弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告に基づき原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人仙田富士夫、同小山隆夫、同松家健一、同内山正雄、同桜井常洋、同
伊藤誠吾の上告理由について
 被上告人は、昭和四五年九月一四日特許庁に対し登録第七三一九七一号実用新案
の権利者として右実用新案の願書に添付した明細書(以下「本件原明細書」という。)
の実用新案登録請求の範囲欄の記載を原判決別紙目録(7)及び(8)のように訂正す
るとともに、考案の詳細な説明欄の記載を右(7)の訂正に伴い同目録(2)ないし(
6)のように、また、右(8)の訂正に伴い同目録(1)のようにそれぞれ訂正するこ
とについての審判(以下「本件訂正審判」という。)を請求したところ、特許庁に
おいてこれを同庁同年審判第九四〇三号事件として審理し、昭和四八年八月二三日
請求が成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という。)をしたので、上告人を
相手取り原審裁判所に本件審決の取消を求める本件訴を提起した。
 これに対し、原審は、本件原明細書の記載を原判決別紙目録(1)及び(8)のよう
に訂正をすることは実質上登録請求の範囲を変更するものであるから、本件審決が
これを許すべきではないとしたのは正当であるが、同目録(2)ないし(7)のように
訂正することは、登録請求の範囲の減縮をするものであつて実質上登録請求の範囲
を変更するものではないから、これを不適法とすべき事由がないうえ、右のように
訂正することはその余の同目緑(1)及び(8)のように訂正することと実質上一体不
可分の関係になく、それのみでは実用新案権者である被上告人にとつて本件訂正審
判の請求をした目的を達することができないということもできないから、本件原明
細書の記載を右目録(2)ないし(7)のように訂正することまで許すべきではないと
したのは違法であるとし
て、本件審決中同目録(2)ないし(7)の訂正に関する部分を取り消し、被上告人の
その余の請求を棄却する旨の判決をした。
 ところで、実用新案登録を受けることができる考案は、一個のまとまつた技術思
想であつて、実用新案法三九条の規定に基づき実用新案権者が請求人となつてする
訂正審判の請求は、実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原
明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以
下「訂正明細書等」という。)の記載のとおりに訂正することについての審判を求
めるものにほかならないから、右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであると
きは事の性質上別として、本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及
ぼすものであるときには、訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数
箇所にわたつて訂正するものであるとしても、これを一体不可分の一個の訂正事項
として訂正審判
の請求をしているものと解すべく、これを形式的にみて請求人において右複数箇所
の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしてい
るものであると解するのは相当でない。それ故、このような訂正審判の請求に対し
ては、請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの
一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別、これがされて
いない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審
決をすることができるだけであり、たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部
が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係にはないと認められ、かつ、右の一部
の訂正を許すことが請求人にとつて実益のないことではないときであつても、その
箇所についてのみ訂
正を許す審決をすることはできないと解するのが相当である。
 そうすると、本件原明細書の記載を原判決別紙目録(1)ないし(8)のように訂正
することを求めるだけで、これと別に同目録(2)ないし(7)のように訂正すること
を求めていないことが記録上明らかな被上告人の本件訂正審判の請求につき、同目
録(2)ないし(7)のように訂正することを許す審決をすることができるとの、上記
判示と異なる見解のもとに、同目録(1)及び(8)のように訂正することを許さない
としたのは適法であるが、同目録(2)ないし(7)のように訂正することを許さない
としたのは違法であるとして本件審決中同目録(2)ないし(7)の訂正に関する部分
を取り消し、被上告人のその余の請求を棄却すべきものとした原判決は、実用新案
法三九条及び同法四七条二項において準用する特許法一八一条一項の解釈適用を誤
つた違法があり、右違法が判
決に影響を及ぼすことは明らかであつて、論旨は理由があり、被上告人の本訴請求
は一個不可分であつて一部判決をすることができないものであるから、原判決は結
局その全部の破棄を免れない(上告人の本件上告もその趣旨で原判決全部の破棄を
求めているものと解される。)。そして、本件は、本件原明細書の記載を原判決別
紙目録(1)ないし(8)のとおりに訂正することが許されるか否かについてなお審理
を尽くす必要があるので、これを原審に差し戻すのが相当である。
 (なお、本件附帯上告は、原判決全部の破棄を求める上告人の上告が理由がない
ものとして棄却されることを前提として申し立てられたものと解されるところ、右
上告は理由があり、原判決を全部破棄し、本件を原審に差し戻すべきものとするこ
と前記のとおりである以上、本件附帯上告に対し裁判をする要はない。)
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗
 裁判長裁判官戸田弘は死亡につき署名押印することができない。
            裁判官    団   藤   重   光

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