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平成14年3月7日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 
平成13年(ワ)第316号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結の日 平成13年12月26日)
          判    決
          事実及び理由
第1 請求
 1 被告は原告に対し,金476万7181円及びこれに対する平成12年1月
25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
 3 仮執行宣言
第2 事案の概要
   本件は,労災事故に伴う安全配慮義務違反の成否が問題となった事案であ
る。
 1 争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実
 (1) 事故の発生
  ア 日時  平成12年1月25日
  イ 場所  東京都a市b町c丁目d番地eマンション(8階建て,各階6部屋)新
築工事
        上記建物の2階の西から3番目の部屋内(以下「事故現場の部
屋」「事故現場」という。)
  ウ 態様 ① 有限会社P・Gナカムラは,被告から内装のGL工事を請け負
い,原告は,同工        事を同会社からさらに請け負い,原告の従業員
Aと共に,事故現場の部屋の内装の        GL工事に従事していた。
       ② 西隣の部屋で防水ボードがないというので,事故現場の部屋の
うち東側の8畳間        にあった防水ボードを持っていくことになっ
た。
       ③ ボードは,防水ボードが1枚,普通ボードが27枚あり,部屋
内の東側壁に立て        掛けられており,防水ボードは1番奥にあっ
た。
       ④ そこで原告は,27枚の普通ボードを浮かせ,1番奥の防水ボ
ードを取り出そう        としたところ,床に置いてあった遠光器という
照明器具に躓いて倒れ,さらに,普        通ボードが倒れ,原告の右膝
に当たった(以下「本件事故」という。)。
(2) 傷害  右脛骨顆部骨折(甲1)  
 2 原告の主張
 (1) 被告の責任
 ア 被告は,本件マンション新築工事の内装下地工事を請け負い,さらに,
原告は被告から本    件事故現場の内装GL工事を請け負った。
   イ 被告は,本件内装GL工事の材料を全て仕入れて工事現場に支給し,内
装GL工事は全て    被告の現場監督,世話役の指揮命令のもとになされてい
た。
     したがって,被告の現場監督,世話役は本件マンション新築工事の内装
GL工事全般につ    いて事故が起こらないようにする注意義務があった。
   ウ ボードは,壁などに立て掛けておくと倒れたりして事故が起こる危険が
あるので,通常,    床に積み重ねておくものである。
     ところが,被告の現場監督,世話役は,被告の材料仕入業者がボードを
壁に立てかけて置    いていったのを不注意により知らなかったか,あるいは
知りながらそれを見過ごし,その結    果,本件事故が発生した。
   エ よって,被告は原告に対し,民法709条若しくは被告の現場監督,世
話役の使用者とし    て民法715条により,その損害を賠償する義務があ
る。
 (2) 傷害の程度
     平成12年1月25日 fで治療を受ける。
     平成12年1月27日から同年3月15日までの間,石井病院に入院
し,手術を受ける      (入院日数63日間)。
     同月16日から同年7月5日まで,石井病院に通院(通院実日数49日
間)。
     同月6日から同年7月19日まで,石井病院に入院し,再手術を受ける
(入院日数14日     間)。
 (3) 損害
   ア 治療費                    52万6321円
     トーマス式長下肢装具代,松葉杖代,文書代を含む。
   イ 入院雑費                   10万0100円
     1300円(1日)×77日(入院期間)=10万0100円
   ウ 休業損害                  289万8360円
    ① 原告の平成11年度の年収は510万円
    ② 退院後1か月は就労不可能であり,休業期間は平成12年1月25日
から同年8月19     日までの208日間である。
    ③ 510万円÷366日×208日=289万8360円
   エ 慰謝料                    175万5000円
     入院期間2か月,通院期間3.5か月
   オ 損害額合計                  527万9781円
   カ 既払い額(損益相殺)              51万2600円
   キ 請求額                    476万7181円
 (4) 結論
     よって,原告は,被告に対し,本件事故による損害賠償として476万
7181円及びこ    れに対する本件事故日である平成12年1月25日から
支払済みまで民法所定の年5分の割    合による遅延損害金の支払いを求め
る。
 3 原告の主張に対する認否と被告の主張
 (1) 認否
   ア 原告の主張(1)につき
    (1)ア 被告が原告経営の有限会社P・Gナカムラに発注した工事は,
本件マンション3        5所帯のうち15所帯分のGL工事である。
    (1)イ 被告が材料を現場に支給したことは認める(被告の現場監督,
世話役は1人も常        駐していない。)。
         内装GL工事の指示は,平成12年1月初旬,被告従業員Bと
原告との間でなさ        れた。
