弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 検察官出射義夫の上告趣意第一点及び第二点について。
 刑法の所論改正前において当裁判所が刑法二五条一号の解釈として、刑の執行猶
予を言い渡した確定裁判のあつたときのいわゆる余罪についてもさらに刑の執行猶
予を言い渡すことができると判示したことは、論旨の指摘するとおりである(昭和
二五年(あ)一五九六号同二八年六月一〇日大法廷判決、集七巻六号一四〇四頁参
照)。そして、その後における刑法の一部改正(昭和二八年法律第一九五号「刑法
等の一部を改正する法律」同二九年法律第五七号「刑法の一部を改正する法律」)
は、従前の刑法二五条一号の規定に相当する部分については少しもこれを変更する
ことなく、ただ新たに刑法二五条二項及び同二五条ノ二等を追加して刑法の一部を
改正したに過ぎないのであるから、前記二五条一号(改正後は刑法二五条一項一号)
が所論の趣旨に改正されたとするには、それは新たに追加改正された刑法二五条二
項及び同二五条ノ二等の規定によつて、右一項一号の法意がおのずから変更された
ものと解し得る場合でなければならないのである。そして所論は、まさにそのよう
に主張するのであつて、新設された刑法二五条二項による再度の執行猶予を言い渡
し得る場合は、執行猶予期間中の再犯の場合と、いわゆる余罪(執行猶予の言渡前
における犯罪)の場合との双方を含むものと解すべきであるというのである。とこ
ろで、新設された刑法二五条二項は、同条一項と比較すると、刑の執行猶予言渡の
条件を寛大にしたものではなく、その条件を制限して厳格にしたものである。すな
わち、刑法二五条一項一号によれば、三年以下の懲役若くは禁錮又は五千円以下の
罰金を言い渡すにつき、情状に因り刑の執行を猶予することができるのに、同条二
項は、一年以下の懲役又は禁錮の言渡につき、情状特に憫諒す可きものあるときに
かぎり、刑の執行を猶予することができるものとしたのである。そして前者におい
ては、猶予の期間中保護観察に付することができるに過ぎないが、後者においては、
猶予の期間中かならず保護観察に付しなければならないことにおいても、その処遇
に寛厳の差が存するのである。おもうに、猶予の期間内さらに罪を犯した場合は、
そのことだけで従前に刑の執行猶予を言い渡されたときの犯罪に比して情状が重い
のであるから、かかる者に対して、刑法二五条二項によつてその刑の執行をさらに
猶予する場合に、同条一項の場合よりもその条件を厳格にすることは、首肯するこ
とができる。しかし、確定裁判のあつたときのいわゆる余罪は、起訴手続上の都合
等によつて、たまたま別個に審判されるに過ぎないのであつて、すでに裁判を経た
罪と、いまだ裁判を経ない余罪との間には、猶予の期間内に犯された罪の場合のよ
うな情状の差はないのであるから、その間に刑の執行猶予の条件を別異にすべき合
理的な理由は認められない。それ故、新設された刑法二五条二項は、猶予の期間内
さらに罪を犯した場合にその刑の執行猶予を言い渡すときの条件のみを規定したも
のであつて、いわゆる余罪につき刑の執行猶予を言い渡す場合の条件までをも規定
したものではなく、余罪について刑の執行を猶予することができるかどうかは、刑
法の所論改正後においても刑法二五条一項の定める条件を満たすかどうかによつて
定まるものと解するのを相当とする。それ故、右と同趣旨の見解に出た原判決の判
断は正当であつて、原判決には所論のような法律の解釈適用を誤つた不法はない。
されば原判決と相反する判断をした所論名古屋高等裁判所の判例はこれを変更して、
原判決を維持するのを相当と認めるので、刑訴四一〇条二項、四一四条、三九六条
に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官斎藤悠輔の反対意見あるほか、その他の裁判官全員の一致し
た意見によるものである。
 裁判官斎藤悠輔の反対意見は、次のとおりである。
 多数説は、改正前の刑法二五条一号(改正後の刑法二五条一項一号)にいわゆる
