弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中控訴人に関する部分を次のように変更する。
     控訴人は被控訴人に対し金九十三万六百二十六円及びこれに対する昭和
三十年十二月二十六日からその支払ずみまで年五分の金員並びに金二十一万八千六
十二円を支払え。
     被控訴人その余の請求を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。
 被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求め、なお当審にいた
り、請求を減縮して、「控訴人は被控訴人に対し金九十三万六百二十六円及びこれ
に対する昭和三十年十二月九日からその支払ずみまで年五分の金員並びに金二十二
万千六百三十四円を支払え。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は、次の事項を付け加える外、原判決の記載と同一で
あるから、これを引用する。
 一、 被控訴代理人は、次のように付け加えて述べた。
 (一) 被控訴人は控訴人に対し旧a村及びb町会計の亡失金弁償請求債権(元
本)金三百一万五千三百四十六円を有したところ、第一審判決後の昭和三十二年三
月八日、これより先控訴人が右債権の一部(金七十五万円)の担保のため同人所有
の宅地、建物について設定した抵当権の実行により、金五十五万千百二十五円の弁
済を受けた。これにより被控訴人が控訴人に対して有する債権は、金二百四十六万
四千二百二十一円となつたので、従来第一審において主張した金二百万円の請求を
拡張して(右請求は、原判決にも記載されているように、当時未だ実行されていな
かつた右抵当権設定の事実等を考慮に入れ、債権全額三百一万五千三百四十六円の
一部として請求したものである。)、右残額債権全部及びこれに対する本件訴状送
達の翌日である昭和三十年十二月九日からその支払ずみまで年五分の割合の損害金
の支払を求めることとしたが、その後更に被控訴人は昭和三十三年十月三十日控訴
人からこれら債務の弁済として金百五十三万三千五百九十五円の支払を受けたの
で、これを元本の支払に充当し、その結果被控訴人が控訴人に対し現在有する債権
は、元本残額九十三万六百二十六円及びこれに対する前記昭和三十年十二月九日か
らその支払ずみまで年五分の遅延損害金並びに弁済された元本百五十三万三千五百
九十五円に対する昭和三十年十二月九日から、昭和三十三年十月二十九日まで年五
分の遅延損害金二十二万千六百三十四円となつた。(なおこの外に、被控訴人は第
一審判決の仮執行により、金五十八万四千二百十三円を本件債権元利金のうちへ支
払われたが、これは仮執行の性質上本訴においては控除していない。)よつて第一
審において主張した請求額を、右現存債権の額に減縮する。
 (二) 被控訴人が控訴人に対し右金員の支払を請求する原因は、控訴人の不法
行為を原因とするものである。すなわち控訴人が旧a村の収入役又はb町支所の出
納員として、出納金の経理に際し、農調補助金、児童措置費、寄付金、平衡交付
金、保険料一部負担金、食費、預金利子等について、収入金を全然受入記帳せず、
若しくは金額過少に記帳し、又は支出金を過大に記帳し、以て差引き余剰分相当額
の公金を亡失して了つたものであつて、これら行為は控訴人の故意少くとも重大な
る過失、怠慢によつて生じたものに外ならない。
 仮りに控訴人が右亡失金について不法行為上の賠償責任を負わないとしても、控
訴人は旧a村の収入役、町支所の出納員として、法令の規定に基いて保管していた
公金を、職務上善良な管理者の注意を欠き亡失したもので、地方自治法第二百四十
四条の二により被控訴人に賠償しなければならないものでる。
 (三) 控訴人が当審にいたり付け加えて述べた事実は、これを否認する。
 ことに記帳漏れが損失を生ずるものではないとの主張に対し、本件においては、
旧a村及びb町の歳入簿、決算書等の帳簿上、平衡交付金、銀行預金利子その他
が、記帳脱落されたままの実際帳簿上における帳尻残高に対して、控訴人が退職
し、会計引継時における現金、預金等の実際不足額を引継現金の不足亡失金として
算定されたものであつて(この金額は百六万千五百九十二円である。)、もし問題
の平衡交付金や銀行預金利子が、正しく歳入簿等に記入されていたならば、引継現
金の不足は、それだけ増加したわけである。
 また旧a村及びb町の町村長、助役、監査委員、町村議会議員等が本件亡失金の
