弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
     原判決中金員の支払を命じた部分は仮に執行することができる。
         事    実
 (一) 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費
用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主
文第一・二項同旨の判決および仮執行の宣言を求めた。
 (二) 被控訴代理人の事実上の主張は、左記のほか、原判決の事実摘示と同一
であるから、これを引用する。
 (1) 仮に原判決別紙目録記載の建物(以下これを本件建物と略称する。)に
つき、訴外Aから訴外Bへの所有権の移転が認められないとしても、昭和三〇年
頃、Aは、右建物につきBに対する所有権移転登記がなされていることを知りなが
ら、なお同人に右建物を第三者に売却するように依頼した。したがつてBがこれを
被控訴人に譲渡した行為は適法な代理行為となるから、これによつて被控訴人がそ
の所有権を取得し得ることに変りはなく、しからずとしても、右のような事情のも
とにおいては、民法第九四条第二項からいつて、Bに右建物の所有権が移転してい
なかつたことをもつて、善意で同人から右建物を買い受けた被控訴人に対抗するこ
とはできない。
 (2) のみならずAは、Bと被控訴人との間の売買がなされた後において、殊
に、昭和三二年二月に広島市aの料亭「憩」で、被控訴人に対し右売買を追認し
た。
 (3) 控訴人主張の別件においてBのなした請求の認諾は、Aとの馴合い行為
であり、かつ登記請求権についてなされたもので、Aの所有権の存否を確定する効
力を生ずるものではないが、何れにしても、右認諾の効力は、その当事者たるAと
Bとの間にしか及ばす、被控訴人は、右別件においてBの補助参加人となつていた
けれども、右認諾に拘束される理由はない。
 (4) 控訴人がAから本件建物を譲り受けた旨の主張事実は否認する。控訴人
が右建物を占有する権原を有しないことは、訴訟前自認していたところであり、一
審以来のその主張の変動に徴しても明らかである。
 (三) 控訴代理人は事実関係につき次のように述べた。
 (1) もとAが所有していた本件建物につき、被控訴人主張のような各所有権
移転登記がなされている事実は認める。
 しかし、AがBに右建物を譲渡した事実はなく、同人の右所有権取得登記は、同
人が動産売買契約につき公正証書の作成を委任するため必要であると称して預かつ
たAの印鑑を冒用して、登記手続の委任状を偽造し、印鑑証明書の交付を受けて、
勝手に司法書士に依頼し登記申請をしたことによるものであつて、実体上の権利変
動を伴わない無効な登記である。
 (2) Bと被控訴人との間にも、右建物譲渡の事実は存せず、両者間の登記
は、Aからの追及を困難ならしめるための通謀虚偽表示によるものにほかならな
い。また、被控訴人が予備的に主張するような、AがBに対し右建物の売却を依頼
して代理権を与えた事実はなく、代理人としてのBの売却行為も存しないし、Aが
Bと被控訴人との間の売買を事後に追認したこともない。Bの所有権取得登記は前
記のように同人がAの不知の間に勝手に申請して得たもので、両者の通謀によるも
のではなく、しかも被控訴人は、当時本件建物がAの所有に属することを熟知しな
がら、これを不当に廉価で取得しようとして、その手先であるBに前叙のような不
当行為をなさしめたものであつて、善意の第三者ではない。それに、Bや被控訴人
が僅少の債権のために莫大な価値のある本件建物をAの了解もなく取引することは
公序良俗に反し、Aにおいてもさような取引が行なわれることは全然考えてもいな
かつたことであるから、取引の要素に錯誤があるものというべく、何れにしても被
控訴人の所有権取得は無効である。
 (3) Aは前記(1)の理由に基きBに対しその所有権取得登記の抹消を求め
る訴(広島地方裁判所昭和三八年(ワ)第四一三号)を提起したところ、同人は昭
和三九年八月二八日の口頭弁論期日においてAの請求を認諾し、ここに右登記の無
効が確定した。したがつて右登記の無効を承継した被控訴人に対する所有権移転登
記も当然無効とさるべく、まして被控訴人は右訴訟においてBのため補助参加をし
ていたものであるから、右認諾の効果に服すべきものといわなければならない。
 (4) 控訴人はAに対し工事請負代金六七万円の債権を有するところ、同人は
その支払ができないため、昭和二九年七月一〇日頃、本件建物を控訴人の手によつ
て売却しその代金で右債務を決済すること、および右決済が終了ずるまで右建物を
控訴人の所有物として占有管理することを依頼した。よつて爾来控訴人においてこ
れを占有しているもので、これを被控訴人に明け渡すべき理由はない。なお右建物
の賃料が月額八、〇〇〇円をもつて相当とするかどうかは知らない。
