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○ 主文
原告の請求を棄却する。ただし、昭和五五年六月二二日に行われた衆議院議員選挙
の東京都第三区における選挙は、違法である。
訴訟費用は、被告の負担とする。
○ 事実
一 求める判決
(一) 原告
昭和五五年六月二二日に行われた衆議院議員選挙の東京都第三区における選挙を無
効とする。
訴訟費用は被告の負担とする。
(二) 被告
「本案前の申立」
本件訴を却下する。
「本案の申立」
原告の請求を棄却する。
二 主張、
(一) 原告
「請求原因」
1 原告は昭和五五年六月二二日に行われた衆議院議員選挙(以下、本件選挙と略
称。)の東京都第三区における選挙人である。
2 本件選挙は公職選挙法(昭和二五年法律一〇〇号。以下、公選法と略称。)に
ついて昭和五〇年法律六三号により改正された衆議院議員定数配分規定(公選法一
三条、別表第一、同附則七ないし九項。以下、本件定数配分規定と略称。)に基づ
いて行われたが、本件定数配分規定による議員定数配分は右改正当時すでに人口分
布に比例せず、かえつて人口の多い選挙区の議員数が人口の少ない選挙区の議員数
より少ないというところもあり、平等選挙を保障する憲法一四条一項、一五条一
項、三項、四四条但書に違反していたが、改正後の人口移動により右違憲性はます
ます増大したのに、その是正がされないまま本件選挙がなされるに至つた。従つ
て、右違憲である本件定数配分親定に基づく本件選挙は無効である(その詳細は別
紙(一)、(二)記載のとおり。)。
3 よつて公選法二〇四条に基づき、原告の属する選挙区である東京都第三区にお
ける選挙を無効とする旨の判決を求める。
(二) 被告
「訴却下を求める理由」
別紙(三)の第一記載のとおり。
「請求原因に対する認否、反論」
その1は認める。
その2のうち、本件定数配分規定か憲法に違反し、本件選挙は無効である、との主
張は争う。右定数配分規定は憲法に違反。するものではなく、本件選挙は有効であ
る(その詳細は別紙(三)の第二、被告の主張欄および別紙(四)、(五)記載の
とおり。)。
三 証拠(省略)
○ 理由
一 被告の本案前の上張について。
(一) 被告は、本件訴は公選法二〇四条が規定する選挙無効の訴の範ちゆうに入
るものではなく、不適法である、と主張する。確かに、原告が本訴の根拠として主
張する公選法二〇四条は、選挙規定の有効を前提とし、選挙の管理執行上の瑕疵が
あつた場合に当該選挙を無効とするための訴訟を予想して規定されており、選挙規
定自体の違憲、無効を理由として選挙の効力を争う場合までをも予想し、規定され
たものでないことは、同条に定める訴訟の被告が選挙管理委員会とされていること
や、訴訟の結果、当選人がなくなつたなどの場合の再選挙に関する規定(同法一〇
九条、一二四条)などに照らすとまず疑いはない。
しかし、選挙規定に基づく単なる管理執行上の瑕疵以上に重大な瑕疵というべき選
挙規定それ自体の違憲、無効を理由とする選挙無効の訴が、前記規定の許容する範
囲外であり、かつそのような訴を許すべき実定法規が存在しないからとしてその提
起を許されないとするのは、本末転倒であつて妥当ではなく、選挙人は右のような
場合には公選法二〇四条の訴訟形式をかりて選挙無効の訴を提起することができる
と解すべきである(最大判昭和五一年四月一四日民集三〇巻三号二二三頁)。
被告の主張は失当であり、採用できない。
(二) また被告は、国会議員の選挙区別定数をいかに定めるかは高度の政治問題
に属し、立法府が自ら解決すべき筋合であるから、定数配分規定の効力判定は司法
審査に親しまず、これを訴訟の中心問題とする本件訴は不適法である、と主張す
る。
右定数を国会がいかに定めるかについては種々の政治的判断が加えられるべきこと
は否定できないが、定数配分規定の内容が合理性を欠く場合においても司法審査を
排除する程高度の政治性を有するとは思われず、また被告主張のような理由でその
効力の判定を司法審査から除外すべきであるとも解し難い。
被告の主張は失当であり、採用できない。
二 請求の当否について。
(一) 請求原因1は当事者間に争いない。
(二) 原告は、本件定数配分規定は平等選挙を保障する憲法に違反するから、同
規定に基づいて行われた本件選挙は無効である、と主張するから、以下、この点に
ついて検討する。
1 衆議院議員の選挙区および各選挙区において選出すべき議員数は公選法別表第
一の定めるところによるとされ(憲法四三条二項、四七条、公選法一三条一項)、
別表第一は全国を行政区劃に従い、地域的に分割して選挙区を編成し、これに議員
定数を細分して一定の議員数を割当て、各選挙区において選挙することとしている
から(公選法一二条一項)、右選挙の結果選ばれた議員は全国民の代表ではあるが
(憲法四三条一項)、その選出方法としては地域代表制がとられているものである
ことは疑いをいれない。
2 別表第一は、昭和三九年法律一三二号による改正の結果、選挙区の数は一二
四、議員定数は四九一人と増加、増員され、更に昭和五〇年法律六三号による改正
にかかる本件定数配分規定により選挙区の数は一三〇、議員定数は五一一人に増
加、増員された。
3 憲法一四条一項、一五条一項、三項、四四条但書を通覧すると、主権在民の民
主主義を標榜し、国民の自由、平等に重きをおく憲法が、国会議員の選挙につき、
いわゆる形式的平等主義すなわち国民個々人の事実上の相違を捨象して各人を均し
く取扱うことを要請する平等選挙原則をとることは明白であり、この選挙における
平等原則が、単に選挙資格の平等を意味する、投票の数的平等の保障を意味するだ
けではなく、前記のように地域代表制をとる選挙制度下において、より実質的な価
値である選挙権の内容すなわち投票価値の平等を異なる選挙区間においても保障す
るものであることは、「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて
行動し、」との憲法前文および両議院は全国民の意思を適正、忠実に反映し、これ
を代表する議員で組織される、との趣旨の同法四三条一項から見ても、明らかであ
る。
そしてこの選挙区間の投票価値の平等が、各選挙区において選出する議員一人当り
人口または有権者数の均等化によつて実現されるべきことについても多言を要しな
い。
公選法別表第一がその末尾において、「本表は・・・・・・直近に行われた国勢調
査の結果によつて更正するのを例とする。」と規定しているのも、選挙区間の投票
価値の平等を実現するため、人口移動に伴つて生ずるその時時の人口分布に比例し
て各選挙区への議員定数配分がなされるべきこと、すなわち人口比例主義をとるこ
とを示すものにほかならない(この別表第一末尾の規定は訓示的なものではある
が、人口(有権者数もおおむね人口に比例すると考えて差支えない。)把握の方法
をつくして更正の必要が生じたと認められるときは、できる限り早期に、更正がな
されるべきことを命じているものである。)。
定数配分に際しこの人口比例主義を最大限に尊重すべきことは、選出すべき議員数
が同数である他の区(過疎区)に比し、人口もしくは有権者数が二倍の選挙区(過
密区)の選挙人の一票の投票価値は右過疎区の選挙人の一票の投票価値の二分の一
に過ぎず、このことは右過密区の選挙人一票に対し右過疎区の選挙人には二票が与
えられていることと同視できるという不合理を生ずることに照らしても明らかであ
り、単にその属する選挙区(これは或る行政区劃に住所を置くという偶然事で決せ
られる。公選法二一条。)の如何により、異なる選挙区の選挙人間に、右述のよう
な投票価値の差が生ずることは前記平等原則に反するものであつて、到底、容認で
きない。
4 この点に関し、被告は、議員定数配分については、人口的要素のほかに行政区
劃の歴史的沿革、住民構成、交通事情、産業、経済、自然等の地理的条件などのい
わゆる非人口的要素をも考慮すべきであり、また常々、政治的、経済的、文化的に
不利益を受けている過疎地域を、議員定数配分土、都市部より多少優遇し、その投
