弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実および理由
第一 当事者の求めた裁判
 原告らは「特許庁が昭和五〇年五月一二日昭和四八年審判第五三七〇号事件につ
いてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は
主文同旨の判決を求めた。
第二 当事者間に争いのない事実
一 特許庁における手続の経緯
 原告らは名称を「一眼レフ・カメラ」とする特許第六一五五一七号(昭和三七年
一二月一二日出願昭和四六年八月一四日登録)発明の特許権者である。
 被告は原告らを被請求人として昭和四八年七月二五日特許無効の審判を請求(昭
和四八年審判第五三七〇号)したところ、特許庁は昭和五〇年五月一二日同特許を
無効とする旨の審決をなし、その謄本は昭和五〇年六月一六日原告らに送達され
た。
二 本件発明の特許請求の範囲
 接眼レンズ系構体のガラス平板内に、この平板上に結像として与えられた被写体
像のうちの任意の小部分を反射せしめるための反射または乱反射面を斜設すると共
に、前記ガラス平板の側端面には露出計測用の光導電体素子を付設し、前記反射ま
たは乱反射面から前記光導体素子への光伝送に前記ガラス平板自体の内部における
全反射作用を利用することを特徴とする一眼レフ・カメラ
三 本件審決の理由
(一)本件発明の要旨は、
「接眼レンズ系構体のガラス平板内に、その平板上に結像として与えられた被写体
像のうちの任意の唯一の小部分を反射せしめるための反射または乱反射画を傾斜し
て埋設すると共に、前記ガラス平板の側端面には露出計測用の光導電体素子を付設
し、前記反射または乱反射面から前記光導電体素子への光伝送に前記ガラス平板自
体の内部における全反射作用を利用することを特徴とする一眼レフ・カメラ」
にあるものと認める。
 ここで、特許請求の範囲に記載された「任意の小部分」の個数が唯一か否か、ま
た、「ガラス平板内に、……反射または乱反射面を斜設する」の意味が傾斜して埋
設するのか否か必ずしも明確でないが、明細書及び図面の全体からみて、「任意の
小部分」は本件特許発明が部分測光に係るものであるので「任意の唯一の小部分」
と、また、「ガラス平板内に、……反射または乱反射面を斜設する」は「内」の意
義及び実施例に鑑めて「ガラス平板内に、……反射または乱反射面を傾斜して埋設
する」と、それぞれ解することが相当と認められるので、本発明の要旨を前記のと
おり認定する。
(二)本件審決において、判断の用に供した証拠は次のとおりである。
(1)西独国実用新案登録第一、八五九、四九〇号明細書の複写物(以下「第一引
用例」という。)―これには、接眼レンズ系構体のガラス平板内に、この平板上に
結像として与えられた被写体像のうちの任意の複数の小部分を反射せしめるための
反射面を傾斜して凹設するとともに、前記ガラス平板の側端面には露出計測用の光
導電体素子を付設し、前記反射面から前記光導電体素子への光伝送に前記ガラス平
板自体の内部における全反射作用を利用する一眼レフ写真機又は映画撮影機の露出
測定装置が記載されている。
(2)仏国特許第八五一、四七二号明細書(昭和三三年一月一〇日特許庁資料館受
入)(以下「第二引用例」という。)―これには、接眼レンズ系構体の透明ガラス
プリズム導光体に、この導光体上に与えられた被写体像のうちの任意の唯一の小部
分を反射させるための反射面を斜設するとともに、前記導光体の側端面には露出計
測用の光導電体素子を付設し、前記反射面から前記光導電体素子への光伝送に前記
導光体自体の内部における全反射作用を利用するフアインダ構体内で部分測光を行
なう光露出計が記載されている。
(3)実公昭三三一―九、九四六号公報(以下「第三引用例」という。)―これに
は、接眼レンズ系構体の焦点板又はその近傍に小型光導電体素子を配置し、対物レ
