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平成28年3月24日判決言渡
平成27年(行コ)第22号作業中止命令処分取消等請求控訴事件(原審名古
屋地方裁判所平成25年(行ウ)第66号)
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2原判決別紙「物件目録1」記載の各土地に係る堀削につき,α町長が平成2
4年11月12日付けで控訴人に対してした作業中止命令処分を取り消す。
3被控訴人は,控訴人に対し,532万4815円及びこれに対する平成2
4年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(略称は原判決の例による。以下,本判決において同じ。)
1本件は,砂利採取業等を営む株式会社である控訴人が,原判決別紙「物件目
録1」記載の各土地(本件各土地)を掘削して砂利を採取しようとしたとこ
ろ,α町地下水の水質保全に関する条例(本件条例)10条の2が定める禁止
作業に当たることを理由として,α町長から,本件条例11条5項に基づき,
平成24年11月12日付けで上記掘削作業の中止命令(本件処分)を受けた
ため,被控訴人に対し,本件処分の取消しを請求するとともに,違法な本件処
分により損害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,
532万4815円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
2関係法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次項に
控訴人の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の第2の2ないし5
に記載のとおりであるから,これを引用する。
3控訴人の主張
(1)控訴人が遅くとも平成24年3月31日までにした本件各土地の掘削
(本件掘削)において,約10mの深さまでの掘削にもかかわらず水質に
影響は出なかったことに照らし,地表面から約7.5m以深に地下水の層
流が観測されるなどとする本件業務報告書(乙18の1)の正確性には疑
問がある。そして,本件業務報告書には,流向・流速試験において,トレ
ーサー到達につき,データが存在していない(×)のにトレーサー検出あり
(○)となっているもの(乙18の1・27頁の平成16年1月14日の
試験2における観測孔名称№3の観測深度GL-10.0の欄)があり,
このデータも含めて,検出なしとされるのが正しいにもかかわらず,検出
ありと記載されているところが,GL-7.5m及びGL-10.0mの
トレーサー試験において,9箇所存在している。
(2)また,本件業務報告書の平成16年1月14日の試験2,3,4におい
て,補助孔№3の設置深度GL-7.5mのセンサーにおいてトレーサー
の検出があった旨が記載されているが,いずれも電気伝導率のデータに変
化がほとんど見られず,あるいは,トレーサーの検出がないとされる設置
深度GL-5.0mのデータと比較しても双方のデータに明確な違いがな
いことが明らかであり(甲61~66,68),設置深度GL-7.5m
のセンサーにおけるトレーサーの検出をいう本件業務報告書には重大な過
誤がある。
加えて,本件業務報告書の観測データに数値の重複があること,センサ
ー組替えの前後で数値が大きく変動していることなどは不自然であり,本
件業務報告書の信用性を疑わせる。
そのほか,本件業務報告書には,記述の矛盾や疑問点が多々ある。
(3)上記(1)(2)によれば,本件業務報告書には重大な過誤が存在するとこ
ろ,本件条例10条の2による規制は,本件業務報告書の内容を踏まえて
正当化されているから,上記の重大な過誤により,その規制を正当化する
根拠を失う。立法目的を支える立法事実につき,重大なる過誤が存在して
いるので,規制手段に合理性はない。
本件掘削によっても,水質に問題がないことがデータとして存在しており
(甲42,44,45),かつ,東日本大震災による復興を含め,公共工事
における砂利採取の有用性(甲13,14)に鑑みて判断すると,原則6m
で規制するという根拠を失った本件条例による規制は,憲法22条にいう経
済的自由を侵害している。また,行政による裁量としても限界を超えてい
る。
(4)仮に条例10条の2が有効であることを前提としても,被控訴人が「埋
め戻し土」を在来土として扱うことを認めた経過があるにもかかわらず,
「埋め戻し土」が在来土ではなかったと判断することについては無理があ
り,また,被控訴人が,是正措置によって原状回復が完了されたことを認
めておきながら,6mの範囲内での本件再掘削につき中止命令を発令する
ことには根拠がない。
したがって,原状回復後において地表より6mの範囲内での掘削を行う内
容の本件再掘削は,条例10条の2の規定からして,認められてしかるべき
である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり補正し,次項に控訴人の主張に対する判断を付加す
