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平成30年7月24日判決言渡
平成29年(行ウ)第294号国籍存在確認請求事件
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。5
事実及び理由
第1請求
原告が日本国籍を有することを確認する。
第2事案の概要
本件は,コロンビア共和国(以下「コロンビア」という。)の国籍を有する10
母の子として出生した原告が,血縁上の父子関係のない日本国民である男性か
らコロンビアにおいて認知を受けたとして,国籍法の一部を改正する法律(平
成20年法律第88号。以下「平成20年改正法」といい,この法律による国
籍法の改正を「平成20年改正」という。)附則4条1項の規定による国籍取
得の届出をしたところ,国籍取得の条件を備えておらず,日本国籍を取得して15
いないものとされたことから,日本国籍を有することの確認を求める事案であ
る。
1関係法令の定め
別紙のとおり(別紙において定めた略語は,以下の本文においても用いるこ
ととする。)20
2平成20年改正に至る経緯等
(1)旧国籍法3条1項は,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生
した子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(すなわち,
準正のあった)場合に限り,20歳未満の間に届出をすることによる日本国
籍の取得を認めていた。25
(2)最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集
62巻6号1367頁(以下「最高裁平成20年判決」という。)は,旧国
籍法3条1項が,出生した後に日本国民である父から認知されたにとどまる
子と準正のあった子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせている
ことは,遅くとも最高裁平成20年判決に係る上告人が国籍取得届を提出し
た平成15年当時において,憲法14条1項に違反していた旨判示した。5
(3)最高裁平成20年判決を受け,平成20年改正法が成立し,平成20年1
2月12日に公布された。平成20年改正法により,旧国籍法3条1項の規
定が現行の国籍法3条1項に改められるとともに,経過措置として,平成1
5年1月1日から平成20年改正法の施行日(平成21年1月1日)の前日
までの間において平成20年改正後の国籍法3条1項の規定の適用があると10
するならば同項の要件を備えていた者で20歳を超えたことにより同項の規
定による届出ができないものについては,所定の条件を備えるときは,施行
日から3年以内(天災その他その責めに帰することができない事由によって
この期間内に届け出ることができないときは,その届出の期間は,これをす
ることができるに至った時から3月)に限り,届出により日本国籍を取得で15
きることとなった(平成20年改正法附則4条,6条)。
3前提事実(証拠等を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)原告は,1976年(昭和51年)▲月▲日,コロンビアにおいて,同国
の国籍を有する母Aの嫡出でない子として出生した。
(2)日本国民であるBは,1988年(昭和63年)12月21日,コロンビ20
アにおいて,原告の認知(以下「本件認知」という。)をした。(甲1,2
の2)
原告とBとの間には血縁上の父子関係はない。
(3)原告は,平成2年7月29日に本邦に上陸し,以後本邦に在留していたと
ころ,平成16年1月31日,強盗致傷事件の被疑者として逮捕され,平成25
15年4月27日から同年12月2日にかけての3件の強盗致傷事件につい
て起訴され,平成16年11月10日,横浜地方裁判所C支部において,強
盗致傷の罪により,懲役13年に処する旨の有罪判決を受けた。原告は,同
判決を不服として控訴したが,平成17年3月3日に控訴棄却の判決を受け,
上記有罪判決は,同月18日に確定した。(甲6ないし8,17,乙3)
原告は,その後,D刑務所に収容され,平成27年9月1日,仮釈放によ5
り同刑務所を出所し,同日,原告が出入国管理及び難民認定法24条4号ロ
(不法残留)及び同号リ(刑罰法令違反)に該当するとの容疑により発付さ
れていた収容令書に基づき,東京入国管理局収容場に収容された。原告は,
その後,平成28年3月3日,同収容場から入国者収容所東日本入国管理セ
ンター(以下「東日本センター」という。)に移送され,同年7月8日,仮10
放免を受けて東日本センターを出所した。(甲8ないし12,乙3)
原告は,上記のとおり平成16年1月31日に逮捕されてから平成28年
7月8日に東日本センターを出所するまでの間,保釈等により身体の拘束を
解かれることはなく,身体の拘束を受け続けた。(争いのない事実,弁論の
全趣旨)15
(4)原告は,平成28年10月5日,法務大臣に対し,平成20年改正法附則
4条1項の規定による国籍取得の届出(以下「本件届出」という。)をした。
(乙1)
(5)さいたま地方法務局長は,平成29年2月21日,原告に対し,本件届出
は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知した。20
4争点及び当事者の主張
本件の争点は,原告が国籍取得の条件を備えているか否かであり,この点に
ついての当事者の主張の要旨は,以下のとおりである。
(原告の主張の要旨)
(1)本件認知が有効であること25
アコロンビア1968年法第75号1条柱書きは,実子の認知は撤回でき
