弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人堀家嘉郎、同宗政美三、同石津廣司の上告理由について
 一 原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 (一) (1) 訴外D株式会社(以下「訴外会社」という。)は、大型及び中型ト
ラツクの販売会社であるが、本社、営業所として、広島市a区に一審判決添付別紙
目録記載の土地(合計三四〇四・五三平方メートル。以下「本件土地」という。)
及びその上に存する社屋、工場、作業場等の建物(昭和三八年一〇月建築。床面積
合計約二〇〇〇平方メートル。以下「本件建物」という。)を所有し、使用してい
た(空地部分はコンクリート舗装し、洗車場、車検場等の附属設備を設けていたほ
か、車輌置場として使用していた。)。(2) 被上告人は、小型乗用車及び大衆乗
用車の販売修理会社であるが、同市同区に一八〇〇平方メートル余の土地を所有し
ていた。(3) 被上告人は、昭和五四年九月一〇日訴外会社から本件土地建物を買
い受け、同年一二月二四日所有権移転登記を経由し、同月二五日その引渡しを受け
た。なお、そのころまでには、訴外会社名義の電話及び上水道の使用は停止されて
いた。(4) 本件土地建物について、被上告人は、本件建物の一部を改築して利用
する方法と本件建物を全面的に取り壊して建物を建て直す方法とを検討したが、最
終的に、昭和五五年一月一〇日ごろ、本件建物を全部収去し、本件土地の西側一三
〇〇平方メートル余の部分に事務所及びサービス工場を建築しその余の部分を中古
車展示場として使用する方針を決定した。(5) そこで、被上告人は、同年一月一
六日本件建物の解体工事に着手し、同年二月二〇日ごろこれを完了した。そして、
被上告人は、本件土地の東側約二〇〇〇平方メートルの部分をアスフアルト舗装し、
同年三月一〇日過ぎからとりあえず右部分で中古車センターを開業し、更に、同年
五月には本件土地の西側部分において営業所及び自動車修理工場(鉄骨造二階建建
物。建築面積七六八平方メートル。)の建築に着手し、同年九月二三日これを完成
させたうえ、同年一〇月一日ここにE営業所を開設した。
 (二) (1) 被上告人は、本件土地を買い受けたため、従前の所有土地と併せる
と、昭和五五年一月一日の基準日において広島市a区内に基準面積五〇〇〇平方メ
ートル以上の土地を有することとなり、その結果、特別土地保有税の免税点を超え
ることとなつた。(2) そこで、被上告人は、上告人に対し、昭和五五年五月三〇
日、地方税法(昭和五七年法律第一〇号による改正前のもの。以下「法」という。)
六〇三条の二第一項の特別土地保有税の納税義務の免除の認定を申請したが、上告
人は、同年八月一一日右認定をしない旨の決定(以下「本件否認処分」という。)
をし、その旨を被上告人に通知した。(3) なお、本件の場合、法六〇三条の二第
一項の認定をすることができるかどうかは本件土地の昭和五五年一月一日の現況に
よることとされている。
 二 原審は、右事実関係のもとにおいて、
 (一) 法六〇三条の二第五項、五八六条四項によれば、法六〇三条の二第一項一
号の認定をするかどうかは、建物等の構造、利用状況等が法施行令五四条の四七第
一項の基準に適合するかどうかによつて、基準日(本件の場合は、昭和五五年一月
一日)における外形的事実から客観的に決定されるべきである、(二) 本件建物が
法施行令五四条の四七第一項一号の基準に該当することは明らかである、(三) 同
項二号の基準については、当該土地に存する建物がそれまで継続的に利用されてい
たが、たまたま基準日において利用されていなかつたとしても、右の建物が外形上
将来にわたつて十分利用できるときは、原則として右の基準に該当するというべき
ところ、本件の場合、さきに認定したところによれば、本件建物は、(ア) 基準
日の時点では利用されていなかつたが、(イ) 恒久的な構造を有し、なお相当の
期間利用することができたこと、及び、(ウ) 被上告人が本件土地建物を取得す
るまでは、訴外会社によつて利用されていたことが明らかであり、(エ) 本件全
証拠によつても、基準日当時本件建物が利用されないことが外形的に明らかであつ
たことは窺えない(基準日当時、本件建物が取り壊されることが外形的に明らかで
あつたとはいえない。)から、同項二号の基準に該当すると解するのが相当である、
(四) 被上告人が本件土地について法六〇三条の二第一項の認定を受けるために必