「刑ニ処セラレタル」という法文の字句を実刑を言渡された場合を指すものと解す
ることを前提とするものであることは、多数説引用の判例上(判例集七巻六号一四
〇六頁参照)明白である。しかし、その解釈は誤であつて、「刑ニ処セラレタル」
とは、実刑を言渡されたときと執行を猶予されたときとを問わないものであること
は、改正前の刑法二五条一号と二号並びに改正前の同法二六条各号就中その二号と
を対照比較することによつて明白であるばかりでなく、そのことは改正後の刑法二
五条二項、二六条、二六条の二の法文と対照比較すれば一点の疑を容れる余地が存
しないのである。そして、そのことは独り刑法だけに限つたことではなく、例えば、
公職選挙法二五二条を読めば、「刑に処せられた」とは、執行猶予の言渡ないとき
(改正刑法二六条一号、二号参照)に限らず執行を猶予されたとき(刑法二六条の
二第三号参照)をも含むものであることは何人にも明瞭である。されば、強いて実
刑に限ると曲解する多数説は、憲法七六条三項に反する違憲の解釈といわざるを得
ない。改正刑法は、この曲解を是正して法文の字句を誤解なからしめるため刑法二
五条二項の規定を設くると共に刑法二六条を改正し更らに二六条の二就中三号の規
定を新設して一切の他の罪(いわゆる余罪)についても刑法二五条二項の条件の下
においてのみ執行猶予をなし得ることに立法したものと解すべきである。
 そもそも、刑法第一編第四章「刑ノ執行猶予の制度は、いわゆる初犯短期の自由
刑(明治三五年刑法草案三一条では一年以下の禁錮又は六月以下の懲役であり、刑
法施行法五八条にいわゆる明治三八年法律七〇号刑の執行猶予に関する法律一条で
は一年以下の禁錮であつた。)を執行する弊害(慣行犯人から隔離するため初犯者
全部を独房制とすることは困難であるばかりでなく、とくに行刑の経験上執行が短
期では行刑の目的が達せられない。)を避けるため短期でない期間すなわち裁判確
定の日から一年以上五年以下の長期間(右草案及び法律では二年以上五年以下であ
つた。)いわば格子のない牢獄で、犯人自身の改過遷善を以て短期自由刑の執行に
代えようとする制度である。しかるに、いわゆる短期自由刑が改正前の刑法二五条
のように二年以下の懲役若しくは禁錮(正確にいえば、かくては最早短期自由刑で
はない。)に引上げられたのは、主として嬰児殺の場合に酌量減軽の方法で執行猶
予の適用あらしめるため、一方において刑法一九九条原案の殺人罪の懲役刑の短期
が刑法一〇八条の放火罪の懲役刑の短期五年と同じであつたのを三年に引下げると
共に、他方において刑法二五条原案の一年以下の禁錮又は六月以下の懲役を二年に
引上げたのであつた。しかし、右の立法措置は、刑法一〇八条放火罪の場合と権衡
を失することがあつたので、改正法は実務家多年の要望に従い二年を更に三年に引
上げ放火の場合にも執行猶予をなしうるようにしたのである。しかしながら、刑法
二五条は、立法以来依然として執行猶予期間を一年以上五年以下としているのであ
るから、刑の執行猶予は、主として刑の執行猶予期間の短期である一年以下の懲役
又は禁錮の言渡を受けたいわゆる短期囚に与うべき趣旨であるといわなければなら
ない。この意味で改正刑法二五条二項の一年以下の懲役又は禁錮の条件は、いわゆ
る余罪に対すると猶予の期間内さらに罪を犯した場合に対するとを問わず等しく合
理的であつて、執行猶予制度本来の立法趣旨に適合するものといえよう。いわゆる
余罪に対する執行猶予(なお、刑法二六条の二第三号参照)の条件を拡張せんとす
る多数説の考方は、たゞに法文の字句に副わないばかりでなく、執行猶予制度本来
の立法趣旨就中刑法が何故に執行猶予期間を一年以上としたかの理由を解しないも
のであつて、賛同できない。
 以上の理由で、本件上告は、その理由があつて、原判決は破棄すべきものと考え
る。
 検察官 安平政吉、同大津民蔵出席
  昭和三一年五月三〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己

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