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平成27年9月29日判決言渡
平成27年(ネ)第10055号特許侵害差止等請求権不存在確認等請求控訴事
件(原審東京地方裁判所平成26年(ワ)第19447号)
口頭弁論終結日平成27年7月9日
判決
控訴人特定非営利活動法人日本ビデオアルバム協会
訴訟代理人弁護士草場理津子
補佐人弁理士野田茂
伊東啓
被控訴人株式会社CFTEC
訴訟代理人弁護士古田利雄
佐藤未央
鈴木俊
柳田恭兵
木村佳生
鈴木理晶
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
なお,呼称は,審級による読替えを行うほか,原判決に従う。
1事案の概要
本件は,被控訴人が,発明の名称を「記録媒体」とする特許権(本件特許権)の
特許権者である控訴人に対し,①原判決別紙技術目録記載のコピーガード済み光記
録媒体の生産譲渡行為並びに上記光記録媒体を製造するための原判決別紙物件目録
記載1のコピーガード専用光記録媒体の販売行為及び同2のコピーガード用マスタ
ー作成ソフトウェアの利用許諾行為が本件特許権の侵害に当たらないと主張して,
控訴人が被控訴人に対し上記各行為の差止請求権を有しないことの確認を,②控訴
人が第三者に対して被控訴人が本件特許権を侵害している旨を告知する行為が不正
競争防止法2条1項14号に該当すると主張して,同法3条1項に基づき,同告知
行為の差止めを求めた事案である。
原審は,平成27年3月24日,「1被告が,原告に対し,特許第474382
9号の特許権に基づき,別紙技術目録記載のコピーガード済み光記録媒体を生産し,
譲渡する行為を差し止める権利を有しないことを確認する。2被告が,原告に対
し,特許第4743829号の特許権に基づき,別紙物件目録記載1の光記録媒体
を販売する行為及び同2のソフトウェアを利用許諾する行為を差し止める権利を有
しないことを確認する。3被告は,原告が別紙技術目録記載のコピーガード済み
光記録媒体を製造し,頒布する行為,別紙物件目録記載1の光記録媒体を第三者に
販売する行為及び同2のソフトウェアを利用許諾する行為が特許第4743829
号の特許権を侵害する旨を第三者に告知してはならない。4訴訟費用は被告の負
担とする。」(カギ括弧内の別紙はいずれも原判決の別紙を指す。)との判決を言い渡
したところ,控訴人は,同年4月3日に控訴した。
2前提事実
原判決第2の1(2頁21行目から5頁14行目。同部分で引用した原判決別紙
物件目録を含む。)のとおりであるから,これを引用する。
第3争点及びこれに関する当事者の主張
次のとおり原判決を補正するほか,原判決第2の2及び3(5頁15行目から9
頁3行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
1原判決6頁13行目の「被告」を「控訴人」と改める。
2原判決8頁16行目の冒頭に,「被控訴人の顧客が,被控訴人マスター作成
ソフトウェアを使用すれば,被控訴人コピーガード済み光記録媒体に誤り訂正プロ
グラムが記録され,被控訴人専用記録メディアにも誤り訂正プログラムが保管され
る。このように,」を加える。
3原判決8頁25行目の冒頭に,「控訴人もDVD-Rコピーガードサービス
を提供しており,被控訴人と競争関係にあるところ,」を加える。
4原判決9頁1行目の末尾に,改行の上,「また,控訴人は,被控訴人のみな
らず,被控訴人取引先に対して本件通知を行っており,新たに被控訴人の取引先が
判明すれば,同様の通知をする可能性が高い。」を加える。
5原判決9頁3行目の冒頭に,「控訴人と被控訴人がDVD-Rコピーガード
サービスに関して競争関係にあること,控訴人が,被控訴人に対して,被控訴人が
本件特許権を侵害していると考えられる旨通知したこと,被控訴人取引先に本件通
知を行ったことは認め,その余は」を加える。
第4当審における当事者の補足主張-「誤り訂正プログラム」(争点(1))
1控訴人
(1)一般的な意義
ア一般的に,「誤り訂正プログラム」は,通信,デジタルデータの分野で数
多く存在する。元々,誤り訂正の技術は,放送局における電送技術から派生し,D
VDの分野に発展したものであり,ディスクのキズやデータ欠損の訂正のためだけ
ではなく,周波数変調やデジタル放送,衛星通信,携帯電話などの広い範囲で使わ
