弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 申立
 一 控訴人(附帯被控訴人、単に「控訴人」という。)
 控訴代理人は、控訴事件につき「原判決を取消す。被控訴人の主位的請求を棄却
する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯
控訴事件につき「本件附帯控訴にかかる被控訴人の予備的請求を棄却する。」との
判決を求めた。
 二 被控訴人(附帯控訴人、単に「被控訴人」という。)
 被控訴代理人は、控訴事件につき主文同旨の判決を求め、附帯控訴事件につき、
所有権移転登記手続請求が認容されない場合、予備的に、「控訴人は被控訴人に対
し、別紙物件目録記載の各土地につき、神戸地方法務局三木出張所昭和四四年一〇
月一日受付第七〇二三号共有者全員持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟
費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 第二 主張
 一 被控訴人
 1 主位的請求原因
 (一) 別紙物件目録記載の各土地(以下、本件土地という。)はもとA1(不
動産登記簿上はA2)の所有に属していた。
 (二) 被控訴人は昭和一九年ころ本件土地をA1から買受けてその所有権を取
得した。本件土地買受けに至る経緯は次のとおりである。
 被控訴人国(旧陸軍省)は昭和一八年ころ陸軍中部軍経理部所管において兵庫県
美嚢郡旧a村(現三木市)、加美郡旧b村(現c町)、加古郡旧d村(現加古川
市)の三か村にまたがる約二〇〇〇筆、約二〇〇万平方米の土地に陸軍三木飛行場
(以下、本件飛行場という。)の設置を計画し、中部軍経理部は同年秋ころから翌
一九年初めころまでの間に本件飛行場用地を確定し(以下、本件飛行場用地とい
う。)、そのころ中部軍経理部将校らが右用地の属する村役場を訪れて関係村長ら
に右用地の買収についての協力を要請するとともに、適宜の場所に関係地主を集め
て本件飛行場用地内の土地を陸軍に売渡すように要請した。また、中部軍経理部は
本件飛行場用地の買収事務を地元各村に委嘱し、それに要する事務費用を交付して
いたが、右地元各村長及び村役場吏員は軍の要請を受けて関係地主に対して本件飛
行場用地内の土地を軍に売渡すよう説得した。その結果昭和一九年二月ごろには中
部軍経理部は本件飛行場用地の全土地所有者らから右用地内のすべての土地につき
売渡の承諾を得たうえ、関係村役場の用地買収事務担当者らと緊密な連絡のもとに
更に個別的に買収の事務手続を進めた。本件土地が所在する旧a村においては、中
部軍経理部の指示のもとに同村助役を中心とする役場職員が、各関係部落代表の買
収委員の助力を得て、被買収土地及びその地上物件、毛上等すべてを個別的に測
量、調査し、各人別の買収土地各筆調書及び要補償物件の調書を作成し、これに基
づいて買収代金額が決定され、中部軍経理部は同村内に所在する買収土地の各被買
収者から右代金受領の代理権を授与された同村長に対し同年一一月五日ころ買収代
金を一括して支払い、これを受領した同村長は同年一一月、一二月中に各被買収者
に買収土地代金等を支払つた。なお、右支払に際し書類に要補正箇所のあつたため
支払が留保されていたものについても同二〇年四月下旬ころまでに右と同様の方法
で支払が行われた。他の二村についてもこれと同様の方法で買収及び代金の支払が
行われた。以上のような経過で、本件飛行場用地は昭和一九年二月ころすべて被控
訴人が旧土地所有者から買取りその所有権を取得し、その後代金の支払も完了して
いるものである。中部軍経理部は同年二月以降本件飛行場用地内に散在していた民
家等の除却移転をし、多数の勤労奉仕隊を動員するなどして鋭意滑走路の敷設及び
格納庫、兵舎等建物施設の建設を進め、同年秋ころには一応飛行機が発着できる程
度に概成し、同時に旧陸軍第一航空師団が駐屯し、以後併行して工事を続行しなが
ら、昭和二〇年八月終戦に至るまで陸軍飛行場として使用していた。
 本件土地は本件飛行場用地内に所在していたから、前記のような経過で、被控訴
人が旧所有者A1から昭和一九年二月ころ買受け、本件土地及び地上物件の買収代
金は同年一一月ころ被控訴人の買収機関である中部軍経理部からA1より代金受領
の代理権を授与された旧a村村長に支払われ、同村長から同人に対し同年一二月
四、五日ころ右代金合計八二五〇円が支払われた。当審証人B1は、「右受領金員
は借地料か何かはかの名目でもらつたということです。」と証言するが、被控訴人
が本件土地を借り受けたものでないことは、その後金員(賃料)の継続支払がない
ことからも明らかである。
 なお、以上のとおり被控訴人は本件土地のほか周辺土地一帯を本件飛行場用地と
して旧地主から買収したのであるが、右買収に伴う所有権移転登記の事務手続を地
元各村に委嘱していたところ、各村ごとに事務手続の方式や能力に差があり、その
結果、買収した本件飛行場用地のうち、旧d村地内の土地全部と旧b村地内の土地
の約八割五分については終戦までに被控訴人に対する所有権移転登記がされたが、
本件土地を含む旧a村地内の土地の全部と旧b村地内の土地の一割五分については
買収時が終戦直前のことでもあり、また旧a村の事務担当者が入隊したことなどの
ため、所有権移転登記未了のまま終戦となつた。終戦後本件土地は旧軍用財産とし
て一括して大蔵省に引き継がれ、さらに開拓用地として農林省へ所管換えされ、昭
和二四年から同三六年にかけて開拓用地として分割したうえ自作農創設特別措置法
又は農地法により入植者又は地元増反者に売渡され(農業用水路等共用部分にあて
る土地は除外)、以後売渡を受けた入植開拓者らが当該土地を開墾したうえ耕作占
有して現在に至つているが、被控訴人は農林省所管財産となつた後も被買収者らに
対し所有権移転登記手続を求めた結果、旧b村地内の買収土地の被買収者全員と、
旧a村地内の買収土地の被買収者の大部分は登記手続を承諾し、現在そのほとんど
のものについて所有権移転登記を了しているが、本件土地については登記未了のま
まとなつている。
 (三) 本件土地の前記買収当時における所有者はA1であつたが、その後別紙
「登記一覧表」記載のとおり順次所有権移転登記が経由され、現在の所有名義人は
控訴人である。しかし、右各所有権移転登記は、B1の相続を原因とする所有権移
転登記を除き、すべて所有権移転の実体を伴わないものであるから、無効の登記で
ある。なお、不動産登記簿上において控訴人に対し本件土地の共有部分を譲渡した
旨の記載があるC1は当審において証人として証言したが、同証人は控訴人を全く
知らない旨、本件土地を売渡した相手方は控訴人ではなく、神戸市e区f町g丁目
に居住するD1である旨証言しており、控訴人がC1から本件土地の共有持分を買
受けたことを証する証拠はない。このような場合には、控訴人が不動産登記簿上本
件土地の所有名義人となつていても、本件土地の所有者であるとの推定はもはや働
かないといわなければならない。
 (四) 仮に、控訴人主張のとおり本件土地につき売買契約が順次締結されたと
しても、最初にB1とE1又はF1が本件土地の売買契約を締結したという昭和四
四年一月一七日当時から現在に至るまで、本件土地は農地として耕作の目的に供さ
