,不開示部
分①及び不開示部分②に記録された情報は,情報公開法5条3号及び6
号に当たる。
(イ)不開示部分③について
不開示部分③には,政府として収集するべき「カウンターインテリジ
ェンスに関する情報」の具体的内容が例示されて記載されている。もと
より,同不開示部分は,既に開示されている情報と同様の内容,内閣官
房ウェブサイトにおいて広報されている情報と同種の内容等が記載され
ている部分ではない。そうすると,不開示部分③は,これを公にするこ
とにより,我が国政府がカウンターインテリジェンスに係る業務推進上
どのような情報に関心を有しているかが明らかとなり,我が国の情報保
全対策に対する対抗・妨害措置を講じられるおそれがある。したがって,
政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼし,ひいては
我が国の安全が害されるおそれがあるといえ,また,我が国政府全体の
情報保全に係る事務の適正な遂行ができなくなり,実質的な支障が生ず
るということができる。よって,不開示部分③に記録された情報は,情
報公開法5条3号及び6号に当たる。
(ウ)不開示部分④ないし不開示部分⑥について
不開示部分④ないし不開示部分⑥には,カウンターインテリジェンス
に関する政府全体の情報収集,情報分析及び情報共有の手法等が記載さ
れている。これら不開示部分は,これを公にすることにより,我が国政
府がカウンターインテリジェンスに関する情報をどのような手法で収集,
分析及び共有しているかが明らかとなり,我が国の情報保全対策に対す
る対抗・妨害措置を講じられるおそれがあり,政府全体の情報保全に係
る事務の適正な遂行に支障を及ぼし,ひいては我が国の安全が害される
おそれがあるといえ,また,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適
正な遂行ができなくなり,実質的な支障が生ずるということができる。
よって,不開示部分④ないし不開示部分⑥に記録された情報は,情報公
開法5条3号及び6号に当たる。
(エ)不開示部分⑦について
不開示部分⑦には,カウンターインテリジェンス・センターにおいて,
諸外国における情報等を調査した上で作成する文書の具体的な名称等が
記載されている。同不開示部分は,これを公にすることにより,政府が
カウンターインテリジェンスに関する情報をどのような手法で共有化し
ているかが明らかとなり,我が国の情報保全対策に係る事務の適正な遂
行に支障を及ぼし,ひいては我が国の安全が害されるおそれがあるとい
え,また,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行ができな
くなり,実質的な支障が生ずるということができる。よって,不開示部
分⑦に記録された情報は,情報公開法5条3号及び6号に当たる。
(オ)不開示部分⑧ないし不開示部分⑪について
不開示部分⑧ないし不開示部分⑪には,外国情報機関による不審動向
に対する対処要領等が記載されている。これら不開示部分はこれを公に
することにより,外国情報機関による不審動向に対する対処要領が明ら
かとなり,我が国の情報保全対策に対する対抗・妨害措置を講じられる
おそれがあり,政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行に支障を及
ぼし,ひいては我が国の安全が害されるおそれがあるといえ,また,我
が国政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行ができなくなり,実質
的な支障が生ずるということができる。よって,不開示部分⑧ないし不
開示部分⑪に記録された情報は,情報公開法5条3号及び6号に当たる。
(カ)不開示部分⑫について
不開示部分⑫には,カウンターインテリジェンス・センターにおいて
作成する文書の具体的な名称等が記載されている。同不開示部分は,こ
れを公にすることにより,政府がカウンターインテリジェンスに関する
情報をどのような手法で共有化しているかが明らかとなり,我が国の情
報保全対策に対する対抗・妨害措置を講じられるおそれがあり,政府全
体の情報保全に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼし,ひいては我が国
の安全が害されるおそれがあるといえ,また,我が国政府全体の情報保
全に係る事務の適正な遂行ができなくなり,実質的な支障が生ずるとい
うことができる。よって,不開示部分⑫に記録された情報は,情報公開
法5条3号及び6号に当たる。
(原告の主張)
ア主張立証責任について
(ア)情報公開法5条3号の「相当の理由」には,①非公開とすべき必
要性があること,②非公開とすべき情報は未だに公知の事実ではない
こと,③秘密として保護するに値することが必要であるところ,「相
当の理由」の主張立証責任については,国の安全や外交を理由とする秘
密については濫用の危険性が高いことから,行政機関の判断の合理性に
ついて,行政機関(国)が主張立証責任を負担する。
そして,上記①については,当該行政文書を公開した場合,どのよう
な害悪が生じるかを検討して判断すべきであり,その際,国の安全や外
交関係といった抽象的な利益では不十分であり,具体的な説明が必要で
ある。また,上記③については,いかなる理由であれ,違法な行為を秘
密として保護すべき相当性はない。
(イ)情報公開法5条6号の「支障を及ぼすおそれ」の主張立証責任につ
いては,①開示義務を争う被告の側が,当該文書の外形的事実等を示
すなどして,当該文書に国の機関等が行う事務又は事業に関する情報が
記載されていること,及び,②これが開示されると,当該事務又は事
業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす具体的な蓋
然性(おそれ)があることを主張立証することが必要である。
イ総論
被告は,本件不開示部分に記録された情報が情報公開法5条3号及び6
号に該当することを明らかにできていない。むしろ,以下の(ア)ないし(ウ)
の事情によれば,本件不開示部分に記録された情報が公開されることによ
り,我が国の安全や我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正な遂行が
害されるおそれがあるなどといえるものではないし,仮にそのようなおそ
れがあるとしても具体的な蓋然性を伴うものではなく,抽象的なおそれを
いうものにとどまるから,本件不開示部分に記録された情報が情報公開法
5条3号及び6号に該当しないことは明らかである。
(ア)抽象性
a本件行政文書は,その記載から明らかなとおり,基本方針として,
カウンターインテリジェンスに関する各行政機関の施策に関し必要な
事項の統一と体制の確立を目的とするものであり,その性格は全行政
機関に横断的な抽象的かつ概括的な規定とならざるを得ない。また,
「基本方針」である本件行政文書と推進会議が承認する「秘密取扱者
適格性確認制度の実施に関するガイドライン」に加え,各行政機関が
作成する秘密取扱者適格性確認制度実施規程が存在することからすれ
ば,本件行政文書は基本方針として最上位の規範であるから,そのよ
うな最上位の規範である本件行政文書に,不開示事由に該当するよう
な具体的な事項が書かれることはあり得ない。とりわけ,本件基本方
針は,カウンターインテリジェンス・センター設置の組織規範(根拠
規定)でもあるところ,組織規範(根拠規定)に記載されるレベルで
の当該機関の業務の記載について,国民に説明できないような不開示
事由に該当する記載が存するはずがない。
b本件行政文書は,公務員が秘密情報を扱う場合のマニュアルという
べきところ,マニュアルには概括的な内容しか記載されていないこと
は明らかであって,本件行政文書を開示したとしても,情報保全体制
や能力等が推察されることはなく,非公開とされる理由が存しない。
被告は,本件行政文書のうち,秘密取扱者適格性確認制度に係るク
リアランス手続の要点等の特別管理秘密の人的管理の体制,カウンタ
ーインテリジェンスに関する情報の収集,分析及び共有の体制等の対
処要領等,我が国の情報保全業務や事案対処要領の具体的な内容が詳
細に記載されていると主張するが,本件行政文書の総頁数は12頁に
すぎず,また,本件行政文書に記載されている項目も,各項目につき
10行以内の分量しか記載されていないから,その内容が詳細かつ具
体的なものに及んでいるとは到底考えられない。また,秘密取扱者適
格性確認制度は,政府において検討が進められていた適性評価制度と
対比することができ,これによっても本件行政文書の内容が予想され
る。そして,国会審議における国務大臣の答弁によって,クリアラン
ス手続が省庁ごとに異なることが明らかにされているから,具体的な
内容の取り決めは各省に委ねられており,本件行政文書が具体的な内
容を有しているとはいえない。本件行政文書が具体的な内容を有して
いないことは,本件行政文書のうち,当初,不開示とされていたにも
かかわらずその後開示された部分(別紙「行政文書」の下線部)の記
載内容が極めて抽象的であることからも明らかである。なお,有識者
会議において,諸外国における適性評価制度の概要が紹介されている
が,これらの国がこれらの情報を公開したことにより,その国の安全
を害したなどといった事例は聞いたことがない。
そうすると,本件不開示部分は抽象的な記載であるから,これを公
にしたとしても,国の安全が害され,あるいは情報保全に係る事務に
支障が生じるとはおよそ考えられない。
(イ)公知性
有識者報告書は,その「人的管理」の項目に有識者指摘適性評価制度
諸項目の記載があり,その中の「我が国の現行制度の課題と法制の必要
性」の項において,本件基本方針に基づく政府統一基準として平成21
年4月から国の行政機関の職員を対象として実施されている秘密情報
(特別管理秘密)の取扱者に対する適性の評価について,有識者指摘諸
課題を指摘した上で,我が国の秘密保全法制の中で適性評価制度を明確
に位置付け,必要な規定を設けることが,特別秘密の保全の実効性を高
める観点から極めて重要であるとし,適性評価制度として整備されるべ
き内容について,その対象者,実施権者,評価の観点及び調査事項,プ
ロセス,評価結果の有効期限,適性の見直し,関係資料の適切な取扱い
といった項目を挙げている。そして,有識者報告書は,本件行政文書に
記された秘密取扱者適格性確認制度について有識者指摘諸課題を指摘す
るが,その内容等にそれほど大きな問題点があるとは指摘していないこ
とからすると,有識者報告書に記載された評価の対象や調査事項,プロ
セスといった内容が,本件行政文書の対応部分に記載された内容と大き
く異なるとは考え難い。また,有識者報告書の「人的管理」の「(1)適
