弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人両名の弁護人森川金寿、同佐伯静治外一七名の上告趣意のうち、地方公務
員法三七条一項につき憲法二八条違反をいう点及び地方公務員法六一条四号につき
憲法二八条、一八条、三一条違反をいう点は、当裁判所の判例(昭和四四年(あ)
第一二七五号同五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁、昭和四
三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)
に徴して理由がなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であ
って、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 以下、所論にかんがみ職権をもって、地方公務員法六一条四号の解釈適用につい
て検討する。原判決の認定によれば、本件における事実関係の大要は、次のとおり
である。
 第一 被告人Aは、日本教職員組合(以下「日教組」という。)の中央執行委員
長であったものであるが、昭和四九年春、春闘共闘委員会、日本公務員労働組合共
闘会議の統一闘争として、日教組傘下の組合員である公立小・中学校教職員らをし
て、「賃金の大幅引上げ・五段階賃金粉砕、スト権奪還・処分阻止・撤回、インフ
レ阻止・年金・教育をはじめ国民的諸課題」の要求実現を目的とする同盟罷業を行
わせるため、
 一 関係役員らと共謀の上、(1)同年二月二五日及び二六日に開催された日教
組第四四回臨時大会において、日教組傘下の小・中学校教職員らをして同年四月中
旬に同盟罷業を行わせること等を決定し、(2)同年二月二八日ころ、日教組中央
闘争委員長A名義の傘下各都道府県教職員組合(以下「県教組」という。)委員長
あて指示第一八号を発出して、右臨時大会における同盟罷業の実施についての決定
を伝達するとともに同盟罷業実施体制の確立を指示し、(3)同年三月一九日に開
催された日教組第五回全国戦術会議において、右同盟罷業は第一波同年四月一一日
全一日、第二波同月一三日早朝二時間などと配置すること等を決定するなどし、
 二 関係役員らと共謀の上、(1)同年三月二九日、日教組本部名義の「春闘共
闘戦術会議の決定を受け、公務員共闘は四月一一日第一波全一日ストライキを配置
することを決定した。各組織は闘争体制確立に全力をあげよ。」との趣旨の指令を
北海道、東京都、岩手県、埼玉県、広島県の各県教組あてに発出し、右指令の趣旨
を同各県教組傘下の小・中学校教職員多数に対し伝達し、(2)同年三月末ころか
ら同年四月初めころまでの間、右指令と同趣旨の記事を登載し、かつ「歴史的な全
一日ストを総力をあげて成功させよう。」などと記載した日教組教育新聞を同各県
教組傘下の教職員多数に対し頒布し、(3)同年四月九日、日教組本部名義の「日
教組第五回全国戦術会議の決定に基づき予定どおり四月一一日全一日ストライキに
突入せよ。」との趣旨の行動要請を北海道、岩手県、広島県の各県教組あてに発出
し、右行動要請の趣旨を同各県教組傘下の教職員多数に対し伝達するなどし、(4)
なお、右(3)と併せて東京都教職員組合(以下「都教組」という。)あてにも同
様の行動要請を発出したが、その趣旨を都教組傘下の一般教職員に対し伝達するに
は至らなかった。
 第二 被告人Bは、都教組の執行委員長代行ないし執行委員長であったものであ
るが、昭和四九年春、春闘共闘委員会、日本公務員労働組合共闘会議の統一闘争と
して、傘下の組合員である公立小・中学校教職員らをして、前記第一の要求実現を
目的とする同盟罷業を行わせるため、
 一 関係役員らと共謀の上、(1)同年三月八日に開催された都教組第五七回臨
時大会において、傘下の小・中学校教職員らをして同年四月中旬に同盟罷業を行わ
せること等を決定し、(2)同年三月一三日ころ、都教組執行委員長代行B名義の
都教組各支部長・分会長あて指示第八二号を発出して、右臨時大会における同盟罷
業の実施についての決定を伝達するとともに同盟罷業実施体制の確立を指示するな
どし、
 二 関係役員らと共謀の上、(1)同年三月二九日ころから同年四月八日ころま
での間、同年三月二九日に日教組本部名義で発出された前記第一の二(1)の指令
の趣旨を傘下の小・中学校教職員多数に対し伝達し、(2)同年四月三日に開催さ
