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平成24年(行ヒ)第267号許可処分無効確認及び許可取消義務付け,更新
許可取消請求事件
平成26年7月29日第三小法廷判決
主文
1原判決中上告人X1を除くその余の上告人らに関
する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取
り消す。
2前項の部分につき,本件を宮崎地方裁判所に差し
戻す。
3上告人X1の上告を棄却する。
4前項に関する上告費用は上告人X1の負担とする。
理由
上告代理人黒原智宏の上告受理申立て理由について
1本件は,宮崎県北諸県郡高城町(平成18年1月1日以降は合併により宮崎
県都城市高城町。以下,合併の前後を通じて「高城町」という。)に設置された産
業廃棄物の最終処分場を事業の用に供する施設として,宮崎県知事が参加人に対し
てした産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業(以下「産業廃棄物等処分
業」という。)の各許可処分及び各許可更新処分につき,高城町ほかの地域に居住
する上告人らが,被上告人を相手に,上記各許可処分の無効確認及びその取消処分
の義務付け並びに上記各許可更新処分の取消し(上告人X2にあっては上記各許可
更新処分の取消しを除く。)を求める事案である。
2原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)参加人は,産業廃棄物及び特別管理産業廃棄物(以下「産業廃棄物等」と
いう。)の収集,運搬及び処理等を目的とする株式会社である。
(2)参加人は,平成15年6月10日,産業廃棄物処理施設の設置に係る許可
を申請し,同年11月5日,宮崎県知事からその許可を受け,同17年8月23
日,上記許可に係る産業廃棄物処理施設(産業廃棄物等の埋立処分を行う施設であ
る産業廃棄物の最終処分場)を高城町内に設置した(以下,これを「本件処分場」
という。)。
上記申請の際,参加人は,本件処分場の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響
についての調査の結果を記載した書類(以下「本件環境影響調査報告書」とい
う。)を申請書の添付書類として提出した。
(3)宮崎県知事は,参加人に対し,本件処分場を事業の用に供する施設とし
て,平成17年10月25日に産業廃棄物処分業の許可処分を,同年11月30日
に特別管理産業廃棄物処分業の許可処分をし(以下,上記各許可処分を「本件各許
可処分」という。),また,同22年10月25日に産業廃棄物処分業の上記許可
に係る許可更新処分を,同年11月30日に特別管理産業廃棄物処分業の上記許可
に係る許可更新処分をした(以下,上記各許可更新処分を「本件各更新処分」とい
う。)。
(4)本件処分場は,全体面積約25万㎡,埋立地の面積約3万㎡,埋立容量約
47万㎥の管理型最終処分場であり,主要えん堤,埋立地(遮水工,浸出水集排水
管等の設備を含む。),浸出水処理施設,防災調整池等を備えている。また,本件
各許可処分及び本件各更新処分において埋立ての対象とされている産業廃棄物等の
種類は,産業廃棄物につき,燃え殻,汚泥,廃油(タールピッチに限る。),廃プ
ラスチック類,動植物性残さ,ゴムくず,金属くず,コンクリートくず,鉱さい,
がれき類,ばいじん等であり,特別管理産業廃棄物につき,廃石綿等である。
(5)上告人らのうち,上告人X1(以下「上告人X1」という。)を除くその余
の上告人らは,いずれも高城町に居住し,その居住地は本件処分場の中心地点から
約1.8㎞の範囲内の地域に所在する。上告人X1は,都城市花繰町に居住し,そ
の居住地は上記地点から少なくとも20㎞以上離れている。
上告人X1を除くその余の上告人らの居住地は,いずれも,本件環境影響調査報
告書において調査の対象とされた地域に含まれており,上告人X1の居住地は,こ
れに含まれていない。
3原審は,要旨,次のとおり判断し,上告人らは本件各許可処分の無効確認及
びその取消処分の義務付け(以下「本件各許可処分の無効確認等」という。)並び
に本件各更新処分の取消し(上告人X2にあっては本件各更新処分の取消しを除
く。以下同じ。)を求める原告適格を有しないとして,本件各許可処分の無効確認
等及び本件各更新処分の取消しを求める訴えを却下すべきものとした。
本件処分場からの有害物質の大気中への飛散や汚染水の流出の有無及び程度は本
件全証拠によっても明らかでない上,それによって上告人らに生命,身体,生活環
境等への被害が生じ得るとしても,その具体的な内容や程度を認定するに足りる証
拠はないのであるから,本件処分場における産業廃棄物等の処分により,上告人ら
の生命,身体の安全や生活環境を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれがある
ということは困難であって,上告人らは,本件各許可処分の無効確認等及び本件各
更新処分の取消しを求める原告適格を有しない。
4しかしながら,原審の上記判断のうち,上告人X1につき本件各許可処分の
無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとした部分は
結論において是認することができるが,その余の部分は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1)ア行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当
該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に
侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定
多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰
属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解さ
れる場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該
処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の
取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方
以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当
該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目
的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合
において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共
通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び
性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場
