弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人竹原孝雄,同花輪達也の上告受理申立て理由について
1本件は,上告人らが,それぞれ,被上告人の国防省の関連会社であり被上告
人の代理人であるA社(以下「A社」という。)との間で,被上告人に対して高性
能コンピューター等を売り渡す旨の売買契約(以下「本件各売買契約」という。)
を締結し,売買の目的物を引き渡した後,売買代金債務を消費貸借の目的とする準
消費貸借契約(以下「本件各準消費貸借契約」という。)を締結したと主張して,
被上告人に対し,貸金元金並びにこれに対する約定利息及び約定遅延損害金の支払
を求める事案である。
これに対し,被上告人は,主権国家として我が国の民事裁判権に服することを免
除されると主張して,本件訴えの却下を求めた。なお,被上告人は,A社が本件各
売買契約及び本件各準消費貸借契約の締結につき被上告人の代理権を有していたこ
とを否認し,上告人らとの間の上記各契約の成立も争っている。
2原審は,次のとおり判断して,本件訴えを却下した。
主権国家である外国国家は,我が国に所在する不動産に関する訴訟など特別の理
由がある場合を除き,原則として,我が国の民事裁判権に服することを免除され,
外国国家が自ら進んで我が国の民事裁判権に服する場合に限って,例外が認められ
る。このような例外は,条約でこれを定めるか,又は,外国国家が,当該訴訟につ
いて若しくはあらかじめ将来における特定の訴訟事件について,我が国の民事裁判
権に服する旨の意思表示をした場合に限られる。そして,このような意思表示は,
国家から国家に対してすることを要し,外国国家が私人との間の契約等において我
が国の民事裁判権に服する旨の合意をしたとしても,それによって直ちに外国国家
を我が国の民事裁判権に服させる効果を生ずることはないと解するのが相当である
(大審院昭和3年(ク)第218号同年12月28日決定・民集7巻12号112
8頁参照)。
本件訴えは,外国国家である被上告人に対して金銭の給付を求める訴えであると
ころ,被上告人から我が国に対して我が国の民事裁判権に服する旨の意思表示がさ
れた事実は認められない。被上告人政府代理人A社名義の注文書には,被上告人が
本件各売買契約に関して紛争が生じた場合に我が国の裁判所で裁判手続を行うこと
に同意する旨の条項が記載されているものの,上記注文書による意思表示は,本件
各売買契約の相手方である上告人らに対してされたものにすぎない。
以上によれば,被上告人に対して我が国の民事裁判権からの免除を認めるのが相
当であるから,本件訴えは,不適法であり,却下を免れない。
3しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)外国国家に対する民事裁判権免除に関しては,かつては,外国国家は,法
廷地国内に所在する不動産に関する訴訟など特別の理由がある場合や,自ら進んで
法廷地国の民事裁判権に服する場合を除き,原則として,法廷地国の民事裁判権に
服することを免除されるという考え方(いわゆる絶対免除主義)が広く受け入れら
れ,この考え方を内容とする国際慣習法が存在していたものと解される。しかしな
がら,国家の活動範囲の拡大等に伴い,国家の行為を主権的行為とそれ以外の私法
的ないし業務管理的な行為とに区分し,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為
についてまで法廷地国の民事裁判権を免除するのは相当でないという考え方(いわ
ゆる制限免除主義)が徐々に広がり,現在では多くの国において,この考え方に基
づいて,外国国家に対する民事裁判権免除の範囲が制限されるようになってきてい
る。これに加えて,平成16年12月2日に国際連合第59回総会において採択さ
れた「国家及び国家財産の裁判権免除に関する国際連合条約」も,制限免除主義を
採用している。このような事情を考慮すると,今日においては,外国国家は主権的
行為について法廷地国の民事裁判権に服することを免除される旨の国際慣習法の存
在については,これを引き続き肯認することができるものの(最高裁平成11年
(オ)第887号,同年(受)第741号同14年4月12日第二小法廷判決・民
集56巻4号729頁参照),外国国家は私法的ないし業務管理的な行為について
も法廷地国の民事裁判権から免除される旨の国際慣習法はもはや存在しないものと
いうべきである。
そこで,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為に対する我が国の民事裁判権
の行使について考えるに,外国国家に対する民事裁判権の免除は,国家がそれぞれ
独立した主権を有し,互いに平等であることから,相互に主権を尊重するために認