    (1)ウ 工事現場における石膏ボードの保管方法は認める。その余は否
認。
    (1)エ 争う。
   イ 原告の主張(2)につき
     不知
   ウ 原告の主張(3)につき
     ア,イ,ウ,エ,オは不知,カは認め,キは争う。
エ 原告の主張(4)につき
     争う。
 (2) 被告の主張
    本件事故は原告の重大な過失(不注意)によって発生したものであり,
被告に責任はな     い。
 4 争点
 (1) 安全配慮義務の有無
 (2) 過失相殺
 (3) 損害額
第3 当裁判所の判断 
 1 原告の主張(1)
 (1) アの事実,即ち,被告が,本件マンション新築工事の内装下地工事を請
け負い,さらに,    原告は被告から本件事故現場の内装GL工事を請け負っ
たこと,ウの事実,即ち,通常,ボ    ードは床に積み重ねておくものである
こと,壁などに立て掛けておくと倒れたりして事故が    起こる危険があるこ
とは争いがないというべきである。
 (2) イの事実について
     成立に争いのない乙第5号証及び証人Bの証言によれば,被告従業員の
Bは,株式会社清    水組から被告が請け負った本件工事現場を巡回し,現場
に問題が生じた場合に直ちに現場に    行って職人と元請(被告)との調整が
できるような体制を整え,本件工事につき資材の発     注,運び込み,職人
の手配などを全て担当し,石膏ボードの資材の搬入に際しては,荷上屋    に
資材の数量,置場所,保管方法等をその都度指示し,荷上屋が運び込んだ後はその
資材の    全てを確認していたことが認められる。また,証人Bの証言によれ
ば,Bは,床面に平積み    にされた石膏ボードが邪魔であるとの連絡を受け
た場合,石膏ボードをどけさせる,移動さ    せるなどの権限を有していたこ
とが認められる。
     これらの事実を総合すれば,被告会社は,本件内装GL工事のためにB
を現場監督として    派遣し,Bは,本件内装GL工事の指揮命令をしていた
ことを推認することができる。
     よって,請求原因(2)イは認められる。
 (3) エについて
    ア 以上に認定した事実を前提としてBの注意義務の存否について考える
に,Bは,本件内     装GL工事の現場を指揮監督する権限を有していたの
であり,かかる権限を有する者は,     本件工事を適切に遂行するために職
人と元請(被告)との調整,資材の発注,運び込み,     職人の手配等の工
事内容の具体的指示を与える等の作為義務があるのみならず本件工事現     
場の範囲において本件内装GL工事全般について事故が起こらないように配慮する
注意義     務があったと認められる。
   イ また,成立に争いのない甲第6号証,乙第1,第4,第5号証,第6
号証の1,2,原     告本人尋問の結果,証人Bの証言及び弁論の全趣旨か
ら以下の事実が認められる。
     石膏ボードは,長時間立て掛けておくと湾曲して使用できなくなって
しまい,また倒れ     て事故が発生する危険性があるものであり,通常は,
平積みにしておくものである。
     もっとも,本件工事現場には他業種の職人等が多数出入りして作業し
ていたのであり,     作業の邪魔になるため,平積みにしてある石膏ボード
が一時的に壁に立て掛けられること     があった。
     Bは現場監督として本件内装GL工事全般について事故が起こらない
ように配慮する注     意義務があり,その一環として本件工事現場において
石膏ボードが立て掛けてないかどう     か職人らから報告を受け,適宜監督
し,石膏ボードが立て掛けていることを発見した場合     には当該工事現場
の責任者に石膏ボードを移動,除去させる注意義務があった。
     本件事故発生当時,本件事故現場の部屋内の東側壁には,壁側から見
て防水ボードが1     枚,石膏ボードが27枚立て掛けてあった。各石膏ボ
ードの重量は1枚約12キログラ      ム,長辺は180センチメートルで
あった。
     本件事故発生当時,本件工事現場には,原告のほか,A(原告の部
下),大工4,5      人,電気工事職人約3人,水道・ガス設備職人約5
人がいた。
     しかるにBは,上記清水組マンション内において石膏ボードが立て掛
けてないかどうか     職人らから報告を受け,適宜監督し,石膏ボードが立
て掛けていることを発見した場合に     は当該工事現場の責任者に石膏ボー
ドを移動,除去させる注意義務があるところ,これを     怠り,ボードが壁
に立て掛けてあったのを不注意により知らなかったことにより,本件事     
故が発生したものである。
     以上を総合すれば,本件事故発生につき被告には安全配慮義務違反が
あったというべき     である。
 2 原告の主張(2)について
   成立に争いのない甲第6号証及び原告本人尋問の結果によると,原告の主張
(2)の事実が認  められる。
 3 原告の主張(3)について
 (1) 治療費
     成立に争いのない甲第2の1ないし53,第3ないし第6号証及び原告
本人尋問の結果に    よると,原告は,本件事故の日である平成12年1月2
5日から平成12年7月19日まで    の間,入院日数77日及び通院実日数
49日にわたって,本件事故による傷害の治療を受     け,治療費として合
計52万6321円(トーマス式長下肢装具代,松葉杖代,文書代合計    1
5万4461円を含む。)を支出したことが認められ,上記認定を覆すに足りる証
拠はな    い。
 (2) 入院雑費
     原告が,本件事故による傷害のため,77日間入院したことは,上記認
定のとおりで,そ    の間入院雑費として,少なくとも1日あたり1300