合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を
も勘案すべきものである(同条2項,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17
年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
そして,行政事件訴訟法36条は,無効等確認の訴えの原告適格について規定す
るが,同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する
者」についても,上記の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である
(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46
巻6号571頁参照)。
イまた,行政事件訴訟法37条の2第3項は,同法3条6項1号所定の義務付
けの訴えの原告適格について規定するが,当該処分の取消処分の義務付けを求める
につき「法律上の利益を有する者」についても,上記アの取消訴訟の原告適格の場
合と同様の観点から判断すべきものと解するのが相当である(同法37条の2第4
項参照)。
(2)上記の見地に立って,上告人らが本件各許可処分の無効確認等及び本件各
更新処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
ア(ア)廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成22年法律第34号による改
正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)は,廃棄物の適正な処理等をするこ
とにより生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(1条),産業
廃棄物等処分業について都道府県知事を許可権者とする許可制を採り(14条6
項,14条の4第6項),許可の要件として,その事業の用に供する施設及び申請
者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足りるものとして環境省令で
定める基準に適合するものであることを定めている(14条10項1号,14条の
4第10項1号)。これらの規定を受けて,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施
行規則(平成23年環境省令第1号による改正前のもの。以下「施行規則」とい
う。)は,産業廃棄物等処分業を行おうとする者につき,その能力に係る基準を定
めるとともに,その事業の用に供する施設に係る基準として,産業廃棄物等の種類
や処分方法に応じた施設を有すべきことを定め(10条の5,10条の17),こ
のうち埋立処分を業として行う場合については,産業廃棄物等の種類に応じ,当該
産業廃棄物等の埋立処分に適する最終処分場及びその他の施設を有すべきことを定
めている(10条の5第2号イ(1),10条の17第2号イ(1))。
産業廃棄物の最終処分場について,廃棄物処理法は,その設置に係る許可の要件
として,産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準
に適合していること(15条の2第1項1号)並びに産業廃棄物処理施設の設置及
び維持管理に関する計画が周辺地域の生活環境の保全について適正な配慮がされた
ものであること(同項2号)を要するものと定め,また,当該施設が都道府県知事
の検査において上記の設置に関する計画に適合していると認められることをその使
用の要件として定め(同条5項),さらに,上記の維持管理に関する計画に従い当
該施設の維持管理がされるべきことを定めている(15条の2の2)。これらの規
定を受けて,一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の
基準を定める省令(平成23年環境省令第1号による改正前のもの)は,産業廃棄
物の最終処分場及びその維持管理に係る技術上の基準を定め(2条),最終処分場
の種類に応じ,産業廃棄物及びこれに含まれている有害な物質の流出や浸出等を防
止するための設備が設けられ,必要な措置が講ぜられるべきこと等を定めている
(管理型最終処分場については,同省令2条1項4号において準用される1条1項
4号,5号イ等)。上記のような産業廃棄物の最終処分場についての技術上の基準
に関する定めの内容に加えて周辺地域の生活環境の保全に関する適正な配慮を要す
るとされていることに照らすと,同法においては,その設置に係る許可の要件等に
関し,産業廃棄物の最終処分場が上記の技術上の基準に適合していることにつき,
周辺地域の生活環境の保全という観点からもその審査を要するとされているものと
解される。
産業廃棄物等処分業の許可の要件として埋立処分を業として行う場合に有すべき
ものとされている最終処分場は,上記のとおり,その施設としての設置に係る許可
の要件等につき上記の審査を経るものであるところ,産業廃棄物等処分業の許可の
要件としても,その埋立処分に適するものでなければならないとされているのであ
るから,上記の技術上の基準に適合している施設であることを要するものと解され
る。そうすると,廃棄物処理法においては,産業廃棄物等処分業の許可の要件に関
しても,産業廃棄物等処分業を行おうとする者がその事業の用に供する施設として
上記の技術上の基準に適合している最終処分場を有していることにつき,周辺地域
の生活環境の保全という観点からもその審査を要するとされているものと解するの
が相当である。
(イ)加えて,廃棄物処理法は,産業廃棄物等処分業の許可には生活環境の保全
上必要な条件を付すことができるものとし(14条11項,14条の4第11
項),当該許可を受けた者の事業の用に供する施設が所定の基準(14条10項1
号,14条の4第10項1号)に適合しなくなったとき,又は生活環境の保全上必
要な条件として当該許可に付された条件に違反したときは,都道府県知事は,その
事業の全部若しくは一部の停止を命じ,又は当該許可を取り消すことができるもの
としている(14条の3第2号,3号,14条の3の2第2項,14条の6)。ま
た,同法は,産業廃棄物等処分業の許可は,5年を下らない政令で定める期間ごと
にその更新を受けなければ,その期間の経過によってその効力を失うものと定め
(14条7項,14条の4第7項),所定の期間ごとに上記(ア)のような産業廃棄
物等処分業の許可に係る要件の審査が行われるものとしている。
(ウ)また,廃棄物処理法は,産業廃棄物処理施設の設置に係る許可につき,上
記(ア)のとおりその設置に関する計画が周辺地域の生活環境の保全について適正な
配慮がされていることもその要件として定めているところ,上記許可の申請に際し
て,当該施設の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記
載した書類(以下「環境影響調査報告書」という。)を申請書に添付して公衆の縦
