弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人両名の上告趣意第一点について。
 憲法二八条は企業者対勤労者すなわち使用者対被用者というような関係に立つも
のの間において、経済上の弱者である勤労者のために団結権ないし団体行動権を保
障したもので、動労者以外の団体又は個人の単なる集合に過ぎないものに対してま
で団結権ないし団体行動権を保障したものでないこと当裁判所の判例とするところ
である。(昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日大法廷判決、集三巻六号
七七二頁、昭和二七年(あ)四〇四四号、同二九年二月二六日第二小法廷判決、昭
和二八年(あ)五二五七号同二九年六月二四日第一小法廷決定、集八巻六号、九五
一頁)。原判決の肯認する第一審判決の認定事実によれば、被告人両名はA労働者
組合に属する組合員であるところ、同組合所属の他の日傭労働者と共にB職業安定
所所長Cに対し賃銀増額並びに完全就労等の要求をなし、右日傭労働者全員に面会
せられんことを求めたところ、代表者正名以外とは面会しない旨の回答を受けたの
でこれを不満とし、(一)被告人Dは右日傭労働者約一五〇名と共同して、同安定
所の職務に従事中の同所長等職員に対し判示の通り暴言を吐き一団となつて罵詈雑
言をなし気勢を示して同所長等を脅迫し、(二)被告人Eは右(一)の犯行に呼応
して日傭労働者多数の威力を示し判示同所長名義の掲示をはぎ取り毀棄し、(三)
被告人両名は同所長より退去を要求せられたのに拘らず右日傭労働者約一五〇名と
共同して同所長の看守する同安定所を不法に占拠して退去せず、(四)被告人Dは
その頃同所で右建造物侵入罪の現行犯人として巡査部長Fに逮捕されようとした際、
同巡査部長の左腕をつかみ、その腕時計をむしりとる等の暴行を加えその公務の執
行を妨害した、というにある。右によれば、被告人等を含む判示G労働組合所属日
傭労働者の判示職業安定所に対する関係は被用者対使用者の関係でないこと明らか
であるから、この関係においては、憲法二八条は被告人等日傭労働者に対して団結
権ないし団体行動権を保障したものでないこというまでもなく、判示のような関係
からなされた被告人等の判示所為は憲法同条に保障する団体交渉その他の団体行動
権の行使に該当せず、これを正当の行為ということはできない。論旨中憲法のその
余の条規に違反する旨の主張は右憲法二八条違反を前提とするものであつて採るこ
とができない。その余の論旨は事実誤認の主張であつて採用できない。
 同第二点ないし第四点は単なる事実誤認の主張、同第五点は訴訟法違反ないし事
実誤認の主張に過ぎず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三二年二月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三

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