れた第一回都教組支部長・書記長会議において、「七四春闘一日・半日スト行動規
制」及び「七四春闘一日および半日ストを成功させるための取組みの基本」と題す
る都教組執行委員会名義の文書を配布して同月一一日の同盟罷業に際し組合員のと
るべき行動を指示し、同月三日ころから同月一〇日ころまでの間、右指示の趣旨を
傘下の小・中学校教職員多数に対し伝達するなどした。
 以上の事実関係のもとにおいては、右第一の一、第一の二(4)、第二の一の各
行為は、地方公務員法六一条四号にいうあおりの企てに当たり、第一の二(1)な
いし(3)、第二の二の各行為は、同号にいうあおりに当たるものというべきであ
り(前記各大法廷判決参照)、また、右第一、第二のように、同盟罷業の遂行をあ
おることを企てた上当該同盟罷業の遂行をあおった行為は、犯罪の性質、同号の規
定形式、法定刑等に照らし、それぞれ包括して同号の罪を構成するものと解するの
が相当であるから、これと同旨の原判断は、正当である。
 なお、本件については、刑訴法四一一条二号を適用すべきものとは認められない。
 よって、刑訴法四一四条、三九六条により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官角田禮次郎、同佐藤哲郎の補足意見があるほか、裁判官全員
一致の意見によるものである。
 裁判官角田禮次郎、同佐藤哲郎の補足意見は、次のとおりである。
 被告人両名に対する量刑について検討すると、第一審判決は、検察官の懲役刑の
求刑に対し、本件犯行が公務員等の争議行為に関する判例の動揺期に生じたもので
ある点を重視して、被告人両名を各罰金一〇万円に処したが、これに対し、原判決
は、判例が動揺期にあったことを必要以上に重視するのは必ずしも均衡のとれた見
方とは言い難く、罰金刑にとどめるべき根拠が薄弱であるとして、第一審判決を破
棄した上、被告人Aを懲役六月(執行猶予一年)に、被告人Bを懲役三月(執行猶
予一年)に処した。
 もとより、地方公務員法六一条四号の罪の法定刑は、三年以下の懲役又は一〇万
円以下の罰金であり、犯情により懲役刑を選択して処断すべき場合が存在すること
は、当然である。ただ、本件は、公務員等の争議行為に関する当審判例が変更途上
の時期に発生した事案であり、行為当時、国家公務員法の関係では、既にいわゆる
全農林事件判決(法廷意見引用の昭和四八年四月二五日大法廷判決)によりいわゆ
る全司法仙台事件判決(最高裁昭和四一年(あ)第一一二九号同四四年四月二日大
法廷判決・刑集二三巻五号六八五頁)が変更されていたとはいえ、本件で直接問題
となる地方公務員法の関係では、いわゆる都教組事件判決(最高裁昭和四一年(あ)
第四〇一号同四四年四月二日大法廷判決・刑集二三巻五号三〇五頁)がいまだ明示
的に変更されてはいなかったのであって、最上級審の判例変更に伴う右のような特
別の事情は、被告人両名に対する刑の量定に当たっては、やはり軽視することので
きない重要な要素であるというべきである。そして、本件争議行為が単純不作為を
内容とするものであったこと、その他第一審判決及び原判決が指摘する各被告人に
利益な情状などにも照らすと、被告人両名に対する科刑としては、罰金刑をもって
臨んだ第一審判決の科刑も首肯するに足り、検察官の量刑不当の控訴趣意を容れて
第一審判決を破棄した上、あえて懲役刑をもって臨んだ原判決の量刑は、いささか
重きに失するものといわざるを得ない。
 しかしながら、更に検討してみると、被告人両名に対する原判決の科刑は、いず
れも刑期が短い上、刑の執行が猶予されており、しかも各執行猶予期間は法律上最
短の一年間であって、本件具体的事案のもとでは、各懲役刑が現に執行される事態
に至ることは容易に想定し難く、実質上、罰金刑との差異が甚大であるとまではい
えない。そうしてみると、本件は、原判決の刑の量定が甚しく不当であって原判決
を破棄しなければ著しく正義に反する場合にはいまだ当たらないことに帰する。
 以上のとおり、原判決の量刑は不相当であると考えられるが、結局のところ、本
件については、いまだ刑訴法四一一条二号の職権を発動すべきものとは認められな
い。
 検察官緒方重威 公判出席
  平成元年一二月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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