ンズ系構体により集光された被写体像の一部分の露出値を計測する露出計内蔵の一
眼レフ・カメラが記載されている。
(4)西独国実用新案第一、八五九、四九〇号の登録日が一九六二年(昭和三七
年)一〇月四日であることが記載された西独国特許公報。
(5)ドイツ特許サービス有限責任会社が西独国実用新案登録第一、八五九、四九
〇号明細書のマイクロフイルムをその登録公開日の一九六二年一〇月以来所有して
いることを記載した西独国特許庁長官の手紙(一九七二年七月二七付)。
(6)アグフターゲフアエルト株式会社の署名権能を有するA及びB両名が西独国
実用新案登録一、八五九、四九〇号明細書の複写物を一九六二年一〇月一五日にド
イツ特許サービスより受取つたことの宣言を公証人ドクター・Cが認証した書面
(一九七三年九月二〇日付)。
(7)コダツク株式会社の署名権限を有するドクター・D及び同社の特許部長代理
E両名が西独国実用新案登録一、八五九、四九〇号明細書の複写物をドイツ特許サ
ービスより一九六二年一〇月一七日に受取つたことの宣言を公証代理人ドクター・
Fが認証した書面(一九七三年九月二七日付)。
(8)実公昭二五―四、〇九二号公報(以下「第四引用例」という。)―これに
は、一対の肉薄プリズムを向合わせ、その両面にガラス薄板をバルサム張りし、か
つ、プリズムの接合面の中央における距離計像合致部分のみに半透明膜を形成した
距離計フアインダ用固定反射プリズムが記載されている。
(9)西独国実用新案出願書類は既に実用新案の登録日に誰でも西独国特許庁にお
いて閲覧し得ること、及び西独国登録実用新案の出願書類の複写物を望む者は誰で
も、西独国特許庁から又は私的サービス会社、例えばドイツ特許サービスを介して
通例、注文書発信後およそ二週間で入手できるという旨の西独国特許庁長官の宣言
を記載した書面(一九七四年四月四日付)。
(10)ドイツ特許サービス有限責任会社が西独国実用新案登録第一、八五九、四
九〇号明細書のマイクロフイルムをその登録日の一九六二年一〇月以来所有し、こ
のマイクロフイルムから取引先のために再複写物を作成したことの同社の宣言(一
九七二年六月一四日付)。
(11)ロバート・ボツシユ・フオトキノ有限責任会社を代表する共同の取締役と
して権限を与えられているG及びH両名が前記明細書の複写物を一九六二年一〇月
二五日に所有したことの証明を公証人Iが認証した書面(一九七四年四月八日
付)。
(12)カールツアイス財団の署名及び代理の権限を与えられているドクター・技
師・Jがした次の証明を公証人Kが認証した書面(一九七四年四月九日付)。
「ツアイス・イコン株式会社は前記明細書の複写物を一九六二年一一月五日に所有
した。」。
(13)エルンスト・ライツ有限責任会社を共同して代表する権限を与えられてい
るドクター・L及びM両名が前記明細書の複写物を一九六二年一一月一二日に所有
したことの証明を公証人Nが認証した書面(一九七四年四月四日付)。
(14)ローライ・ヴエルケ・フランケ・ウント・ハイデツケの署名保有者のO及
びP両名が前記明細書の複写物を遅くとも一九六二年一一月一四日には保有してい
たことの証明を公証人が認証した書面(一九七四年五月二日付)。
(15)実公昭三二―一三、八六六号公報(以下「第五引用例」という。)―これ
には、合成樹脂製レンズの一側にその光軸に対して四五度傾斜した底面を有する凹
部を設け、同底面を鍍金して半透鏡を形成し、前記凹部に同質の合成樹脂を充填し
たカメラにおける距離計を兼ねたフアインダーの反射光学体が記載されている。
(三)そこで、まず、本件特許発明(以下「前者」という)と第一引用例記載の技
術内容(以下「後者」という)との異同を審究すると、両者は「接眼レンズ系構体
のガラス平板内に、この平板上に結像として与えられた被写体像のうちの任意の小
部分を反射せしめるための反射面を傾斜して設けるとともに、前記ガラス平板の側
