弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が被控訴人の設置する長野県農事試験場の職員たる地位を有することを
確認する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月一
八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
5 3につき仮執行の宣言。
二 被控訴人
主文第一項と同旨
第二 当事者の主張
次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人
1 控訴人は、従来、控訴人が被控訴人の設置する長野県農業試験場の職員たる地
位を有することの確認を求めてきたが、被控訴人の行政機構改革により、昭和五五
年四月一日から、長野県農業試験場は、長野県農事試験場と名称が変更された。よ
つて、この点の控訴の趣旨を前記申立のとおり訂正する。
2 控訴人は、恒久的な正規の職員である農林技師と全く同一の業務に全く同一の
勤務状態で従事してきたものであるところ、被控訴人は、地公法二二条一項、二五
条三項等は一般の非常勤職員の任用を前提とする規定であり、控訴人の採用は、
「一般職の非常勤の職員に関する規程」(以下「取扱規程」という。)に基づいて
農事試験場長の専決処理によつて行われたと主張する。しかしながら、非常勤職員
であつても一般職の職員である限り、原則として恒久的職員であつて、臨時職員と
異なりその採用は競争試験又は選考による能力の実証が行われなければならず、反
面身分保障も行われるのであり、非常勤職員の採用は直ちに正式採用となるべきも
のである。しかるに、被控訴人の右取扱規程は、一般職に属する非常勤職員につい
て地公法二七条中の分限に関する規定及び二八条の規定の適用を排除しており(同
規程二九条一項、三四条二項)、明らかに地公法に違反し、また、同規程中昭和五
〇年三月二九日に改正後の、純非常勤職員について任用期限を一年に制限する規定
(三二条二項)も同法に違反するものであり、かような法律違反の規程を根拠とし
て控訴人の法的地位を定めることは許されず、むしろ控訴人らのいわゆる常勤的非
常勤職員の勤務の実態を直視するならば、それは地公法の予定しない職員といわざ
るをえない。
 しかしながら、かように法の予定しない任用方法による職員であつても、何時で
も一方的に雇い止めの通告をしてよいということにはならないのであつて、その勤
務の実態からすれば、かえつて同法一七条所定の正規の職員として取り扱うのが相
当である。
3 なお、特段の事由があれば、一般職の非常勤職員について期限付任用をするこ
とが許されるべきであるとしても、非常勤職員は特別な資格を要する職務や管理職
的な職務を除いては一般に代替性があるのであるから、職務に代替性があることを
もつて、期限付任用を許す特段の事由とすることは許されないというべきである。
二 被控訴人
1 長野県農業試験場が機構改革により長野県農事試験場と名称が変更されたこと
を認め、控訴の趣旨の変更に異議がない。
2(一)職員の任用を無期限のものとすることが地公法の建前ではあるが、されば
といつて期限付任用を禁止する規定はなく、しかも、同法二二条一項、二五条三項
等は期限付任用を予定していると解することもできるから、職員の身分保障と地方
公共団体の行政の民主的、かつ、能率的な運営の保障を旨とする同法の建前を崩さ
ない限りにおいては期限付任用も許されるのであり、被控訴人においては、「一般
職の職員の給与に関する条例」(乙第一六号証の一)三条、「職員の勤務時間及び
休暇等に関する条例」(乙第一六号証の二)九条が期限付任用の非常勤職員につい
て規定し、更に、取扱規程を定め、その三二条において、控訴人のような日々雇用
の、純非常勤職員の身分取扱について規定しているのである。
(二)そして、具体的にいかなる場合に非常勤職員としての採用が許されるかは、
当該職員の職務の性質、内容、任期を定める必要性等に照らして、地方公務員法の
目的、趣旨に反しないか否かによつて判断すべきであり、恒常的でない職務とか専
務的でない臨時的業務に限定されるべき理由はない。
 本件についてこれをみると、控訴人を採用するについては、控訴人の従事すべき
仕事の内容が肉体的労務を主体とする農作業や試験研究の補助作業であつたこと、
作業の遂行にあたり格別の専門的知識や習熟ないし過去の経験の豊富さを必要とせ
ず代替性のある作業であつたこと、正規職員である農林技師とは責任分野が分かれ
ており、農林技師や研究員の指示に基づいて作業が行われていたこと、控訴人自身
も自分が正規職員として採用されたものでないことを重々承知していたこと、採用
当時、控訴人は五四歳でほぼ退職勧奨年令に達しており、正規職員として採用する
余地は皆無であつたこと、被控訴人としては、本来、控訴人を農繁期及び試験成績
を期限までに提出しなければならない繁忙期に限つて就業させれば足り、恒常的に
就業させる必要はなかつたのであるが、人手不足の時代で、農繁期等必要な時期に
限つて就業を求めることが実際上困難であつたため、通年的雇用を継続していたも
のであること等の諸事情が存するのであり、これらの事情から控訴人を純非常勤職
員として雇用する必要があつたのであるから、控訴人を非常勤職員として採用した
被控訴人の行為は適法である。
3 控訴人は、純非常勤職員として採用されたのであり、また、期限付任用が反復
継続されることがあつても、地方公務員の任用は地公法の規定に基づく公法関係で
あり法令による要式行為であるから、期限付任用が期限の定めのない任用に転換す
ることはありえない。
 控訴人の主張はいずれにしても理由がない。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
 当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく排斥されるべきものと判断するものであ
