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平成14年3月15日判決言渡・同日判決原本領収 裁判所書記官 
平成13年(ワ)第241号 図面・見積書作成報酬請求事件
口頭弁論終結の日 平成13年12月21日
判       決
主       文
1 原告の主位的請求を棄却する。
2 被告は,原告に対し,金40万1940円及びこれに対する平成12年3月1
1日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,被告の負担とする。
4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
   主位的請求及び予備的請求ともに主文第2項と同旨。
第2 前提となる事実(証拠を掲記して認定した事実のほかは,当事者間に争いがな
い。)
1 当事者
(1) 原告は,A設計の名で建築物の図面,見積書作成等の業務を行っている者で
ある。
(2) 被告は,建築・土木一式工事の請負並びに設計,施工,監理等を業とする株
式会社である。
(3) Bは,被告代表者の長男であり,かつて被告の取締役であった者であるが,平
成6年12月9日取締役を辞任した旨の登記が同月15日付でなされた(乙第2号
証)。
(4) Cは土木工事の設計,施工等を業とする株式会社田園新都市設計(以下「田
園新都市設計」という。)の代表者であり,同社の支店が群馬県高崎市a町b番
地cにある旨の登記がなされている(乙第3,第4号証)。
 2 ところで,Cは,平成11年ころ,被告の高崎支店(群馬県高崎市a町b番地c所在)
の支店長であると名乗っていたが,原告は,同年ころ,下記のとおり,Cから各改装
工事に関する図面及び見積書の作成の依頼を受け,原告において依頼を受けた
建築物の改装工事図面を作成し,また,積算後,見積書を作成し納品する旨の契
約を締結した(甲第4号証の1ないし6,第5号証の1ないし7,第10,第11号証,
原告本人尋問)。
(1) D改装工事(以下「本件第1契約」という。)
ア 契約締結日  平成11年12月21日
イ 請求書提出日  平成12年1月25日
ウ 支払期日  平成12年3月10日
エ 報酬金額  金17万4090円
オ 図面及び見積書納品日  平成12年1月7日
(2) E改装工事(以下「本件第2契約」といい,本件第1契約と本件第2契約とをあ
わせて,以下「本件各契約」という。)
ア 契約締結日  平成12年1月11日
イ 請求書提出日  平成12年1月21日
ウ 支払期日  平成12年3月10日
エ 報酬金額  金22万7850円
オ 図面及び見積書納品日  平成12年1月21日
 3 Bは,平成6年ころ,被告の取締役を辞任し,その旨の登記もなされたが,平成10
年ころ,Cと知り合い,以後Cの仕事を手伝うようになり,本件各契約においても原
告と一緒に現地寸法を行ったり,現地打合せをするなどしていた(乙第2,第7号
証,証人Bの供述)。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
(争点)
1 原告に本件各契約を依頼したのは被告高崎支店であるか(主位的請求)。
2 1が否定された場合,被告に名板貸しに基づく本件各契約にかかる支払責任は生
ずるか(予備的請求)。
(当事者の主張)
1 争点1について
(原告の主張)
  原告は,被告,具体的には被告高崎支店の支店長C及び被告の専務取締役Bと
本件各契約を締結した。以下の諸事情にかんがみると,被告の高崎支店事務所
は,群馬県高崎市a町b番地cに所在し,C及びBは同支店の従業員であった,ない
し少なくとも被告の許諾を得て被告の名で取引をしていたものと言える。
(1)ア 上記事務所にはC,B及び従業員複数名がいた。
イ 群馬県土木部建築課には被告高崎支店として建築設計事務所の登記がなさ
れ,その廃業届も被告から同課に提出されている。
ウ 求人ジャーナルに「高崎に新規営業所開設,本社(前橋市内)に勤務できる
方特に希望」との求人広告が出されたが,前橋市内には被告の外「株式会社