れていたものであるから、控訴人主張の右各売買についてそれぞれ農地法所定の県
知事の許可がなければ所有権移転の効力が生じないところ、いずれの売買について
も県知事の許可がないから、控訴人主張の売買は結局所有権移転の効力の生じない
無効のものであるといわなければならない。
 すなわち、昭和二一年ころ兵庫県知事は食糧増産を図るため本件飛行場用地への
入植者及び増反者(開拓地の近傍において現に耕作を行つている者で、農業経営改
善のため同地内で耕作地の拡張を図る者)を募り、これらの者をして同地区内にお
いて開墾に者手させていたところ、同地区全部が国の緊急開拓事業地区に指定され
ることになつたのに伴い、さきに陸軍省から大蔵省に引継がれた同地区内の土地全
部が昭和二三年農林省に所管換えとなるとともに、改めて国営代行地区(国営事業
を知事が代行して行う事業地区)として兵庫県知事が本件飛行場用地全域について
開拓の基本となる地区開拓計画を樹立し、右計画に従つて同地区内の土地を、従来
の区画にとらわれることなく、効率的な農業生産に適するよう全体で約一五〇〇余
の整然とした区画に分割し、それぞれの区画を入植者又は増反者に割当てて開墾さ
せ、自作農特別措置法又は農地法により順次当該土地をこれら入植開墾者に売渡し
た。右計画に基づき、右入植開墾者らがそれぞれ売渡された土地について肥培管理
に適するよう土壌改良その他いわゆる開墾を行い、他方、国費を投入して同地区内
の農業用道路、水路、溜池等の新設、改良工事を施行し、昭和三八年ころ同地区全
域の開拓事業が完成し、全部農地化された。
 本件土地は右のような経過で開墾された土地であるため、従前の境界標識は全く
なくなつており、本件土地の範囲を現地において厳密に特定することは極めて困難
な状況にあるが、現地の実測図面に公図を重ね合わせて本件土地の位置及び範囲を
推定すると甲第一一〇号証中赤線で囲んだ部分となる。そして、昭和三八年ごろか
ら右土地の大部分は直接耕作の用に供せられている土地(農地)であり、一部は農
業用倉庫が建てられている敷地部分とそのほかごくわずかであるが道路にかかつて
いる部分があるが、農業用倉庫は直接耕作の用に供せられる土地(農地)と一体と
して使用されているものであるし、道路は農道として開設されたものであり、農業
用施設として使用されたものであるから、本件土地は昭和三八年ごろから全体とし
て農地法にいう農地であつたといわなければならない。
 (五) 仮に、控訴人主張のとおり本件土地所有権が順次移転されたとしても、
控訴人は被控訴人に対し登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意
着である。右事実は次の諸事情より明らかである。
 前記の経過により本件飛行場用地内の土地を被控訴人に売渡した旧地主文はその
相続人のうち被控訴人に対し所有権移転登記を了していなかつた者が、右売渡しず
みにもかかわらず登記名義が残存しているのを奇貨としてこれを他に売渡すという
事件が多数発生したが(以下、「転売」という。)、この転売事件の特徴は、一つ
は関西電力が本件飛行場用地(開拓地)内に送電用鉄塔を敷設したところと軌を一
にして集団的一斉転売が行われたこと、二つは転売が旧地主I1とこれに密接して
いる土地ブローカーと本件土地の旧地主A1の相続人B1を中心とする旧地主グル
ープによつて行われたことである。I1は、旧a村の本件飛行場用地内に居住して
いたが本件飛行場建設に伴い地区外に立退いたもので、前記本件飛行場用地買収当
時相野部落の区長役を勤め右買収に協力し、終戦後は旧a村農地委員、農業委員に
長年にわたり就任しており地元では知名人であり、本件土地の中間取得者C1とも
知り合いであり、本件飛行場用地の旧地主への返還についてS1弁護士とともに兵
庫県へ陳情に行くなど積極的に国や県の施策に反対的行動をとつていたものであ
り、右各転売において現地で土地の位置、範囲が不明であるにもかかわらず現地の
案内役を自ら買つて出て転売を拡大し、G1、H1、本件土地の中間登記名義人E
1の夫であるE2などとグループをなして地元ブローカーとともに策動している人
物であるが、昭和四〇年ころ関西電力がこの山村の一開拓地に送電線用の鉄塔敷地
を買収する計画を進めていることを聞知し、前記買収に伴う所有権移転登記が未了
で旧地主名義に止まつていることを奇貨とし、同種の仲間と相謀り、戦後二〇年間
入植者や増反者が鋭意努力を重ね苦心して開墾してきた土地に対する鉄塔用地買収
代金及び線下補償金を取得しようと企てた。
 そして、G1はI1らと相謀り旧地主J1のもと所有地で鉄塔敷地となる土地を
自己名義に所有権移転登記したうえ、関西電力に対し構築物撤去の請求をし(神戸
地方裁判所昭和四九年(ワ)第九七一号事件として裁判所にも係属)、本件土地の
相続人B1は線下補償金目当てに関西電力に対し本件土地は旧軍に買収されていな
い旨主張した。また、I1及びK1も関西電力に対し同様の請求をした。そして、
昭和四三年四月一八日にI1、G1、B1、K1の四名は兵庫県農政課へ抗議した
が、各自の要求が県に入れられる見込みがないと知るや、本件土地の相続人B1は
実弟B2、同B3(いずれも父A1の相続人)及び親戚のL1(L2相続人)、M
1、M2(M3相続人)を仲間に引き入れ、同年四月二五日県知事宛に土地返還要
求書(甲第二七号証の二、三)を送付するとともに、三木市内の土地ブローカーと
相謀つて一斉に転売を開始した。このことは昭和四四年二月一四日付読売新聞以降
新聞紙上で社会問題にまで発展したが、本件土地近辺の不動産取引業界内において
はこのような特殊な売買に関する情報は業者間に直ちに流布され、「これはものに
なる」と判断した者、旧地主、転得者の相互で二次、三次の売買が行われた。
 本件土地の相続人B1は、本件土地の登記名義が旧地主父A1(昭和四二年六月
一七日死亡)となつていることからとりあえず相続による所有権移転登記をして自
己名義とし、次に第三者にその所有名義を移転すれば、その第三者はその所有権を
民法一七七条の規定により先に所有権を取得している被控訴人や入植開拓者らに対
抗できると考えたことは、B1の作成した甲第一〇七条の一、二によつて明らかで
ある。また、旧地主A1は地元の国民学校の教諭や校長をしていた人物であり、被
控訴人が本件飛行場用地を旧地主から買収した際も、終戦後これを分割して入植者
及び増反者に売渡した際も、これに積極的に協力しており、勿論当然にその間の経
緯を知悉していたものであり、父A1と同居していたB1も買収、売渡しの事実を
知つていたはずである。しかるに、B1は入植者らに対する売渡後二〇年近く経過
した後、突如として入植者R1及び同P5に対し同人らが占有耕作している土地は
自分の所有する本件土地である旨主張したが同人らがその返還要求に応じる可能性
がないとみるや、転売グループのI1らと通謀して本件土地を転売したのである。
 次に、不動産登記簿上本件土地の所有名義はB1からE1へ、E1からF1へと
順次移転されている。しかし、E1の夫E2は当審証人として、「妻E1に所有権
移転登記されていますが、これは名義だけをF1に貸与したものであつて妻が買つ
たのではありません。」「相野の区長をしていた人でN1という人だつたと思いま
すが、その人が助役のところへ来て市の公務員がこの土地を買うのは怪しからんと
