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裁判例


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       主   文
1 被告が原告に対してした次の処分を取り消す。
(1) 平成9年4月25日にした「平成7年度分の監査委員事務局の食糧費支出
に係る一切の資料」の部分非公開決定処分
(2) 平成9年6月23日にした「平成5,6年度分の監査委員事務局の食糧費
支出に係る一切の資料」の各部分非公開決定処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
1 原告の申立て(請求の趣旨)
主文同旨の判決を求めた。
2 事案の概要
本件は,原告が,被告のした公文書部分非公開決定処分について,その取消しを求
めた訴訟である。なお,立証は,記録中の証拠関係目録記載のとおりである。
(1) 争いのない事実等
原告は,千葉県内に住所を有する者である。また,被告は,旧千葉県公文書公開条
例(平成12年千葉県条例第65号による廃止前のもの〔昭和63年千葉県条例第
3号〕。以下「本件条例」という。)の「実施機関」として,その職員が職務上作
成・収受した文書等について,同条例に基づく公文書公開請求についてその可否を
決定するべき立場にある。なお,本件条例の関係規定は,別紙1のとおりである。
原告は,平成9年3月7日及び同年5月14日,千葉県監査委員に対し,本件条例
に基づき,平成5年度ないし平成7年度分の監査委員事務局の食糧費の支出に係る
一切の資料(公文書)の公開請求(以下「本件公開請求」という。)をした(平成9
年3月7日請求分は平成7年度分について,同年5月14日請求分は平成5,6年
度分について)。これに対し,被告は,同年4月25日及び同年6月23日,本件
公開請求に対応する公文書は,別紙2の「支出負担行為支出伝票」とその添付書類
(「支出負担行為減額伝票」,「受取人・枝番変更票」,「請求書」及び「見積
書」。以下,これらを併せて「本件文書」という。)であるとしたうえ,本件文書の
うちの一部を非公開と決定する処分(平成9年4月25日決定分は平成7年度分に
ついて,同年6月23日決定分は平成5,6年度分について。以下,これらを併せ
て「本件処分」という。)をした。
なお,本件処分の決定通知書には,本件文書のうち一部を非公開とした理由とし
て,次のとおりの記載がされている。
ア 平成9年4月25日決定分
「千葉県公文書公開条例第11条第2号,第3号及び第8号該当
(理由)
特定個人を識別し得る情報が記録されているため。
法人の事業運営上の情報が記録されているため。
関係者との信頼関係が損なわれる情報が記録されているため。」
イ 同年6月23日決定分
「千葉県公文書公開条例第11条第2号,第3号及び第8号該当
① 特定個人を識別し得る情報が記載されている。(条例第11条第2号)
② 法人又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公開することによ
り,当該法人又は当該事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益
を与える情報が記載されている。(同条第3号)
③ 実施機関が行う事務事業に関する情報であって,当該事務事業の性質上,公開
することにより,実施機関と関係者との信頼関係が損なわれると認められる情報,
当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の実施の目的が失われるおそれがある
情報又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に
著しい支障が生ずると認められる情報が記載されている。(同条第8号)」
(当事者間に争いのない事実,証拠〔甲第1,2号証の各1ないし3〕及び弁論の
全趣旨によって認める。)
(2) 争点
ア 原告の主張
本件処分は,会合の目的・参加者名,費用請求者名を非公開とするものであるが,
これを非公開とする合理的な理由はないうえ,それぞれの非公開部分が本件条例1
1条の非公開事由に当たるのかの説明も何らなされていない。このような本件処分
は,県民の県政に対する理解と信頼を深め,県政の公正な運営の確保と県民参加に
よる行政の一層の推進を図るべきことを定めた本件条例1条の目的に違反する。
イ 被告の主張
本件文書のうち非公開部分は,次のとおりである。
① 別紙2の三の1関係
「支出負担行為支出伝票」及び「受取人・枝番変更票」のうち説明欄(目的及び出
席者の役職名の一部),相手方(債権者)の住所,氏名及び金融機関の口座内容並
びに相手方コード等欄
「請求書」のうち名義人の住所,氏名,印影及び電話番号並びに金融機関の口座内