められたものであるところ,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為について
は,我が国が民事裁判権を行使したとしても,通常,当該外国国家の主権を侵害す
るおそれはないものと解されるから,外国国家に対する民事裁判権の免除を認める
べき合理的な理由はないといわなければならない。外国国家の主権を侵害するおそ
れのない場合にまで外国国家に対する民事裁判権免除を認めることは,外国国家の
私法的ないし業務管理的な行為の相手方となった私人に対して,合理的な理由のな
いまま,司法的救済を一方的に否定するという不公平な結果を招くこととなる。し
たがって,外国国家は,その私法的ないし業務管理的な行為については,我が国に
よる民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事
情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である。
(2)また,外国国家の行為が私法的ないし業務管理的な行為であるか否かにか
かわらず,外国国家は,我が国との間の条約等の国際的合意によって我が国の民事
裁判権に服することに同意した場合や,我が国の裁判所に訴えを提起するなどし
て,特定の事件について自ら進んで我が国の民事裁判権に服する意思を表明した場
合には,我が国の民事裁判権から免除されないことはいうまでもないが,その外に
も,私人との間の書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた
紛争について我が国の民事裁判権に服することを約することによって,我が国の民
事裁判権に服する旨の意思を明確に表明した場合にも,原則として,当該紛争につ
いて我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である。なぜなら,こ
のような場合には,通常,我が国が当該外国国家に対して民事裁判権を行使したと
しても,当該外国国家の主権を侵害するおそれはなく,また,当該外国国家が我が
国の民事裁判権からの免除を主張することは,契約当事者間の公平を欠き,信義則
に反するというべきであるからである。
(3)原審の引用する前記昭和3年12月28日大審院決定は,以上と抵触する
限度において,これを変更すべきである。
(4)本件についてみると,上告人らの主張するとおり,被上告人が,上告人ら
との間で高性能コンピューター等を買い受ける旨の本件各売買契約を締結し,売買
の目的物の引渡しを受けた後,上告人らとの間で各売買代金債務を消費貸借の目的
とする本件各準消費貸借契約を締結したとすれば,被上告人のこれらの行為は,そ
の性質上,私人でも行うことが可能な商業取引であるから,その目的のいかんにか
かわらず,私法的ないし業務管理的な行為に当たるというべきである。そうする
と,被上告人は,前記特段の事情のない限り,本件訴訟について我が国の民事裁判
権から免除されないことになる。
また,記録によれば,被上告人政府代理人A社名義の注文書には被上告人が本件
各売買契約に関して紛争が生じた場合に我が国の裁判所で裁判手続を行うことに同
意する旨の条項が記載されていることが明らかであり,更に被上告人政府代理人A
社名義で上告人らとの間で交わされた本件各準消費貸借契約の契約書において上記
条項が本件各準消費貸借契約に準用されていることもうかがわれるから,上告人ら
の主張するとおり,A社が被上告人の代理人であったとすれば,上記条項は,被上
告人が,書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた紛争につ
いて我が国の民事裁判権に服することを約したものであり,これによって,被上告
人は,我が国の民事裁判権に服する旨の意思を明確に表明したものとみる余地があ
る。
したがって,上記大審院の判例と同旨の見解に立って,上告人らの主張する事実
関係について何ら審理することなく,被上告人に対して我が国の民事裁判権からの
免除を認めて,本件訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明
らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
4以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本
件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官中川
了滋裁判官古田佑紀)

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