覧に供すべきものとし(15条3項,4項),市町村長や利害関係者の生活環境の
保全上の見地からの意見の聴取等の手続を定め(同条5項,6項),都道府県知事
が上記の設置に係る許可をするに当たっても,生活環境の保全に関し専門的知識を
有する者の意見を聴取すべきものとしている(15条の2第3項)。上記の環境影
響調査報告書には,同法の上記の規定を受けて,①設置しようとする産業廃棄物処
理施設の種類,規模及び処理する産業廃棄物の種類を勘案し,当該施設を設置する
ことに伴い生ずる大気質,水質,悪臭,地下水等に係る事項のうち,周辺地域の生
活環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして調査を行ったもの及びその現況等,
②当該施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を予測するた
めに把握した水象,気象その他自然的条件及び人口,土地利用その他社会的条件の
現況等,③上記の影響の程度を分析した結果などの事項を記載すべきものとされて
いる(施行規則11条の2)。そして,環境省が上記の調査を適切で合理的に行わ
れるものとするために上記の調査に関する技術的な事項を科学的知見に基づいて取
りまとめて公表している「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」において,上記
の調査の対象とされる地域は,施設の種類及び規模,立地場所の気象及び水象等の
自然的条件並びに人家の状況等の社会的条件を踏まえて,当該施設の設置が生活環
境に影響を及ぼすおそれがある地域として選定されるものとされている。
なお,本件処分場よりも大きい一定規模以上の産業廃棄物の最終処分場の設置に
際しては,環境影響評価法に基づく環境影響評価の実施及び環境影響評価書の作成
が義務付けられ(同法2条2項1号ヘ,3項,12条1項,21条2項,環境影響
評価法施行令1条,7条,別表第1),同法の制定の根拠として環境影響評価の推
進に係る国の責務を定めた環境の保全に係る基本法である環境基本法は,環境の保
全に関する施策を推進すること等をもって国民の健康で文化的な生活の確保に寄与
することを目的とし(1条),環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の
活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によ
って人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義し(2条3項),
公害を防止するために必要な規制の措置を講ずべきこと(21条1項1号)等を定
めている。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)の各規定については,本件各許可処分がされてから本
件各更新処分がされるまでの間における廃棄物処理法及び関係法令の改正の前後を
通じて,その実質に差異はない。
イ有害な物質を含む産業廃棄物等の埋立処分を行う施設である産業廃棄物の最
終処分場については,その設備に不備や欠陥があって当該最終処分場から有害な物
質が排出された場合には,これにより環境基本法2条3項にいう公害の発生原因と
なる大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等が生じ,当該最終処分場の周辺地域に
居住する住民の生活環境が害されるおそれがあるばかりでなく,その健康に被害が
生じ,ひいてはその生命,身体に危害が及ぼされるおそれがある。このことに鑑
み,廃棄物処理法においては,上記のような事態の発生を防止するために,前記ア
のとおり,産業廃棄物の最終処分場につき,その安全性を確保する上で必要な技術
上の基準への適合性が保持され,周辺地域の生活環境の保全が図られるための規制
等が定められており,産業廃棄物等処分業の許可に関し,その要件について最終処
分場の上記の適合性につき周辺地域の生活環境の保全という観点からもその審査を
要するとされるとともに,生活環境の保全上必要な条件を付し得るものとされ,そ
の条件の違反等を理由とする事業の停止命令や許可の取消しを行い得るなどとされ
ているものと解される。
そうすると,産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法の規
定は,産業廃棄物の最終処分場から有害な物質が排出されることに起因する大気や
土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって,その最終処分場の周辺地域に居住する
住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もってこれらの住民の健
康で文化的な生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的
とするものと解される。
そして,産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌
の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって当該最終処分場の周辺地域に居住する住民が
直接的に受ける被害の程度は,その居住地と当該最終処分場との近接の度合いによ
っては,その健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至りかねないも
のである。しかるところ,産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物
処理法の規定は,上記の趣旨及び目的に鑑みれば,産業廃棄物の最終処分場の周辺
地域に居住する住民に対し,そのような最終処分場からの有害な物質の排出に起因
する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって健康又は生活環境に係る著し
い被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるのであり,
上記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公
益の中に吸収解消させることが困難なものといわなければならない。
ウ以上のような産業廃棄物等処分業の許可及びその更新に関する廃棄物処理法
の規定の趣旨及び目的,これらの規定が産業廃棄物等処分業の許可の制度を通して
保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定
を通じて,公衆衛生の向上を図るなどの公益的見地から産業廃棄物等処分業を規制
するとともに,産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や
土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直
接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという
