弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決のうち運転免許取消処分の取消請求に関する
部分を破棄する。
2前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
3訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人岡次郎ほかの上告受理申立て理由について
1本件は,第1種運転免許(普通自動車免許及び大型自動二輪車免許)を受け
ていた被上告人が,交差点安全進行義務違反(道路交通法36条4項の規定の違反
となるような行為)により自転車運転者を負傷させる交通事故を起こしたところ,
上告人から,同事故が専ら被上告人の不注意によって発生したものであり違反行為
に係る累積点数が15点に達したとして上記免許を取り消す処分(以下「本件処
分」という。)を受けたので,その取消し等を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人(当時78歳)は,平成15年1月15日午後2時25分ころ,
普通乗用自動車(以下「被上告人車」という。)を運転して,a町b町線・a町c
町線(以下「被上告人側道路」という。)を北進し,和歌山県新宮市cd番e号先
の信号機等により交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」とい
う。)内に少し入った地点でいったん停止し,被上告人側道路とほぼ垂直に交差す
る丹鶴町中央通り線(以下「交差道路」という。)に自動車の通行がないことを確
認して再発進し,本件交差点を直進して通過しようとした。折から交差道路の北側
歩道上を時速約8ないし15㎞で西進して本件交差点を直進しようとしていた女性
(当時62歳。以下「被害者」という。)の運転する自転車(道路交通法63条の
3にいう普通自転車。以下「被害自転車」という。)があり,これに被上告人が気
付いた時には,被上告人車の時速が約15㎞に達していたため,被上告人は,急制
動の措置を講じたが間に合わず,本件交差点の北側出口付近で被害自転車に被上告
人車の右前部を衝突させて転倒させ,被害者に対し3か月の安静加療を要する第3
腰椎圧迫骨折,左腓骨骨折の傷害を負わせた(以下,この交通事故を「本件事故」
という。)。
(2)交差道路は,幅員約3.6mの車道が2車線あり,その両側に自転車通行
が許可された幅員2.3ないし2.5mの歩道が設置されている。被上告人側道路
は,車線の区分のない幅員6m,有効幅員4.9ないし5.4mの道路であり,そ
の本件交差点手前において,道路標識等により一時停止すべきことが指定されてい
る。
本件交差点の北側出口付近には,交差点中心に近い側に幅員1.5mの自転車横
断帯が,遠い側に自転車横断帯に接して幅員2.3mの横断歩道が設けられてい
る。本件事故における被上告人車と被害自転車との衝突地点は,自転車横断帯の北
側標示線の中心から約0.8m離れた横断歩道上である。なお,本件交差点の四方
には,いずれも同様に自転車横断帯及び横断歩道が設けられている。
(3)本件事故の際,被上告人車が進行してきた方向から被害自転車の進行して
くる方向への見通しを妨げるものや,被害自転車が進行してきた方向から被上告人
車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは,特になかった。被害者は,死角
となっている進路右方の安全に気を取られ,被上告人車の進行してくる方向を注視
することなく本件交差点に進入した。
(4)上告人は,平成15年5月6日,被上告人に交差点安全進行義務違反があ
り,かつ,本件事故が専ら被上告人の不注意によって被害者に3か月以上の治療を
要する傷害を負わせた事故であると判断し,同違反行為について道路交通法施行令
(平成16年政令第390号による改正前のもの。以下「令」という。)別表第1
の1の表により基礎点数2点を,令別表第1の2の表により付加点数13点をそれ
ぞれ付し,違反行為に係る累積点数が15点に達したとして,道路交通法103条
1項5号,令38条5項1号イ,別表第2に基づき,本件処分をした。
3原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,本件処分を取り
消した。
(1)被上告人は,本件交差点に進入して通過する際に,交差道路の歩道上を通
行する自転車があるかもしれないことを前提に,その通行の有無及び動静を確認す
るとともに,本件交差点に接近してくる自転車等がないことを明確に確認している
のでない限り,自転車等が本件交差点を横断することを予見し,横断歩道等の直前
で停止することができる安全な速度で進行しなければならないところ,わずかな注
意を払いさえすれば,被害自転車が本件交差点に接近してくるのを発見することが
十分可能な状況にあったにもかかわらず,これを発見しないまま加速して進行を続
け,被害自転車に気付いた時には時速約15㎞に達していたため,急制動の措置を