端面には露出計測用の光導電体素子を付設し、前記反射面から前記光導電体素子へ
の光伝送に前記ガラス平板自体の内部における全反射作用を利用する一眼レフ・カ
メラ」の構成の点で一致し、以下の二点の構成で一応差異がある。
(1)被写体像のうちの任意の小部分の個数が、前者は唯一であるのに対し、後者
は複数である点、
(2)反射面の斜設の仕方が、前者は埋設であるのに対し、後者は凹設である点。
 しかし、(1)については被写体像のうちの任意の唯一の部分を測光すること即
ち部分測光が第二、第三引用例に記載されているように本出願前に公知技術に属す
るから、後者の被写体のうちの任意の複数の小部分を測光すること即ち部分集積測
光を前者の部分測光に換えることは、必要に応じ容易になし得る単なる公知技術の
置換に過ぎない。また、(2)についてはプリズム等の光学素子内に反射面を傾斜
して埋設することが第四、第五引用例にも記載されているように慣用技術に属する
以上、この点の差異は所望に応じて適宜に行なえる単なる光学上の設計変更に過ぎ
ず、前記二点の差異の構成には格別工夫を要するものと認めることができない。
(四)次に、第一引用例が特許法二九条一項三号にいう本件特許出願前に外国にお
いて頒布された刊行物であるか否かを審究すると、刊行物とは「公開を目的として
印刷され又は写真複写等の手段によつて複製された文書」と解されるところ、西独
国では実用新案の出願書類は実用新案登録の日から公衆の閲覧に供され、何人も請
求によりその複写物を入手し得ることは前記(二)、(9)の証拠により認めるこ
とができ、この事実によればそのような複写物は公開を目的として作製されたもの
と認めることができるものであり、そして前記(二)、(4)(5)の各証拠によ
れば第一引用例の西独国実用新案が本件特許の出願前である一九六二年一〇月四日
に実用新案登録され、その日以降西独国においてその出願書類が公衆の閲覧に供さ
れたこと、前記(二)、(9)の証拠によれば登録された西独国実用新案の出願書
類の複写物を誰でも注文書発信後およそ二週間で入手できること、前記(二)、
(6)、(7)および(10)から(14)までの各証拠によれば本件特許出願前
に第一引用例のものと同じ複写物を現に入手した者が多数存在することを認めるこ
とができ、これら事実によれば、第一引用例は本件特許出願前に西独国において頒
布された刊行物と認めることができる。
(五)したがつて、本件発明は、その出願前に西独国において頒布された第一引用
例、日本国内において頒布された第二、第三引用例に基づいて、当業者が容易に想
到することができたものと認められるから、特許法二九条二項の規定に違反して特
許されたものであるので、同法一二三条一項一号の規定によりこれを無効とする。
四 西独国実用新案登録第一、八五九、四九〇号の登録および公開
 前記実用新案は本件特許の出願前である一九六二年一〇月四日に実用新案登録さ
れ、その日以後西独国においてその出願書類が公衆の閲覧に供された。
第三 争点
一 原告らの主張(審決を取消すべき事由)
審決には次のような判断の誤りがあるから違法であり、取消されなければならな
い。
(一)第一引用例を特許法二九条一項三号にいう刊行物と誤認した点
 特許法二九条一項三号にいう刊行物とは、刊行された日と刊行した者が明確であ
るとともに、同時に同一のものが多数印刷または複製されて発行または出版され、
刊行人によつて積極的に配布されたものであることを要する。これに対して、第一
引用例はこのような要件を満たしておらず、被告の請求によつて一部ないし二、三
部が複写された複写物に過ぎないから、これを特許法二九条一項三号の刊行物とい
うことはできない。しかるに、審決は第一引用例を特許法二九条一項三号の刊行物
と誤認している。
(二)技術分野の相違を見逃した点
 プリズム等の光学素子内に反射面を傾斜して埋設する技術は、本件発明と全く目