存在に気がつかなかつたとしても、これら監督、監査の立場にある人々は、監査的
責任を負うに過ぎず、村会計について第一次の直接の管理責任を負つているものは
収入役であるから、これらの人々が亡失金の存在を見落していたとしても、その過
失怠慢が論ぜられるのは別として、これによつて控訴人の過失がなかつたというこ
とにはならない。
 二、 控訴代理人は、次のようにつけ加えて述べた。
 (一) 控訴人が旧a村収入役として勤務中昭和二十三年四月から昭和二十九年
九月までの間に、同村公金二十万円を費消したことはこれを認めるが、これを超え
る金額については消費又は領得したことはない。たとい控訴人の在任中被控訴人主
張のような不足金ができたとしても、当時控訴人の部下で金銭出納の事務に従事し
ていた者が数名あるから、それらの人々による亡失を控訴人の行為によるものと断
ずることはできない。ことに昭和二十五年四月から昭和二十九年八月十日までの間
旧a村役場には、訴外Aが補助出納員として勤務したが、もし仮りに二十万円を超
す亡失金がありとすれば、それは同人の行為に基くものである。控訴人は右Aを、
犯罪者又は犯罪の虞れのある者として看視はしなかつたけれども、同人の執務につ
いて善良な管理者としての注意を怠らなかつた。すなわち前記二十万円を超える金
額の亡失については、控訴人は故意はもとより、過失による不法行為の責任に任ず
るものでもなければ、地方自治法第二百四十四条の二の責任を負うものでもない。
 しかのみならず、平衡交付金又は銀行預金利子の記帳漏れがあつたとしても、こ
れら金員が雲散霧消するものではなく、厳として取扱銀行に村の預金として存在し
ているものであるから、村有金員には消長がなく、損害を生ずる道理がない。
 更に旧a村及びb町も地方自治法第二百四十条に基き、監査委員が毎月出納の検
査をなし、その上年二回の臨時検査も行われたが、その監査においても亡失金のあ
ることは見出されず、また両町村の合併直前である昭和二十九年九月二十七日、二
十八日の旧a村村議会においても、昭和二十八年度の歳出、歳入の決算は承認され
ており、更に控訴人の上司であり監督者である村長、助役においても亡失金のある
ことに気付かなかつたほどであるから、控訴人に過失の責任はあり得ない。
 (二) 被控訴人は、本訴請求の原因として、地方自治法第二百四十四条の二の
規定による責任をも追及する旨主張するが、同条は不法行為の要件を具備しないに
もかかわらず、会計責任者に弁償責任を課する趣旨の法文であり、従来主張した不
法行為とは、その原因を異にし、許すべからざる訴の変更であるから、控訴人はこ
れに異議を主張する。
 仮りに右変更が許されるものであるとしても、二十万円を超える金額の亡失につ
いて、控訴人が責に任ずべからざることは、不法行為について述べたと同様であ
る。
 (三) 被控訴人は当審の最初にあたり、原審で主張して来た金二百万円及びこ
れに対する損害金の請求を拡張して、控訴人に対し金二百四十六万四千二百二十一
円及びこれに対する損害金の支払を求めたが、(被控訴人は、この部分について、
管轄権のない新潟地方裁判所高田支部に仮差押命令の申請をなし、同裁判所から仮
差押命令を得た。)この部分については第一審の審理を欠き、第三審の裁判を受け
得べき日本国民の憲法上の権利を失わしめるもので、許されるべきものではない。
 当事者双方の提出、援用した証拠及びこれに対する陳述は、次の事項の外、原判
決の記載と同一であるからこれを引用する。
 被控訴代理人は、新たに甲第十五号証から第二十四号証まで(第十九号証はその
一、二、三、第二十号証はその一、二に分れる。)を提出し、当審における証人
B、C、D、E、F、G、H、I、の各証言及び鑑定人Jの鑑定の結果を援用し、
控訴代理人が当審にいたり新たに提出した乙号各証のうち、乙第四号証及び乙第九
号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認めると述べた。控訴代理人
は、新たに乙第四号証から第十二号証まで(第十一号、第十二号証は、いずれもそ
の一、二、三に分れる。)を提出し、当審における証人C、D、E、F、G、H、
I、Kの各証言、鑑定人Jの鑑定並びに同人に対する請求の放棄がなされる以前に
おけるL及び控訴人本人の各尋問の結果を援用し、被控訴代理人が当審にいたり新
たに提出した甲号各証のうち、甲第十七号、第十八号証の成立は知らない。
 その余の甲号各証の成立を認める。なお被控訴人が原審で提出した甲第一号証を
援用すると述べた。
