弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第
一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却
の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張は、左に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであ
るからこれを引用する。
 控訴代理人において次のとおり述べた。
「一、固定資産評価審査委員会の手続について
 固定資産評価の審査は、固定資産の評価が適正か否かを審査する手続であるが、
そのためには、先ず第一に自治大臣の定める固定資産評価基準(地方税法三八八条
一項)に基づき評価が適正になされているか否かにつききわめて専門的、技術的な
手続による審査が行われなければならず、第二に、右審査の申出の期間が制限され
(地方税法四三二条一項)、しかも審査は申出の日から三〇日以内になされること
を必要とされている(同法四三三条一項)関係上、一時に多量の申出を迅速に審査
することが要請されている。それ故、右審査手続につき、審査請求申出人の要求が
あれば、口頭審理を行うべき旨の規定はあつても(同法四三三条二項)、右要求の
あるかぎり必ず全面的に口頭審理をしなければならないと解すべきではなく、この
ような場合でもなお書面審理を原則とし、ただ書面によつて十分尽せなかつた審査
申出の理由を口頭で述べる機会を与えるとか、あるいは、口頭陳述により申出の真
意を正確に把握する等、書面審理を口頭審理によつて補なえば即ち足りるという趣
旨の規定にすぎないものと解すべきである。したがつて、口頭審理とは称しても決
して原判決の述べるごとき民事訴訟手続に準じた口頭弁論方式を採る必要はないの
である。
二、被控訴人に固定資産評価の計算根拠を示すことの要否について。
 すでに述べたように、本件審査手続において控訴人は右計算根拠を被控訴人に示
したが、仮に示されたことが認められないとしても次のような理由によつて、その
必要はないのである。
 即ち、元来固定資産評価の計算根拠は、専門的、技術的なものであるから、審査
請求申出人が特に計算根拠自体に不審を抱いているような特別な場合を除いては、
計算根拠を示したとしてもこれによつて審査請求申出人の審査請求申出に役立つも
のではない。本件審査手続において被控訴人が審査請求申出の事由として主張した
点は、(1)本件のような居住用の土地を一般売買時価によつて評価することは違
憲である。(2)評価に当つて取得価格の上昇率等を参考にすべきである。(3)
土地と家屋とにそれぞれ課税することは二重課税である。(4)A小金井市長の所
有地の評価額が本件土地の二分の一に評価されている根拠が分からない。(5)評
価される土地と駅との距離は自動車所有者の多い今日評価に参酌されるべきでな
い。(6)本件土地は角地であり、商業には適するが、騒音、ほこりが多く居住に
は適さないから評価は高すぎる。(7)本件土地界わいは車の進行量が多い等環境
が悪いことなどであつて、評価の計算根拠とは関係ない事項のみであつたのである
から、計算根拠を示す必要はなかつたし、示さなかつたとしても、被控訴人の審査
請求申出事由の主張になんら支障を与えたものではない。」
被控訴人は次のとおり述べた。
「一、控訴人の当審における主張一、二中、控訴人が本件審査手続において、審査
請求申出の事由として(1)乃至(7)のごとき主張をしたことは認めるが、その
余はすべて否認する。
二、被控訴人が、本件審査請求申出に及んだのは、本件評価が高すぎるから、その
計算方法、根拠を知り検討したかつたためであり、したがつて、審査手続において
も、評価の高すぎることを述べ、控訴人に対して小金井市長に計算根拠その他資料
を明示、提出させることを求め、右明示、提出があればこれを十分に検討する予定
であつた。前記(1)乃至(7)の主張も右計算根拠等が明らかにされればおのず