的、構成、作用効果の異なるカメラにおける距離計フアインダの分野に限られてい
たので、本件発明のようにカメラにおける部分測光の分野において、この構成を採
用するについては格別の発明力を要する。この点を見逃して、本件発明においてこ
の技術を採用した点を単なる光学上の設計変更とした審決の判断には誤りがある。
(三)本件発明の作用効果の顕著性を看過した点
 本件発明においては、ガラス平板内に反射または乱反射面を傾斜して埋設する構
成を採つたことにより、従来のカメラにおける部分測光の技術にはなく、また第一
引用例に記載されている技術を部分測光に転用した場合にも予測しえないような次
に記載する顕著な作用効果を奏するにいたつた。審決にはこのような顕著な作用効
果を看過して本件発明の進歩性を否定した判断の誤りがある。
(1)従来のカメラにおける部分測光の技術にはない作用効果
 第二引用例に記載されている技術は、ガラス製プリズム棒の先端のレンズまたは
凹面鏡を焦点板上の像の下で動かし、像の所要部を測光するもので、これを一眼レ
フカメラに適用した場合には、プリズム棒をいちいち動かして所要像部分の下へ移
動しなければならない。しかもこのプリズム棒はフアインダ視野のじやまとなり、
あるいはゴースト像を生ぜしめる。
 また第三引用例記載の技術は、ピント面またはこれに近接して、画面構成上支障
のない程度に小さい光量測定単位をおいたもので、光量測定単位はそれ自体、半透
明にはなし得ず、その大きさは、光導電体素子の実際の大きさより大きく、かつ光
導電体素子自体がフアインダ視野内におかれるため、部分測光範囲およびその周辺
の被写体像が全く見えない。しかも光導電体素子の電気配線がフアインダ視野を横
切り目障りとなる。
これに対して、本件発明は従来技術にはない次のような顕著な作用効果を有する。
(イ)フアインダの全視野が明暸で、不必要な線や、像のゆがみ、およびゴースト
の存在がない。
(ロ)測光しようとする被写体の任意の小部分を容易に見定めることができる。
(ハ)部分測光が正確にできる。
(ニ)構造および取扱いが簡単である。
(2)第一引用例に記載されている技術を部分測光に転用した場合にも予測しえな
いような作用効果
(イ)本件発明はガラス平板の厚さを反射面の高さと等しくすることができ、その
結果次のような作用効果を生ずる。
a 本件発明においては、光導電体素子を小さくすることができる。これに対し、
第一引用例のガラス平板は、反射面が凹設されているため、その上下に厚さが必要
となり、その結果、ガラス平板が厚くなつて大きな光導電体素子が必要となる。
b 本件発明においては、反射作用のすべてが有効に利用されるので集光性がよ
く、従つて光導電体素子が小型になるばかりでなく、高い受光面照度がえられるの
で暗い被写体の測光に有利である。これに対し、第一引用例のものにおいては、全
反射作用の利用が十分でないため、全反射光が先に行つて広い面積に広がるので大
きな光導電体素子が必要となり、かつ受光面照度が低いので測光能力が低下する。
c 一眼レフカメラにおいては、フアインダに表示される測光範囲と実際の測光範
囲が完全に一致することが理想であるが、技術上多少の誤差を避けることができな
い。しかし本件発明においては、ガラス平板の厚さを全部利用して反射面とするこ
とができるので、その誤差を最小限に止めることができる。これに対して第一引用
例のものにおいては、凹部を形成するためにガラス平板の上下に無駄な部分があ
り、これによつて生ずる誤差は本件発明の誤差よりはるかに大きい。
(ロ)本件発明において、反射面をハーフ・ミラーとした場合は、測光部分をフア
インダを通して正確にみることができ、かつその測光部分の正確な測光が可能であ
る。これに対して第一引用例のものにおいてハーフ・ミラー面を一個とした場合
は、反射面が凹設されているためにフアインダで見る測光部分と実際に測光される
