弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       1 原判決中平成13年(行ヒ)第266号上告人敗訴
         部分を破棄する。
       2 第1審判決中平成13年(行ヒ)第266号上告人
         敗訴部分を取り消す。
       3 平成13年(行ヒ)第266号被上告人らの前項の
         部分に関する請求及び原審における請求の拡張部分
         を棄却する。
       4 平成13年(行ヒ)第267号被上告人に対し平成
         2年2月20日から平成3年6月23日までの間の
         職員派遣に係る支出給与相当額である3875万8
         978円及びこれに対する平成7年10月1日から
         支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め
         る部分に関する平成13年(行ヒ)第267号上告
         人らの上告を却下し,同上告人らのその余の上告を
         棄却する。
       5 訴訟の総費用は平成13年(行ヒ)第266号被上
         告人・同第267号上告人らの負担とする。
         理    由
 第1 事案の概要
 1 本件は,岡山県(以下「県」という。)の住民である平成13年(行ヒ)第
266号被上告人・同第267号上告人ら(以下「第1審原告ら」という。)が,
平成13年(行ヒ)第266号上告人(以下「第1審被告会社」という。)に派遣
された県の職員に対する給与支出は違法であると主張して,地方自治法(平成14
年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号
に基づき,県知事の職にあった平成13年(行ヒ)第267号被上告人(以下「第
1審被告D」という。)に対しては損害賠償を,第1審被告会社に対しては不当利
得の返還を求めた事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1)
県は,倉敷市内にデンマークのa公園を模範とした公園を建設することが,県の都
市政策,余暇施策,高齢化施策及び文化施策の一環として県民共通の利益となり,
併せて投資による波及効果,雇用の創出,滞留型観光資源の創造,豊かなライフス
タイルの拠点の整備,国際交流の振興,県の活性化,イメージアップ,魅力ある地
域づくり等にも資するものであって,極めて公共性の高い事業であると位置付け,
これを県の総合福祉計画に組み入れて推進することとした。
 (2)
第1審被告会社は,平成2年2月20日,上記事業に係るb公園の建設,管理運営
のためのいわゆる第3セクター方式による株式会社として設立された。第1審被告
会社の設立当初の資本金は48億円であり,そのうち5億円を県が出資した。その
後,県の出資割合は,約12%から24%で推移しており,県知事及び倉敷市長が
第1審被告会社の役員に就任している。
 (3)
b公園は,県が基盤部分及び教養文化施設を,第1審被告会社がレストラン,物品
販売及び遊具施設を整備し,平成9年7月18日,開園した。
 (4)
県は,平成2年2月20日,第1審被告会社との間で,県の職員を第1審被告会社
に派遣してその業務に従事させるとともに,派遣した職員の給与等を県において負
担すること等を定めた協定を締結した。県は,第1審被告会社との間で,毎年これ
と同趣旨の協定(以下,これらの協定を「本件協定」という。)を締結し,同日か
ら同9年3月31日までの間,原判決別表のとおり,2人から6人,延べ13人の
職員派遣及び給与等の支出を継続した(以下,上記職員派遣を「本件職員派遣」と
いい,派遣された職員を「本件派遣職員」という。)。
 (5)
職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和28年岡山県条例第49号。以下「
本件免除条例」という。)2条は,「職員は,左の各号の一に該当する場合におい
ては,あらかじめ任命権者又はその委任を受けた者の承認を得て,その職務に専念
する義務を免除されることができる。1 研修を受ける場合,2 厚生に関する計
画の実施に参加する場合,3 前2号に規定する場合を除く外,人事委員会が定め
る場合」と規定しており,本件免除条例2条3号を受けて,職務に専念する義務の
特例に関する規則(昭和28年岡山県人事委員会規則第10号。以下「本件免除規
則」という。)2条2号は,「県の行政の運営上,その地位を兼ねることが特に必
要と認められる団体の役員,職員等の地位を兼ね,その事務を行う場合」と規定し
ている。また,岡山県職員給与条例(昭和26年岡山県条例第18号。以下「本件
給与条例」という。)14条は,「職員が勤務しないときは,その勤務しないこと
につき特に承認のあった場合を除くほか,その勤務しない1時間につき,第18条
に規定する勤務1時間当りの給与額を減額した給与を支給する。」と規定している。
第1審被告D(平成8年11月12日以降はその後任者)は,本件職員派遣に際し
,本件免除条例2条3号,本件免除規則2条2号に基づき,本件派遣職員の職務専
念義務を免除(以下「本件職務専念義務の免除」という。)するとともに,これと