 (四) 当事者双方による立証関係は、当審て、被控訴代理人において、甲第五
ないし第九号証を提出し、被控訴人本人の尋問を求め、乙第五号証の二および五・
第七・第一〇号証の各成立については知らないが、その余の乙号各証は何れも真正
に成立したものである、と述べ、控訴代理人において、乙第一号証の一および二・
第二号証の一ないし四・第三号証の一ないし三・第四号証の一ないし四・第五号証
の一ないし五・第六ないし第八号証・第九号証の一および二・第一〇号証(そのう
ち第一号証の二および第二号証の三はBにより偽造された文書として)を提出し、
証人A・同B・同Cおよび控訴人本人の各尋問を求め、甲第五ないし第八号証の成
立については知らない、同第九号証の成立は認める、と述べたほか、原判決の事実
摘示と同一であるから、これを引用する。
         理    由
 (一) 本件建物をもと訴外Aが所有していたことについては、当事者間に争い
がない。
 被控訴人は右建物がAから訴外Bに譲渡された旨主張し、現にこれに照応する所
有権移転登記の存することは当事者間に争いなく、原審(第一・二回)ならびに当
審における証人Bの証言も右譲渡がなされたとするものであるが、同証言は必ずし
も首尾一貫した明確なものとはいいがたく、同人がAの債務整理のため右建物の売
却を依頼されていたにとどまるものと解しうるような趣旨(同証言によつて成立の
認められる甲第一号証もこの趣旨の書面と解すべきものである。)の供述部分もな
くはなく、原審証人Dの証言とも齟齬する部分がある。一方、当審証人Aの証言は
右譲渡の事実を否定するものであり、また右証人Bの当審における証言によれば、
前記所有権移転登記手続に使用されたA名義の委任状(乙第二号証の三)は、Bに
おいて記名し、保管中のAの印鑑を押捺して作成されたものであるところ、当時動
産売買に関する公正証書(乙第五号証の一)作成の必要上、何れにしでもBがAの
印鑑を預かる立場にあつたことが認められるから、右印鑑預託の事実から(したが
つてまた前記登記の存在から)直ちに、Aが所有権移転登記をなすことを承諾して
いたものと推断するわけにも行かない。以上のような事情を彼此綜合し、併せて弁
論の全趣旨に鑑みると、前記Bの証言は、全面的にはたやすく措置しがたく、結
局、被控訴人の主張するAとBとの間の所有権譲渡の事実については、これを肯認
するに足るだけの証拠が存しないものといわざるをえない。
 (二) しかしながら、前顕甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証、当審証
人Bの証言により成立の認められる甲第五号証、弁論の全趣旨により成立の認めら
れる乙第一〇号証に、前顕証人Bの各証言と当審証人Aの証言、ならびに何れも当
審および原審における被控訴人および控訴人の各本人尋問の結果を綜合すると、A
は、前記のように本件建物につきBの所有権取得登記がなされている事実を、昭和
二九年末頃までには知つたが、右建物はいずれ自己の債務整理の資に充てるつもり
で、かねてその処分方を債権者の一人であるBにも依頼していたこととて、同人に
対し右登記の抹消を強いて求めず、速かに右建物を売却して債務関係の整理をつけ
るよう、引き続き同人に依頼した事実を認めることができる。前顕証人Aの証言中
右認定に反する部分は措信しえない。
 <要旨>してみれば、BはAの所有に属する本件建物を自己の名において売却する
につき同人の同意を得ていたものと認めるのが相当であるから、その後Bの
なした右建物の処分行為は、これをもつて無権利者の専断行為というは該らず、与
えられた処分権の行使として、適法な行為たりうるものといわなければならない。
ちなみに、右処分の同意は代理権の授与とはその性質を異にするが、これをもつて
代理とした被控訴人の主張は、その法律的表現の適切を欠いたにとどまり、右処分
の授権およびその権限行使の事実自体は、その主張に含まれているところと解され
る。
 (三) 何れも成立に争いのない甲第二・第四号証と乙第四号証の一ないし四、
当審証人Bの証言により成立の認められる甲第六・七号証、前顕証人Bの各証言な
らびに原審および当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、Bは被控訴
人に対し、昭和三一年五月一日頃、本件建物を自己の所有物として概算代金四八万
円(地代や税金の滞納分の引受支払額等と清算のうえ確定する約)で売り渡し、同
年六月一四日広島法務局大竹出張所受付第一一六五号をもつて手続上適法に所有権
移転登記を了した事実を認めることができる。右証人Bの当審証言中、右の時期・
体様における売買を否定する趣旨やに解される部分は、前顕甲第五号証の記載によ
つて窺われる事後の経緯と前記登記当時における交渉との時間的先後を全く無視し
たものであつて、同証人の原審における証言や前顕被控訴人本人尋問の結果と対比
すると、措信できない。
 そうすると、Bが右建物を自己の名において売却しうる権限を与えられていたこ