票価値を大きくすることが必要であると主張する。
もとより選挙区の設定、分割につき行政区劃が基準となつていること前記のとおり
であるから、選挙区の設定、分割と密接、不可分の関係にある、選挙区への定数割
当につき、行政区劃がもつ影響力は小さいものではないが、もともと不確定要素の
多い非人口的要素を強調することは前記人口比例主義の立場と相容れないものであ
り、ここでこれまでこの非人口的要素への過度の考慮が人口比例主義の貫徹をいか
に妨げてきたかを想起すべきである。
また議員定数配分における過疎地域優遇についての被告の主張は、都市部の住民は
常々経済的、文化的に利益を受けているとの見解を前提とするものであるが、過疎
地域とか都市部とかの概念それ自体あいまいであり、右見解は漠然として具体性に
欠けるのみならず、過密都市における生活環境、物価などの問題をも考え合わせる
と、右前提自体採りえないものである。
5 このように考えてくると、端数の切り上げ処理の問題やある程度の前記非人口
的要素を考慮に入れるにしても、選挙区のなかで議員一人当り人口もしくは有権者
数の最少のもの(最大過疎区)の議員一人当り人口もしくは有権者数と選挙区のな
かで議員一人当り人口もしくは有権者数の最多のもの(最大過密区)の議員一人当
り人口もしくは有権者数との比率(いわゆる最大格差)がおおむね一対二を超える
ような場合には、そのような定数配分を定めた定数配分規定は、全体として、前記
憲法が保障する選挙における平等原則に反し、憲法に違反するといわざるをえな
い。
6 この点に関し、被告は、最大過疎区と最大過密区における議員一人当り人口も
しくは有権者数を比較すべきでなく、全国の人口を全国議員定数で除した全国平均
議員一人当り人口を基準とし、これとの比較をなすべきである、と主張する。
しかしもともと不平等とか差別とかは、抽象的基準との比較で決せられるものでは
なく、具体的な存在間における格差としてこれをとりあげて決せられるべき問題で
あるのみならず、被告主張のような全国平均的数値を基準とすれば、選挙区への議
員割当数が過多、または過少であつても、その異常性が平均値に没入され、看過さ
れるおそれがあるから、被告の右主張はたやすくは採用できない。
また前記のような、最大格差いかんにより定数配分規定全体の合違憲性をみる、と
いう方法をとらず、特定選挙区における議員一人当り人口もしくは有権者数とその
全国平均値とを比較検討して、定数配分規定中、当該選挙区に関する部分だけの効
力を吟味する立場(いわゆる可分説)があるが、定数配分においては過密区に対す
る議員数配分の過少だけではなく、過疎区に対する議員数配分の過多も問題とすべ
きである。過疎区議員数減員と過密区議員数増員とは相関連せしめることが重要で
あり、議員定数の総枠は不動のものとして、人口移動に伴ない、議員数の選挙区間
移動がなされるべきである。もし可分説をとれば安易に過密区に対する議員数増員
のみがなされ、人口移動が続く限り、議員定数が無限に増加していくおそれがあ
る。従つてこの立場は採りえない。
7 右述したところを前提として、本件定数配分規定が前記平等原則に反し、憲法
に違反するかどうかを考える。
前記のように本件定数配分規定は昭和五〇年法律六三号による改正にかかるもので
あるが、成立に争いない乙第一号証の一ないし三、乙第二号証の三によると、右改
正は改正前直近の国勢調査である昭和四五年施行の国勢調査により把握された人口
を斟酌してなされたものであること、右国勢調査時における各選挙区の人口および
議員一人当り人口は別表一のとおりであることが認められ、これによると議員一人
当り人口の最少区(最大過疎区)である兵庫県第五区(議員数三、人口三三八、一
〇五人、議員一人当り人口一一二、七〇一人)と最大過密区である東京都第七区
(議員数四、人口一、三一六、七九九人、議員一人当り人口三二九、二〇〇人)の
各議員一人当り人口を比較すると、一対二・九二であることが認められる。
従つて前記基準に照らすと、定数配分の結果、最大格差が一対二を超える選挙区を
是認する本件定数配分規定は、全体として、その改正当時すでに、前記平等原則に
反し、憲法に違反する、といわざるをえない(なお西ドイツ連邦選挙法において
は、平均人口からの乖離はプラス、マイナスとも一〇〇分の三三・三分の一をこえ
てはならない、とされている由であるが、プラス、マイナスが右比率の両選挙区間
の最大格差は一対二となることから、右規定の合理性を認めることができる。前記
国勢調査時における全国人口一〇四、六六五、一七一人を議員定数五一一で除する
と、議員一人当り全国平均人口は二〇四、八二四人となり、これと比較すると前記
兵庫県第五区の議員一人当り人口は、マイナス一〇〇分の四四であり、東京都第七
区の議員一人当り人口はプラス一〇〇分の六〇であり、いずれも一〇〇分の三三・
三分の一を超えている。念のため原告の選挙区である東京都第三区では前記国勢調
査時における人口一、〇八二、九五〇人、議員数四、議員一人当り人口二七〇、七
三八人であつて、これを議員一人当り全国平均人口と比較するとプラス一〇〇分の
三二である。)。
8 全国各選挙区における人口もしくは有権者数は五年毎に行われる国勢調査(統
計法四条二項但書の簡易国勢調査を含む。)のほか、国会議員選挙の際、または毎
年公選法に従つて調製登録される基本選挙人名簿、もしくは住民基本台帳法による
同台帳記載者調査によつても把握可能であり、現にこれらによる人員数は毎年公表
されているものであるが、前記昭和五〇年における定数配分規定改正時の人口資料
を提供した昭和四五年施行の国勢調査後に把握された人口、有権者数に基づいて、
最大過疎区と最大過密区間における議員一人当り人口もしくは有権者数の比率(最
大格差)を以下、検討してみる(なお、以下の各選挙時における有権者数はいずれ
も自治省又は都道府県選挙管理委員会発表のもので当裁判所に顕著な事実であ
る。)。
(1) 昭和四七年一二月一〇日に行われた衆議院議員選挙における有権者数は本
件定数配分規定を定めた当時、既に判明していたと認められるところ、これに本件
定数配分規定における議員数をあてはめて計算した場合の最大過疎区である兵庫県
第五区(議員数三、当日有権者数二三七、五一六人、議員一人当り有権者数七九、
一七二人)と最大過密区である東京都第七区(議員数四、当日有権者数九三九、四
六六人、議員一人当り有権者数二三四、八六六人)間の最大格差は、一対二・九六
である(全国平均議員一人当り有権者数一四四、三六三人と両選挙区の議員一人当
り有権者数との比率は、兵庫県第五区のそれは、マイナス一〇〇分の四五であり、
東京都第七区のそれは、プラス一〇〇分の六二である。)。
(2) 成立に争いない乙第二号証の四によると、昭和五〇年に施行された国勢調
査における各選挙区の人口および議員一人当り人口は別表二のとおりであることが
認められ、これによれば、最大過疎区である兵庫県第五区(議員数三、人口三三
二、二四三人、議員一人当り人口一一〇、七四八人)と最大過密区である千葉県第
四区(議員数三、人口一、二三五、五三四人、議員一人当り人口四一一、八四五
人)間の最大格差は、一対三・七一である(全国平均議員一人当り人口二一九、〇
六〇人と両選挙区の議員一人当り人口との比率は、兵庫県第五区のそれは、マイナ
ス一〇〇分の四九であり、千葉県第四区のそれは、プラス一〇〇分の八八であ
る。)。
(3) 昭和五一年一二月五日に行われた衆議院議員選挙における最大過疎区であ
る兵庫県第五区(議員数三、当日有権者数二四一、二一三人、議員一人当り有権者
数八〇、四〇四人)と最大過密区である千葉県第四区(議員数三、当日有権者数八
四三、二四七人、議員一人当り有権者数二八一、〇八二人)間の最大格差は、一対
三・四九である(全国平均議員一人当り有権者数一五二、四九八人と両選挙区の議
員一人当り有権者数との比率は、兵庫県第五区のそれは、マイナス一〇〇分の四七
であり、千葉県第四区のそれは、プラス一〇〇分の八四である。)。
(4) 昭和五四年一〇月七日に行われた衆議院議員選挙における最大過疎区であ
る兵庫県第五区(議員数三、当日(正確には同年九月一〇日現在、以下同じ)有権
