弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人阪本岩太郎、同宮原守男の上告趣意第一点について。
 所論は、原判決が本件事実認定につき援用する第一審判決は、本件被告人に対し
て一〇個の犯罪事実を認定し、これを併合罪として処断しているものであるところ、
同判決は、以上の犯罪事実のうち、A株式会社を相手方とするものについては、捜
査官に対する被告人の自白以外、これを補強すべき証拠を掲げていないから、違憲、
違法であるとする控訴趣意に対し、原判決が「第一審判決挙示の証拠によれば、同
判示のように、被告人は、所論のA株式会社関係以外にも、同じころ九回にわたり
同種の犯行を重ねていることが認められているのであつて、この事実は、前記A株
式会社関係の犯行に対する被告人の自白の真実性を保障し又はそれが架空でないこ
との担保とするに足る情況証拠となると解することができるから、第一審判決に所
論のようにいわゆる自白の補強証拠を挙示しなかつた違法があるとはいえない。」
旨判示したことをもつて、憲法三八条三項に違反する、と主張するものである。
 そこで検討するに、所論原判示は、その判文上明らかなように、被告人の自白、
とくに本件におけるような捜査官に対するものに補強証拠を要するとの前提に立つ
たうえで、上記情況証拠をもつて自白の補強証拠として十分であるとし、第一審判
決は、補強証拠の摘示の点においても欠けるところはないとしているものであつて、
第一審判決が被告人の当該自白以外の証拠を掲げていないと認めながら、あえてこ
れをその儘是認したというものではないし、まして犯罪事実の認定につき本件にお
けるような捜査官に対する被告人の自白のみをもつて足りるとの判断を示している
ものでもない。してみれば、所論原判示に、憲法三八条三項の規定に違反する判断
が示されているものとみることはできないのであつて、所論違憲の主張は、すでに
この点においてその前提を欠き、上告適法の理由とならないものというべきである。
しかしながら、さらに、職権により検討してみるに、本件犯罪のように併合罪関係
にある数罪は、立証手続のうえにおいても別個独立の犯罪として取り扱われるべき
もので、その数毎に補強証拠を必要とし、しかも、その補強証拠たるや、その犯罪
の各構成要件事実それ自体に関連するものであることを要するものと解するのが相
当であり、所論原判示のように、適法な証拠により認め得られるものであるにせよ、
その犯罪以外の他の併合罪関係にある犯罪事実の存在それ自体が情況証拠としてそ
の犯罪に関する自白を補強するに十分なものであるとすることは、採証法則の違反、
ないし訴訟法の解釈を誤つた違法があるものといわなければならない。されば、所
論原判断並びに第一審判決を破棄自判しながら、前示A株式会社関係の犯罪事実に
つき、第一審判決同様、被告人の捜査官に対する自白を補強すべき特段の証拠を挙
示、援用するところのなかつた原判決は、訴訟法の解釈を誤り、ひいて適法な証拠
に基づかないで犯罪事実を認定した違法があることに帰着し、右違法は判決に影響
を及ぼすものというべきである。しかしながら、ひるがえつて考えるに、前示A株
式会社関係の犯罪事実は、被告人にかかる本件犯罪一〇個のうちの一個であり、そ
の犯行にかかる金額も、全額四五八四万七〇四九円のうちの一〇〇万円、約四五分
の一にすぎないこと、従つて、併合罪による刑の加重も右犯罪事実以外のものを最
も重しとしてなされていること等にかんがみれば、刑訴法四一一条一号により原判
決を破棄しなければ著しく正義に反するものとまでは認められない。
 同第二点は、事実誤認、単なる法令違反、同第三点は、単なる法令違反、同第四
点は、事実誤認及びこれを前提とする単なる法令違反、同第五点は、量刑不当の各
主張であつて、以上すべて適法な上告理由に当らない。
 また記録を調べても上告趣意第二点ないし第五点についても刑訴法四一一条を適
用すべきものとは認められない。
 よつて同法四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
 検祭官 玉沢光三郎公判出席
  昭和四〇年九月一三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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