併せて黙示的に本件給与条例14条の承認(以下「本件承認」という。)をした。
 (6)
県は,第1審被告会社との密接な連絡調整等を維持する必要があることや,第1審
被告会社が設立されたばかりで事業収入がなく,十分な人材を確保していないこと
から,本件協定を締結し,本件職員派遣を行ったものである。本件派遣職員の第1
審被告会社における職務内容は,県及び倉敷市との連絡調整,周辺の基盤整備との
調整,マスタープラン及び施設基本設計等の策定,建築確認申請等の届出,第1審
被告会社の組織体制の確立及び社員教育,事業収支計画の検討,諸規程の整備,資
金調達等であった。
 (7)
地方公共団体が民間と共同して第3セクターを設立運営する手法は,高度経済成長
期に急速に広まり,多くの地方公共団体で職員が第3セクター等に派遣されるよう
になった。しかし,当時,地方公務員の派遣に関する法制度は整備されておらず,
職務命令,職務専念義務の免除,休職,退職等,様々な方法による職員派遣が行わ
れており,職務命令又は職務専念義務の免除による職員派遣の場合には,地方公共
団体が派遣職員の給与を支出する例が多かった。上記各方法についてはそれぞれ長
所及び短所が指摘され,前2者についてはその適法性に異論もあったが,定説もな
く,最高裁平成6年(行ツ)第234号同10年4月24日第二小法廷判決・裁判
集民事188号275頁において判断基準が示されるまで,下級審裁判所の判断も
分かれていた。
 第2 平成13年(行ヒ)第266号上告代理人片山邦宏,同石川正,同塚本宏
明,同上田裕康,同池田裕彦,同魚住泰宏,同野上昌樹,同高安秀明の上告受理申
立て理由について
 1 原審は,前記第1の事実関係の下において,次のとおり判断し,第1審被告
会社に対する請求を一部認容すべきものとした。
 (1)
b公園は,県の都市施策,余暇施策,高齢化施策及び文化施策の一環として設置さ
れたという一面を有し,一定の公益性を有しているから,b公園の建設,管理運営
のための会社である第1審被告会社は,県の行政目的の一部を担っているというこ
とができる。しかし,b公園には娯楽性の高い遊戯具も多数整備されており,第1
審被告会社は基本的には営利を目的とする株式会社である。第1審被告会社におけ
る県の出資割合に照らせば,第1審被告会社の業務方針が県の行政目的と一致する
とは限らず,不一致が生じないことを保証する手当ても十分ではない。本件派遣職
員の職務は第1審被告会社固有の事務の処理にあったと認めるのが相当であり,本
件職員派遣に県の行政目的の達成という公益上の必要性があったとはいい難い。そ
して,第1審被告会社の事業内容や本件派遣職員の職務内容等に照らせば,本件承
認が具体的な公益上の必要性に基づくものであったと認めることはできない。そう
すると,本件承認は,地方公務員法24条1項,30条及び35条の趣旨に反する
違法なものというべきであり,本件承認が違法である以上,本件派遣職員に対する
給与支出は違法というべきである。
 (2)
本件協定は,違法な本件承認を前提として,県において勤務しない本件派遣職員に
ついて県が給与を支給するというものであるから,違法なものである。そして,上
記違法事由は,地方公務員の服務や給与等についての基本的な義務を定めた地方公
務員法に違反するという重大なものであるから,県が給与を支給する旨を定めた本
件協定は私法上無効というべきである。第1審被告会社は,本件協定によりその事
務を無償で本件派遣職員に行わせるという一方的利益を受けていたのであり,本件
協定が無効とされ,本件派遣職員の給与相当額を不当利得として返還することにな
っても,本来支払うべきであった本件派遣職員の給与を支払うことになるにすぎず
,不測の損害を受けるとはいえない。したがって,第1審被告会社は,本件派遣職
員の給与相当額の不当利得返還義務を負う。
 2 しかしながら,原審の上記判断のうち(1)は是認することができるが,(2)は
是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)
職務専念義務の免除及び勤務しないことについての承認について明示の要件が定め
られていない場合であっても,処分権者がこれを全く自由に行うことができるとい
うものではなく,職務専念義務の免除が服務の根本基準を定める地方公務員法30
条や職務に専念すべき義務を定める同法35条の趣旨に違反したり,勤務しないこ
とについての承認が給与の根本基準を定める同法24条1項の趣旨に違反する場合
には,これらは違法となると解すべきである(前掲第二小法廷判決参照)。
 そこで,これを本件についてみると,【要旨1】前記第1の事実関係によれば,
① 本件職員派遣は,第1審被告会社との連絡調整の必要のみでなく,第1審被告
会社が設立されたばかりで事業収入がなく,十分な人材を確保していないことを考
慮して行われたものであった,② 第1審被告会社は営利を目的とする株式会社で
あり,その具体的な事業内容は遊園施設等の経営であった,③ 本件派遣職員が従
事した職務の内容は,第1審被告会社の組織体制の確立,社員教育,資金調達等,
第1審被告会社の業務全般に及んでいた,④ 第1審被告会社には,常時2人から
6人の職員が派遣され,派遣人数は延べ13人,派遣期間は約7年間に及んだとい
うのであるから,第1審被告会社が県の推進するb公園の建設,運営のために県等
が出資して設立された株式会社であること等を考慮しても,本件職務専念義務の免