れていた。したがって,「誤り訂正プログラム」が,キズやピットの破壊その他デー
タ欠損といった誤りを訂正するプログラムに限定して,解釈されなければならない
理由はない。
イ本件出願日である平成16年10月29日当時,記録媒体の業界におい
て,「誤り訂正プログラム」という用語は使用されていない。したがって,当然に,
「誤り訂正プログラム」が,キズなどが入った場合に修復するプログラムを意味す
ると解することはできない。
(2)本件明細書から読み取れる意義
ア本件明細書【0028】の記載からすれば,本件特許における「誤り訂
正プログラム」とは,再生装置の訂正信号を作動させるきっかけの役割を持つプロ
グラムであり,再生装置側にあるキズやピット配置の異常などを修復させる訂正信
号を起動させるためのものである。
仮に,誤り訂正プログラムが,キズなどを復元又は修正するプログラムであると
すると,【0028】は,再生装置の(キズなどを復元又は修正するプログラムを起
動させる)訂正信号が,当該記録媒体のキズなどを復元あるいは修正するプログラ
ム(誤り訂正プログラム)によって作動するということになる。これは,キズなど
を修復するプログラムが再生装置側と記録媒体側の2か所に出現し,コピーガード
効果を実現する上でキズなどを修復するという行為を重複して行うという不自然な
結果をもたらすことを意味するから,誤り訂正プログラムが,キズなどを復元又は
修正するプログラムであるとの解釈は,取り得ない。
イ本件明細書【0020】には,記録媒体の記録面にキズなどが入った場
合に「動作する」誤り訂正ファイルなどが収納されている旨記載され,記録媒体の
記録面にキズなどが入った場合に「復元又は修正する」とは記載されていない。し
たがって,【0020】は,「誤り訂正プログラム」がキズなどを復元又は修正する
プログラムであることを意味するものではない。【0020】は,あくまでファイル
構成の概略を説明しているのであり,プログラムの内容を説明するものではない。
また,【0020】の記載は,誤り訂正プログラムが,記録媒体の記録面にキズが
入った場合に限定して動作するものであることを意味しない。読取不可領域がある
というDVD規格上の誤りも「誤り」に変わりないから,「誤り訂正プログラム」が,
記録面にキズなどの誤りが入った場合以外にも動作することを排除するものではな
い。
ウ本件特許は,本件出願当時の技術状況において,最も重要な課題とされ
ていた再生互換性を克服したものである。DVDに存在しない読取不可領域を設置
した場合,それだけでは,DVDとしての「誤り」を保有している状態であるから,
コピーガードの効果を生じさせるには,新たにプログラムを設置してDVDとして
の「誤り」を訂正して再生互換性を確保することが必要である。本件特許の「誤り
訂正プログラム」は,正常なDVDの正常な再生を阻害する要因を排除するための
ものであって,この阻害要因には,キズやピットの破壊その他データ欠損だけでは
なく,再生互換性も含まれる。このことは,本件出願時において,【請求項2】に「デ
ータの認識が不可能な構成」と記載されており,「キズや汚れによるデータが再生装
置で読み取れない構成」と記載されていないことからも理解できる。
2被控訴人
(1)本件出願時に,「誤り訂正プログラム」という用語に一義的な定義が存在せ
ず,多義的な意味が存在するからこそ,「誤り訂正プログラム」の意味及び内容は,
本件特許の請求項及び明細書の記載から判断されるべきである。
そして,本件特許の構成要件Eは「前記読取不可領域には,認識不可能なデータ
として,当該記録媒体が保有する誤り訂正プログラムが作動する範囲以上の長さを
有するピットが配置されている部分を有し」というものであり,「誤り訂正プログラ
ム」が「認識不可能なデータである,一定の長さを有するピット配置」と何らかの
相関関係を有するプログラムを指すことが明確に読み取れる。
また,本件明細書には,「読取不可領域は,データの読み取りが不可能な領域とし
て設けられている。当該記録媒体が再生専用光ディスクである場合,情報の識別は
記録ピットの周期を利用した『0』と『1』のデジタル信号で行われるが,パーソ
ナルコンピュータ等の読み取り装置では,この周期(周波数変換)が検出されない
領域は正常な領域ではないと判断されて読み取り作業が中断されるため,読取が不
