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平成13年(行ケ)第13号 審決取消請求事件(平成13年6月27日口頭弁論
終結)
          判         決
       原      告   A
       訴訟代理人弁理士   亀   井   弘   勝
       同          稲   岡   耕   作
       同          川   崎   実   夫
       被      告   ケージーパルテック株式会社
       訴訟代理人弁護士   山   上   和   則
       同          西   山   宏   昭
          主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第35645号事件について平成12年11月20
日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、意匠に係る物品を「戸車用レール材」とする別添審決謄本写し【別
紙1】の意匠(平成2年7月10日登録出願、平成7年5月12日設定登録、登録
第930663号、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。原告は、本件
意匠登録の無効審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成11年審判第35645
号事件として審理した結果、平成12年11月20日、「本件審判の請求は、成り
立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月18日、原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決の理由は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件意匠は、その出願前に
外国において頒布された刊行物に記載され、意匠に係る物品が同一である、同写し
【別紙2】の意匠(1980年版コラム4の写真、審判甲第
1号証の1、2・本訴甲第6号証の1、2、以下「引用意匠1」という。)及び同
写し【別紙3】の意匠(レールカタログ「TROLAtechnic」、審判甲第2号証・本訴
甲第7号証、以下「引用意匠2」という。)と対比すると、開口部両縁に外側に向
かって水平に張り出すウイング状鍔を形成しレール側壁の大部分に長手方向に続く
断面視鋸歯状の突条を数本形成して成る全体的構成等において共通するが、溝の開
口端内縁部に側壁の肉厚程度の幅で溝中央に向かって傾斜する戸車転動面を設け溝
全体を断面視略Y字状としているなどの相違点は、共通点に基づく類似性をしのぐ
ものであるから、本件意匠が引用意匠1、2に類似するということはできず、ま
た、本件意匠の類似1号意匠公報(審判、本訴とも甲第3号証)、同2号意匠公報
(同じく甲第4号証)及び同3号意匠公報(同じく甲第5号証)(以下、これらに
記載された意匠を「類似意匠1」などといい、これらを総称して「本件類似意匠」
という。)は、いずれも本件意匠の後願に係るものであるから、本件意匠登録に何
ら影響を及ぼすものではなく、本件意匠登録が意匠法3条1項3号に違反してされ
たということはできないというものである。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、1(手続の経緯及び本件登録意匠)、2(請求人の主張)及
び3(被請求人の主張)については認める。4(当審の判断)のうち、本件登録意
匠と引用意匠1、2の共通点及び相違点の認定は認め、その余は争う。
   審決は、本件類似意匠を参酌して本件意匠と引用意匠1、2(以下、これら
を総称して「引用意匠」という。)の類否を判断すべきであるのにこれを怠り(取
消事由1)、本件意匠が引用意匠に類似しないとの誤った判断をした(取消事由
2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(類似意匠を参酌せずに類否判断をした違法)
   本件登録意匠について本件類似意匠が登録されているにもかかわらず、審決
は、「甲第3~5号証として提出された意匠(注、本件類似意匠)は、いずれも本
件登録意匠の後願に係るものであるため、本件登録意匠の登録に何等影響を及ぼす
ものではない。」(審決謄本5頁16行目~18行目)と判断している。しかしな
がら、制度上、類似意匠が本意匠の先願とならないことは当然であり、先願でない
ことが類似意匠を参酌しない理由とはならない。類似意匠の制度は、本意匠の意匠
権の範囲を確認するものであり、類似意匠が登録されたということは、特許庁自ら
がこれを本意匠の類似範囲として認めたものであるから、本意匠である本件意匠の
類似範囲を認定する上で参酌すべきである。
2 取消事由2(類否判断の誤り)
  (1) 本件類似意匠を参酌すると、以下のとおり、審決が本件意匠を特徴付ける
ものと認定した構成は、いずれもそのようなものではなく、これらの構成において
本件意匠と引用意匠が相違することを理由として両意匠が類似しないとした審決の
判断は、誤りというべきである。
   ア 類似意匠1は、審決の認定する、本件意匠と引用意匠との相違点(2)(以
下「相違点(2)」という。)に係る「断面視半円形の凹部」の構成を具備していな
い。
   イ 類似意匠2は、審決の認定する、本件意匠と引用意匠1との相違点(3)