         理    由
 一、 控訴人が昭和二十一年八月から昭和二十九年九月末日まで新潟県西頸城郡
旧a村に収入役として在勤したこと。旧a村が昭和二十九年十月一日被控訴人b町
と合併し、被控訴人町が旧a村の権利義務一切を引継いだこと、控訴人は右合併後
も昭和三十年三月末日まで旧a村役場に設けられたb町役場支所出納員として、被
控訴人町の現金出納の事務を取り扱つたことは、当事者間に争がない。
 二、 原審及び当審証人B、原審証人M、Nの各証言並びにその成立に争のない
甲第一号証を総合すれば、被控訴人町は、前記のように昭和二十九年十月一日町村
合併により旧a村の権利義務一切を承継したが、同村の収入役であつた控訴人は、
昭和三十年三月にいたるも書面上の引継をしただけで、現金等実質の引継をしなか
つたので、被控訴人町町長は、同年五月二十三日監査委員に対し監査を依嘱調査せ
しめた結果、同年七月二十五日及び同年九月二十一日の報告により、控訴人が前記
村の収入役及び被控訴人町の支所出納員として現金出納の事務の取扱中、その法令
の規定に基いて保管する金員について次のような現金を亡失せしめたことが判明し
たことを認定することができる。
 右亡失金の内容は、次のとおりである。
 (一) 昭和三十年三月三十一日におけるb町a村支所の歳入歳出簿による現金
在高の亡失不足額
 前年度諸繰越金計              七、二六五、五一一円
 諸歳入計                 一六、七五三、三一三円
 総  計                 二四、〇一八、八二四円
 諸歳出総計                二二、一八七、七七一円
 差引現金在高(帳尻残高)          一、八三一、〇五三円
 実在現金(現金、預金、未処理受領書分等)計   七六九、四六一円
 再差引亡失不足額             一、〇六一、五九二円
 (二) 決算済の歳入歳出の亡失分
 旧a村分               二、四四四、一七九円
 b町分                    二〇、〇四二円
 亡失額計                 二、四六四、二二一円
 以上亡失額総計              三、五二五、八一三円
 右(二)の決算済の歳入歳出の亡失分は、農調補助金、児童措置費、寄付金、平
衡交付金、保険料一部負担金、食費、預金利子等出納金の経理に際し、収入金を全
然受入記帳せず、若しくは金額を過少に記帳し、又は支出金を過大に記帳し、以て
差引き余剰分相当額の公金を亡失させたものであるが、控訴代理人は、これら収入
金の記帳漏があつたとしても、これら金員が雲散霧消するものではなく、厳として
取扱銀行に村の預金として存在するものであるから村有金員には消長がなく、損害
を生ずる道理がないと主張する。しかしながら、右(一)で認定した亡失不足額
は、昭和三十年三月三十一日現在における現金、預金、未処理受領書等一切の現金
及びこれと同一視すべきものと、(二)の記帳漏のままの同日現在の歳入歳出帳簿
による帳尻残高との差引額によつて算定したもので、他に記帳漏の出納金が現金、
預金その他これと同一視すべきものとして存在することの全然認め得られない本件
においては、(二)の記帳漏等の合計金二百四十六万四千二百二十一円は、これが
正確に記帳されていたならば、それだけ(一)の前年度諸繰越金、従つて、差引現
金在高、(帳尻残高)は増殖し、当然同額の実在現金の差引不足額として表われる
べきものであるから、これらをそのままに亡失金として認定すべきは、多くいうを
またない。
 三、 よつて右現金の亡失が、収入役又は支所出納員として現金出納の事務を取
扱つた控訴人が善良な管理者の注意を怠つたのに基因するものであるかどうかを判
断するに、右亡失金のうち金二十万円を、控訴人が旧a村収入役として在職中みず
から費消したものであることは、控訴人の自認するところであり、更に前掲各証言
及び甲第一号証並びにその成立に争のない甲第十九号証の一、二、三、第二十号証
の一、二及び当裁判所が真正に成立したと認める甲第十七号証、甲第十八号証、当
審における控訴人本人尋問の結果を総合すれば、控訴人は、前にも一部認定したよ
うに、昭和二十九年度の平衡交付金百七十一万五千円が交付されたのにもかかわら
ず、これを同村の歳入簿に記載せず、銀行、農業協同組合等に対する預金の利子は
昭和二十三年度以降歳入簿へ記載せず、昭和二十七年度には給料の実際の支出十三
万円を三十万円として歳出簿に記載し、また昭和二十八年十月地方事務所による会