言つたので、私が助役から注意を受け、私は自分の土地ではないので直ぐに返した
わけです。私はその時に初めて係争地だということを知つたのです。」と証言して
いるが、E2は三木市農林課長をしたこともあり、土地家屋調査士の資格を有する
人物であつて、本件飛行場用地が戦争中軍に買収され、終戦後入植者らに売渡され
開墾されて現に農耕されていることを熟知していた。またF1は当審証人として、
「買わないかと言われて、私はN1という司法書士とE2さんとに相談し、一緒に
現場を見に行きました。当時その土地は畑になつていて一面大根畑でした。」「E
2さんは私が買う時この現場を一緒に見に行つて貰つたしいろいろ話をしているの
で、この土地の売買の経緯はよく知つています。」と証言する一方、本件土地附近
は市の中心部から遠く離れた僻地で周辺には開拓農地と入植者の住宅が点在するだ
けの人口過疎地であつて、幼稚園、託児所を設置するような場所ではないにもかか
わらず、「私としては幼稚園か託児所の敷地として市へ寄附しようと考えていまし
た。」と証言している。以上の諸事実、特に名義貸し、事実に反する証言内容、各
証言間の齟齬、本件土地が現に農地として耕作されていることが明らかであるにも
かかわらず簡単に売買している事実に照らして考えると、E1及びF1はいわゆる
背信的悪意者であることは明らかである。
 次に、不動産登記簿上本件土地の所有名義はF1からC1、同C2両名に移転さ
れている。この点について、F1は当審証人として、「その土地はE1さんから私
の名義に換え、H1さんのところへ行つて市役所の方から買つて貰つては困ると言
われたので、この土地を元の所有者に返してくれと言つて売買代金を返して貰いま
した。」と証言しているが、他方、C1は「F1が本件土地を売る事情は、入院し
てお金が要るからというようなことだつたと記憶しています。」と証言しており、
両証言は全く喰い違つている。F1の右証言を真実とするならば、同人からC1、
同C2への所有権移転登記はそもそも実体を伴わない無効なものといわなければな
らないし、仮にC1の証言か真実としても、C1、C2夫妻はいずれも本件土地が
入植者らに売渡され開墾された農地であり問題の土地であることを十分知りなが
ら、売渡を受けた入植者らがいまだその所有権移転登記を得ていないことを奇貨と
して、本件土地を買受けた背信的悪意者である。このことは、一連の転売事件であ
る神戸地方裁判所昭和四九年(ワ)第四九〇号、同第五〇四号、同第五一四号事件
において、C1はI1、O1らと関係し、中間取得者又は最終名義人となつている
ことからも十分に窺われるところである。
 次に、不動産登記簿上本件土地の所有名義はC1、同C2から控訴人に移転され
ている。前記のとおり控訴人が本件土地所有権を取得した事実は認め難いが、仮に
控訴人が転得者と本件土地の売買契約を締結したとしても、前記のとおり本件土地
は旧陸軍が飛行場用地として使用するため高低を地ならしし、そのうえ終戦後は開
拓地として従前の土地区画とは全く無関係に新たな区画割りをし、開拓者が各自そ
の割当地を開墾した後耕作しているものであつて、現実には本件土地と他の土地と
の境界は不明であり、これを現地で特定することは困難となつている。この点につ
いて、控訴人代表者は当審本人尋問において、「本件土地を見に行つた時は久保田
弁護士と一緒に行きました。その時の本件土地の状態は畑でした。……境界ははつ
きりわかりませんでした。だいたいこの辺だろうと見当をつけて見たわけです。」
と供述している。また、控訴人への所有権移転登記は昭和四四年一〇月一日受付で
なされているが、これより先の同年二月一四日から同年九月六日にかけて本件飛行
場用地の所有権をめぐつて紛争が生じていることを各種新聞が大々的に報道してい
たのである。常識にしたがえば、およそこのような土地を買うことは危険である。
それにもかかわらずあえて売買契約をしたとするならば、そのこと自体、控訴人が
登記の欠缺を主張し得ない背信的悪意者であることを示しているものといわなけれ
ばならない。
 (六) 被控訴人は控訴人に対し本件土地について所有権移転登記請求権を有す
る。その理由は以下に詳述するとおりである。なお、本件土地についての所有権の
実体的権利変動と登記名義の流れを説明に必要な限度で単純化すると次のとおりで
あるから、以下便宜上この符号を用いることとする。
 甲(旧所有者)→乙(被控訴人)→丙(被売渡人)
       →A(二重買受人)→B(現在の登記名義人である控訴人)
 いわゆる登記請求権の問題は、すぐれて理論的な問題であると同時に、現実に生
起した具体的事案に即していわばケースバイケースに論じられなければならないと
いう面をもつている。したがつて、仮に本件と同種事案について乙のBに対する移
転登記請求権の有無を論じた判例、学説がないとしても、それは決して乙のBに対
する移転請求権が否定されるべきことを意味するものではない。本件登記請求権の
問題はあくまでも本件事案に即して考えられなければならない。
 (1) まず、本件土地を含む本件飛行場用地の土地の状況をみると、同地区内
の土地は、昭和一九年ころ被控訴人(旧陸軍省)が早急に飛行場を建設するために
合計約三〇〇〇人の所有者から買受けた現在の三木市(旧a村)、加古郡稲美町
(旧b村)及び加古川市(旧d村)にまたがる丘陵地約二〇〇〇筆、約二〇〇万平
方メートルである。右買収当時の同地域の状況は、山林、原野、田、畑、溜池、宅
地など各種の地目のほか、里道、水路など土地台帳に記載のない土地も数多く混在
していた。被控訴人(旧陸軍)は高低十数メートルにも及ぶ起伏のあつたこれら丘
陵地を平坦な土地に整地し、同年秋ごろまでには一応滑走路と兵舎等の付帯施設を
造り、昭和二〇年の終戦時まで実際に飛行場として使用していた。このようにし
て、本件土地を含め買収された本件飛行場用地は飛行場建設のための整地工事によ
り、その筆界はもとより村界、字界さえも不明となつてしまつた。そして終戦後の
食糧難に対処するため本件飛行場用地に対し入植開拓が開始され、昭和二三年開拓
用地として大蔵省から農林省に所管換えされるとともに本件飛行場用地全体が緊急
開拓事業地区の国営代行地区(国営事業を知事が代行して行う地区)に指定される
に及んで本格的な開拓事業が実施に移され、開墾、営農に必要な幹線道路、水路、
溜池等主要な設備が昭和二五年から三八年にかけて全額国庫負担で建設された。そ
れと併行して、開墾して農地とすべき土地については、昭和二四年から三三年にか
けて自創法四一条又は農地法六一条により入植者四〇名と地元増反者三二一名合計
三六一名に対し、新たに区画した一五六二筆、約一九五万二七〇一平方メートルの
売渡処分がされ(その詳細は別紙「売渡土地状況」のとおり。)、昭和三八年ころ
までにはほぼ所期の開拓計画どおり農地等が造成された。右農地等の新たな土地区
画は、飛行場用地として買収された旧土地の地番、地形等を考慮することなく、そ
れとは全く断絶した形においてされ、新たに道路、水路、溜池が造成され、他方従
前あつた里道、水路の所在も全く不明となつてしまつた。以上のとおり、飛行場建
設のための整地と開拓用地割当のための新区画の設定という、二度にわたつての全
面的、かつ、大規模な形質の変更を経て、いまや従前の土地の相互の位置や境界は