(以下「相違点(3)」という。)に係る「鍔の幅を溝の最小幅(側壁中間部付近)よ
りも多少大きくしている」という構成、本件意匠と引用意匠1との相違点(6)であり
引用意匠2との相違点(5)(以下「相違点(6)」という。)に係る「レールの全高に
対する全幅の比率について略1:2」の構成を、いずれも具備していない。
   ウ 類似意匠3は、審決の認定する、本件意匠と引用意匠との相違点(1)(以
下「相違点(1)」という。)に係る「開口端内縁部に側壁の肉厚程度の幅で溝中央に
向かって傾斜する戸車転動面を設け」の構成、相違点(2)に係る「断面視半円形の凹
部」の構成、本件意匠と引用意匠1との相違点(4)であり引用意匠2との相違点(3)
(以下「相違点(4)」という。)に係る「側壁の肉厚を溝の最小幅と同程度の比較的
厚めのものとし、底部の肉厚をその3分の1程度としている」構成を、いずれも具
備していない。
   エ したがって、相違点(1)ないし(4)及び(6)に係る構成を具備しない意匠が
本件類似意匠として登録されているということは、これら相違点に係る構成が本件
意匠において視覚上特徴的なものではないことを意味するから、本件意匠と引用意
匠がこれらの相違点を有するからといって、両意匠が類似しないということはでき
ない。
(2) 本件意匠及び引用意匠は、いずれも、断面視左右対称形の溝型鋼状レール
において、開口部両縁に外側に向かって水平に張り出すウイング状鍔を形成し、レ
ール側壁の大部分に長手方向に続く断面視鋸歯状の突条を数本形成して成るという
全体的構成を具備し、また、鍔の態様について、外側の隅を丸面に形成するという
構成を具備する。これらの共通点に係る構成は、戸車用レール材の意匠において全
体的な視覚上非常に特徴的なものであり、看者に十分な美感を強調して注意をひく
から、相違点(1)ないし(6)をはるかにしのぐものであって、これらの構成において
共通する本件意匠と引用意匠は、類似するというべきである。
(3) 被告は、溝中央に向かって傾斜する戸車転動面の独創性を主張するが、類
似意匠3は、この構成を具備しないにもかかわらず、類似意匠として登録されてい
るから、上記戸車転動面の構成が本件意匠を特徴付けるものということはできな
い。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(類似意匠を参酌せずに類否の判断をした違法)について
   類似意匠制度の存在理由は、本意匠の類似範囲を確認することにあるから、
類似意匠は、意匠権侵害訴訟において参酌されるべきであって、本意匠の登録の有
効無効の判断に際して参酌されるべきではない。また、本意匠の登録の有効無効の
判断に際しては、本意匠登録出願当時の公知意匠との類否だけが問題となるから、
本意匠の後願となる類似意匠を参酌することはできない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について
  (1) 本件意匠が引用意匠と類似しないとする審決の判断は正当である。
(2) 引用意匠は、相違点(1)に係る戸車転動面の構成を具備していないが、戸
車転動面なくして脱輪防止機能を有する本件意匠のような戸車用レール材は存在し
ないものであり、審査の段階においてもこれが本件意匠の最も重要な構成要件であ
ると認められて登録されたものであるから、この構成は本件意匠を特徴付ける重要
な構成であって、その相違は本件意匠と引用意匠との共通点をしのぐものである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(類似意匠を参酌せずに類否判断をした違法)について
   意匠法48条1項1号は、意匠登録が同法3条の規定に違反してされたとき
は当該意匠登録の無効審判を請求することができる旨を規定するところ、同法3条
1項3号により意匠登録を受けることができないのは、意匠登録出願前に日本国内
又は外国において、公然知られた意匠(同項1号)又は頒布された刊行物に記載さ
れた意匠(平成11年法律第41号による改正前の意匠法3条1項2号)に類似す
る場合である。したがって、本意匠出願後にどのような類似意匠(平成10年法律
第51号による改正前の意匠法10条)の登録がされたかは、意匠法3条1項3号
に規定する事由の存否と関係がない。
   審決が、「甲第3~5号証として提出された意匠(注、本件類似意匠)は、
いずれも本件登録意匠の後願に係るものであるため、本件登録意匠の登録に何等影
響を及ぼすものではない。」(審決謄本5頁16行目~18行目)と説示するの
は、このような趣旨をいうものと解されるから、この点で審決の判断に誤りはな
い。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について
  (1) 類似意匠は、本意匠に類似することを要件として登録が認められるもので
あるから、類似意匠として登録されたということは、特許庁がこれを本意匠に類似
する意匠と認めたものである。したがって、ある意匠が本意匠と類似するかどうか
を判断するに当たっては、登録された類似意匠を参酌すべきである。ただし、類似
意匠の登録は、本意匠の類似範囲に関する特許庁の判断を示すものの、その判断が
誤りである場合には、当該類似意匠登録に無効事由が存在することとなるのであっ
て、無効事由のある類似意匠登録により本意匠の類似範囲が変動するわけではな
い。このことを前提として、以下、本件意匠と引用意匠の類否について判断する。
  (2) 当事者間に争いのない本件意匠の構成及び本件類似意匠1、2の構成(甲