ないと定め,同条1項は,認知は出生証明書に認知をする者が署名してなさ
れると定め,同条2項は,認知は公正証書によってなされると定めている。
また,コロンビア民法248条2項は,認知に関し,利害関係人等が異議申
立てをすることができるのは,血縁関係のないこと等を知ってから140日
以内と定めている。5
本件において,Bは,1988年(昭和63年)12月21日,出生届に
認知者として署名し,公正証書によってそれをなしたものであるところ,こ
のようにBがした本件認知は撤回できず,利害関係人による異議申立てもな
いことから,コロンビア法上,本件認知は有効に確定している。
イ法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という。)29条によ10
れば,Bによる原告の認知については,Bの本国法である日本法か,原告
の本国法であるコロンビア法が準拠法となるから,本件認知が無効となる
ためには,日本法及びコロンビア法のいずれにおいても無効でなけらばな
らない。そして,日本法では,認知は,利害関係人の訴え(認知無効の訴
え)を受け,これを無効とする判決があれば無効となり,他方,コロンビ15
ア法では,利害関係人が,認知による親子関係が生じたことを知ってから
140日以内に異議を申立て,異議が認められたときに無効となると定め
ているところ,本件においてこのような訴えないし異議申立てがないこと
からすると,本件認知は,無効とはいえない。本件認知は,コロンビア法
を準拠法とし,完全に有効なものである。20
ウ法適用通則法42条は,公序則による外国法の適用排除を定めるところ,
国籍取得のための仮装認知の場合には,公の秩序又は善良の風俗(以下単
に「公序」という。)の問題となるから,この場合,認知の効力は,法適
用通則法42条が適用され,それ以外の場合,すなわち,認知が家族関係
の構築を目的としてなされる場合には,公序の問題とはならないので,法25
適用通則法29条によるコロンビア法の適用が認められる。そして,血の
つながりのない者を血がつながっていると謀ってされた仮装認知により
国籍取得を認めるということは,日本国の公序に反するので,そのような
国籍取得のための仮装認知については,訴えや異議を待たず,民法90条
を類推して当然に無効となると解される。
しかしながら,以下のとおり,本件認知は国籍取得のための仮装認知で5
はなく,本件認知には何ら日本国の公序に反する事実は存在しないから,
本件認知は,法適用通則法42条の適用を受けるものではない。すなわち,
Bが昭和63年12月21日にコロンビアにおいて本件認知をしたのは,
当時,既に,原告の母であるAと婚姻し,日本において夫婦としての生活
を構築していたところ,そこに,それまで原告の祖母らの監護に委ねられ10
ていた原告とその弟を,原告の祖母の死に伴い,自分の子供として迎え入
れることの決意の表明として行ったものであり,本件認知は,純然たる家
族間の信義に基づくものである。
(2)平成20年改正法附則4条が違憲又は違法であること
旧国籍法3条1項が,父母の婚姻の事実の有無により,日本国籍付与につ15
いて差異を設けていた理由は,日本国民である父が日本国民でない母と法律
上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの
我が国との密接な結び付きが認められることにあるところ,最高裁平成24
年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻
6号1320頁によれば,婚姻ないし親子関係に対する国民の意識が平成120
3年7月の時点で変容していたというのであるから,既に変容している婚姻
ないし親子関係との結び付きの濃淡をもって国籍付与の有無を決めるという
旧国籍法3条1項の規制は,遅くとも平成13年7月の時点では,我が国と
の密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との
合理的関連性を失っていたというほかない。そうすると,旧国籍法3条1項25
は,遅くとも平成13年7月の時点で,上記立法目的との合理的関連性を欠
き,憲法14条に違反していたといえる。
それにもかかわらず,平成15年1月1日を基準として取扱いを異にして
いる平成20年改正法附則4条は,憲法14条に違反するか,あるいは,立
法においては本来例文として読まなければならない最高裁平成20年判決の
「遅くとも上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時」という説示5
部分に何らかの法的意味を読み込んでしまったものと考えざるを得ず,現行
の国籍法3条に違反する。
したがって,原告に日本国籍を認めなかった国の判断は違憲又は違法であ
り,原告には日本国籍が認められるというべきである。
(3)平成8年7月19日時点で20歳未満であった原告に最高裁平成20年判10
決の法理が適用されること
原告は,平成8年7月19日時点で20歳未満であったところ,以下のと
おり,旧国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件としていたことは,同日の
時点においても,合理性を欠き,憲法14条に違反していた。したがって,
最高裁平成20年判決の法理に照らせば,平成8年7月19日時点で20歳15
未満であった原告には日本国籍が認められる。
ア最高裁平成20年判決の説示に照らせば,平成15年1月1日時点に限
らず,そもそも,旧国籍法3条1項が準正を要件としていたこと自体が合
理性を欠いていたのであり,それにもかかわらず,合理性があるというの
であれば,合理性があると主張する被告側に立証責任があるというべきで20