部分との間にずれがあるので測光しようとする部分の正確な測光が不可能である。
(ハ)本件発明においては、フアインダからどの角度で覗いても、測光部の輪郭を
反射面と同じの大きさの一個の四角形として見ることができる。これに対し第一引
用例のものにおいては、フアインダから覗く角度が垂直方向から少しでもずれると
凹部の側辺がゴーストとなつて視野に現われて測光部の輪郭を正確にみることがで
きない。
(ニ)本件発明においては、一枚のガラス平板を斜めに切断し、その一部に反射面
加工を施して接着するだけであるから製造がきわめて容易で量産に適する。これに
対して第一引用例の凹部を設ける構造は、反射面の形成および仕上げなどの工程が
本件発明に比べてはるかに複雑で量産する場合の生産性が低い。
二 被告の答弁
(一)取消事由(一)について
 特許法二九条一項三号にいう刊行物とは、既に世に知られた技術には特許権を付
与すべきではないという特許制度の趣旨に照らし、公開を目的として印刷されまた
は写真、被写等の手段によつて複製された文書と解すべきである。したがつて、印
刷物に限定されないし、刑行日、刊行人の記載はその要件ではない。また何人も自
由に入手することができる文書であれば足りるから、原告らが、主張するような同
時に同一のものが多数印刷または複製されて発行または出版されるもののみなら
ず、求めに応じて印刷または複写されたものであつてもよい。ところで、西独国に
おいては、実用新案の登録日からその明細書を公衆の閲覧に供し、何人も希望すれ
ばその複写物を入手することができるから、このような複写物は特許法二九条一項
三号の刊行物に該当する。そうすると西独国実用新案登録第一、八五九、四九〇号
は、一九六二年一〇月四日に登録され、その明細書の複写物は本件特許出願前七社
に及ぶ著名なカメラ会社がその頒布を受けており、第一引用例もこれと同一のもの
であるから、第一引用例を特許法二九条一項三号の頒布された刊行物であるとした
審決の判断に誤りはない。
(二)取消事由(二)について
 プリズム等の光学素子内に反射面を傾斜して埋設することは光学機器における慣
用技術であり、カメラにおいても距離計の分野に限らず測光の分野でも慣用されて
いたから、本件発明のようにカメラにおける部分測光の分野において、この構成を
採用するについて格別の発明力を要するとはいえず、これを単なる光学上の設計変
更とした審決の判断に誤りはない。
(三)取消事由(三)について
 原告らの主張する本件発明の作用効果はいずれも本件特許明細書に全く記載され
ておらず、また本件発明の要旨とも符合しないので、これらを本件発明の作用効果
ということはできない。
(1)従来のカメラにおける部分測光の技術にはない作用効果について
(イ)(イ)、(ロ)の作用効果について
 本件発明の要旨の「反射または乱反射面」には、ハーフ・ミラーだけではなく、
全鏡、輝線、乱反射面等が含まれることは明細書の記載から明らかである。そし
て、反射面を全鏡にすると、フアインダが視野中の測光部分に対応する全鏡部分が
暗黒になつて被写体像の欠落を生ずる。また乱反射面にすると被写体像光が乱反射
面で乱反射するため被写体像がにじむようになる。したがつて、全鏡や乱反射面の
場合、全視野が明暸に見えたり、測光しようとする被写体の部分を見定めることは
できないから、(イ)、(ロ)の作用効果は生じない。(イ)、(ロ)の作用効果
は、ガラス平板内にハーフ・ミラーを埋設した場合に必然的に生ずる周知の作用効
果に過ぎないが、本件発明の要旨はそのような場合にのみ限定されてはいない。
(ロ)(ハ)の作用効果について
 本件発明においては接眼レンズを通して認識される測光範囲よりも、斜設反射面
に受光される被写体像光の範囲の方が広くなるから、正確な部分測光ができるとは
いえない。
(ハ)(ニ)の作用効果について
本件発明の構造および取扱いも従来技術と変りはない。