とは前叙認定のとおりであるから、右売買契約によつて建物所有権は有効に被控訴
人に移転したものといらことができる。この場合、Bを所有権者として結ばれた売
買契約(売買による債権債務関係はBと被控訴人との間に生ずる。)によつて、A
から被控訴人への物権変動が生ずる結果となつても、売買の目的たる本件建物所有
権の同一性が失われるわけではないから、売買契約の効力に消長を及ぼすものでは
ない。
 (四) 以上の認定を覆えし、被控訴人の所有権取得を否定すべき事実関係を認
めさせるような証拠は存しない。
 控訴人は取引の公序良俗違反や要素の錯誤による無効を唱えるけれども、被控訴
人の所有権取得は、前叙のように、Aから与えられた処分権に基くBの売却行為に
よるところであつて、右授権(処分の同意)についても、Bの処分行為について
も、控訴人主張のような理由による無効を根拠付けうるような事実は証拠上認めら
れない。あるいはBの売却行為が、Aを排して利益を私せんとした意図に出た処分
権の乱用行為であつたとしても、被控訴人においてかかる事情を知り、または知り
うべかりしものとなすべき事実を認めうる証拠がないから、無効とはならないこと
同様である。
 なお、控訴人主張のように、AとBとの間の別訴において、本件建物に対する両
名間の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるAの請求をBが認諾したことは、被
控訴人の争わないところであるけれども、控訴人と被控訴人とは、右認諾のなされ
た訴訟の主たる当事者ではなく、認諾後の承継人でもないから、認諾が右両名に対
し拘束力を有すべきいわれはない。もつとも被控訴人が右別件においてBのため補
助参加をしていたことも当事者間に争いがないが、被参加人が相手方の請求を認諾
した以上、補助参加人がその事件でこれを争いうる余地は存しなくなるから、被控
訴人が補助参加人であつたからといつて、右認諾のなされた事実が、法律上はもと
より、事実認定における一徴憑としても、前叙の判断と抵触する意義を持ちうるも
のではない。
 (五) 右に認定した被控訴人の本件建物所有権の取得当時から、控訴人がこれ
を占有していることは当事者間に争いがない。控訴人は、右建物をAから譲り受
け、所有権者として占有管理しているものと主張し、当審における控訴人本人尋問
の結果中には、右主張にそうように認められる供述部分が存するが、右供述はその
曖昧さと弁論の全趣旨に徴しても、また当審証人Aや原審証人Eの各証言に対比し
ても、到底信用しがたく、他に控訴人の所有権取得の事実を認めさせるような証拠
は何もない。右Aの証言ならびに原審および当審における控訴人本人尋問の結果に
よれば、控訴人もAから本件建物の売却方の依頼を受け、併せて、売却されるまで
の間、右建物に居住して管理するよう頼まれていたことを窺えなくはないけれど
も、かかる事実は、被控訴人に対抗しうる占有権原として、その明渡請求を拒みう
る事由にはならない。
 そうすると、控訴人は、被控訴人に対抗しうべき権原なくして、その所有に帰し
た本件建物を占有しているものというべきところ、原審および当審における被控訴
人本人尋問の結果によると、被控訴人は右建物についての売買の交渉をしていた昭
和三一年四月下旬頃から、控訴人に対し、自己がこれを買い受ける旨を表示し、そ
の明渡しを促していたものと認められるから、被控訴人が前叙のとおり五月一日頃
買受契約を締結した上所有権取得登記を了した同年六月一四日当時には、遅くと
も、控訴人は被控訴人への所有権移転の事実を知るに至つていたものと推認され
る。それ故、他に格別の主張立証のない本件においては、控訴人は、同日以後、少
くとも過失による不法占拠者として、これにより被控訴人が被つた損害を賠償すべ
き義務あるものといわなければならない。そして、原審における鑑定人Fの鑑定の
結果によると、本件建物の同日以降における相当賃料額は一ケ月金八、〇〇〇円を
下らないものと認められるから、被控訴人は控訴人の不法占拠により右に相当する
損害を被つて来ているものというべく、控訴人は、同日以降建物の明渡しずみに至
るまで、右の割合による金員を損害賠償として支払わなければならない。
 (六) されば控訴人に対し本件建物の明渡しと右金額の損害賠償を求める被控
訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決の結論は結局正当であつて、
本件控訴は理由がない。
 よつて民事訴訟法第三八四条・第九五条・第八九条・第一九六条(家屋明渡を命
じた部分については、仮執行の宣言を附さないのが相当であると認めた。)に則
り、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 裾分一立 裁判官 横山長)

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