ある。具体的には,被告が,平成8年7月20日から平成14年12月3
1日までのいずれかの時点で,婚姻準正の有無で国籍取得の有無を分ける
という規制が合理的関連性を失った,すなわち,少なくとも,この間のあ
る時点では,規制に合理的関連性があった,という立証に成功しない限り,
平成15年1月1日の時点で,規制に合理的関連性がなくなっていた以上,25
平成8年7月19日の時点でも,規制に合理的関連性はなくなっていたと
いう推認が働くことになる。
イ最高裁平成20年判決が,遅くとも平成15年1月1日時点で合理性を
欠くと判断した理由は,①家族生活・親子関係に関する意識の多様化,②
日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子の増大並びに
③諸外国の動向及び条約の存在であるところ,これらの判断要素について,5
平成8年7月19日時点でいかなる状況であったかを検討すると,以下の
とおりである。
(ア)家族生活・親子関係に関する意識について
平成14年1月1日から同年12月31日までの間に出生した子のう
ち,嫡出でない子の占める割合は1.87%であるのに対し,平成7年10
1月1日から同年12月31日までの間のそれは1.55%であり,平
成7年中に出生した非嫡出子の割合と平成14年中に出生した非嫡出子
の割合とで,有意の差は存在しない。そうすると,平成15年1月1日
の時点と平成8年7月19日の時点とで比較しても,出生数に占める非
嫡出子の数の割合に有意の差はなく,家庭生活や親子関係の実体が変化15
し,多様化したという事実は,平成8年7月19日の時点で,既に認め
られる。
また,家庭生活や親子関係の実体変化と多様化の原因である,我が国
における社会的,経済的環境等の変化,核家族化の促進や,高度経済成
長の一巡と低成長時代という経済環境は,平成8年7月19日の時点で20
も平成15年1月1日の時点と同じく認められており,最高裁平成20
年判決が前提とした家族生活・親子関係に関する意識の変化は,既に平
成8年7月19日の時点でも認められる。
(イ)日本国民である父と日本国民でない母との間の子の数について
夫妻の一方が外国人である婚姻のうち,夫が日本人である婚姻は,平25
成8年頃には,既に年間2万7000件から2万8000件,割合にし
て約3.6%に達していたのであり,国際化の進展に伴い,渉外婚姻が
増えてきたという事実は,平成8年頃に,既に認められていた。それに
伴い,一方が外国人である夫婦から生まれた子の出生数も増え,平成8
年中に出生した両親の一方または双方を外国人とする子の出生数は1万
1370人であったのに対し,平成15年中のそれは1万1157人で5
あり,むしろ,平成8年度中の方が,出生数は多かった。この統計は,
日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子の数そのもの
を示すものではないが,両親の片方が日本人である場合も同様の推移を
たどっていたと推認されるから,平成8年において,既に,日本国民で
ある父と日本国民でない母との間に出生する子が増加していたという事10
実が認められる。
そうすると,最高裁平成20年判決が前提とした,我が国の国際化の
進展に伴い,国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日
本国民でない母との間に出生する子が増加しているという事実は,平成
8年7月19日の時点でも,同様に認められる。15
(ウ)諸外国の動向及び条約の存在について
我が国は,平成8年7月19日の時点で,既に市民的及び政治的権利
に関する国際規約並びに児童の権利に関する条約を批准していた。また,
1997年のヨーロッパ国籍条約は,国籍に関して男女の別を理由とす
る区別を否定し,出生の時に親の一方が締約国の国籍を有していた子に20
は法律上当然に国籍を取得することを定めなければならないと定めてお
り,非嫡出子に対する法的な差別を許さない条約であるところ,同条約
は,平成4年12月,国籍専門家委員会が研究に着手し,平成7年2月
に条約草案が公表され,その後,諮問会議,人権運営委員会,ヨーロッ
パ移民委員会,国際公法諮問特別委員会などの協議を経て,平成8年125
1月29日,条約案がヨーロッパ法律協力委員会によって完成され,平
成9年5月14日,閣僚委員会によって正式に採択され,同年11月6
日から署名のために開放されたという経緯をたどっており,このことか
らすると,既に,平成7年2月に条約草案が公表された時点で,諸外国
においては,非嫡出子に対する法的な差別を解消する方向にあったこと
がうかがわれる。5
そうすると,最高裁平成20年判決が理由とした諸外国の動向及び条
約は,平成8年7月19日の時点でも,平成15年1月1日の時点と同
様に存在していた事実である。
ウ以上から,旧国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件としていたことは,
平成8年7月19日の時点においても,その合理性を喪失していたといえ10
る。
(4)被告の主張に対する反論
被告の主張は,認知の私法上の効力と無関係に,法律概念の相対性を前提
として,国籍法3条1項にいう認知を,認知をした父又は母と子の間に血縁
関係がある場合の認知のことをいうと縮小解釈する枠組みを採用すべきとす15
るものであるが,かかる枠組みは妥当でない。
なぜなら,国籍法は,国家の構成員の範囲を定める国家存立の基本に関す
る公法であり,その解釈に当たっては,拡張解釈や類推解釈を極力避けるこ
とが要請される上,国籍法においては,親子関係等,私法上の効力を前提と
せざるを得ないのであり,国籍法3条1項に規定する「認知」という文言の20
