弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は、「原判決を取り消す。本件を横浜地方裁判所に差し戻す。」との判決
を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、原判決事実摘示のと
おりであるから、これを引用する。
         理    由
 請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
 本件宅地付近の写真であることについて争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨
によれば、本件宅地は既に造成を完了していることが認められ、また、日本信販か
ら本件宅地を買い受けた控訴人の夫浩が昭和四三年一一月ころ地上に本件家屋を建
築し、そのころから控訴人が浩と共に本件家屋に居住しているという被控訴人主張
事実は、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみな
すべきである。
 そこで、本件許可の無効確認を求める訴えの適否について判断する。
 宅地造成等規制法(以下「法」という。)によれば、造成主は、宅地造成工事規
制区域内において行われる宅地造成に関する工事(以下「宅地造成工事」とい
う。)をしょうとするときは、当該工事に着手する前に都道府県知事(いわゆる政
令指定都市の区域内の土地については、指定都市の長。以下同じ。)の許可を受け
なければならない(第八条第一項)のであるが、都道府県知事は、工事が法第九条
の規定に適合しないと認めるときは、許可をしてはならない(第八条第二項)とさ
れ、また、宅地造成工事は、政令で定める技術的基準に従い、擁壁又は排水施設の
設置その他宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなけ
ればならないと規定され(第九条第一項)、造成主は、宅地造成工事完了後、工事
が右規定に適合しているかどうかについて都道府県知事の検査を受け(第一二条第
一項)、検査の結果工事が右規定に適合していると認めたときは、都道府県知事は
検査済証を造成主に交付すること(第一二条第二項)とされている。他方、右規定
に適合していない工事については、都道府県知事は、造成主に対して、工事の施行
の停止を命じ、又は宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ず
ることができる(第一三条第二項)とされている。
 このような法の規定から宅地造成工事についての都道府県知事の許可の性質を考
えてみると、右の許可は、申請に係る工事計画が宅地造成工事の技術的基準等に関
する法第九条第一項の規定に適合するものであることを公権的に判断するものであ
り、それにより申請に係る宅地造成工事が施行できるという効果が生ずるのであつ
て、災害防止のための措置が講ぜられた宅地造成工事を確保することを目的とした
ものと解される。
 <要旨>したがつて、判決により宅地造成工事の許可が取り消され、又はその無効
が確認されれば、当該宅地造成工事を適法に施行することができなくなるの
であるから、当該宅地造成工事の施行について浅律上の利害を有する者は、右許可
の取消し又は無効確認を訴求できると考えられるが、宅地造成工事が既に完了して
いる場合には、阻止すべき工事はないのであるから、訴えの利益は存在しないとい
うべきである。
 ところで、法によれば、宅地造成工事規制区域内の宅地の所有者等は、宅地造成
に伴う災害が生じないようにその宅地を常時安全な状態に維持するように努めなけ
ればならず(第一五条第一項)、都道府県知事は、宅地造成に伴う災害の防止のた
め必要があると認めるときは、宅地の所有者等に対して災害の防止のため必要な措
置をとることを勧告することができ(第一五条第二項)、また、宅地造成に伴う災
害の防止のため必要な擁壁又は排水施設が設置されていないか、又は極めて不完全
であるためこれを放置すれば災害の発生のおそれが著しい宅地があるときは、その
おそれを除去するための工事を行うことを当該宅地、擁壁、排水施設の所有者、管
理者又は占有者(以下「宅地所有者等」という。)に対して命ずることもでき(第
一六条第一項)、更に、右の宅地所有者等以外の者(例えば、造成主・工事施行
者)の行為によつて災害の発生の著しいおそれが生じたことが明らかであり、その
行為をした者に右の工事を行わせることが相当と認められ、かつ、これを行わせる
ことについて当該宅地所有者等に異議がないときは、その行為者に工事を行うこと
を命ずることができる(第一六条第二項)とされている。
 このように、宅地造成工事規制区域内の造成に係る宅地については、造成後にお
いても、法第九条第一項の政令で定める技術的基準に適合するようにすることが望
ましいとの観点から、当該宅地所有者等又は当該宅地の造成主等に対して一定の義
務を負わせているものと解されるのであるが、これらは、造成宅地の現状に基づい
て都道府県知事が判断するのであるから、当面する危険を防止するための方策であ
るといえる。したがつて、当該宅地につき、過去において法第八条第一項の許可が
された事実の有無とはかかわりのないことであり、過去に法第八条第一項の許可が
された造成宅地について、宅地所有者等又は造成主等に対して都道府県知事が一定
の行為を命ずる場合、その許可が取り消され、又はその無効が確認される必要性の
ないことは明らかである。
 本件宅地の造成工事が完了していることは前認定のとおりであるから、控訴人の
本訴請求は、いずれの点からみても訴えの利益を欠き、不適法である。
 よつて、本件訴えを却下した原判決は相当であるから、行政事件訴訟法第七条、
民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 裁判官 上野精)

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