トミザワ」という会社は存在しない。
エ 上記事務所において,Cは被告高崎支店支店長,Bは被告専務取締役の肩
書入り名刺をそれぞれ使用しており,また,被告のパンフレット,被告の会社
名入りの各種封筒が常備されていた。
オ C及びBは,被告の会社名入りのトラックを使用していた。
カ 原告は,被告高崎支店とだけ表示して本件各契約にかかる図面を提出したと
ころ,Cから,同図面枠に本社の住所「群馬県前橋市d町e-f」,電話番号「0
27-269-以下略」,ファクシミリ番号「027-269-以下略」を記入するべ
く,また,本件各契約の見積書表紙の上に「高崎支店」,下に「本社」と入れる
ように指示され,原告はその旨訂正した。
キ 本件各契約以前に作成された契約報酬の請求書,領収書は,被告高崎支店
において受領されている。
ク Fは,被告高崎支店の従業員であったところ,前橋社会保険事務所は,Fを被
告の社員と認めて,同人の被保険者資格取得確認及び標準報酬決定通知書
取消届につき取消しの措置を取った。
(2) Bは,被告専務取締役と名乗って,原告に対し,契約物件の平面プラン打合せ
指導,見積書工事細目の単価指示などを行い,また,原告やCに同道して現地
寸法を行うなどした。
(被告の主張)
  原告の主張は争う。被告に高崎支店はなく,いかなる者に対してもその設営を許し
たことはない。したがって,本件各契約において,被告の高崎支店がその当事者に
なることはあり得ない。また,C及びBはいずれも被告の従業員ではない。Bは,独
立した個人請負業者であって,Cの請負にかかる契約についてその下請業者とし
てCと契約を締結し,その限度においてCを補助していたにすぎない。また,(原告
の主張)(1)及び(2)の事実に対する認否は,次のとおりである。
(1)ア (原告の主張)(1)アの事実は否認する。被告は,CやBを雇用したことはな
い。
イ 同(1)イの事実は否認する。そもそも,群馬県土木建築課は「登記所」ではな
く,かかる登記がなされる余地はない。
ウ 同(1)ウの事実は否認する。仮にかかる広告が存在したとしても,被告が全く
関与しておらず,何ら法的な効果はなく,また,本件各契約締結との因果関係
もない。
エ 同(1)エの事実は否認する。
オ 同(1)オの事実は否認する。仮にかかる事実があったとしても,被告に無断で
なされたにすぎず,被告に帰責性はない。
カ 同(1)カの事実は否認する。
キ 同(1)キの事実は否認する。
ク 同(1)クの事実は認める。
(2) 同(2)の事実は否認する。
2 争点2について
(原告の主張)
(1) 本件各契約に関し,前記1(原告の主張)(1)及び同(2)記載の事実のほか,次
のような事情が存する。
ア 原告は本件各契約以前にもC及びBとの間で本件各契約と同様の契約を締
結して報酬を受領してきたが,いずれも被告高崎支店としての契約であった。
なお,原告は,本件訴訟において被告が提出した田園新都市設計の商業登
記簿謄本を見るまでCが田園新都市設計の代表者であったことを知らなかっ
た。
イ 前記のとおり,被告高崎支店,あるいは被告高崎営業所として求人ジャーナ
ルに求人広告がなされている。
ウ Cは,群馬県高崎市a町b番地cにおいて「被告高崎支店」を名乗って営業活
動をなし,被告高崎支店の支店長の名刺を所持し,Bは,上記「高崎支店」に
常駐して被告の専務取締役の名刺を所持し,また,上記「高崎支店」には被
告のパンフレットが常備され,顧客への配布行為もなされていた。
エ 被告代表者は,F提起にかかる社会保険料請求の訴えに対しては,これを認
める旨の答弁書を提出した上,Fとの間で和解をしているが,平成12年6月1
9日,Fらに対し,「Cには株式会社トミザワの名を貸した」などと名板貸しを認
めるような発言をした。
オ 被告にはBの源泉徴収票が存在し,また,Bは被告の厚生年金保険被保険
者となっている。
(2) 前記1(原告の主張)(1)及び同(2)記載の事実のほか,上記(1)の各事実を合わ
せてみると,仮に被告高崎支店が真実は被告の支店ないし営業所ではなかった
としても,被告はC及びBに被告の名を使用することを許諾したものということが