解釈についても,私法上の効力を無視した解釈をすることは妥当ではなく,
仮に,国籍法における「認知」の解釈は,民法等の私法の規定による規律と
は無関係に,国籍法独自の解釈の問題として考えることができるとすると,
日本国民たる要件に国籍法の解釈という行政権による恣意的な判断が介在す
ることになり,事案ごとに結論が左右されることになってしまうからである。25
仮に,国籍法3条1項にいう「認知」を,私法上の認知の効力と切り離し,
「血縁上の親子関係がある者によりなされた認知」のように縮小解釈すると
なると,例えば,客観的には,血縁上の親子関係がなかった者がした認知で
あったが,国籍法3条1項の届出の時には,その事実が判明しなかった場合
(外国人母が,懐胎の可能性のある時期に,日本人男性及び外国人男性と性
的関係を持ち,日本人男性が認知していたが,後日,日本人男性との血縁上5
の親子関係が否定された場合や,いわゆる代理母制度を利用して海外で日本
人父の精子を用いて懐胎したが,取り違えにより外国人の精子が用いられて
しまった場合等),一旦届出により日本国籍が与えられたとしても,日本人
との血縁関係がない者に国籍法3条1項の適用がない以上,日本国籍を否定
することになるが,このような結果は,当該認知をした者(父)にとっても,10
認知を受けた子及びその母にとっても,極めて酷である。
したがって,被告の主張に係る上記の枠組みは妥当でなく,私法上の効力
を前提条件として国籍法の解釈を行うという枠組みが妥当である。
(被告の主張の要旨)
(1)国籍法3条1項等による国籍取得の届出は,認知をした父又は母と子に血15
縁関係があることを前提とした制度であり,血縁関係のない日本国民との間
で仮装認知がされたにすぎない者は,国籍法3条1項にいう「父又は母が認
知した子」に該当し得ないこと
ア以下に指摘する諸点に鑑みれば,国籍法3条1項による国籍取得の届出
及び平成20年改正法附則4条1項による国籍取得の届出(以下,併せて20
「国籍法3条1項等による国籍取得の届出」という。)は,認知をした父
又は母と子に血縁関係があることを前提とした制度であることが明らか
である。
(ア)我が国が原則として採用している血統主義は,血縁関係のある親子
関係を前提としていること25
我が国の国籍法は,出生による国籍の付与につき,原則として血統主
義,すなわち,自国民の子として出生した者に対して,自国の領土内で
出生したかどうかを問わずに,自国の国籍を付与する主義を採用してい
る(国籍法2条1号,2号)。そして,国籍法2条1号,2号に基づき,
子が出生により日本の国籍を取得するには,子の出生時に,日本国民た
る父又は母との間に法律上の親子関係が存在しなければならないところ,5
法律上の親子関係は,自然的ないし生物学的親子関係,すなわち,血縁
関係のある親子関係を前提としているものであり,このことは,認知者
が血縁上の父子関係がないことを理由に認知の無効を主張することの可
否が争われた認知無効確認請求事件につき,最高裁平成25年(受)第
442号同26年3月28日第二小法廷判決・集民246号117頁(以10
下「最高裁平成26年3月28日判決」という。)が,「認知は,血縁
上の父子関係を前提として,自らの子であることを認めることにより法
律上の父子関係を創設する制度であると解されるところ,血縁上の父子
関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反す
るものであって無効というべきである。」旨判示していることからも明15
らかである。
(イ)国籍法3条1項等は血統主義の補完措置として設けられたこと
旧国籍法3条の規定が昭和59年に設けられた趣旨は,「日本国民で
ある父と日本国民でない母との間に出生した嫡出子が生来的に日本国民
を取得することとの均衡を図ることによって,同法の基本的な原則であ20
る血統主義を補完する」ものである(最高裁平成20年判決参照)。そ
して,平成20年改正により国籍法3条の要件が準正(父母の婚姻及び
認知)から認知のみに変更されたとしても,血統主義の補完措置である
とする上記の趣旨がなお維持されていることは明らかであり,それは,
経過措置規定である平成20年改正法附則4条1項においても同様であ25
る。
(ウ)国籍法施行規則1条5項等においても,認知をした父と子に血縁関
係があることを前提とした取扱いをしていること
国籍法施行規則1条5項は,国籍法3条1項等による国籍取得の届出
において届書に添付しなければならない書類として,①認知に至った経
緯等を記載した父母の申述書(国籍法施行規則1条5項3号),②母が5
国籍の取得をしようとする者を懐胎した時期に係る父母の渡航履歴を証
する書面(同項4号)及び③その他実親子関係を認めるに足りる資料(同
項5号)を掲げているところ,これら書類を添付しなければならないと
した趣旨が,認知をした父と子に血縁関係があるのか否かを確認するた
めであることは明らかである。このように,認知をした父と子に血縁関10
係があることを前提としていることは,国籍法施行規則からも導かれる。
(エ)我が国の国籍法は,平成20年改正の前後を通じ,「仮装認知」に
よる形態によって国籍を取得させる事態を想定していないこと
旧国籍法3条が届出による国籍取得の要件として準正を定めた趣旨は,
我が国の国籍法がその立法政策の基調とする血統主義を補完する観点か15
ら,日本国籍を有する者と被認知者との血縁関係を前提とした認知が存
することを前提に,なお,仮装認知,すなわち,血縁関係がないにもか
かわらず「認知」を行ったかのような事態により,当該被認知者に我が
国の国籍を取得させることを防止すること等にあり,このことからも,
旧国籍法が,本件の原告のごとく,血縁関係のない日本国民から「仮装20