から明らかになることである。しかるに控訴人は、被控訴人の求めに拘らず審査手
続の当初なんら小金井市長に対してこれを明示、提出することを命ぜず、被控訴人
が書面をもつて再度求めたのになおこれを命ずることをしないのみならず、小金井
市長から再答弁書の提出があつても、被控訴人にその内容を知らせないまま本件審
査決定に及び、しかも、その審決書においても右計算根拠等を明らかにした理由を
付していないのであるから、以上の審査手続は違法である。」
証拠関係(省略)
       理   由
一、控訴人の本案前の主張についての当裁判所の判断は、左の訂正をするほか、原
判決の理由一記載のとおりであるからこれを引用する。
 原判決一七丁うら七行目「仮に原告が」とあるのを削り、「成立に争いない乙第
二乃至第九号証、原審証人B、同Cの証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告(被
控訴人)は、」を加え、同一八丁おもて四行目「あつたとしても」を削り、「認め
られるが、同時にこれらによれば、原告が本件審査決定を真に違法と思いその取消
しを求めているものであり、単に前述の悪意の攻撃のためにのみ本訴に及んでいる
ものでないこともまた明らかであるから、たとえ、原告が本来慎むべき前述のごと
き行為に及んだという右事情があつたとしても、」を加える。
二、本案についての判断
1 被控訴人が小金井市<以下略>宅地一七五・二〇六六平方メートル(以下本件
土地と略称する)及び<地名略>所在の家屋番号<以下略>木造瓦葺平家建居宅一
棟建坪一〇一・六八五平方メートル(以下本件家屋と略称する)の所有者であり、
その固定資産税の納付義務者であること、小金井市長が地方税法三四一条六号にい
う基準年度である昭和三九年度の固定資産の評価に基づいて被控訴人の同年度の固
定資産税の課税標準たる価格として本件土地につき金額一二一万一五八〇円、本件
家屋につき金額七〇万四四八六円と決定し、小金井市備付の固定資産課税台帳にそ
れぞれ右決定価格を登録して昭和三九年四月一日から二〇日までの間、右固定資産
課税台帳を関係者の縦覧に供したこと、その後本件家屋の登録価格を金額六八万四
〇六八円に修正して、同年四月二八日に被控訴人に通知したこと、被控訴人が右登
録価格(単に評価と称する場合も同じ)につき不服があることを理由に、同年四月
三〇日控訴人に対し、審査請求の申出をし、かつ口頭審理の手続により審査するこ
とを申請したこと、控訴人は同年五月一九日及び同年六月五日にそのつど被控訴
人、小金井市評価員等の出席を得て口頭審理をしたうえ、同年六月八日右審査請求
を棄却する決定をし、同月九日その旨被控訴人に通知したことはいずれも当事者間
に争いがない。
2 被控訴人は右審査手続(審査決定自体については後記3に判示する。)に違法
があると主張するので判断する。
(一) 口頭審理手続について
 先ず固定資産評価に対する審査請求の審理についての口頭審理の意義について検
討する。
(イ) 地方税法四三三条は「審査を申出た者の申請があれば、特別の事情がある
場合を除き、口頭審理の手続によらなければならない(二項)。口頭審理の手続に
よる審査は公開して行わなければならない(六項)。」と規定し、そのかぎりにお
いて行政不服審査請求の審理が、一般に書面審理を原則としている(行政不服審査
法二五条一項)ことの例外をなしている。また、地方税法や、同法四三一条に基づ
く小金井市固定資産評価審査委員会条例(以下本件条例と略称する。引用部分は本
判決添付別紙参照。)には、審査請求申出人や相手方の口頭審理への出頭(地方税
法四三三条三項、本件条例七条一、二項)、口頭審理における双方の弁論・資料の
提出等(同条例七条二、四、六項)にかんして相当詳細な規定が定められており、
審査請求申出人や相手方の「弁明書・反論書の提出・交換」等についての行政不服
審査法二二条、二三条の規定は、本審査手続には準用されていない。これら法令の
諸規定を照らしあわせると、固定資産評価審査の審査手続では、審査請求申出人の
申請があれば口頭審理を原則とし、しかも口頭審理の場合には右申出人と相手方で