性評価制度」の部分は,本件行政文書の「人的管理」の「(1)秘密取扱
者適格性確認制度」に相当すると解されるから,本件行政文書の対応部
分に記載された内容(秘密取扱者適格性確認制度)は,有識者報告書に
おいて明らかにされているということができ,本件行政文書の当該部分
の内容は既に公知であるということができる。
(ウ)本件行政文書には秘密として保護すべき必要性がないこと
a被告は,平成25年9月3日,特定秘密の保護に関する法律案に対
するパブリックコメントの募集を開始しているところ,本件法案概要
には,行政機関職員等に対して適性評価を行うとされ,評価事項とし
て,「犯罪及び懲戒の経歴に関する事項」や「情報の取扱いに係る非
違の経歴に関する事項」など7項目が具体的に列挙され,さらに,適
性評価の対象となる行政機関職員等の「同意を得」ることとされてい
る。しかるに,本件行政文書によれば,「各行政機関は,特別管理秘
密に当たる秘密の取扱いについては,特別管理秘密を取り扱うことに
ついての適格性(以下単に「適格性」という。)を確認した者に行わ
せる」として,その適格性の確認をクリアランス手続により行うこと
とするとし,本件法案概要の適性評価とほぼ同じ内容を記していたの
であるから,法律の根拠なくしてクリアランス手続を行っていたもの
として違法であるし,当該行政機関職員の同意を得ていない点でも,
違法であるといわざるを得ない。また,本件行政文書では,本件法案
概要と異なり,評価項目・調査事項を具体的に明らかにしていないか
ら,違法な調査を行うものとして,やはり本件行政文書には違法があ
る。
b被告は,適正に遂行されるべき「事務又は業務」とは,カウンター
インテリジェンス,又は「我が国政府全体の情報保全の事務」である
から,このような事務は当然に合憲・適法であるとし,適格性確認制
度は,必要かつ合理的な制度であって,適格性確認は,各行政機関に
おいて,職員の任用に関する任命権者の権限の範囲内で実施するもの
として必ずしも本人の同意を要するものではないと主張する。
しかし,情報公開法1条の情報公開法の目的や情報公開が国民の知
る権利(憲法21条)に根差していることに鑑みれば,「事務又は事
業」の「適正な遂行」を理由に,被告が不開示決定を行うためには,
当然に被告の「事務又は事業」が合憲・合法である必要があるところ,
適格性確認制度は,実態として,対象者の業務と関係のない事項も調
査の対象とされ,プライバシーを不当に侵害するものとして利用され
ていたのであって,任命権者の権限を逸脱した,違法・違憲な身辺調
査の根拠とされていた。そして,被告(政府)は,本件行政文書に基
づいて行われていた現行(当時)の適格性確認制度の実態を問題視し,
これに法律上の根拠を付与することを理由の一つとして特定秘密保護
法の制定に及んだ。また,行政の違法な活動に関する行政文書の開示
は,行政事務の適正な遂行に含まれており,かかる文書を秘匿するこ
と自体,行政事務の適正な遂行を阻害するものと評価せざるを得ない。
とりわけ,情報公開法5条6号の不開示事由の解釈上,行政の違法な
活動に関する行政文書について当該不開示事由が該当する場合を認め
ると,行政事務の適正な遂行を保護するために設けられた同号によっ
て不適正な行政事務を生じさせることなり,背理となる。
cしたがって,本件行政文書に記載されている秘密取扱者適格者制度
は,プライバシー権を侵害する違憲・違法なものであるから,そのマ
ニュアルが記載されている本件行政文書は秘密として保護する必要性,
相当性はない。
ウ各論
上記に加え,本件不開示部分を個別にみると,以下の事情がみとめられ,
本件不開示部分に記録された情報が情報公開法5条3号又は6号に該当す
るとは認められない。
(ア)不開示部分①について
不開示部分①には,有識者報告書が「適性評価制度」について述べて
いる,対象者,実施権者,評価の観点,調査事項,プロセスといった内
容が整理されて記載されていることが推測される上,その分量に照らせ
ば,これらの記載は,有識者報告書の内容を要約し,簡潔にしたものと
いうべきあって,有識者報告書に記載されていないような具体的かつ詳
細な事柄が記載されているはずがない。そして,調査事項は後に公表さ
れている上,秘密取扱者適格性確認制度の概要は,特定秘密保護法の論
点ペーパー(甲19,21)においても明らかにされている。また,ク
リアランス手続の違憲性,違法性は前記イ(ウ)のとおりである。
(イ)不開示部分②について
不開示部分②は,「ウクリアランス手続を行う際の配意事項」の(イ)
として記載されており,その前後の記載から,報告書において評価結果
に有効期限を設定して評価の見直しをすべきとしている部分であると推
測されるところであって,これがわずか3行であることからすれば,具
体的な有効期限の長さが記載されているものではないことは明らかであ
り,抽象的な記載にとどまるというべきである。
(ウ)不開示部分③について
不開示部分③は,他の記載事項と併せて「カウンターインテリジェン
スに関する情報の定義」が記載されていることは明白である。いわゆる
定義とは,「物事の意味・内容を他と区別できるように,言葉で明確に
限定すること。」であって,概念の区別をするものにすぎないことに照
らせば,「カウンターインテリジェンスに関する情報の定義」が公にな
ったとしても,定義のもつ概括的,概念上の性格からすると,不開示部
分③に該当する国の安全が害されるおそれ等を生じることは考えられな
い。加えて,本件行政文書(本件基本方針)第1部の総則部分において,
本件基本方針の目的は,「カウンターインテリジェンスに関する各行政
機関の施策に関し必要な事項の統一」と「体制を確立」することとして
いるのであるから,基本方針の性格としても,全行政機関横断的な,抽
象的かつ概括的な規定とならざるを得ず,このような性格の文書に国の
安全が害されるおそれ等がある具体的な情報が記載されるはずはない。
そして,「カウンターインテリジェンス」という概念は,各種文献にお
いて明らかにされている。したがって,「カウンターインテリジェンス
に関する情報」の定義を明らかにしたとしても国の安全を害するおそれ
等があるとはいえない。
この点は,「カウンターインテリジェンスに関する情報」の定義に例
示を含むとしても,あくまで例示にすぎないから,例示を伴うことによ
って上記結論が左右される理由もない。
(エ)不開示部分④ないし不開示部分⑥について
不開示部分④ないし不開示部分⑥のうち,不開示部分④の標題は,「2
情報収集」であり,「カウンターインテリジェンスに関する情報」の収
集に関する内容がその体裁上,3項目に分かれて記載されているのであ
って,いずれも不開示とされている。ここでも,「カウンターインテリ
ジェンスに関する各行政機関の施策に関し必要な事項の統一」のため情
報収集を3つに分け,しかも各項目の行数は2行ないし4行にすぎない
のであるから,基本方針の性格上,一般的項目として,抽象的かつ概括
的な記載であることは明らかであり,国の安全を害するおそれ等のある
情報が含まれていないことは外形上明白である。そして,このことは,
不開示部分⑤及び不開示部分⑥にも妥当する。
(オ)不開示部分⑦について
不開示部分⑦の標題は「調査等」であり,主語は「カウンターインテ
リジェンス・センターは」であるから,同不開示部分は,カウンターイ
ンテリジェンス・センターの業務内容について記載されている。本件行
政文書は,カウンターインテリジェンス・センター設置の組織規範(根
拠規定)でもあるところ,組織規範(根拠規定)に記載されるレベルで
の当該機関の業務の記載について,国民に説明できない,即ち不開示事
由に該当する記載を採用するはずがなく,当該記載は不開示事由に該当
しないことが強く推定される。また,本件行政文書(本件基本方針)は,
カウンターインテリジェンス・センターの根拠規定であり,「カウンタ
ーインテリジェンスに関する情報」は,本件行政文書11頁に引用され,
その収集及び分析は,カウンターインテリジェンス・センターの業務内
容となっている。即ち「カウンターインテリジェンスに関する情報」の
概念は,カウンターインテリジェンス・センターという国の機関の組織
規範(根拠規定)に組み込まれるべき内容であることを前提として定義
されており,このような内容を有する「カウンターインテリジェンスに
関する情報」が不開示事由に当たらないことについては,強い推定が働
くというべきである。
被告は,不開示部分⑦にカウンターインテリジェンス・センターにお
いて作成される文書名が記載されていると主張するが,同不開示部分の
分量に照らせば具体的なタイトルが記載されていないとも解されるし,
仮にこれが記載されているとしても,具体的な情報保全に対する妨害措
置に繋がるか否かは不明といわざるを得ない。
(カ)不開示部分⑧ないし不開示部分⑪について
不開示部分⑧ないし不開示部分⑪は「事案対処」において記載されて
おり,事案対処要領としてのマニュアル的なものといえ,マニュアルで
ある以上,概括的な内容とならざるを得ない上に,これらの記載はいず
れも5行程度であるから,具体的な記載があるとは到底考えられない。
(キ)不開示部分⑫について
不開示部分⑫は,カウンターインテリジェンス・センターの業務であ
り,前後の項目(調査・情報提供)から,これに対応する内容と解され
る。そして,不開示部分⑦と同様,被告は,カウンターインテリジェン
ス・センターにおいて作成される文書名が記載されていると主張するが,
不開示部分⑫の分量に照らせば具体的なタイトルが記載されていないと
も解されるし,仮にこれが記載されているとしても,具体的な情報保全
に対する妨害措置に繋がるか否かは不明といわざるを得ない。
第3当裁判所の判断
1情報公開法5条3号及び6号の各不開示事由の解釈及びその審理方法等
(1)情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権
利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,
もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにす
るとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進
に資することを目的としており(1条),その観点から,行政機関の保有す
る行政文書の開示の請求権者を特に限定せず(3条),また,5条各号に掲
げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,行政機関の長に対
して開示請求に係る行政文書の開示を義務付けている(5条)。
このうち,情報公開法5条3号は「公にすることにより,国の安全が害さ
れるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他