「見積書」のうち名義人の住所,氏名,印影及び電話番号
② 別紙2の三の16,17,21,22.23関係
「支出負担行為支出・減額伝票」のうち説明欄(目的及び出席者の所属団体の一部
と開催場所),相手方(債権者)の住所,氏名及び金融機関の口座内容並びに相手
方コード欄
「請求書」のうち名義人の住所,氏名,印影及び電話番号
③ 別紙2のうちその余の関係
「支出負担行為支出伝票」のうち説明欄(目的ないし出席者の所属団体又は役職名
の一部),相手方(債権者)の住所,氏名及び金融機関の口座内容並びに相手方コ
ード欄
「請求書」のうち名義人の住所,氏名,印影及び電話番号ないし金融機関の口座内

「見積書」のうち,名義人の住所,氏名,印影及び電話番号
そして,これらの非公開部分には本件条例所定の非公開事由(本件条例11条)が
ある。
すなわち,「支出負担行為支出・減額伝票」及び「受取人・枝番変更票」について
は,説明欄中の目的は8号(事務事業情報)に,出席者の所属団体又は役職名は2
号(個人情報)ないし8号(事務事業情報)に,開催場所は3号(債権者情報)
に,相手方(債権者)の住所,氏名,金融機関の口座内容及び相手方コード欄は3
号(債権者情報)に該当する。また,「請求書」及び「見積書」については,名義
人の住所・氏名,印影,電話番号及び金融機関の口座内容は3号(債権者情報)に
該当する。なお,本件処分について理由付記(本件条例8条4項)についての違法
があるとする原告主張を争う。
3 当裁判所の判断
本件処分にあたり,被告が通知書に記載した処分理由の内容は,前示(2(1)末
尾)のとおりであり,この記載は,本件条例11条の文言の一部を引き写した内容
にすぎないから,被告が本件処分の理由として原告に示したのは,本件条例の非公
開事由の根拠規定の法条を引用しただけに等しい程度のものであるということがで
きる。
ところで,本件条例8条4項は,公文書の非公開決定をしたときは,その理由を通
知書に記載しなければならないと定めているが,その趣旨は,非公開の理由の有無
について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制することと,
公開請求者に非公開の理由を知らせることによって不服申立てに便宜を図る点にあ
るから,公開請求者が条例所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠とと
もに了知し得る程度のものでなければならず,単に非公開の根拠規定を示す場合
は,当該公文書の種類,性質等と相まって公開請求者がそれらを当然知り得るよう
なときは別として,条例の要求する理由付記としては充分ではないというべきであ
る(最高裁平成4年(行ツ)第48号同年12月10日第一小法廷判決・裁判集民
事166号773頁参照)。
そこで,上記の理由記載をもって公開請求者が非公開事由を当然知り得るような場
合に当たるかを本件に即して検討すると,当裁判所は,以下に説示するとおり,そ
のような場合に当たるということはできないから,本件処分は本件条例8条4項に
違反するものであり,この点において,本件処分は取消しを免れないと判断するも
のである。
(1) 本件文書は,平成5年度ないし平成7年度の「支出負担行為支出伝票」と
その添付書類であり,本件文書は,被告の判断したところによると,添付書類を除
いても18通,11通,25通の多数に及んでいるというのである。ところが,上
記理由には,非公開事由(非公開理由の条例規定の一部)が一括して掲げられてお
り,どの公文書のどの部分が本件条例11条の2号,3号,8号の非公開理由に該
当するかについての区別がされていない。
(2) 被告は,本訴になってその区分を主張している(2(2)イ)。
しかしながら,そのような区分は説明書では明示されていないうえ,本件文書の公
開された部分(文書の体裁を含む。)と照らし合わせても,それが明確になるとはい
い難いというべきである。
ア すなわち,まず,「支出負担行為支出・減額伝票」の説明欄中の目的について
みると,およそ公開することが本件条例11条8号に該当するような事態(信頼関
係が損なわれたり,事務事業の実施の目的が失われるおそれ等)に直結するような
性質のものであると断定することはできない(乙第58号証〔A作成の陳述書〕に
は,監査委員の業務についての密行性について縷説する部分があるが,これを採用
することはできない。)。したがって,公開請求者にとって目的の記載内容の一部が
非公開とされているからといって,この部分が同号の非公開事由に該当することを
想到することは困難であり,理由が明示されているといえないことは明らかであ
る。
