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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人四名弁護人岡林辰雄上告趣意第一点について。
 工務係Aが時間外勤務を強行せしめたか否かは本件では公訴事実ではなく単に被
告人B、同C、同D等の判示第一の傷害行為の動機乃至縁由となつているのに過ぎ
ない。さればその事実は本件では罪となるべき事実ではなく、また、法律上犯罪の
成立を阻却し又は刑を減免する事由でもないから、原審がこれについて判示をしな
かつたからといつて、何等判断遺脱の違法があるとはいえないし、また、もとより
公平でない裁判を行つたものともいえない。それ故論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決は被告人C、同B、同Dの三名は判示会社の工員であつたが、昭和二三年
(原判決に二〇年とあるのは誤記と認める)七月三日判示会社より解雇の通知を受
けた者である旨並びに被告人等は同月八日午後三時三五分判示EからF労働組合事
務所以外の場所に立入ることを禁止されたにかかわらずその禁止内の場所である同
工場内の寄宿事務所二階四畳半の室に故なく侵入し又は同室から故なく立退かなか
つた旨判示しているから、原判決には理由に何等の齟齬がない。そして原判決挙示
の証拠である原審公判廷における被告人Bの「七月三日会社から私達六名に対して
解雇の通知があつたのです」の供述、被告人Cの「七月三日に会社から以前の暴行
の事が原因で解雇されるような通知が文書で来ました」の供述及びEに対する検事
の聴取書中同人の供述として原判決に摘示せる「会社では工員C、B外四名に対し
昭和二三年七月三日就業規則五五条に基き正式に解雇し翌日県労働委員会で正当と
して認められた……」の供述記載と原判示とを対照して見ると原判示の解雇の通知
並びに立入禁止とあるのはいずれも適法に行われた趣旨の判断を示したものである
こと明白であり従つて、被告人B、同C等は所論の解雇の通知を受けた日から後は
会社の工員だということを理由として工場内に立入る権利を有するものではない筋
合であるといわなければならない。そして労働組合法及び憲法の所論各規定は特定
工場の労働組合員ではあるが、その工場の工員でなくなつた労働者にもその工場内
に当然に立入る権利を保障する趣旨のものとは解することを得ない。しかも右被告
人両名が所論の解雇の通知を受けた後である同年七月八日E工場長が右被告人等に
対して工場内の労働組合事務所以外の場所に立入りを禁止した趣旨は原判決の証拠
説明に摘示せるE工場長の「然るに同人等は右の解雇が一方的であると主張して依
然工場に入り寄宿事務所等に宿泊するので同月八日午後三時三五分…」の供述記載
で明らかなとおり右被告人等が解雇された後もなお工場内寄宿事務所等に宿泊する
のでこれを禁止するにあつたものであるから、右E工場長の立入禁止の措置をとら
えて右被告人等の正当業務を妨害する犯罪行為だとか労働組合法一条憲法二八条の
各規定に違反する不法の行為だとかの所論はいずれもあたらない。しかのみならず
原判決が右被告人等の故なく侵入し又は退去しなかつたと判示した場所は通常労働
運動と必然的な関係ありとは思われない工場内の寄宿事務所の一室であるから、原
審が右被告人等の判示場所に侵入した所為又は同場所から立退かなかつた所為を住
居侵入と認めて判示法条を適用して右被告人等を処断したからといつて、原判決に
は所論のような理由齟齬の違法乃至所論憲法の規定違反も存しない。所論は結局原
判示にそわない事実を前提として、独自の見解に基き原判決を非難するに帰し上告
適法の理由とならぬ。
 同第三点について。
 所論に摘録するEの供述記載の意味を所論のように被告人Gが組合の書記でない
という趣旨に解することはその文詞上からも、また、前後の関係からも妥当でない
のみならず原判決の証拠説明で明らかなように、所論原判決冒頭の「被告人GはF
工場の労働組合の書記である」の判示事実は同被告人の原審公判廷の判示同旨の供
述を証拠として認定しているのであつて、所論のEの供述記載で認定したものでは
ないから原判決には所論(一)のような採証の法則を誤つた違法は存しない。
 次に被告人GがF工場労働組合の書記であることは原判決の判示しているところ
であるが労働組合の書記はその組合員が勤務している工場又は組合員の居住してい
る工場内の寄宿舎に常に自由に出入する権利を有するという主張はたやすく肯定で
きないところである。しかのみならず被告人Gが侵入した場所は原判決挙示の証拠