者数二四四、六九〇人、議員一人当り有権者数八一、五六三人)と最大過密区であ
る千葉県第四区(議員数三、当日有権者数九四九、一八八人、議員一人当り有権者
数三一六、三九六人)間の最大格差は、一対三・八七である(全国平均議員一人当
り有権者数一五七、八八四人と両選挙区の議員一人当り有権者数との比率は、兵庫
県第五区のそれは、マイナス一〇〇分の四八であり、千葉県第四区のそれは、プラ
ス一〇〇分の一〇〇である。)。
(5) 本件選挙における最大過疎区である兵庫県第五区(議員数三、当日有権者
数二四四、一二六人、議員一人当り有権者数八一、三七五人)と最大過密区である
千葉県第四区(議員数三、当日有権者数九六四、〇五四人、議員一人当り有権者数
三二一、三五一人)間の最大格差は、一対三・九四である(全国平均議員一人当り
有権者数一五八、三六六人と両選挙区の議員一人当り有権者数との比率は、兵庫県
第五区のそれは、マイナス一〇〇分の四八であり、千葉県第四区のそれは、プラス
一〇〇分の一〇二である。なお原告の選挙区である東京都第三区の議員数四、当日
有権者数七六七、九一九人、議員一人当り有権者数一九一、九七九人、議員一人当
り全国平均有権者数との比率はプラス一〇〇分の二一である。)。
9 これら事実に照らすと、本件定数配分規定による定数配分は、改正後、人口の
移動によりますます人口もしくは有権者数の分布と乖離し、過疎区と過密区との格
差が更に大となつて平等原則違反の程度を強めていることが理解されるところ、右
改正後、人口もしくは有権者数は前記のように種々の方法で把握可能であつたにも
かかわらず、本件選挙までの間、何らの是正措置はとられておらないことは公知の
事実であり、このことは、本件定数配分規定の違憲性を一層大きくするものであ
る。
(三) しかし、いま、本件定数配分規定の違憲を理由に本件選挙の全部又はその
一部を無効とすることにより惹起するであろう種々の法律的、政治的混乱、そして
それにもまして、本件選挙に際し多くの選挙人および候補者が費やした莫大な労
力、エネルギーを無にする結果になることについて考えると、これを無効と判断す
ることには躊躇せざるをえない。
三 結論
よつて行政事件訴訟法三一条一項に示された一般的法の基本原則に従い、選挙を無
効とする旨の判決を求める原告の請求を棄却するとともに、本件選挙のうち原告の
属する選挙区である東京都第三区の選挙が違法であることを宣言することとし、訴
訟費用の負担につき同法七条、民訴法九二条但書を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 吉岡 進 手代木 進 上杉晴一郎)
別紙(一)
第一 平等選挙原則の規範的特質―「形式的平等」の原理
一 わが日本国憲法は、選挙に関する憲法上の原則として、平等選挙の原則を採用
している。
しかして、この原則は、その形式的性格によつて一般平等原則と区別されるべき規
範的特質を有する。ここに「形式的」性格とはリンクのいう平等の「ラジカルな性
向」、「ラジカルな普遍化」を指す。したがつて、「形式的平等」は、個々人の事
実上の相違を全く顧慮することなく各人を均しく取扱うこと、換言すれば画一的平
等ないし算術的平等を要請する。一般平等原則が様々な相違を属性とする国民個々
人を前提とし、国民を謂わば「人間」として把握するのに対して、平等選挙の原則
は、政治的権利の担い手としての国民を一般的・抽象的な権利主体としての「公
民」として把握するのである。これは、選挙においては「公民のみを識る」 (マ
ウンツ)ことがデモクラシーの本質であることに起因する。かくして国民の直接投
票によつてなされるべきデモクラシー国家の主権的意思形成の領域においては、す
べての国民は絶対的に平等に評価されなければならず、選挙の平等は、その徹底的
な形式化を媒介としてのみ実質化が可能とされる。
二 平等選挙原則のこのような性格は、当然ながら、立法裁量の範囲、限界基準に
ついての厳格さを要請する。選挙法の制定には、専ら平等選挙原則の具体化または
補完のみが許容されるにすぎない。
このような「形式的平等」の原理に支えられた平等選挙原則の性格は、本来、普遍
的なものであり、憲法に所謂障害条項の存しないわが国衆議院議員の選挙について
も当然に妥当するものである。
したがつて、そこで選挙の平等が問題とされる場合には、一般平等原則における
「実質的平等」や「相対的平等」の原理は妥当せず、画一的平等、算術的平等を志
向する「形式的平等」の原理が妥当するものと解すべきである。
第二 最高裁大法廷判決(昭五一・四・一四)の問題点
一 最高裁判所大法廷が投票価値の平等が「憲法の要求するところである」ことを
初めて是認したのは昭和五一年四月一四日判決(民集三〇巻三号二二三頁)におい
てであつた。
しかして、判決は、選挙においては「徹底した平等化」が要請されるものとする
が、まことに遺憾ながら、平等選挙原則と一般平等原則との相違については、精
々、単に量的な徹底度の差として把握するにとどまり、両者の質的相違に及ぶとこ
ろがないのみならず、議員配分に際して立法府が考慮すべき事項について、非人口
的要素を殆んど無限に近く認める傾向にさえある。すなわち、判決は、人口的要素
が「最も重要かつ基本的な基準」であることを認めながらも、それ以外に「実際上
考慮され、かつ、考慮されてしかるべき要素」は少くないとし、都道府県のほか、
それを細分化するにあたつては、従来の選挙の実績、選挙区としてのまとまり具
合、市町村その他の行政区画、面積の大小、人口密度、住民構成、交通事情、地理
的状況等を挙げ、さらに人口の都市集中化等の社会の急激な変化等をも「国会にお
ける高度に政策的な考慮要素」の一つであるとする。
しかしながら、平等選挙原則からすれば、行政区画以外は殆んど考慮に値せず、と
りわけ「住民構戒」を考慮の対象とするにおいては、正にゲリマンダーリングを是
認するに等しい結果をもたらすにいたるものと評しうる。
思うに、判決においては、平等選挙原則と一般平等原則との原理上の相違が看過さ
れている。形式的平等を指導理念とする平等選挙原則においては、「実質上の考
慮」は原則として許されず、人口的要素のみを考慮すべき要素とすることが要請さ
れるのである。
判決におけるこのような非人口的要素への不当な配慮の傾向は、選挙の場合におい
ても、一般平等原則の指導理念である相対的平等、実質的平等を妥当せしめた結果
生じたものであり、厳しく批判されるべきものといいうる。(註一)
二 ついで判決は、選挙立法に際しての立法裁量の範囲を著しく広いものと把握し
ている点にも大きな難点をもつ。すなわち、「投票価値の平等は、さきに例示した
選挙制度のように明らかにこれに反するもの、その他憲法上正当な理由となりえな
いことが明らかな人種、信条、性別等による差別を除いては、原則として、国会が
正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的
に実現されるべきものと解さなければならない」とし、さらに、「選挙人の投票価
値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしやくしてもなお、
一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、
もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきであ」るとす
る。
この判示では、選挙立法についての立法裁量の限界について、「合理性」の基準を
前提として所謂「明白原則」が採用されており、立法裁量の範囲は、結果的には一
般平等原則の場合を超えて広範なものと理解されているかのごとくであり、これま
た遺憾にたえないところである。
平等選挙原則においては、一般平等原則における「合理性」の基準の適用はなく、
「特別の正当化」事由のみが差別を正当化する唯一の理由と解すべきである。
ちなみにわが憲法第四七条について触れれば、それは立法府に対して、国会議員選