るほか,原判決「事実及び理由」欄第3に記載のとおりであるから,これを
引用する。
(1)原判決30頁16行目の「設けることにより,」の次に「掘削による地
下水の主要帯流層の破壊を防いで水量の保全を図り,」を加える。
(2)原判決31頁14行目及び32頁1行目の各「地下水の」の次に,それ
ぞれ「水量の保全を図り,」を加える。
(3)原判決32頁23行目及び35頁2行目から3行目にかけての各「地下
水の水質の保全を」を,それぞれ「地下水の水量及び水質の保全を」に改
める。
(4)原判決40頁19行目の「地下水の汚染を防止する目的で,」を「地下
水の主要帯流層の破壊及び汚染を防止する目的で,」に改める。
2控訴人の主張について
(1)控訴人は,上記第2の3(1)のとおり,本件業務報告書(乙18の1)
には,流向・流速試験の際のGL-7.5m及びGL-10.0mのトレ
ーサー試験において,センサーの数値からは,検出なしとされるのが正し
いにもかかわらず,検出ありと記載されているところが9箇所存在してい
るとし,本件業務報告書には重大な過誤が存在する旨主張する。
しかし,証拠(乙18の3の第5回採水工程表,平成16年1月の流
向・流速試験の各写真等)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人の主張の論
拠となるデータを記載したものとして提出されている「流行流速試験結果
データ集」(乙18の2)の付表一4(平成16年1月14日実施の複孔
式流向・流速試験において,地中に設けた補助孔に設置された各センサー
の電気伝導率の計測結果を表にしたもの)には,前日に補助孔における設
置センサーの組替えがされたことが反映されておらず,各センサーが設置
された補助孔の番号及び設置深度の記載に誤りがあることが認められる。
そして,これらを訂正して各センサーの計測結果を検討すれば,トレーサ
ー検出があったとされる上記9箇所のセンサーによる計測結果自体に,誤
りがあると認めることはできない。
そうすると,上記補助孔の番号及び設置深度の記載の誤りにより,本件
業務報告書の結論の相当性が左右されるものとは認められない。
(2)控訴人は,上記第2の3(2)のとおり,平成16年1月14日の試験2,
3,4において,補助孔№3の設置深度GL-7.5mのセンサーにおけ
る電気伝導率のデータに変化がほとんど見られないなどの状況であるのに,
同センサーにおけるトレーサーの検出をいう本件業務報告書には重大な過
誤がある旨主張する。
しかし,証拠(乙18の1,2,38)及び弁論の全趣旨(平成27年
9月16日付け被控訴人準備書面1等)によれば,各試験における補助孔
№3の設置深度GL-7.5mのセンサーで計測された電気伝導率のデー
タの変化は,ある程度の時間経過後に急上昇し,以後緩やかに低下してお
り,この点は,設置深度GL-10.0mのセンサーの電気伝導率のデー
タの変化と共通していること(なお,実験4については,急上昇はあるが
緩やかな低下は見られないものの,同実験のトレーサーの散布が表面散布
法で行われたことによると説明することが可能である。),これに対し,設
置深度GL-5.0mのセンサーのデータにはこのような変化は見られな
いことが認められる。このことから,設置深度GL-7.5mにおいても,
設置深度GL-10.0mと同様にトレーサーが到達していたことが推認
される。もっとも,設置深度GL-7.5mにおける観測データの変動幅
は,設置深度GL-10.0mのそれよりもかなり小さいが,この点は,
GL-7.5mの深さにある地下水は,より深い部分に吸い込まれて移動
する結果,GL-7.5m部分に長くは滞留しないことによるものと説明
することが可能であると考えられる。
また,控訴人は,観測データに数値の重複があること,センサー組替え
の前後で数値が大きく変動していることは不自然であるとも主張するが,
弁論の全趣旨によれば,数値の重複は主としてセンサーの解像度による観
測精度に起因し,トレーサーの濃度が極めて高い場合に発生するものと見
ることができ,センサーの組替え後に測定値の絶対値が変動しているのは,
組替えによってセンサーと測定器本体との接続環境に変化が生じたことに
よるものと見ることができるから,いずれの点も,説明可能な現象という
ことができ,本件業務報告書の結論の相当性を否定すべき事情であるとは
認められない。
さらに,控訴人は本件業務報告書に記述の矛盾や疑問点が多々あるとも
指摘するが,弁論の全趣旨に照らせば,これらの指摘も,設置深度GL-
7.5mのセンサーにおいてトレーサーが観測された旨の本件業務報告書
の結論の相当性を左右するものとは認められない。
(3)控訴人は,上記第2の3(3)において,本件掘削によっても水質に問題
がないことなどから,原則6mで規制するという本件掘削規制に根拠がな
い旨主張する。
しかし,本件業務報告書及び弁論の全趣旨によれば,α町の住民らの飲用
に用いられる地下水の主要帯水層が深さ7.5m以深に存在すると推定され
るから,これを破壊することにより生ずる水質汚染や地下水喪失を未然に防
止する必要は極めて高いものといえる。それゆえ,本件掘削によって,地下
水の水質の維持や水量確保への具体的な悪影響がなかったとしても,そのよ