国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が
認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として定めているが,
その趣旨は,我が国の安全,他国等(他国若しくは国際機関)との信頼関係
及び我が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の利益を擁護す
るために政府に課された重要な責務であって,同法においてもこれらの利益
は十分に保護されるべきと考えられたことによるものである。そして,公に
することにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわ
れるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある情報については,
一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断
に高度の政治的判断を伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の専門
的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。このような同法5
条3号の文言及び趣旨に照らすと,同号該当性の判断には行政機関の長に一
定の裁量が認められるのであって,行政機関の長が同号に該当するとして不
開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示
情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊
重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審
理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念
上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁
量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当
である。
(2)次に,情報公開法5条6号は「国の機関…が行う事務又は事業に関する情
報であって,公にすることにより,…当該事務又は事業の性質上,当該事務
又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報とし
て定めているが,その趣旨は,国の機関等が行う事務又は事業は,公共の利
益のために行われるものであり,公にすることによりその適正な遂行に支障
を及ぼすおそれがある情報については,不開示とする合理的な理由があると
考えられたためである。このような不開示事由に該当しない限り原則的には
行政機関の長に行政文書の開示を義務付けているという同法の構造や,同法
5条6号の不開示事由を定めた趣旨に照らすと,同号所定の不開示事由があ
るとして文書を不開示にした場合,かかる不開示処分をした行政機関の長の
所属する行政主体である国(被告)が,当該行政文書には同号所定の不開示
事由があること,すなわち,当該行政文書には「国の機関…が行う事務又は
事業に関する情報であって,公にすることにより,…当該事務又は事業の性
質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」が
記録されていることを主張立証する必要があると解するのが相当である。
(3)そして,情報公開法5条6号にいう「支障」の程度は名目的なものでは足
りず実質的なものであることが必要であり,また,同条3号及び6号にいう
「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然
性が要求されると解すべきである。
2認定事実
前記前提事実のほか,各項掲記の証拠によれば,以下の各事実が認められる。
(1)ア推進会議は,平成19年8月9日,カウンターインテリジェンス(外国
による諜報活動を阻止し,情報の漏えいその他の国益を害する事態を防止
する活動をいう。)に関する各行政機関の施策に関し必要な事項の統一を
図るとともに,カウンターインテリジェンス・センターその他カウンター
インテリジェンスに関する施策を推進する体制を確立し,もって国の重要
な情報や職員等の保護を図ることを目的として,「カウンターインテリジ
ェンス機能の強化に関する基本方針」(本件基本方針)を決定し,同名を
表題とする文書にとりまとめた。なお,同文書は平成21年3月17日及
び平成23年12月6日にそれぞれ改定され本件行政文書となった。(甲
3,22,27)
イ(ア)本件行政文書は,「第2部政府統一基準」として,まず,特別管
理秘密(特別な管理を行う対象とする情報をいう。)に係る基準を定め
ており(「Ⅰ特別管理秘密に係る基準」),特別管理秘密の定義(「1
特別管理秘密の定義」)として,各行政機関が保有する国の安全,外交
上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項であって,公になってい
ないもののうち,特に秘匿することが必要なものとして当該機関の長が
指定したものとする旨定めている。そして,本件行政文書では,特別管
理秘密に係る基準として,物的管理及び人的管理の両面からの規定を置
いており,物的管理(「2物的管理」)においては,「(1)段階的な
秘密区分指定」,「(2)情報へのアクセス管理」,「(3)送達・廃棄
等における秘密保全措置」及び「(4)情報システムへのアクセス管理」
の各項目が設けられている。このうち,「(2)情報へのアクセス管理」
として,「秘密文書等の取扱いについて(昭和40年4月15日事務次
官等会議申合せ)」における秘密情報の取り扱いに関する規定を遵守す
るほか,特別管理秘密について,その特質に鑑み,情報のライフサイク
ルの各段階における管理方法等が定められている。その中で,特別管理
秘密の利用に当たっては,原則としてクリアランス手続により適格性を
確認された者で,かつ,知る必要がある者のみが特別管理秘密取扱者(特
別管理秘密を取り扱う者をいう。)としてアクセスできることとされて
いる。(甲3,22,27)
(イ)また,本件行政文書の「Ⅰ特別管理秘密に係る基準」中の「3人
的管理」として,秘密取扱者適格性確認制度が設けられており(「(1)
秘密取扱者適格性確認制度」),同制度についての基本方針として,各
行政機関は,特別管理秘密に当たる秘密の取扱いについては,特別管理
秘密を取り扱うことについての適格性を確認した者に行わせることとさ
れ,この適格性の確認は,調査対象者が特別管理秘密を取り扱うに当た
って信用できかつ信頼し得るか否かについての調査(クリアランス手続)
によることとするとされている。(甲3,22,27)
(ウ)特別管理秘密の取扱いに係る適格性確認制度は,推進会議が決定し
た本件基本方針のほか,推進会議の承認に係る「秘密取扱者適格性確認
制度の実施に伴うガイドライン」及び各行政機関が作成する「秘密取扱
者適格性確認制度実施規程」がその根拠とされている。もっとも,各行
政機関において同実施規程を作成するか否かの判断は,各行政機関に委
ねられている。平成25年12月31日時点において,秘密取扱者適格
性確認制度に基づきクリアランス手続を行った行政機関は23機関であ
り,同制度において適格性が認められ,特別管理秘密を取り扱う者とし
て指定されている者は6万5708人である。(甲19,21,乙9,
証人P2)
(エ)本件基本方針においては,秘密取扱者適格性確認(クリアランス手
続)の実施の根拠は任命権(任命権者である行政機関の長等による特別
管理秘密を取り扱う官職への職員の任用に関して任命権者の権限の範囲
内で実施するもの)であるとされ,国の行政機関の職員のみを対象とし
て,当該職員の同意を必ずしも要することなく実施することができるも
のとされており,公務所又は公私の団体への照会について法律上の定め
はなかった(甲14,19,21,乙9)。
(オ)クリアランス手続の調査対象は,特別管理秘密の取扱いの業務が見
込まれる行政機関の職員であり,調査事項は,①セキュリティクリア
ランス対象活動を行っている国,組織又は人への関与,②帰化,③外
国籍配偶者,④特定の外国への頻繁な私的渡航,⑤懲戒処分等,⑥
刑事処分,⑦金銭問題,⑧アルコール依存,⑨薬物濫用等,⑩精
神障害,⑪情報の不適切な取扱い,⑫特異な言動である。これらの
調査事項については,その事項名のみ平成25年の臨時国会で明らかに
された。(乙9)
(カ)本件基本方針においては,我が国政府のカウンターインテリジェン
ス機能の強化のため,カウンターインテリジェンス・センターにおいて,
カウンターインテリジェンスに関する情報を収集及び分析し,その成果
物を各行政機関で共有するものとされている(本件行政文書の第2部の
「Ⅱカウンターインテリジェンスに関する情報の収集・共有」)。ま
た,カウンターインテリジェンスに関する情報の収集,分析,共有,調
査等を実施する行政機関が,別途具体的な規則を設けるか否かは,それ
ぞれの行政機関が判断してよいものとされている(乙9)。
(キ)本件基本方針においては,推進会議の庶務機能を強化し,本件基本
方針の施行に関する連絡調整等を行い,我が国政府全体のカウンターイ
ンテリジェンスの中核として機能するカウンターインテリジェンス・セ
ンターを内閣官房内閣情報調査室に置くこととされ(本件行政文書の「第
3部カウンターインテリジェンス・センター」の「1設置」),カ
ウンターインテリジェンス・センターは,政府のカウンターインテリジ
ェンス機能を強化するため,各行政機関と連携して,行政機関の枠組み
を超えたカウンターインテリジェンスの業務を推進するものとされてい
る(同「2業務」)(乙9)。
ウ本件行政文書は,その機密性についての格付けとして「機密性2情報」
とされており,また,「CI担当者限り」という取扱制限が付されている。
「機密性2情報」とは,「行政事務で取り扱う情報のうち,秘密文書に相
当する機密性は要しないが,漏えいにより,国民の権利が侵害され又は行
政事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある情報」をいい,「秘密文書」と
は,「秘密保全の必要が高く,その漏えいが国の安全,利益に損害を与え
るおそれのあるもの」(「極秘」)と,「極秘につぐ程度の秘密であって,
関係者以外には知らせてはならないもの」(「秘」)に区分される。本件
行政文書(改定前のものを含む。)についても,上記定義にしたがって,
「秘密文書」には当たらないものとして,「機密性2情報」との格付けが