全く不明の状態となつてしまい、本件飛行場用地は一体の土地として合筆されたに
等しい状態になつている。それはあたかも耕地整理事業を完了した後のような状態
である。ただ、耕地整理事業の場合には、従前地の実測が行われ、換地との位置関
係も明らかであるうえ、従前地と換地とは法律的には同一土地とみなされているの
に対し、本件飛行場用地の場合には不動産登記簿上の土地と開拓計画によつて造成
された区画とはその位置関係が不明であり、法的にも換地のような関連性は全くな
い。
 (2) 本件飛行場用地の開拓者への売渡は、自創法四一条又は農地法六一条に
基づく国有未墾地の売渡としてなされたが、この売渡はその対象となる土地の従前
の地番、地積、地目には関係なく、全く新たな区画を定めて行われた。この売渡対
象土地は開拓の用に供されるべきものとして開拓財産に組入れられた未墾地である
ため、既成の農地のようにそのままの状態で右から左へ売渡すことはできず、売渡
す地区全体を白紙の状態でみて開拓の基本方針を踏まえたうえで、必要な道路、水
路等の基本設備の位置と規模をまず決定し、その余の耕作対象土地につき全く新た
な区画をし、それを売渡す必要があつた。通常の私法的手法であれば、新区画土地
について売渡登記をするためには、それに該当する従前地を分合筆して新区画土地
の地番、地積を作ることになるが、本件においては、従前地が里道、水路等に該当
している場合があつたり、字界を異にしている場合があつたりして分合筆できない
こともあつたし、そもそもそのような煩雑な登記手続を経なければならないとなる
と、莫大な時間と労力を要し極めて実情に合わないことになる。他方、自創法又は
農地法による買収、売渡は通常の私法行為による物権変動とは異なり、行政処分に
よる物権変動であり、買収処分による所有権取得は原始取得でもあるので、本件飛
行場用地の開拓者への売渡の場合のように従前の土地の形態が全く変更されるよう
な場合には、売渡のために区画変更された新土地については、保存登記をするのが
実態に合致すると考えられる。そこてこのような場合には、当該区域の土地全部に
ついて一旦土地の登記を抹消して登記簿を閉鎖し、新たに右区画変更後の土地につ
いて所有権の保存登記をするという登記手続が定められている。すなわち、自作農
創設特別措置登記令(以下、「自創法登記令」という。)一四条一項は、「都道府
県知事は、必要があると認めたときは、自作農創設特別措置法(中略)第四一条の
規定により売り渡すべき土地で政府の所有権の登記のあるものの登記用紙の閉鎖を
申し出ることができる。」と規定し、同条二項は、「前項の申出があつたときは登
記官吏は当該登記用紙を閉鎖しなければならない。」と定め、農地法による不動産
登記に関する政令(以下、「農地法登記令」という。)一四条も同様に、「都道府
県知事は、登記簿の表題部に国が所有者として記載されている土地又は国の所有権
の登記のある土地につき、第一条第三号(売渡による所有権移転の登記)に規定す
る売渡又は譲与をするため必要があるときは、その土地の登記のまつ消を嘱託する
ことができる。但し、その土地の登記用紙に所有権の登記以外の権利に関する登記
があるときは、この限りでない。前項の登記の嘱託があつたときは、登記官は、土
地の表示を朱まつし、農地法による不動産登記に関する政令第一四条第一項の規定
による嘱託により土地の登記をまつ消する旨を記載し、その登記用紙を閉鎖しなけ
ればならない。」と規定している。都道府県知事は、右規定に則つて売渡地区内の
全土地について登記用紙の閉鎖を申出てこれを未登記の土地とした後、別途作成の
土地配分計画の図面に基づき新区画による新地番設定のための筆割、現地における
杭打ち、各筆ごとの実測等を行つて確定測量図を作成して各筆ごとの地積を確定
し、これを登記所に送付して見込地番を決定し、入植者等に対する売渡通知書には
この見込地番をもつて土地の表示とし、そして売渡した土地の登記は、直接、都道
府県知事が被売渡人のために所有権保存登記を嘱託することによつて行われるとい
う適切な手続が制定されている。
 以上のとおり本件飛行場用地の旧字界、土地の範囲、道路、水路の位置等はほと
んど不明となり、開拓計画に基づく新区画に相当する部分の従前地の位置、範囲を
特定することは著しく困難となり社会的に不能となつたものというべきであるか
ら、自創法登記令一四条ないし農地法登記令一四条の要件に該当するものであり、
本件飛行場用地の売渡登記手続は同条の手続によらざるをえなくなつている。そし
て、同条による登記手続の必要性を県知事が認定し同手続によつて売渡登記手続を
行う方法を選択した場合においては、当該開拓地(本件飛行場用地)区内の土地の
売渡処分による所有権取得登記は、右登記手続の特質上、同手続によつて画一的に
処理されなければならないから、この場合には開拓地の売渡を受けた入植開拓者ら
が個別に旧土地所有者又はその転得者に対し当該土地部分に相当する従前地につき
所有権移転登記を求めることは認められないことになる。したがつて、被控訴人は
同条による売渡登記手続をすることの一環として本件飛行場用地内の全土地につい
て登記簿の閉鎖をする必要があり、この点において、被控訴人はBに対し直接所有
権移転登記を求めることができなければならない。
 (3) 乙が国として時代の要請に応じて本件飛行場用地を新区画に区分のうえ
丙に売渡し、未墾地の開拓という国家的事業を推進し、形式的手続的な面はさて措
いても、ともかく食糧の確保等の現実的効果の実現を優先させざるをえなかつたこ
と、そしてそのような措置が当時の国民一般から歓迎されていたことは明らかであ
る。そして、このような政策遂行の協力者として未墾地の開拓事業に従事してきた
丙に対して、乙(被控訴人)は、法律上はもとより道義的にも、一刻も早く丙が所
有している本件土地につきその登記名義を取得させるべき義務を負つていることは
いうまでもない。しかも、この義務は私法上の一般の売買契約における売主の義務
とは異なり、責任行政機関として、未墾地開拓という国家の政策の遂行実現に必然
的に伴う公法的義務とも称すべきものである。そして、前記(2)のとおり、本件
土地について一旦乙の所有名義を取得しなければ丙の所有名義を現出させることが
できない関係にある。
 ところで、乙が一旦所有名義を取得する方法としてまず考えられるのは、B、A
に対して各移転登記の抹消を求め、甲に対し乙への移転登記を求めることであろ
う。しかし、本件においてこの方法をとることは事実上極めて困難というほかない
し、また、後に述べる不動産登記制度の理念にもとるというべきである。
 一方、丙の立場はどのようなものと考えるべきか。丙は本件土地の所有権を現に
有するものであるから、登記請求権に関する通常の考え方からすれば、所有権に基
づき登記名義人であるBに対して抹消に代わる移転登記請求を行うことが可能とい
うことになろう。しかし、前記のとおりの特殊事情のある本件においては、丙をし
て右の請求をさせることは実際上不可能を強いるものというべきであるし、また未
墾地売渡について自創法又は農地法が予定している登記方法の点からみても疑問が
ある。けだし、丙が所有する土地とBが登記名義を有する土地の地番とは全く切断
された関係にあるから、丙が右登記請求を行うにはまず自己の所有地が登記簿上の
