弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人藤井寛の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
こにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 一、 論旨第一点について
 所論は要するに、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤りが
ある、と主張する。すなわち原判決は、被告人には原判示第一の罪と第二、第三の
罪との中間に確定裁判が存する関係上、原判示第一の罪につき禁錮四月、原判示第
二、第三の各罪につき懲役三年の二個の自由刑を言い渡し、そのうち重い懲役三年
の刑について三年間刑の執行を猶予しながら、軽い禁錮四月の刑についてその執行
を猶予しなかつたが、同一被告人に対し一個の主文で二個以上の自由刑を言い渡す
場合、そのうち一個の刑についてのみ執行を猶予し他の刑を実刑にすることは、執
行猶予が被告人に対して言渡されるものであることの制度本来の趣旨に反するばか
りでなく、刑法第二六条、第二六条の三に規定する執行猶予の必要的取消制度の趣
旨に照らしても不合理となるから、違法というべきである。したがつて原判決は懲
役三年の刑に執行猶予を与えながら禁錮四月の刑について執行猶予の言渡をしなか
つた点において法令の適用を誤つている、というのである。
 よつて判断するに、原判決が被告人を原判示第一の罪につき禁錮四月、原判示第
二、第三の各罪につき懲役三年にそれぞれ処したうえ、右懲役刑についてのみ三年
間刑の執行を猶予し、禁錮刑については刑の執行を猶予しなかつたこと所論のとお
りである。しかしながら、かように一個の判決で二個以上の自由刑を言い渡す場
合、そのうち一個の刑を執行猶予とし他を実刑とすることの適否については、かか
る措置を禁止した明文の存しないこと、刑の執行猶予については刑法第二五条所定
の形式的要件の下において、刑の執行を猶予するか否か、および猶予する場合の猶
予期間の定めについては全く裁判所の裁量に委ねられていること、執行猶予の刑と
実刑とが一個の主文で言い渡されても必ずしも執行猶予が無意味となるものではな
いこと、またかかる判決が言い渡されても執行猶予の刑と実刑とが同時に確定する
場合においては、刑法第二六条第二号に直接ふれないこと、仮に執行猶予の刑につ
いては控訴せず実刑についてのみ控訴して同時に確定しない場合があるとして<要
旨>も、控訴審において実刑が執行猶予に変更されることもないわけではなく、たと
え実刑が執行猶予に変更されないとしてもこの場合は余罪発覚を事由とする
執行猶予の必要的取消を定めた刑法第二六条第二号に該当しないものと解すべきで
あること、等を考え合わすと一個の判決で二個以上の自由刑を言い渡す場合うち一
個の刑に執行猶予を与え、他の刑を実刑とすることは必ずしも違法ではないという
べきである。
 なお刑法第二五条第一項によれば刑の執行猶予の要件の一つとして宣告刑の長期
が三年と制限されているが、一個の判決で二個以上の自由刑を言い渡す場合一つの
刑に執行猶予を与え他の刑を実刑とすることが違法とはいい得ない以上、右宣告刑
の長期の制限は個々の刑についてこれを決すべきものと解するのが相当である。
 してみれば原判示第一の罪につき禁錮四月の実刑を言い渡し、同判示第二、第三
の各罪につき懲役三年とし三年間執行猶予の刑を言い渡した原判決の措置は、著し
く妥当性を欠くとの非難を免れ得ないとしても、結局違法とは断じ得ないところで
ある。すなわち原判決には所論のような法令適用の誤りはなく、論旨は理由がな
い。
 二、 論旨第二点について
 所論は、原判決がその判示第一の罪につき被告人を禁錮四月の実刑に処したのは
量刑重きに失し不当である、というのである。
 しかしながら記録を調査するに、原判示第一の事故は、被告人が砂利を積載した
大型貨物自動車(ダンプカー)を運転して同判示A橋北詰附近道路の交又点をB川
に沿うて西から東に向つて通過しようとした際発生したものであること、事故発生
現場は被告人の自動車が進行していた東西に通ずる道路の方が、右A橋を経て北方
に通ずる道路より幅員が狭く、且つ右交叉点においては交通整理も行なわれていな
かつたこと、右事故の発生は、被告人が原判示のような注意義務があるのにこれを
怠り漫然運転進行した過失に基因するものであること、右事故により原判示のよう
な重大な結果が発生したこと、被告人には既に少年時代から交通違反の前科が二件
あること、等その他諸般の情状を考慮すれば被告人の刑責は軽からざるものがある
ので、本件事故につき被害者側にも若干過失があること、被害者側と示談成立し現
在被害感情も宥和していること、その他被告人に有利な所論の事情をすべて斟酌し
てみても、原判示第一の罪に対する原判決の量刑は正当であつて重きに過ぎるもの
とは認められない。論旨は理由がない。
 三、 よつて刑事訴訟法第三九六条に従い、本件控訴を棄却することとし、主文
のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 河相格治 裁判官 浜田治 裁判官 植杉豊)

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