挙の執行法律の制定を強制し、立法義務を課するものである。しかして、所謂「付
託条項」が立法府に対して保障する裁量の範囲は、その規定形式と規定内容によつ
て様々に異なり、当該条項から直ちに広い裁量の自由を引出すことは理論上困難で
ある。同条は、一見、立法府に何らの拘束を課さずに広範な裁量の自由を保障して
いるように解されないではないが、その規定内容は、実に、主権原理と直結する国
会議員選挙に関する事項そのものであり、憲法の規範的要請、とりわけ選挙に関す
る諸原則に具体的形象を与える権限が付与されているにすぎず、立法裁量はその枠
内でのみ認められるものである。
(註一) 一般平等原則の指導原理である「相対的平等」は、政治的識見や知識に
基づく差別を「少くとも一般的・抽象的には」排除することができない。このこと
はかつてのプロイセン「三級選挙制」にみられるような不平等選挙に対しては、一
般平等原則によつて対抗することが困難なことから容易に窺い知ることができよ
う。
第三 昭和五〇年の議員配分改訂の経緯・実態とその違憲性
一 本件選挙は、昭和五〇年法律第六三号により改訂された衆議院議員配分規定に
基づいて執行されたものである。
そこで、われわれは、その実態を「山賊の山分け」もどきと評するに何らの躊躇す
ら感じない改訂作業の一端を紹介した上、その平等選挙原則違反を論証する。
その改訂作業は、昭和四五年施行の国勢調査の結果に基く人口を基礎とし、議員定
数に減員なし、人口比は上下三倍以内とするということで開始された。したがつ
て、議員一人当りの人口が全国中最少である兵庫五区のそれである一一二、七〇一
に対し、その三倍に当る三三八、一〇三を超える選挙区が是正対象とされた。
それによると、議員一人当りの人口が三三六、一二一である愛知六区は是正対象か
ら除外されるべきなのであるが、某党(前回総選挙において同区の次点者を出した
政党)の提唱で、前記一一二、七〇一を一一二、〇〇〇と置き換え、その三倍に当
る三三六、〇〇〇を超えるとして右区を是正対象に加えた。(同区の議員数は三、
人口は一、〇〇八、三六三であつて議員一人当りの人口は三三六、一二一であるか
ら、僅か一二一、百分率で〇・一パーセントの差で議員数を一つ増やしたことにな
る。)
こうなると、他の選挙区についても右某党だけでなく他の政党からも、この際に、
という欲望が絡み、同じ上下三倍偏差でも基準を議員一人当りの平均人口である二
一三、一六七(総人口一〇四、六六五、一七一を議員定数四九一で除した数)の二
分の一偏差による上下三倍偏差に代置して神奈川一二区と兵庫一区をも是正区に追
加し、さらに、右二一三、一六七を二一三、〇〇〇に置き換えることによつて神奈
川一区の増員幅を〇・五パーセントの差(註一)で二名から三名に押し上げ、結
局、合計二〇名増としたものである。(註二)
二 さて、わが衆議院議員総選挙は、昭和二二年の法改正によつて戦前の一区三な
いし五名の所謂中選挙区制に復帰した。そこでは選挙区数一一七、議員定数四六六
とされたが、現行の公職選挙法(昭和二五年四月一五日法律第一〇〇号)別表第一
はこれをそのまま継承した。
しかして、所謂中選挙区制における議員配分方式には、配当基数にて除して得た商
の小数点部分に残余議員数を配当するに際して、その剰余の大なるものから順次に
一議席ずつ追加する「最大剰余方式」と過半数に達した剰余に無条件で一議席を追
加する「過半数剰余方式」とがあるが、右別表第一は、都道府県単位において前者
に拠つたものであつた。
しかるに前項で見た昭和五〇年改訂は、そのいずれにも拠らず、強いて名付ければ
「人口比上下概ね三倍方式」に拠つたというのである。したがつて、それがわが憲
法の要請する平等選挙原則を著しく逸脱するものであることは明白である。
三 「人口比三倍、四倍」が放置されたり、はたまた「三倍以内に」という審議が
立法府で罷通るなどという国はわが国を措いてはすでに存在しない。
現代の代表民主制国家に共通しているところは、定数配分問題は定数配分かぎりの
ものとし、そこには政治問題を介入させない努力と工夫がなされていることおよび
正に「一枚の紙を剥がして二枚にする」作業が理論面だけではなく、現実に実践さ
れていることである。ラウンド・ナンバーや切上げ数値によつては混乱は必至であ
つて、そこに政治の介入を許す余地を生ずることが充分に考慮されているのであ
る。(註三)
われわれは、ここで諸外国に見る厳格な人口偏差基準の設定と運用が何に基づくも
のであるかについて深思すべきである。
思うに、議員定数配分問題はすぐれて憲法上の問題である。それは代表民主制の根
幹に直接係わるものであるから、その国の憲法に特段の規定が存在しない限り、議
員定数配分における人口偏差の限界基準は著しく厳格なものでなければならない。
さらにいえば、それは代表民主制国家の存在にとつて正に根本問題であることが充
分認識されているからなのである。
四 第二次大戦はわが国に民主制をもたらした。そして第二三回総選挙はその直後
に行われたものである。われわれは、その選挙に用いられた議員定数配分規定から
窺える当時の立法者の意気込みに新生民主制の息吹きを感ぜずにはおられない。
昭和三九年二月の時点においてすら、人口に比例する議員定数配分が「法の下の平
等の憲法の原則からいつて望ましいところである」(最判民集一八巻二号二七〇
頁)としか説かれなかつた時代背景から推して、その感は一入である。
ましてや、社会の進化、平等観念の滲透により「投票の価値」の平等が憲法上の要
請と解されるにいたつた現今において、第三三回総選挙の結果を生んだ議員定数配
分規定が違憲の判断を受けたのは当然といつてよい。
しからば、本件選挙の場合はどうであろうか。本件選挙がすでに最高裁判所大法廷
による違憲判断が確定した議員定数配分規定について昭和五〇年法律第六三号によ
る公職選挙法の改正を経た新規定(以下、本件議員定数配分規定という。)に基い
て行われたものであることは公知のところである。
そして、改正作業に用いられた議員定数配分の方式および基準そのものに多大の欠
陥が認められ、そのため本件議員定数配分規定はいまだ憲法の要請に適合するにい
たつていないというべきである。
よつて、違憲の法令に基いて行われた本件選挙が無効とされるべきことは当然であ
る。
(註一) 二一三、一六七であれば、二分の一偏差の上限は三一九、七五〇とな
り、神奈川一区の定数五、人口二、二三八、二六四は二名増でよいが、二一三、〇
〇〇であれば、三名増とせざるを得ないことになる。
(註二) この間の事情については、藤田博昭「日本の選挙区制」(東洋経済新報
社)一九八頁以下に詳しい。
(註三) 例えば、オーストラリアでは、配当基数の算出および配当に用いる数値
は小数点三位まで求めて同四位以下を切捨てるよう規定されている。(同国下院議
員選挙法第五条第二、三項)
以上
別紙(二)
第一 昭和五〇年法律第六三号による衆議院議員定数配分の改訂がもたらした「人
口偏差」の変化について
一 アメリカ合衆国最高裁判所が同国の連邦下院の議席配分について「実行できる
かぎり精密に」投票の価値を等しくするよう要求し、その論拠を同国憲法第一四修
正のいわゆる平等保護条項に求めず、歴史的背景を踏まえて同第一条第二節の解釈
に求めたことは、前回の準備書面に掲げたA対B判決において明らかである。
そして、このことは本件事案の解決について極めて示唆に富むところであるが、こ
の点については後に触れることとし、われわれは、まず、前掲C対DおよびE対F
各判決において違憲判断の対象とされたそれぞれの議席配分の実態を明らかにする
ために用いられた手法に倣つて、わが国の衆議院議員定数配分の実態を、昭和五〇
年法律第六三号による改訂の前後に焦点を絞つて分析することにする。
二 全国を多数の選挙区に区割りし、かつ、一区に三ないし五名の議員を配分する
いわゆる中選挙区制を採用するわが国においては、中選挙区制に特有の準備作業が
必要となるので、その方法を説明する。
(一) まず、議員一人あたりの適正人口を考えると、それは人口総数を議員定数
で除することによつて得られる。今、これを「Q」という記号で示す(「Q」は整
数値とならないのが通例である)。