でき,原告は被告を営業主と誤認して取引をしたものであるから,被告は名板貸
しの責任を負う。
(被告の主張)
(1) (原告の主張)(1)の各事実に対する認否は次のとおりであり,同(2)の原告の
主張は争う。なお,被告は,以前,C及びBから名前を貸してくれるよう懇願され
たことがあったが,断っている。
ア 同(1)アの事実は否認する。
  原告は,本件各契約以前の契約においては被告に対してではなくCやBら個
人に報酬請求しており,本件各契約の締結の相手が被告でないことを知って
いたことがうかがわれる。そもそも,原告は,本件各契約にかかる請求につい
ても,まずCやBら個人に報酬請求している。そして,原告はCが田園新都市
設計の代表者であることを知らなかったが,このことは,原告自らの過失を認
めたことを物語っている。
イ 同(1)イの事実は否認し,主張は争う。
  原告提出にかかる求人ジャーナルのコピーは,被告高崎営業所の名のもの
合計4枚,被告高崎支店の名のものは1枚にすぎず,仮にかかる事実があっ
たとしても,いずれもFの作成にかかり,被告とは何ら関係がない。
ウ 同(1)ウの事実は否認し,主張は争う。
  被告は,本件訴訟に至るまで,原告主張の名刺を見たことがなく,また,群馬
県高崎市a町b番地cという地番も聞いたことがない。そして,被告のパンフレ
ットは,Bが被告から勝手に盗み出したものと思われ,これらの行為は,被告
の意思に反し違法になされたといわざるを得ない。
エ 同(1)エの事実は否認し,主張は争う。
  被告は,Fを従業員として採用したことはなく,当該訴訟提起を受けた当時多
忙であったため訴訟との関わりを断つためにFに送金したものにすぎず,Fの
主張を認めたわけではない。
  Fの社会保険申込みに関する主張については,Bが被告代表者の妻で被告
監査役であるGに懇願して同人から白紙の社会保険手続用紙に被告の横判
及び丸印をもらいこれをFに手渡したもので,要するにFがBを道具として利用
し不正な手段でFの社会保険手続を関与者全員の共謀により遂行したものに
すぎず,ここに被告及び被告代表者の意思は何ら介在していない。
オ 同(1)オの事実は否認し,主張は争う。
  Bは,被告高崎支店の従業員ではないし,Cに雇われている者でもなく,独立
した個人請負業者であったところ,Cが請負契約締結に当たり,その下請業者
としてCの仕事を補助していたにすぎない。
(2) 商人間の取引においてその信用の基礎となるのは商業登記簿の記載である
ところ,被告の商業登記簿には高崎支店の記載は全く存在せず,原告が被告高
崎支店の存在を誤信したことはその過失に基づくものである。特に,原告は建築
設計や建築確認申請などに関する専門家であって,被告に高崎支店が存在す
るか否かについて登記簿による確認を怠ったことは重大な過失というべく,被告
に対して名板貸しの責任を主張することはできない。
  しかも,原告は,被告に対し,本件訴訟に至るまで,取引及び契約に関する問
合せをしたことが全くなく,代金請求についても事前照会の形跡がない。また,
前記求人広告や得意先台帳によれば,原告主張の被告高崎支店が単なる営業
所にすぎず,不適当な称号を用いた極めて信用性の乏しいものであることが明
らかである。そして,原告は,当該営業主体に調査の手を伸ばし,ひいては,本
社と思われる場所を訪ねるなど厳格な検討を加えるべきであったところ,原告は
そのような調査等を全くしていない。要するに,原告は,本件各契約にかかる請
求に関し,被害の発生を予防する努力を全くしておらず,いわゆる外観保護理論
によっても保護に値しない。
(原告の反論)
(1) (被告の主張)(1)冒頭部分の主張は争う。同(1)アないしオに対する認否は次
のとおりである。
ア 同(1)アの事実は否認し,主張は争う。
  被告が被告支店を騙って商業活動をする者に対してその勝手を許し,事情す
ら知ろうとしないことは,重大な過失である。他方,原告がCが田園新都市設
計の代表者であることを知らないことは,原告の過失になるものではない。
イ 同(1)イの事実は否認し,主張は争う。
  原告は,群馬県土木部建築課建築指導係において事前に被告高崎支店が