どの部分にあるかを厳密に特定しなければならないが、これは観念的に可能であつ
ても現実には不可能というほかないし、また、自創法又は農地法(これに基づく各
登記令)は売渡未墾地の被売渡人への登記については、被売渡人の請求の有無に関
係なく都道府県知事(国)が被売渡人のため一方的にこれを行うべき法律上の義務
を負うものとして定めていると解されるからである。
 以上自創法登記令(農地法登記令)による登記手続の特殊性と本件土地の実情に
鑑みて、被控訴人は国としての公法的義務を速やかに履行すべき必要不可欠の前提
として、現登記名義人たるBに対し直接所有権移転登記を求めることができなけれ
ばならない。
 (4) 一般に、登記請求権としては、「1」物権的請求権に基づくもののほ
か、「2」登記制度に由来するもの、換言すれば、不動産登記法の制度的要請によ
つて当然に生ずるものが認められていることは周知のとおりであり、かかる登記制
度に由来する登記請求権がどのような場合にどのような態様のものとして認められ
るかは、登記の客体に対する関係者相互間の実体的権利関係を基礎として、登記制
度の理念、目的に照らして定められるべきである。そして、実体的権利変動におけ
るいわゆる中間者の立場にある者であつても、その者に現在の登記名義人に対する
直接の移転登記請求権を認めるのでなければ、登記制度の理念、目的を実現するこ
とが困難であると認められるような特段の事情がある場合には、例外的に直接の移
転登記請求が認められると解すべきである。
 これを本件についてみると、まず、乙のBに対する直接の所有権移転登記請求を
認めるのでなければ現在の実体的所有権者丙の登記名義を現出させることができな
いことは前記のとおりである。この意味において、乙は丙の後見的立場にあり、か
つ、丙に準ずる立場にある。
 一方、A、Bは農地である本件土地の譲受について農地法所定の県知事の許可を
得ていないからその所有権を取得したとはいえないし、また、A、Bは乙に対する
関係において乙の所有権移転登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的
悪意の第三者に該当するから乙がBから所有権移転登記を受けるについて何ら権利
を害される関係にないし、甲は本件土地の売主として当然乙に所有権移転登記をし
なければならない立場にあるから、乙のBに対する移転登記請求権を認めることに
ついて、本件土地をめぐるA、B、甲ら利害関係人の意思を配慮すべき必要性は全
くない。
 丙自ら登記請求権を行使することができないことは前述したとおりであるが、乙
は国であるから、乙がいつたん登記名義を取得してもそれは専ら丙の登記名義を現
出させるためのものであつて丙以外の者への二重譲渡等はあり得ないから、丙は乙
が登記名義を取得することによつてこそ保護されるという立場にある。
 不動産登記簿上においても、乙に登記名義が移転されれば、登記用紙は閉鎖さ
れ、全く新たに丙に対する保存登記がされるから、乙が本件土地所有権を取得した
権利変動の過程が登記簿上に如実に示される必要性はない。
 以上の次第であるから、本件はまさに中間者である乙に現在の登記名義人Bに対
する直接の移転登記請求を認めるのでなければ、登記制度の理念、目的を実現する
ことが困難であると認められる特段の事情がある場合に当るというべきであり、乙
はBに対し本件土地についての移転登記請求権を有するといわなければならない。
 (七) よつて、被控訴人は控訴人に対し本件土地につき所有権移転登記手続を
求める。
 2 予備的請求原因
 (一) 被控訴人は昭和一九年ころ本件土地を旧地主A1から買取つた。しか
し、A1は昭和四二年六月一七日死亡したから、被控訴人は本件土地につき右売買
を原因とする所有権移転登記請求権を同人の相続人らに対して有している。A1の
相続人の一人であるB1は本件土地について別紙登記一覧表記載(一)のとおり右
相続を原因として単独名義による所有権移転登記手続を経由したから、被控訴人は
同人に対し本件土地につき所有権移転請求権を有している。
 (二) その後、別紙登記一覧表記載(二)ないし(五)のとおり、B1からE
1へ、同人からF1へ、同人からC1、同C2両名へ、同両名から控訴人へ順次所
有権移転登記が経由された。
 しかし、B1から控訴人に至る右各所有権移転は、主位的請求原因(三)ないし
(五)において主張したとおり無効である。
 (三) したがつて、B1はE1及びF1に対し、F1はC1、同C2両名に対
し、同両名は控訴人に対しそれぞれその所有権移転登記の抹消登記請求権を有する
ことになるが、右各人がその抹消登記請求権を行使しないので、被控訴人はB1に
対する右所有権移転請求権を保全するため、B1から順次控訴人に至る右各所有権
移転登記抹消登記請求権につき民法四二三条所定の債権者代位権を順次行使して、
控訴人に対し別紙登記一覧表記載(五)の登記の抹消登記手続を求める。
 3 控訴人の抗弁に対する認否及び再抗弁
 (一) 抗弁事実中、各所有権移転登記があることは認めるが、その余の事実は
否認する。
 (二) 仮に控訴人主張のとおりの売買契約があつたとしても、農地である本件
土地の所有権移転について農地法所定の県知事の許可がないから、右売買契約によ
つて所有権移転の効力は生じないこと、及び控訴人及び中間取得者が被控訴人に対
し本件土地の登記の欠缺を主張できない背信的悪意者に該当することは、主位的請
求原因の(四)項及び(五)項で主張したとおりである。
 二 控訴人
 1 請求原因に対する認否
 (一) 本件土地がもとA1の所有であつたことは認める。
 (二) 本件土地が本件飛行場用地内に所在していることは認めるが、被控訴人
が昭和一九年ごろ本件土地をA1から買受けてその所有権を取得した事実は否認す
る。
 (三) 本件土地につき別紙登記一覧表記載のとおり順次所有権移転登記が経由
されていることは認める。右各登記が、B1の相続を原因とする登記を除き、所有
権移転の実体を伴わない無効の登記である旨の被控訴人の主張は争う。所有権移転
の事実は後記抗弁において主張するとおりである。
 (四) 本件土地が農地である事実は否認する。本件土地は山林であるから、所
有権移転について県知事の許可は必要でない。本件土地が農地であれば所有権移転
登記申請に際し県知事の許可証を添付しなければ登記できないはずであるのに、控
訴人名義に所有権移転登記されている事実は本件土地が農地でないことの何よりの
証拠である。
 (五) 控訴人が登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者に
該当することは争う。B1が本件土地を相続した時及び売却した時、E1ないしF
1が本件土地を買受けた時及び売却した時、C1、同C2が本件土地を買受けた時
及び売却した時、D1が本件土地を買受けた時及び売却した時、いずれも本件土地
が本件飛行場用地内に所在することを知つていたかどうか知らない。控訴人は本件
土地を買受けた時、本件土地が本件飛行場用地内に所在する事実は知らなかつた。
 2 抗弁
 本件土地は、次の経緯で順次所有権が移転され、別紙「登記一覧表」記載のとお
りそれぞれ所有権移転登記を経由して、控訴人の所有となつたものである。したが
つて、仮に被控訴人がA1から本件土地を買受けたとしても、被控訴人はその旨の