イ 次に,証拠(乙第3号証ないし第56号証の各1)によると,本件文書の
公開された部分の内容・体裁と照らし合わせても,同伝票の説明欄の各非公開部分
に出席者の所属団体又は役職名が記載されているかどうかが不明であり,これによ
ると,どの公文書のどの非公開部分に被告主張の非公開事由があるかを公開請求者
が憶測することすら困難である。
ウ また,債権者の金融機関の口座等に関する情報についてみると,一般に,口座
等の内容は,債権者にとって重要な情報であってひろく公開することを予定してい
ない性質のものではあるが,このような情報であっても,もともと取引等によって
外部に知られる可能性があることは多言を要しないものであって,これが公開され
たからといって債権者の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えたり,社
会的信用を損なうこと(本件条例11条3号後段の要件)が明らかであるとするこ
ともできないし,この要件に該当すると推定することもできない。
ところが,本件においては,通知書にこの点についての言及は一切されておらず,
非公開事由についての法条の一部を羅列しただけの上記記載をもって,債権者に関
する上記情報が本件条例11条3号に該当することを当然に知り得るとすることは
できない。
なお,被告は,相手方コード及び会合の開催場所についての非公開事由についても
本件条例11条3号(債権者情報)であると主張している。しかし,弁論の全趣旨
によれば,相手方コードは被告ないし千葉県における事務手続のため付した記号で
あると窺えるから,そもそもこれが非公開事由に当たることが明白ということはで
きないし,また,会合の開催場所の公開が本件条例11条3号後段の要件に該当す
ることが明らかであったり,これを推定することができないことは前示判断したと
ころと同様である。したがって,この点についても,これら情報が本件条例11条
3号に該当することを当然に知り得るとすることはできない。
エ その他,本件において,本件文書の非公開部分のそれぞれが本件条例の非公開
事由のどの規定に該当するか,その理由は何かを本件文書の性質や公開部分・体裁
と相まって明確であると窺う資料はない。
以上のとおり,原告の本件請求は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負
担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決す
る。
千葉地方裁判所民事第三部
裁判長裁判官 園部秀穗
裁判官 向井邦生
裁判官 今泉秀和は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 園部秀穗
(別紙1)本件条例の関係規定(抄)
第8条 実施機関は,前条(公開請求の手続)に規定する請求書を受理したとき
は,当該請求書を受理した日から15日以内に,請求に係る公文書を公開するかど
うかの決定をしなければならない。
2 実施機関は,前項の決定をしたときは,前条に規定する請求書を提出したもの
に対し,速やかに,書面により当該決定の内容を通知しなければならない。
4 実施機関は,第1項の規定により公開しない旨の決定をしたときは,その理由
を第2項の書面に記載しなければならない。…
第11条 実施機関は,次の各号の一に該当する情報が記録されている公文書につ
いては,公開しないことができる。
二 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって
特定個人が識別され,又は識別され得るもの …
三 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関
する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公開することによ
り,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利
益を与え、又は社会的信用を損なうと認められるもの …
八 実施機関が行う交渉,取締り,立入検査,監査,争訟,入札,試験等の事務事
業に関する情報であって,当該事務事業の性質上,公開することにより,実施機関
と関係者との信頼関係が損なわれると認められるもの,当該事務事業若しくは将来
の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるも

別紙2 本件文書(略)

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