ついで、中選挙区制における理論上の適正な係数関係を考えると、それは三人区に
は「Q」の三倍に等しい人口が、四人区にはその四倍に等しい人口が、さらに五人
区にはその五倍に等しい人口がそれぞれ過不足なく存在する場合にのみ成立するこ
とは明らかである。
換言すれば、三人区の「理論上の適正人口」は三「Q」、四人区のそれは四
「Q」、五人区のそれは五「Q」である。
(二) そこで、各区における「人口」と「理論上の適正人口」との差を考える。
「理論上の適正人口」に比して過剰の人口を有する区はいわば「過小代表」区であ
り、反対に、人口不足の区はいわば「過大代表」区ということになるが、各区の
「過小」度または「過大」度を「Q」からの偏差値をもつて表示する(この偏差値
こそが前掲各事件においてアメリカ合衆国最高裁判所判決に示されている各表中の
「偏差」値に該当するものであるが、この点については後に述べる)。
三 さて、本書面の末尾に添附した「改訂効果一覧表」は、昭和五〇年法律第六三
号による衆議院議員定数配分規定の改訂の前後における各選挙区の「偏差」値をそ
の算出過程とともに示したものであるが、これによると右改訂にどの程度の効果が
認められるかが一目瞭然である。以下、各欄の表示について若干の説明を加える。
(一) 「人口」欄には、昭和四五年施行の国勢調査の結果に基づく各区の人口が
表示してある。これは前記改訂がそれを資料として行われたことによる。ただし、
改訂後の「人口」欄についてはそれによつて変動があつたもののみを表示した(な
お、乙第一号証の三参照)。
(二) 「過不足人口」欄には、「人口」と「理論上の適正人口」(人口総数を議
員定数で除して得た数に「議員数」を乗じた数)との差が、人口がそれより大の場
合は+(プラス)にて、人口がそれより小の場合には一 (マイナス)にて示して
ある。
(三) 「偏差」欄には、右の「過不足人口」の「Q」に対する比率が百分率で示
してある。
(四) この一覧表の示す「偏差」値について、上限グループ、下限グループの各
第一位から第三位までを列記すると次のとおりである。
改訂前の上限グループ
(1) 東京都第七区    プラス  六八八・六七%
(2) 大阪府第三区    プラス  六二二・九三%
(3) 千葉県第一区    プラス  五六三・九二%
同下限グループ
(1) 秋田県第二区    マイナス 一五四・九〇%
(2) 新潟県第三区    マイナス 一五一・二九%
(3) 長野県第三区    マイナス 一五〇・七五%
改訂後の上限グループ
(1) 兵庫県第二区    プラス  二七四・二二%
(2) 神奈川県第二区   プラス  二六八・三一%
(3) 北海道第一区    プラス  二六四・四三%
同下限グループ
(1) 栃木県第二区    マイナス 一五一・〇八%
(2) 秋田県第二区    マイナス 一四四・九一%
(3) 長野県第三区    マイナス 一四〇・六〇%
(五) 右のところから明らかなように昭和五〇年改正が「偏差」値にもたらした
ものは、上限においてプラス六八八・六七%、下限においてマイナス一五四・九〇
%の隔りから上限においてプラス二七四・二二%、下限においてマイナス一五一・
〇八%の隔りへの変化である。
しかして、右改正前の「偏差」幅はすでに最高裁判所大法廷において違憲と判断さ
れたところのものであるから、右改正によつてもたらされた「偏差」幅が違憲と判
断し得ない程度のものといえるかどうかが本件の帰趨を左右するところであること
は明らかである。
第二、投票価値と選挙区間における人口偏差の許容限度について
一 立法府が選挙区割と議員定数の配分を決定するにあたり憲法上の「平等選挙」
原則を逸脱したかどうかの判断基準は、一般には、投票価値の平等における選挙区
間の人口偏差の許容限度として論じられてきた。
この点について、ドイツ連邦共和国では、「一選挙区の人口数は、選挙区の平均人
口数から二五%を超えて上下に偏差を生じてはならず、もしその偏差がで三三・三
三%を超えるときは、新たな区割を行なうものとする。」(註一)、「各邦におけ
る選挙区の数は、できるかぎり邦の人口に比例させなければならない。」(註二)
旨を法律で定めている。
また、アメリカ合衆国では、具体的な数値によらず「実行できるかぎり精密に」と
いう基準を厳格に適用することによつて人口偏差を零に近づける努力が払われてい
る。
これらのいわゆる小選挙区制における人口偏差の問題は、
前項(二)において述べた「過不足人口」の算出過程における「議員数」が常に
「一」であることから、「人口」から「Q」を控除することによつて極めて簡単に
得られる数値の比率として処理することが可能である。
しからば、いわゆる大、中選挙区制における人口偏差の問題を解く鍵は、果して何
であろうか。われわれは、それを大、中選挙区制に特有の議員配分基準そのものの
中に見出すべきものと考える。すなわち、まず、各選挙区または一団の選挙区群
(以下「配当単位」と呼ぶことがある。)の人口を配当基数(前掲「Q」がこれに
該当する)で除して得られる商の整数部分に見合う数の議員が配分され、ついでそ
の商の小数点部分に残余議員が配分される手順、そして、一団の選挙群を用いる場
合には、さらに右と同一の手順が繰り返されるその手順こそがそれである。
また、残余議員の配分には、小数点部分の大なるものから順次に一議員ずつ追加す
る「最大剰余方式」(議員定数が固定している場合には、つねにこれによることに
なる。)と過半数に達した剰余(具体的には〇・五を指す。)に無条件で一議員を
追加する「過半数剰余方式」(配当基数を固定して議員定数を固定しない場合に用
いられる。)とがあることはすでに原告準備書面(第一)第一〇頁において述べた
とおりである。
今、大選挙区制における議員配分方式の例として、オーストリア連邦憲法の条文を
引用してみる。
第二四条 下院は、連邦の人民が直接選挙する議員をもつて組織する。下院議員の
定数は、できるかぎり、上院議員の定数の二倍とする。
各州において選挙される下院議員の定数は、それぞれの人口数に比例するものと
し、議会が別段の定めをするまでは、いかなる場合においても、次に掲げる方法に
よつて決定する。
(1) 下院議員一人に対する割当人口数(Quota)は、直近の連邦統計表に
掲げる連邦の人口を上院議員の定数の二倍で除することにより決定する。
(2) 各州において選挙される下院議員の定数は、直近の連邦統計表に掲げるそ
れぞれの州の人口数を下院議員一人に対する割当人口数で除することにより決定す
る。この場合において、当該割当人口数の半数以上の剰余があるときは、さらに一
人を選挙する。
ただし、本条の規定にかかわらず、各基本州においては少くとも五人を選挙しなけ
ればならない。
右は同国の連邦下院議員について基本州への配分方式を定めたものであるが、さき
に述べた「過半数剰余方式」が採用されていることは明らかである。
二 さて、大、中選挙区制における議員定数配分が憲法上の「平等選挙」原則に違
反すると認められる場合として、平等な配分基準に反する二つの類型を考えること
ができる。すなわち、その第一は、配当単位に対し、その有する人口を配当基数で
除して得られる商の整数部分に見合う数を超えたまたはそれに満たない数の議員を
配分する場合(以下「基本配分上の違法」という。)であり、その第二は、右の整
数部分に見合う数の議員を配分した後の残余議員の配分に不合理が認められる場合
(以下「剰余配分上の違法」という。)である。
ところで、昭和五〇年の前掲改訂が人口偏差にもたらした変化、すなわち、「偏
差」値上限プラス二七四・二二%、下限マイナス一五一・〇八%がいずれの範疇に
属する議論の対象となるべきものであるかは明白である。
思うに、プラスにせよ、マイナスにせよ、「偏差」値一〇〇%に達する選挙区が存
在する場合には、それが「基本配分上の違法」性を帯びる議員定数配分であること
は論をまたないところであるから、さらに論を進めるまでもなく、右改訂によつて
わが衆議院議員定数配分規定が違憲の域を脱し、適憲に転じたものとすることは困
難である。