ある市町村長側を相対立する両当事者として、双方に平等の立場で攻撃防禦を尽さ
せ、更に双方の弁論及び証拠調はすべて口頭審理の場において口頭によつてしなけ
ればならないという意味での口頭審理方式までが要請されていると考える余地が全
くないとまではいえない。
 しかしながら、第一に、右審査手続は、一面司法手続に類する性質があるとして
も、その本質は、あくまでも固定資産税の適正・迅速な賦課・徴収という公益目的
実現のための行政手続の一環であり、したがつて審査請求申出人と相手方とを相対
立する当事者として平等の立場で攻撃防禦を尽させるとか、これを必ず司法手続に
おける口頭弁論に準ずる口頭審理方式を踏んで弁論、証拠調を行わなければならな
いとするような本質上の要請はないのである。また、第二に、後述するように、固
定資産の評価、したがつてまたその審査手続には、計算的、技術的な要素を含む部
分も多いので、手続のすべてにつき、口頭審理を要することは、その性質上必ずし
も相当でない。更に、第三に、右審査請求申出の期間には、一定の制限があり(地
方税法四三二条一項)、ある一定の時期に多量の右申出のあることが当然予想でき
るのに、これを審査する委員会は各市町村に一委員会、委員の定数は原則として三
名、特別の場合でも一五名(この場合は各三名により五部会が構成され、各一部会
が審査に当る)にすぎず(地方税法四二三条一、二、八項)、しかも審査は申出の
日より三〇日以内に完了することが要求されている(同法四三三条)から、前述の
ような口頭弁論に準ずべき口頭審理を要求することは事実上無理である。第四に、
口頭審理についての前記各法令の諸規定も、口頭審理をする際の、関係人への期日
の告知、(同法四三三条二項、本件条例七条二項)、口頭審理の公開(同法同条六
項)、口頭審理における弁論、資料の提出、審理方法等(同法同条三項、同条例同
条三、四、六項)を定めたものにすぎず、これらの諸規定から、遡つて、口頭審理
を通じてのみすべての弁論、資料の提出、審理等がなされなければならないとまで
は必ずしも解し得ないのみならず、むしろ地方税法四三三条一項には「委員会は、
………必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行い」と規定され、口頭審理
と他の調査、審理と併行総合して行い得べきものと解し得る余地が十分ある。以上
第一乃至四の諸点を考え合わせると、固定資産評価審査の審理手続は、いわゆる職
権主義を基調とし、書面審理、口頭審理その他の事実調査を随時取り入れて適正な
評価額を発見し、もつて迅速に評価の適否を判定すべきものであり、たとえ口頭審
理の申請があつても、民事訴訟におけるように当事者を対等の立場にある両当事者
として口頭審理を通じてのみ攻撃、防禦を尽させるというような意味での口頭審理
方式をとることは、手続の本質からも、法令上からも、必ずしも要請されていない
ものと解するのが相当である。
(ロ) しかし、同時に、後述するように、固定資産の評価は、複雑な手順と計算
によつてなされ、納税者はその算出の方法、過程を知りえないのが通常であるか
ら、委員会が審査請求申出の真意を把握し、また審査請求申出人に申出事由を十分
述べさせ、もつて審査手続の公正と能率化とを図るために、審査委員会は一般の調
査、審理のほか、みずからあわせて口頭審理をなし得べきものと定めると共に、も
し審査請求申出人よりの申出があれば、特別の事情がないかぎり口頭審理を行うこ
とを要するものとし(地方税法四三三条一項二項)ているのであつて、その口頭審
理の内容方式も前記の目的意図を達するに必要な程度の充実が本件条例七条の規定
によつて図られているものと解すべきである。
(ハ) 以上のとおりであつて、本件の場合、審査申出人の申請にもかかわらず口
頭審理がなされなかつたというわけではなく、口頭審理が二回にわたつて行われた
ことは当事者間に争いがないのみならず、被控訴人主張のような厳格な意味での口
頭審理方式はそもそも必要としないのであるから、たとえ本件審査手続において、