利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが
相当である。
したがって,産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民のうち,当該最終処
分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の
汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれの
ある者は,当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物等処分
業の許可処分及び許可更新処分の取消し及び無効確認を求めるにつき法律上の利益
を有する者として,その取消訴訟及び無効確認訴訟における原告適格を有するもの
というべきである。また,以上の理は,前記(1)イにおいて説示したところを踏ま
えると,上記許可の取消処分の義務付けを求める訴えについても,同様に解される
(廃棄物処理法14条の3の2第2項,14条の6参照)。
エ産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民が,当該最終処分場から有害
な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等
により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当た
るか否かは,当該住民の居住する地域が上記の著しい被害を直接的に受けるものと
想定される地域であるか否かによって判断すべきものと解される。そして,当該住
民の居住する地域がそのような地域であるか否かについては,産業廃棄物の最終処
分場の種類や規模等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で,当該住民の居住する地
域と当該最終処分場の位置との距離関係を中心として,社会通念に照らし,合理的
に判断すべきものである(前記最高裁第三小法廷判決参照)。
しかるところ,産業廃棄物の最終処分場の設置に係る許可に際して申請書の添付
書類として提出され審査の対象となる環境影響調査報告書において,当該最終処分
場の設置が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の対象とされる地域
は,最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染,水質の汚
濁,悪臭等がその周辺の一定範囲の地域に広がり得る性質のものであることや,前
記ア(ウ)においてみた上記の環境影響調査報告書に記載されるべき調査の項目と内
容及び調査の対象とされる地域の選定の基準等に照らせば,一般に,当該最終処分
場の種類や規模及び埋立ての対象とされる産業廃棄物等の種類等の具体的な諸条件
を踏まえ,その設置により生活環境に影響が及ぶおそれのある地域として上記の調
査の対象に選定されるものであるということができる。
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件処分場の種類や規模
及び埋立ての対象とされている産業廃棄物等の種類等は前記2(4)のとおりである
ところ,上告人X1を除くその余の上告人らは,いずれも本件処分場の中心地点か
ら約1.8㎞の範囲内の地域に居住する者であって,本件環境影響調査報告書にお
いて調査の対象とされた地域にその居住地が含まれているというのである。そし
て,上記のような本件処分場の種類や規模等を踏まえ,その位置と上記の居住地と
の距離関係などに加えて,環境影響調査報告書において調査の対象とされる地域
が,上記のとおり一般に当該最終処分場の設置により生活環境に影響が及ぶおそれ
のある地域として選定されるものであることを考慮すれば,上記の上告人らについ
ては,本件処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の
汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受
けるものと想定される地域に居住するものということができ,上記の著しい被害を
直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるから,本件各許可処分の無効
確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相
当である。
これに対し,前記事実関係等によれば,上告人X1の居住地は,本件処分場の中
心地点から少なくとも20㎞以上離れており,本件環境影響調査報告書において調
査の対象とされた地域にも含まれておらず,上記のような本件処分場の種類や規模
等を踏まえ,その位置と上記の居住地との20㎞以上にも及ぶ距離関係などに照ら
せば,同上告人については,本件処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や
土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接
的に受けるものと想定される地域に居住するものということはできないのであっ
て,上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとは認められず,
他に,同上告人が原告適格を有すると解すべき根拠は記録上も見当たらないから,
同上告人が本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告
適格を有すると解することはできない。
5以上のとおり,上告人X1を除くその余の上告人らが本件各許可処分の無効
確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しないとした原審の判断
には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をい
う限度において理由があり,原判決のうち上記の上告人らに関する部分は破棄を免
れず,また,上記の上告人らについて本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新
処分の取消しを求める訴えを却下した第1審判決も取消しを免れない。そこで,本
件各許可処分及び本件各更新処分の適法性等について審理させるため,原判決のう
ち上記の上告人らに関する部分につき,本件を第1審に差し戻すべきである。
他方,上告人X1が本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを
求める原告適格を有しないとして同上告人の訴えを却下すべきものとした原審の判
断は,結論において是認することができるから,同上告人の上告は,これを棄却す
ることとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦裁判官大橋正春裁判官
木内道祥裁判官山崎敏充)

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