よつて、諸外国の例にみる厳格な「許容限度」または「限界基準」を援用して「剰
余配分上の違法」を論ずる必要をみないものというべきである。
第三、補論
われわれは、本件において、衆議院議員がすべての選挙区に平等に配分されている
か否かを問題とした。
しかして、その際、「一票の価値」、「一票の重さ」という表現の下に、各選挙区
における「議員一人あたりの人口または有権者数」を比較・検討の主座に置いた従
来の方法に従わなかつた。それは、その方法が今や正当な結論付けを遅延させる作
用を営んでいるように思われたからである。(註三)
問題は、議員定数をどのように配分すれば憲法上の「平等選挙」原則に即したもの
になるかに尺きる。
現行法の違憲性は、中選挙区制における平等な議員配分の基準を確定することによ
つて自ら明らかとなるものである。
(註一) 同国連邦選挙法(一九七五年九月一日改訂公示)第三条第二項第二号。
たゞし、「三三・三三」は正確には「331/3」となつている。
(註二) 同第三号
(註三) ここで正当な結論付けとは、現行の衆議院議員定数配分規定に対する違
憲判断をいうのであるが、本件における問題が「議員定数配分」という選挙区相互
間のものであることを認識するならば、規定制定(改正)時における議員定数配分
が平等といえたか否か、さらに、その後の人口移動によつてそれが不平等になつた
か否かを問えば充分である。
そしてその際、中選挙区制における配分原則と認められ、かつ、現行制度発足の当
初―中選挙区制に復帰した昭和二二年改正時―において実際に用いられた配分基準
を用いて実態を分析・検証することこそ最も適切であり、また、不平等是正の指針
ともなし得ることに想いを致すべきであろう。
以上
別紙(三)
第一 本案前申立の理由は、次のとおりである。
一 本件訴訟は訴状自体で明らかな如く公職選挙法(以下「公選法」と称する。)
第二〇四条を根拠とする選挙無効の訴えであり、その主張の骨子は、昭和五五年六
月二二日に行われた衆議院議員選挙は公選法別表第一及び同法附則第七項ないし第
九項による選挙区及び議員定数の定めに従つて実施されたが、右による選挙区別定
数は憲法第一四条第一項に反し、違憲であるから、右選挙は無効である、というも
のであり、右以外には選挙無効事由を主張していない。ところで、公選法第二〇四
条の訴えはいわゆる民衆訴訟に属し、法律の定めにより初めて訴えの提起が認めら
れるものであり、右訴訟は公選法に基づき施行された選挙の管理執行上瑕疵があつ
た場合これを無効とし、当該選挙管理委員会をして早期に適正な再選挙を実施せし
め、もつて選挙の自由と公正を確保せんとするため特に法により認められた制度で
あつて、本件の訴えのようにたとえ選挙を無効とし再選挙を実施しても、その瑕疵
を是正できないような、およそ被告選挙管理委員会ではその瑕疵の是正ができない
ような事由による訴訟までを許容する趣旨で制定された規定ではない。従つて、右
第二〇四条に不適合の訴えは却下を免れないものである。ところで、原告らの選挙
無効事由は前述した如く公選法別表第一自体を違憲とするものであり、選挙管理委
員会の権限をもつてしてはその是正が全く不可能なことをその無効事由としてお
り、
そのことはその主張自体に徴し明白であるから、公選法第二〇四条に不適合な訴え
というほかなく、本件訴えは、不適法な訴えとして却下を免れない。
また本件のような訴えは本来公選法第二〇四条の訴えに該当しないが、国権行為に
より侵害された国民の政治的権利の回復を求めているものであるから基本的人権に
かかわる問題として極力その救済が考えられねばならず、他に適当な救済方法が見
当らない現状においては右第二〇四条を拡張解釈して司法判断の対象とすべきであ
るとの学説判例が存在する。しかしながら被告は次の理由により右見解には賛同で
きない。
司法は本来具体的権利義務に関する紛争の解決を目的としているものであつて、あ
らゆる紛争をすべて救済する万能の制度ではなく、民衆訴訟の如きは法の制定によ
り初めてその救済が認められ、しかもそれがその法により司法の権限とされたとき
初めて司法に属せしめられるに至るにすぎないから、裁判所はその制定法の要件の
範囲内で裁判権を有するものといわなければならない。従つて、政治的権利も基本
的人権に関わるとして民衆訴訟を不当に拡張解釈することはその制定法の精神に反
するものであり、当事者の厳につつしまなければならないところである。
また、更に本件のような事態は立法当時予想していなかつたから適当な救済立法が
存在しない現状では右第二〇四条を拡張解釈することが許されるという見解があ
る。しかしながら立法当時予想していたか否か等の論議は法の制定により初めて認
められる民衆訴訟には全く無縁なことというべく、そのような論議より現に救済手
段が存在していないこと自体にそれなりの正当な理由が存在していることを知らな
ければならない。即ち、本件の如き事案につき救済制度が存在しないのは、選挙権
は政治的権利のひとつではあろうがその内容は選挙区、議員定数等の選挙制度の在
り方によつて種種異なることが考えられ、その如何は現在並びに将来の国政のあり
方に重大な影響を及ぼすものであつて、もともと憲法上政治の分野において決着を
みることが要請されており、具体的な権利義務の紛争の解決を目的とする司法審査
の対象とするには本質的に適しないが故である。
二 更に、本件における選挙人の投票価値の不平等とは要するに選挙区別定数の不
均衡をさしているものであるところ、選挙区別定数をどうするかは、単なる数字の
操作の問題ではなく、政治のあり方を規定し、政治の根幹に関わるものであつて、
それは常に政党並びに国民の真撃な関心事であり、高度の政治問題として立法府が
自ら解決すべき筋合の問題であつて、憲法上も立法府にその解決が委ねられてお
り、その上、司法はその可否を審査するに必要な明確な基準を当然持ち合せていな
いとともにそのために必要な諸資料も持ち合せていないから、かかる訴えは司法審
査になじまないものとして却下されなければならない。
1 憲法第八一条は具体的訴訟事件につき裁判所に違憲立法審査権を認めている
が、一二権分立が憲法の原則である以上その審査権には自づから限界があり、立法
府自らの解決が要請される高度の政治問題については立法府の専権事項として司法
判断が不適合とされている。この点については既にいわゆる砂川判決等において判
例上も認められているところである。
2 憲法第一五条、同第四一条ないし第四四条及び同第四七条は国会議員の定数、
選挙人並びに被選挙人の資格、選挙区及び投票の方法等選挙制度に関することはす
べて法律の定めによるとし、選挙権被選挙権の資格につき人種、信条、性別、社会
的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならないと規定しているに
とどまり、選挙権の内容につき特段の定めをしてはいない。
3 勿論憲法第一四条に基づく平等条項が存在し、選挙権等についても基本的には
その平等な行使が法律上認められねばならないが、選挙制度は、国の政治の根幹に
関わる問題なので、政局の安定をはかりながら、しかも少数意見をも国政に適正に
反映せしめ得るような代表制度を、その国民を代表する国会議員によつて確立させ
ることとした方がより望ましいため、選挙制度全般を立法府の裁量権限としたもの
である。従つて、各政党間の利害が最も厳しく対立するところでもあるけれども、
国会は、右憲法の要請に応え複雑な諸要素を総合調整し公正かつ効果的な代表制度
を定めなければならないことはいうまでもない。
4 現行の公選法の規定も右の趣旨をふまえ国会において総合的調整の結果定めら
れているものと考えられ、単なる数字的格差のみを原因として安易に改正すること
は適当でなく、また現実問題として政党間の利害対立により一朝一夕に改正が行わ
れうることは考えられない。従つて選挙制度の改正は、一定の年月をかけて慎重な
検討を行い諸要素を総合的に調整しながら国会により漸進的な解決を図ることが現
実的に最も妥当な方策というべく、立法政策の当否につきその違憲性を云々すべき
筋合のものではない。