認知」を受けたにすぎない者に国籍を取得させる事態をおよそ想定して
いなかったことは明らかである。
また,平成20年改正によって,国籍法3条の要件が準正(父母の婚
姻及び認知)から認知のみに変更されることとなり,その改正の際には,
とりわけ,「仮装認知」による虚偽の届出の増加が憂慮されたところ,25
その改正に係る国会質疑における政府側の回答において,当時の政府参
考人(法務省民事局長)は,日本国民と血縁関係のない「仮装認知」の
形態による国籍取得という事態を明確に否定している。さらに,平成2
0年改正においては,仮装認知を念頭においた虚偽の届出を防止するた
めの制裁措置として,新たに罰則規定(国籍法20条)が置かれた。こ
のことも,平成20年改正後の国籍法が,血縁関係のない日本国民によ5
る「仮装認知」という形態による国籍取得という事態を想定していない
ことの表れである。
イ国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」の解釈
民法779条の認知とは,婚姻外に生まれた子,すなわち嫡出でない子
を血縁上の父母が自己の子であることを認めることにより,血縁上の親子10
を法律上の親子とする行為であり,血縁関係が当然の前提とされている。
そして,我が国では,婚外子に係る法的親子関係としては,①血縁上の親
子関係,すなわち,実親子関係を前提として法律上の親子関係を創設する
認知制度と,②血縁上の親子関係のないものに法律上の親子関係を創設す
る養子縁組制度のそれぞれが置かれている。この点,比15
較法上,婚姻外の法的実親子関係を成立させる認知制度の基本的な立法態
度としては,認知主義(意思主義又は主観主義)及び血縁主義(事実主義
又は客観主義)の二つが存し,前者は自己の子であることを父が承認する
行為を基礎に父子関係を認める立法であり,後者は,血縁関係を示す一定
の事実により父子関係を認める立法である。我が国の民法は前者の認知主20
義を採用しているが,留意すべきは,いずれの立法主義の立場に立っても
血縁関係が存在することを当然の前提としているということである。それ
ゆえ,我が国の法体系において,「認知」とは,その字義,制度趣旨や沿
革に照らしても,血縁上の親子関係を当然の前提とした制度を意味するも
のと理解されているのであり,このことは,最高裁平成26年3月28日25
判決が,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度
の趣旨に反するものであって無効であると判示していること等からも裏
付けられるものである。
以上の認知制度の趣旨に照らせば,国籍法3条1項における「父又は母
が認知した子」が,その文言上,認知者と当該子との血縁関係を前提とす
るものであることは明らかである。5
ウ原告が国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に該当しないこ

以上のとおり,国籍法3条1項等の国籍取得の届出は,認知をした父又
は母と子に血縁関係があることを前提とした制度であることは明らかで
あるところ,本件においては,原告とBとの間に血縁関係がないのである10
から,そもそも,原告は国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」
に該当せず,原告が日本国籍を取得していないことは,本件認知に係る準
拠法及び当該準拠法に照らした本件認知の有効性について検討するまで
もなく,明らかである。
(2)本件認知に係る準拠法について検討しても,本件認知が無効であること15
ア本件認知は,コロンビア法における認知の要件を満たさないこと
(ア)父との間の親子関係に関する認知の準拠法については,子の出生当
時における父の本国法(本件では日本法)に加えて,認知当時におけ
る認知する者又は子の本国法(本件ではコロンビア法)のいずれによ
っても認知ができることとされており(法適用通則法29条2項),20
いわゆる選択的連結の方法が採用されている。
コロンビア法においても,我が国の民法と同様,非嫡出の父子関係に
ついては認知主義が採用されているところ,コロンビア法における任意
認知の方法には,以下の①ないし④の方法がある。
①父親が,子の出生登録届出にあたり,その届書に宣言者又は証人で25
あることを明記し,同書に署名する方法
②公証人に対し,提出する文書による方法
③遺言による方法。この場合,遺言の取消しによっても,取消し前の
遺言によって確立された認知には変更はない。
④裁判官に対し示す方法。ただし,その裁判の主要目的が認知にない
場合も含む。5
このように,コロンビア法は,非嫡出の父子関係について認知主義を
採用しており,上記①ないし④という任意認知の方法を定めていること
からすれば,コロンビア法においても,認知をする者と子の間に,血縁
上の父子関係を要求しているものと解される。
そして,本件において,Bがコロンビアで行った本件認知は,上記②10
の方法によるものと解されるが,原告の出生登録証明書には,「父親」
欄の姓名として「F」,裏面の「非嫡出子の認知」欄の「認知をする父
親の署名」として「G」と記載されていることからも,コロ
ンビア法が血縁上の父子関係を要求していることは明らかである。
したがって,本件認知について,仮に法適用通則法29条が適用され,15
コロンビア法が準拠法とされたとしても,本件認知がコロンビア法にお
ける認知の要件を満たさないことは明らかであるから,本件認知は無効
であると解される。
(イ)原告は,コロンビア1968年法第75号1条柱書きが,認知は撤
回できないと規定していること,また,コロンビア民法248条2項20