されている(乙9,証人P2)。また,「CI担当者限り」とは,取扱制
限として,本件行政文書が各行政機関において,原則として,カウンター
インテリジェンス担当者に限って取り扱うべき情報であることを明確にし
たものである(乙9,証人P2)。
(2)政府における情報保全に関する検討委員会において開催が決められた有
識者会議では,資料として本件行政文書の内容のうち秘密取扱者適格性確認
制度の概要が記載された「秘密取扱者適格性確認制度の概要」と題する資料
が各委員に会議において提示されたが,当該資料は会議終了後席上にて回収
されており,有識者会議において,本件行政文書は配布されていない(乙9)。
(3)平成25年の臨時国会の審議のために,関係国会議員に対し,本件行政文
書の本件不開示部分を除いた部分が提供され(このときには本件行政文書の
4頁16行目も開示されていた。),このほか,同年中の国会審議において
以下のア及びイのような答弁等がされた(乙9,証人P2)。
ア平成25年11月28日,参議院国家安全保障に関する特別委員会にお
いて,森まさこ大臣は,「各国では,米国を始めとする諸外国において,
国内法や大統領令によって,国家によって重要な機密を厳格に保護するた
めの制度を既に整備をしておりまして,例えば,秘密を取り扱う場合には
セキュリティークリアランスを経ることを要したり,また漏えいをした者
に対して厳罰を科したりしております。」と答弁している(乙9)。
イ平成25年11月29日に開催された参議院国家安全保障に関する特別
委員会において,森まさこ大臣は,本件行政文書は省庁間の申し合わせで
あり,政府統一基準という言葉で基準が定められているが,特別管理秘密
に係る基準については,インターネット等についての情報セキュリティの
部分を除くと,人的管理としての秘密取扱者適格性確認制度,管理責任体
制,秘密保全研修制度等の導入は,各省に委ねられており,その実態は,
各省ごとに,指定権者,管理責任者,適格性の確認を行う者が,そのレベ
ルを異にし,統一の基準として徹底されていなかった,特別管理秘密のた
めの基準とはなっているが,指定の基準がない旨答弁している(甲24)。
(4)ア平成25年9月3日,本件法案概要が公表されたが,その「1特定秘
密の管理に関する措置」の「(3)適性評価の実施」には,概要,以下の記
載がある(甲18)。
(ア)適性評価は,特定秘密の取扱いの業務を行うことが見込まれる行政
機関の職員若しくは契約業者の役職員又は都道府県警察の職員(以下「行
政機関職員等」という。)の同意を得て,次に掲げる事項について,当
該行政機関職員等が特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏ら
すおそれがあるかどうかという観点から,行政機関の長又は警察本部長
が行うものとする。
①外国の利益を図る目的で行われ,かつ,我が国及び国民の安全への
脅威となる諜報その他の活動並びにテロ活動(政治上その他の主義主
張に基づき,国家若しくは他人にこれを強要し,又は社会に不安若し
くは恐怖を与える目的で人を殺傷し,又は重要な施設その他の物を破
壊する行為を行う活動をいう。以下同じ。)との関係に関する事項(当
該行政機関職員等の家族及び同居人の氏名,生年月日,国籍及び住所
を含む。)
②犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
③情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
④薬物の濫用及び影響に関する事項
⑤精神疾患に関する事項
⑥飲酒についての節度に関する事項
⑦信用状態その他の経済的な状況に関する事項
(イ)行政機関の長又は警察本部長は,調査を実施するため必要な範囲内
において,当該行政機関職員等若しくはその関係者に質問し,当該行政
機関職員等に資料の提出を求め,又は公務所若しくは公私の団体に照会
して必要な事項の報告を求めることができるものとする。
(ウ)行政機関の長又は警察本部長は,適性評価を実施したときは,特定
秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認める
かどうかの結果を当該行政機関職員等に対し通知するものとする。
(エ)行政機関の長又は警察本部長は,適性評価に関する苦情に適切に対
応するものとする。
(オ)①適性評価の実施について同意をしなかったこと,②特定秘密
の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認めるかど
うかの結果及び③適性評価の実施に当たって取得する個人情報につい
ては,国家公務員法上の懲戒の事由等に該当する疑いがある場合を除き,
目的外での利用及び提供を禁止する。
イ本件法案概要にまとめられていた特定秘密保護法が平成26年12月1
0日に施行され,その頃,本件行政文書の改定がれた(証人P2)。
(5)別件開示請求について
P1は,別件開示請求に対してされた別件原決定を不服として内閣総理大
臣に対する審査請求をしているところ,内閣総理大臣から諮問を受けた情報
公開・個人情報保護審査会は,諮問庁から理由説明書を,審査請求人から意
見書をそれぞれ収受した。
その後,同審査会は,平成24年7月6日,本件行政文書の見分(いわゆ
るインカメラ手続)及び審議を行うなどした(甲6)後,同月24日付けで
答申した。
(6)情報漏えい事件等の存在
我が国においては,公務員等によって情報が漏えいし又はそのおそれが生
じた事案として,在日ロシア大使館に勤務する海軍武官から工作を受けた海
上自衛隊三等海佐が,現金等の報酬を得て,海上自衛隊の秘密資料を提供し
た事案(平成12年検挙),在日ロシア通商代表部員が,現金等の謝礼を対
価に,防衛機器販売会社社長(元航空自衛官)に米国製戦闘機用ミサイル等
の資料の入手・提供を要求した事案(平成14年検挙),在日中国大使館駐
在武官の工作を受けた日本国防協会役員(元自衛官)が,その求めに応じて
防衛関連資料を交付した事案(平成15年検挙),海上自衛隊三等海佐が,
イージスシステムに係るデータをコンパクトディスクに記録の上,海上自衛
隊の学校教官であった別の三等海佐に送付し,当該データが別の海上自衛官
3名に渡り,更に他の自衛官にわたった事案(平成19年検挙),在日ロシ
ア大使館書記官から工作を受けた内閣情報調査室職員が,現金等の謝礼を対
価に,職務に関して知った情報を同書記官に提供した事案(平成20年検挙),
情報本部所属の一等空佐が,職務上知り得た「中国潜水艦の動向」に関する
情報を,防衛秘密に該当する情報を含むことを認識した上で,部外者に口頭
により伝達した事案(平成20年検挙)及び神戸海上保安部の海上保安官(巡
視艇乗組員)が,中国漁船による巡視船衝突事件に係る捜査資料として石垣
海上保安部が作成したビデオ映像をインターネット上に流出させた事案(平
成22年検挙)等が存し,これら事案が平成23年8月8日に開催された有
識者会議において資料として提供された(甲14)。
3検討
以上を踏まえ,本件不開示部分についての情報公開法5条3号及び6号の不
開示情報該当性について,以下検討する。
(1)不開示部分①及び不開示部分②について
ア不開示部分①及び不開示部分②の各記載内容について
不開示部分①及び不開示部分②は,いずれも,本件行政文書の「第2部
政府統一基準」中の「Ⅰ特別管理秘密に係る基準」の「3人的管理」
の「(1)秘密取扱者適格性確認制度」に存する。
このうち,不開示部分①は,秘密取扱者適格性確認制度についての「ア
基本方針」として,特別管理秘密に当たる秘密についての取扱いについて
は,これを取り扱うことについての適格性を確認した者に行わせることや,
この適格性の確認はクリアランス手続により行うこと等が記載されている
部分に続けて,新たな項目として「イクリアランス手続の構成」の表題
の下に記載された部分であり,その内容全体が不開示とされている。不開
示部分①は,15行からなるものであり,その体裁からすると,クリアラ
ンス手続の構成に係る4つの項目が記載されているものと推認される。こ
の点,P2は,不開示部分①は,クリアランス手続の構成の部分であり,
これは,調査対象者が特別管理秘密を取り扱うに当たって信用できかつ信
用し得るか否かについての調査がどのようなものかについて記載されてお
り,我が国政府全体のカウンターインテリジェンスに係る情報保全体制,
能力の一部を構成するものである旨陳述ないし証言している(乙9,証人
P2)。
また,不開示部分②は,上記「イクリアランス手続の構成」に続く,
「ウクリアランス手続を行う際の配意事項」としてまとめられた(ア)な
いし(エ)の4項目のうちの1つ((イ)の項目)であって,3行からなるも
のである。同項目の(ア)は,適格性の確認に当たり国家公務員法を遵守す
るとともにプライバシーの保護への配慮を尽くさなければならないことを,
(ウ)は,クリアランス手続の過程で得られた情報を正当な理由なく第三者
に提供してはならないことを,(エ)は,各行政機関がクリアランス手続の
実効性確保のために相互に必要な協力を行うものとすることをそれぞれ記
載しており,不開示部分②もこれらと同様のクリアランス手続を行う際の
配意事項が記載されているものと推認される。この点,P2は,不開示部
分②が存する「ウクリアランス手続を行う際の配意事項」についても,
調査対象者が特別管理秘密を取り扱うにあたって信用できかつ信用し得る
か否かについての調査がどのようなものかについて記載されており,我が
国政府全体のカウンターインテリジェンスに係る情報保全体制,能力の一
部を構成するものである旨陳述している(乙9)。
イ不開示部分①について
(ア)不開示部分①は,上記アのとおり,クリアランス手続の構成に係る
4つの項目が記載されているものと推認されるところ,本件基本方針が,
カウンターインテリジェンスに関する各行政機関の施策に関し,必要な
事項の統一を図るとともに,カウンターインテリジェンス・センターそ
の他カウンターインテリジェンスに関する施策を推進する体制を確立し,
もって国の重要な情報や職員等の保護を図ることを目的としてとりまと
められたものであること(本件行政文書の「第1部総則」の「1目
的」参照)に加え,各行政機関が保有する国の安全,外交上の秘密その
他国の重大な利益に関する事項であって公になっていないもののうち,
特に秘匿を要するもの(特別管理秘密)の管理(情報漏えいの絶無を期
すこと)は,我が国の安全を守り,また,他国若しくは国際機関との信
頼関係を維持するという観点から,極めて重要なものであることは明ら
かであることからすれば,そのような特別管理秘密の管理の方法として,
クリアランス手続により適格性を確認された者で,かつ,知る必要があ
る者のみが特別管理秘密取扱者としてアクセスできることとする本件基