円,合計10万0100円を支出した    ことは容易に推認されるところであ
る。
 (3) 休業損害
     成立に争いのない甲第5号証,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に
よれば,原告の平    成11年度の年収は510万円であり,入,通院期間中
は就労不可能であったと認められ     る。また,原告は退院後1か月は就労
不可能であったと主張するが,原告は,雇用主が発行    した欠勤期間,欠勤
期間中の給与の支払いの有無等の休業損害証明書を提出しておらず,こ    れ
を認めるに足りる証拠がない。よって,休業損害は,事故日から7月19日までの
日数1    78日を上記年収に対して日割計算して算出した額合計248万0
327円と認められる。
 (4) 慰謝料
     上記認定の傷害の部位,入通院期間その他本件に現れた諸般の事情を勘
案すれば,本件事    故によって原告が受けた精神的苦痛は175万5000
円が相当である。
 (5) 過失相殺
    成立に争いのない甲第6,乙第4,第5号証,第6号証の1,2,原告
本人尋問の結果,    証人Bの証言,上記認定の事実及び弁論の全趣旨による
と,原告が取り出そうとした防水ボ    ードは,本件事故現場の東側の壁に立
て掛けてあり,しかも,防水ボードの前面には1枚あ    たり約12キログラ
ムの重量のある石膏ボードが27枚立て掛けてあったところ,以下の事    実
が認められる。
   ア 本件では,誰が石膏ボード28枚を立て掛けたかにつき当事者間で争い
がある。
     この点,被告は原告が立て掛けたと主張し,乙第5号証及び証人Bの証
言によると,GL    工事用の石膏ボードを原告以外の職人が扱うことはあり
得ず,また,Bが原告を見舞いにい    った際,原告が石膏ボードを立て掛け
たのは自分であると供述したというものである。
     一方,原告は,防水ボードを立て掛けたのは被告の材料仕入先業者であ
ると主張し,甲第    6号証及び原告本人尋問の結果によると,原告がボード
を立て掛けていたことは有り得ず,    本件事故があった際に,本件工事現場
には,原告のほか,前記A,大工4,5人,電気工事    職人約3人,水道・
ガス設備職人約5人がおり,原告及びA以外の職人で普段ボードを使用    し
ない職人がボードを立て掛けたとしている。
     原告の主張,被告の主張は相反し,いずれもその決め手を欠き,いわば
水掛け論のまま終    わっているので,直ちに防水ボードを立て掛けたのは原
告であると認定することはできず,    したがって,本件事故発生につきその
原因(過失)が全て原告にあるとは言えず,被告にも    安全配慮義務に欠け
る点(過失)があったというべきである。
  イ 次に甲第6号証,乙第5号証,原告本人尋問の結果及び証人Bの証言に
よると,原告は,    Aが本件事故現場に到着するのを待たずに一番奥に立て
掛けてある防水ボードを取り出そう    としたことが認められる。
     そもそも,本件事故は,原告がAの到着を待たずに一人でボードを持ち
出そうとしなけれ    ば発生することはなかったのである。
     そして,原告はGL工事が仕事全体の65パーセントを占めるGL工事
の専門職人であ     り,以前にも被告の内装GL工事の仕事を請け負ったこ
とがあった。ところで,防水ボード    を覆っていた石膏ボード27枚の総重
量は324キログラムであり,また,石膏ボードの長    辺は180センチメ
ートル,原告の背丈よりも高かったものであるところ,かかる状況下で    は
石膏ボードを垂直に浮かせ一人で支えるだけで相当な力が必要であり,左手で石膏
ボード    全体を支え,右手で一番奥にある防水ボード1枚を取り出すことは
極めて困難である。原告    は,かかる状況下,右手で一番奥にある防水ボー
ド1枚を取り出すことがいかに無謀で危険    極まりない行為であるのか十分
認識していたというべきである。さらに,原告は仕事を急い    でおり,Aが
来るのを待たずに一人で防水ボードを取り出そうとしたとされているが,Aは  
  本件事故現場の隣の部屋にいたのであり,原告自らAを呼びに行くなどして同
人と一緒に防    水ボードの取り出し作業をすることは十分可能であった。し
たがって,原告が一人でAが到    着する前に特別,防水ボードの取り出し作
業をする必要性・緊急性があったとは認められな    い。
   ウ そこで,原告にも本件事故発生につき重大な過失が認められ,原告の過
失と被告の過失と    を対比すると,概ね8対2の割合であると認められ,原
告の上記損害総額486万1748    円からその8割を減ずると97万23
49円となる。
   エ 損益相殺
     被告が原告に対して51万2600円を支払ったことは当事者間に争い
がない。
   オ 残損害額
     よって,原告の過失相殺後の損害額から上記損益相殺分を差し引くと残
損害額は45万9    749円になる。
 第4 結論
    以上によれば,原告の請求は,45万9749円及びこれに対する平成1
2年1月25日か   ら支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の
支払いを求める限度において理由が   あるからこれを認容し,その余は失当で
あるから棄却することとし,訴訟費用の負担について   民訴法64条本文,6
1条,仮執行宣言について同法259条第1項をそれぞれ適用して,主   文の
とおり判決する。
          前橋地方裁判所民事第2部
                   裁 判 官 東 條  宏

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