また立法府にその解決が委ねられている事項につき仮に裁判所が違憲判断をなし得
るとしても、その為には少くとも裁判所にその判断の為の明確な基準が存し、かつ
その判断に適合する実効性が保障されているという要件が充足される場合に限られ
るものと考える。本件の如き選挙区別定数の不均衡の是正は上述した如く憲法上立
法府にその解決が委ねられており、仮に裁判所がその是否を判断し得るとしても裁
判所はその違憲の限界を示す明確な基準を持ち合せておらず、その上違憲として選
挙を無効としてみたところで新たな立法措置が講じられない限りその是正は不可能
なことである。前記のように、選挙制度の改正には国会における相当長期の慎重な
審議が必要であるが、仮にこれを考慮しないとしても、現実問題として現在の如く
与野党間の議員数の接近した段階に於ては、定数是正の内容如何がその勢力関係に
直ちに反映するのであつて、かかる政党間の厳しい対立状態を想定した場合、裁判
所の意向を酌んで国会により直ちに定数改正がなされると期待することはむしろ幻
想に近く、折角の裁判所による選挙無効の判断も、単なる宣言効にとどまり、その
是正の為には全く効果がなく、かえつて選挙の無効を宣言した結果本来定数不足と
して増員が認められるべき選挙区につきその代表を失わしめるという結果が招来さ
れ、かくなつてはかかる請求を認めた意義が全く没却されてしまうのであつて、こ
の点から考えても、本件の如き請求は司法審査不適合というほかはない。
第二 本案についての答弁
被告の主張
原告の本件請求は次の事由により失当として棄却を免れない。
一 憲法第一五条、同第四一ないし四四条、および同第四七条によれば国会議員の
定数、選挙人・被選挙人の資格、選挙区及び投票の方法等選挙制度に関する事項は
すべて法律によるとし、わずかに選挙権被選挙権の内容につき人種・信条・性別・
社会的身分・門地・教育・財産又は収入によつて差別してはならない旨の制約条項
が存するに過ぎない。しかして、かかる規定のあり方は、選挙制度全般が政治の根
幹にかかわる重大問題であるが故に、政治の領域において、政治の安定をはかりな
がら、しかも少数意見をも国政に反映せしめるような公正且つ効果的代表制度を確
立せしめんとする趣旨によるものであるから、国会は憲法上選挙制度全般に関し広
汎な裁量権を有し、議員定数の配分に関しても憲法第一四条の平等条項が存する関
係上それが極端な不平等を生じさせている場合は格別、右以外の場合はなお立法政
策の当否の問題にとどまり違憲問題を生ずる余地はない。(最高裁昭三九・二・一
五大法廷判決民集一八巻二号二〇七頁)
二 衆議院議員に関する選挙区別定数配分も人口要素と共に従来の議員定数の沿
革、選挙区の大小、行政区画の歴史的沿革、住民構成・交通事情・産業・経済・自
然等の地理的条件等の非人口的要素を考慮し、高度の政治的裁量の結果、昭和五〇
年法律第六三号改正法により確定をみているものであるから選挙区別定数一人当り
の人口数に多少の較差があるとしても、右は立法政策の当否の問題にとどまるとい
うべく、違憲性は全くないものといわなければならない。
1 昭和三九年改正後、定数に関し何等の是正措置がなされなかつたところ、昭和
四五年国勢調査の結果不均衡が一部選挙区で甚しいことが明らかとなつたので、そ
の不均衡是正を目的とする改正(昭和五〇年法第六三号)がなされた。
2 昭和五〇年法第六三号による改正の経過(添付改正公職選挙法解説(以下「解
説」と略す。)の抜すい参照のこと。)
(1) 昭和三九年の法改正は十九人を増員し、その結果、最高と最低の選挙区間
の較差がそれまでの三・二一倍から二・一九倍に縮小された。(解説二二頁、乙第
一号証の三)
(2) 昭和三九年の改正以後定数の改正がなされず、その不均衡が問題とされて
きたが、昭和四五年国勢調査の結果、その人口偏差が著しく大きくなつていること
が明らかとなつた。(一対四・八三倍)(解説二二頁、乙第一号証の三)
(3) その主な原因は都市及びその周辺への人口集中の結果とみられ、定数是正
が現実的政治課題となり、各党間の長い折衝の末、昭和四九年に至り衆議院公職選
挙法改正に関する調査特別委員会が衆議院に設置され、衆議院議員の定数是正が真
剣に検討されることになつた。(解説十一頁、乙第一号証の二)
(4) 昭和五〇年三月二〇日右特別委員会内に設けられた小委員会において、自
民、社会、公明、民社、共産の五党一致で定数を二〇名増員し選挙区別定数の不均
衡を是正するが減員はせず、過少選挙区にこれを振りあて六人以上となる選挙区は
分区し、分区については人口比、自然条件を勘案し、従来の選挙区域を尊重し自治
省に試案を作成せしめることとなつた。(解説十二、二二、二三頁、乙第一号証の
二、乙第一号証の三)
(5) 政府は各党の意見並びに世論の動向に徴し右五党案が適切と判断し、これ
を政府案として提出し、ただ分区については国会に一任する方針をとつた。(解説
二三頁、乙第一号証の三)
(6) 分割については、(1)分割により設定される関係選挙区の国勢調査人口
及び将来人口がなるべく均衡のとれたものとなるようにすること (2)行政区域
を尊重し、この区域を分割することとならないようにすること (3)分割後の選
挙区の地域がそれぞれ地勢、交通、産業、行政的沿革等の諸般の事情を考慮して合
理的なものとなるようにすること (4)分割後の選挙区の地域がそれぞれ拠点を
中心として地域的なまとまりを示すこととなる等社会的経済的観点からも地域的一
体性を傑持することとなるよう配慮すること の四基準を基本として国会において
決定をみたこと。(解説二三~三一頁、乙第一号証の三)
(7) 国会において分区が決定され(五〇年七月一二日)法第六三号として昭和
五〇年七月十五日公布され、次の総選挙から施行されることとなつた。(解説二三
頁、乙第一号証の三)
3 右法第六三号による定数是正の結果、不均衡の限度は最大と最少の差二・九
(解説二三頁、乙第一号証の三)、平均値からの較差はほぼ〇・五どまりとなり、
較差の縮小に著しい効果をもたらしたものというべく、仮に改正前の定数の不均衡
にして違憲性を帯びるものがあつたとしても、右改正の結果、衆議院議員の選挙区
別定数の違憲性は右改正時点で解消されたものといわなければならない。
(改正前)
昭和四五年国勢調査人口による全国平均議員一人当り人口 二一三、一六七
同 最高議員一人当り人口(選挙区・大阪府第三区)   五四五、一三六
同 最低議員一人当り人口(選挙区・兵庫県第五区)    一一二、七〇一
平均議員一人当り人口と最高議員一人当り人口の較差 二・五六(四捨五入)
平均議員一人当り人口と最低議員一人当り人口の較差 〇・五三(四捨五入)
(改正後)
昭和四五年国勢調査人口による全国平均議員一人当り人口 二〇四、八二四
同 最高議員一人当り人口(選挙区・東京都第七区)   三二九、二〇〇
同 最低議員一人当り人口(選挙区・兵庫県第五区)    一一二、七〇一
平均議員一人当り人口と最高議員一人当り人口の較差 一・六一 (四捨五入)
平均議員一人当り人口と最低議員一人当り人口の較差 〇・五五(四捨五入)
注 昭和四五年国勢調査人口一〇四、六六五、一七一人、改正前議員定数四九一
(含沖縄)、改正後議員定数五一一。
三 原告は昭和五五年六月二二日施行の衆議院議員選挙における各選挙区別議員一
人当り有権者分布比率を問題としている公職選挙法別表第一は「本表はこの法律施
行の日から五年ごとに、直近に行われた国勢調査の結果によつて更正するのを例と
する。」としているのであるから、選挙区別議員一人当り人数の較差を問題とする
ときは当該選挙の直近における国勢調査の結果によるそれを論ずべき筋合のもので
あり、しかもその格差の有無は全国平均議員一人当り人口数(平均値)と当該選挙
区の議員一人当り人口数との差を対象として論議すべきものである。右選挙直近の
国勢調査の結果は昭和五〇年一〇月施行にかかるものであるから、右に基き選挙区
別議員一人当り人口数分布比率を算出してみると平均値からの比率は昭和四五年の
一・三二倍から一・二四倍程度に変動しているに過ぎず、右期間内に著しく変動し
