弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人永井一三、同堀家嘉郎の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らしてこれを是認す
ることができ、右事実関係のもとにおいて、小学校敷地内にある本件プールとその
南側に隣接して存在する児童公園との間はプールの周囲に設置されている金網フエ
ンスで隔てられているにすぎないが、右フエンスは幼児でも容易に乗り越えること
ができるような構造であり、他方、児童公園で遊ぶ幼児にとつて本件プールは一個
の誘惑的存在であることは容易に看取しうるところであつて、当時三歳七か月の幼
児であつた亡Dがこれを乗り越えて本件プール内に立ち入つたことがその設置管理
者である上告人の予測を超えた行動であつたとすることはできず、結局、本件プー
ルには営造物として通常有すべき安全性に欠けるものがあつたとして上告人の国家
賠償法二条に基づく損害賠償責任を認めた原審の判断は、正当として肯認すること
ができる。原審の右認定判断の過程に所論の違法はなく、所論引用の判例は事案を
異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官藤崎萬里の反対意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見をもつて、主文のとおり判決する。
 裁判官藤崎萬里の反対意見は、次のとおりである。
 私は、論旨第一点につき、多数意見と見解を異にし、原判決を破棄して本件を原
審に差し戻すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。
 公の営造物の設置又は管理について危険防止のためどのような設備を必要とする
かは、当該営造物の構造、用途、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を考慮した
うえ、通常予想される危険の発生を防止するに足りると認められる程度のものを必
要とし、かつ、これをもつて足りるというべきであつて、およそ想像しうるあらゆ
る危険の発生に備えてこれを防止しうる設備を要するものとすることは相当でない
といわなければならない。
 本件プールは、児童公園に隣接する小学校敷地内に設けられた学校用プールとい
うのであるから、右の観点に立つて考えると、同プールにおいて通常予想される転
落事故等の危険を防止するためには、小学校児童のみならず、児童公園に遊ぶ幼児
に対しても、たやすく同プールに近づくことがないよう、その周囲に立入防止の障
壁等を設置する必要があると考えられるところ、その設備は、プールの危険性につ
いて十分の思慮分別を有しない幼児にとつて、一応独力では乗り越え難い障壁と認
められる程度のものであることを必要とし、かつ、その程度のものをもつて足りる
というべきであり、それ以上の設備を要求することはプールの設置管理者に対して
酷というべきである。
 原審が確定した事実関係によると、本件プールの周囲に設置された塀は、一辺の
長さ約五センチメートルの菱形状をした網目の金網フエンスであり、上部にいわゆ
る忍び返しの設備はなかつたものの、フエンス上部には有刺鉄線が張られていて(
もつとも、部分的に破損箇所はあつた)、右金網フエンス自体は、地上一・六六メ
ートルないし一・八七メートルの高さを備えていたというのであるから、右の要件
をみたすものとみる余地は十分にあると考える。原審は、亡Dが右金網フエンスを
乗り越えて本件プール内に立ち入つたことが本件プールの設置管理者にとつて予測
を超えた行動であつたとすることはできないとしているが、本件プールと児童公園
とは右の高さを備えた金網フエンスをもつて隔てられており、亡Dの両親である被
上告人らが同女を右児童公園内で一人で遊ばせていたのは、同女が右金網フエンス
を乗り越えるようなことは予想もしなかつたからこそであると思われる。してみる
と、原審の右認定判断は直ちには肯認し難いというべきであり、原判決は右結論に
至る判断基準ないし理由につき首肯するに足りる説示を欠くものといわざるをえな
い。
 以上の次第で、前記金網フエンスは、思慮分別を欠く幼児にとつて一応独力では
乗り越え難い障壁としての役割を果していたものとみる余地があるにもかかわらず、
原審が右の点について考慮することなく、本件プールは公の営造物として本来有す
べき安全性を欠いたものとして上告人の損害賠償責任を肯定したことには、国家賠
償法二条の解釈適用を誤つた違法があるというべきであり、右の誤りが判決に影響
を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由があるものとして原
判決を破棄し、叙上の点についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し
戻すべきものと考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    本   山       亨
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝

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