一級建築士事務所として登録されていることや被告代表者(代表取締役)の
役名,氏名などを確認している。
ウ 同(1)ウの事実は否認し,主張は争う。
  被告はBの被告への出入りを禁じていたと述べるが,Bは事実上出入りをし
ており,結果として,同人においてGに頼みごとをしたり,被告所有物を持ち出
すなどした。原告は,Bによるこれらの行為により本件各契約を被告との取引
であると誤認し,損害を被っており,被告は名板貸しの責任を負う。
エ 同(1)エの事実は否認し,主張は争う。
  被告は,BがGに頼み込んで白紙の社会保険手続用紙に被告の横判及び会
社印を押させたなどと主張するが,この事実はむしろ名板貸しの事実を根拠
づけるものである。そして,被告がFは被告の従業員であることを否定するの
であれば,Gによる上記押印行為自体及び被告による同行為の看過行為自
体が被告に重大な過失があることを裏付けるものである。
オ 同(1)オの事実は否認し,主張は争う。
(2) 同(2)について
ア 同(2)前段の主張は争う。
  商業登記簿における支店(支店区)は一般の支店,支社,営業所とは意味が
異なり,金融機関は別として一般事業会社では,ほとんど登記はなされておら
ず,また登記がなされていなくても違法ではない。したがって,原告は被告の
登記簿に支店が登記されているとは考えなかったし,原告が登記簿を確認し
なかったことに過失はない。
イ 同(2)後段の主張は争う。
  原告は,群馬県土木部建築課建築指導係において事前に被告高崎支店の
存在確認をしており,また被告へのファックス送信及び内容証明郵便により本
件代金請求を行っている。原告は,被告の役名及び氏名の記載をしっかり確
認したからこそ取引相手を被告の高崎支店と確信した。なお,被告高崎支店
の廃業届が群馬県土木部建築課から被告のもとに到達したにもかかわらず,
被告が関係官庁に対して何ら対応しなかったが,このことは被告から上記廃
業届出があったことをうかがわせる。
第4 当裁判所の判断
1 前記前提となる事実に加えて,甲第1,第2号証の各1,2,第3号証の1ないし8,
第4号証の1ないし6,第5号証の1ないし7,第6号証の1ないし10,第7号証の
1,2,第8号証の1ないし4,第9号証の1ないし7,第10ないし第27号証,第29
号証,第30号証の1ないし5,乙第1ないし第7号証,第8号証の1ないし3,第10
ないし12号証,証人F,同B,同Gの各証言,原告,被告代表者各本人尋問の結
果及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 被告代表者は,昭和48年鋼製建具の製作,施工業を開業し,昭和54年4月
(登記簿上は同年5月9日)有限会社(被告)に組織替えした。被告は,当初は群
馬県前橋市g町h丁目i番地を本店としていたが,昭和61年4月肩書地に移転,
平成4年8月27日に株式会社組織に変更された。
  被告は,商業登記簿上は,「建築,土木一式工事の請負並びに設計,施工,監
理」,「建築用金属製品の製造,加工及び販売」,「建具の製造,販売及び取付
工事業」,「前各号に附帯する一切の事業」を目的としているが,実際には外壁
化粧パネルの製造を行っている。
(2) B(被告代表者の長男)は,高等学校を卒業後被告に勤務し,平成5年6月29
日には被告代表者,Hらとともに被告取締役に重任され(登記は同年7月8日),
被告のパンフレット(甲第23号証)には,Bは被告の専務取締役として記載され
ている。
  しかし,Bは,勤務態度や素行が悪かったため,被告代表者と折り合いが悪くな
り,平成6年10月ころからは被告に出勤せず,被告の取締役を同年12月9日に
辞任している。
  なお,Bは,その後の平成7年12月ころ当時の同棲相手に傷害を負わせたか
どで強制捜査を受け処罰を受けたことがあったが,その際も被告代表者は面会
や援助等を一切行っておらず,本件各契約の時点ころまでは後記(3)を除いては
Bとの交流は全くなかった。
(3) ところで,Bは,平成10年ころC(田園新都市設計代表者)と知り合い,Cが建
築の仕事をすることを知って,Cの下請として工事を請け負って稼働することを