計監査に当つては、保管現金の不足を隠すため、その前日訴外株式会社第四銀行か
ら金五十万円を借り受けて、これを日計簿に記載せず、また同帳簿に訴外O農業協
同組合へ金百万円を返済した旨の虚偽の記載をする等の作為をしたことが認められ
る。これら事実を前掲各証言及び甲第一号証の記載と総合すれば、前記保管金の亡
失は、町村の現金出納事務を取り扱つた控訴人が善良な管理者の注意を怠つたのに
基因するものと認定せざるを得ない。
 控訴人はその自認する金二十万円の費消の外には、たといこれを超過する金額に
ついて亡失の事実があつたとしても、当時控訴人の部下で金銭出納の事務に従事し
た者が数名あり、ことに旧a村役場に補助出納員として勤務した訴外Aの行為に基
くものが多く、控訴人の全く関知しないところである。また控訴人は同人等の監督
について善良な管理者としての注意を怠らなかつたと主張するが、控訴人の自認す
る金二十万円を超ゆる金額の亡失が、Aその他部下の職員の行為に基くものである
との事実は、この点に関する控訴人本人尋問の結果は、当裁判所の容易に信用し得
ないところであり、他にこの事実を明認するに足りる証拠はなく、また、控訴人が
旧a村収入役として、その補助員であるAその他の職員の監督について、善良な管
理者の注意を怠らなかつた事実は、これを認めるに足りる証拠はない。
 控訴人は、また、旧a村におかれた監査委員は例月監査及び年二回の臨時監査を
行つていたが、その監査においても亡失金のあることが見出されず、旧a村村議会
は昭和二十八年度の歳出、歳入の決算の承認をなし、また控訴人の上司であり監督
者である村長、助役においても、亡失金の存在に気付かなかつたから、控訴人にも
善良な管理者の注意義務違背はないと主張するが、控訴人は収入役として法令の規
定に基いて保管した金品の亡失について第一次に直接の管理責任を負い、右監査委
員、助役、村長等は、それについて監督的責任を負担するに過ぎないものであるか
ら、たとい同人等において、亡失金の存在を発見し、または気付くことができなか
つたとしても、これがため控訴人に善良な管理者としての注意義務の違反がなかつ
たものとは解されない。いわんや控訴人が、保管金亡失の事実発見防止のため進ん
で各種の作為に出でたことは、前に認定するところであるから、よし前記監督者等
がこれに気付かず又村議会が歳出、歳入の決算の承認をしたとしても、これによつ
て控訴人の管理義務違背に何等の消長を来たすものではない。
 四、 当裁判所が本件に現われた証拠によつて認定し得たところは、以上のとお
りである。被控訴人は、右事実に基き、控訴人に対し、第一次的に民法上の不法行
為の責任を問うものであり、二において認定した保管金亡失の事実が、控訴人にお
いて自認する金二十万円の費消はもとより、その大部分が、すくなくとも控訴人の
過失によるものと認定すべきことは、三において判断したところである。しかしな
がら右二の認定にかかるところは、帳簿上存在すべき現金等と現実に存在した現金
等の差額とに基く、保管現金亡失の事実であつて、これを費消しまたは亡失せしめ
た行為自体について認定し得たところは、僅かにその一部に過ぎない。(前記二の
(二)において認定したところも、計数上の亡失を認定すべき根拠となる事実だけ
であつて、それ自体は控訴代理人が「記帳漏れがあつたとしても、村有金員には消
長を来たすものでない。」と主張したとおり、保管金員の費消または亡失の行為で
はない。)
 もとより、かかる場合、当然存在しなければならない現金を亡失せしめた事実そ
れ自体を一の行為とみて、<要旨>それについて不法行為の成否を判断することも、
全然考えられないことでもないであろうが、地方自治法第二百四十四条の二
は、法令の規定に基いて保管する現金等の亡失について特定の場合責任の免除を規
定する反面、各費消、亡失等の具体的な行為に立ち入ることなく、亡失の事実のみ
に基いて、善良な管理者の注意を怠つた収入役その他普通地方公共団体において金
銭出納事務を管理する職員の損害賠償義務を規定しておるから、本件については、
該法条によつて控訴人の賠償責任を問う被控訴人の第二次的請求について、その当
否を判断するのが、より適切であると解せられる。
 控訴代理人は、被控訴人が本訴請求の原因を、従来民法上の不法行為としなが
ら、当審にいたり第二次的に地方自治法第二百四十四条の二に基くものであるとす
るのは、許すべからざる訴の変更であると主張するが、両者はその請求の基礎を全
然同一にし、これがため訴訟手続を何等遅延せしめるものでないばかりでなく、本
