弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立て
(原告)
「被告が原告に対し昭和三七年一〇月二四日付で昭和三六年分所得税についてした
更正処分および過少申告加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は、被告の負担と
する。」との判決
(被告)
主文と同旨の判決
第二 原告の請求原因
 原告は、計理士、税理士、司法書士、経営コンサルタントならびに中小企業診断
員の業務を営むものであるが、昭和三六年分所得税について、損失の確定申告をし
たところ、被告は、昭和三七年一〇月二四日付で、事業所得に係る月賦手数料六万
二、九二五円、貸倒金一、〇〇〇万円および借入金利子七五万円の各必要経費算入
を否認し、月賦手数料否認に伴う固定資産の取得価額の修正による減価償却費二、
四六四円を必要経費に追加計上して、合計所得金額を三〇〇万一、五三〇円、税額
を七六万九、五四〇円と更正し、過少申告加算税三万八、四五〇円の賦課決定(右
更正および賦課決定をあわせて以下本件処分という。)をした。
 しかし、本件処分は、次に述べる理由によつて違法である。
 すなわち、(1) 月賦手数料六万二、九二五円は、乗用自動車の購入代金で、
現金正価の割賦金額とこれに対する金利の額とを合算したもので、その実体は、販
売業者から金融を受けた自動車購入代金の元利弁済金であるから、その利息相当額
は、自動車(固定資産)の取得原価に含まれず、所得金額の計算にあたつては必要
経費に計上されるべきものである。このことは、法人税に関する昭和三五年直法一
―二八通達の二が明らかに認めているところであり、法人税と所得税とで月賦手数
料についての取扱いを異にすべき合理的根拠はないばかりでなく、昭和三五年二月
二日直所一―一一「八九」の五の三および昭和三八年九月一〇日直審(所)七七
も、固定資産の購入のために借り入れた資金の利子のうち、当該固定資産の使用開
始にいたるまでの期間に対応する部分に限り、これを当該固定資産の取得価額に算
入することにしているのは、その反面において、本件の月賦手数料のような使用開
始後の利子に相当するものを必要経費として処理することを認める趣旨に出たもの
というべきである。若し被告のように月賦手数料を自動車の取得価額に算入すべき
ものとすれば、購入者が割賦金を途中で一括弁済したような場合には、その未経過
の割賦金の金利分について取得価額の減額、したがつて、減価償却のやり直しまで
しなければならないという不合理な結果を招来することとなるのである。
(2) 貸倒金一、〇〇〇万円および借入金利子七五万円は、原告が新日東工機株
式会社の経営コンサルタントとして経営診断を行なつた結果、その欠陥が金融面に
あるものと認め、診断の成果を挙げるため、同社に対して貸し付けた一四五万円、
その借入金利子七五万円の各債権と、同社のために負担した保証債務を手形・小切
手金債務に更改して主たる債務を消滅させたことによつて生じた八五五万円の求償
権―仮りに該更改の主張が理由ないとしても、すでに右保証債務は弁済期にあつた
ので、同社に対して事前に行使することが許される同額の求償権―を有していたと
ころ、これらの債権は、同社が昭和三二年六月倒産し、続いて、個人として重畳的
債務引受けをしていた当時の同社の代表取締役Aも昭和三六年二月死亡し、遂に回
収不能に帰するにいたつたものである。
 ところで、経営コンサルタントの主たる業務が中小企業の人事、財務、生産、販
売、事務等経営の各分野について診断、指導、助言等を行なうことにあるのはいう
までもないが、診断の実を挙げるため、必要な金融の途を開くこともまた、経営コ
ンサルタントの業務に属するものというべく、今日ではそれが当該業務の常識とな
つており、現に中小企業診断員として法律上制度化されている。原告は、被告主張
のごとく当時同社の代表取締役であつたが、それは、旧日東工機株式会社代表取締
役Aに頼まれてなつた名目上だけのものであつて、会社の経営に参画した事実はな
く、右金員は、あくまでも、前叙のごとく、原告が新日東工機株式会社の経営コン
サルタントとしての事業遂行上融資したものであり、もとより、同社の代表取締役
としてしたものではない。したがつて、その貸倒れは、原告の事業遂行上生じたも
のであつて、所得の計算にあたつては、事業所得の必要経費に計上されるべきもの
である。
 なお、被告主張のごとく、原告が月賦手数料として昭和三六年度に支払つた金額
が九、一六四円であることは認める。また、被告が課税の段階で前記貸付金等の存
在を認めておきながら、本訴にいたりこれを否認することは、原告がその承認を受
けている青色申告制度の趣旨にかんがみ、許されないものというべきである。
第三 被告の答弁および主張
(答弁)
 原告主張の請求原因事実中、原告が新日東工機株式会社に対して債権を有してい
たこと、そして、それが貸倒れになつたことは不知、その余の事実は認める。な
お、法律上の主張は、すべて争う。
(主張)
(1) 税法上固定資産の取得価額には購入代金に係る利息相当額が含まれるのが