思い立ち,Cと一緒に,同年5月ないし同年6月ころ,被告代表者のもとに赴き,
被告の名を使用させてほしい旨要請した。しかし,被告代表者は,上記(2)のよう
なBの生活態度から名前を貸せば何らかの迷惑をかけられるものと考え,上記
要請を断った。これに対し,Bらは取引先との金銭関係や連絡等が被告に入ら
ないようにするから名前を貸してほしい旨食い下がったが,被告代表者はこれに
応じず,C及びBも被告代表者の許諾を得て被告の名を使用することは断念し
た。
(4) そこで,C及びBは,被告の名をその関係者には無断で使用して受注を得るこ
ととし,付随事情も含め,具体的には以下アからオに記載のような行動を取った
(Bは,Cが請け負った建築の仕事について下請としてさらに受注するべく,Cと
ともに仕事の現場に赴いて作業を手伝うなどしていたが,結局,Cから報酬を受
けるに至らず,未払の報酬が累積したことから,平成12年6月ころ以降Cとは連
絡を取らなくなり,同年7月ないし同年8月ころからは1人で取付屋の仕事を手伝
うようになった。)。
ア C及びBは,平成10年ころから平成12年3月ころまでの間,群馬県高崎市a
町b番地c所在の建物(以下「高崎店舗」という。)を事務所として使用し,同店
舗の窓ガラスに,「株式会社トミザワ」と書かれたカッティングシートが貼付さ
れていたが,同店舗の前には「株式会社コスモ」の看板が立てられており,ま
た,被告の商業登記簿には高崎店舗の記載はなく,逆に田園新都市設計(代
表取締役C)の商業登記簿には同社の支店として高崎店舗の住所地が記載
されている。
イ Bは,被告専務取締役の肩書入り名刺を100枚程印刷し,30枚程配布した
が,配布先は,仕事関係の者もあれば,仕事関係外の者もあり,原告も交付
を受けた。なお,Cは,被告高崎支店支店長の肩書入り名刺を使用していた。
ウ 被告高崎支店は,平成11年1月8日,被告支店として,群馬県知事(前橋土
木事務所長)に対し一級建築士事務所として登録されていた(群馬県知事登
録第3397号)が,平成12年7月3日群馬県知事に対し被告名義の廃業届
(同年6月5日付廃業)が提出されている。因に,上記一級建築士事務所の登
録申請については会社の印鑑証明書類の提出義務はなく(現に「被告高崎支
店」の登録についてもその提出はない。),また,上記一級建築士事務所の登
録証は紛失しており廃業届に添付されていない。そして,同廃業届に捺印さ
れた会社印は本件記録に現れている被告の真正な印鑑のいずれとも異なっ
ている。
エ Bは,平成10年ころ,被告から前記のパンフレット(甲第23号証)を持ち出し
て高崎店舗に常備し,顧客などにこれを見せたり,手渡すなどしていたが,同
パンフレットには,前記認定のとおり被告専務取締役としてBの名が記載され
ている。
  なお,同パンフレットの作成時期について,Bは平成9年ころと供述し,被告
代表者は平成4年以降とは思うが分からない旨供述する。同パンフレットには
平成4年に被告が株式会社組織に変更された旨の記載があり,また,そこに
記載された被告の電話番号の市外局番は3けたであるところ,平成8年3月7
日付捜査報告書(乙第1号証)記載のBの住所地の電話番号の市外局番が
同じ群馬県前橋市内であるのに4けたになっている(なお,群馬県前橋市の現
在の市外局番が3けたであることは当裁判所に顕著な事実である。)ことから
すれば,同パンフレットは平成8年3月7日より後に作成されたものと認められ
るので,同パンフレットは上記Bの供述どおり平成9年ころ作成されたものと認
められる。
オ C及びBには,平成10年ころから平成12年ころまでの間,「高崎店舗」(事務
所)などにおいて以下の行動(活動)が見られた。
(ア) Bは,被告から被告の社名入りの封筒(甲第25,第26号証)を持ち出
し,高崎店舗においてこれを使用していた。
(イ) Cは,平成11年1月24日ころから同年12月5日ころまでの間,5回にわ
たり,「求人ジャーナル高崎版」に,「高崎店舗」に株式会社トミザワの支店
ないし営業所を開設したので従業員を募集している旨の広告を掲載させ
た。