所有権移転登記を経由していないから控訴人に対しその所有権取得を対抗すること
ができない。
 (一) B1が昭和四二年六月一七日相続によりA1から所有権を取得した。
 (二) E1が昭和四四年一月一七日売買によりB1から所有権を取得した。仮
に右事実が認められないとすれば、F1が昭和四四年一月一七日売買によりB1か
ら所有権を取得した。
 (三) C1、C2の両名が昭和四四年八月一三日売買によりE1又はF1から
各二分の一の持分を取得した。
 (四) 控訴人が昭和四四年九月三〇日C1、C2の両名から代金三一五万円で
右持分全部を買受けて所有権を取得した。
 (五) 以上いずれの売買も、現地において指示して本件土地を特定したうえで
契約されたものである。
 第三証拠(省略)
         理    由
 一 本件土地がもとA1の所有に属していたこと、本件土地が本件飛行場用地内
に所在していること、本件土地につき別紙「登記一覧表」記載のとおり順次所有権
移転登記が経由されており、その最終名義人が控訴人であること及びB1が亡A1
の相続人であることは、いずれも当事者間に争いがない。
 二 成立に争いのない甲第一ないし第七二号証、第七五ないし第八〇号証、第八
三号証、第八九号証の一、二、第九一号証の三、五、九、第九四号証の一、第九九
号証の一の一ないし八五、第九九号証の六、原本の存在及び成立に争いのない甲第
九九号証の二、五、第一〇二号証の一、二、第一〇三号証の一、二、第一〇四ない
し第一〇六号証、第一二一号証、第一二四号証、前記甲第一二一号証により真正に
成立したものと認める同第八二号証の一ないし六、前記甲第一〇五号証により真正
に成立したものと認める同第八四号証、前記甲第一二号証により真正に成立したも
のと認める同第八五号証、第八七号証の一、右第八七号証の一により真正に成立し
たものと認める同号証の二ないし四、前記甲九一号証の三、五、九により真正に成
立したものと認める同号証の一、二、四、六、七、八、前記甲第九四号証の一によ
り真正に成立したものと認める同号証の二ないし四、前記甲第九九号証の五により
昭和一九年一一月ごろ本件飛行場用地内で撮影された写真と認める同号証の三、当
審証人P1、同P2、同P3、同P4、同P5の各証言を総合すれば、本件土地の
もとの所有者A1は、被控訴人(旧陸軍省、買収の出先機関は旧中部軍経理部)が
昭和一八年終りごろ本件土地を飛行場用地にするために被控訴人に売渡すように要
請をしたのに応じて、遅くとも本件飛行場用地全部が旧陸軍の占有下に収められた
昭和一九年五月ごろまでに、当時本件飛行場用地買収事務を委嘱されていた旧a村
を通じて被控訴人に対し、本件土地及びその地上物件を相当価格(時価)により被
控訴人に売渡すことを承諾する旨の意思表示をして被控訴人と本件土地の売買契約
を締結し、遅くとも同年一一月ごろまでに右売買代金を被控訴人から受領すること
についての代理権を旧a村村長に授与し、同村長は、同年一一月ごろ右売買代金合
計八二五〇円を被控訴人から代理受領し、同年一二月四、五日ころ右売買代金合計
八二五〇円をA1に交付したこと、しかしながら、戦時中の人手不足等のため本件
土地について被控訴人のために所有権移転登記手続がされないまま終戦を迎えたこ
と、被控訴人は昭和一九年中に本件土地を含む本件飛行場用地を買受けその占有を
取得するや、直ちに飛行場建設に着手し、終戦時には飛行場として使用しうる程度
に平坦に整地していたことを認めることができ、当審証人B1の証言中右認定に反
する部分はにわかに措信ずることができず、他に右認定を左右するに足りる証拠は
ない。
 三 その後本件土地につき別紙登記一覧表記載のとおりの所有権移転登記が経由
されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一〇〇、一〇一号証、
当審証人B1、同E2、同C1、同F1、同O1の各証言、当審における控訴人代
表者Q1本人尋問の結果を総合すれば、B1は本件土地につき昭和四二年六月一七
日相続を原因とする所有権移転登記を経由した後昭和四四年一月一七日ごろこれを
F1に売渡し、F1は同年八月一三日ころこれをC1及びC2に売渡し(持分各二
分の一)、C1及びC2は同年九月三〇日ごろ右持分各二分の一を控訴人に売渡し
たことを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 四 しかし、前掲甲第七七ないし第八〇号証、第一〇三号証の一、二、第一〇六
号証、第一二一号証、第一二四号証、成立に争いのない甲第一一四、一一五号証、
原本の存在及び成立に争いのない甲第一一六号証、弁論の全趣旨により真正に成立
したものと認める甲第一一〇号証、当審証人P4の証言により真正に成立したもの
と認める甲第一一一号証の一ないし一二、第一一二書証の一ないし一三、第一一三
号証の一ないし一二、昭和四〇年一二月二一日本件土地付近を撮影した航空写真で
あることにつき争いのない検甲第二号証、昭和五二年一〇月四日本件土地付近を撮
影した写真であることにつき争いのない検甲第三号証の一ないし四、当審証人P
4、同P6、同P5の各証言、当審証人F1の本件土地は昭和四四年三月当時一面
の大根畑であつた旨の供述並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地を含む本件
飛行場用地全域は昭和二三年開拓用地として農林省に所管換えされるとともに国の
緊急開拓事業地区に指定され、国を代行した兵庫県知事によつて約一五〇〇余の区
画整然とした耕作予定地及び道路等共用地に分割されたうえ、耕作予定地は開拓計
画に応募した入植開拓者らに自作農創設特別措置法又は農地法により売渡され、右
計画に基づき、右入植開拓者がそれぞれ売渡された土地について肥培管理に適する
よう土壤改良その他いわゆる開墾を行い、他方国費を投入して同地区内の農業用道
路、水路、溜池等の新設、改良工事を施行し、昭和三八年ごろ同地区全域の開拓事
業が完成し、全部農地化されたこと、本件土地は右開拓対象地域に含まれていると
ころ、その大部分は昭和二四年ごろP5及びR1に対し自作農創設特別措置法四一
条により開拓地として売渡され、同人らにおいて開墾し、農地法七一条所定の県知
事の検査にも合格したうえ耕作の用に供している土地(農地)及び農業用倉庫の敷
地であり、その一部分は高台となつている右農耕地と一体となつて右農耕地が下方
へ崩壊することを阻止する擁壁の役目をしている斜面並びに右開拓計画により農道
として開設された道路の敷地となつていることを認めることができ、当審証人B1
の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信ずることができず、他に
右認定を左右するに足りる証拠はない。
 右認定の事実によれば、本件土地は国の緊急開拓事業地区に包含され開拓の対象
とされたこと及びその地形、耕作状況等からいつて、前記B1から控訴人に至る各
売買のなされた当時より現在に至るまで全体として農地法にいう農地に該当するも
のと認めるのが相当である。そして、弁論の全趣旨によると、前記B1から控訴人
に至る本件土地の各売買について農地法所定の県知事の許可がないことは明らかで