可能な領域となる。」(【0026】,【0027】),「この読取不可領域は,例えば,
少なくとも再生装置の訂正信号が作動しない十分な長さのピットが配置されている
領域として構成されている。・・・したがって,上記ピットは記録媒体が保有する誤
り訂正プログラムが作動する範囲上の長さとなっている。」(【0028】)と記載さ
れているから,「誤り訂正プログラム」と何らかの相関関係があるはずの「認識不可
能なデータである,一定の長さを有するピット配置」が,「記録ピットの周期(周波
数変換)が検出されない領域」を指すことも,明確に読み取れる。
そうすると,構成要件Eにおける「誤り訂正プログラム」とは,記録ピットの周
期(周波数変換)が検出されないという「誤り」を訂正する機能を有するプログラ
ムを指すとしか解釈できない。
(2)DVD(ビデオ)規格に修復して再生互換の課題を解決しようとするプロ
グラムは,構成要件C「前記読取不可領域を回避して前記記録領域に記録されたデ
ジタルデータを再生するための再生制御用のデジタルデータが記録された再生用の
プログラムファイルを備え」に当然に含まれるべきものであるから,構成要件Eで
いう「誤り訂正プログラム」を,DVD(ビデオ)規格に修復するプログラムであ
るなどと解するべきではない。
第5当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の当審における追加主張を踏まえても,原判決の判断に
誤りはなく,本件控訴は棄却されるべきものと判断する。
その理由は,次のとおり補正するほか,原判決の「第3当裁判所の判断」(9頁
4行目から15頁2行目まで。同部分で引用した原判決別紙物件目録を含む。)で判
示したとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決12頁19行目の「特開2000-231759号公報」を「特開
2000-231759号公報に記載された発明」に改める。
(2)原判決14頁21行目の「競争関係にあること」の後ろに,「は,当事者間
に争いがない。本件通知の内容からすると,」を加える。
2控訴人の補足主張に対する判断
(1)控訴人は,一般的な用語として,「誤り訂正プログラム」が,キズやピット
の破壊その他データ欠損といった誤りを訂正するプログラムに限定されなければな
らない理由はない旨主張し,それを裏付ける書証を多数提出する。
しかしながら,控訴人が提出する証拠は,①発明の名称や発明特定事項が「符号
誤り訂正プログラム」,「文字認識誤り訂正プログラム」,「ビット誤り訂正プログラ
ム」,「日本語文字認識・・・誤り訂正プログラム」となっていたり,書籍の題号や
本文中の記載が「誤り訂正符号」や「伝送路誤りに強い符号化技術」となっている
など,訂正すべき「誤り」の内容がそれぞれ明示されており(乙26~29,30
の1~30の3),本件特許における「誤り訂正プログラム」と異なり,その技術的
意義が一義的に明らかなものや,②コピーガードではなく,伝送路における誤り訂
正(乙26,30の1~30の3),携帯電話機の受信時のビット誤り訂正(乙28),
手書き文字や印刷文字の認識における誤り訂正(乙27,29)に関するもので,
技術分野が本件特許とは異なるものなどである。したがって,これらの証拠の記載
は,本件特許の「誤り訂正プログラム」の意味を解釈するに当たって,必ずしも参
考となるものではない(なお,控訴人は,本件特許出願まで,記録媒体の技術分野
で「誤り訂正プログラム」という技術用語が使用されていなかったことを立証する
ために各書証を提出するが,これらの証拠は,国立国会図書館の蔵書をキーワード
検索したもの(乙31~37)や特定の論文(乙38~44)であって,その他の
多数の蔵書の内容や論文の題号及び内容において「誤り訂正プログラム」という用
語がおよそ使用されていなかったことを意味するものでもない。)。
いずれにせよ,本件特許における「誤り訂正プログラム」は,あくまでも特許請
求の範囲及び本件明細書の記載によって解釈すべきであり,これによれば,記録媒
体の記録面にキズなどが入った場合に動作するものであって,そのような場合にも
記録媒体の再生を可能にするプログラムであると解されることは,原判決が9頁6
行目から13頁18行目で適切に説示したとおりである。控訴人の主張は理由がな