ているものとは到底いい得ないから、右程度の格差の是正問題は未だ立法政策の当
否にとどまり違憲を云々すべき場合に該当しないものである。従つて、原告の本件
請求は失当として棄却を免れない。
別紙(四)
第一 議員定数の配分に当たり非人口的要素を重視すべきことについて
一 議員定数の配分に当たつて、各選挙区の人口数と配分議員定数との比率の平等
が重視されるべきことは当然であるとしても、
議員定数の配分は単に人口的要素のみによつて決せられるべきものではなく、従来
の議員定数の沿革や立候補者数の多寡、選挙区の大小、選挙区を構成する行政区画
の歴史的沿革、住民構成、交通事情、産業、経済、自然等の地理的条件等諸般の非
人口的要素をも考慮し、国会の高度な政治的裁量に基づいて行われるべきものであ
る(最高裁昭和五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二四六ページ参
照)。
そして、右のような国会の裁量は、それが著しく裁量の範囲を逸脱し、しかもその
ことが一見して明白でない限りは、違憲にならないと解すべきである。
二 また、右のような非人口的要素を検討する場合には人口の都市集中化現象及び
一部地域の過疎化現象の政治的、経済的、文化的意義を検討することも極めて重要
である。
1 近年の人口の都市集中化の現象は、経済的、文化的などの諸利益が都市部に集
中しているために生じたものであるが、このような都市への人口の集中化が急激に
生ずることは多くの弊害や歪みを伴うものであり、社会政策的あるいは経済政策的
にみて、必らずしも望ましいこととはいい難い。
そこでこのような傾向をできるだけ抑制し、過疎地域における経済面、文化面等の
充実を図り、その魅力を増大させることが望ましいが、そのためには、当該過疎地
域の住民が一きわ大きな政治的影響力の可能性を持つようにすることが必要であ
る。すなわち、選挙におけるその投票の価値が大きくなつていることが必要であ
り、これによつて、その地域の政治力に対する住民の影響力を増大させることが可
能となるのである。
2 これに反し、人口の集中した都市は元来、それ自体政治的に大きな影響力を行
使し得る可能性を有するのであり、これに更に大きな政治力が行使される可能性を
与えることは、政治的に望ましいことではない。このように、都市の政治力は過疎
地域のそれよりも大きいのであるから、更に、人口数に応じて、投票権の完全な平
等が実現されると、その政治的影響力は均衡を失して著しく増大し、政治的、経済
的、文化的等の各種の利益がますます都市部にのみ集中し、過疎地域との間の地域
的不均衡が実質的に拡大する結果になる。
3 右のような観点からすれば、投票価値ないし結果価値の平等を厳格に要求する
ことは、
かえつて政治の不平等をもたらすおそれがあるのである(東京高裁昭和五三年九月
一一日判決判例時報九〇二号二四ページ参照)。
三 人口的要素の外に、以上のような非人口的要素を併せ考えれば、本件におい
て、争点となつている有権者分布差比率の単純比較の最大が三・九六対一であると
しても、これをもつて一見明白に違憲な比率ということは到底できない。ちなみ
に、最高裁昭和三九年二月五日大法廷判決(民集一八巻二号二七〇ページ)は、議
員定数の配分は極端な不平等を生じさせない限り立法政策の当否の問題にとどまり
違憲問題を生じないとし、有権者比較差四・〇九対一の程度では違憲ではないとし
ている。右は参議院議員地方区の定数配分についてのものであるが、本件において
も先例として十分考慮に値するものである。
四 以上、要するに選挙区別の定数配分に当たつて憲法の要求する平等とは単に人
口による形式的平等ではなく、各選挙区の実態を踏まえた上での実質的な平等であ
ると考えるべきである。かかる非人口的要素を考慮に入れるならば、未だ違憲を云
々すべき場合に該当しないことは明らかである。
第二 選挙区別議員一人当たりの人口比較の基準について
本訴において、選挙区別議員一人当たり人数の較差を問題とするときは、まず、公
職選挙法別表一の規定・文理から、昭和五〇年一〇月施行にかかる国勢調査の結果
判明した人口数を基準とすべきことは明らかであり、次に、いわゆる過疎地域のい
わば特殊と思われる一部選挙区(たとえば兵庫第五区)のように、選挙区の人口数
に対する配分議員定数の比率が大きいものを基準とすべきではなく、全国的な各選
挙区の平均値を基準とし、同基準によつて投票価値の差等に一般的合理性が存する
かどうかの判断をすべきである。そもそも、平等であるかどうかの判断基準の設定
に当たつては、一般的にいつて、特殊なものを基準におくのは無意味であり、平均
値が最も合理的であるといわれており、本訴の関係で具体的に考察すると平均値を
基準にしないとたまたま一部の不合理な定数配分のなされた選挙区のために他の平
均的中庸を得ている選挙区、つまり合理的な差等の範囲内の定数の選挙区の投票権
についてまで広く違憲の累を及ぼすことになつて、妥当でない結果を生ずるのであ
る(東京高裁昭和五三年九月一一日判決・判例時報九〇二号二四ページ以下参
照)。
第三 事情判決について
本件選挙における格差の是正問題は未だ立法政策の当否にとどまり、違憲を云々す
べき場合に該当しないことは明らかで本件請求は失当として棄却されるべきである
が、仮に違憲無効と判断されることがあつたとしても、右判断によつて違憲状態が
是正されるわけではなく、かえつて憲法の所期するところに適合しない結果を生ず
ることは明らかであるから、行政事件訴訟法三一条の法理にしたがい事情判決が相
当であるので、本件請求は棄却されるべきである(前掲最高裁昭和五一年四月一四
日大法廷判決参照)。
別紙(五)
被告の主張
一 昭和四五年及び同五〇年国勢調査の結果に基づく衆議院議員の議員一人当り人
口数並びにその平均と当該選挙区との比率については、本準備書面末尾記載の衆議
院議員一人当り人口調べと題する表のとおりであつて、既に被告が被告準備書面
(一)第二、本案についての答弁のうち被告の主張三項で述べている如く、昭和四
五年と昭和五〇年とにおける当該選挙区議員一人当り人口数と全議員一人当り人口
数との比率の変動は僅かであり、右程度の変動に基づく議員数配分是正問題は、非
人口的要素との総合勘案の結果結論付けられる立法政策上の問題にとどまり違憲を
もつて論ぜらるべき場合には該当しない。
二 本件原告の請求が公選法第二〇四条に依拠し、原告が選挙権を有する特定選挙
区の選挙無効を訴求しているものであることは、請求の趣旨並びに原因に照し明ら
かなところ、原告は、漫然公選法別表第一の違憲性を論ずるのみで、積極的に何ら
当該選挙区にかかる具体的選挙無効事由を主張しようとはしない。しかしながら、
公選法第二〇四条に基づく選挙無効請求が認められるためには、請求にかかる特定
選挙区の選挙規定違反並びに右規定違反が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある
ものであることとが具体的に主張立証されなければならないところ、原告の請求は
前述した如く当該選挙区にかかる選挙規定違反を主張せず、単に公選法別表第一の
違憲性を論じているに過ぎないから、原告の請求は畢竟公選法第二〇四条の規定に
基づく選挙無効請求の構成要件を充しておらず、原告の主張が現状にとどまる限り
爾余の点を論ずるまでもなく原告の請求は構成要件を欠く失当の主張として棄却を
免れない。因みに、原告請求にかかる東京都第三区を原告の主張にそい、具体的に
検討してみると、前記一で明かにしているとおり、昭和五〇年国勢調査の結果に基
づく全議員一人当り人口数との比率は一・二四倍であり、昭和四五年のそれ一・三
二倍より縮小されており、該選挙区についてはむしろ今後は一層縮小の傾向にある
ものというべきものであるから、右程度の格差をもつて違憲を論ずるは、議員数配
分を国会の裁量行為とした現憲法に基づく国会の合理的裁量権限を侵すものという
べきであつて、到底容認され得べき筋合の主張ではない。

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