本方針において,かかるクリアランス手続がどのように構成されている
のかが公にされると,他国の情報機関等がそのように公にされたクリア
ランス手続に抵触しないような形で特別管理秘密取扱者に接触を試みる
等して,特別管理秘密を取得しようとすることを可能にし,あるいは容
易にさせかねないものといえる。そうすると,このようなクリアランス
手続の構成に係る不開示部分①は,上記のような特別管理秘密の管理の
観点から,我が国の安全を守り,また,他国若しくは国際機関との信頼
関係を維持するために,これを不開示とする必要性が高い情報というこ
とができる。
そして,前記認定事実(6)のとおり,我が国においても,情報漏えい事
件等が複数生じていることからしても,特別管理秘密についての情報漏
えいを防ぐために,同秘密にアクセスできる者の適格性を判断するクリ
アランス手続を不開示にすることの必要性は大きいものといえる。
(イ)この点,原告は,本件行政文書は,基本方針であって,その性格は
全行政機関横断的な抽象的概括的な規定とならざるを得ず,その総頁数
や,各項目の分量からしても,その内容が詳細かつ具体的に記載されて
いるとはいえない旨,また,本件行政文書は,その機密性についての格
付け及び取扱制限に照らせば,秘密文書に相当する機密性を有しない旨
主張する。
しかしながら,本件基本方針(本件行政文書)が,カウンターインテ
リジェンスに関する各行政機関の施策に関し必要な事項の統一を図るも
のであることからすれば,各行政機関がそれぞれ当該行政機関に適合し
た形で「秘密取扱者適格性確認制度実施規程」を作成するとしても(な
お,同実施規程を作成するか否かの判断は,各行政機関に委ねられてい
る。前記認定事実(1)イ(ウ)),各行政機関が行うクリアランス手続に共
通する事項についての統一的な取り決め,方針は本件基本方針において
されているものと推認されるところであって,本件行政文書が,クリア
ランス手続の構成について概括的な記載しかしていないものとは認め難
い。この点,本件行政文書の総頁数や,各項目の分量,各不開示部分の
行数の多寡は,どのような内容の情報が記載されているかを推知する一
つの指標にはなり得るものといえようが,それによって,当該情報の具
体性が直ちに左右されるものということはできないし,少なくとも,不
開示部分①については,上記アのとおり,クリアランス手続の構成につ
いて,15行にわたって4つの項目が記載されているものと推認される
ところであって,その分量からしても,むしろ,クリアランス手続の構
成について一定程度具体的な情報が記載されていることがうかがわれる
ものといえる。
また,本件行政文書は,「秘密文書」には当たらないものとして,「機
密性2情報」との機密性についての格付けがされており(前記認定事実
(1)ウ),このことからすれば,本件行政文書については,その漏えいが
国の安全,利益に損害を与えるおそれのあるような情報は記載されてい
ないのではないか,との原告の指摘には首肯し得るところもある。しか
しながら,「秘密文書等の取扱いについて(昭和40年4月15日事務
次官等会議申合せ)」において,秘密文書等の指定及び作成は,必要最
小限度にとどめることとされていること(甲30)や,機密性について
の格付けが,情報公開法に基づく情報公開請求がされた場合の同法所定
の不開示情報該当性に直ちに結びつくものとは解されないことに照らせ
ば,本件行政文書について,「機密性3情報」ではなく,「機密性2情
報」との格付けがされていることから,直ちに,本件行政文書の全体に
ついて,これを開示しても,我が国の安全,利益に損害を与えるもので
はないということはできない。そうであるところ,不開示部分①が特別
管理秘密の管理の観点から,我が国の安全を守り,また,他国若しくは
国際機関との信頼関係を維持するために,これを不開示とする必要性が
高い情報ということができることは,上記(ア)で説示したとおりであっ
て,このことは,本件行政文書が「機密性2情報」とされていることに
よっても,左右されないものといわなければならない。(なお,本件行
政文書が「機密性2情報」とされていることと,本件不開示部分の不開
示情報該当性の関係については,不開示部分①以外の他の不開示部分に
関しても,上記と同様であると解される。)
(ウ)また,原告は,本件行政文書中,人的管理に関する事項については,
有識者報告書によって,その項目が明らかにされる等していることから
すると,既に公知のものとなっている旨主張する。
この点,有識者報告書においては,「2人的管理」の「(1)適正評
価制度」の「エ評価の観点及び調査事項」として,秘密漏えいのリス
クとの関連が深い,例えば,①我が国の不利益となる行動をしないこ
と,②外国情報機関等の情報収集活動に取り込まれる弱点がないこと,
③自己管理能力があること又は自己を統制できない状態に陥らないこ
と,④ルールを遵守する意思及び能力があること,⑤情報を保全す
る意思及び能力があることといった観点から対象者の適性を評価するこ
とが考えられるとし,諸外国の適正評価における調査事項を参考にする
と,調査事項としては,例えば,①人定事項(氏名,生年月日,住所
歴,国籍(帰化情報を含む。),本籍,親族等),②学歴・職歴,③
我が国の利益を害する活動(暴力的な政府転覆活動,外国情報機関によ
る情報収集活動,テロリズム等)への関与,④外国への渡航歴,⑤犯
罪歴,⑥懲戒処分歴,⑦信用状態,⑧薬物・アルコールの影響,
⑨精神の問題に係る通院歴,⑩秘密情報の取扱いに係る非違歴とい
ったものが考えられるとの指摘がされていることが認められる(甲14)。
また,平成25年の臨時国会で,クリアランス手続の調査事項は,①セ
キュリティクリアランス対象活動を行っている国,組織又は人への関与,
②帰化,③外国籍配偶者,④特定の外国への頻繁な私的渡航,⑤
懲戒処分等,⑥刑事処分,⑦金銭問題,⑧アルコール依存,⑨薬
物濫用等,⑩精神障害,⑪情報の不適切な取扱い,⑫特異な言動
であることが,その事項名のみ明らかにされている(前記認定事実(1)
イ(オ))。
これらからすれば,本件基本方針(本件行政文書)が定めるクリアラ
ンス手続における調査事項自身は既に公にされているものであって,そ
の内容も有識者報告書が指摘する各項目と同種のものということができ
るが,そうであるとしても,クリアランス手続として,上記のような各
項目をどのように調査するかについては,何ら明らかにされていないし
(この点は,不開示部分①に記載されていることが推測される。),有
識者報告書によっても,そのようなクリアランス手続において現に実施
されている具体的な調査方法が記載されているものとは認められないか
ら,不開示部分①の内容が既に公知のものになっているということはで
きない。
(エ)さらに,原告は,本件行政文書に基づいて実施されていたクリアラ
ンス手続は,法律の根拠がなく,対象となる行政機関職員の同意を得な
いで行われ,評価項目・調査事項を具体的に明らかにしていなかった点
で,違法な調査を行うものであって,かかるクリアランス手続は違法で
あるというべきであり,憲法が保障するプライバシー権を侵害する違
憲・違法なものとして本件行政文書には秘密として保護されるべき相当
性が存在しない旨主張するところ,有識者報告書においても,この点が
有識者指摘諸課題として指摘されているところである(前記前提事実(1)
イ(ウ))。
これに対し,本件基本方針においては,秘密取扱者適格性確認(クリ
アランス手続)の実施の根拠は任命権(任命権者である行政機関の長等
による特別管理秘密を取り扱う官職への職員の任用に関して任命権者の
権限の範囲内で実施するもの)であるとされ,国の行政機関の職員のみ
を対象として,当該職員の同意を必ずしも要することなく実施すること
ができるものとされていることは,前記認定事実(1)イ(エ)のとおりであ
る。そうであるところ,有識者指摘諸課題で指摘されているように,こ
のようなクリアランス手続が法制度化され,明確化されることが望まし
いことであるとしても,各行政機関が保有する国の安全,外交上の秘密
その他の国の重大な利益に関する事項であって,公になっていない情報
である特別管理秘密について,クリアランス手続によって適格性を確認
することができた者のみにそのアクセスを認めることによって,特別管
理秘密の管理を徹底する(その情報漏えいの絶無を期す)ことは,我が
国の安全を守り,また,他国若しくは国際機関との信頼関係を維持する
ために必要性が高い事柄であることに鑑みれば,上記のような任命権の
発動として,特別管理秘密を取り扱う官職への職員の任用に関して,必
ずしも当該職員の同意を得ることなく,クリアランス手続を実施するこ
とが,違憲,違法であるとまでいうことはできないものと解するのが相
当である。したがって,本件基本方針が定めるクリアランス手続をもっ
て,違憲,違法な手続とまでいうことはできないから,不開示部分①を
不開示とすることが相当性を欠くものということもできない。
(オ)以上によれば,不開示部分①について,これを公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又
は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認める
ことにつき相当の理由があるということができ,情報公開法5条3号の
不開示情報に該当すると認められる。
ウ不開示部分②について
(ア)上記アのとおり,不開示部分②は,秘密取扱者適格性確認制度の「イ
クリアランス手続の構成」(不開示部分①)に続く,「ウクリアラン
ス手続を行う際の配意事項」としてまとめられた(ア)ないし(エ)の4項
目のうちの1つ((イ)の項目)であって,3行からなるものである。同
項目の(ア)は,適格性の確認に当たり国家公務員法を遵守するとともに
プライバシーの保護への配慮を尽くさなければならないことを,(ウ)は,
クリアランス手続の過程で得られた情報を正当な理由なく第三者に提供
してはならないことを,(エ)は,各行政機関がクリアランス手続の実効
性確保のために相互に必要な協力を行うものとすることをそれぞれ記載
しており,不開示部分②もこれらと同様のクリアランス手続を行う際の
配意事項が記載されているものと推認される。
(イ)この点,特別管理秘密の管理を徹底し,情報の漏えいの絶無を期す
ためのクリアランス手続の重要性や,これが公にされることは,他国の
情報機関等がそのように公にされたクリアランス手続に抵触しないよう
な形で特別管理秘密取扱者に接触を試みる等して,特別管理秘密を取得
しようとすることを可能にし,あるいは容易にさせかねないものといえ
ること,かかる事態は,我が国の安全や,他国若しくは国際機関との信
頼関係の維持を損ないかねないものであることは,上記イで説示したと
おりである。