あるから、右各売買はいずれも所有権移転の効力を生ずることができず、したがつ
て、控訴人は本件土地の所有権を取得していないものといわざるをえない。
 五 また、前項冒頭記載の各証拠、成立に争いのない甲第一〇〇、一〇一号証、
第一〇七号証の一、二、第一〇八号証の一ないし二八、第一一七号証の一ないし
四、原本の存在及び成立に争いのない甲第一二三号証、第一二五、一二六号証、当
審証人P5、一の証言により真正に成立したものと認める甲第二八号証の一ないし
三、当審証人B1、同E2、同F1、同O1、同P4、同P6及び同P5の各証言
並びに当審における控訴人代表者Q1本人尋問の結果を総合すれば、A1は本件土
地から僅か五〇〇メートル程しか離れていないところに居住していた地方の有力者
で、戦時中の前記本件飛行場用地買収に際しても、終戦後の開拓入植者募集に際し
ても協力的態度を保持し、特に開拓入植者募集の説明会には地元地区の役員亡して
説明者側に加わつていたが、昭和四二年六月一七日死亡したこと、B1はA1の長
男であり、昭和一九年当時には一八才位になつていて、父から国民の義務として国
に協力するために本件土地を陸軍の飛行場用地として被控訴人に売却し代金も受領
した旨を聞かされており、また、本件土地を含む本件飛行場用地が終戦後大規模な
開拓対象地とされて被控訴人から入植開拓者らに売渡され、昭和三八年ごろには全
部農地化されたことを見聞していたが、父の死亡後昭和四三年四月一八日I1、K
1、G1とともに兵庫県庁(農林部農政課)を訪れ、A1の本件飛行場用地内の所
有地は旧陸軍に買収されておらず、したがつて、現在の土地占有者(耕作者)が関
西電力の電柱敷設補償金を受領することは不当である旨抗議するとともに、右補償
金未払分を自分にも配分されるよう斡旋して欲しい旨を要求し、昭和四三年五月一
四日本件土地につき相続を原因として自己名義に所有権移転登記を経由し、つい
で、同年六月三日本件土地を占有耕作しているP5及びR1に対し同日付内容証明
郵便による書面(甲第一〇七号証の一、二)をもつて、旧陸軍飛行場跡の本件土地
は県が勝手に右両名に譲渡したものであり、右両名は本件土地につき所有権移転登
記を経由しておらず、民法一七七条の規定によりその所有権取得を主張できないか
ら本件土地を自分に返還するよう要求する旨を通告したが、右各要求とも実現の可
能性がないことを知るや、自分が本件土地の売主であるA1の相続人であつてその
買主である被控訴人に対し所有権移転登記手続をする義務を負つている立場にある
ことから、時を移さず本件土地を民法一七七条の第三者に該当すると考えたF1に
同条に基づく主張をさせる意図をもつて売渡したこと、右B1からF1への本件土
地売渡を斡旋仲介したのはI1とH1であるが、I1は本件飛行場用地内の土地は
全部国(旧陸軍省)が旧地主から買収し終戦後これを入植開拓者に売渡したもので
あることを知悉していたこと、F1は同様に右事実を知悉しながら、B1から本件
土地を買受けたのであるが、直接自己名義に所有権移転登記手続をせずに、正当な
理由なくE2に依頼して同人の妻E1名義を借用し同人名義で昭和四四年一月二〇
日売買に因る所有権移転登記を経由し、その後同年三月一日真正な登記名義の回復
を原因として自己に所有権移転登記手続をしたこと、E2は生後引続き三木市に居
住し、三木市農林課長(同課は本件土地を含む本件飛行場用地のうち未登記土地の
登記促進事務も担当していた。)及び農業委員会事務局長に就任したことがある人
物であり、本件土地が戦時中国(旧陸軍省)に買収され、終戦後入植開拓者らへ売
渡された事実を知つていたこと、昭和四四年一月末ごろI1、E2、F1、H1ら
がR1及びP5において現に占有耕作している農地内の本件土地の境界付近(ただ
し、そこには境界を示す目印になるようなものは全くない。)に木杭を打ち込み、
I1がP5に対しこの杭を打つて囲んだ範囲の土地をA1から登記上買つたので自
分の権利である旨全く一方的に言明したこと、F1は本件土地を買受けた際の斡旋
仲介人H1に対し、「市役所から買つてもらつては困るといわれたのでこの土地を
元の所有者に返して欲しい。」といつて本件土地の売買契約の合意解除を申出て同
人から本件土地の売買代金を返してもらつたのに、本件土地が右F1からC1及び
C2に売渡されていること、昭和四四年二月一四日読売新聞(神戸版)において、
三木開拓農協が三木市長に対し、旧陸軍が飛行場用地として買収し国が入植開拓者
らに払下げ同人らが開拓、耕作中の土地について国に対する所有権移転登記が遅れ
ているため入植開拓者らにおいて所有権移転登記が受けられず困つているのでそれ
ができるように助力して欲しい旨を記載した嘆願書を提出した事実を報道して以
来、各種新聞が右事実や旧地主が被控訴人に売渡したこの未登記土地を二重に他に
売却している事実及び旧地主又は旧地主からの買受人とさきに国から売渡を受けた
入植開拓者らとの間で所有権の存否をめぐつて紛争が生じている事実を度々大きく
報道したこと、このような新聞報道がされる以前から当時三木市近辺の不動産取引
業者らの間では右報道にかかる事実はすでに十分知れわたつていたのであるが、右
報道の結果益々広範囲で右事実が知れわたつたこと、P5が昭和四四年四月五日こ
ろ本件飛行場用地内の土地(農地)を見に来た外来者に対して、「この辺の土地は
県から入植者が譲受けて開拓した土地であるので売買できない土地であり、買つた
ら損をするぞ。」と注意したところ、そのうちの一人は、「おれらはどつちへ転ん
でも損はしない。間違つていたら旧地主から補償してもらうか、県に買つてもらう
かどちらかだ。とにかく登記ができるので買うのだ。」と答えたこと、C1は、昭
和二三年ごろから現三木市に居住して洋服商を営んでいる者、C2はその妻である
が、いずれも本件飛行場用地内の土地が終戦後所有者である国から入植開拓者らに
売渡され、その後入植開拓者らが苦労してこれを開墾して農地化し引続き占有耕作
している事実及び本件土地が本件飛行場用地の一部であることを知りながら、O1
の仲介により本件土地及び本件飛行場用地中他の登記手続未了地の一部を買受け、
さらに、同人の仲介により本件土地を控訴人に売却したこと、控訴人は不動産の賃
貸業等を営む株式会社であるが、その設立者で代表取締役であつたQ2は、新聞そ
の他により、本件土地が戦時中本件飛行場用地として近辺の土地と共に国に買収さ
れ、戦後入植開拓者らに開拓用地として売渡されたが、本件土地を含む本件飛行場
用地内の土地の一部につき右売買の登記がされていないことを知り、O1から本件
土地の買受方をすすめられるや、本件土地付近を見分して本件土地の現況が農地で
ありかつ売主に関係のない第三者がこれを占有耕作している事実を現認したのであ
るが、本件土地の登記簿上の地目が従前どおり山林となつているため所有権移転登
記を受けることができるのに乗じ、農地法に基づく県知事の許可を受け適法にその
所有権を取得して自己の占有下に収めることは到底困難であることを知悉しながら
本件土地を買受けたこと、本件飛行場用地は三木市(旧a村)、加古郡稲美町(旧
b村)及び加古川市(旧d村)にまたがる丘陵地約二〇〇万平方米であつて、その
中には山林、原野、田、畑、溜池、宅地などのほか里道、水路など土地台帳に記載
のない土地も多数混在し、また高低十数メートルに及ぶ起伏土地を飛行場用に平坦