「弁論や審査のための資料のすべてが口頭審理において提出されたものではなく、
したがつて口頭審理だけを切りはなしてみると、控訴人が審査請求の申出事由や資
料の提出を尽し得たとはいいえず、また口頭審理にあらわれた弁論や資料のみでは
審査決定をするには十分でなかつた」としても、これだけをもつてただちに口頭審
理方式の違背とし、本件審査手続に瑕疵があつたということはできない。
(二) 固定資産評価の根拠、計算過程等を明らかにすることについて。
(イ) 固定資産の評価は、適正な時価を算定することにあり、その基準、実施方
法及び手続は地方税法三八八条以下及び固定資産評価基準(本件については自治省
告示昭和三八年第一五八号)の定めるところによつて行われるが、その概略は次の
とおりである。即ち、土地については、①地目に分け、②宅地については、各宅地
について評点数を付ける。③評点数は、市街地域においては「市街地宅地評価法」
によつて付ける。④右「評価法」の実施は、先ず、当該宅地と同種の地区の宅地中
主要街路の沿接地から標準宅地を選定し、これに路線価を付ける。路線価は、適正
時価に基づき、また「画地計算法」により定める。⑤標準宅地の評点数に「比準
法」を用いて当該宅地の比準割合を乗ずることにより右宅地の坪当り評点数を付
け、これに宅地地積を乗ずることにより右宅地の総評点数を付ける⑥評点一点当り
の価格は、宅地の指示平均価格に宅地の総地積を乗じ、これをその宅地の総評点数
で除した額に基づいて市町村長が定める(指示平均価格は、当該市町村の総評価見
込額を総宅地面積で除した額に基づき自治大臣又は知事が指定した額である。)。
⑦評点一点当りの価格に当該宅地の総評点数を乗ずる(宅地以外については省
略)。なお、家屋についても、建物の種類を分け、評点数を付け、評点一点当りの
価格を定める等、土地と同様の方法、手順により評価される。
 右のごとく、固定資産の評価は、複雑なしかも計算を含む手順を経てなされるの
であるが、納税者としては、固定資産課税台帳を閲覧して評価額を知り、その額に
不服の念を抱いたとしても、いかなる根拠と計算によつて右額に達したかは、通常
殆どこれを知りえないのみならず、不服のある納税者は右台帳閲覧後、比較的短期
間内に、審査請求の申出をすることを要求されているのである。したがつて、審査
請求申出人は、申出にあたり自らもその不服の対象である評価の根拠や計算を明ら
かに指摘できないことが多からざるをえず、また時には委員会から評価の合理的な
根拠が示されさえすれば不服の解消することのありうることも容易に推測できるの
である。
 以上のような次第であるから、審査請求の申出があつたときは、委員会は、先
ず、申出人に対し、申出人が評価に対する不服事由を明らかにするために合理的に
必要な範囲で、評価の根拠、方法、手順等を了知できるような措置をとるべきであ
る。即ち、土地についていえば、前述の手順のうち、すくなくとも、当該土地の地
目をどう見たか、市街地域とみたか否か、「市街地宅地評価法」の実施に当つて
は、標準宅地をどこにとり、路線価をいくらに定めたか、「比準率」をいくらとし
たか、その結果当該宅地の評点数をいくらと付けたか、評点一点当りの価格とその
算出の一応の根拠(但し、総評価見込額の根拠はこれを明らかにする必要がない)
等を、自ら、もしくは市町村長あるいは固定資産評価員をして、口頭審理を通じ、
あるいは書面をもつて、申出人に明らかにし、これによつて申出人の不服事由の陳
述ないし主張に遺憾なからしむべきであつて、もし、委員会がこれを怠るときはそ
の審査手続は公正を欠き、違法たるを免れないといわなければならない。
(ロ) そこで本件審査手続について判断する。
 本件審査請求申出が昭和三九年四月三〇日になされ、同年五月一九日、六月五日
の二回にわたつて口頭審理が行われたこと、市長側から答弁書(乙第二号証)、再
答弁書(乙第一〇号証)が委員会に提出されたが、委員会はその写しを被控訴人に
送付する等の措置をとらなかつたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いな
