弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人川崎市は控訴人が横浜地方法務局川崎
出張所昭和三十二年(金)第一〇八三号供託金十万二千二百六十四円の還付請求権
を有することを確認する。被控訴人川崎市は控訴人に対し右供託金の供託書一通を
引渡せ。参加人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とす
る。」との判決を求め、被控訴人等の各代理人はいずれも控訴棄却の判決を求め
た。
 当事者等の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴代理人において、
 一、 仮に、矢川工業株式会社が昭和三十二年四月八日被控訴人組合主張の債権
譲渡の通知をしたとしても、それは被控訴人市の市長に対してしたものではなく、
同市の収入役Aに対してしたものであるところ、市の収入役は市の代表権を有する
ものでないのは勿論、市長を代理して右のような債権譲渡の通知を受領する権限を
有するものでもないから、右の通知は被控訴人市に対する通知としては不適法で無
効なものである。
 二、 仮にこれを適法有効なものとしても、市の収入役は民法施行法第五条第五
号にいう公署ではないから、被控訴人市の収入役が私署証書である本件債権譲渡の
通知書にした日附の記載は確定日附とならない。従つて被控訴人組合主張の債権譲
渡の通知は確定日附を欠くものといわなければならない。
 と述べたほか、原判決摘示の事実及び証拠関係と同じであるからこれを引用す
る。
         理    由
 当裁判所の判断は、次の点を附加するほか、原判決の理由に説示するところと同
じであるからこれを引用する。即ち、
 一、 被控訴人組合主張の債権譲渡の通知、即ち譲渡人矢川工業株式会社及び譲
受人被控訴人組合が、その連署をもつて、債権譲渡の通知書を被控訴人市の収入役
Aのもとに提出してした債権譲渡の通知が、被控訴人市に対する債権譲渡の通知と
して適法有効なものであるかどうかについて考えるに、市を代表する権限を有する
ものは市長であつて、市の収入役はその一般の代表権を有するものではなく、単に
市長の補助機関としてその指揮監督を受けるものに過ぎず、又会計事務についても
市長の監督を受けその収入支出の命令を受けて執行をするものであることはいうま
でもない。しかしその収入支出の執行については、市の収入役は市長に対して独立
の地位権限を有するものであることは、地方自治法第一四九条第四号、第一六八
条、第一六九条、第一七〇条、第二三二条第二項等の規定に照してこれを認め得る
ところであるから、右収入支出の執行に関する限りにおいては、市の収入役の行為
はなお市を代表するものと解するを相当とする。本件債権譲渡の通知は、原判決の
認定するように被控訴人市の負担する工事請負代金の支払について、その債権が他
に譲渡され従つて債権者に変更を生じたことを通知するもので、債権譲渡を第三者
に対抗するための要件であり、市の支出に関する<要旨第一>事項であることは明か
であるから、右のような通知は債務者である被控訴人市に対してなされなければな
らないことは無論であるが、市に対する通知の手続としては、右に説明
したところに鑑み、市の一般の代表権及び支出命令権を有する市長に対してこれを
することができるのはいうまでもないが、その支出執行権を有しその限りにおいて
市を代表して執行行為をし得るものと認められる市の収入役に対してもこれをする
ことができるものというべく、換言すれば市の収入役は、少くとも債権譲渡の通知
を受領することについては、右の地位権限に基き、その受領の権限を有するものと
認めるのが相当である。以上によつて、本件債権譲渡の通知は被控訴人市に対する
通知として適法有効なものであるといわなければならないから、この点に関する控
訴人の主張はこれを採用することができない。
 二、 次に、被控訴人市の収入役が、私署証書である本件債権譲渡の通知書にし
た日附の記載が確定日附となるかどうかについて考えるに、市の収入役が収入支出
の会計事務の執行について市長に対して独立の地位権限を有し、その限りにおいて
市を代表して執行行為をし得るものであり、右の地位権限に基いて債権譲渡の通知
を<要旨第二>受領する権限を有するものと認められることは、前段説明のとおりで
あるから、私署証書である本件債権譲渡の通知書に、被控訴人市の収入
役Aが「右了知する、昭和三十二年四月八日、川崎市収入役A」と記載した(右の
了知というのは通知到達の意味であることは原判決の認定するとおりである)その
日附の記載は民法施行法第五条第五号にいう公署の記載した日附ということができ
るのであり、従つてこれを確定日附といわなければならない。従つてこの点に関す
る控訴人の主張もこれを採用することができない。
 以上のとおりであるから被控訴人(参加人)の請求を認容し控訴人の請求を排斥
すべきものとした原判決は相当で本件控訴はその理由がない。よつて民事訴訟法第
三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 薄根正男 判事 村木達夫 判事 山下朝一)

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