(ウ) Bは,Cとともに,同人が請け負った工事の現場打合せの際などに,被
告の会社名入りのトラックを持ち出し使用していた。
(エ) 原告は,Cに対し本件各契約にかかる図面の納品をしたが,その際,同
人より,同図面枠に被告本社の住所「群馬県前橋市d町e-f」,電話番号
「027-269-以下略」,ファクシミリ番号「027-269-以下略」を,ま
た,本件各契約の見積書表紙の上に「高崎支店」,下に「本社」と記入する
よう指示され,これに従ってその旨訂正した。
(オ) Bは,高崎店舗に常駐し,従業員らから「専務」と呼ばれていた。
(カ) 証人Bの証言中には,同人が高崎店舗において仕事をする際には顧客
に対し被告とは営業主体が異なることを説明していたとの部分があるが,B
が上記のような行為に及びながらかかる説明を行うことは考えられず,上
記証言部分は採用できない。
(5) ところで,Fは平成11年6月1日から高崎店舗において稼働するようになった
が,Bは,Fの社会保険申請について被告の記名押印が必要になり,Gに対し書
類への記名押印を依頼したところ,同人は,いったんこれを断ったが,Bが強く頼
み込んだことから,これを承諾し,書類に記名押印したものであるところ,上記F
の社会保険についてはF自身が社会保険料を負担していたことから,Fにおい
て,平成12年8月4日,被告に対し,自分が負担した社会保険料相当額の支払
を求める少額訴訟(前橋簡易裁判所平成12年(少コ)第21号事件)を提起し,結
局,被告は,同月28日,Fに上記社会保険料相当額金20万1004円を振り込
んで支払い,Fと和解が成立している。
(6) 原告は,平成11年8月ころ,高崎店舗が「求人ジャーナル」に被告高崎支店と
して求人広告を掲載しているのを見て,高崎店舗から設計の仕事を得るべくCと
初めて会い,上記(4)の名刺とパンフレットを見せられるなどし,間もなく,Cと取
引をするようになったが,取引開始に当たり,前橋土木事務所に対して被告高崎
支店が一級建築士事務所として登録されていることを確認するとともに,同年9
月ころ,被告肩書地に被告社屋があることを現認した。もっとも,その際,原告
は,被告社屋内に入ったり,被告代表者に直接会うなどのことはしなかった。
(7) 原告は,平成11年12月ころ,高崎店舗から建築設計図面及び見積書の作成
を依頼されて納品し,被告高崎支店宛に少なくとも合計5件の仕事について合
計70万2450円の支払を求め,内61万円について平成12年2月までに支払を
受けたが,その際の領収証は被告高崎支店宛とされている。
(8) 原告は,本件各契約にかかる設計図面の作成業務等について,主にCからの
注文により,前記のとおり納品し,各代金につき各支払期日を定めて請求した
が,Bも本件各契約について次のとおり関与している。
ア 本件第1契約について,原告は,①平成11年12月21日(契約締結日)現地
寸法を行い,②平成12年1月7日平面図を納品したが,Bは,①(現地寸法)
に際し,その作業を手伝い,②(納品)の後に原告と連絡を取り,同月24日,
納品にかかる改装図面に問題がある(保健所)として改装前平面図の作成を
依頼した。
イ 本件第2契約について,原告は,平成12年1月11日(契約締結日)Bから同
契約関連の設計図面等作成の依頼を受け,同日,現場調査を行い,次いで,
Bの指示に基づいて設計図面を作成し,同月17日これを提出したが,Cから
方針変更を伝えられ,設計図面を再度作成して,同月21日に納品した。
(9) 原告は,本件各契約にかかる報酬金額(17万4090円と22万7850円)の支
払期日がいずれも平成12年3月10日となっていたが,同期日が徒過したことか
ら,同月13日C及びBに対してその支払を求めたが,施主の支払がなく支払え
ないとの回答があり,弁済を受けられなかったものであるところ,当時,両名は
既に高崎店舗から前橋市内に事務所を移転していた。
  その後も,原告は,Cに対し,上記報酬金の支払を求めたが,CはBへの請求を
要請するだけでこれに応じようとせず,そこで,今度は,Bに対し請求したところ,
別の仕事を受けてくれれば支払う旨の回答があったため,当該別の仕事を受け