い事実と成立に争いない乙第一乃至一一号証、原審における被控訴人本人尋問の結
果によると次の事実が認められる。
 「被控訴人は審査請求申出の際、その申出事由として先ず、『いかなる理由によ
り評価がそれぞれ本件評価額になつたか根拠なし』と述べ、更に『小金井市長の所
有地の評価に比し本件評価が倍額であることは根拠なし』と述べた。市長側はこれ
に対し、答弁書に『画地計算及び宅地評点調査票』を添付して委員会に提出した。
右答弁書には単に『本件評価は地方税法四〇九条、四〇三条による固定資産評価基
準により適法になされたものである』旨記載されているにすぎず、答弁書に添付さ
れた前記調査票には、『本件土地の路線価として二一、六〇〇円及び一八、〇〇〇
円(側方加算率七パーセント)、単位当り評点二一、六〇〇点及び一、二六〇点計
二二、八六〇点総評点(単位当評点×地積)一、二一一、五八〇点』と記載されて
いた。しかるに、委員会は右答弁書及び調査票の内容を被控訴人に了知させる措置
を講じなかつた。しかも第一回口頭審理において、被控訴人は、『時価により評価
することは違憲ではないか、本件土地は居住地には適せず評価が高すぎる。評価方
法に疑問があり、評価に不均衡があるのではないか』等の主張をしたのに対し、第
二回口頭審理において、市固定資産評価員より、『本件土地を宅地・普通住宅地区
とみたこと、市街地宅地評価法によつて評価算定したこと、標準地については小金
井市<地名略>の宅地を選定し、その価格は二万三四〇〇円評点二三、四〇〇点と
評価しこれに比準して本件土地に評点数を付したこと、指示平均価格は一万七四六
二円であること』が明らかにされただけで、それ以上精細にわたつての評価根拠は
一切明らかにされず(しかも明らかにされた右指示平均価格も誤りであつて、真実
は一万四七二七円であつた。)控訴人も、市長側にこれ以上の説明を求めず、自ら
説明もしなかつた。右第二回口頭審理において、被控訴人は『土地、家屋に別別に
課税することは二重課税である』等主張しまた市長側に対し詳細な評価根拠の説明
をなすべきことを求め、証拠調の申出をしたが、委員会はその必要なしとして口頭
審理を終了した。そこで被控訴人は同年六月八日付で、『一、市長所有地の評価及
びその計算根拠、二、標準宅地の所有者が誰か、評価の計算根拠、三、路線価を定
めた計算根拠、四、本件土地の評点数を付した計算根拠、五、評点一点当りの価格
決定の計算根拠、六、指示平均価格及びその計算根拠、七、本件家屋についての評
価についての同様の根拠』等の明示を求むる旨の書面を委員会に提出したところ、
市長は、同日付の再答弁書を委員会に提出し、右再答弁書には、被控訴人が求めて
いた右一乃至七の各点について、具体的な、数式まで付して評価の方法、計算根拠
が明示されていた。しかるに、委員会は、右再答弁書を被控訴人に送付するとか、
閲覧させてその内容を同人に了知させる措置を全く講じないまま、同日付で本件審
査決定に及んだ。」
 原審証人B、同C、当審証人D、同Eの証言中右認定に牴触する部分は信用し難
く他に右認定に反する証拠はない。
 以上認定事実によると、被控訴人も、本件審査請求の申出事由として、「時価に
よる評価は違憲である」「土地・家屋に別別に課税することは二重課税である」等
不相応な主張をもしているのであるが、基本的には、本件評価が高すぎること、そ
の評価の計算根拠を知りえず、またその方法に疑問があつて、承服しがたいことを
主張しているのであり、これに対して、控訴人は市長側に対し、第二回口頭審理に
おいて前述のごとく僅かに評価委員に前記程度の説明をさせたにとどまり、折角市
長側から本件評価についての詳細な根拠や数式を明示した再答弁書が提出されてい
るのに被控訴人にその内容を了知させるなんらの方法をとらないまま本件決定にい
たつたものであり、被控訴人はそのため、ついに本件評価の具体的な計算根拠や過
程を知らされないまま、したがつて、たとえ、これを知れば不服の点があり得る場
合でもこれを本件審査手続において、具体的実質的に述べる機会を奪われたまま本