原則であつて、このことは、割賦購入資産についても異なるところはないのである
が、ただ、購入者が法人である場合には、購入代金と利息相当額とが明確に区別で
きることを条件として、当該法人が利息相当額を固定資産の取得価額に含めないで
損金処理をしたときに限り、その計算を認めることとしている(昭和三五年直法一
―二八通達の二参照)にすぎない。原告は、右通達を援用して、法人税と所得税と
で月賦手数料についての取扱いを異にすべき合理的根拠はないと主張するが、法人
にあつては、一般に、帳簿書類が整備されていて、各事業年度を通じて継続的な会
計記録に基づき期間損益の算出が可能であるところから、そのことを前提として割
賦購入資産について利息相当額を取得価額に含ましめるかどうかを法人の自主的な
会計処理にゆだねているのに対し、個人にあつては、原則としてこのような前提が
欠けているため、適正な課税所得算定の見地から、個人の自主的な会計処理を認め
ないこととしている。また、原告の引用するその他の通達は、いずれも、固定資産
購入のために借り入れた資金の利子(いわゆるひも付き利子)に関するものであつ
て、本件のごとき割賦購入資産に関するものではない。なお、購入者が割賦金を途
中で一括弁済した場合には、その未経過の割賦金の金利分については、購入代価の
修正として取得価額からこれを控除すべきこと、固定資産購入後の一般の値引きや
割戻しの場合と異なるところはなく、ただ、法人税の取扱いにおいては、企業会計
の便宜上、法人が取得価額からそれを控除せずに雑収入等により経理したときは、
その計算を認めることとしているだけであつて、原告主張のごとき不合理な結果が
生ずることはありえない。
 仮りに、原告主張のごとく月賦手数料相当額が必要経費になるとしても、原告の
昭和三六年分の所得金額の計算上必要経費に計上されるべき月賦手数料は、その金
額ではなくして、原告が同年中に支払つた一一月の四、七一八円と一二月の四、五
四六円の合計九、二六四円にすぎない。
(2) 所得税法にいう「事業の遂行上生じた」貸付金の貸倒れ(基本通達二六七
参照)とは、「事業の遂行」と関連を有するもののすべてをいうのではなく、当該
事業の範囲に属する事由によつて生じたもの、いいかえれば、当該事業の収入をう
るために通常必要とされる貸付金の貸倒れに限られるものと解すべきである。
 ところで、経営コンサルタントは、社の専門家としての立場で経営に関する診
断、指導、助言等を行なうことを業とするものであり、また、中小企業指導法に基
づき中小企業指導員の行なう業務も、専門家として、公正な第三者の立場から経営
に関する相談に応じ、経営顧問の職務を担当するなど経営についての判断作用を行
なうとともに、経営改善のための仕方を指導し、参考意見を述べ、勧告を行なうに
とどまるものであつて(同法三条、六条参照)、経営コンサルタント又は中小企業
指導員が経営の診断をしたものを機縁として当該会社に資金を貸し付け又は自ら保
証人となつて融資の便を与えるがごときことは、その業務の範囲に属さないもので
あり、たとえそれによつて何らかの報酬を得ることがあるとしても、かかる報酬
は、経営コンサルタント又は中小企業指導員としての業務の対価ではなくして、融
資に対する反対給付にすぎない。このことは、中小企業の診断員の業務の内容を規
定した前記中小企業指導法三条の規定からみても、また、貸金業の届出をしたもの
でなければ、業として金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介を行なうことができない
とする「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」七条の規定に徴し
ても明らかである。
 また、仮りに原告が新日東工機株式会社に対してその主張のごとき融資をしたと
しても、単に保証債務の履行のために手形・小切手を振り出しただけでは主たる債
務が消滅するわけではないから、原告が同社に対して求償権を取得した事実はない
というべきである。
 したがつて、原告主張の貸倒れ等を事業所得の必要経費として収入から控除する
ことは、許されないものといわなければならない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
 原告が、経営コンサルタント、中小企業診断員等の業務を営むものであり、昭和
三六年分所得税につき、事業所得に係るものとして、月賦手数料六万二、九二五
円、貸倒金一、〇〇〇万円および借入金利子七五万円を必要経費に計上し、損失の
確定申告をしたところ、被告が右損金算入を否認し、月賦手数料否認に伴う固定資
産取得価額の修正による減価償却費二、四六四円を必要経費に追加計上して本件処
分をするにいたつたことは、当事者間に争いがない。
 そこで、まず、被告が本件月賦手数料の損金算入を否認したことの適否について
判断することとする。
 会計におけるいわゆる取得原価主義の立場からすれば、固定資産の取得に要した
一切の費用は、当該固定資産の取得価額を構成し、したがつてまた、固定資産を取