かかる観点からすれば,「ウクリアランス手続を行う際の配意事項」
中の不開示部分②を開示することによって,上記のようなおそれが生じ
る抽象的なおそれは存するものといわなければならない。
しかしながら,上記(ア)記載のとおり,「ウクリアランス手続を行
う際の配意事項」として記載されている他の3項目をみても,その内容
は,一般的,抽象的なものであって,不開示部分②についても,これと
同様の記載がされているものと推測されるところ,被告は,不開示部分
②と不開示部分①とをあわせて,これら不開示部分には,秘密取扱者適
格性確認制度に係るクリアランス手続の構成,手法等が記載されており,
これを公にすることにより,どのような調査を行っているかが明らかと
なり,我が国の情報保全対策に対する対抗・妨害措置を講じられるおそ
れがある旨主張するものの,不開示部分②について,その前後の3項目
とは異なり,同部分には被告が主張するようなおそれがある情報が記載
されていることについて,上記の程度を超える主張立証はない。不開示
部分②が3行に止まることからしても,同部分に,その前後の3項目の
記載とは異なり,被告が主張するようなおそれがある情報が具体的に記
載されているものとは認め難い。
そうすると,不開示部分②について,情報公開・個人情報保護審査会
が本件行政文書を見分(いわゆるインカメラ手続)した上,不開示を相
当とする旨答申していること(前記認定事実(5))を考慮しても,不開示
部分②を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との
信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれ
が具体的に存するものとは認められず,不開示部分②にそのような具体
的なおそれ(法的保護に値する蓋然性を有する程度のおそれ)があると
した内閣情報官の判断は,合理性を持つものとして許容される限度を超
えるものであり,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるというべきで
ある。
また,上記検討したところに照らせば,不開示部分②について,これ
を開示することによって,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正
な遂行に実質的な支障を及ぼす具体的なおそれがあると認めることもで
きない。
(ウ)以上によれば,不開示部分②について,情報公開法5条3号及び6
号の不開示事由に該当するものとは認められない。
(2)不開示部分③について
ア不開示部分③の記載内容について
不開示部分③は,本件行政文書の「第2部政府統一基準」中の「Ⅱカ
ウンターインテリジェンスに関する情報の収集・共有」の「1カウンタ
ーインテリジェンスに関する情報の定義」に存する。
そして,不開示部分③の前後をみるに,同部分の直前は,「「カウンタ
ーインテリジェンスに関する情報」とは,外国情報機関の我が国に対する
情報収集活動の状況及び態様に関する情報」と記載されており,これに続
いて約3行にわたる不開示部分③があり,同不開示部分の直後には,「及
び外国情報機関の情報収集活動による被害を防止するための方策に関する
情報をいう。」と記載されている。これらからすると,不開示部分③は,
その前後部分とあわせて,カウンターインテリジェンスに関する情報の定
義が記載された文章の一部を構成するものと推認される。この点,P2は,
不開示部分③には,カウンターインテリジェンスに関する情報として,「外
国情報機関の我が国に対する情報収集活動の状況及び態様に関する情報」
の更に具体的な内容,すなわち,政府として収集するべき「カウンターイ
ンテリジェンスに関する情報」の具体的内容が例示されて記載されており,
簡単にいうと,政府が関心を持っている情報の具体例が記載されている旨
陳述ないし証言している(乙9,証人P2)。
イ不開示部分③の検討
(ア)上記アのとおり,不開示部分③は,「1カウンターインテリジェ
ンスに関する情報の定義」の項に存するものであって,その前後部分と
あわせて,カウンターインテリジェンスに関する情報の定義が記載され
た文章の一部を構成するものと推認される。そして,P2は,不開示部
分③には,その直前に記載されている「外国情報機関の我が国に対する
情報収集活動の状況及び態様に関する情報」の更に具体的な内容,すな
わち,政府として収集するべき「カウンターインテリジェンスに関する
情報」の具体的内容が例示されて記載されている旨陳述ないし証言する
ところ(上記ア),本件行政文書の性質に加え,同不開示部分が記載さ
れた位置や,その前後の文脈,同不開示部分が約3行(2行半)にわた
るものであることなどに鑑みると,上記P2の陳述等の内容に格別不自
然な点は認められず,同陳述等のとおり,同不開示部分には,「外国情
報機関の我が国に対する情報収集活動の状況及び態様に関する情報」の
更に具体的な内容として,政府として収集するべき「カウンターインテ
リジェンスに関する情報」の具体的内容が例示されて記載されているも
のと認めるのが相当である。
(イ)そこで検討するに,外国による諜報活動を阻止し,情報の漏えいそ
の他の国益を害する事態を予防すること(カウンターインテリジェンス
の定義。前記前提事実(1)ア(ア))は,我が国の安全を守り,また,他国
若しくは国際機関との信頼関係を維持する上で重要な事柄であることは
明らかであるところ,我が国政府のカウンターインテリジェンス機能を
強化するために,カウンターインテリジェンス・センターにおいて,カ
ウンターインテリジェンスに関する情報を収集及び分析し,その成果物
を各行政機関で共有すること(不開示部分③が存する,本件行政文書の
「Ⅱカウンターインテリジェンスに関する情報の収集・共有」の項)
は,上記のようなカウンターインテリジェンス機能を十全ならしめる上
で必要性の高いものといえる。そうであるところ,我が国がカウンター
インテリジェンスに関する情報として,いかなる情報を収集,分析し,
これを共有しているかについて,抽象的にこれを定義付けた情報に止ま
らず,これを具体的に例示したものについてまで公にすることは,我が
国が関心を有するカウンターインテリジェンスに関する情報がどのよう
なものかが具体的に明らかになって,かかる情報の収集を困難にさせる
ものといえるし,逆に,他国の情報機関等が,そのように具体的に明ら
かにされた,我が国が収集,分析を行っているカウンターインテリジェ
ンスに関する情報がどのようなものかを把握し,これに抵触しないよう
な形で我が国に対する情報収集活動を行うことを可能にし,あるいは容
易ならしめるものということができる。
これらからすれば,実効的なカウンターインテリジェンスに関する情
報の収集,分析を確保するために,カウンターインテリジェンスに関す
る情報の内容が具体的に例示されている不開示部分③を不開示とする必
要性は大きいものといえる。
これに対し,原告は,不開示部分③は定義であって一般的内容である
上に,具体的な例示があるとしても例示にすぎない以上,これを開示し
たとしても被告が主張するような我が国政府の情報保全等に与える影響
はない旨主張する。しかしながら,不開示部分③の記載内容が,カウン
ターインテリジェンスに関する情報の内容を具体的に例示するものであ
って,これを公にすることにより,我が国のカウンターインテリジェン
スに関する情報の収集,分析に具体的な支障を生じさせることは,上記
で説示したとおりであるから,この点についての原告の主張は採るを得
ない。
(ウ)以上によれば,不開示部分③について,これを公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又
は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認める
ことにつき相当の理由があるということができ,情報公開法5条3号の
不開示情報に該当すると認められる。
(3)不開示部分④ないし不開示部分⑥について
ア不開示部分④ないし不開示部分⑥の各記載内容について
不開示部分④ないし不開示部分⑥は,いずれも本件行政文書の「第2部
政府統一基準」中の「Ⅱカウンターインテリジェンスに関する情報の収
集・共有」に存し,「1カウンターインテリジェンスに関する情報の定
義」に続く,「2情報収集」の項目が不開示部分④,「3情報分析」
の項目が不開示部分⑤,「4情報共有」の項目が不開示部分⑥である。
これら各不開示部分は,いずれも,各項目の表題を除く本文すべてが不開
示とされている。
このうち,不開示部分④は,「2情報収集」の項目の本文部分であり,
その体裁(別紙「行政文書」参照)に鑑みると,3つの項目から構成され
るものと推認され,それぞれ3行,3行及び5行の各分量であると認めら
れる。
また,不開示部分⑤は,「3情報分析」の項目の本文部分であり,そ
の体裁に鑑みると,2つの項目から構成されるものと推認され,それぞれ
4行及び3行の各分量であると認められる。
さらに,不開示部分⑥は,「4情報共有」の項目の本文部分であり,
その体裁に鑑みると,さらなる細項目はないものと推認され,3行の分量
であると認められる。
イ不開示部分④ないし不開示部分⑥の検討
(ア)不開示部分④ないし不開示部分⑥の内容は,上記アのとおりであり,
これら各不開示部分には,カウンターインテリジェンスに関する情報の
収集,分析,共有の各点について,その手法等が記載されているものと
推認される(この点,P2も,不開示部分④ないし不開示部分⑥は,我
が国政府がカウンターインテリジェンスに関する情報をどのような手法
で収集,分析及び共有しているかが明らかとなる旨陳述している(乙
9)。)。
(イ)そこで検討するに,我が国政府のカウンターインテリジェンス機能
を強化するために,カウンターインテリジェンス・センターにおいて,
カウンターインテリジェンスに関する情報を収集及び分析し,その成果
物を各行政機関で共有することが,カウンターインテリジェンス機能を
十全ならしめる上で必要性の高いものといえることは,上記(2)イ(イ)
で説示したとおりであるところ,かかるカウンターインテリジェンスに
関する情報の収集,分析,共有の手法等を公にすることは,外国情報機
関において,我が国政府がカウンターインテリジェンスに関する情報を
どのような手法で収集し,収集した情報をどのように分析し,その成果
物をどのように共有するかといった事項が明らかになり,かかる情報の
収集等の手法を踏まえた対処がされることによって,我が国がカウンタ
ーインテリジェンスに関する情報を収集等することが困難になると共に,
我が国の情報保全体制全体の傾向や水準等を具体的に推知させることと
なり,外国情報機関による情報収集活動を可能にし,あるいは容易なら
しめるものと認められる。
これらからすれば,我が国がカウンターインテリジェンスに関する情