な土地に整地したものを、終戦後従前の地目地番とは無関係に区画して入植開拓者
らに売渡したものであつて、本件土地の現状からは本件土地の従前の境界を認識す
ることが著しく困難な状態になつており(本件土地の西側はR1が、東側はP5が
占有耕作しており、その従前の境界の西側の線はR1の耕作する農地の中を、東側
の線はP5の耕作する農地の中を通つているが、そこにはなんらの目印もな
い。)、また、本件土地の現状は農地であり、売主と全く関係のない右両名がこれ
を占有耕作しているにもかかわらず、右F1、C1、C2、控訴人らは、いずれも
本件土地の境界について格別調査することなく、県知事に対する農地法所定の許可
申請もせず、また、本件土地の占有耕作者の離作(明渡)意思の有無について調査
することもなしに本件土地を買受けたことを認めることができる。
 当審証人B1、同E2、同F1、同O1及び同C1の各証言中右認定に反する部
分はにわかに措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 以上認定した事実からすれば、本件土地をB1から買受けたF1、その後者であ
るC1及びC2、さらにその後者である控訴人は、本件土地が本件飛行場用地に含
まれており、本件土地を含む本件飛行場用地は戦時中に国(旧陸軍省)が旧地主か
ら買収して飛行場とし、終戦後深刻な食料不足に対処するため入植開拓者らに売渡
し、入植開拓者らが苦労して開墾して農地化したうえ約二十年来占有耕作している
事実を熟知しながら、右国の買収及び入植開拓者らへの売渡が未登記のままとなつ
ているのを奇貨とし、本件土地の登記簿上の地目が従前どおり山林とされているの
に乗じ、先に売買に基づく所有権移転登記を経由してしまえば民法一七七条が適用
される結果国及び国から本件土地の売渡を受けた入植開拓者らに対し自己の所有権
取得を対抗することができ、その結果戦時中の国の買収及び終戦後の国から入植開
拓者らへの売渡を否定することが可能となり、最も有利にことがはこべば、国から
本件土地の売渡を受けて開墾したうえ占有耕作している入植開拓者らに対してその
明渡を求めることができ、さもなければ所有権移転登記未了という落度を理由にし
て国、県又は右入植開拓者らに不動産登記簿上の所有名義を高額で買取らせること
によつて利益を得ることができ、うまくいかないときでも少くとも売主から売買代
金の返還を受けることができるとの不当な目的のもとに、時価より著しく低い価額
で本件土地を買い受けたものであることを推認しうるのであつて、右事実によれ
ば、本件土地を買受けたF1以下の四名は、すべて不動産登記法四条、五条所定の
者に類するいわゆる背信的悪意者に該当し、民法第一七七条にいう第三者から除外
されるものと解するのが相当である。したがつて、被控訴人はA1からの本件土地
の所有権取得をその登記なくして控訴人に対抗することができるものといわなけれ
ばならない。
 <要旨>六 第二項及び第四項各冒頭掲記の証拠を総合すれば、被控訴人は昭和一
九年中に本件土地を含む本件飛行場用地をA1ほかの旧所有者から買収して
その所有権を取得したのであるが、右買収当時の本件飛行場用地には、山林、原
野、田、畑、溜池、宅地など各種の地目の土地のほか、里道、水路など土地台帳に
記載のない土地も数多く混在していたところ、その後高低差十数メートルにも及ぶ
起伏のあつたこれら丘陵地を平坦な飛行場敷地に整地し、飛行場としての使用に供
したが、終戦後深刻な食糧不足に対処するため本件飛行場用地を開拓事業地区と指
定し全く新たに道路、水路、溜池等の農業施設を建設し、耕作対象地を一五〇〇余
筆に新たに区画して別紙売渡土地状況記載のとおり入植開拓者らに売渡したもので
あるため、従前のこれら各土地の相互の位置や境界を正確に知ることは現在では著
しく困難であり、入植開拓者らに売渡した新区画の土地を買収した旧土地の表示に
従つて表示することは実際上不可能な状態に立ち至つていること、入植開拓者らに
売渡した土地には従来の民有地のほかもとの里道や水路も含まれていること、被控
訴人は入植開拓者らに対し自作農創設特別措置法又は農地法によつて売渡した本件
飛行場用地内の土地について売主として登記簿上の所有名義を取得させる義務があ
るが、その義務を履行するためには、以上のような土地の状態からいつて、買収に
かかる本件飛行場用地内の全土地について国のための所有権移転登記を経由したう
え、農地法による不動産登記に関する政令一四条に基づき、県知事が右全土地の登
記の抹消を嘱託して未登記の土地とし、その後に売渡を受けた入植開拓者らのため
に当該売渡土地について新地番をもつて所有権保存登記を嘱託する手続をふむ必要
があり、これが売渡を受けた入植開拓者らに登記簿上所有名義を取得させるための
現在における実際上可能な唯一の方法であること、本件土地の大部分の売渡を受け
たP5、R1はもとより、本件飛行場用地内の開拓用地の売渡を受けた入植開拓者
ら全員は、被控訴人が登記簿上右土地の所有名義を取得したうえ右政令一四条に基
づく登記手続を実施することにより早急に登記簿上の所有名義を取得できることを
切望しており、被控訴人の本訴請求はこれを実現させるためのものであることを認
めることができる。
 他方、本件土地につき不動産登記簿上旧所有者A1から後に権利者として登記さ
れている者は、B1、E1、F1、C1、C2及び控訴人の六名であるが、このう
ちB1は被控訴人に対する売主A1の相続人であるから被控訴人に対し前記売買に
基づく所有権移転登記義務を負担するものであり、E1はF1のために単に名義を
貸しただけのもので実質的利害関係を全く有しないものであり、F1、C1、C2
及び控訴人はいずれも本件土地の譲受について農地法所定の県知事の許可を得てい
ないからその所有権を取得しておらず、しかも被控訴人に対する関係で所有権移転
登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者であつて民法一七七条
にいう第三者から除外されるものであることは前記のとおりである。
 以上の事実関係のもとにおいては、被控訴人は、本件土地のうち大部分をすでに
P5及びR1に売渡しているけれども、右売渡による登記義務を履行するため本件
土地につき控訴人に対し被控訴人に直接所有権移転登記手続をすることを求めるこ
とができるものと解するのが相当である。
 七 よつて、控訴人に対し本件土地につき所有権移転登記手続を求める被控訴人
の本訴主位的請求は正当として認容すべく、これと結論を同じくする原判決は相当
であつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につ
き民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 露木靖郎 裁判官 庵前重和)
(別紙)
     物 件 目 録
 三木市a町h字ij番地
  一、山林 九六壱平方メートル
 同所k番地
  一、山林 参六五弐平方メートル
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付>
(別 紙)
<記載内容は末尾2添付>

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