要なその余の要件は具備されている、(五) そうすると、上告人は、被上告人の申
請について右の認定をすべきであつたのに、本件否認処分をしたのであるから、本
件否認処分は違法である、として第一審判決を取り消したうえ、本件否認処分を取
り消した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 法六〇三条の二第一項は、特別土地保有税の納税義務の免除の前提として、市町
村長が同項各号に掲げる土地のいずれかに該当する旨の認定をすることを必要とし
ているところ、同項一号は当該土地に存する建物等が「恒久的な利用に供される」
ものとして政令で定める基準に適合することを要件とし、法施行令五四条の四七第
一項一号は「その構造及び工法からみて仮設のものでないこと。」(以下「一号の
基準」という。)として、同項二号は「その利用が相当の期間にわたると認められ
ること。」(以下「二号の基準」という。)として、それぞれその基準を定めてい
る。また、法六〇三条の二第五項、五八六条四項は、右の認定が法五九九条一項の
規定により特別土地保有税を申告納付すべき日の属する年の一月一日(基準日)の
現況によるものとしている。
 しかして、市町村長が右の各号の基準に適合するかどうかを認定するにあたつて
は、基準日現在の事実(現況)に基づいてその認定を行うべきであるが、基準日の
前後における事実であつても、それが基準日現在の事実(現況)を推認させる補助
的な事実であれば、その限度でこれを斟酌することができるし、また、斟酌するこ
とを必要とする。とりわけ、二号の基準に適合するかどうかは、基準日現在の事実
(現況)のみではこれを判断することが困難であるから、この場合には、所有者の
利用意思、当該建物等の具体的な利用状況等基準日の前後における事実を総合的に
考慮して認定しなければならないというべきである。
 これを本件についてみると、被上告人が法六〇三条の二第一項一号の認定を受け
るためには、基準日(昭和五五年一月一日)において、本件建物が、仮設のもので
なく(一号の基準)、かつ、相当の期間利用されると認められる(二号の基準)こ
とが認定されなければならないところ、さきに判示したとおり、原審が二号の基準
に適合すると判断した前提として認定したところは、結局、前記二(三)(ア)本件
建物は基準日の時点では利用されておらず、同(エ)本件全証拠によつても、基準
日当時本件建物が利用されないことが外形的に明らかであつたことは窺えないとい
うにすぎない(原審が確定した前記二(三)(イ)の事実は、一号の基準に適合する
と認定するための事実とはなり得ても、二号の基準に適合すると認定するための事
実とはなり得ないし、同(ウ)の事実は、被上告人の前所有者に関する事実であつ
て、本件建物が基準日において二号の基準に適合するかどうかの判断についてはな
んらかかわりがないといわなければならない。)のである。しかし、右(ア)は本
件建物が二号の基準に適合しないことを推測させるにすぎず、同(エ)をもつて直
ちに本件建物が二号の基準に適合するということができないことは当然である。し
かも、原審は、基準日の後における事実として、前記一(一)(5)において、被上告
人が昭和五五年一月一六日本件建物の解体工事に着手し、同年二月二〇日ごろこれ
を完了した事実をも認定しているのであつて、この事実にかんがみると、本件建物
が二号の基準に適合するということは一層困難である。
 以上によれば、本件建物が二号の基準に適合するかどうかを判断するためには、
基準日現在の事実(現況)についてはもちろん、所有者である被上告人の利用意思、
本件建物の具体的な利用状況等基準日(昭和五五年一月一日)の前後における事実
についても更に審理を尽くさせるを相当とする。
 四 そうすると、以上判示したところと異なる見解に立つて本件否認処分を取り
消すべきものとした原判決には、法六〇三条の二第一項一号、法施行令五四条の四
七第一項二号の解釈適用を誤りひいては理由不備を犯した違法があり、右違法は判
決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れない。そして、本件につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこ
ととする。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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