ることとした。
  しかし,その後の同年4月25日ころ,原告がBと連絡を取ったところ,同人から
またも支払は後にしてほしいと言われたため,原告は上記別仕事はすべて辞め
ることとし,結局,Cらとの取引は本件各契約を最後に終了となった。
(10) 原告は,なおもC及びBに対し,上記報酬金の支払を求めようとしたが,両名
と連絡が取れなくなり,やむなく,被告に対し直接請求したものであるところ,被
告からも何らの回答もなく,結局,平成12年7月3日,本件請求にかかる支払督
促を前橋簡易裁判所に提起した(同支払督促は同月5日,被告に送達され
た。)。
  上記提訴に対し,被告代表者は,同月6日付けで,原告に仕事を依頼した覚え
はなく,請求されるいわれはない旨の督促異議申立書を前橋簡易裁判所に送付
し,同簡易裁判所が同月12日付けでこれを受け付け,本件訴訟となった。な
お,被告代表者は,同年8月2日,被告訴訟代理人に本件訴訟を委任した。
2 以上に認定の事実に基づき以下のとおり認定,判断する。
(1) 争点1(原告と被告間で本件各契約の締結がなされたといえるか-主位的請
求)について
  原告は,高崎店舗が被告高崎支店であり,原告は被告と取引をしたものである
旨主張する。しかし,被告が高崎店舗を被告の支店として設置したことは認めら
れない。また,被告は,C及びBに被告の名を使用することを禁じている。そし
て,被告の商業登記簿には被告高崎支店の記載はない。
  もっとも,平成10年から平成12年にかけて,高崎店舗所在地に「被告高崎支
店」が存在し,しかも,同支店は,一級建築士事務所として群馬県知事(前橋土
木事務所長)に対し届出され,登録もされている。しかし,他方,上記登録申請
には会社印の印鑑証明書類の提出義務はないところ,「被告高崎支店」につい
てもその提出はなく,上記登録申請にかかる登録証が紛失していて廃業届に添
付されておらず,同廃業届に押捺された会社印が本件記録に現れている被告の
真正な印鑑のいずれとも異なっている。かかる事実からすれば,上記一級建築
士事務所としての登録の事実のみをもって被告が高崎店舗を被告の支店として
設置し,あるいはこれを積極的に許諾したとまでいうことはできない。また,高崎
店舗の窓には「株式会社トミザワ」と書かれたカッティングシートが貼り付けられ
ていたが,他方,同店舗の前には「株式会社コスモ」と書かれた看板が立てられ
ていた。以上よりすれば,高崎店舗が被告の支店であったと認定することはでき
ないというべきである。
  したがって,原告の主位的請求は理由がない。
(2) 争点2(被告の名板貸責任の成否(有無)-予備的請求)について
  既に認定したとおり,原告は,本件各契約について被告高崎支店との取引とし
てこれを行っており,C及びBから報酬金の支払を受けられなくなると,今度は,
被告に対し支払請求をしており,かかる事情からすれば,本件各契約にかかる
報酬金が商法23条にいう「取引に因りて生じたる債務」であるということができ
る。そこで,①被告は,高崎店舗に対し被告の会社名を称することを許諾したか
否か,②営業主体の誤認の評価について以下検討する。
ア 名称許諾の有無
(ア) 上記(1)に述べたとおり,被告は,高崎店舗に対し,被告の支店として営
業を営むことを明示的に許諾し,あるいはこれを被告の支店として設けたと
するまでの事実は認められない。
(イ) しかし,上記認定によれば次の事実が認められ,これらの事実に照らす
と,被告は高崎店舗が被告の名を使用していることは十分知悉し得たもの
といえる。
a 「被告高崎支店」は,前記のとおり,当時,高崎店舗の所在地に存在し,
一級建築士事務所として群馬県知事(前橋土木事務所長)に対する届出
により登録されていた事実があり,また,高崎店舗の窓には「株式会社ト
ミザワ」と書かれたカッティングシートが貼付され,そして,高崎店舗には
被告のパンフレット,封筒などが備えられていた。
b 原告,高崎店舗間の取引においては,原告は,前記図面,見積書作成
に当たっては,いずれも被告本店所在地記載のある被告高崎支店名義
のものの作成を指示され,また,請求書及び領収証も被告高崎支店宛