い。
(2)控訴人は,本件特許における「誤り訂正プログラム」とは,本件明細書【0
028】の記載からすれば,再生装置の訂正信号を作動させるきっかけの役割を持
つプログラムであり,再生装置側にあるキズやピット配置の異常などを修復させる
訂正信号を起動させるためのものであると主張する。かかる主張は,本件明細書に
記載された「訂正信号」が,①それ自身が,キズなどによる誤りを訂正するプログ
ラムであるか,②キズなどによる誤りを訂正するプログラムを起動させる信号であ
ることを前提とするものと解される。
しかしながら,①「訂正信号」がプログラムであることは,本件明細書には記載
されておらず,「信号」をプログラムと称することが技術常識であるともいえない。
仮に「訂正信号」を誤り訂正プログラムと解すると,【0028】は,再生装置の誤
り訂正プログラムが,記録媒体の誤り訂正プログラムによって作動することを意味
することになるが,本件特許では,そもそも,読取不可領域のピット13は,記録
媒体の誤り訂正プログラムも作動できない長さになっているため,記録媒体の誤り
訂正プログラムによって作動される再生装置が,記録媒体の誤り訂正プログラムを
作動させることもできず,再生装置及び記録媒体のいずれの誤り訂正プログラムも
作動しないことになり,結局,誤り訂正がされずに再生不可能となる。これは,本
件特許における記録媒体が再生可能であることとしていることと相容れない。した
がって,「訂正信号」は誤り訂正プログラムであるという解釈は採用できない。
また,②「訂正信号」が,キズなどによる誤りを訂正するプログラムを起動させ
ることは,本件明細書には記載されておらず,「訂正信号」と誤り訂正プログラムが
連携して誤り訂正を行うことが技術常識であるともいえない。一般的に,誤り訂正
プログラムは,DVD等のディスクを再生装置に入れ,データを読み出した最初の
段階で,何の契機もなく作動するものでなければ,誤り訂正が実施されない場合が
生じ,本来の目的であるデータの誤りを訂正するという機能を果たせなくなるから,
かかる条件付きの誤り訂正プログラムは,技術的に想定し難い。
そうすると,控訴人の主張は,本件明細書の記載に基づくものでも,技術常識に
基づくものでもないから,採用できない。
(3)控訴人は,本件明細書【0020】には,記録媒体の記録面にキズなどが
入った場合に「誤り訂正プログラム」が「動作する」ことが記載されているが,「復
元又は修正する」とは記載されていないから,「誤り訂正プログラム」がキズなどを
復元あるいは修正するプログラムであることを意味せず,また,読取不可領域があ
るというDVD規格上の誤りも「誤り」であるから,記録面にキズなどの誤りが入
った場合以外に動作する誤り訂正プログラムを排除するものではないと主張する。
しかしながら,一般に,特定の目的を持ったプログラムは,他のプログラムと連
携して動作しない限り,当該プログラムが動作することにより,当該目的を達成す
るものである。これを前提に本件明細書をみると,記録媒体の再生を可能にするた
めに,誤り訂正を行うという目的を持つプログラムは,「誤り訂正プログラム」以外
に本件明細書には記載されていない。そうすると,本件明細書の「誤り訂正プログ
ラム」は,それ自身で,誤り訂正を行うという目的を達成し,その結果,記録媒体
の再生を可能にしていると解するのが自然である。したがって,「誤り訂正プログラ
ム」は,「動作する」ことによって誤りを訂正できるのであり,「復元又は修正する」
とは記載されていないからといって,「誤り訂正プログラム」がキズなどを復元ある
いは修正するプログラムを意味することは,否定されない。
また,本件特許では,読取不可領域があることによる再生上の問題は,「誤り訂正
プログラム」とは別個の「再生用のプログラムファイル」によって,解消すること
が予定されている(【0015】)。そうすると,本件明細書【0020】の「記録媒
体の記録面にキズなどが入った場合に動作する誤り訂正用のプログラムファイル
(誤り訂正ファイル)」における「誤り」は,「記録媒体の記録面」が「キズ」つい
た場合に限定されていないが,それ以外の場合としては,「キズ」と同じように,指
紋,汚れ,ゴミ等の何らかの物理的な要因によって,記録媒体から読み取ったデー
タに誤りが発生することを意味していると理解するのが自然である。したがって,