である原審公廷における同被告人の供述に照して明らかなように寄宿事務所の一室
であつて工員の居住すべき寄宿舎ではなく、しかも上告趣意第二点における説明で
明らかなように被告人Bは当時すでにF工場の工員でないのであるから組合員とし
て勤務している工場でなかつたことは勿論である。されば仮りに所論のように労働
組合の書記はその組合員の勤務している工場又は組合員の居住する寄宿舎に常に自
由に出入し得る権利を有するとしても被告人Gが判示の場所に立入ることは同被告
人が組合書記として有する所論権利の行使とはいえないから、同被告人に対する判
示立入禁止は所論のように同被告人の正当業務を妨害する刑法二三三条違反の行為
といえないし、また、同被告人の判示行為を住居侵入の罪に問擬したからといつて
原判決には所論のような違法はない。論旨(二)は理由がない。
 同第四点について。
 原判決は被告人等がF工場内の寄宿事務所の二階四畳半の室に故なく侵入し又は
同室から故なく退去しなかつた事実を認定判示しているのであつて、反論のように
工員の寄宿している室に故なく侵入し又は同室から故なく退去しなかつた事実はこ
れを認定判示していないのである。そしてすでに上告趣意第二点において説明した
ところであるが所論E工場長が被告人等に対して工場内組合事務所以外の所へ立入
りを禁止したのは被告人B、同C等が解雇された後も依然工場に立入り寄宿事務所
に宿泊するし、被告人Gが同所に立入るのでこれを禁止する趣旨であつて、工場内
の寄宿舎に居住する労働者等と被告人等が友人として又は組合員として交通するの
を禁止する趣旨ではなかつたのであるから、所論E工場長の被告人等に対する立入
禁止は所論のように工場附属の寄宿舎に居住する労働者の私生活の自由を侵したも
のとはいえない。されば、E工場長の被告人等に対する立入り禁止をもつて所論労
働基準法の規定に違反すると前提して原判決に理由齟齬、判断遺脱の違法ありとす
る所論はその前提に誤りがあるからとるを得ない。
 同五点並びに被告人四名弁護人青柳盛雄の上告趣意第三点について。
 工場長は通常その工場を管理する責任者であるから特別の事情の認められない本
件においては原判決がEの本件F工場の工場長であるとの供述記載を証拠として同
人を同工場の管理者と認定したからといつて原判決には所論のように証拠によらな
いで事実を認定した違法があるとはいえない。論旨はいずれも理由がない。
 被告人四名弁護人小沢茂の上告趣意第一点について。
 原判決冒頭の判示「昭和二三年(原判決に二〇年とあるのは誤記と認める)七月
三日会社より解雇の通知を受けたもの」とあるのは「会社から就業規則に基き適法
に解雇の通知を受けたもの」であるという趣旨の判断を示したものであつて、従つ
て被告人C、同B、同D等は右解雇の通知を受けた後は、もはや、会社の工員でな
くなつたものといわなければならないことは、岡林弁護人の上告趣意第二点につい
て説明したところである。そして原判決が掲げた証拠によつて認められる本件会社
の従業員就業規則五五条に基く解雇の通知の効力は所論の労働組合の承認の有無、
労働基準法二〇条所定の手続を経たか否か、労働関係調整法四〇条所定の労働委員
会の同意の有無によつて消長を来す筋合のものではなく、又本件解雇は所論労働組
合法(旧法)一一条所定の解雇に当らないこと明白であるから原審が前示のごとく
判断を示し以上所論の点について一々判示するところがなかつたからといつて原判
決を目して違法であるということはできない。それ故論旨の(1)はその理由がな
い。
 次に論旨の(2)は被告人GはF工場の労働組合の書記であつて、労働組合の書
記が労働活動をなし使用者ともろもろの交渉をする為に工場に出入することはその
正当の業務であるのに原判決がこの点について判断を示さないのは違法だというの
であるが原判決には所論のような判断遺脱又は理由不備の違法のないことは弁護人
岡林辰雄の上告趣意第三点の(二)について説明したとおりであるから、論旨の(
2)は理由がない。
 更に論旨の(3)はF工場長Eが被告人等に対して判示日時に判示場所に立入り
を禁止したことが適法であつたか否かについて原判決は判示するところがないから、
原判決には判断遺脱の違法があるというのであるがその理由がないことは弁護人岡
林辰雄上告趣意第二点についての説明によつて明らかなところである。そして論旨
はE工場長の判示立入り禁止の措置は労働者の争議権の否認であると主張するので
あるが原判決は所論のように本件F工場が労働組合の占有に帰していた事実も、ま
た、被告人等が組合活動の為に工場内に立入ることをE工場長が禁止した事実も認