のものを発行するように言われた。
c この間,C及びBは,被告の役員ないし従業員であるかのような名刺を
作成,配布し,さらに,平成11年1月から同年12月にかけて高崎店舗
が従業員を応募した際,被告の高崎営業所ないし高崎支店として広告を
出していた。
(ウ) そして,被告作成の上記パンフレットにはBが専務取締役として記載され
ているが,同パンフレットはその電話番号の記載等からみて平成9年ころ作
成されたものと認められるところ,平成12年ころまで,Bは高崎店舗にほぼ
常駐し,上記パンフレットや封筒,被告の社名入りのトラックを使用し,本件
各契約の経過の中においても上記のとおりBが現場で指示を行ったり,直
接取引の依頼を行ったりしていることからすれば,被告が,B,さらにはBと
行動を共にしていたCや高崎店舗の従業員らに対し,被告の名を使用する
ことを黙示的に許諾していたものということができる。
(エ) 他方,被告は,Bについては,当時被告社屋への立入が禁止されてお
り,また,被告代表者やGとも連絡を全く取っておらず,Bに対し被告の名を
使用することを許諾したとはいえない旨主張し,証人Gの証言及び被告代
表者本人尋問の結果中にもこれに沿う部分が存する。しかし,Bは,上記
のとおり被告からパンフレットや封筒,トラックを持ち出し,また,前記Fの社
会保険の件ではGに懇願して社会保険の書類に記名捺印させているなど,
被告との関わりが指摘されるところ,上記社会保険料関係の事件では,被
告代表者も特段争う意思を見せずFの請求にかかる金額を全額支払って
おり,上記各供述部分のみをもって上記判断を左右するに足りるものとは
いえない。
  なお,被告代表者本人尋問中にはFの社会保険料の事件当時は多忙であ
り第三者に対応を依頼したため本件とは異なる対応となったとの部分も存
するが,上記認定のとおり本件訴訟とFの社会保険料請求訴訟とはほぼ時
期を同じくして提起されており,その一方のみについて多忙を理由に第三
者に依頼し他方とは全く異なる対応をすることは不自然であり,かかる供述
部分は採用することができない。
イ 原告の重過失の有無
  商法23条にいう名板貸人の責任は,営業主体を誤認した者がその誤認につ
き過失があっても名板貸人は責任を免れることができず,ただ,その過失が
重大であるときは名板貸人はその責任を免れるものと解される。
  これを本件についてみるに,原告は,高崎店舗との取引を開始するにあた
り,一級建築士事務所の登録を確認し,また,被告社屋を見に行くことをして
いながら,被告の商業登記簿の確認をしなかったり,被告社屋に立ち入って
被告代表者に直接会うなどしなかったものであって,原告にも高崎店舗が被
告の支店であると誤認するにつき過失が全くなかったとはいえない。しかし,
上記(1)に記載のとおり,高崎店舗が「被告高崎支店」として一級建築士事務
所の登録がなされていたこと,前記パンフレットには,Bが専務取締役である
旨記載され,そして当該パンフレットが平成9年ころまで作成され,平成10年
ころまで配布できる状態で被告社屋に置いてあったこと,C及びBは,本件各
契約に至るまでは原告に対し,同人との取引にかかる代金を何とか支払って
いたことなどにかんがみると,原告の上記過失が重大なものであったとまでは
認められない。
ウ したがって,被告には,原告と高崎店舗との間の本件各契約につき,名板貸
人としての責任が生ずるものというべきである。そして,本件各契約にかかる
報酬金額は前記前提となる事実2のとおりであって,その合計額は原告が本
訴において請求する金額と同一である。
第5 結語
   よって,本訴主位的請求は理由がないからこれを棄却し,予備的請求は理由があ
るからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。
   前橋地方裁判所民事第2部
       裁判長裁判官  東 條   宏
           裁判官原   克 也
           裁判官鈴 木 雄 輔

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