弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、すべて原判決事実摘示(添付目録をふくむ。)記
載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
         理    由
 被控訴人が昭和三〇年五月二日訴外Aより金一二〇万円を弁済期は昭和三〇年一
一月末日、利息は年一割五分にて借受け、その債務を担保するため被控訴人はその
所有に係る東京都豊島区ab丁目c番地所在木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二八坪九
合二階二九坪三合六勺に抵当権を設定し且つ弁済期にその債務を完済しないとき
は、代物弁済として右建物を同訴外人に譲渡し且つその登記をなすべき旨約し同日
右訴外人と被控訴人は東京法務局所属公証人保持道信をして、債権者A債務者B
(被控訴人)とする右と同旨の金銭消費貸借公正証書(昭和三〇年第四〇二号)を
作成せしめたところ、同訴外人が右公正証書に基き被控訴人に対する強制執行のた
めの執行文の付与を受け、これをもつて登記原因を証する書面として、単独に、右
建物につき代物弁済による所有権移転登記を東京法務局板橋出張所に申請したとこ
ろ、同出張所登記官吏は、これを昭和三〇年八月二三日受付第二〇四三九号で受理
し、Aのため右建物につきその旨の登記をなしたこと、ここにおいて被控訴人は、
右板橋出張所登記官吏のなした右登記は、公正証書中の代物弁済による所有権移転
及びその登記をなすべき旨の記載をもつて不動産登記法第二七条にいう判決と同一
視し、すなわち訴外Aのみ単独の申請に基いて行つた点において違法な処分である
として、控訴人に対し不動産登記法第一五〇条に基き異議の申立をなし、その登記
の抹消を求めたところ、控訴人は、昭和三〇年一二月一五日前記事実関係を認めな
がら、「不動産登記法第一五〇条により異議申立の認められるのは、同法第四九条
一号二号に規定する場合にのみに限られる。しかるに本件の場合は同法第四九条三
号四号八号に該当するに止るから、一旦登記を終えた以上は異議の方法による抹消
請求は許されない。」との理由で、被控訴人の異議の申立を棄却する旨の決定をな
し、同月一七日右決定が被控訴人に送達されたことは当事者間に争のないところで
ある。
 そしてAのした右所有権移転登記申請を右出張所登記官吏において却下すべきも
のであつたことは論を俟たないところである。この点につき被控訴人はかくの如き
場合には、同法第一五〇条以下に規定された異議の申立をなすことによつて登記の
抹消を求め得るものであると主張する。しかし要件を具備しない登記申請を登記官
吏において却下すべきこととかかる登記申請を登記官吏が誤つて受理しこれを登記
したとき、その登記を無効として、抹消すべきこととは別個の問題に属する。
 仍つて考えるに登記が有効なるためにはそれがその登記所の管轄に属する事件に
ついて行われたこと(不動産登記法第四九条第一号)、及び登記した事項が不動産
登記法自体の要請よりして又は実体法よりして、登記すべき事項であること(同法
同条第二号)を必要としこれらの要件を欠く場合には登記申請の瑕疵は本質的であ
つて治癒し得ないものであり、かかる場合若し登記されてもその登記は法律上当然
無効というべきである。
 そして更に登記のために当事者の申請を必要とすべき場合において何等形式上申
請なきに拘らず登記されたときは、その登記もまた当然無効と解すべきである。問
題となるのは本件の如き場合、形式上登記申請自体を欠くものとしてその登記を無
効とすべきか否かである。一体登記申請につき登記権利者及び登記義務者双方より
の共同申請を原則としたのは登記の真正を保持せしめるために外ならないから、共
同申請によらなくともその真正を保持し得るものと認める場合について、法は単独
の申請を認めるのである(不動産登記法第二七条)。
 <要旨第一>そして本件の場合は本来登記権利者及び登記義務者の共同申請による
べきであつたに拘らず、登記官吏が誤つて登記権利者のみの単独申請に
よつて、代物弁済による所有権移転登記をしたのであつて、そのことは明かに違法
であるが、しかしこの場合登記権利者よりの申請があつて登記の行われた以上、そ
れは何等当事者よりの申請がなされなかつたのに登記の行われた場合と全く趣を異
にする。そして前述したところの登記の当然無効な場合を除き、その他の場合にお
いては、たとえ申請手続に瑕疵があつたにせよ、一旦登記官吏がそれを受理して登
記を完了した以上はその登記は必ずしも無効と目すべきものではない。何となれば
苟もその登記が実体的権利関係と合致して真実の権利者を登記簿上に表示する場合
においては、その登記はもはや無効でなく、その申請の瑕疵はこれを攻撃し得ない
からである。いわば申請の瑕疵は治癒されるのである。ただ瑕疵ある登記申請に基
いてなされた登記が、実体的の権利関係に合致しない場合においてのみ、その抹消
の問題を生ずるのである。
 しかしながら登記官吏は登記申請に当り形式的審査権を有するものであるが、申
請手続に瑕疵あるにせよ、一旦登記されたときは登記後の現在において、その登記
が果して実体的権利関係に合致するか否かについてもはや審査の権限を有し得ない
ものである。従つて若し利害関係人の間に、その登記が実体的権利関係に合致しな
いとて争を生じこれを理由としてその抹消を求めようとするときは、訴を提起して
裁判所の判断を仰ぐ以外<要旨第二>に解決の方法はないのである。換言すれば前述
の登記の当然無効の場合を除き、一旦登記のなされた以上、たとえ申請
手続に瑕疵があつたにせよ、その審査は全く登記官吏の権限外のこととなるのであ
る。従つてこの場合もはや不動産登記法第一五〇条以下に規定する登記官吏の処分
に対する異議を申立て得ないのである。かく解するとき、不動産登記法に規定する
この異議は、前述したところの登記の当然無効の場合においてのみ申立て得るに止
るものといわざるを得ない。果して然らば本件の場合、申請手続に瑕疵あるにせ
よ、右法条による異議の許されないことは、明かである。
 叙上の理由により、被控訴人の本件請求は許し得ないから、これを認容した原判
決は失当として取消すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条
第九六条を適用して、主文の如く判決する。
 (裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 猪俣幸一 裁判官 沖野威)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