うな悪影響を未然に防止するために掘削深が6mを超える掘削を規制する本
件掘削規制を設けることには合理性があると解される。
(4)控訴人は,上記第2の3(4)のとおり,本件再掘削は,原状回復後にお
いて地表より6mの範囲内での掘削を行うものであるとして,条例10条
の2の規定からして,認められてしかるべきである旨主張する。
しかし,証拠(甲1ないし4,25,28,乙1,5,6,8,11な
いし13,36)及び弁論の全趣旨によれば,本件認可においては,掘削
の深さについては最大6mを厳守することとされていたが,平成24年4
月2日の被控訴人の職員による本件立入検査において,掘削深は9.07
mから10.57m以上に達していることが判明したこと,本件立入検査
が実施された当時,本件各土地からは地下水が湧き出してたまっており,
その水深は3ないし5m以上にも及んでいたこと,本件条例10条の2は,
地盤面から垂直距離で6mを超える掘削を行う場合において,在来の土砂
以外の土砂を使って掘削跡を埋め戻す作業を伴う掘削をしてはならない旨
を定めているところ,被控訴人は,控訴人に対し,本件各土地の掘削跡に
ついて,在来の土砂を用いて埋め戻しを行うことを前提とした計画書を提
出するよう控訴人に求めたこと,ところが,控訴人は,本件掘削により生
じた在来の土砂に係る砂利を売却し,土砂の混交も生じさせていたため,
在来の土砂を用いた埋め戻しの提案のほか,掘削された砂利と同種の砂利
による復元案(乙11・3枚目)も拒否したこと,そこで,被控訴人では,
梅雨の時期を迎え,本件各土地の掘削跡をそのまま放置し続けた場合の現
場の法面浸食及び道路・水路の崩落・崩壊の危険性を除去するために,今
回限りの例外的な措置として本件条例10条の2の予定していない方法に
よって本件各土地の掘削跡の埋め戻しを行うこともやむを得ないとの考え
方に傾くに至ったこと,そして,控訴人は,被控訴人の職員との協議を踏
まえ,本件各土地の土砂と本件各隣接地の土砂との混合土砂を使用して埋
め戻しを行うことを前提として,同年6月20日付けで,控訴人に対し,
各土地の過剰掘削については深く反省し,今後,このようなことがないよ
う関係法令や本件条例を遵守することなどを記載した誓約書を提出し,同
月26日に被控訴人及び本件計画地の各所有者との間で本件覚書を取り交
わしたこと,控訴人は,本件各土地に従前から存在した粘土に加えて,本
件各隣接地から採取した砂利及び粘土から成る混合土砂を用いて本件埋め
戻し作業を行い,同年10月12日に作業を完了し,同月24日に,被控
訴人の職員から本件完了確認を受けたこと,控訴人は,同年11月8日こ
ろ,被控訴人に無断で,本件埋め戻し作業により埋め戻した本件各土地を
再び掘削し,販売目的で砂利を採取しようとしたことが認められる。
上記事実によれば,本件埋め戻し作業が,本件条例10条の2の定める在
来の土砂によるものではないことは明らかである。そうすると,過剰掘削部
分の地層は,砂利(礫層)で構成されていたものが,本件掘削及び本件埋め
戻し作業の結果,粘土混じりの土砂へと大きく変わり,過剰掘削部分の礫層
が本来有していた地下水を涵養し,貯留する能力に少なからぬ影響を及ぼし
た可能性がある(乙17・60頁,乙18の1・6頁,弁論の全趣旨)。そ
うであれば,本件埋め戻し作業によって良質な飲料水を確保する等の本件条
例の目的が全うされたとは認められないから,本件掘削により違法に破壊さ
れた地層が,本件埋め戻し作業により復元されて掘削前と同等の状態が回復
されたという意味において原状回復が完了したと認めることはできない。
したがって,本件埋め戻し作業によって原状回復が完了したことを前提
に,本件再掘削が本件条例10条2項の規定から認められるべき旨をいう
控訴人の主張は,その前提を欠くものというべきである。
また,上記事実によれば,本件埋め戻し作業は,本件掘削において深さ
6mを大幅に超える過剰な掘削がされた後地下水が大量に湧出する事態に
至ったことを受け,現場の法面浸食,道路・水路の崩落・崩壊等の危険性
を除去するために採られた応急の是正措置であると認められるのであって,
本件埋め戻し作業によって,過剰掘削部分の礫層が本来有していた地下水
を涵養し,貯留する能力につき掘削前と同等の状態が回復されたとは認め
られない。そうすると,本件埋め戻し作業から1か月も経たずに,再び土
砂を採取しようとしてされた本件再掘削は,本件掘削とともに,一連の行
為として,本件条例10条の2所定の禁止作業に該当し,作業中止命令の
対象となるものということができる。このことは,本件再掘削が地表より
6mまでの掘削を予定するものであったことによって,左右されるもので
はない。
(5)以上のとおりであるから,控訴人の上記各主張はいずれも採用すること
ができない。
そのほか,控訴人は,当審において種々の主張をし,書証を提出するが,
いずれも上記判断を左右するには足りないものである。
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官孝橋宏
裁判官戸田久
裁判官森淳子

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