(2)第一引用例に記載されている技術を部分測光に転用した場合にも予測しえな
いような作用効果について
(イ)(イ)のa、b、cの作用効果について
 これらの作用効果は、ガラス平板の厚さを反射面の高さと等しくした場合にのみ
いえるのであり、本件発明はかような場合のみに限定されないから本件発明の作用
効果ということはできない。
(ロ)(ロ)の作用効果について
 本件発明において反射面をハーフ・ミラーとすることは、本件発明の一実施例で
あつて、本件発明の要旨ではないのみならず、本件発明においてもフアインダに表
示される測光範囲と実際の測光範囲との誤差を免れることができない。
(ハ)(ハ)の作用効果について
 この作用効果は、ガラス平板内に反射面を傾斜して埋設する慣用手段における周
知の光学的特性の域を出ないものである。
(ニ)(ニ)の作用効果について
 ガラス平板内に反射面を傾斜して埋設することは前記のとおり測光の分野におい
ても慣用されているものであるから、製造の容易さ、生産性等は本件発明の作用効
果とはいえない。
第四 証拠(省略)
第五 争点に対する判断
一 取消事由(一)について
 特許法二九条一項三号の刊行物とは、既に世に知された技術には特許権を付与す
べきでないという特許制度の趣旨に照らし、公衆に対する情報伝達を目的として印
刷され、または写真、複写等の手段によつて複製された文書、図面、写真等をいう
と解するのが相当である。その作成日、作成者はその文書に直接記載されていなく
ともほかの手段でそれが明らかになればそれで足りると解される。
 原告らは同号の刊行物であるためには、同時に同一のものが多数印刷または複製
されて発行または出版され、刊行人によつて積極的に配布されたものであることを
要すると主張する。しかし、公衆に対する情報伝達の方法としては、文書等を多数
印刷して積極的に配布する方法もあるが、また需要に応じて注文された都度、文書
等を写真または複写機によつて複写して交付する方法もある。このどちらを採るか
は専らコストが要求される周知性の程度によるものであつて、いずれの方法によつ
ても公衆に情報が伝達されることには変りはない。してみれば、需要に応じて注文
の都度複写されて交付される文書等の複写物も同号の刊行物にあたるといつてよ
い。
 ところで成立に争いのない乙第一〇号証によれば、西独国においては、西独国実
用新案の出願書類は実用新案が登録された日から誰でも西独国特許庁において閲覧
することができること、西独国実用新案の出願書類の複写物を望む者は誰でも、西
独国特許庁からまたは私的サービス会社、例えばドイツ特許サービス社を介して、
通例注文発信後およそ二週間で入手できることが認められる。そして、西独国実用
新案登録第一、八五九、四九〇号は本件特許の出願前である一九六二年一〇月四日
に実用新案登録され、その日以後西独国においてその出願書類が公衆の閲覧に供さ
れたことは当事者間に争いがない。また成立に争いのない乙第四号証、同六、七号
証および同第一二号証から第一六号証までによれば、一九六二年一〇月一五日から
同年一一月一四日までの間に西独国における署名なカメラないしフイルムメーカー
であるアグフアゲフエルト社、コダツク社、エルンストライツ社、ローライウエル
ケ社等が相次いで前記実用新案の明細書の複写物を西独国特許庁またはドイツ特許
サービス社から配布を受けていることが認められる。してみれば、これらの会社が
入手した複写物が、特許法二九条一項三号の刊行物であることは明らかである。と
ころで、第一引用例はこの西独国実用新案の明細書の複写物であり、その体裁内容
は前記各会社が本件特許出願前に交付を受けた複写物と全く同一であるから、西独
国特許庁またはドイツ特許サービス株式会社が遅くとも本件特許出願前に作成して
配布した文書であると推認して差支えない。したがつて第一引用例を特許法二九条
一項三号の刊行物とした審決の判断に誤りはない。
二 取消事由(二)について
