弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
       1 原判決を次のとおり変更する。
         第1審判決を次のとおり変更する。
        (1) 上告人は,被上告人B1運輸有限会社に対し,5
          3万5862円及びこれに対する平成9年9月2
          1日から支払済みまで年5分の割合による金員を
          支払え。
        (2) 上告人は,被上告人B2組合に対
          し,87万3388円及びこれに対する平成11
          年9月30日から支払済みまで年5分の割合によ
          る金員を支払え。
        (3) 被上告人らのその余の請求を棄却する。
       2 上告人と被上告人B1運輸有限会社との間の訴訟の
         総費用は,これを10分し,その9を上告人の,そ
         の余を被上告人B1運輸有限会社の負担とし,上告
         人と被上告人B2組合との間の訴訟
         の総費用は,これを3分し,その1を上告人の,そ
         の余を被上告人B2組合の負担とす
         る。
         理    由
第1 事案の概要
 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人の被用者であるDは,平成9年9月20日午前2時25分ころ,片
側1車線の三重県松阪市a町b丁目c番先道路(以下「本件道路」という。)上に
,普通貨物自動車(以下「上告人車」という。)を西側路側帯から北行車線にはみ
出るような状態で駐車させ,非常点滅表示灯等を点灯させることもなかった。被上
告人B1運輸有限会社(以下「被上告会社」という。)の被用者であるEは,その
ころ,被上告会社の保有する普通貨物自動車(以下「被上告人車」という。)を運
転して,本件道路を南方から北方に向けて進行し,上告人車を避けるため,中央線
からはみ出して進行したところ,本件道路を北方から南方に向けて,最高速度とし
て規制されている時速40㎞を上回る時速80㎞以上で進行してきたFの運転に係
る普通乗用自動車と衝突した(以下「本件交通事故」という。)。
 本件道路は,終日駐車禁止の交通規制がされていたが,追越しのための右側部分
はみ出し禁止の交通規制はされていなかった。また,本件道路は,北方から南方に
向かう場合,本件交通事故現場の手前約60m付近で左にカーブしており,Fは,
被上告人車を左カーブを抜けた地点で発見した。本件交通事故現場付近に街灯はな
く,Fの進行方向からは,上記左カーブを抜けた地点より手前で被上告人車を発見
することは容易ではなかった。
 (2) Dには非常点滅表示灯等を点灯させることなく,上告人車を駐車禁止の車
道にはみ出して駐車させた過失,Eには被上告人車を対向車線にはみ出して進行さ
せた過失,Fには速度違反,安全運転義務違反の過失がある。D,E,Fの各過失
割合は1対4対1である。
 (3) 本件交通事故により,被上告会社は270万3110円の損害を被り,F
は581万1400円の損害を被った。
 (4) 被上告人車につき,被上告人B2組合(以下「被上告組合」という。)を
保険者として,自動車共済契約が締結されており,また,被上告人車につき,自動
車損害賠償保障法により自動車損害賠償責任保険契約(以下,「自賠責保険」とい
い,自賠責保険に基づいて支払われる保険金を「自賠責保険金」という。)が締結
されていた。
 (5) 被上告会社とFとの間では,本件交通事故による損害賠償につき示談が成
立し,被上告会社は,Fから,36万5174円の支払を受け,被上告組合は,F
に対し,上記自動車共済契約に基づき,被上告会社に代わって,本件交通事故によ
る損害賠償として474万7654円を支払った。
 (6) 被上告会社が本件交通事故による自己の損害額270万3110円のうち
上告人及びFに対して請求し得る額の合計は,自己の過失割合6分の4を控除した
6分の2に相当する90万1036円である。
 (7) 被上告組合は,Fに支払った損害賠償金につき自賠責保険金120万円の
支払を受けた。
 2 本件は,上告人に対し,被上告会社が自動車損害賠償保障法3条又は民法7
15条に基づき損害賠償を請求し,Fに損害賠償金を支払った被上告組合が保険代
位に基づいて上告人が被上告会社に対して負う求償義務の履行を求める事案である。
第2 上告代理人西村英一郎の上告理由について
 1 上告代理人西村英一郎の上告理由第1の2(2)について
 原審は,被上告会社が本件交通事故による自己の損害額のうち上告人及びFに対
して請求し得る額の合計を90万1036円とし,Fから36万5174円の支払
を受けたとしているので,被上告会社が上告人に対して請求し得る額は53万58
62円となる。しかし,原審は,上告人に対し,これを上回る53万8242円の
支払を命じており,原判決には理由の食違いがある。この点をいう論旨は理由があ
る。
 2 その余の上告理由について
 その余の上告理由は,理由の不備・食違いをいうが,その実質は事実誤認又は単
なる法令違反を主張するものであって,民訴法312条1項又は2項に規定する事
由に該当しない。
第3 上告代理人西村英一郎の上告受理申立て理由第3の2(3)について
