弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一、同小林宗信の上告趣意第一点、第七点について。
 論旨は結局Aが判示金品を被告人に交付したのは単なる私交上の行為であつて、
税額査定に際し有利寛大なる取扱を得たい趣旨でしたものではないし、また、被告
人は、判示係として所得税財産税等決定の基準である所得及び財産の調査並びに評
価に関する事務を分掌していなかつたから、被告人の職務に関して判示金員を収受
した旨の判示事実の認定は虚無の証拠による違法のもので、従つて刑法一九七条一
項に問擬した原判決には擬律錯誤の違法があるというに帰する。しかし、Aの判示
金品の交付は単なる私交上の行為ではなく、同人の昭和二一年度の古物商営業によ
る所得税額査定に際し有利寛大なる取扱を得たい趣旨にもいでたものであることは、
原判決が証拠とした第一審公判調書中(一六八丁)「検事は判事に告げ証人(A)
に対し、問、証人は福来魚や金を渡した際に税金に手心を加えて呉れと云う下心が
全然なかつたと言ひ切れるか、答、税金が多くかかつて来るのを恐れて手心を加え
て貰う心算でありました」の供述記載に照して明認できるし、被告人がその情を知
つていたものであることは、原審の証拠である被告人がした公訴事実(A外五名よ
り税額の査定其の他自己の職務に関し便宜を供与されたき請託を受け同人等より…
…金品の交付を受けた事実)については相違ない旨の第一審公判廷における陳述及
び所論の被告人の供述の全趣旨に照してこれを推認するに足りるのである。次に第
一審公判廷で裁判長が証人Bに展示し、同証人が富山税務署の分課規程、被告人の
担当事務の内容はそれに相違ない旨を答えた税務署分課規程第一条税務署に直税課、
関税課及庶務課を置き其の事務を分掌せしむ(以下省略する)第二条直税課に於て
は左の事務を掌る。一、直税の賦課及減免に関すること、二、直税の検査に関する
こと(以下省略する)。の各規定及び昭和二一年名古屋財務局長訓令第二〇号、一、
直税課に第一係、第二係及び第三係を置き左の事務を分掌せしめる。但し別表に掲
げる税務署(田口、尾鷲、木本及び郡上税務署)を除く。第一係(一)所得税、財
産税及び有価証券移転に関すること((二)以下省略する)の各規定に徴し、富山
税務署直税課第一係所属の職員は同税務署管内の納税義務者ならその何人たるを問
はず義務者に対する所得税の賦課、減免に関する事務に従う法令上の職務権限を有
するものと認めうるのである。そして原判決が証拠とした証人Bの証言によれば第
一係に所属する各職員は年度毎に区域と業種とにより定められる特定の納税義務者
の所得税の調査を分担するのであるがこの分担事務の内容も係主管者において必要
と認めるときはいつでも変更されうるものであることが認められる。されば第一係
の所属職員は結局その第一係の分掌事務全般にわたつてこれに従事する職務権限を
有するものであるといわなければならぬから、いやしくも第一係の所属職員である
被告人はたとえ当該年度の担任ではなかつたとしても納税義務者Aの所租税の調査
に関し法令上その職務権限を有するものであることは多言を要しないところである。
されば原判示事実の認定には所論のように虚無の証拠によつてなした違法はなく、
従つて擬律錯誤の論旨はその前提を缺き採るをえない。
 同第二点について。
 しかし、前点において説明したとおり、Aの第一公判廷における供述は結局判示
金品を判示趣旨で被告人に交付した旨の供述と理解するに十分であるから、被告人
の自白を補強するに足るものであることはいうまでもないところである。されば原
判決は所論のように被告人に不利益な唯一の自白を証拠として被告人を有罪とした
ものではないから、憲法三八条三項違反の主張はその前提を缺きとるをえない。
 同第三点について。
 しかし、原判決挙示の証拠によつて判示事実の認定はこれを肯認することができ、
その間反経験則等の違法はない。論旨は結局独自の見解に立つて原審の適法にした
事実認定を非難するにとどまり上告適法の理由とならぬ。
 同第四点について。
 しかし、所論C証人の証言の全趣旨殊に記録上明らかな判事の「証人は左様な気
持は全然なかつたのか」の問に対して同証人が「Dさんから税金が多くかかると云
う事を聞いて居り余りかけない様に頼んでいたことがあります」と答えでい ここ
からも同証人の証言は被告人の自白を補強するに十分な証拠であるといわなければ
ならぬ。されば原判決は所論のように被告人に不利益な唯一の自白を証拠として被
告人を有罪としたものではないから、所論憲法三八条三項違反の主張はその前提を
缺きとるをえない。
 同第五点にについて。
 論旨は結局独自の見解に立つて原審の適法にした証拠の取捨判断を非難するに帰
し上告適法の理由とならぬ。
 同第六点について。
 しかし、所論E証人の第一審公判廷における証言の全趣旨殊に記録上明らかな判
事の「証人は被告人に対してウイスキーを渡した際に兄の税金を寛大にして貰いた
いと云う気持がなかつたか」との問に対し、証人Eは「左様な気持は少しはありま
した」と答えているところから見ると同証人の供述は被告人の自白を補強するに十
分なものといわなければならぬ。されば原判決は被告人に不利益な唯一の自白を証
拠として被告人を有罪としたものではないから、所論憲法三八条三項違反の主張は
その前提を缺き採るをえない。
 同第八点について。
 被告人は富山税務署直税課第一係の分掌事務である所得税の調査については一般
的にその職務権限を有するものと解すべきこと第一点、第七点について説明したと
おりであるから、たとい被告人においてEの兄の所得税の調査については補助者で
あつて決定権は同僚が有していたとしても右所得調査を目して被告人の職務権限に
属しないものとはいえないこと論をまたぬ。されば擬律錯誤の論旨はその前提を缺
き採るをえない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二七年四月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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