が,認知に関し,利害関係人等が異議申立てをすることができるのは,
血縁関係のないこと等を知ってから140日以内と定めていることを
前提として,本件認知について利害関係人による異議申立て等がない
ことからすると,本件認知はコロンビア法上有効に成立している旨主
張する。25
この点,甲第15号証の3のコロンビア法の訳文の正確性については
疑義があるといわざるを得ないが,仮に,コロンビア1968年法第7
5号1条の規定が甲第15号証の3のとおりであったとしても,同条柱
書きが「実子の認知は撤回できず,次のようにしてなされる」と規定す
るとおり,同条の規定は,飽くまで「実子」を認知することを前提とし
ているものであり,「実子」が,その文言どおり「血縁上の子」を指す5
ことは明らかである。そうすると,血縁上の親子関係がないBが行った
本件認知は,「実子」の認知ではなく,認知の要件について規定した同
条に該当しないのであるから,認知が有効に成立しているとは認められ
ない。
また,甲第16号証に記載されたコロンビア民法248条は「嫡出子」10
についての規定であり,「認知」についての規定であるとは解されない。
そもそも,コロンビアにおける婚外子に係る法的親子関係としては,
我が国と同様,認知制度と養子縁組制度の両者を基調とする身分法体系
を構築しているところ,血縁上の父子関係がないものが法律上の親子関
係を創設する場合には,本来的には養子縁組の手続が予定されるもので15
ある。そうすると,コロンビアにおいても,認知とは,血縁上の親子関
係を前提として,自らの子であることを認めることにより法律上の親子
関係を創設する制度にほかならず,それゆえ,血縁上の父子関係がない
にもかかわらずされた認知は無効であると解することが相当である。
以上によれば,コロンビア法においても,本件認知が有効に成立して20
いるとは認められない。
イ仮にコロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとしても,
そのようなコロンビア法の規定は法適用通則法42条により適用されな
いこと
(ア)仮にコロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとして25
も,そのような血縁上の親子関係がないにもかかわらず有効とされる
ような外国法における認知の規定は,以下のとおり,公序(公の秩序
又は善良の風俗)に違反し,法適用通則法42条により適用されない。
(イ)すなわち,血縁上の親子関係がないにもかかわらず有効とされるよ
うな外国法における認知の規定は,我が国における認知制度の本来の
趣旨に反するものであり,婚外子に係る法的親子関係として認知制度5
と養子縁組制度の両者を基調とする我が国との身分法体系とも抵触を
来すものである上,仮に,そのような認知が公序に違反し
ないとされた場合,仮装認知が増加し,本来日本国籍を取得するべき
ではないような者が日本国籍を取得して日本国民としての数々の権利
を行使することとなり,ひいては我が国の治安等にも悪影響を与える10
ことになるなど,我が国にとって極めて深刻な弊害が生じることは明
らかである。
このことに鑑みると,血縁上の親子関係がないにもかかわらず有効と
されるような外国法における認知の規定は,当事者の動機のいかんにか
かわらず公序違反となり,法適用通則法42条により適用されないとい15
うべきである。
したがって,本件において,仮にコロンビア法において本件認知が有
効であると解し得たとしても,そのようなコロンビア法の規定は公序違
反となり,法適用通則法42条により適用されないこととなる。
(ウ)なお,原告は,血縁上の親子関係がない者の認知について,当該認20
知をする目的が法律上の親子関係を生じさせる目的であれば有効とな
り,国籍取得をさせる目的であれば無効であると主張するようである
が,そもそも血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は認
知制度の本来の趣旨に反するものであること等に鑑みると,当事者の
動機いかんによって公序違反の有無の判断が左右されるなどというこ25
とは相当でなく,原告の上記主張は失当である。
ウ準拠法となる日本法によれば,本件認知が無効であること
以上によれば,本件認知はそもそもコロンビア法により有効とされない
か,又は,コロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとして
も,法適用通則法42条によりそのようなコロンビア法の規定は適用され
ない。そして,コロンビア法の適用が排除される以上,準拠法となる日本5
法によれば,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知
制度の本来の趣旨に反するものであって無効である(最高裁平成26年3
月28日判決)ため,本件認知は無効である。
以上の理由からも,原告が国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した
子」に該当しないことは明らかである。10
第3当裁判所の判断
1国籍法3条1項にいう「認知」の意義について
(1)国籍法2条1号は,子は出生の時に父又は母が日本国民であるときに日本
国民とする旨を規定して,日本国籍の生来的取得について,いわゆる父母両
系血統主義によることを定めている。そして,国籍法3条の規定する届出に15
よる国籍取得の制度は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国
民でない母との間に出生した子であって胎児認知を受けていないものについ
て,当該父の認知により当該父との間で法律上の親子関係を有するに至るこ