 1 原審は,概要次のとおり判断して,被上告組合の上告人に対する請求を17
0万6109円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
 (1) Fは,本件交通事故による自己の損害につき,自己の過失割合である6分
の1を控除した6分の5の限度で,被上告会社及び上告人に対して,各当事者ごと
の相対的な過失割合に従って損害賠償を請求することができる。したがって,Fは
,581万1400円の6分の5である484万2833円を上限として,被上告
会社に対しては581万1400円をFの過失割合5分の1による過失相殺をした
後の464万9120円,上告人に対してはFの過失割合2分の1による過失相殺
をした後の290万5700円を請求し得るものというべきである。
 (2) 被上告会社及び上告人の損害賠償義務が競合する範囲は,上記464万9
120円と290万5700円を加え,484万2833円を控除した271万1
987円であり,被上告会社のみが損害賠償義務を負うのは,上記464万912
0円から上記271万1987円を控除した193万7133円である。
 被上告会社の負担部分は,上記271万1987円に5分の1を乗じ,上記19
3万7133円を加えた247万9530円である。
 被上告会社は,上告人に対し,Fに対して支払った474万7654円から上記
247万9530円を控除した226万8124円を求償することができる。
 (3) 被上告組合が支払を受けた自賠責保険金120万円は,被上告会社のみが
損害賠償義務を負う範囲,上告人のみが損害賠償義務を負う範囲及び被上告会社と
上告人の損害賠償義務が競合する範囲に案分して充当される。したがって,上記1
20万円のうち,被上告会社の求償金から控除すべき金額は56万2015円であ
る。
 (4) よって,被上告組合は,上告人に対し,226万8124円から56万2
015円を控除した170万6109円を請求することができる。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 【要旨】複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故
において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割
合」という。)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者
の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行
為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。これに反し,各加害者と被害者
との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは,被害
者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによっ
て被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。
 (2) 以上説示したところによれば,被上告会社及び上告人は,Fの損害581
万1400円につきFの絶対的過失割合である6分の1による過失相殺をした後の
484万2833円(円未満切捨て。以下同じ。)の限度で不真正連帯責任を負担
する。このうち,被上告会社の負担部分は5分の4に当たる387万4266円で
あり,上告人の負担部分は5分の1に当たる96万8566円である。被上告会社
に代わりFに対し損害賠償として474万7654円を支払った被上告組合は,上
告人に対し,被上告会社の負担部分を超える87万3388円の求償権を代位取得
したというべきである。
 なお,自賠責保険金は,被保険者の損害賠償債務の負担による損害をてん補する
ものであるから,共同不法行為者間の求償関係においては,被保険者の負担部分に
充当されるべきである。したがって,自賠責保険金120万円は,被上告組合が支
払った被上告会社の負担部分に充当される。
 そうすると,論旨はこの限度で理由があり,これと異なる原審の判断には判決に
影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
第4 結論
 以上によれば,被上告会社の請求は,上告人に対し,53万5862円及びこれ
に対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,被上告組合の請
求は,上告人に対し,87万3388円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め
る限度で理由があるから認容し,被上告人らのその余の請求は理由がないから棄却
すべきである。したがって,これと異なる原判決を主文のとおり変更する。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梶谷 玄 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 滝井繁男)

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