報を的確に収集し,これを分析してその成果物を各行政機関が共有する
ことを確保するために,カウンターインテリジェンスに関する情報の収
集,分析及び共有の手法等が記載されている不開示部分④ないし不開示
部分⑥を不開示とする必要性は大きいものといえる。
(ウ)以上によれば,不開示部分④ないし不開示部分⑥について,これら
を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関
係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるということができ,
情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると認められる。
(4)不開示部分⑦について
ア不開示部分⑦の記載内容について
不開示部分⑦は,本件行政文書の「第2部政府統一基準」中の「Ⅱカ
ウンターインテリジェンスに関する情報の収集・共有」に存し,「2情
報収集」,「3情報分析」,「4情報共有」の各項目に続く,「5調
査等」に存する。この「5調査等」の項目は,(1)と(2)の2つからなっ
ており,不開示部分⑦は,このうち,(1)の文章中,「カウンターインテリ
ジェンス・センターは,諸外国におけるカウンターインテリジェンスに関
する事例及び方策に関する情報を一般刊行物等により調査し,」に続く,
約1行半の部分である。なお,同項目の(2)には,カウンターインテリジェ
ンス・センターから各行政機関へのカウンターインテリジェンスに関する
情報の提供の方針が記載されている。
イ不開示部分⑦の検討
(ア)不開示部分⑦の内容は,上記アのとおりであり,カウンターインテ
リジェンスに関する情報の調査等について,諸外国におけるカウンター
インテリジェンスに関する事例及び方策に関する情報を一般刊行物等に
より調査した後にカウンターインテリジェンス・センターが行うべき内
容が記載されているものと推認される。そして,この点について,被告
は,不開示部分⑦には,上記調査の上で作成される文書の具体的な名称
等が記載されている旨主張するところ,上記のような不開示部分⑦が存
する項目や,同部分に先立つ文章の内容等に照らすと,被告主張のよう
に同部分には,上記のとおりの調査に基づいて作成される文書の具体的
な名称等が記載されているものと認めるのが相当である。
(イ)そこで検討するに,カウンターインテリジェンスに関する情報の調
査に基づいて作成される文書の内容が明らかになると,カウンターイン
テリジェンスに関する情報の収集,分析及び共有について上記(3)イ(イ)
で説示したのと同様に,外国情報機関において,我が国政府がカウンタ
ーインテリジェンスに関する情報をどのような手法で収集し,収集した
情報をどのように分析し,その成果物をどのように共有するかといった
事項が明らかになり,かかる情報の収集等の手法を踏まえた対処がされ
ることによって,我が国がカウンターインテリジェンスに関する情報を
収集等することが困難になると共に,我が国の情報保全体制全体の傾向
や水準等を具体的に推知させることとなり,外国情報機関による情報収
集活動を可能にし,あるいは容易ならしめるものと認められる。
しかしながら,上記のようにカウンターインテリジェンスに関する情
報の調査に基づいて作成される文書自体が公にされるのではなく,同調
査に基づいて作成される文書の具体的な名称等が公にされることにより,
直ちに上記と同様のおそれが存するものといえるかについては,疑義が
存するところである。とりわけ,上記アのとおり,不開示部分⑦は,「カ
ウンターインテリジェンス・センターは,諸外国におけるカウンターイ
ンテリジェンスに関する事例及び方策に関する情報を一般刊行物等によ
り調査し,」に続く部分であることからすれば,同不開示部分に記載さ
れている文書の名称等も,諸外国におけるカウンターインテリジェンス
に関する事例等の情報を一般刊行物等により調査した結果を基に作成さ
れた文書の名称等と解されるし,同不開示部分は約1行半に止まるもの
であることからすれば,そこに文書の名称等が記載されているとしても,
その内容がカウンターインテリジェンスに関する情報の共有化等に関す
る具体的な手法等をも含むものとはにわかに認め難い。そして,被告は,
不開示部分⑦を公にした場合に,政府がカウンターインテリジェンスに
関する情報をどのような手法で共有化しているかが明らかとなり,我が
国の情報保全対策に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼし,ひいてはわ
が国の安全が害される具体的なおそれが存する旨主張するが,同主張に
よっても,上記指摘の諸点に鑑みた場合に,同不開示部分を公にするこ
とで,どのような実質的な支障,具体的なおそれ(法的保護に値する蓋
然性を有する程度のおそれ)が存するというのか,明らかではないとい
うほかない。
そうすると,不開示部分⑦について,情報公開・個人情報保護審査会
が本件行政文書を見分(いわゆるインカメラ手続)した上,不開示を相
当とする旨答申していること(前記認定事実(5))を考慮しても,不開示
部分⑦を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との
信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれ
が具体的に存するものとは認められず,不開示部分⑦にそのような具体
的なおそれがあるとした内閣情報官の判断は,合理性を持つものとして
許容される限度を超えるものであり,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用
があるというべきである。
また,上記検討したところに照らせば,不開示部分⑦について,これ
を開示することによって,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正
な遂行に実質的な支障を及ぼす具体的なおそれがあると認めることもで
きない。
(ウ)以上によれば,不開示部分⑦について,情報公開法5条3号及び6
号の不開示事由に該当するものとは認められない。
(5)不開示部分⑧ないし不開示部分⑪について
ア不開示部分⑧ないし不開示部分⑪の各記載内容について
不開示部分⑧ないし不開示部分⑪は,いずれも本件行政文書の「第2部
政府統一基準」中の「Ⅳ事案対処」に存する。
本件行政文書の上記「Ⅳ事案対処」の項目は,冒頭に,「各行政機関
は,当該行政機関の職員(以下「所属職員」という。)が外国情報機関の
不審動向の対象となった場合又はそのおそれがある場合には,必ず組織と
して対処するものとする。」と記載されており,不開示部分⑧は,同記載
部分に続く部分である。そして,不開示部分⑧を含む本件行政文書の体裁
(別紙「行政文書」参照)に鑑みれば,同不開示部分は,3つの項目から
なっており,「1」として表題1行と本文2行からなる項目,「2」とし
て表題1行と本文4行からなる項目,「3」として表題1行があり,その
後,「(1)」として5行の文章が,「(2)」として3行の文章が記載されて
いる項目からなるものと推測される。不開示部分⑨は,同様に,「4」と
して表題1行があり,その後,「(1)」として7行の文章が,「(2)」とし
て2行の文章が記載されている項目からなるものと推測される。不開示部
分⑩は,同様に,「5」として表題1行があり,その後,「(1)」として4
行の文章が,「(2)」として3行の文章が記載されている項目からなるもの
と推測される。不開示部分⑪は,同様に「6」として表題1行と本文2行
からなる項目からなるものと推測される。
イ不開示部分⑧ないし不開示部分⑪の検討
(ア)不開示部分⑧ないし不開示部分⑪の内容は,上記アのとおりであり,
「Ⅳ事案対処」の項目に存するものであり,これら各不開示部分に先
立つ部分に,各行政機関は,各行政機関の職員(所属職員)が外国情報
機関の不審動向の対象となった場合又はそのおそれがある場合には,必
ず組織として対処するものとすると記載されていること,同項目中,開
示されている部分の記載内容も,カウンターインテリジェンス・センタ
ーは,各行政機関の職員からのカウンターインテリジェンスに関する不
安・心配の相談等に対応することや,各行政機関のカウンターインテリ
ジェンス・センターに対する支援の要請,各行政機関の職員から相談が
あった場合のカウンターインテリジェンス・センターから当該行政機関
に対する情報提供等が記載されていることからすれば,「Ⅳ事案対処」
の項目には,各行政機関の職員が外国情報機関の不審動向の対象となっ
た場合又はそのおそれがある場合に,各行政機関が組織としていかに対
処すべきかについての記載がされているものと推認される。この点,被
告も,不開示部分⑧ないし不開示部分⑪には,外国情報機関による不審
動向に対する対処要領等が記載されている旨主張するところ,上記検討
したところに照らせば,これら各不開示部分には,被告が主張するよう
な,外国情報機関による不審動向に対する対処要領等が記載されている
ものと認めるのが相当である。
(イ)そこで検討するに,外国情報機関による不審動向に対する対処要領
等の内容が公にされると,外国情報機関において,かかる対処要領等を
踏まえた上で我が国(各行政機関)が保有する特別管理秘密等の秘密情
報を不正に入手しようとすることを可能ないし容易にし,その漏えいの
絶無を期すべき特別管理秘密等を漏えいの危機にさらすものといわざる
を得ず,我が国の安全を守り,また,他国若しくは国際機関との信頼関
係を維持する点からも,このような対処要領等が記載された不開示部分
⑧ないし不開示部分⑪を不開示とする必要性は高いものといえる。
この点,原告は,不開示部分⑧ないし不開示部分⑪に記載されている
のは,事案対処要領としてのマニュアル的なものにすぎない上に,いず
れも5行程度の記載であって,これを公にした場合に支障が生ずるほど
の具体性を有するものではない旨主張するが,上記ア及びイ(ア)記載の
ような不開示部分⑧ないし不開示部分⑪の記載内容に照らしても,これ
ら不開示部分に記載された外国情報機関による不審動向に対する対処要
領等の内容は,各行政機関の職員(所属職員)が外国情報機関による不
審動向の対象となった場合又はそのおそれがある場合に,各行政機関が
組織としていかに対処すべきかについて,詳細な記載ではないとしても,
その要点が記載されているものと推認されるところであり,これを公に
した場合には上記のような支障が生じる具体的なおそれが存するものと
いわなければならない。
(ウ)以上によれば,不開示部分⑧ないし不開示部分⑪について,これら
を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関