とのほか同条1項の定める一定の要件を満たした場合に限り,法務大臣への
届出によって日本国籍の取得を認めるものであり,出生の時に日本国民との20
法律上の親子関係を有しない者であっても,出生後に日本国民との法律上の
親子関係を有するに至ったことを基礎として届出による国籍の取得を認める
ことにより,同法の基本的な原則である血統主義を補完する意義を有するも
のといえる(なお,国籍法3条1項は,父又は母が認知をした場合について
規定しているが,日本国民である母の子は,出生により母との間に法律上の25
親子関係が生ずると解され,同法2条1号により生来的に日本国籍を取得す
ることから,同法3条1項は,実際上は,法律上の婚姻関係にない日本国民
である父と日本国民でない母との間に出生した子に限り適用されることにな
る。)。すなわち,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義
を基調としつつ,我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設け,
これを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとした5
ものと解される。
しかるところ,国籍法3条1項が基調とする血統主義の理念に照らせば,
認知をする日本国民と認知を受ける者(以下「被認知者」という。)との間
に法律上の父子関係が成立する前提として当該日本国民との血縁上の父子関
係が存在することは,その被認知者と我が国との密接な結び付きを基礎付け10
る重要な要素であるということができる。そして,我が国の法体系において,
認知は,血縁上の父子関係を前提として,嫡出でない子を自らの子であると
認めることにより法律上の父子関係を創設する制度であるから,国籍法3条
1項にいう「認知」も,それが血縁上の父子関係を前提としてされる行為で
あることを当然の前提として含意しているものと解される。15
したがって,国籍法3条1項にいう「認知」は,当該認知が認知の要件を
具備しているか否かを判断するための準拠法のいかんにかかわらず,認知を
する日本国民と被認知者との血縁上の父子関係を前提としてされたものであ
ることを要するものというべきである。
(2)これを本件についてみると,前提事実(2)のとおり,Bと原告との間に血縁20
上の父子関係はなく,本件認知はBと原告との血縁上の父子関係を前提とし
てされたものとはいえないから,本件認知は,国籍法3条1項にいう「認知」
には当たらない。
(3)原告は,国籍法の解釈に当たっては拡張解釈や類推解釈を極力避けること
が要請される上,国籍法においては私法上の効力(ここでいう私法とは,我25
が国の国際私法により定まる準拠法を指す。以下同じ。)を前提とせざるを
得ないこと等から,国籍法3条1項に規定する「認知」という文言の解釈に
ついて,認知の私法上の効力と無関係に,国籍法独自の解釈をすることが妥
当でない旨主張する。
しかしながら,日本国籍は,我が国の構成員としての資格であって,その
性質上,日本国籍の得喪の要件は我が国が自主的に決定できるものであり,5
国籍法は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」とする憲法10
条の規定を受けて日本国籍の得喪の要件を規定しているところ,このように,
国籍法が我が国の構成員としての資格という国家の根幹に関する事項を規律
していることからすれば,国籍法適用の前提問題となる身分関係の決定につ
いて常に私法に委ねなければならないとすることは必ずしも合理的ではなく,10
国籍法の趣旨,目的に照らして同法の規定を合目的的に解釈することも許さ
れるものというべきである。そして,認知に関していえば,我が国の法体系
において,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度
の本来の趣旨に反するものであって無効であると解されるところ(最高裁平
成26年3月28日判決(最高裁平成25年(受)第442号同26年3月15
28日第二小法廷判決・集民246号117頁)),これに反し,仮に,そ
のような認知も有効な認知であるとして法的実親子関係を成立させるような
外国法が存在し,その外国法が準拠法となる場合において,その外国法の規
律を前提として国籍法3条1項に基づく日本国籍の取得が認められるとする
ことは,同項が基調とする血統主義の理念に照らし妥当でなく,前記(1)のと20
おり,同項に規定する「認知」の意義を合目的的に解釈すべきものと考えら
れる。
したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
2本件認知の効力について
なお,仮に,国籍法3条1項にいう「認知」が単に私法上有効な認知(渉外25
的要素を含む認知については,我が国の国際私法により定まる準拠法の下で有
効な認知)を意味するものと解したとしても,Bがした本件認知は無効である
から,原告は,同項にいう「父又は母が認知した子」には当たらない。その理
由は,以下のとおりである。
(1)本件認知に係る準拠法を定める規定について
本件認知のように渉外的要素を含む認知が私法上有効に成立し,法律上の5
親子関係が生じているか否かについては,我が国の国際私法により定まる準
拠法によって判断すべきであると解される。
そして,本件認知は昭和63年12月21日にされたものであるところ,
法例を改正した法律である平成元年法律第27号の附則2条本文は,同法律
の施行前(すなわち,平成2年1月1日より前)に生じた事項については,10
なお従前の例による旨規定し,いわゆる旧法主義を採用している。これに対
し,法適用通則法附則2条は,同法の規定は,同法附則3条の規定による場