 原告らは、プリズム等の光学素子内に反射面を傾斜して埋設する技術はカメラに
おける距離計フアインダの分野に限られていたと主張する。しかしながら、成立に
争いのない乙第二二号証、同第二五号証によれば、本件特許出願前既にカメラにお
ける測光の分野において、半反射面又は光分割面を光分割プリズム又は光線分割体
内に傾斜して埋設し、カメラへの入射光を測定する方法が慣用技術として存在して
いたことが認められる。してみれば、本件発明において部分測光のために、ガラス
平板内に反射または乱反射面を傾斜して埋設する構成を採ることに格別の発明力を
要するとはいえないから、これを慣用技術であることを根拠として単なる光学上の
設計変更に過ぎないとした審決の判断に誤りはない。
三 取消事由(三)について
 原告らの主張する本件発明による作用効果は、本件特許請求の範囲に限定されて
いない構成を前提とするものか、あるいは前記慣用技術を採用したことによる当然
の作用効果であるから、これらを進歩性の根拠としなかつた審決の判断に誤りはな
い。
(一)従来のカメラにおける部分測光の技術にはない作用効果について
(1)(イ)、(ロ)の作用効果について
 本件発明の要旨において埋設するのは反射面または乱反射面であつて、その反射
面にはハーフ・ミラーだけではなく、全鏡、輝線等が含まれることは、成立に争い
のない甲第二号証によつて認めることができる。そして反射面を全鏡にすると、フ
アインダ視野中の測光部分に対応する全鏡部分が暗黒になつて被写体像の欠落を生
じ、また乱反射面にすれば被写体像光が乱反射面で乱反射するため被写体像がにじ
むようになることは明らかである。したがつて、全鏡や乱反射面の場合には、全視
野が明暸に見えたり、測光しようとする被写体の部分を見定めることはできないか
ら、(イ)、(ロ)の作用効果は生じない。(イ)、(ロ)の作用効果は、ガラス
平板内にハーフ・ミラーを埋設した場合に生ずる効果であるが、本件発明の対象は
かような場合にのみ限定されていないのである。
(2)(ハ)、(ニ)の作用効果について
 前記(イ)、(ロ)の作用効果が本件発明の常に奏する作用効果といえない以
上、(ハ)、(ニ)の作用効果も従来技術に比べて常に格段にすぐれているとはい
えない。
(二)第一引用例に記載されている技術を部分測光に転用した場合にも予測しえな
いような作用効果について
(1)(イ)のa、b、cの作用効果について
 これらの作用効果は、ガラス平板の厚さを反射面の高さと等しくした場合にのみ
生ずるものであるが、本件発明はかような場合にのみ限定されていないから、その
ような作用効果を常に奏するとはいえない。
(2)(ロ)の作用効果について
 本件発明における反射面はハーフ・ミラーに限定されず全鏡、輝線等の場合も含
まれるから、ハーフ・ミラーに限定した場合の作用効果をもつて本件発明が常に奏
する作用効果であるということはできない。なお、第一引用例においては反射面が
凹設されているためにフアインダで見る測光部分と実際に測光される部分との間に
ずれが生ずるのは本件発明において生じないのは、前記慣用技術を採用したことに
よる当然の帰結であつて格別顕著なものとはいえない。
(3)(ハ)、(ニ)の作用効果について
これまた前記慣用技術を採用したことによる当然の作用効果であつて格別顕著なも
のとはいえない。
四 以上のとおり、本件審決には原告ら主張の違法はないから、その取消を求める
原告らの本訴請求は失当として棄却し、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、
九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古関敏正 小笠原昭夫 石井彦壽)

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