除が本件免除規則2条2号所定の要件を満たすものであるということはできず,本
件承認は,地方公務員法24条1項の趣旨に反する違法なものというべきである。
そうすると,本件承認を是正することなく,これを前提にして行われた本件派遣職
員に対する給与支出は違法というべきであり,これと同旨の原審の判断は是認する
ことができる。この点に関する論旨は採用することができない。
 (2)
本件職務専念義務の免除及び本件承認が違法であることは上記のとおりであるから
,本件派遣職員に対する給与等を県において負担する旨を定めた本件協定は,地方
公務員法24条1項,30条,35条の趣旨に反する違法なものというべきである。
 しかしながら,県は,第1審被告会社との間で本件協定を締結し,これに基づき
本件派遣職員に支給すべき給与等を負担したものであるから,第1審被告会社が県
に対して不当利得として本件派遣職員の給与相当額を返還すべき義務を負うのは,
本件協定が私法上無効である場合に限られるというべきである。【要旨2】地方公
務員法24条1項,30条,35条は,職員の服務義務や給与の基準を定めた規定
であるにすぎず,これらの規定が地方公共団体と私人との間に締結された契約の効
力に直ちに影響を及ぼす強行規定であると解することはできない。また,前記第1
の事実関係によれば,① 本件協定が締結された当時,全国各地の地方公共団体に
おいて第3セクター等への職員派遣が行われていた,② しかし,地方公務員の派
遣に関する法制度は整備されておらず,職務命令や職務専念義務の免除等の方法が
採られていた,③ 職務専念義務の免除による職員派遣の場合には,地方公共団体
が派遣職員の給与を支出する例が多かった,④ 上記方法の適否については,定説
もなく,前掲第二小法廷判決において判断基準が示されるまで,下級審裁判所の判
断も分かれていたというのである。このような事情にかんがみれば,本件協定締結
当時,本件協定が公序良俗に違反するものであったということはできず,本件協定
が地方公務員法24条1項,30条,35条の趣旨に反することが第1審被告会社
も知り得るほど明白であって,これを無効としなければ上記各規定の趣旨を没却す
る結果となる特段の事情があるものということもできない。そうすると,本件協定
が私法上無効であるということはできず,第1審被告会社の不当利得返還義務を肯
定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。こ
の点に関する論旨は理由がある。
 第3 平成13年(行ヒ)第267号上告代理人山崎博幸の上告受理申立て理由
について
 ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれ
ていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方
の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と
判断されたからといって,直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当
ではない(最高裁昭和42年(オ)第692号同46年6月24日第一小法廷判決・
民集25巻4号574頁等参照)。
 これを本件についてみると,【要旨3】前記第2の2(2)で指摘した諸点に加え
,前記第1の事実関係によれば,県では,本件免除条例2条3号,本件免除規則2
条2号において,県の行政の運営上,その地位を兼ねることが特に必要と認められ
る団体の役員,職員等の地位を兼ね,その事務を行う場合には,職務専念義務を免
除することができる旨が定められており,本件職員派遣は,上記規定に基づき職務
専念義務の免除をした上,本件給与条例14条に基づき勤務しないことの承認をす
るという法的手続を踏んで行われたというのであるから,第1審被告Dが本件協定
を締結して本件派遣職員に給与を支出したことにつき故意又は過失があったという
ことはできない。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論
旨は採用することができない。
 第4 結論
 以上によれば,原判決中第1審被告会社敗訴部分は破棄を免れない。そして,以
上説示したところによれば,第1審判決中第1審被告会社敗訴部分を取り消し,同
部分に関する第1審原告らの請求及び第1審原告らの原審における請求の拡張部分
を棄却すべきである。第1審被告Dに対し平成2年2月20日から平成3年6月2
3日までの間の職員派遣に係る支出給与相当額である3875万8978円及びこ
れに対する平成7年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を
求める部分に関する第1審原告らの上告については,上告受理申立書及び上告受理
申立て理由書に上告受理申立て理由の記載がないから,これを却下し,第1審原告
らのその余の上告は棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 徳治 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐
中辰夫 裁判官 島田仁郎)

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