得するために要した負債の利子も、事業所得金額の計算上、取得価額として資産に
計上するのが建前ではあるが、実際問題としてその負債の利子が固定資産を取得す
るためのものであるか事業用資金を取得するためのものであるかが必ずしも明確に
区別されうるものとは限らないことを考慮すれば、税法上は、これを当該固定資産
の取得価額に算入することなく、必要経費に計上しても、敢えて違法であるとはい
えないものと解するのが相当である。そして、このことは、理論的には、単に法人
税についてのみならず、所得税についてもいいうるところであるとしても、所得税
については、所得税法が所得の種類によつてその所得金額の計算方法を異にし、し
かも、家事関連費は所得金額の計算上必要経費に算入しないこととしているため
に、取得した固定資産が事業所得以外の所得の基因たる資産とならず、また、当該
固定資産の種類、形状、性質等からみて、家事の用に使用し若しくは転用できない
ことが明らかであり、かつ、各所得計算期間を通じて継続的な会計記録が存在して
いて期間損益の算出が可能である場合を除き、一般には、妥当せず、負債利子の原
価外経理の否認は許されるものというべきである。
 いま、本件月賦手数料についてこれをみるのに、そのすべてが乗用自動車を取得
するための負債の利子であると認めるに足る証拠がないばかりでなく、原告が係争
年度に支払つたことにつき当事者間に争いのない合計九、二六四円も、右自動車
が、その性質上、事業所得以外の所得の基因たる資産とならず、また家事に使用さ
れ若しくは転用されることがないとはいいきれない以上、むしろ、原告の所得の計
算にあたつては、右自動車の取得価額に含め、減価償却の方法によつて当該金額を
各年分の費用に配分するのが相当であると認められるので、被告が本件月賦手数料
の損金算入を否認したのは、違法でないというべきである。
 次に、被告が原告主張の貸倒金および借入金利子の損金算入を否認したことの適
否について判断する。
 所得税法は、前叙のごとく、所得税の課税対象となる所得をその種類によつて分
類し、分類された所得ごとに所得金額の計算方法を定めており、また、所得税が消
費生活を伴う個人の所得に対する課税であるという特質から、所得金額の算出にあ
たつては、その分類区分に属する収入と経費との差額を算定して所得金額を計算す
る収益費用対応の原則が行なわれ、しかも、所得税が歴年課税の建前をとり、各年
ごとに所得の金額を計算することから各年ごとにおける収益と費用との対応が要請
される。したがつて、事業所得の金額計算上控除が認められる貸倒損失は、当該事
業所得の基因となる事業の範囲に属する事由によつて生じたもの、いいかえれば、
当該事業所得をうるために通常必要とされる貸付金の貸倒れに限られるものと解す
べきである。
 しかして、経営コンサルタント又は中小企業診断員の業務は、本来、社外の専門
家としての立場で会社の経営に関する診断、指導、助言等を行なうものであること
はいうまでもないが、経営コンサルタント又は中小企業診断員が診断の実を挙げる
ためにその会社に対して資金を貸し付けたり自ら保証人となつて融資の便を与える
ことも、通常当該業務の範囲に属するものと認められる限り、それが正当な行為と
いえるかどうかは別としても、税法上は、当該事業所得をうるために通常とされる
ものとして、その貸倒損失は、事業所得金額の計算上損金に算入することが許され
ると解するのが相当である。
 ところで、原告が経営コンサルタント並びに中小企業診断員であつたことは、当
事者間に争いのない事実ではあるが、当時原告が右のごとき資金の貸付け等を行な
うことが右業務の業態であつたと認めるに足る証拠はなく、却つて、本件のごとき
多額の貸付をしたのは、新日東工機株式会社に対してだけであり(このことは、本
件弁論の全趣旨に徴して明らかである)、また、当時原告が同社の代表取締役をし
ていた(このことは、当事者間に争いがない。)ことに鑑みれば、原告主張の貸付
金等は、真実かかる資金の貸付けが行なわれてそれが貸倒れになつたかどうかを審
究するまでもなく、原告の経営コンサルタント又は中小企業診断員としての業務と
は無関係であるというべく、他に原告が当時資金の貸付け等を右業務の内容として
営んでいたことについては、原告の主張・立証しないところである。
 されば、原告主張の貸倒金等は、事業所得以外の所得に対応する費用とはなりう
るとしても、前叙のごとき法の建前のもとにおいては、これをもつて原告の事業所
得の必要経費と認めることは、到底、許されず、したがつて、被告がその損金算入
を否認したことは、まさに、正当であるというべきである。
 よつて、原告の本訴請求は、その理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟
費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 園部逸夫 渡辺昭)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