件記録によれば、被控訴人は本訴において当初から地方自治法第二百四十四条の二
所定の事実を主張、立証して来ており、ただ当審において、その法律上の構成の釈
明に対して、第一次的に不法行為を原因とするものとし、第二次的に前記地方自治
法の規定によるものであることを明らかにしたものに過ぎないことが明瞭であるか
ら、控訴人の右主張は到底採用するに足りない。
 五、 よつて地方自治法第二百四十四条の二の請求としてその当否を判断する
に、控訴人が旧a村収入役及びa町支所出納員として勤務中、善良な管理者の注意
を怠り、法令に基いて保管する現金を亡失したこと、並びに被控訴人町町長が、監
査委員に対し監査を依嘱し、その報告により、本件現金亡失の事実が判明したこと
は、先に二、三において認定したところであり、また被控訴人町町長が右監査委員
の報告に基き昭和三十年十月十四日控訴人に対し、右亡失金額の賠償を命じたこと
は当事者間に争がなく、その成立に争のない甲第十四号証によれば、右賠償の命令
には、控訴人はこれを同年十二月二十五日限り被控訴人町へ賠償すべき旨を命じて
いるものであることを認めることができる。
 次で、控訴人が被控訴人に賠償すべき金額について判断するに、亡失額の総計が
金三百五十二万五千八百十三円であることも、先に二において認定したところであ
るが、被控訴人の自認するところによれば、被控訴人は、その後右元本のうちへ
 (イ) 本訴提起前控訴人の退職金等により        五一〇、四七六円
 (ロ) 昭和三十二年三月八日抵当権の実行により     五五一、一二五円
 (ハ) 昭和三十三年十月三十日弁済として      一、五三三、五九五円
 の弁済配当を受けているから、これを控除し、現在元本としてその残額九十三万
穴百二十六円及び亡失金全額について前記賠償命令に定められた期限の翌日である
昭和三十年十二月二十六日以降年五分の遅延損害金を支払う義務があるものといわ
なければならない。被控訴人は、右遅延損害金の起算日を控訴人に対し本件訴状が
送達された日の翌日である昭和三十年十二月九日としているが、控訴人は本件亡失
金の賠償債務については、賠償命令に定められた期限の到来により初めて遅滞に陥
るものと解するを相当とする。してみれば被控訴人の本訴請求は、前記残額九十三
万六百二十六円及びこれに対する右昭和三十年十二月二十六日以降支払ずみまでの
年五分の割合による損害金並びに(ハ)の弁済にかかる百五十三万三千五百九十五
円に対する右昭和三十年十二月二十六日から弁済がなされた昭和三十三年十月二十
九日までの年五分の割合による損害金二十一万八千六十二円の支払いを求める限度
においてその理由があり、その余は失当として棄却を免れないものといわなければ
ならない。
 控訴代理人は、被控訴人が当審において、(ロ)の抵当権実行の結果賠償金額を
確定せしめて、従来の金二百万円及びこれに対する損害金の請求を、金二百四十六
万四千二百二十一円及びこれに対す損害金の請求を拡張したのを不当であると主張
するが、右はその請求の基礎に何等の変更もなく、これを禁ずる理由がないばかり
でなく、被控訴人は、その後(ハ)の弁済により、請求金額を、当初請求したより
更に減縮したものであるから、控訴人の右の主張は、一層理由を失つたものであ
る。
 最後に控訴代理人は、本件亡失事件については糸魚川警察署において刑事事件と
して捜査の結果、所轄新潟地方検察庁糸魚川支部に事件を送致し、現に同庁におい
て取調中のものであるから、地方自治法施行令第百七十二条の二の趣旨よりみる
も、刑事事件の結着までは、被控訴人は控訴人に対し賠償を請求し得ないと主張す
るが、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は所轄糸魚川警察署及
び同検察庁支部において本件保管金亡失の事件について取調を受けたことはある
が、刑事上の訴追を受けたことはないことが認められ、右地方自治法施行令の規定
は、刑事訴訟の提起がなされた場合について規定し、単に警察署又は検察庁におけ
る被疑取調を含まないものと解すべきであるから、右控訴人の主張もこれを採用し
ない。
 以上の理由により、原判決主文の記載をその限度において変更し、控訴費用の負
担について民事控訴法第九十六条、第九十二条但書を適用して主文のとおり判決し
た。
 (裁判長判事 内出護文 判事 原増司 判事 入山実)

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