合を除き,同法の施行の日前(すなわち,平成19年1月1日より前)に生
じた事項にも適用する旨規定し,いわゆる新法主義を採用しているが,その
趣旨は,同法が公布された平成18年6月当時の法例の規定のうち,実質的15
な内容に変更がなく,現代語化されたにとどまるものについては,法例の規
定に代えて法適用通則法の規定を適用することとしてもその適用の結果に変
わりがないことから,法適用通則法の施行の日前に生じた事項についても同
法を遡って適用することとしたものであると解される。しかるところ,平成
元年法律第27号による改正前の法例(以下「旧法例」という。)は,平成20
18年6月当時の法例とは内容の異なる規定を置いていたのであるから,旧
法例によって規律されていた事項(平成2年1月1日より前に生じた事項)
については,法適用通則法附則2条の射程が及ぶものではなく,平成元年法
律第27号附則2条により,なお旧法例の適用があるものと解するのが相当
である。25
したがって,本件認知についての準拠法は,法適用通則法29条でなく,
旧法例18条により定めるべきこととなる。
(2)旧法例18条に基づく検討
ア旧法例18条1項は,認知の要件につき,父又は母に関しては認知の当
時の父又は母の属する国の法律によりこれを定め,子に関しては認知の当
時の子の属する国の法律によりこれを定める旨を規定しているから,本件5
において,Bが原告についてした本件認知が有効に成立し,その効力が完
全に発生するためには,一方において,父となるBの本国法(すなわち我
が国の法律)による認知の要件を具備するとともに,他方において,子と
なる原告の本国法(すなわちコロンビアの法律)による認知の要件を具備
することが必要であって,そのいずれの要件も具備する場合に初めて本件10
認知の効力を肯定することができ,上記各本国法の規定する認知の無効要
件が異なる場合には,一方の本国法によって認知が無効とされるときは,
他方の本国法によって認知が無効とされないときであってもなお,本件認
知の効力を否定することができるというべきである。
イそこで検討するに,Bの本国法である我が国の民法の下において,認知15
は,血縁上の父子関係を前提として,自らの子であることを認めることに
より法律上の父子関係を創設する制度であると解されるところ,血縁上の
父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反
するものであって無効というべきである(最高裁平成26年3月28日判
決)。そして,本件のように認知無効の訴え以外の訴訟において認知の効20
力が争われている場合において,血縁上の父子関係がないにもかかわらず
された認知の効力を否定するのに必ず認知無効の訴えを経なければなら
ないとする理由はなく,また,国籍法3条1項等による国籍取得の届出を
受けた法務大臣においてそのような認知の無効を主張することが制限さ
れるべき理由もないことからすれば,Bと原告との間に血縁上の父子関係25
がないにもかかわらずされた本件認知は,少なくとも本件の原被告間にお
いて,当然に無効であり,Bと原告との間に法律上の親子関係を生じさせ
る効力を有しないこととなる。
ウしたがって,本件認知がコロンビア法による認知の要件を具備し,コロ
ンビア法の下でBと原告との間に法律上の親子関係を生じさせる効力を
有するか否かについて検討するまでもなく,本件認知は無効であるから,5
原告は,国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に当たらない。
3小括
本件届出は平成20年改正法附則4条1項の規定によるものであるところ,
同項にいう「父又は母が認知した子」は国籍法3条1項にいう「父又は母が認
知した子」と同義であるため,前記1で検討したところから,原告は平成2010
年改正法附則4条1項にいう「父又は母が認知した子」に当たらない。また,
原告が平成8年7月20日に20歳に達していることからすれば,原告は,平
成15年1月1日から施行日の前日までの間において平成20年改正後の国籍
法3条1項の規定の適用があるとするならば同項に規定する要件を備えていた
者にも当たらないことが明らかである。15
この点に関し,原告は,前記第2の4(原告の主張の要旨)(2)及び(3)のと
おり,①平成8年7月19日の時点において20歳未満であった原告を適用対
象としていない平成20年改正法附則4条の定めは違憲又は違法であり,また,
②同日の時点において20歳未満であった原告に最高裁平成20年判決の法理
が適用されることにより,本件届出による日本国籍の取得が認められる旨の主20
張をする。しかしながら,いずれの主張も,平成8年7月19日の時点におい
て平成20年改正後の国籍法3条1項の規定の適用があるとするならば原告が
同項に規定する要件を備えていたことを前提とするものであるところ,原告は
同日の時点においても同項にいう「父又は母が認知した子」には当たらず,同
項に規定する要件を備えていたとは認められないから,原告の主張する平成225
0年改正法附則4条の違憲性ないし違法性及び旧国籍法3条1項の違憲性につ
いて判断するまでもなく,原告が本件届出によって日本国籍を取得したものと
は認められない。
4結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用の上,主文のとおり判決5
する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官朝倉佳秀10
裁判官野村昌也
裁判官細井直彰

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