第3、4号証)によれば、本件意匠及び類似意匠1、2が以下の構成を具備するも
のと認められる。
   ア 本件意匠及び類似意匠1、2は、いずれも、断面視左右対称形の溝型鋼
状レールにおいて、開口部両縁に外側に向かって水平に張り出すウイング状鍔を形
成し、レール側壁の大部分に長手方向に続く断面視鋸歯状の突条を数本形成して成
るという全体的構成を具備する。
   イ 類似意匠1は、相違点(2)に係る「断面視半円形の凹部」の構成を具備し
ないが、相違点(1)及び(3)ないし(6)に係る本件意匠の構成を具備する。
   ウ 類似意匠2は、相違点(3)に係る「鍔の幅を溝の最小幅(側壁中間部付
近)よりも多少大きくしている」という構成及び相違点(6)に係る「レールの全高に
対する全幅の比率について略1:2」の構成を、いずれも具備しないが、相違
点(1)、(2)、(4)及び(5)に係る本件意匠の構成を具備する。
(3) 以上のように、類似意匠1、2は、いずれも、上記アの基本的構成態様を
具備する上、相違点(1)ないし(6)に係る本件意匠の6点の具体的構成のうち4点及
び5点の構成を具備しているのであって、本件意匠に類似すると認められる。類似
意匠として登録されるためには、本意匠と類似することを要するが、このことは、
必ずしも、具体的構成態様のすべてについて本意匠の構成を具備することを要しな
いから、その一部の構成を具備しないからといって、類似意匠1、2が本意匠と類
似するということの妨げとはならない。
  これに対し、引用意匠1は相違点(1)ないし(6)のすべてについて、また、
引用意匠2は相違点(3)に係る構成を除くすべてについて、いずれも本件意匠と構成
を異にしているのであって、看者の注意を強くひく本件意匠に特徴的な具体的構成
態様のほとんどについて構成が相違する以上、引用意匠が本件意匠と類似するもの
ではない。
    したがって、相違点(1)ないし(4)及び(6)に係る構成の一部を具備しない類
似意匠1、2が本件意匠の類似意匠として登録されているからといって、これら相
違点に係る構成が看者の注意を強くひく本件意匠に特徴的なものであることと矛盾
するものではない。これらの相違点が存在することに基づいて、本件意匠と引用意
匠とが類似しないものとする審決の判断に誤りはない。
(4) 原告は、本件意匠と引用意匠とは、断面視左右対称形の溝型鋼状レールに
おいて、開口部両縁に外側に向かって水平に張り出すウイング状鍔を形成し、レー
ル側壁の大部分に長手方向に続く断面視鋸歯状の突条を数本形成して成るという全
体的構成を具備する点で共通し、また、鍔の態様について、外側の隅を丸面に形成
するという具体的構成を具備する点でも共通すると主張するところ、当事者間に争
いがない本件意匠及び引用意匠の構成は、いずれも原告主張のとおりである。
  確かに、上記全体的構成及び具体的構成の共通点は、戸車用レール材の意
匠において看者の注意をひく特徴的なものではあるが、相違点(1)ないし(6)に係る
本件意匠と引用意匠の構成の相違点をしのぐ程のものということはできない。特
に、相違点(1)に係る「開口端内縁部に側壁の肉厚程度の幅で溝中央に向かって傾斜
する戸車転動面」の構成、相違点(2)に係る「溝底部両隅の側壁内面に長手方向に続
く断面視半円形の凹部」の構成及び相違点(4)に係る「側壁の肉厚を溝の最小幅と同
程度の比較的厚めのものとし、底部の肉厚をその3分の1程度とする」構成は、い
ずれも看者の注意を特にひく本件意匠に特徴的な構成であって、これらの構成を全
く具備しない引用意匠が本件意匠に類似するということはできない。
(5) また、原告は、相違点(1)に係る「開口端内縁部に側壁の肉厚程度の幅で
溝中央に向かって傾斜する戸車転動面」の構成を具備しない類似意匠3が登録され
ていることを根拠として、上記戸車転動面の構成が本件意匠を特徴付けるものでは
ないと主張する。
    類似意匠3(甲第5号証)は、相違点(3)、(5)及び(6)に係る本件意匠の構
成を具備するものの、相違点(1)に係る「開口端内縁部に側壁の肉厚程度の幅で溝中
央に向かって傾斜する戸車転動面を設け」の構成、相違点(2)に係る「断面視半円形
の凹部」の構成及び相違点(4)に係る「側壁の肉厚を溝の最小幅と同程度の比較的厚
めのものとし、底部の肉厚をその3分の1程度としている」構成を、いずれも具備
しない。そうすると、類似意匠3は、相違点(1)ないし(6)の6点の具体的構成中3
点の構成を具備するにとどまり、本件意匠の具体的構成において特に看者の注意を
強くひく特徴的な相違点(1)、(2)及び(4)に係る構成を具備しないので、本件意匠の
類似意匠として登録されることには疑問の余地がある。しかしながら、仮に特許庁
が類似範囲に関する判断を誤って類似意匠の登録をしても、無効事由のある当該類
似意匠登録により本意匠の類似範囲が変動するわけではないことは、上記のとおり
であるから、類似意匠3が登録されたことから、直ちに、上記戸車転動面の構成が
本件意匠に特徴的な構成であることが否定され、ひいては本件意匠が引用意匠に類
似しないとする上記判断が左右されるべきものではない。
 3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、
他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決す
る。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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