つて、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示(原判決九
枚目裏六行目冒頭から一八枚目裏五行目末尾まで)と同一であるから、ここにこれ
を引用する。
一1 原判決一〇枚目五行目の「第一一」を「第一〇」と、「乙第三号証」とある
のを「表乙第一ないし第三号証」と改め、同七行目の「同A」に続けて、「、当審
証人B、同C(但し、後記措信しない部分を除く。)」を加える。
2 同一〇枚目裏一行目の「土壊」を「土壌」と、同七行目の「季節的に増減する
ことから」を「季節的に増減するため、同部では」と改め、同一〇行目の「これを
補助するために」から一一行目の「稼働させていた」までを、「これを補助するた
め「職員の任用に関する規則」(昭和三四年人事委員会規則第三号、乙第一号証)
附則第二項、取扱規程(乙第三号証)三二条に基づき日々雇用される非常勤職員が
採用されて右作業に従事していた。」と、同一一枚目表一行目の「非常勤職員を採
用して稼働させ」を「非常勤職員が採用されて稼働し」と、同二行目の「農芸化学
部では、」を「同部における」と改め、同三行目の「一応は」を削除し、同六行目
の「実際には、」から九行目の「かくして」までを「男子職員は、春、秋の二季に
農場の作業に従事するほか冬期には実験室における分析調査の補助作業にも従事し
ていたところから、」と改め、同九行目の「継続されることになり」を「継続され
ることになつたため」と改め、同行の「非常勤職員」から一一行目の「者の内に
も」までを削除し、同枚目裏末行の「内定した」を「内定し、程なく試験場長の承
認を得た」と、同一二枚目表八行目の「つたことから」を「り、例外的に在職者の
退職年齢を六〇歳まで延長するとの優遇措置もとられていたため、実際問題とし
て」と改める。
3 同一二枚目裏一行目の「理解」を「承知」と改め、二行目冒頭に、「例え
ば、」を加え、同一三枚目表二行目の「旨の人事通知書」から三行目の「至つた
が」までを、「同五〇年四月一日付で「報酬日額二、〇〇〇円を給する。任用予定
期限昭和五〇年四月一日から同年九月三〇日まで(その他の記載は上記四九年九月
一七日付に同じ。)」との控訴人に対する雇用関係を明確にした人事通知書が試験
場長名でそれぞれ交付されたが」と、同一三枚目表一行目の「実験室の」を「実験
室における」と改める。
4 同一四枚目表一行目の「原告本人」に続けて「及び当審証人C」を加え、同三
行目の「日々雇用される非常勤職員」を「前記取扱規程に定める非常勤職員のう
ち、第五章所定の純非常勤職員」と改める。
5 同一六枚目表五行目の「長野県条例第六号」に続けて「、乙第一六号証の一」
を、同末行の「条例九号」に続けて「、乙第一六号証の二」を、同一八枚目末行の
「条例六七号」に続けて「、乙第一六号証の三」を加える。
二 控訴人は、被控訴人の取扱規程は、非常勤職員について地公法の分限に関する
規定の適用を排除しており、また、昭和五〇年の改正規定において純非常勤職員の
任用期限を制限する規定を設けているのは、いずれも地公法に違反するものである
と主張する。
 まず前者について検討するに、地公法二九条の二第一項が非常勤職員について同
法二七条のうち分限に関する規定及び二八条の規定の適用を除外していないにもか
かわらず、取扱規程(乙第三号証)によれば、被控訴人は、季節的任用の常勤的非
常勤職員と純非常勤職員についてこれらの規定の適用を除外していることが認めら
れ、また、期限付任用の職員についても地公法の右各規定の適用が除外されるもの
でないことは、同法二九条の二の規定に照らして明らかである。しかしながら、非
常勤職員といつてもその職種、職務内容は一律でなく、また、期限付任用の職員に
ついてもその事情を異にするものでないところ、本件で問題になつているような、
日々雇用の純非常勤職員の任用が反復された結果雇用期間が長期化するに至つた場
合でも、その任用が地公法一七条による正式任用によるものではなく、その職務に
関する能力も、さきに認定した控訴人の採用の経緯にみられるように、十分の実証
を経たものではないこと等にかんがみるときは、これを一般の非常勤職員や期限付
任用の職員と同列に取り扱うのは相当でなく、同法二九条の二の適用上は同条一項
二号の臨時的任用の職員に含めて考えるのが相当であると解される。したがつて、
純非常勤職員について同法二七条のうち分限に関する規定及び二八条の規定の適用
を排除した取扱規程三四条二項、二九条の規定は地公法に違反するものではないと
いうべく、右違法を前提とする控訴人の主張は理由がない。また、後者について
は、期限付任用の職員の存在が認められる以上、その任期につき任用予定期限を予
め規定しておくのはむしろ当然であり、昭和五〇年三月二九日人第四七七号による
改正後の取扱規程三二条二項に定める「一年をこえない任用予定期限」は不合理と
はいえないから、右予定期限を定めたことの違法を前提とする控訴人の主張も理由
がない。
三 当裁判所は、控訴人は任期を一日とする取扱規程所定の純非常勤職員に任用さ
れたと判断するものであり、その経緯に関する認定は訂正、引用にかかる原判決第
二項の判示と同一である。右によつて明らかなように、控訴人の職務内容に代替性
のあることを右認定の事情の一つとするものではあるが、右代替性があることの一
事によつて控訴人が前記の非常勤職員に任用されたと認定するものではないから、
控訴人の主張3も理由がない。
以上の次第で、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これと同旨の原判決は相当で
あり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法
九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木潔 吉井直昭 岡山宏)

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