弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人木ノ宮圭造、同滝井繁男、同仲田隆明の上告理由第一点について
 相続税法三四条一項は、相続人又は受遺者(以下「相続人等」という。)が二人
以上ある場合に、各相続人等に対し、自らが負担すべき固有の相続税の納税義務の
ほかに、他の相続人等の固有の相続税の納税義務について、当該相続又は遺贈に因
り受けた利益の価額に相当する金額を限度として、連帯納付義務を負担させている。
この連帯納付義務は、同法が相続税徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課
した特別の責任であつて、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定は、
各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に
生ずるものであるから、連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではない
と解するのが相当である。それ故、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれ
ば、国税の徴収にあたる所轄庁は、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことが
許されるものといわなければならない。これと同趣旨の原審の判断は、正当として
是認することができる。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することがで
きない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
伊藤正己の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
 私は、所論、特に上告理由第一点の一五ないし一七及び二四にかんがみ若干の私
見を補足しておきたい。
 所論は、要するに、相続税法三四条一項の規定により他の相続人等の固有の相続
税納税義務について連帯納付義務を負う相続人等は、税務当局による賦課課税方式
に則つた手続がされない限り、納付すべき金額、納付期限、納付場所、納付額の限
度、更正・決定の有無等その具体的内容を実際上容易かつ確実に知ることができな
い筈であることを理由として原審の判断を非難するものと解される。たしかに、相
続人等の事情は一様ではないから、個々の具体的事案に即して考えてみると、場合
によつては、連帯納付義務者に対し通常の申告納税方式による課税の一場合として
の徴税手続をそのまま行うことが、その者に不意打ちの感を与えることを免れなか
つたり、納付すべき額その他の具体的な納付義務の内容の不明確によりその者を困
惑させるような事態になることがないわけではないと考えられる。しかしながら、
そのこと自体は、確定した租税の徴収手続に関して生ずる問題であつて、税額の確
定手続に関する問題ではないと解すべきである。したがつて、右のような不意打ち
の感を与えたり困惑させる事態を生ずるおそれがあることを理由として、連帯納付
義務について、国税の確定手続に関する規定である国税通則法一五条、一六条の適
用があると主張する所論は採用することができない。
 もとより、租税の徴収の手続において、納付義務者に不意打ちの感を与えたりそ
の者を困惑させる事態を生ずることのないよう配慮することが望ましいといつてよ
い。この点について国税通則法制定前の国税徴収法四二条は、一般的に納税の告知
の規定をおいていたが、同条を承継した国税通則法三六条一項は納税の告知を要す
る場合を列記しており、それは制限的な列挙と考えられるから、相続税法三四条一
項による連帯納付義務については国税通則法三六条一項を適用する余地はないし、
また、この連帯納付義務は保証人の納付義務と類似したところもあるが、その性質
を異にするものであるから、同法五二条二項の規定の類推適用を考慮することも困
難であると解される。このように連帯納付義務について納税の告知を要しないとす
る立法態度は、賢明なものとはいえないが、連帯納付義務者は、自己の納付すべき
金額等を知りえないわけではないから、納税の告知がないからといつてその徴収手
続が違法となるものではないと考えられる。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    環       昌   一
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    寺   田   治   郎

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