弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人対馬郁之進の上告趣意について。
 いわゆる公文書偽造の罪を規定した刑法第一五五条第一項には、「公務所又ハ公
務員ノ作ル可キ文書」とあつて、「公法関係において作成された文書」と言つてい
るのではないから、貯金局名義を以て発行せられる郵便貯金通帳は、公法関係にお
いて作成せられるものであるか、私法関係において作成せられるものであるかの問
題に拘わりなく、右の公文書であつて、所論のような私文書ではない。(昭和五年
(れ)第二〇三三号同六年三月一一日言渡大審院判決参照)それは又刑法第一六二
条にいわゆる有価証券でもない。それ故に原判決が本件被告人の所為に刑法第一五
五条第一項及び第一五八条第一項を適用したのは正当であつて、所論のような擬律
錯誤の違法はない。論旨は理由がない。
 弁護人水上孝正の上告趣意第一点について。
 成程原審公判調書には「記録第四丁の被告人B作成の犯罪一覧表」云々と記載さ
れていること所論の通りであるが、記録第四丁は司法警察官藤岡喜代作の作成した
「B犯罪一覧表」と題する文書であるから、右の公判調書は「B犯罪一覧表」と記
載すべきを誤記したものであることが推知せられる。この犯罪一覧表は司法警察官
の意見書の一部分であつて、意見書については適法に証拠調べがなされていること
記録の上で明かであるから、この犯罪一覧表についても当然証拠調べがあつたもの
と認められる。従つてこの犯罪一覧表を基礎として審理を進めた原審には、所論の
ような審理不尽若くは虚無の証拠により罪を断じた違法等は存しない。論旨は理由
がない。
 同第二点について。
 「被告人の原審における供述は審理不尽あり、且つ被告人提出犯罪一覧表存在せ
ざるを以て証拠と為す能はざるものである」との所論の理由なきことは、論旨第一
点について説示したところによつて自ら明かであろう。
 所論の詐欺被害届には、その被害者の職業氏名年齢欄に、それぞれ甲府郵便局長
A、富士郵便局長代人C、神田郵便局長代理D、目黒郵便局長代理Eという記載が
あつて、届出人欄に各それに照応する氏名が記されている。それ故にこれ等の被害
届が何れも各郵便局の責任ある吏員から提出されたものであることが明かである。
その中、甲府郵便局長Aの提出した被害届において被害金額を訂正した押印が届出
人の署名の下の押印と異なることは所論の通りであるが、元来被害届は被害の事実
を証明し得るものであることを以て事足り、特別の形式を必要とするものではない。
それが真正に成立したものであるか否か、その内容が真実に合致するものであるか
否かは、もつぱら裁判所の自由心証によつて判断し得るところである。若し被告人
に於てそれ等の点を争うのであれば、原審公判廷に於てその機会が与えられていた
にも拘わらず、原審の証拠調に際して裁判長からこれ等の書類につき意見弁解の有
無を問われ、その作成者の召喚を求め得る旨を告げられても、被告人も弁護人もそ
の訊問の請求もせず、その内容についても争わなかつたのである。さすれば原判決
がこれらの被害届書の記載を証拠として採用したことには、所論のような採証の法
則を誤り若くは証拠に基くことなくして断罪したという違法はない。論旨は理由が
ない。
 同第三点について。
 憲法第三六条にいわゆる「残虐な刑罰」とは、不必要な精神的、肉体的苦痛を内
容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味するのであつて、事実審の裁判官が、
普通の刑を法律が許す範囲内で量定した場合において、それが被告人の側から観て
過重の刑であるとしても、これを以て直ちに残虐な刑罰を禁止した慮法の規定に違
反するものとは言えないこと、当裁判所の屡次の判例(昭和二二年(れ)第三二三
号、同二三年六月二三日言渡大法廷判決参照)の示す通りである。論旨は、原判決
の憲法違反を理由としつつも、結局原審の自由裁量権に属する量刑の不当を主張す
ることに帰着するものであるから、上告適法の理由となり得ない。
 以上の理由により刑事訴訟法施行法第二条、旧刑事訴訟法第四四六条、最高裁判
所裁判事務処理規則第九条第四項に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年四月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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