弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     被告人Aの国選弁護人に支給した費用は同被告人の負担とする。
         理    由
 被告人六名及被告人六名の弁護人杉之原舜一の控訴趣意はそれぞれ同人等提出の
控訴趣意書記載の通りであるから之を引用する。
 同弁護人の控訴趣意一の(一)及被告人六名の控訴趣意中原判示第一に対する事
実誤認の点について。
 原判決挙示の各証拠を綜合すれば原判示第一の事実は之を認むるに十分であつて
記録を精査するも原判決には何等事実の誤認と目すべき点がない。
 又刑法第六十条に「二人以上共同して犯罪を実行し」というには必ずしも二人以
上の者が犯罪の実行を謀議することを必要とするものではなく相互の間に犯意の連
絡があれば足りるものと解するのが相当である。原判示第一に「被告人等六名はそ
の場で意思相通じて共謀し」とあるのは被告人等六名に犯意の連絡があつたことを
認め之を共謀と説示したものであることは明かであり本件が被告人等六名の共同行
為であることの判示としては何等欠けるところがない。論旨はいづれも理由がな
い。
 同弁護人の控訴趣意一の(二)と二の(一)及び被告人B同C同D同E同Fの各
控訴趣意中の各逮捕状が無効であるという点について。
 刑事訴訟法第二百条第一項に逮捕状の記載要件として被疑者の氏名、住居、罪名
其の他を挙げておるが同条第二項によつて準用している同法第六十四条第二項には
「被告人の氏名が明らかでないときは人相体格其の他被告人を特定するに足る事項
で被告人を指示することが出来る」同三項に「被告人の住居が明らかでないときは
之を記載することを要しない」と規定していることよりすれば逮捕状に被疑者の氏
名を記載するのは其執行を<要旨>受ける者を特定する為のものであると解せられ
る。従つて記載氏名が戸籍上の氏名であることが最も望ましいことではある
けれども充分の特定性あるかぎりは戸籍上の氏名と一致しない通称の如きものでも
右法条に言うところの氏名に含まれると解するのが相当である。之を本件について
見るに所論の逮捕状には住居を留萠市a町b丁目G方氏名をHことH当二十一年位
と記載されており本件記録中のFの戸籍抄本及原審第三回公判廷に於ける証人I同
Jの各証言を綜合すればIの長女H(昭和五年一月六日生)は昭和二十五年十月十
九日被告人Fと結婚して同人の戸籍に入籍しており既にH姓を失つていたが右逮捕
状発布の当時(昭和二十六年四月一日)は夫Fと共に留萠市c町K炭砿社宅の実父
I方に寄寓していた事実を認めることがてきる。然らば右逮捕状記載のHことH当
二十一年位とは当時被告人Fの妻となつていたところの旧姓Hを指称するものであ
ることは明らかであるから同逮捕状の有効であることは勿論であつて之に基きJを
逮捕せんとした原判示巡査部長L外六名の警察職員の行為は適法な公務の執行行為
であり之を妨害した被告八等六名の行為は公務執行妨害罪に該当することは疑な
い。原判決には何等所論のような違法の点がない。論旨はいずれも理由がない。
 同弁護人の控訴趣意一の(三)と被告人Fの控訴趣意中原判示第二の事実に対す
るものについて。
 いづれも原判示第二は事実の誤認であるというにあるが原判決挙示の証拠を綜合
すれば右事実は優に之を認めることが出来記録を精査するも原判決には何等事実の
誤認と目すべきものがない。論旨はいづれも理由がない。
 同弁護人の控訴趣意の二の(二)及び其補足追加並びに被告人Cの控訴趣意二に
ついて。
 原判決挙示の各証拠を綜合すれば原判示第三の各事実は之を認むるに十分であつ
て記録を精査するも原判決には何等事実の誤認と目すべき点がない。同被告人の此
点に関する所論は原審の裁量に属する証拠の取捨と其価値判断を攻撃するものであ
るから採用出来ない。
 次に原判決第三の(二)の前段の留萌市会議員選挙に立候補したFに当選を得せ
しめる目的でM礦業所事務所にて労務係長Nに対し礦業所用地内にF候補の選挙ビ
ラを貼ることを許諾されたいと交渉した行為は政治上の活動と解するのが相当であ
るから原判決は何等所論のように法律の解釈を誤つてはいない。同弁護人の所論は
独自の見解であつて採用し難い。
 被告人Cは昭和二十六年十月三十一日附を以て内閣総理大臣より公職に関する就
職禁止退職に関する勅令(昭和二十二年勅令第一号)に基く該当者としての指定を
取消され其旨同年十二月二十日留萌市長より通達されたことは所論の通りであるが
同令第四条の三第二項によれば右取消があつたときは当該指定は当該取消があつた
日以後その効力を失うものであつて当該指定を最初より無効とするものではない。
此点は同令第五条第二項の規定に照しても明かである。弁護人の所論は独自の見解
であつて採用に値しない。然らば右指定の取消は何等被告人Cの本件犯罪に消長を
来すものではない。論旨はいづれも理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件各控訴を棄却し訴訟費用の負担につ
いては同法第百八十一条第一項を適用し主文通り判決する。
 (裁判長判事 黒田俊一 判事 佐藤竹三郎 判事 岩崎善四郎)

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