弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件抗告を棄却する。
       抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人田中清,同井上朗,同柏木泰英,同末永京子,同馬場康吏,同田村雅
嗣,同高橋正人の抗告理由について
 1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
 (1) 本件の本案訴訟のうち,2つの事件(大阪地方裁判所平成10年(ワ)
第11490号貸金等請求事件及び平成11年(ワ)第9243号貸金等請求事件)
は,経営が破たんしたD信用組合(以下「D信」という。)の営業の全部を譲り受
けた抗告人が,貸金債権,求償債権等に基づき,相手方株式会社E不動産及び相手
方Fに対し金員の支払等を求めたものである。また,その余の事件(同平成10年
(ワ)第11520号債権者代位請求事件,同年(ワ)第11634号債権者代位
請求事件,同年(ワ)第11654号損害賠償等請求事件)は,抗告人が,相手方
E不動産又は相手方Fの所有する不動産について,相手方株式会社G,相手方H又
は相手方Iに対し,前記各債権を被保全債権とする債権者代位権に基づき所有権移
転登記手続等を求めたものである。
 (2) 相手方らは,前記本案訴訟において,相手方F及び相手方E不動産がD
信に対する貸金債務,求償債務等を本件土地の売却代金によって弁済しようとした
ところ,D信は,本件土地についてされた根抵当権設定登記等を抹消することを不
当に拒絶して本件土地の売却を妨害し,また,相手方F及び相手方E不動産に対し
,貸付残高を雪だるま式に増大させた上,自己の利益を図る目的で,上記相手方両
名の支払利息相当分の金額を新たに融資し,これを支払利息に充当する,いわゆる
「利貸し」を行ったと主張し,これらの不法行為に基づく損害賠償請求権と抗告人
の前記各債権とを対当額で相殺する旨の抗弁を主張した。
 (3) 本件は,相手方らが,前記(2)の抗弁に係る事実等を証明するためで
あるとして,抗告人が所持する原々決定別紙文書目録一ないし四記載の各稟議書及
び付属書類一切(以下,これらを一括して「本件文書」という。)につき文書提出
命令を申し立てた事件である。相手方らは,本件文書は,貸出稟議書ではあるが,
民事訴訟法(平成13年法律第96号による改正前のもの。以下同じ。)220条
4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない特段の
事情があり,同号の文書に当たるなどと主張した。
 2 原審は,本件文書は,その開示によって所持者である抗告人に看過し難い不
利益が生ずるおそれがあるとは認められないから,「専ら文書の所持者の利用に供
するための文書」に当たらないと判断して,抗告人に対して本件文書の提出を命ず
べきものとした。
 3 本件文書は,D信が相手方らへの融資を決定する過程で作成した稟議書とそ
の付属書類であるところ,信用組合の貸出稟議書は,専ら信用組合内部の利用に供
する目的で作成され,外部に開示することが予定されていない文書であって,開示
されると信用組合内部における自由な意見の表明に支障を来し信用組合の自由な意
思形成が阻害されたりするなど看過し難い不利益を生ずるおそれがあるものとして
,特段の事情がない限り,民事訴訟法220条4号ハ所定の「専ら文書の所持者の
利用に供するための文書」に当たると解すべきである(最高裁平成11年(許)第
2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁参照)。
 そこで,本件文書について,上記の特段の事情があるかどうかについて検討する
と,記録により認められる事実関係等は,次のとおりである。
 (1) 本件文書の所持者である抗告人は,預金保険法1条に定める目的を達成
するために同法によって設立された預金保険機構から委託を受け,同機構に代わっ
て,破たんした金融機関等からその資産を買い取り,その管理及び処分を行うこと
を主な業務とする株式会社である。
 (2) 抗告人は,D信の経営が破たんしたため,その営業の全部を譲り受けた
ことに伴い,D信の貸付債権等に係る本件文書を所持するに至った。
 (3) 本件文書の作成者であるD信は,営業の全部を抗告人に譲り渡し,清算
中であって,将来においても,貸付業務等を自ら行うことはない。 
 (4) 抗告人は,前記のとおり,法律の規定に基づいてD信の貸し付けた債権
等の回収に当たっているものであって,本件文書の提出を命じられることにより,
抗告人において,自由な意見の表明に支障を来しその自由な意思形成が阻害される
おそれがあるものとは考えられない。
【要旨】上記の事実関係等の下では,本件文書につき,上記の特段の事情があるこ
とを肯定すべきである。このような結論を採ることによって,現に営業活動をして
いる金融機関において,作成時には専ら内部の利用に供する目的で作成された貸出
稟議書が,いったん経営が破たんして抗告人による回収が行われることになったと
きには,開示される可能性があることを危ぐして,その文書による自由な意見の表
明を控えたり,自由な意思形成が阻害されたりするおそれがないか,という点が問
題となり得る。しかし,このような危ぐに基づく影響は,上記の結論を左右するに
足りる程のものとは考えられない。所論引用の判例(最高裁平成11年(許)第3
5号同12年12月14日第一小法廷決定・民集54巻9号2709頁)は,本件
とは事案を異にするものであり,その他原決定の違法をいう論旨は採用することが
できない。
 4 以上のとおりであるから,本件文書の提出を命ずべきものとした原審の判断
は,結論において是認することができる。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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