件決定を受けるにいたつたことが明らかである。右は実質的に審査請求申出人に申
出事由を述べさせぬにひとしく審査手続の公正を欠くものであつて重大な審査手続
の瑕疵であり、本件審査決定の取消事由となるものといわなければならない。
 なお、本件審査は、審査請求申出の日より三〇日以内になすべきことと定められ
ているが、右日時を厳守するために、手続の本質上の要請である右計算根拠等の明
示等の省略の許されないことは勿論である(本件決定は現に右期限内になされてい
ない。)。
3 審査決定自体について
 乙第一一号証によると、本件審査決定においては、決定理由としては、単に「本
件評価は固定資産評価基準によつて適法に評価されたものである。環境、用途、形
状等に応じて評価したものであつて他に比較して評価が不均衡ではない。」等きわ
めて抽象的、簡単な記述があるにすぎないことが認められる。
 およそ行政不服審査における裁決には理由を付すべきことは行政不服審査法四一
条一項に規定されているところである。本件審査決定については特に右規定の準用
はされていないが(地方税法四三三条七項)、それは決してその形式内容において
自由であることを意味するものではなく、右決定については決定書の作成を要する
ことは本件条例一〇条の明定するところであり、また審査請求の性質から見て相当
の理由を付することはこれを要するものと解するのが相当である。そして右相当の
理由とは、審査請求申出人が決定によつて生ずる根拠を具体的に知りうる程度の理
由であり、固定資産評価の前述のような構造、仕組からみて、市長が前記再答弁書
でなした程度の評価方法、計算根拠にかんする具体的な説示を要するものといわざ
るをえない。蓋しこれがなされなければ、審査請求申出人としては、いかなる根拠
で右決定がなされたかを知る手がかりがないからである。すると、本件審査決定に
付された前掲記のごとき記述をもつてしては、決定に理由が付されたものとはいえ
ず、結局本件決定は決定に理由を付さなかつたという重大な瑕疵があり、取消を免
れないというべきである。
三 以上のとおりであつて、本件審査決定は前項2、3いずれの観点からしても違
法であるから、これを取消すべく、これと結論を同じくする原判決は結局相当であ
る。よつて本件控訴を棄却し、控訴費用につき民事訴訟法第九五条、八九条を適用
して主文のとおり判決する。
(裁判官 川添利起 長利正己 田尾桃二)
小金井市固定資産評価審査委員会条例
第七条 審査申出人は口頭審理に出席して意見をのべることができる。
2 委員会は口頭審理を行なう場合においてはそのつど文書またはその他の方法で
口頭審理の日時および場所を審査申出人および市長に通知しなければならない。
3 委員会は必要があると認める場合においては関係者相互の対質を求めることが
できる。
4 委員会は関係者に対しその請求により口頭による証言にかえて口述書の提出を
許すことができる。
5 前項の口述書には、次に掲げる事項を記載し提出者がこれに署名押印しなけれ
ばならない。
(1) 提出者の住所、氏名および職業
(2) 提出の年月日
(3) 証言すべき事項
6 委員会は審査申出人が出席している場合においては口頭審理を終了するに先立
つて審査申出人に対して意見を述べかつ必要な資料を提出する機会を与えなければ
ならない。
7 書記は、口頭審理について調書を作成しなければならない。
8 前項の調書には、次に掲げる事項を記載し審理を行なつた委員および調書を作
成した書記がこれに署名押印しなければならない。
(1) 事案の表示
(2) 審理の場所および年月日
(3) 出席した関係者の住所氏名および職業
(4) 審理の要領
(5) その他必要な事項
第一〇条 委員会は審査の決定をする場合においては、決定書を作成しなければな
らない。
2 法第四三三条第八項の通知は審査申出人に対しては前項の決定書の正本をもつ
て市長に対してはその副本をもつてこれをしなければならない。

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