定していないのであるから同工場長の立入禁止の措置をとらえて労働者の争議権の
否認であるとの論旨は理由がない。
 同第二点について。
 一定の場所に立入ることを禁止する旨通告された者がその禁止された当時すでに、
その場所に立入つていた場合にはその通告はその場所から立退くことの要求をも含
むものと解すべきことは多言を要しないところである。されば原判決が被告人等は
判示工場長から判示以外の場所に立入ることを禁止する旨通告を受けたと判示した
以上通告を受けた当時すでに判示寄宿事務所の一室に立入つていた被告人Bに対し
てはその立入り場所から立退くべき旨の要求をも受けたものというべく、従つて原
判決には被告人Bが判示場所から立退の要求を受けた事実の判示がないとの所論は
あたらない。そして被告人Bが判示立入禁止の通告を受ける前いつ頃から判示場所
を占有していたかは本件犯罪の成立に影響を及ぼすべき事実でないからこれを判示
しなかつたからといつて原判決には所論のような理由齟齬又は理由不備の違法は存
しない。
 同第三点について。
 岡林弁護人の上告趣意第二点第三点で説明したとおり原判決は挙示の証拠と相俟
つて被告人C、同B、同Dは判示会社の工員であつたがすでに会社から適法に解雇
された者であること並びに被告人等は適法に立入を禁止されたににかかわらず労働
組合事務所以外の場所に故なく侵入し又は同所より故なく退去しなかつた旨判示し
ているから、被告人等が判示第二の犯罪事実について争議行為としてこれを行つた
ものでないことは判示上自ら明らかである。されば論旨はその理由がない。
 同第四点について。
 原判決は所論被告人Gの本件犯罪事実を同被告人の原審公廷における判示の日時
に判示の場所に立入つた旨の供述とこれが補強証拠であるEに対する検事の聴取書
中同人の供述記載として論旨に摘録する部分とを綜合して認定判示したものである
ことは判文上明らかなところであるから、原判決は所論のように被告人の自白を唯
一の証拠として犯罪事実を認定してはいないのである。所論は結局独自の見解に立
つて原判決の事実認定を非難するにとどまり上告適法の理由とならぬ。
 同第五点について。
 原判決が判示第二の犯罪成立の前提として被告人C、同B等が判示会社より解雇
されたことを認定し、その解雇された証拠として所論摘示のEの供述記載を証拠と
したことは所論のとおりである。しかし原判決の認定した解雇とは就業規則に基く
適法な解雇の趣旨と理解すべく、労働関係調整法(旧法)四〇条その他の解雇に当
るものとしたものでないことは上告趣意第一点について説明したとおりであるから、
Eの供述記載中に就業規則に基く正式な解雇である旨の供述記載がある以上その供
述記載の外更らに「その解雇は翌四日県労働委員会で正当と認められた」旨の供述
記載をも証拠として引用したからといつて、原判決の右認定を不法ならしめる理由
はない。それ故論旨は採用できない。
 同第六点について。
 上告趣意第一点第三点及び第五点の論旨がいずれもその理由のないことはすでに
説明したとおりであるから、これ等の論旨がいずれも理由あることを前提とする本
論旨はこれをとるをえない。
 被告人四名弁護人青柳盛雄上告趣意第一点について。
 原判決の事実摘示と挙示の証拠とを対照すれば原判決の認定した事実は被告人C、
同Bはいずれも昭和二三年七月三日就業規則五五条に基き正式に会社から解雇され
たものであり、被告人Gは単に判示労働組合の書記に過ぎないものであるところ、
同年同月八日午後三時頃判示工場長から所轄警察署長立会の下に同日一六時以降よ
り組合事務所以外の場所に立入ることを禁止する旨通告きれたにもかかわらず故な
く判示寄宿事務所二階四畳半の室に侵入し又は同室から退去しなかつたというので
あつて、所論のように右被告人等が会社と争議中にあつた事実及び右被告人等が就
業せんとして作業所に立入つた事実を認定判示はしていないのである。従つて住居
侵入罪が成立するのは多言を要しない。所論は原判示にそわない独自の事実関係を
前提として犯罪の成立を否定するものであるから、とることができない。
 同第二点について。
 所論の理由のないことは弁護人岡林辰雄の上告趣意第三点について説明したとこ
ろによつて了解すべきである。
 よつて旧刑訴四四六条によつて主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二五年七月一九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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