講じたが間に合わず,被害自転車に衝突したものである。したがって,本件事故に
つき被上告人に交差点安全進行義務違反がある。
(2)被害者は,被上告人車の進行してくる方向を注視していれば,被上告人車
が本件交差点を進行して被害自転車の進路前方を通過することを予見し,本件交差
点の手前で停止するなどして本件事故の発生を避けることが可能であった上,本件
交差点内において被上告人車は比較的低速度となっており,被害者において衝突回
避措置を執ることができる余裕が十分にあった。そうすると,被上告人の不注意以
外に本件事故の原因となるべき事由があり,その事由がその有無によって本件事故
の未然防止及び被害拡大に影響がないほど軽微である場合であるとはいえない。こ
のことは,被上告人車より被害自転車の方が通行の優先度が高く,横断歩道等の安
全を確保する義務や交差点内における安全進行義務が自動車運転者の基本的な義務
であることによって,左右されるものではない。したがって,本件事故が専ら被上
告人の不注意によって発生したとはいえない。
(3)よって,被上告人の違反行為に係る累積点数は運転免許取消しの基準とな
る15点に達しないから,本件処分は違法である。
4しかしながら,原審の上記3(2),(3)の判断は是認することができない。そ
の理由は,次のとおりである。
(1)前記事実関係によれば,本件事故の際,被害自転車が進行してきた方向か
ら被上告人車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特にないのに,被害者
は,死角となっている進路右方の安全に気を取られて,被上告人車の進行してくる
方向を注視することなく本件交差点に進入したというのである。
(2)しかし,前記事実関係によれば,本件交差点においては信号機等による交
通整理が行われていなかったところ,被上告人側道路に一時停止の規制があったの
であるから,被上告人側道路の車両の通行よりも交差道路の車両の通行が優先する
関係にあったということができる。
さらに,車両等は,自転車横断帯に接近する場合には,当該自転車横断帯を通過
する際に当該自転車横断帯によりその進路の前方を横断しようとする自転車がない
ことが明らかな場合を除き,当該自転車横断帯の直前で停止することができるよう
な速度で進行しなければならず,この場合において,自転車横断帯によりその進路
の前方を横断し,又は横断しようとする自転車があるときは,当該自転車横断帯の
直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない(道路交
通法38条1項)。前記事実関係によれば,被害者は,本件事故の際,自転車横断
帯に接する横断歩道上を自転車に乗ったまま横断していたものであるが,その横断
していた所は,自転車横断帯の北側表示線の中心からわずかに約0.8m離れた所
で,かつ,横断歩道上であることからすれば,被上告人において被害自転車の通行
を優先させて安全を確保すべき前記義務を免れるものではないというべきである。
また,被上告人は,本件交差点に入ろうとし,及び本件交差点内を通行するとき
は,本件交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等に特に注意し,かつ,で
きる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法36条4項)。
これらの自転車横断帯等における自転車の安全を確保する義務や交差点安全進行
義務は,自動車運転者にとって交通事故を防止する上で基本的なものであるという
ことができるから,被害者としては,被上告人がこれらの義務を遵守することを十
分に信頼することができる立場にあったというべきである。
そして,前記事実関係によれば,被上告人車が進行してきた方向から被害自転車
の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特になかったというのであるから,
被上告人は,被害自転車を発見し,衝突を回避することが十分可能であったにもか
かわらず,上記義務を怠り,本件事故を発生させたというべきである。
(3)そうすると,令別表第1の2の表の適用に関し,被害者が被上告人車に気
が付かず,その動静に注意しないまま横断歩道上を横断しようとしたことをもっ
て,被害者の不注意と評価すべきものではなく,本件事故は,専ら被上告人の上記
不注意によって発生したものというべきである。
5以上によれば,被上告人の違反行為に係る累積点数は15点に達するから,
本件処分に違法はなく,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち本件処分の取消請求に関する
部分は破棄を免れない。そして,第1審判決のうち同請求を棄却した部分は正当で
あるから,同部分に対する被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官今井
功裁判官中川了滋)

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