係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるということができ,
情報公開法5条3号の不開示情報に該当すると認められる。
(6)不開示部分⑫について
ア不開示部分⑫の記載内容について
不開示部分⑫は,本件行政文書の「第3部カウンターインテリジェン
ス・センター」中の「2業務」に存し,カウンターインテリジェンス・
センターが行うカウンターインテリジェンスの業務としての10項目の業
務((1)から(10)まで)のうちの1つ((5)の部分)であり,1行の文章で
ある。
イ不開示部分⑫の検討
(ア)不開示部分⑫の内容は,上記アのとおりであり,カウンターインテ
リジェンス・センターが行う業務の一部をなすものである。そして,「2
業務」として,カウンターインテリジェンス・センターは,政府のカウ
ンターインテリジェンス機能を強化するため,各行政機関と連携して,
(1)ないし(10)に掲げる行政機関の枠組みを超えたカウンターインテリ
ジェンスの業務を推進することとされており,その業務の内容は,以下
のとおり記載されている(別紙「行政文書」参照)。
(1)基本方針の施行に関する連絡調整
(2)基本方針の改定案の策定
(3)カウンターインテリジェンスに関する情報の収集及び分析
(4)我が国及び諸外国におけるカウンターインテリジェンスに関す
る事例及び方策についての一般刊行物等による調査
(5)不開示部分⑫
(6)行政機関の求めに応じたカウンターインテリジェンス・センター
の保有する情報の提供
(7)行政機関職員からのカウンターインテリジェンスに関する不
安・心配の相談への対応
(8)行政機関の求めに応じたクリアランス手続に関する支援
(9)行政機関に対する秘密保全研修及び啓発に関する支援
(10)行政機関の求めに応じた事案対処に関する支援
上記のとおり,不開示部分⑫は,業務の(4)「我が国及び諸外国におけ
るカウンターインテリジェンスに関する事例及び方策についての一般刊
行物等による調査」に続く業務内容であることからすれば,不開示部分
⑦と同様に,上記業務(4)の調査等に基づく文書の作成が記載されている
ものと推認されるところであり,被告も,不開示部分⑫には,カウンタ
ーインテリジェンス・センターにおいて作成する文書の具体的な名称等
が記載されているとしている。
(イ)そこで検討するに,上記(ア)のような不開示部分⑫の内容に照らせ
ば,同不開示部分の不開示情報該当性については,基本的には不開示部
分⑦の不開示情報該当性(上記(4)参照)と同様に解するのが相当である。
もっとも,不開示部分⑫について,被告は,カウンターインテリジェ
ンス・センターにおいて作成する文書の具体的な名称等が記載されてい
るとするものの,それが,同不開示部分に先立つカウンターインテリジ
ェンス・センターの業務(4)(上記(ア)のとおり)に記載された,「我が
国及び諸外国におけるカウンターインテリジェンスに関する事例及び方
策についての一般刊行物等による調査」に係る文書に限定されるものか
否かは必ずしも明らかではない。しかしながら,そのような文書との限
定がされないとしても,不開示部分⑫は,カウンターインテリジェンス・
センターの行う業務について,1行(実際にはその3分の2程度)で記
載されたものにすぎず,そこにカウンターインテリジェンス・センター
が作成する文書の具体的な名称等が記載されているとしても,その内容
がカウンターインテリジェンスに関する情報の共有化等に関する具体的
な手法等をも含むものとはにわかに認め難いことは,不開示部分⑦につ
いて説示したのと同様である。そして,被告は,不開示部分⑫を公にし
た場合に,政府がカウンターインテリジェンスに関する情報をどのよう
な手法で共有化しているかが明らかとなり,我が国の情報保全対策に係
る事務の適正な遂行に支障を及ぼし,ひいてはわが国の安全が害される
具体的なおそれが存する旨主張するが,同主張によっても,不開示部分
⑦についてと同様に,不開示部分⑫を公にすることで,どのような実質
的な支障,具体的なおそれ(法的保護に値する蓋然性を有する程度のお
それ)が存するというのか,明らかではないというほかない。
そうすると,不開示部分⑫について,情報公開・個人情報保護審査会
が本件行政文書を見分(いわゆるインカメラ手続)した上,不開示を相
当とする旨答申していること(前記認定事実(5))を考慮しても,不開示
部分⑫を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との
信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれ
が具体的に存するものとは認められず,不開示部分⑫にそのような具体
的なおそれがあるとした内閣情報官の判断は,合理性を持つものとして
許容される限度を超えるものであり,その裁量権の範囲の逸脱又は濫用
があるというべきである。
また,上記検討したところに照らせば,不開示部分⑫について,これ
を開示することによって,我が国政府全体の情報保全に係る事務の適正
な遂行に実質的な支障を及ぼす具体的なおそれがあると認めることもで
きない。
(ウ)以上によれば,不開示部分⑫について,情報公開法5条3号及び6
号の不開示事由に該当するものとは認められない。
4小括
以上によれば,本件不開示部分に記録された情報のうち,不開示部分①,不
開示部分③ないし不開示部分⑥及び不開示部分⑧ないし不開示部分⑪について
は,いずれも情報公開法5条3号に該当すると認められるから,内閣情報官が
した本件一部不開示決定のうち,これらの部分を不開示とした部分は適法であ
ると認められる。他方,本件不開示部分に記載された情報のうち,不開示部分
②,不開示部分⑦及び不開示部分⑫については,いずれも同条3号及び6号に
該当するとは認められないから,内閣情報官がした本件一部不開示決定のうち,
不開示部分②,不開示部分⑦及び不開示部分⑫を不開示とした部分は違法であ
って,取消しを免れない。
5争点(1)(本案前の争点)等について
本件訴えのうち本件不開示部分の開示決定の義務付けの請求に係る部分は,
行政事件訴訟法3条6項2号に基づく義務付けの訴えとして提起されたものと
解されるところ,上記説示のとおり,本件一部不開示決定のうち不開示部分②,
不開示部分⑦及び不開示部分⑫を不開示とした部分は取り消されるべきもので
あるから,これら各不開示部分の開示決定の義務付けに係る部分は,同法37
条の3第1項2号の要件を満たし,適法であると認められる。そして,上記3
で検討したところに加え,口頭弁論終結時(平成27年2月26日)において
も,これら各不開示部分が情報公開法5条3号及び6号に該当するものとは認
められず,他にこれを不開示とすべき事由も見当たらないから,行政事件訴訟
法37条の3第5項の規定により,内閣情報官に対し,不開示部分②,不開示
部分⑦及び不開示部分⑫の開示決定をすべき旨を命ずるのが相当である。
他方,本件一部不開示決定のうち,上記を除く部分(不開示部分①,不開示
部分③ないし不開示部分⑥及び不開示部分⑧ないし不開示部分⑪)の取消しを
求める原告の請求は理由がないから,本件訴えのうちこれら各部分の開示決定
の義務付けの請求に係る部分は,いずれも同法37条の3第1項2号所定の訴
訟要件を満たさない不適法なものとして,却下を免れない。
6結論
よって,本件一部不開示決定のうち,不開示部分②,不開示部分⑦及び不開
示部分⑫の各部分に係る取消請求並びにこれら各部分の開示決定の義務付け請
求はいずれも理由があるから認容し,本件不開示部分のうち上記各部分を除く
各不開示部分(不開示部分①,不開示部分③ないし不開示部分⑥及び不開示部
分⑧ないし不開示部分⑪)に係る取消請求は理由がないから棄却し,これら各
部分の開示決定の義務付けに係る訴えは不適法であるから却下することとし,
訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文
を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官新宮智之
裁判官髙津戸朱子
(別紙)
行政文書目録
カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針(平成19年8月9日
カウンターインテリジェンス推進会議決定)(ただし,平成23年12月6日付け
改定後のもの。)
なお,同行政文書の内容は,その不開示部分を含め,別紙「行政文書」のとおり
である(ただし,別紙「行政文書」中のマスキング部分は,別紙「不開示部分一覧
表」記載のとおり,不開示とされた部分であり,また,別紙「行政文書」に記載さ
れた下線及び「不開示部分①」ないし「不開示部分⑫」の各記載は,本判決におけ
る便宜のために付したものである。)。
(別紙)
不開示部分一覧表
1別紙「行政文書」の4頁17行目から5頁2行目までの部分
(第2部Ⅰ3(1)のイ「クリアランス手続の構成」の部分)
(以下「不開示部分①」という。)
2別紙「行政文書」の5頁10行目から12行目までの部分
(第2部Ⅰ3(1)のウ「クリアランス手続を行う際の配意事項」の(イ)の部分)
(以下「不開示部分②」という。)
3別紙「行政文書」の7頁2行目20文字目から4行目36文字目までの部分
(第2部Ⅱの1「カウンターインテリジェンスに関する情報の定義」の部分)
(以下「不開示部分③」という。)
4別紙「行政文書」の7頁7行目から17行目までの部分
(第2部Ⅱの2「情報収集」の部分)
(以下「不開示部分④」という。)
5別紙「行政文書」の7頁19行目から25行目までの部分
(第2部Ⅱの3「情報分析」の部分)
(以下「不開示部分⑤」という。)
6別紙「行政文書」の7頁27行目から29行目までの部分
(第2部Ⅱの4「情報共有」の部分)
(以下「不開示部分⑥」という。)
7別紙「行政文書」の8頁3行目35文字目から5行目までの部分
(第2部Ⅱの5「調査等」の(1)の部分)
(以下「不開示部分⑦」という。)
8別紙「行政文書」の9頁3行目から19行目までの部分
(第2部のⅣ「事案対処」の部分)
(以下「不開示部分⑧」という。)
9別紙「行政文書」の9頁28行目から10頁8行目までの部分
(第2部のⅣ「事案対処」の部分)
(以下「不開示部分⑨」という。)
10別紙「行政文書」の10頁11行目から18行目までの部分
(第2部のⅣ「事案対処」の部分)
(以下「不開示部分⑩」という。)
11別紙「行政文書」の10頁22行目から24行目までの部分
(第2部のⅣ「事案対処」の部分)
(以下「不開示部分⑪」という。)
12別紙「行政文書」の11頁32行目の部分
(第3部の2「業務」の部分)
(以下「不開示部分⑫」という。)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