読取不可領域があることによる再生上の問題は,「誤り訂正プログラム」で解決すべ
き対象となる「誤り」ではないから,読取不可領域の存在がDVD規格上の誤りと
いえるか否かにかかわらず,この点は,本件特許における「誤り」とはいえない。
したがって,控訴人の主張は理由がない。
(4)控訴人は,誤り訂正プログラムが,キズなどを復元又は修正するプログラ
ムであるとすると,【0028】は,再生装置の(キズなどを復元又は修正するプロ
グラムを起動させる)訂正信号が,当該記録媒体のキズなどを復元又は修正するプ
ログラム(誤り訂正プログラム)によって作動するということになり,キズなどを
修復するプログラムが再生装置側と記録媒体側の2か所に出現し,コピーガード効
果を実現する上でキズなどを修復するという行為を重複して行うという不自然な結
果となると主張する。
かかる主張は,本件明細書に記載された「訂正信号」が,キズなどによる誤りを
復元又は修正するプログラムを起動させるものであることを前提とするものである
が,本件明細書にそのような記載はなく,控訴人の主張の前提事実が技術常識であ
るともいえないことは上記(2)で既に述べたとおりである。したがって,控訴人の主
張は,採用できない。
(5)控訴人は,本件特許が,本件出願当時の技術状況において,最も重要な課
題とされていた再生互換性を克服したものであることを前提に,本件特許の「誤り
訂正プログラム」が排除すべきDVDの正常な再生の阻害要因には,キズやピット
の破壊その他データ欠損だけではなく,再生互換性も含まれ,このことは本件出願
時における【請求項2】の記載からも明らかであると主張する。
しかしながら,本件明細書には,本件特許が,従来のCSSと呼ばれる不正コピ
ー防止システムや,アンチコピープロテクト技術等では,データのコピーを防止す
ることができない可能性があることを背景に,特別な再生装置を不要としつつ,不
正コピーを確実に防止可能とすることを課題とすることが明示されているだけであ
って(【0002】~【0012】),「再生互換性」を克服することを課題とする趣
旨の記載はない。そして,本件明細書には,「このような目的を達成するための本発
明は,ディスク状基材の記録面にデジタルデータが記録された記録媒体に関し,少
なくとも1つのプログラムファイル内に,データの複製が不可能な読取不可領域を
設けたことを特徴としている。この読取不可領域は,データの認識が不可能な構成
となっている。」(【0013】),「このような構成の記録媒体では,プログラムファ
イル内に,データの認識が不可能な構成となっている読取不可領域を設けたことに
より,パーソナルコンピュータなどのコンピュータでプログラムファイルを複製し
ようとした場合に,プログラムファイル全体を認識することができず,コンピュー
タへのプログラムファイルの読み込みが不可能となる。このため,プログラムファ
イルを複製することができない。」(【0014】)と記載されていることからすれば,
「データの認識が不可能な構成」とは,コンピュータにおいて,プログラムファイ
ルを複製しようとした場合に,プログラムファイル全体を認識できないようにする
ことに寄与するものであって,再生互換性とは技術的に関係ないものと認められる。
したがって,本件出願時の【請求項2】が「ディスク状基材の記録面にデジタルデ
ータが記録された記録媒体であって,前記読取不可領域は,データの認識が不可能
な構成となっていることを特徴とする記録媒体」となっており(乙45),読取不可
領域が,「データ認識が不可能な構成」と記載され,「キズや汚れによるデータが再
生装置で読み取れない構成」とは記載されていなかったとしても,本件明細書の上
記各記載に照らせば,「データの認識が不可能な構成」という発明特定事項が,再生
互換性がないデータを用いて読取不可領域を構成していることを意味するとは認め
られない。
控訴人の主張は,本件明細書の記載に基づかないものであり,失当である。
第6結論
以上によれば,被控訴人の請求はいずれも理由があり,これを認容した原判決の
判断は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
片岡早苗
裁判官
新谷貴昭

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